(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも3個の山セクタ(3)と、底表面(4B)を含む同じ数の谷セクタ(4)とを含むサイクロトロン(1)の磁極(2)であって、前記山セクタおよび谷セクタが中心軸(Z)の周囲に交互に分散され、各山セクタが、
(a)上表面(3U)であって、
− 第1および第2の上側遠位端(3ude)によって境界を定められ、かつ前記中心軸から最も遠くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側周囲縁部(3up)、
− 第1および第2の上側近位端(3upe)によって境界を定められ、かつ前記中心軸の最も近くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側中心縁部(3uc)、
− 前記第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部(3ul)、
− 前記第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部(3ul)
によって画定される上表面(3U)と、
(b)第1および第2の側表面(3L)であって、前記第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に配置された前記対応する谷セクタの前記底表面まで横切ってそれぞれ延在し、従って第1および第2の下側側縁部(3ll)を、側表面を隣接する底表面と交差させる縁部として画定し、前記第1および第2の下側側縁部がそれぞれ前記中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端を有する、第1および第2の側表面(3L)と、
(c)前記上側周囲縁部から、前記第1および第2の下側側縁部の下側遠位端(3lde)によって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線(3lp)まで延在する周囲表面(3P)と
を含む磁極(2)において、
少なくとも1つの山セクタの前記上側周囲縁部が、前記対応する山セクタの前記周囲表面の一部にわたって少なくとも部分的に延在する窪みを画定する、前記中心軸に対して凹状の部分を含み、
前記窪みは、上側周囲縁部(3up)に配置された第1および第2の窪み遠位地点(10rdp)と、前記中心軸(Z)の最も近くに位置する前記窪みの地点として規定される窪み近位地点(10rpp)とによって画定され、
窪み深さ(H10)の、中心軸と山セクタの周囲縁部との間の最大距離(Lh)に対する比率であるH10/Lhが、2%〜20%の間であり、前記窪み深さ(H10)は、前記第1および第2の窪み遠位地点(10rdp)と前記窪み近位地点(10rpp)とによって形成された三角形の高さとして規定されていることを特徴とする磁極(2)。
請求項1乃至6の何れか1項に記載の磁極において、前記窪みが前記周囲表面の一部にわたって延在し、前記周囲表面の一部が、前記上側周囲縁部と前記下側周囲線との間で前記中心軸と平行に測定される前記周囲表面の高さの画分ζに対応し、前記画分ζが25%〜75%の間であることを特徴とする、磁極。
請求項1乃至8の何れか1項に記載の磁極において、前記上側周囲縁部が、円弧であって、その中心が前記中心軸に対してオフセットされる円弧であり、前記円弧の半径は、前記中心軸から、前記第1および第2の上側遠位端まで等距離である前記上側周囲縁部の中間地点までの距離の85%以下であることを特徴とする、磁極。
請求項1乃至10の何れか1項に記載の第1および第2の磁極を含む、ギャップ内に含められた所与の経路を介して粒子ビームを加速するためのサイクロトロンにおいて、前記第1および第2の磁極は、間に前記ギャップを形成する前記第1および第2の磁極の中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に配置され、山ギャップ部分が2つの対向する山セクタの間に形成され、および谷ギャップ部分が2つの対向する谷セクタの間に形成されることを特徴とする、サイクロトロン。
請求項11に記載のサイクロトロンにおいて、前記窪みが第1および第2の窪み遠位地点を有し、前記第1および第2の窪み遠位地点が距離L10だけ互いに分離され、前記第1および第2の磁極の山セクタの対の間の前記山ギャップ部分が平均高さGhを有し、比率Gh/L10が、5〜100%の間であることを特徴とする、サイクロトロン。
請求項13に記載のサイクロトロンにおいて、第2の取出し経路を画定する第2の取出し地点を山セクタ内に含み、かつ前記第2の取出し地点の下流に配置された第2の窪みを含み、それにより、前記第2の取出し経路は、80〜100°の間の角度で前記第2の窪みと交差することによって前記対応する山ギャップ部分を出ることを特徴とする、サイクロトロン。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンは一種の円形粒子加速器であり、そこでは負または正に帯電した粒子がサイクロトロンの中心から外側へ、螺旋状経路に沿って数MeVのエネルギーまで加速される。別段の指示のない限り、用語「サイクロトロン」は、以下、等時性サイクロトロンに言及するために使用される。サイクロトロンは様々な分野、例えば核物理学において、陽子治療などの医療的処置において、または放射性薬理学において使用される。特に、サイクロトロンは、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用可能である。
【0003】
サイクロトロンはいくつかの要素を含み、それらには、入射システム、荷電粒子を加速するための高周波(RF)加速システム、加速された粒子を正確な経路に沿って案内するための磁気システム、そのようにして加速された粒子を収集するための取出しシステム、およびサイクロトロン内に真空を生成し維持するための真空システムが含まれる。
【0004】
荷電イオンから構成された粒子ビームは、相対的に低い初期速度で入射システムによってサイクロトロンの中心またはその近くでギャップに導入される。
図3に示されるように、この粒子ビームは連続的かつ反復的にRF加速システムによって加速され、磁気システムによって発生される磁場により、ギャップ内に含められた螺旋経路に沿って外に向かって案内される。粒子ビームはその目標エネルギーに達すると、取出し地点PEに設けられた取出しシステムによってサイクロトロンから取り出され得る。この取出しシステムは例えば、グラファイトの薄いシートから構成された抜取機を含むことができる。例えば、抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽性になる。その結果として、磁場のそれらの経路の曲率がそのサインを変化させ、そのようにして粒子ビームはターゲットに向かってサイクロトロンから放出される。当業者に周知の他の取出しシステムが存在する。
【0005】
磁気システムは磁場を生成し、磁場は、荷電粒子のビームを、それがその目標エネルギーに加速されるまで、螺旋経路に沿って案内かつ収束する。以下、用語「粒子」、「荷電粒子」および「イオン」は、同義語として区別せずに使用される。磁場は、2つの磁極間に画定されたギャップ内に、これら磁極の周囲に巻かれた2つのソレノイド巻きコイル14によって生成される。サイクロトロンの磁極は、中心軸の周囲に分散された交互に存在する山セクタと谷セクタとに分割されることが多い。2つの磁極間のギャップは、山セクタにおいてより小さく、谷セクタにおいてより大きい。そのようにして強い磁場が山セクタ内の山ギャップ部分中に生成され、より弱い磁場が谷セクタ内の谷ギャップ部分中に生成される。そのような方位角磁場変化は、粒子ビームが山ギャップ部分に達するたびに、粒子ビームの半径方向および垂直方向の収束をもたらす。このため、そのようなサイクロトロンは時にセクタ収束型サイクロトロンと称される。いくつかの実施形態では、山セクタは、一切れのケーキと同様の円形セクタの形状を有し、中心軸に向かって実質的に半径方向に延在する第1および第2の側表面と、全体的に湾曲した周囲表面と、中心軸に隣接する中心表面と、山ギャップ部分の片側を画定する上表面とを有する。上表面は第1および第2の側縁部と、周囲縁部と、中心縁部とによって境界を定められる。
【0006】
実用時、粒子ビームは断面領域を有する。サイクロトロンの目的は、可能な限り強力に収束される(すなわち小さい断面領域を有する)所与のエネルギーを有する荷電粒子ビームを生成することである。山セクタおよび谷セクタの連続によって生成される磁場の変化は、光ビームをレンズで収束できる方法と同様の方法でビームの収束に寄与する。粒子ビームが2つの磁極間に画定されたギャップから取り出されると、しかしながら、粒子ビームは、磁場がその均一性を失う境界領域と交差し、これは粒子ビームの収束にとって有害である。これは特に繊細な問題であり、なぜなら、一方で、粒子ビームは取出し地点でその最大エネルギーを有するからであり、他方、磁場が急速に低下する磁極の周囲縁部で磁場を制御することはより難しいからである。取り出される粒子ビームの収束を向上させるために、グラディエントコレクタを追加することにより、周囲縁部に突起を形成することによって山セクタの周囲縁部の形状を修正することが当該技術分野で提案されてきた。グラディエントコレクタは、山セクタのサイズに対して比較的小さい鋼のブロックであり、山セクタの周囲表面に結合される。そのようなグラディエントコレクタは、周囲縁部近くの磁場の修正を可能にし、その結果、山セクタの周囲縁部近くの磁場を局所的に修正し、出力される粒子ビームの収束を改善する。しかしながら、突出型グラディエントコレクタの使用はいくつかの欠点を有する。第1に、磁極を収容する真空チャンバの体積をそれに応じて増大しなければならず、その結果、真空チャンバから気体を抜くためにより多くのエネルギーおよび時間を必要とする。第2に、サイクロトロンの全体重量が増大され、なぜなら、一方ではグラディエントコレクタ自体の重量のため、他方では真空チャンバの外壁の増大された全体サイズ、およびその結果としての磁束反転ヨークのサイズのためであり、その両方がサイクロトロンの重量の大幅な増大の原因となる。第3に、突出型グラディエントコレクタの位置は大変重要であり、小さい位置の偏向が大きい磁場の変化をもたらし得る。グラディエントコレクタは、山セクタの周囲表面の正確に同じ位置に熟練者によって手動で固定しなければならない。これは言うまでもなく決定的に重要かつ費用の掛かる作業である。第4に、これらの突出型グラディエントコレクタは、磁場を外側に偏向する効果を有し、これは粒子ビームの経路を、対向する山セクタの対の間の山ギャップ部分の周囲縁部に向かって外側へ引き、そこで磁場はその均一性を失う。このシフトはまた、有用な磁場の喪失につながり、その結果、その損失を補償するためにコイル電流の増大を必要とする。従って、取り出される粒子ビームの特性を制御することはより難しくかつ費用が掛かる。
【0007】
従って、効率的かつ費用対効果に優れた方法で、より収束され、かつより予測可能な粒子ビームの取出しを可能にする等時性セクタ収束型サイクロトロンを提供する必要性が当該技術分野に依然として残っている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、付随する独立請求項中で定義される。好ましい実施形態は、従属項中で定義される。
【0009】
本発明は、少なくとも3個の山セクタと、底表面を含む同じ数の谷セクタとを含むサイクロトロンの磁極であって、前記山セクタおよび谷セクタが中心軸Zの周囲に交互に分散され、各山セクタが、
(a)上表面であって、
・第1および第2の上側遠位端によって境界を定められ、かつ中心軸から最も遠くに配置された上表面の縁部として画定される上側周囲縁部、
・第1および第2の上側近位端によって境界を定められ、かつ中心軸の最も近くに配置された上表面の縁部として画定される上側中心縁部、
・第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部、
によって画定される上表面と、
(b)第1および第2の側表面であって、第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に配置された対応する谷セクタの底表面まで横切ってそれぞれ延在し、従って第1および第2の下側側縁部を、側表面を隣接する底表面と交差させる縁部として画定し、前記第1および第2の下側側縁部がそれぞれ中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端を有する、第1および第2の側表面と、
(c)上側周囲縁部から、第1および第2の下側側縁部の下側遠位端によって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線まで延在する周囲表面と
を含む磁極において、
少なくとも1つの山セクタの上側周囲縁部が、対応する山セクタの周囲表面の一部にわたって少なくとも部分的に延在する窪みを画定する、中心軸に対して凹状の部分を含むことを特徴とする磁極に関する。
【0010】
好ましくは、窪みは概ねくさび形の形状であり、第1および第2の集束線(好ましくは直線)が、好ましくは70°〜130°、より好ましくは80°〜110°、最も好ましくは90°±5°に含まれる集束角度θで上側周囲縁部から離れて延在する。
【0011】
窪みは、上側周囲縁部から離れる集束部分を有し、前記集束部分は以下の形状:
・三角形の窪みを形成する鋭角コーナー部分、
・台形の窪みを形成する直線状の縁部、または
・アーチ状の窪みを形成する丸みを帯びた縁部
の1つを有する。
【0012】
好ましくは、上側周囲縁部は方位角長さAhを有し、凹状部分は上側周囲縁部の方位角長さの3%〜30%、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜15%に延在する。
【0013】
好ましくは、窪みは第1および第2の上側側縁部から離される。あるいは、窪みは第1の上側側縁部に隣接する。
【0014】
窪みは周囲表面の一部にわたって延在することができる。
【0015】
好ましくは、周囲表面の前記一部は、上側周囲縁部と下側周囲線との間で中心軸と平行に測定される周囲表面の高さの画分ζに対応し、画分ζは25%〜75%、好ましくは40%〜60%、最も好ましくは45%〜55%に含まれる。
【0016】
磁場の滑らかな変化を有するために、周囲表面は上側周囲縁部に隣接して面取り部を形成する。
【0017】
好ましくは、上側周囲縁部は、円弧であって、その中心が中心軸に対してオフセットされる円弧であり、その円弧の半径は、中心軸から、第1および第2の上側遠位端まで等距離である上側周囲縁部の中間地点までの距離の85%以下である。
【0018】
山セクタの数Nは、好ましくは3、4、5、6、7または8であり、より好ましくはN=4である。
【0019】
本発明はまた、上に記載したような第1および第2の磁極を含む、ギャップ内に含められた所与の経路を介して粒子ビームを加速するためのサイクロトロンに関し、第1および第2の磁極は、間に前記ギャップを形成する第1および第2の磁極の中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に配置され、山ギャップ部分は2つの対向する山セクタの間に形成され、および谷ギャップ部分は2つの対向する谷セクタの間に形成される。
【0020】
好ましくは、サイクロトロンの窪みは、第1および第2の窪み遠位地点を有し、前記第1および第2の窪み遠位地点は距離L10だけ互いに分離され、第1および第2の磁極の山セクタの対の間の山ギャップ部分は平均高さGhを有し、比率Gh/L10は、5〜100%、好ましくは10〜50%、より好ましくは20〜33%に含まれる。
【0021】
サイクロトロンはまた、第1および第2の磁極の山セクタの2つの対向する上表面の間の山ギャップ部分内に配置された取出し地点を含むことができ、粒子ビームの所与の経路は、前記第1の取出し地点まで中心軸の周囲を回る外向き螺旋経路であり、そのため、粒子ビームは、取出し経路に沿って所与のエネルギーでサイクロトロンから排出されることができ、窪みは前記取出し地点の下流に配置され、ここで、下流は粒子ビームの方向に対して定義され、それにより、取出し経路は、80〜100°、好ましくは85〜95°に含まれる角度で窪みの1本の線と交差する。
【0022】
好ましくは、サイクロトロンは、第2の取出し経路を画定する第2の取出し地点を山セクタ内にさらに含み、かつ第2の取出し地点の下流に配置された第2の窪みを含み、それにより、第2の取出し経路は、80〜100°、好ましくは85〜95°に含まれる角度で第2の窪みの1本の線と交差する。
【0023】
本発明のこれらのおよびさらなる態様を、例としておよび添付図面を参照してさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によるサイクロトロンの形状
本発明は、等時性セクタ収束型サイクロトロンに関し、以下、上掲の背景技術の節で考察した種類のサイクロトロンとして言及される。
図3に示されるように、本発明によるサイクロトロンは、荷電粒子を、サイクロトロンの中心領域から外方へ、螺旋状経路12に沿って、それらが数MeVのエネルギーで取り出されるまで加速する。例えば、そのようにして取り出された荷電粒子は、陽子、H
+、または重陽子、D
+であり得る。好ましくは、取り出される粒子によって到達されるエネルギーは、5〜30MeV、より好ましくは15〜21MeV、最も好ましくは18MeVである。そのようなエネルギーのサイクロトロンは、例えば、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)での使用に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用される。
【0026】
図1に示されるように、本発明によるサイクロトロン1は、2つの基板5と、一緒にヨークを形成する磁束反転ヨーク6とを含む。磁束反転ヨークは、サイクロトロンの外壁を形成し、およびコイル14の外側の磁場を、それをサイクロトロン内に含有することによって制御する。サイクロトロンは、第1および第2の磁極2をさらに含み、それらは真空チャンバ内に配置され、中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に互いに向き合い、ギャップ7によって互いに分離される。ヨークおよび磁極は全て磁性材料から、好ましくは低炭素鋼から作製され、磁性システムの一部を形成する。磁性システムは、第1および第2の磁極の周囲に巻かれ、磁極と磁束反転ヨークとの間に画成される環状空間内に取り付けられる電気伝導性ワイヤから作製された第1および第2のコイル14によって完成される。
【0027】
図1(b)および2に示されるように、第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された少なくともN=3の山セクタ3を含む(
図1(b)はN=4の好ましい実施形態を示す)。淡く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている各山セクタ3は、山方位角αhにわたって延在する上表面3Uを有する。第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された、暗く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている同じ数Nの谷セクタ4をさらに含む。各谷セクタ4は2つの山セクタ3が側方に位置付けられ、谷方位角αvにわたって延在する底表面4Bを有し、その結果、αh+αv=360°/Nである。
【0028】
第1の磁極2の山セクタ3および谷セクタ4は、それぞれ第2の磁極2の対向する山セクタ3および谷セクタ4に面する。
図3に示される粒子ビームによって辿られる経路12は、第1および第2の磁極を分離するギャップ7内に含まれる。第1および第2の磁極間のギャップ7は、従って、2つの対向山セクタ3の上表面3U間に画定される山ギャップ部分7hと、2つの対向谷セクタ4の底表面4B間に画定される谷ギャップ部分7vとを含む。山ギャップ部分7hは、2つの対向上表面3Uの領域にわたる山ギャップ部分の平均高さとして画定される平均ギャップ高さGhを有する。
【0029】
平均山および谷ギャップ高さは、山セクタおよび谷セクタのそれぞれ上表面および下表面全体にわたるギャップ高さの平均として測定される。谷ギャップ高さの平均は、底表面の何れの開口も無視する。
【0030】
上表面3Uは、
・第1および第2の上側遠位端3udeによって境界を定められ、かつ中心軸Zから最も遠くに位置する上表面の縁部として画定される上側周囲縁部3up、
・第1および第2の上側近位端3upeによって境界を定められ、かつ中心軸から最も近くに位置する上表面の縁部として画定される上側中心縁部3uc、
・strai、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部3ul
によって画定される(
図2参照)。
【0031】
山セクタ3は、
・第1および第2の側表面3Lであって、それぞれ第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に配置された対応する谷セクタの床表面まで横切って延在し、従って側表面を隣接底表面と交差させる縁部として第1および第2の下側側縁部3llを画定し、前記第1および第2の下側側縁部はそれぞれ中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端3ldeを有する、第1および第2の側表面3L、
・上側周囲縁部から、第1および第2の下側側縁部の下側遠位端3ldeによって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線3lpまで延在する周囲表面3P
をさらに含む(
図2参照)。
【0032】
山セクタの平均高さHhは、下側および上側側縁部の間で中心軸と平行に測定される平均距離である。
【0033】
縁部の端部は、その縁部を画定するセグメントの境界を定める2つの末端のうちの1つとして画定される。近位端は、中心軸Zの最も近くに配置された縁部の端部である。遠位端は、中心軸Zの最も遠くに配置された縁部の端部である。端部は、2本以上の線が交わる地点として画定されるコーナー地点であり得る。コーナー地点はまた、曲線の接線がサインを変化させるか、または不連続性を示す地点としても画定され得る。
【0034】
縁部は2つの表面が交わる線セグメントである。縁部は、上で定義されたように2つの端部によって境界を定められ、および2つの交わる表面のそれぞれの片方の側を定める。機械加工工具の制限および応力集中の低減のために、2つの表面は所与の曲率半径Rで交わることが多く、これは、両方の表面と交差する縁部の幾何学的位置を正確に決定することを困難にする。この場合、縁部は、無限の曲率(1/R)で互いに交差するように推定される2つの表面と交差する幾何学的な線として画定される。上側縁部は山セクタの上表面3Uと交差する縁部であり、下側縁部は谷セクタの底表面4Bと交差する縁部である。
【0035】
周囲縁部は、中心軸Zから最も遠くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。最も遠い地点が2つの縁部によって共有されるコーナー地点である場合、周囲縁部はまた、中心軸Zまでの平均距離が最大である表面の縁部である。例えば、上側周囲縁部は、中心軸まで最も遠くに配置された地点を含む上表面の縁部である。山セクタが一切れのタルトと比較される場合、その周囲縁部はタルトの周囲のクラストであろう。
【0036】
同じように、中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。例えば、上側中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む上表面の縁部である。
【0037】
側縁部は、近位端の中心縁部を遠位端の周囲縁部に接続する縁部として画定される。そのため、側縁部の近位端は、中心縁部と交差する前記側縁部の端部であり、前記側縁部の遠位端は、周囲縁部と交差する前記側縁部の端部である。
【0038】
サイクロトロンの設計に依存して、上側/下側中心縁部は様々な形状を有し得る。最も一般的な形状は、中心軸に対して有限長さ(0以外)の、多くの場合に円形である凹状の線(または凹状の曲線)であり、これは、互いに分離された第1および第2の上側/下側近位端によって境界を定められる。この構造は、粒子ビームおよび他の要素をギャップへ導入するための空間をあけるために有用である。第1の代替構造において、第1および第2の近位中心端部は、上表面3Uの頂点を形成する単一の近位中心地点に収束され、これは3つの縁部のみを含み、中心縁部はゼロの長さを有する。山セクタが一切れのタルトと再度比較される場合、一切れの鋭利な先端は中心縁部に対応し、従って単一地点に低減される。第2の代替構造において、第1から第2の側縁部への移行部は、中心軸Zに対して湾曲した凸状であり得、これはコーナー地点のない滑らかな移行部をもたらす。この構造において、中心縁部はまた、接線がサインを変化する地点として画定される単一地点に低減される。通常、第1および第2の代替構造においてさえ、山セクタは中心軸まで完全に延在せず、中心軸を直接取り囲む中心領域は、粒子ビームの挿入または他の要素の導入を可能にするように一掃される。
【0039】
図2に示されるように、第1および第2の側表面3Lは好ましくは面取りされ、それぞれ第1および第2の上側側縁部に面取り部3ecを形成する。面取り部は、面取り部のない2つの表面によって形成されたであろう縁部を切除することによって得られた2つの表面間の中間表面として画定される。面取り部は、2つの表面間の縁部に形成された角度を低減する。面取り部は、応力集中を低減するために構造において使用されることが多い。サイクロトロンにおいて、しかしながら、山セクタの上表面のレベルにおける面取りされた側表面は、粒子ビームが山ギャップ部分7hに到達するとき、粒子ビームの収束を向上させる。山セクタの周囲表面3Pも同じく上側周囲縁部に面取りを形成可能であり、これにより周囲縁部の近くの磁場の均一性が改善される。
【0040】
本発明によるサイクロトロンは、N=3〜8の山セクタ3を好ましくは含む。より好ましくは、いくつかの図に示されるように、N=4である。偶数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲に2nの対称性で分散され、ここでn=1〜N/2である。好ましくは、n=N/2であり、その結果、N個の山セクタの全てが互いに同一であり、N個の谷セクタの全てが互いに同一である。奇数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲にNの対称性で分散される。好ましい実施形態において、全てのN=3〜8の場合、N個の山セクタ3は中心軸の周囲に均一に(すなわちNの対称性で)分散される。第1および第2の磁極2は、それらの各上表面3Uが互いに向き合う状態で、および同軸である第1および第2の磁極2の各中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に向き合う状態で配置される。
【0041】
山セクタの形状は、(しばしば上で考察されるように先端のない)一切れのタルトのようにくさび形であることが多く、その第1および第2の側表面3Lは周囲表面から中心軸Zに向かって(通常それに到達することなく)収束する。山方位角αhは、収束角度に一致し、それは中心軸Zにおけるまたはそれに隣接する側表面の(推定される)上側側縁部の交差地点のレベルで測定される。山方位角αhは、好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。
【0042】
中心軸Zのレベルで測定される谷方位角αvは好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。谷方位角αvは山方位角αhに等しい場合がある。Nの対称性の程度の場合、αv=360°/N−αhであり、例えば、N=4の場合、αvはαhの相補角であり、αv=90°−αhである。
【0043】
中心軸と周囲縁部との間の最大距離Lhは、好ましくは200〜2000mm、より好ましくは400〜1000mm、最も好ましくは500〜800mmに含まれる。例えば、18MeV陽子サイクロトロンにおいて、最長距離Lhは通常750mm未満であり、500〜750mm、典型的には520〜550mmのオーダーであることができる。上側周囲縁部は、第1および第2の上側周囲端部間で測定される方位角長さAhを有し、およそAh=Lh×αh[rad]であり得る。
【0044】
2つの磁極2および各磁極の周囲に巻かれたソレノイド巻きコイル14は、(電)磁石を形成し、(電)磁石は、磁極間のギャップ7内に磁場を生成し、磁場は、サイクロトロンの(中心軸Zの周囲の)中心領域を起点とする
図3に示される螺旋経路12に沿って荷電粒子のビーム(=粒子ビーム)を、それが例えば18MeVの目標エネルギーに到達するまで案内かつ収束し、その結果としてビームは取り出される。上で考察されたように、磁極は、中心軸Zの周囲に分散される交互に存在する山セクタおよび谷セクタに分割される。その結果、強い磁場が、山セクタ内の平均高さGhの山ギャップ部分7h内に生成され、より弱い磁場が、谷セクタ内の>Ghである平均高さGvの谷ギャップ部分7v内に生成され、その結果、粒子ビームの垂直収束がもたらされる。
【0045】
粒子ビームはサイクロトロン内に導入されると、ディー(図示せず)と称される高電圧電極間に、および磁場がより弱い、谷セクタ内に配置された、磁極の側縁部に取り付けられたグラウンド電圧電極間に生成された電界によって加速される。加速粒子は山ギャップ部分7hに進入するたびに、前の山セクタ内で有していた速度よりも速い速度を有する。山セクタ内に存在する高い磁場は加速粒子の軌道を逸らし、それにより、それが前の山セクタ内で辿るよりも大きい半径の本質的に円形の経路を辿るようにする。粒子ビームがその目標エネルギーまで加速されると、粒子ビームは
図3に示されるように取出し地点PEと称される地点でサイクロトロンから取り出される。例えば、高エネルギー陽子H
+は、加速されたH
−イオンのビームを、グラファイトの薄いフォイルシートから構成された抜取機に押し通すことによって取り出すことができる。抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽のH
+になる。粒子荷電のサインを変えることによって磁場内のその経路の曲率はサインを変え、そのように粒子ビームはサイクロトロンの外へ目標(図示せず)に向かって出される。他の取出しシステムが当業者に知られており、使用される取出しシステムの種類および詳細は本発明に必須ではない。通常、取出し地点は、山ギャップ部分7hに配置される。サイクロトロンは、同一の山部分にいくつかの取出し地点を含むことができる。サイクロトロンの対称要件により、2つ以上の山セクタが取出し地点を含む。Nの対称性の程度の場合、N個全ての山セクタが同じ数の取出し地点を含む。取出し地点は個々に(一度に1つのみ)または同時に(一度に数個)使用可能である。
【0046】
グラディエントコレクタ
図4(a)および
図4(b)は、N=4の山セクタと、底表面を含むN=4の谷セクタとを含むサイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示し、前記山セクタおよび谷セクタは、N=4の対称性で中心軸Zの周囲に交互に分配される。本発明によるサイクロトロンのそのような山セクタは、上に定義されるような第1および第2の側表面3Lと、周囲表面3Pと、上表面3Uとを含む。少なくとも1つの山セクタの上表面の上側周囲縁部3upは、対応する山セクタの周囲表面の一部に部分的に延在する窪みを画定する中心軸に対する凹状の部分に隣接する凸状部分を含む。好ましくは、少なくとも1つの山セクタの上表面の上側周囲縁部3upは、凹状部分によって分離される2つの凸状部分を含む。
【0047】
上で考察した、偶数値Nの場合の2nおよび奇数値Nの場合のNの対称要件のため、同じ対称性が、様々な山セクタの上側周囲縁部の中心軸に対する凹状の部分の有無に適用される。従って、各山セクタの上側周囲縁部は、好ましくは、2つの凸状部分間に、対応する山セクタの周囲表面に部分的に延在する窪み10を画定する中心軸に対する凹状部分3upcを含む。
【0048】
用語「凹状」は、内側に湾曲することまたは内側に窪むことを意味する。縁部の中心軸に対する凹状の部分は、中心軸に向かって湾曲する縁部の部分である。この用語は、用語「凸状」の反対であり、「凸状」は中心軸の外へ湾曲することまたは中心軸から外方へ延在することを意味する。
【0049】
窪みの位置は、第1および第2の側縁部から分離されるか、または第1および第2の側縁部に隣接するかの何れかであり得る。好ましくは、山セクタは、側縁部から分離された少なくとも1つの窪みを含む。
【0050】
先行技術のサイクロトロンでは、突出するグラディエントコレクタが使用された。突出するグラディエントコレクタは、以下のようないくつかの欠点を有する。
・真空チャンバの体積の増大、
・ヨークおよびサイクロトロン全体の体積の増大、
・サイクロトロンの重量の増大、
・手動で実行する必要のあるグラディエントコレクタの正確な位置付けの難しさ、
・磁場の外方への偏向。
【0051】
突出するグラディエントコレクタの代わりに窪んだグラディエントコレクタを使用することには、いくつかの利点がある。第1に、これにより、磁極を受け入れる真空チャンバのサイズの低減が可能になり、これにより、真空チャンバから気体を排出するために必要とされるエネルギーの低減と、気体排出時間の短縮とがもたらされる。第2に、サイクロトロンの全体重量が低減され、なぜなら、一方で、山セクタの重量が増大される代わりにわずかに低減されるからであり、他方で、磁束反転ヨークの内側表面の直径全体が低減されるからである。第3に、粒子ビームが山セクタの周囲縁部と交差する角度の最適化を可能にする数値的に制御される機械加工により、窪みの位置を正確に形成かつ位置付けすることができる。第4に、突出するグラディエントコレクタが磁場を外側に偏向するとき、磁場は窪んだグラディエントコレクタによって内側に偏向され、その結果、粒子経路の最終サイクルが山セクタの周囲縁部からさらに内側へシフトされ、そこで磁場は周囲縁部の近くよりも均一である。
図5は、窪んだグラディエントコレクタによって偏向された磁場の線の例(
図5(a))、およびグラディエントコレクタが一切ない磁場の線の例(
図5(b))を示す。従って、取り出される粒子ビームの特性を制御すること、特にその収束を制御することはより簡単であり、より予測可能である。加速領域に向かうこの偏向はまた、コイルに供給される電力を低減することを可能にする。
【0052】
好ましくは、上側周囲縁部3upは、第1および第2の窪み遠位地点10rdpを含み、それらは窪みの境界を定め、および上側周囲縁部の接線がサインを変えるか、または不連続性を示す地点として画定される。第1および第2の窪み遠位地点は、距離L10によって互いに分離される。窪みはまた、中心軸Zの最も近くに位置する窪みの地点として画定される窪み近位地点10rppを含む。第1および第2の窪み遠位地点10rdpは、第1および第2の窪み集束縁部10rcによって窪み近位地点10rppとつながる。
【0053】
窪み深さH10は、第1および第2の窪み遠位地点10rdpと窪み近位地点10rppとによって形成されかつ窪み近位地点10rppを通過する三角形の高さとして画定される。窪みの深さH10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの3%〜30%、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜15%に含まれる。好ましくは、中心軸と山セクタの周囲縁部との間の最大距離Lhに対する窪み深さH10の比率H10/Lhは、2%〜20%、好ましくは4%〜15%、最も好ましくは6%〜10%に含まれる。
【0054】
上側周囲縁部3upは、第1および第2の上側遠位端3udeの間で測定される方位角長さAhを有する。第1の窪み遠位地点を窪み近位地点につなぐ第1の窪み集束縁部10r1は長さL101を有し、第2の窪み遠位地点を窪み近位地点につなぐ第2の窪み集束縁部10r2は長さL102を有する。第1および第2の窪み集束縁部の長さL101およびL102は、上側周囲縁部の方位角長さAhの5〜30%に含まれる。好ましくは、長さL101は、長さL102の±40%に等しい(L101=L102±40%)。
【0055】
好ましくは、第1および第2の窪み遠位地点間の距離L10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの5%〜50%、より好ましくは10%〜30%、最も好ましくは15%〜20%の範囲である。
【0056】
好ましくは、窪みはまた、上側周囲縁部3upから下側周囲線3lpに向かって周囲表面3Pの一部にわたって延在する。その結果、窪みは上側周囲縁部と下側周囲線との間で中心軸と平行に測定される周囲表面の高さの画分ζにわたって周囲表面にわたり延在する。画分ζは好ましくは25%〜100%、好ましくは40%〜75%、最も好ましくは45%〜55%に含まれる。
【0057】
図6に示されるように、上側周囲縁部の凹状部分は、以下の形状:(a)長方形、(b)台形、(c)直線状の縁部または(内側または外側に)湾曲した縁部を有する三角形(d)円弧、(e)2つの円弧、(f)放物線、(g)正方形、(h)平行四辺形、(i)多角形、(j)滑らかな曲線の何れかを第1および第2の窪み遠位地点の間で開口させることができる。基本的に、数値解析によって決定された任意の形状を実装することができる。例えば、台形の場合、小さい底辺が窪み近位地点10rppを含むことができ、大きい底辺は第1および第2の窪み遠位地点10rdpによって画定することができる。あるいは、小さい底辺は、第1および第2の窪み遠位地点10rdpによって画定可能であり、大きい底辺は、窪み近位地点10rppを含むことができる。三角形は、不等辺三角形、二等辺三角形または正三角形であることができる。それはまた、直角が窪み近位地点10rppに形成されている直角三角形であることもできる。2つ(またはそれを超える)の円弧の場合、それらは内側に((e)右)、または外側に((e)左)曲がることができる。凹状部分は、その1つの縁部が粒子ビームの取出し経路と80〜100°、好ましくは85〜95°、実質的に90°で交差するように設計されると好ましい。
【0058】
好ましくは、窪み10は、中心軸と平行に周囲表面の一部にわたって延在する。あるいは、それは、中心軸Zと角度をなして上表面から下方へ延在し得る。距離L10および/または高さH10は、互いに独立してまたは同時に、周囲表面の高さに沿って増大または低減し得る。中心軸Zに対して垂直な窪みの断面の面積は、従って、上表面からの距離とともに低減または増大し得る。より複雑な実施形態において、窪みの形状および断面の面積は、周囲表面にわたって変化し得る。同じく窪みの高さは、周囲表面にわたって変化し得る。
図7は窪みの形状のいくつかの例を示す。例えば、窪みは、(a)中心軸と平行に上表面から延在するプリズム、(b)中心軸Zに対して垂直に周囲表面から延在するプリズム、(c)角錐(の一部)または周囲表面にわたって延在するより複雑な体積の形状を有し得る。
【0059】
好ましくは、窪みは、概ねくさび形であり、第1および第2の窪み集束縁部は直線の(またはわずかに内側または外側に湾曲した)線である。くさびの先端は窪み近位地点に一致し、中心軸の全体方向を指す。くさびの先端の集束角度θは、好ましくは、70°〜130°、より好ましくは80°〜110°、最も好ましくは90°±5°に含まれる。本明細書で使用される表現「内側」および「外側」は、それぞれ、中心軸「の方」または「から離れる方」として理解される。
【0060】
より一般的には、くさび形窪みの集束部分は、以下の形状:
・上で考察したくさび状に成形される窪みに対応する、三角形の窪みを形成する鋭角コーナー部分、
・台形状に窪んだくさびを形成する直線縁部、または
・アーチ状の窪みを形成する丸みを帯びた縁部
の1つを有し得る。
【0061】
本発明はまた、上で定義したような磁極を含むサイクロトロンに関する。上に記載したように、サイクロトロンは、第1の取出し地点まで所与の経路にわたり粒子ビームを加速し、そのため、粒子ビームは所与のエネルギーでサイクロトロンから排出される。サイクロトロンの第1および第2の磁極の山の対の間の山ギャップ部分は、平均高さGhを有する。好ましくは、山ギャップ部分の高さGhに対する第1および第2の窪み遠位地点10rdp間の距離L10の比率は、1〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜5に含まれる。例えば、高さGh=20〜40mmの山ギャップの場合、距離L10は10〜100mmのオーダーであり得、これは、1〜5、好ましくは3〜3.5に含まれ得る比率L10/Gh、すなわちGh/L10≦1をもたらす。
【0062】
好ましくは、取出し地点は、対向する山セクタの対の周囲縁部に隣接する山ギャップ部分内に配置される。窪みは、前記第1の取出し地点から下流に配置される。ここで、下流は、粒子ビームの方向に関連して定義される。窪み10は、粒子ビームが第1の集束窪み縁部10r1と90°±15°の角度で交差するように、取出し地点に対しておよび取出し経路に対して正確に機械加工される。粒子ビームは、その結果、磁場に対して実質的に垂直に山ギャップ部分から離れ、これは、取り出される粒子ビームの収束を改善する。窪みの位置および形状は、数値的な計算および/または試験によって決定される。
【0063】
図8に示されるように、サイクロトロンは、第1の取出し地点PE1の下流におよび対向する山セクタの同じ対の同じ山ギャップ部分内に配置された第2の取出し地点PE2をさらに含み得る。粒子ビームは、前記第1の取出し地点と同じエネルギーで前記第2の取出し地点でサイクロトロンから排出され得る。この場合、2つの取出し地点を含む山セクタは、2つの窪みを同じく含み、そのそれぞれは対応する取出し地点の下流に配置される。
【0064】
図9は、本発明によるサイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示す。この実施形態において、上側周囲縁部3upは、第1および第2の上側遠位端によって境界を定められ、および山セクタの上側周囲縁部は円弧3acを含み、その中心は中心軸に対してオフセットされ、その半径Rhは、中心軸から、第1および第2の上側遠位端まで等距離である上側周囲縁部の中間地点までの距離Lhの85%以下である(Rh/Lh≦85%)。
【0065】
好ましくは、距離Lhに対する半径Rhの比率Rh/Lhは、75%以下(Rh/Lh≦75%)、より好ましくは65%以下(Rh/Lh≦65%)である。
【0066】
円弧であって、その中心が中心軸に対してオフセットされる円弧を含む上側周囲縁部を有する目的は、上側周囲縁部の少なくとも一部を、サイクロトロンの山ギャップ部分7h内の螺旋経路12の最大エネルギー(=最終)の軌道に相似的に近づけることである。「軌道に相似的に近づける」は、上側周囲縁部の円弧部分および取出し地点に隣接する粒子の最終軌道の両方が、異なる半径で同じ中心を共有する円の弧であることを意味する。従って、この円弧は、取出し地点に直接隣接し、かつ、その上流の前記最終軌道の一部とほぼ平行である。取り出される軌道の経路の長さおよび軌道と上側周囲縁部との間の角度は、取出しシステム(例えば抜取機)の方位角位置と無関係になる。結果として、取り出されるビームの特性は、取出し地点の位置と(ほぼ)無関係である。
【0067】
好ましくは、円弧は、上側周囲縁部の第1の上側遠位端から第2の上側遠位端まで延在し、その結果、山セクタの全周囲縁部を画定し、および円弧の中心は、上表面の二等分線上に横たわり、前記二等分線は中心軸を上側周囲縁部の中間地点につなぐ直線として画定される。
【0068】
好ましくは、周囲表面は、上側周囲縁部に隣接する面取り部を形成する。
【0069】
上に記載したように、サイクロトロンは粒子ビームを所与の経路にわたって第1の取出し地点まで加速し、そのため、粒子ビームを所与のエネルギーでサイクロトロンから排出することができる。有利には、山セクタは2つ以上、例えば2つの取出し地点を含み得る。2つの磁極の中間面MPに関連する2つの対向する山セクタの上側周囲縁部の円弧部分は、第1の取出し地点のすぐ上流の所与の経路の一部と平行でありかつそれを相似的に再現する。円弧は、周囲縁部全体にわたって所与の経路の一部と同じ中心を共有し、所与の経路の一部と平行である。用語「上流」および「下流」は、粒子ビームの方向に関連して定義される。
【0070】
粒子ビームがその目標エネルギーに到達すると、粒子ビームは取出し地点で取り出され、次いで、取出し地点の下流の取出し経路を辿る。この取出し経路の一部は第1および第2の磁極の間に横たわり、従って山ギャップ部分内に依然として含まれ、磁場にさらされる。対向する山セクタの対が第1および第2の取出し地点を含む場合、粒子ビームを第1もしくは第2の取出し地点で、またはその両方で取り出すことができる。粒子ビームは、次いで第1または第2の取出し地点の下流の第1または第2の取出し経路を辿る。本実施形態による上側周囲縁部の少なくとも一部の円形の形状により、第1の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL1と、第2の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL2とは実質的に等しい。
【0071】
第1および第2の取出し地点の下流の取出し経路の同じ長さを有する主な利点は、1つの取出し地点から取り出される粒子ビームが第2の取出し地点から取り出されるものと同様の光学特性を有することを保証することである。
【0072】
図10は、サイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示し、ここで、少なくとも1つの山セクタの上表面は、
− 上側周囲縁部および上側中心縁部と交差する長手方向軸8rlに沿って窪み近位端8rpeと窪み遠位端8rdeとの間の長さL8にわたって延在する窪み8であって、その長さL8の少なくとも80%にわたって第1および第2の上側側縁部から離される、窪み8、および
− 前記窪みに適合し、および前記窪み内に位置付けられ、前記窪みに可逆的に結合される極インサート9
をさらに含む。
【0073】
用語「適合する」は、極インサートが、窪みに正確に挿入かつ組み込み可能な全体形状を有することを意味する。
【0074】
極インサートを含む先行技術のサイクロトロンにおいて、極インサートは、山セクタの上表面の側縁部から機械加工された窪み内に位置付けられた。そのような極インサートへのアクセスは、しかしながら、上側側縁部領域と重なるRF加速システムの一部によって困難となる。そのような極インサートへアクセスするには、RFシステムの重なっている部分を最初に取り外さなければならない。極インサートを上表面に位置付けることによって、取外し、機械加工および窪みへの再挿入のために極インサートに簡単にかつ直接アクセスすることができる。本実施形態を用いると、予測される磁場および粒子経路をもたらす最適なインサートトポグラフィに到達することは、これまでよりもかなり簡単でありかつ効果的である。
【0075】
好ましくは、全ての極インサートは同じ形状を有し、同じ材料から作製される。好ましくは、極インサートは、対応する山セクタと同じ材料から作製される。
【0076】
好ましくは、窪みは中心軸と交差する長手方向軸に沿って延在し、両端部に開放端部を有し、上側中心縁部から上側周囲縁部までの全てにわたり延在する。さらに好ましい実施形態では、長手方向軸は第1および第2の上側遠位端から等距離に配置された地点で上側周囲縁部と交差し、ここで、第1および第2の上側遠位端は、好ましくは長手軸に対して対称である。例えば、中心縁部に隣接する近位部分9pを除き、極インサートは、
図10(b)に示されるように、概ね平行六面体の形状を有する。
【0077】
図10(a)の実施形態では、窪みは上側周囲縁部まで延在し、開放端部を有し、極インサートの遠位端9dcは上側周囲縁部の一部を形成する。極インサートによって形成される上側周囲縁部の部分は、上側周囲縁部の長さAhの好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。好ましくは、この遠位端は周囲表面に面取り部を形成する。
【0078】
極インサートは窪みに組み込まれ、対応する山セクタに可逆的に結合される。例えば、極インサートは、ねじを用いて山セクタに結合可能である。
【0079】
上で考察したように、極インサートは好ましくは、長さL9pの集束近位部分9pを除いて、その長さL9の少なくとも80%にわたって長手方向軸に沿ってプリズム状の形状を有する。山上表面3Uと山側表面との間の隆起部は面取りされ、次いで、窪みの近位部分の対応する隆起部も面取りされ得る。
【0080】
極インサート上表面9Uおよび/または第1および第2の側表面9Lの、
図10に示されるトポグラフィを機械加工して、上表面または側表面の長手方向軸を横切るか、またはそれと平行な溝9gu、9glを形成することができる。溝は直線、曲線または破線に沿って延在し得る。あるいは、穴9hu、9hlを表面にあけることができる。穴は止まり穴(すなわち有限深さの穴)であり得、または通し穴であり得る。上で説明したように各山セクタは、対称性のために極インサートを含み、極インサートは従って個々に機械加工されるか、または横並びに整列されて全て一緒に機械加工される。機械加工された極インサートの結果として得られる態様は、機械加工前のその態様とかなり異なる場合がある。
【0081】
まとめると、本発明は、真空チャンバのサイズの低減、およびサイクロトロンの全体重量の低減を可能にするという利点を提供する。第3に、窪みの位置を正確に形成かつ位置付け可能である。第4に、磁場は、窪んだグラディエントコレクタによって内側に偏向され、その結果、粒子経路の最終サイクルが内側へシフトし、そこで磁場は周囲縁部の近くよりも均一である。その結果、取り出される粒子ビームの特性、特にその収束を制御することがより簡単であり、かつより予測可能である。