【実施例】
【0028】
実施例: 脂肪肝の形成におけるザクロ抽出物(PE)の影響
本実施例は、PE処理が脂肪肝の形成に対してどの程度防御効果を示したかを記載する。したがって、肝組織を採取、計量した。その後、脂肪肝に対するPEの防御効果を調査するために種々の試験を用いた。特に、肝機能マーカー(ALT及びAST)を測定した。酸化状態及びミトコンドリア機能、脂肪肝形成の指標となり得るパラメータもまた解析された。そして、本研究で観察されたHFD食及びPE処理による脂質代謝及びミトコンドリア活性の相違に関する、可能性のある作用機序について、SREBP1(ステロール調節因子結合タンパク質1)に媒介される脂質生成経路を分析した。
【0029】
1. 材料及び方法
1.1 ザクロ抽出物(PE)の調製
ザクロ抽出物(PE)の粉末は、TianJing JF−Naturalによりザクロの皮から製造された。ザクロ抽出物は40%プニカラギン(乾燥重)となるよう規格化された。水とエタノールのみが全抽出工程で用いられた。
【0030】
1.2 動物
180〜200gの30日齢の雄のスプラーグドーリーラットを商業ブリーダー(SLAC,Shanghai)から購入し、12時間の明暗サイクル、22℃のSPF(特定病原体除去)環境に収容した。すべてのラットには7日間固形飼料を与え、環境と食餌に順応させた。過体重のモデルは、高脂肪(HF)食(15%飽和脂肪、1%コレステロール、84%固形飼料)を与えることにより作製した。高脂肪を与えたラットを、HF対照群、HF+低ザクロ抽出物群(プニカラギン20mg/kg体重の用量となるPE50mg/kg体重)、及びHF+高ザクロ抽出物群(プニカラギン60mg/kg体重の用量となるPE150mg/kg体重)に無作為に割付けた。対照群には固形飼料を与えた。各群は15頭とした。ザクロ抽出物は、HF食(HFD)と同時に投与した。ラットの体重及び食物消費量は週2回記録した。ラットはザクロ抽出物及びHF食を与えた2か月後に屠殺し、血液、肝臓、筋肉及び脂肪組織を採取し、−75℃で凍結した。ラットの体重が、ザクロ抽出物の効果を評価するための最も重要な指標として用いられた。
【0031】
1.3 ALT/ASTの分析
ラットを屠殺した後、心臓穿刺により血液試料を採取し、遠心分離(3,000rpm、10分間)により血清を分離した。自動生化学分析装置(Hitachi Ltd.,Tokyo,Japan)を用いて、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の量を分析した。
【0032】
1.4 GSHの分析
GSH量は、公表されている方法[8]により、2,3−ナフタレンジカルボキシアルデヒド(NDA)を用いて測定した。20μLの試料及び180μLのNDA誘導体化溶液(50mM Tris(pH10)、0.5N NaOH、及び10mM NDAのMe
2SO溶液,v/v/v 1.4/0.2/0.2)を、96ウェルプレートの各ウェルに入れた。室内灯からウェルを防護するためにプレートにカバーをして、室温で30分間保持した。NDA−GSHの蛍光強度は、蛍光プレートリーダー(Wallac 1420;PerkinElmer Life Sciences,Wellesley,MA)を用いて測定した(励起波長472/放出波長528)。
【0033】
1.5 リアルタイムPCR
全RNAは、製造元の手順に従って、Trizol reagent(Invitrogen)を用いて肝臓試料から抽出した。逆転写は、PrimeScript RT−PCR Kit(TaKaRa,DaLian,China)を用いて行い、続いて特異的プライマを用いた半定量リアルタイムPCRを実施した。mRNA量は、ハウスキーピング遺伝子である18S RNAのmRNAに対して標準化し、2−
ΔΔCT法を用いて相対値として表した。
【0034】
1.6 カルボニル化タンパク質の測定
肝臓試料は、Western and IP細胞溶解液(Beyotime,Jiangsu,China)を用いて溶解した。溶解物は均質化し、BCA Protein Assay kitによりタンパク質濃度を測定した。肝臓の可溶性タンパク質中のタンパク質カルボニルは、Oxyblot protein oxidation detection kit(Chemicon International,Temecula,CA)により測定した。タンパク質カルボニルは、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)により標識し、ウェスタンブロットにより検出した。
【0035】
1.7 ミトコンドリア複合体の活性測定
NADH−CoQオキシドレダクターゼ(複合体I)活性は、測定緩衝液(0.5M Tris−HCl(pH8.1)、1% BSA、10μMアンチマイシンA、2mM NaN3、0.5mMコエンザイムQ1を含む10×緩衝液)に600nMとなるよう添加した2,6−ジクロロインドフェノール−インドフェノール(DCPIP)の還元をモニタリングすることにより測定した[1]。ミトコンドリアタンパク質の終濃度を25μg/mLとした。200μMのNADHの添加により反応を開始し、600nmで2分間スキャンした。対照ブランクとしてロテノン(3μM)を反応系に添加した[2]。
【0036】
コハク酸−CoQオキシドレダクターゼ(複合体II)、CoQ−シトクロムCレダクターゼ(複合体III)、及びシトクロムCオキシダーゼ(複合体IV)の測定は[3−5]に記載のとおり実施した。簡潔には、複合体IIは、ミトコンドリア(終濃度25μg/mL)を含む測定緩衝液(0.5Mリン酸緩衝液(pH8.1)、1% BSA、10μMアンチマイシンA、2mM NaN3、0.5mM コエンザイムQ1を含む10×緩衝液)中で測定した。10mMのコハク酸で反応を開始し、30℃、600nmで2分間スキャンした。複合体IIIは、ミトコンドリア(終濃度10μg/mL)及び40μMのシトクロムCを測定緩衝液(1M Tris−HCl(pH7.8)、2mM NaN3、0.8% tween−20、1% BSA、2mMデシルユビキノールを含む10×緩衝液)に添加し、シトクロムCの還元を550nmでモニタリングすることにより測定した。1×測定緩衝液で反応を開始し、550nmで2分間スキャンした。複合体IVの解析には、50mMリン酸緩衝液(pH 7.0)、0.1% BSA、0.2% tween−20、及び40μM還元シトクロムCを含む測定緩衝液を用いた。3μg/mLのミトコンドリアの添加により反応を開始し、550nmで2分間スキャンした。
【0037】
複合体Vの活性は、オリゴマイシン感受性Mg
2+−ATP加水分解酵素の活性として測定された[6]。この工程は、10mM HEPES(pH8.0)、20mMコハク酸、20mMグルコース、3mM MgCl
2、11mM AMP、0.75mM NADP+、10mMリン酸水素二カリウム、4u/mLヘキソキナーゼ、2u/mLグルコース−6−リン酸脱水素酵素及び60μg/mLミトコンドリアとなるよう添加し、340nmでNADPHの増加を測定することにより実施した[7]。1mMのADPの添加により反応を開始した。すべての測定は30℃で行われた。
【0038】
1.8 統計解析
データは、平均±S.E.M.(平均の標準誤差)として表わされる。統計的有意性は、一元配置分散分析とそれに続くLSD事後解析により評価した。すべての比較において有意水準はp<0.05に設定した。
【0039】
2. 結果
2.1 ラットの過体重及び脂肪蓄積におけるPE補助食品及びHFD
PE及びHFD処理の2か月後、ラットを計量し、食物摂取量を計測した。HFDは有意に体重増加を誘起することが可能であり、ラットは約13%の過体重であった。そして高用量のPE補助食品が、食物摂取量を減らさずともHFDによる体重増加を有意に減じることが明らかとなった(下記表1参照)。
【0040】
表1 体重及び食物摂取量
【表1】
【0041】
2.2 ラットの肝臓重量におけるPE補助食品及びHFD
HFD処理により、体重に対する肝臓重量の割合は有意な影響を受けることはなかったが、肝臓重量が増加することが明らかとなった。低及び高用量のPE補助食品はいずれも、肝臓重量及び体重に対する肝臓重量の割合を有意に減少することが可能であった(
図1A、B)。
【0042】
2.3 ラットの肝機能マーカーALT及びASTにおけるPE補助食品及びHFD
ALT及びASTは、肝細胞障害の診断評価の一部として肝臓の健康状態を把握するためによく測定される。HFDが血清中のALT及びAST量を有意に増加することが可能であることをデータは示した(
図1C、D)。低用量のPE処理は明瞭な効果を示さなかったが、高用量のPEにより血清ALT及びAST量が効果的に減少することが明らかとなった(
図1C、D)。
【0043】
2.4 ラット肝臓の脂質生成におけるPE補助食品及びHFD
主要制御因子であるSREBP1のmRNAはHFDにより有意に増加したが、他の研究と異なり、脂肪酸合成酵素(Fas)、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC1)、ステアロイル−CoAデサチュラーゼ−1(SCD1)のような脂質生成に関連する遺伝子のHFDによる誘導は見られなかった(
図4)。そこでSREBP1タンパク質の量を調べた。SREBP1の前駆体はHFDにより増加したが、成熟SREBP1は影響されなかった(
図3)。この結果は、HFD誘導性の脂肪肝形成に脂質生成は関連しないということを示唆した。いずれにせよ、高用量のPE処理は、SREBP1及びその標的遺伝子であるFAS、ACC1及びSCD1を減少することによって、顕著に脂質生成を抑制することが可能であった(
図3)。
【0044】
2.5 ラット肝臓の酸化状態におけるPE補助食品及びHFDの影響
次に我々は肝組織の酸化状態を調査した。HFDがカルボニル化タンパク質の量を増加し、これらの量は高用量のPE補助食品により効果的に減じられることを、データは示した(
図4A)。GSH量はHFDにより減じるどころか有意に増加し、これもまたPE処理により回復した(
図4B)。
【0045】
2.6 ラット肝臓のミトコンドリア複合体の活性におけるPE補助食品及びHFDの影響
ミトコンドリアがPEによる防護に関与するか否かを検証するために、我々はまず肝臓のミトコンドリアを単離し、ミトコンドリア複合体の活性を分析した。HFDが、他の3つの複合体の活性に何の影響も与えることなく、有意に複合体Iの活性を減ずること(
図5A)及び複合体IIIの活性を増加すること(
図5B)が明らかとなった。PE補助食品は、ミトコンドリア複合体Iの活性をHFD群に比べて改善することが可能であった(
図5A)。さらに、PEは複合体II及びIVの活性も増加することが可能であった(
図5A)。HFD及びPE処理のいずれも複合体Vの活性には影響を与えなかった(
図5B)。
【0046】
2.7 ラット肝臓ミトコンドリアの動的な活性におけるPE補助食品及びHFD
ミトコンドリアの動的な活性はミトコンドリア複合体の活性と密接に関連する。リアルタイムPCRの結果は、PE処理によりミトコンドリアの融合及び分裂タンパク質(Mfn1、Mfn2、OPA1、Drp1、Fis1)のmRNA量が有意に増加することを示した(
図6A)。しかし、ウェスタンブロットの結果は、Drp1及びOPA1タンパク質の量はHFD又はPEにより影響されないこと、並びにMfn1及びMfn2タンパク質の量がHFDにより減少しPEにより明瞭に増加することを示した(
図6B)。
【0047】
2.8 ラットの免疫系及び腎臓におけるPE補助食品の毒性
HFD及びPE処理のいずれも、血液中のリンパ球(
図7A)及び白血球(
図7B)に影響を与えることはなかった。さらに、HFDは腎機能マーカーBUN(C)及びCREA(D)に影響しなかったが、低及び高用量のPEにより有意に血清中のBUN量が減少した。
【0048】
結論:
HFD処理8週後のラットの体重と脂肪蓄積は通常食に比べて有意に高かった。本研究では、低PE用量(50mg/kg/日)及び高PE用量(150mg/kg/日)が用いられる。高用量のPEにより、HFDにより誘導された体重増加が有意に減少することが明らかとなった。
【0049】
一方、PEがいかなる毒性をも現さないことを確認するために、我々は血液細胞を分析し、腎機能マーカーを調査した。データは、PE補助食品が血液細胞に影響を与えないことを示した。毒性がある代わりに、むしろPEが腎機能を改善することが見出された。
【0050】
高用量のPE処理が、肝臓重量及び体重に対する肝臓重量の割合を効果的に減少できることも見出された。したがって、肝臓重量の減少は、HFDにより誘導された体重増加がPE処理により減少するという作用の機序の1つである可能性があると考えることができる。形態についての写真及びHE染色は、高用量のPEが脂肪肝形成を顕著に抑制するということを示した。高用量PEにより肝臓のトリグリセリド及びコレステロールが減少した。肝機能マーカーALT及びASTは、高用量PEにより正常へ回復した。すべてのデータは、PEがHFDにより誘導された脂肪肝形成を効果的に抑制し、肝機能を正常の水準に回復することができることを示唆した。
【0051】
PEがどの程度防護効果を有するのかをより深く理解するために、まず古典的なSREBP1経路が調査された。Fas、SCD1、Acc1のような脂質生成に関する遺伝子は、成熟SREBP1により活性化され、脂肪肝形成に関与する。これまでの研究と異なり、SREBP1の前駆体はHFDにより有意に増加するが、成熟SREBP1はHFDにより影響されないということをこれらの結果は示した。したがって、HFDにより脂質生成は活性化されなかった。にもかかわらず、PE処理はSREBP1の前駆体量及び脂質生成に関する遺伝子の発現を、HFD群に比較して有意に抑制することが明らかとなった。
【0052】
そして、肝臓における酸化ストレスの状態及びミトコンドリア機能が分析された。PE処理は、HFDにより誘導されたカルボニル化タンパク質の量及びGSH量の変化を効果的に回復することが可能であった。PE処理は、HFDにより誘導された複合体Iの活性減少を抑制することも可能であった。PE処理は複合体II及びIVの活性を、HFD群に比較して有意に増加することが可能であった。ここまですべてのデータは、PEがHFDにより誘導された脂肪肝形成を効果的に抑制することが可能であるということを示唆した。
【0053】
本発明は例を用いて記載されてきたが、請求項に規定されている本発明の範囲から逸脱することなく、変形形態及び変更形態がなされ得ることが理解されるべきである。さらに、既知の均等物が特定の特徴に存在する場合、かかる均等物は、本明細書で具体的に表されるかのように組み込まれる。
【0054】
参考文献:
[1] Trounce,I.A.;Kim,Y.L.;Jun,A.S.;Wallace,D.C. Assessment of mitochondrial oxidative phosphorylation in patient muscle biopsies,lymphoblasts,and transmitochondrial cell lines. Methods Enzymol 264:484−509;1996.
[2] Sun,L.;Luo,C.;Long,J.;Wei,D.;Liu,J. Acrolein is a mitochondrial toxin:Effects on respiratory function and enzyme activities in isolated rat liver mitochondria. Mitochondrion 6:136〜142;2006.
[3] Humphries,K.M.;Szweda,L.I. Selective inactivation of alpha−ketoglutarate dehydrogenase and pyruvate dehydrogenase:reaction of lipoic acid with 4−hydroxy−2−nonenal. Biochemistry 37:15835〜15841;1998.
[4] Picklo,M.J.;Amarnath,V.;McIntyre,J.O.;Graham,D.G.;Montine,T.J. 4−Hydroxy−2(E)−nonenal inhibits CNS mitochondrial respiration at multiple sites. J Neurochem 72:1617〜1624;1999.
[5] Yang,S.;Tan,T.M.;Wee,A.;Leow,C.K. Mitochondrial respiratory function and antioxidant capacity in normal and cirrhotic livers following partial hepatectomy. Cell Mol Life Sci 61:220〜229;2004.
[6] Picklo,M.J.;Montine,T.J. Acrolein inhibits respiration in isolated brain mitochondria. Biochim Biophys Acta 1535:145〜152;2001.
[7] Zheng,J.;Ramirez,V.D. Inhibition of mitochondrial proton F0F1−ATPase/ATP synthase by polyphenolic phytochemicals. Br J Pharmacol 130:1115〜1123;2000.
[8] White,C.C.;Viernes,H.;Krejsa,C.M.;Botta,D.;Kavanagh,T.J. Fluorescence−based microtiter plate assay for glutamate−cysteine ligase activity. Anal Biochem 318:175〜180;2003.
【0055】
本明細書内の先行技術文献を参照することはいずれも、かかる先行技術が周知であるか、又は当分野で共通の一般的な認識の一部を形成しているということを認めたものであるとみなされるべきではない。