(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記舵軸と平行な方向における前記リアクション部の全範囲にわたって、該方向の各位置での前記断面において、前記リアクション部の一方の側面は、厚みが最大となる、前記中心線の方向の位置から前縁部まで直線状に延びている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリアクション舵。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアクション舵において揚力を効率よく発生させること、または、簡単な構成でリアクション舵を製作できるようにすることが望まれる。
そこで、本発明の第1の目的は、船の左右方向に湾曲したリアクション舵において、この湾曲に対して発生する揚力の増大効果を高められるようにすることにある。
本発明の第2の目的は、簡単な構成でリアクション舵を製作できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の第1の目的を達成するため、第1の発明によると、船のリアクション舵であって、
該舵は、前記船の推進プロペラの後方において舵軸まわりに揺動可能に設けられており、上側舵部と、前記上側舵部よりも下方に位置する下側舵部とを有し、
前記上側舵部と下側舵部との境界は、前記舵軸と平行な方向において前記推進プロペラの回転軸の延長線の位置から上限距離以内の範囲に位置し、該上限距離は、前記リアクション舵の全高の15%以下の距離であり、
前記上側舵部と下側舵部の一方または両方は、リアクション部として形成され、
前記舵軸と直交する仮想平面による断面において、前記リアクション部の中心線は湾曲しており、
前記リアクション部の上端部と下端部の一方または両方には、前記舵の厚み方向に突出した突出部を有し、該突出部は前記舵の前縁から後縁に向かう方向に延びている、リアクション舵が提供される。
【0007】
上述の第2の目的を達成するため、第2の発明によると、船のリアクション舵であって、
該舵は、前記船の推進プロペラの後方において舵軸まわりに揺動可能に設けられており、上側舵部と、前記上側舵部よりも下方に位置する下側舵部とを有し、
前記上側舵部と下側舵部との境界は、前記舵軸と平行な方向において前記推進プロペラの回転軸の延長線の位置から上限距離以内の範囲に位置し、該上限距離は、前記リアクション舵の全高の15%以下の距離であり、
前記上側舵部と下側舵部の一方のみが、リアクション部として形成され、
前記舵軸と直交する仮想平面による断面において、前記リアクション部の中心線は湾曲している、リアクション舵が提供される。
【発明の効果】
【0008】
リアクション舵における前記上側舵部と下側舵部の一方または両方は、リアクション部として形成されている。リアクション部の舵断面の中心線は湾曲している。これにより、リアクション部の一方の側面に発生する負圧が大きくなる。この負圧は、リアクション部に生じる揚力に寄与する。
【0009】
この場合に、第1の発明によると、リアクション部の上端部と下端部の一方または両方には、前記舵の厚み方向に突出した突出部を有し、該突出部は、前記舵の前縁から後縁に向かう方向に延びている。この突出部は、リアクション部の一方の側面に発生した負圧の領域を、圧力が相対的に高い他の領域から舵軸方向に分離する。これにより、リアクション部の一方の側面に発生した負圧の低下を抑えられる。
したがって、リアクション部に生じる揚力に寄与する負圧の低下を抑えることができるので、舵断面の中心線の湾曲に対する揚力の増大効果を高めることができる。
【0010】
一方、第2の発明によると、上側舵部と下側舵部のうち他方の舵断面の中心線を湾曲させなくてよいので、リアクション舵の製作が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
(本発明が適用可能な船)
図1は、本発明の実施形態によるリアクション舵10が適用された船1の後方部の側面図である。船1は、海、湖または川を航行するものであり、例えば船舶または艦艇である。なお、本願において、「前後方向」とは、船1の船尾側から船1の船首側に向かう方向であって船体の中心線の方向を意味し、「左右方向」とは、前後方向に対する船体の左右方向を意味する。また、以下において、「左側」と「右側」は、それぞれ、船1の船尾側において船1の船首側を向いている人から見た左側と右側を意味する。
【0014】
船1の船尾部1aには推進プロペラ3が設けられる。推進プロペラ3は、回転軸C1まわりに回転可能に船体の船尾部1aに取り付けられている。推進プロペラ3は、回転軸C1を中心軸とする回転中心部3aと、回転軸C1まわりの方向に配置され回転中心部3aに結合されている複数のプロペラ翼3bとを有する。回転中心部3aの前側部分は船尾部1aに回転可能に支持されている。推進プロペラ3は、回転軸C1まわりに水中で回転駆動されて、船1の前進推力を発生させる。以下において、推進プロペラ3の回転方向は、船尾側から見た場合に時計回りであるとする。
【0015】
(リアクション舵の概略)
図2(A)は、
図1の部分拡大図でありリアクション舵10を示し、
図2(B)は、
図2(A)の2B−2B矢視図であり、
図2(C)は、前方側の左側斜め下方からリアクション舵10を見た斜視図である。なお、以下において、回転軸C1の延長線C11は、直線であって、リアクション舵10に位置する当該延長線を意味する。
【0016】
リアクション舵10は、船1の推進プロペラ3の後方において舵軸C2(
図1を参照)まわりに揺動可能に船体に取り付けられている。舵軸C2は、例えば、船体が水平姿勢にある状態(すなわち、前後方向と左右方向が水平を向く状態)で、鉛直方向を向いていてよいが、鉛直方向から傾いていてもよい。
【0017】
リアクション舵10は、上側舵部5と、上側舵部5よりも下方に位置する下側舵部7とを有する。上側舵部5は、舵軸C2と平行な方向(以下において単に高さの方向ともいう)において、延長線C11の高さ又は延長線C11に近い高さから上方に延びている。下側舵部7は、高さの方向において、延長線C11の高さ又は延長線C11に近い高さからリアクション舵10の下方に(
図2の例では下端まで)延びている。なお、高さとは、舵軸C2と平行な方向における位置を意味する(以下同様)。
図2の例では、リアクション舵10は、さらに、上側舵部5の上側に位置し上側舵部5に結合された上端舵部9を含む。なお、
図2(A)において、上側舵部5と下側舵部7と上端舵部9は、それぞれ破線で囲んだ範囲の舵部分であり互いに結合されている。
図2(B)(C)において、二点鎖線は、リアクション舵10の前縁(上側舵部5と下側舵部7と上端舵部9の前縁5a,7a,9a)を示し、
図2(B)において、破線は、後述のフィン11bの前縁を示す。
【0018】
上側舵部5と下側舵部7との境界は、
図2(A)のようにリアクション舵10における前後方向の各位置で、高さの方向において延長線C11の位置(すなわち高さ)から上限距離以内の範囲Rに位置する。この上限距離は、リアクション舵10の全高Hの15%以下の距離である(
図2(A)の例では上限距離は全高Hの15%よりも小さい)。したがって、範囲Rの、高さの方向の中心Phは、延長線C11の高さにあり、範囲Rの、高さの方向の長さは、0.3H以下の所定値である(ここでHは上記全高である)。後述のバルブ11aが設けられる場合には、範囲Rは、高さの方向においてバルブ11aが存在する範囲であってよい。すなわち、範囲Rは、バルブ11aの下端から上端までの、高さの方向の範囲であってよい。
図2(A)の例では、上側舵部5と下側舵部7との境界は、延長線C11の高さにあるが、これに限定されず、上述のように範囲R内にあればよい。なお、上側舵部5と下側舵部7との境界において、上側舵部5と下側舵部7とは、互いに直接結合されていてよい。また、全高Hは、舵として機能する部分(当該部分における上端から下端まで)の、高さの方向の長さを意味する。
【0019】
(リアクション部の構成)
上側舵部5と下側舵部7の一方または両方は、リアクション部として形成されている。本実施形態では、上側舵部5と下側舵部7の各々がリアクション部として形成されている。
【0020】
図3(A)(B)は、それぞれ、舵軸C2と直交する仮想平面による断面(以下で単に舵断面という)を示す。
図3(A)は、
図2(A)の3A−3A断面図であり、リアクション部としての下側舵部7の舵断面を示す。
図3(B)は、
図2(A)の3B−3B断面図であり、リアクション部としての上側舵部5の舵断面を示す。
【0021】
図3において、回転軸C1の延長線C11よりも低い位置(
図3(A))と高い位置(
図3(B))とで、推進プロペラ3からの水流Fの向きが異なる。
図3において、リアクション部の中心線Crは、推進プロペラ3からの水流Fによりリアクション舵10が発生する揚力の前方向成分が増えるように湾曲している。中心線Crは、舵断面においてリアクション舵10の両側面から等距離にある。なお、中心線Crの湾曲の向きは、推進プロペラ3の回転方向が船尾側から見た場合に反時計回りである場合には、
図3(A)(B)の場合と逆になる。
【0022】
中心線Crは、設定位置Prよりも前側の前側中心線部Cr1と、設定位置Prよりも後側の後側中心線部Cr2を有する。前側中心線部Cr1は、後側中心線部Cr2に対して船体の左右方向に曲がっている。すなわち、前側中心線部Cr1の後端と前端とを通る直線は、後側中心線部Cr2の後端と前端とを通る直線から左右方向に傾いている。
【0023】
設定位置Prは、中心線Cr上の位置であって、本実施形態では、中心線Crと直交する方向のリアクション舵10(上側舵部5または下側舵部7)の寸法(以下で単に厚みという)が最大となる位置(以下で単に最大厚み位置という)である。なお、設定位置Prは、最大厚み位置に限定されず、例えば、最大厚み位置よりも前側の位置であってもよい。ここで、設定位置Prが最大厚み位置である場合でも、そうでない場合でも、設定位置Prは、中心線Crの全長の30%〜40%(例えば35%)の長さだけ中心線Crに沿って、中心線Crの前端から後側にずれた位置であってよい。
【0024】
(リアクション部の作用)
図4は、リアクション部の作用を説明するための図である。
図4(A)は、推進プロペラと舵との位置関係を示す概略斜視図である。
図4(B)(C)は下側舵部7の舵断面を示し、
図4(B)は舵断面の中心線Crが直線である場合を示し、
図4(C)は舵断面の中心線Crが湾曲している本実施形態の場合を示す。中心線Crが湾曲することにより、リアクション舵10に発生する揚力Lが大きくなり、その分、揚力Lの前方向成分Laも大きくなる。
【0025】
本実施形態によると、
図2(B)のように、上側舵部5の前縁5aは、舵軸C2と平行な方向における上側舵部5の全範囲にわたって、舵軸C2から左側にずれている。これにより、当該全範囲にわたって、上側舵部5に発生する揚力の前方向成分を大きくすることができる。この場合において、
図2の例では、舵軸C2と平行な方向における上側舵部5の全範囲にわたって、上側舵部5の前縁5aは、舵軸C2と平行な方向に延びている。
また、本実施形態によると、下側舵部7の前縁7aは、舵軸C2と平行な方向における下側舵部7の全範囲にわたって、舵軸C2から右側にずれている。これより、当該全範囲にわたって、下側舵部7に発生する揚力の前方向成分を大きくすることができる。この場合において、
図2の例では、舵軸C2と平行な方向における下側舵部7の全範囲にわたって、下側舵部7の前縁7aは、舵軸C2と平行な方向に延びている。
【0026】
図5は、リアクション部の作用を説明するための別の図である。
図5(A)(B)は舵断面を示し、
図5(A)は舵断面の中心線が直線である場合を示し、
図5(B)は下側舵部7の舵断面の中心線Crが湾曲している場合を示す。
図5のように、正圧の部分は抵抗になり、負圧の部分は推進力になる。したがって、中心線Crを湾曲させることにより、下側舵部7における右側面の正圧の領域が減少し、下側舵部7における左側面の負圧の領域が増加し、その結果、リアクション部の抵抗は減少する。本願において、正圧は、負圧に対して相対的に高い圧力を意味し、負圧は、正圧に対して相対的に低い圧力を意味する。
【0027】
(リアクション部の具体的形状の一例)
本実施形態では、舵断面は、高さの方向における上側舵部5(リアクション部)の全範囲にわたって、同じ形状と同じ寸法を有していてもよい。これにより、上側舵部5の側面が、舵軸C2に平行な比較的単純な形状になるので、リアクション舵10の製作が容易になる。
また、本実施形態では、下側舵部7において、舵断面の最大厚みは、下方に移行するにつれて、段階的に又は次第に小さくなっていてよい。
【0028】
図6は、このようなリアクション部の舵断面を示す。この舵断面において、最大厚み位置Prが後側中心線部Cr2と前側中心線部Cr1の境界となる。この後側中心線部Cr2は直線である。また、舵断面において、リアクション部の一方の側面Lsは、厚みが最大となる中心線Cr方向の位置P1から前縁部まで直線状に延びている。このように舵断面において側面Lsは直線であるので、リアクション舵10の製作が容易になる。また、舵断面において、リアクション部の他方の側面Lcは、最大厚み位置Prから前縁部まで、前縁側に移行するにつれて、側面Lsに近づくように曲線状に延びている。この段落の内容は、各高さにおける舵断面に当てはまる。
【0029】
このような舵断面の設定方法の一例を
図6に基づいて説明する。
(1)舵断面において、厚みが最大となる中心線Cr方向の位置であって一方の側面Ls上の位置P1から前側に延びる線Lsを設定する。この線Lsは、後側中心線部Cr2の後端と前端(設定位置Pr)とを通る直線に平行である。
(2)位置P1よりも前側において、線Lsに接する複数の円を作成する。これらの円は、前端に近いほど半径が小さい。舵断面の前縁に最も近い円Caと線Lsとの接点をPsとする。
(3)舵断面において、厚みが最大となる中心線Cr方向の位置であって他方の側面上の位置P2から前側に延びて複数の円に接する自由曲線Lcを引く。この曲線Lcは、前縁側に移行するにつれて次第に直線Lsに近づく線である。円Caと曲線Lcとの接点をPcとする。
(4)位置P1から接点Psまでの線Lsと、接点Psから接点Pcまでの円Caの部分と、接点Pcから位置P2までの自由曲線Lcとにより、設定位置Prよりも前側の舵断面部分を区画する。
(5)設定位置Prよりも後側の舵断面部分は、後縁に近づくにつれて徐々に又は段階的に舵断面の厚みが小さくなるように設定される。
上記(1)〜(5)の手順を、各高さにおいて実施することにより、リアクション舵10の3次元形状を設定する。
【0030】
(突出部の構成)
リアクション舵10は、
図1のように、リアクション部の上端部と下端部の一方または両方においてリアクション舵10の厚み方向(以下で単に厚み方向という)に突出した突出部11を有する。突出部11は、リアクション舵10の前縁から後縁に向かう方向に延びている。突出部11は、リアクション舵10の右側面と左側面の両方に設けられている。
【0031】
突出部11は、
図1と
図2のように、上側舵部5と下側舵部7との境界に位置するバルブ11aと、バルブ11aに結合されバルブ11aから厚み方向の外側に延びているフィン11bとを含む。
【0032】
バルブ11aは、回転軸C1の延長線C11と同じ高さに位置する。バルブ11aは、推進プロペラ3の後端部3c(例えばボスキャップ)の真後ろに位置してよい。左右のバルブ11aは、それぞれ、リアクション舵10の左右の側面から左右外側に盛り上がった部分である。前後方向の各位置において、回転軸C1の方向と直交する仮想平面によるバルブ11aの断面の外縁形状は、例えば円弧や楕円状であってよいが、他の形状であってもよい。バルブ11aの上記断面の外縁の寸法は、後方へ移行するにつれて小さくなっている。
図2の例では、左右のバルブ11aは、リアクション舵10の前縁から前側に突出して互いに結合し、この結合部分は、回転軸C1の方向と直交する仮想平面による断面の外縁形状が円形に近い形状または円形を有している。バルブ11aは、推進プロペラ3における回転中心部3aの後端部3cからの渦流を抑制することにより、推進性能を向上させる。
【0033】
左右方向におけるバルブ11aの寸法は、上側舵部5または下側舵部7の最大厚みよりも大きい。本実施形態では、左右方向におけるバルブ11aの寸法は、上側舵部5の最大厚みよりも大きく、かつ、下側舵部7の最大厚みよりも大きい。
【0034】
左右のフィン11bは、それぞれ、左右のバルブ11aの外側面から厚み方向外側に延びている。フィン11bは、船体による縦渦と推進プロペラ3および回転軸C1まわりの渦から前方向成分を有する揚力を発生させる。これにより、損失した渦エネルギーが前向きの推力として回収され、推進性能が向上する。例えば、回転軸C1と平行な鉛直面によるフィン11bの断面の形状は、前方向成分を持つ揚力を発生する翼形である。
【0035】
(突出部の作用)
図7は、突出部11の有無による圧力の分布の相違を説明するための図である。
図7(A)(B)は、
図1において突出部11を無くした場合を示し、
図7(A)は、推進プロペラ3とリアクション舵10の概略側面図であり、
図7(B)は、リアクション舵10の左側面における高さと圧力との関係を示すグラフである。
図7(B)において、縦軸は、回転軸C1の延長線C11の高さを原点とした高さを示し、横軸は、推進プロペラ3からの水流によってリアクション舵10の左側面に発生する圧力を示す。
図7(A)(B)に示すように、延長線C11よりも高い位置ではリアクション舵10の左側面には正圧が発生し、延長線C11よりも低い位置ではリアクション舵10の左側面には負圧が発生する。これは、上述したように延長線C11よりも高い位置と低い位置とで、推進プロペラ3からの水流の向きが異なることによる。
【0036】
図7(C)(D)は、
図1のように突出部11を設けた場合を示し、
図7(C)は、推進プロペラ3とリアクション舵10の概略側面図であり、
図7(D)は、リアクション舵10の左側面における高さと圧力との関係を示すグラフである。
図7(D)の縦軸と横軸は
図7(B)の場合と同じである。
図7(D)において、破線の曲線は、
図7(B)の場合を示し、実線の曲線は、突出部11が存在する場合を示す。
【0037】
図7について、突出部11が存在しない場合には、上側舵部5と下側舵部7との境界(この図の例では回転軸C1の延長線C11の高さ)は、舵側面の圧力の正負の境界ともいえるので、下側舵部7の左側面の負圧は、境界に近づくにつれて大きく減少していく。この減少の程度を突出部11により抑えることができる。突出部11は、下側舵部7の左側面における負圧の範囲と上側舵部5の左側面における正圧の範囲を互いに分離するからである。したがって、突出部11により、リアクション部としての下側舵部7の左側面に発生した負圧の絶対値を大きくすることができ、リアクション部としての上側舵部5の左側面に発生した正圧の絶対値を大きくすることができる。
【0038】
このように、突出部11は、リアクション部における一方の側面に発生する負圧の絶対値の低下を抑える機能(負圧低下抑制機能)を有する。これにより、
図4(C)に示す揚力Lとその前方向成分Laを増やすことができ、その結果、リアクション舵10の抵抗が減る。
また、バルブ11aは、推進プロペラ3からの渦流を抑制する機能を有するだけでなく、負圧低下抑制機能も有するようになるので、リアクション舵10の抵抗が相乗的に低下する。
さらに、フィン11bは、前方向成分を有する揚力を発生させる機能を有するだけでなく、負圧低下抑制機能も有するようになるので、リアクション舵10の抵抗が相乗的に低下する。
【0039】
図8は、リアクション部としての下側舵部7の抵抗をCFD解析により求めた結果を示す。
図8に示すように、バルブ11aとフィン11bが無い場合の抵抗を100%とした場合に、バルブ11aを設けることで抵抗が20%低減し、バルブ11aとフィン11bの両方を設けることで抵抗が更に5%低減する。
【0040】
(端部突出体の構成と作用)
図1の例では、突出部11は、リアクション部として形成された下側舵部7の下端部に設けられた下端部突出体11cと、リアクション部として形成された上側舵部5の上端部に設けられた上端部突出体11dを含む。
【0041】
下端部突出体11cと上端部突出体11dは、例えば
図2のように板状に形成されていてよい。下端部突出体11cと上端部突出体11dも、上述した負圧低下抑制機能を有する。下端部突出体11cは、下側舵部7における左側面の下端部における負圧の範囲を、これより下方の範囲から分離するので、この負圧の範囲における負圧の絶対値の低下を抑える。その結果、下側舵部7に発生する揚力の前方向成分を増やすことができる。上端部突出体11dについても同様である。
【0042】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1〜3のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1〜3を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0043】
(変更例1)
上述において、バルブ11aとフィン11bのうち一方のみを設けてもよい。例えば、上述において、バルブ11aを省略してもよい。この場合、左右のフィン11bは、それぞれ、リアクション舵10の左右の側面からそれぞれ厚み方向外側に延びる。また、この場合、左右のフィン11bは、上側舵部5と下側舵部7との境界(一例では回転軸C1の延長線C11と同じ高さ)に位置していてよい。
【0044】
(変更例2)
上述において、下端部突出体11cと上端部突出体11dの一方または両方を省略してもよい。
【0045】
(変更例3)
上述では、上側舵部5と下側舵部7の両方をリアクション部として形成したが、上側舵部5と下側舵部7のうち一方のみをリアクション部として形成してもよい。
【0046】
例えば、上側舵部5と下側舵部7のうち下側舵部7のみをリアクション部として形成してもよい。
図9はこの場合を示す。
図9(A)は、
図1の部分拡大図に相当する。
図9(B)は、
図9(A)の9B−9B矢視図であり、
図9(C)は、前方側の左側斜め下方からリアクション舵10を見た斜視図である。
図9(B)(C)において、二点鎖線は、リアクション舵10の前縁(上側舵部5と下側舵部7の前縁5a,7a)を示し、
図9(B)において、破線は、フィン11bの前縁を示す。
【0047】
変更例3では、上側舵部5の前縁5aは、舵軸C2と平行な方向における上側舵部5の全範囲にわたって、舵軸C2と同じ左右方向位置にあってよい。また、変更例3では、下側舵部7の前縁7aは、舵軸C2と平行な方向における下側舵部7の全範囲にわたって、舵軸C2から右側にずれている。この場合において、
図9(B)の例では、舵軸C2と平行な方向における下側舵部7の全範囲にわたって、下側舵部7の前縁7aは、舵軸C2と平行な方向に延びている。
【0048】
また、変更例3では、舵断面は、高さの方向における上側舵部5の全範囲にわたって、同じ形状と同じ寸法を有していてもよい。また、変更例3では、下側舵部7において、舵断面の最大厚みは、下方に移行するにつれて、段階的に又は次第に小さくなっていてよい。
【0049】
このように変更例3において上側舵部5をリアクション部としない場合には、
図9のように上端舵部9と上端部突出体11dは省略されてよく、下端部突出体11cは、
図9のように設けられてもよいし、省略されてもよい。
【0050】
変更例3では、上側舵部5と下側舵部7のうち他方の舵断面の中心線を湾曲させないので、リアクション舵10の製作が容易になる。
【0051】
また、
図9では、舵断面の中心線が湾曲しているリアクション部7と、他の舵部分との結合箇所が、上側舵部5との結合箇所だけになるので、リアクション舵10の製作がさらに容易になる。
これに対し、リアクション舵10が上端舵部9を含む場合であって、上側舵部5と下側舵部7のうち上側舵部5のみをリアクション部とした場合には、リアクション部5と他の舵部分との結合箇所が、下側舵部7との結合箇所と、上側舵部5との結合箇所との2箇所になる。この点で、下側舵部7のみをリアクション部として形成することにより、上記結合箇所が2箇所から1箇所に減るので、リアクション舵10の製作が容易になる。
【0052】
なお、この変更例3において下側舵部7をリアクション部としない場合には、下端部突出体11cは省略してよい。この場合、上端部突出体11dは、上述のように設けられてもよいし省略されてもよい。
【0053】
変更例3において、バルブ11aとフィン11bの一方または両方を省略してもよい。
【0054】
図10は、リアクション舵10についてCFDを行って得た舵表面の圧力分布を示す。このCFDは、推進プロペラと、その後方のリアクション舵を対象として行われた。このCFDにおいて、推進プロペラの回転方向は、その後方から見た場合に時計回りであるとする。CFDは、任意の船舶(240m級のタンカー)の計画速力付近に相当する状態で行った。
図9において、細い破線は、同じ圧力係数となって位置を示す等圧線であり、その値を各数値で示している。
【0055】
図10(A)は、突出部11が無いリアクション舵10についての結果を示す。
図10(B)は、
図10(A)の場合に対してバルブ11aを付加したリアクション舵10についての結果を示す。
図10(C)は、
図10(A)の場合に対してバルブ11aとフィン11bを付加したリアクション舵10についての結果を示す。
【0056】
図10(B)の上側舵部5において、
図10(A)では圧力の低かった範囲が、バルブ11aによって減少している(特に
図10(B)において斜線範囲Xは、圧力係数が−1.0より低い範囲から外れている)。したがって、例えば、上側舵部5もリアクション部として形成する場合には、バルブ11aによって、上側舵部5における左側面の正圧を大きくでき、その結果、上側舵部5における左側面と右側面との圧力差を大きく保つことが可能になる。
また、
図10(B)の矢印Yが示すように、バルブ11aに近い下側舵部7の範囲で、圧力係数が0.0である等圧線が、バルブ11aによって
図10(A)の場合から前方側へ移動している。このことは、バルブ11aによって、下側舵部7における負圧の範囲が拡大することを示している。
【0057】
図10(C)の下側舵部7において、斜線範囲Zが示すように、負圧の範囲が
図10(B)の場合よりも拡大している。