特許第6446123号(P6446123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6446123表面保護フィルム及び表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446123
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】表面保護フィルム及び表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20181217BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20181217BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20181217BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20181217BHJP
   C08F 297/08 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
   B32B27/32 103
   C08L53/00
   C08L23/08
   C08F297/08
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-510041(P2017-510041)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060186
(87)【国際公開番号】WO2016158982
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73209(P2015-73209)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】木村 篤太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾留川 淳
(72)【発明者】
【氏名】津乗 良一
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第97/45463(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/030594(WO,A1)
【文献】 特開2004−175933(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/032793(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/077945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
B32B 1/00−43/00
C08F 251/00−283/00
C08F 283/02−289/00
C08F 291/00−297/08
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A1)〜(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75〜97重量%と下記要件(B1)〜(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3〜25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)を含むプロピレン共重合体組成物からなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルム。
(A1)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。
(A3)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5〜2.5dl/gである。
(A4)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]solが3.0〜5.5dl/gである。
(A5)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35〜50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3〜1.0g/10分である。
(B2)JIS K6922で測定した密度が860〜900kg/m3である。
【請求項2】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n-デカンに不溶な成分量が70〜90重量%であり、室温n−デカンに可溶な成分量が10〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
表面層の片面に粘着層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
下記要件(A1)〜(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75〜97重量%と下記要件(B1)〜(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3〜25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)とからなることを特徴とする表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物。
(A1)室温n−デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n−デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。
(A3)室温n−デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5〜2.5dl/gである。
(A4)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]solが3.0〜5.5dl/gである。
(A5)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35〜50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3〜1.0g/10分である。
(B2)JIS K6922で測定した密度が860〜900kg/m3である。
【請求項5】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な成分量が70〜90重量%であり、室温n−デカンに可溶な成分量が10〜30重量%であることを特徴とする請求項4に記載の表面保護フィルム用プロピレン系重合体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護フィルム及び表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物に関する。詳しくは、表面保護フィルムの表面層に好適なプロピレン共重合体組成物及び該組成物からなる表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムは、通常、表面層の片面に粘着層を有する積層フィルムであり、粘着層を被着体に貼り付けて使用する。表面保護フィルムには、建材用途、光学部材用途などの用途がある。例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに内蔵される種々の光学フィルム(例えば、拡散フィルム、偏光フィルム、位相差フィルムなど)に、表面保護フィルムを貼り付けて保存することがある。また、透明な表面保護フィルムであれば、ディスプレイの表示面に貼り付けることもある。
【0003】
一般的に、積層フィルムは、共押出し成形するか、または表面層となるフィルムの片面に粘着層を塗布形成することによって作製される。共押出し成形によれば、一般的に低コストで積層フィルムを作製することができる。共押出し成形により作製された積層フィルムは、通常、ロール状に巻き取られて保存され、フィルム使用時に、フィルムを巻き取ったロールからフィルムを繰り出して使用される。
【0004】
ところが、粘着層と表面層とを有する表面保護フィルムをロール状に巻き取ると、フィルムの表面層と粘着層とが固着して、いわゆるブロッキングが生じることがある。ブロッキングが生じると、ロールからフィルムを繰り出すことができなくなったり、繰り出したフィルムの性能が劣化したりする。そのため、通常は粘着層に離型フィルムを重ねた状態で、表面保護フィルムをロール状に巻き取っている。しかしながら、離型フィルムを重ねた表面保護フィルムのロールは、被着体へ表面保護フィルムを貼付する際に、剥離した離型フィルムが大量の廃棄物になるという問題がある。
【0005】
これを解決するために、表面保護フィルムの表面層に剥離性を付与することによって、粘着層に離型フィルムを重ねることなくロール状に巻き取っても、ブロッキングを生じない表面保護フィルムが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、光学部材等の被着体に表面保護フィルムを使用した場合、表面保護フィルムにフィッシュアイが存在したり、表面保護フィルムを剥がした際に被着体表面に糊残りがあると、被着体である光学部材に欠陥を生じることがあり、糊残りやフィッシュアイの少ない表面保護フィルムが所望されている。
【0007】
特許文献2には、ポリエチレン成分を主体とした表面保護フィルムが開示されている。しかしながら、同公報による方法では、一部用途部材に対しては適用可能であるが、粘着力が低く、また透明性も不充分で、被着体の用途には限りがある。
【0008】
特許文献3には、メタロセン触媒系によって得られる特定のプロピレン系ランダムブロック共重合体からなる表面保護フィルムが提案されている。
【0009】
特許文献4には、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)と特定のエチレン系エラストマー(B)を含むプロピレン共重合体組成物よりなるフィルムを表面層として有する表面保護フィルム、および該表面保護フィルムの製造に好適な前記プロピレン共重合体組成物によって、フィッシュアイが少ないことで被着体へのダメージが少なく、十分な透明性を有し、表面保護フィルムとしての機能性に優れ、かつ、離型フィルムを用いずにロール状に巻き取って保管した場合にも耐ブロッキング性に優れ、巻き取りフィルムの使用時の引き出し性に優れた表面層を有する表面保護フィルムが提案されている。
【0010】
近年、ディスプレイ画面の大型化、高性能化が進んでおり、表面保護フィルムに存在するフィッシュアイが被着体に転写し欠点とならない様、表面保護フィルムの低フィッシュアイ化の要求がますます高まっている。又、被着体の大型化に加えコストダウンの要求から表面保護フィルムの薄膜化も進み、巻取りフィルムの使用時の引き出し性に優れた表面層を有する表面保護フィルムに対する要望も高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−81709号公報
【特許文献2】特開2006−116769号公報
【特許文献3】特開2009−83110号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2014/030594パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、フィッシュアイが少なく、かつ巻取フィルムの引き出し性(繰り出し性、耐ブロッキング性)に優れる表面保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願人らは、分子量分布が広く、特に高分子量成分が存在するポリプロピレン系樹脂組成物を用いることによりフィッシュアイが大幅に低減することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明は、下記要件(A1)〜(A5)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):75〜97重量%と下記要件(B1)〜(B2)を満たすエチレン系エラストマー(B):3〜25重量%(ただし、(A)+(B)=100重量%)を含むプロピレン共重合体組成物からなるフィルムを表面層として有することを特徴とする表面保護フィルムに係る。
(A1)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が5.0以上である。
(A2)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)のGPCによるZ平均分子量Mzと重量平均分子量の比(Mz/Mw)が3.5以上である。
(A3)室温n-デカンに不溶な成分(Dinsol)の135℃デカリン中の極限粘度[η]insolが1.5〜2.5dl/gである。
(A4)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)の135℃デカリン中の極粘度[η]solが3.0〜5.5dl/gである。
(A5)室温n−デカンに可溶な成分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が35〜50重量%である。
(B1)ASTM D1238の方法により190℃における2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が0.3〜1.0g/10分である。
(B2)JIS K6922で測定した密度が860〜900kg/m3である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面保護フィルムは、フィッシュアイが少ないことで被着体へのダメージが少なく、表面保護フィルムとしての機能性に優れ、かつ、離型フィルムを用いずにロール状に巻き取って保管した場合にも耐ブロッキング性に優れ、巻き取りフィルムの使用時の引き出し性に優れる表面保護フィルムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
<プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)>
本発明の表面保護用プロピレン共重合体組成物に含まれる成分の一つであるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)および室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)から形成される。
【0018】
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、下記要件(A1)〜(A5)を満たす限りにおいて、その製造時に用いる重合触媒や重合条件は特に限定されない。また、本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、一種単独で使
用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
【0019】
(A1)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカン不溶部(Dinsol)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値から求められる重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mnが5.0以上、好ましくは5.0〜12.0の範囲、より好ましくは7.0〜10.0の範囲にある。Mw/Mnは分子量分布の指標であるが、この値が小さいと分子量分布が狭いとされる。分子量分布が上位範囲よりも小さいと、フィルムにフィッシュアイが生成する原因となる場合がある。分子量分布を広げるためには、多段重合を行なうことができる。
【0020】
(A2)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカン不溶部(Dinsol)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値から求められるZ平均分子量(Mz)および重量平均分子量(Mw)の比であるMz/Mwが3.5以上、好ましくは3.5〜6.0の範囲、より好ましくは4.0〜5.0の範囲にある。Mz/Mwは、Mw/Mnで表される分子量分布から外れる高分子成分が存在する場合に数値が大きくなるとされている。この数値が大きくなるとフィッシュアイが増加する場合がある。重合方法によりこの値を上げることは時に困難であり、本願では後述の触媒を用いてこの数値のものを得ることができる。
【0021】
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、上記のように、室温n−デカン不溶部(Dinsol)のMz/Mwが3.5以上と大きく、高分子量成分が多いのにもかかわらず、かかるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)と後述の本発明に係るエチレン系エラストマー(B)と組み合わせることにより、フィッシュアイが少ない(減少する)表面保護フィルムが得られることを見出したことにある。
【0022】
(A3)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]insolが1.5〜2.5dl/gの範囲にある。極限粘度[η]insolの下限は好ましくは1.7dl/g、より好ましくは1.9dl/g、極限粘度[η]insolの上限は好ましくは2.4dl/g、より好ましくは2.3dl/gである。
【0023】
極限粘度[η]insolが上記範囲を外れるプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた場合は得られる表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物のフィルム成形性に劣る傾向となる。また、この範囲を下回るプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた場合は得られるフィルムのフィッシュアイが増加する場合があり、この範囲を上回るプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた場合は得られるフィルムの表面粗度が低下する場合がある。
【0024】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を上記要件(1)を満たす範囲内にコントロールする方法としては、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製法の項で後述するように、第一重合工程でホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体を主成分とする室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)を重合し、第二重合工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体エラストマーを主成分とする室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)を重合する場合、第一重合工程の水素フィード量を制御することなどで、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]insolを上記範囲内にコントロールすることができる。
【0025】
(A4)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]solが3.0〜5.5dl/gの範囲にある。極限粘度[η]solの下限は好ましくは3.2dl/g、より好ましくは3.5dl/g、極限粘度[η]solの上限は好ましくは5.2dl/g、より好ましくは5.0dl/gである。
【0026】
上記下限値以上であれば得られる表面保護フィルムの耐ブロッキング性に優れ、上限値以下であれば得られる表面保護フィルムのフィッシュアイの発生が十分に抑制される。
【0027】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を上記要件(A4)を満たす範囲内にコントロールする方法としては、後述するように、第一重合工程でホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体を主成分とする室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)を重合し、第二重合工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体エラストマーを主成分とする室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)を重合する場合、第二重合工程の水素フィード量を制御することなどで、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]solを上記範囲内にコントロールすることができる。
【0028】
(A5)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量が、35〜50重量%の範囲にある。室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量の下限は好ましくは37重量%、より好ましくは40重量%である。
【0029】
室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が、上記下限値以上であれば耐ブロッキング性に優れる表面保護フィルムが得られ、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)のエチレンに由来する骨格の含有量が、上限値以下であればフィッシュアイが少ない表面保護フィルムが得られる。
【0030】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を、上記要件(A5)を満たす範囲内にコントロールする方法としては、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の重合方法の項で後述するように、第一重合工程でホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体を主成分とする室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)を重合し、第二重合工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体エラストマーを主成分とする室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)を重合する場合、第二重合工程のエチレンフィード量を制御することなどで、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量を上記範囲内にコントロールすることができる。
【0031】
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、上記要件(A1)〜(A5)に加え、さらに、下記要件(A6)および(A7)を満たすことが好ましい。
【0032】
(A6)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の重量分率が5〜40重量%の範囲にある。室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の量の下限は、より好ましくは10重量%、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の量の上限はより好ましくは30重量%である。
【0033】
室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の量が、上記下限値以上であれば、得られる表面保護フィルムは十分な表面粗度が得られ、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の量が上限値以下であれば得られる表面保護フィルムは剛性、耐ブロッキング性に優れたものとなる。
【0034】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を上記要件(A6)を満たす範囲内にコントロールする方法としては、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製法の項で後述するように、第一重合工程でホモポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体を主成分とする室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)を重合し、第二重合工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体エラストマーを主成分とする室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)を重合する場合、第一重合工程と第二重合工程の重合量比を制御することで、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)と可溶な部分(Dsol)の質量分率を上記範囲内にコントロールすることができる。
【0035】
(A7)プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量が、0〜10重量%の範囲にある。より好ましくは0〜8重量%の範囲にある。
【0036】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を、上記要件(A7)を満たす範囲にコントロールする方法としては、用いる固体触媒や電子供与性化合物の種類を調整することなどで、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量を上記範囲内にコントロールすることができる。
【0037】
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、例えば、次のような方法で製造することができる。
【0038】
<プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製造方法>
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、前述の通り製造時に用いる重合触媒や重合条件は特に限定されないが、好適には公知のチーグラー触媒またはメタロセン触媒の存在下に、第一重合工程([工程1])でホモポリプロピレン、またはプロピレンと少量のエチレンとからなるプロピレン・エチレンランダム共重合体を製造後、第二重合工程([工程2])でプロピレンと第一工程よりも多量のエチレンとを共重合してプロピレン・エチレン共重合体エラストマーを製造して得られる。
【0039】
《重合触媒》
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、固体状チタン触媒成分(I)と、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物(II)と、必要に応じて電子供与体(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下に重合して得られたものであることが好ましい。
【0040】
具体的には、国際公開2010/032793号パンフレットに記載されたものを例示することができる。
【0041】
前記固体状チタン触媒成分(I)は、チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)を含む。
【0042】
これらのうち、本技術に用いるプロピレン系ブロック共重合体の広分子量分布化に寄与していると考えられる環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)について、以下に具体的に用いられる好適な化合物を列記する。なお、チタン、マグネシウム、ハロゲンの各成分については、上記公報を含め、公知の方法により得られる。
【0043】
〈環状エステル化合物(a)〉
本発明に係る環状エステル化合物(a)としては、具体的には、3,6-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、3,6-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ヘキシル、3,6-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-オクチル、3-メチル-6-エチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、3-メチル-6-エチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ヘキシル、3-メチル-6-エチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-オクチル、3-メチル-6-n-プロピルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、3-メチル-6-n-プロピルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ヘキシル、3-メチル-6-n-プロピルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-オクチル、3,6-ジエチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、3,6-ジエチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-ヘキシル、及び3,6-ジエチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジn-オクチルが好ましい例示として挙げられる。これらの化合物はDiels Alder反応を利用して製造できる。
【0044】
上記のようなジエステル構造を持つ環状エステル化合物(a)には、シス、トランス等の異性体が存在し、どの構造であっても本技術の目的に合致する効果を有するが、トランス体の含有率が高い方が、分子量分布を広げる効果だけでなく、活性や得られる重合体の立体規則性がより高い傾向があるため特に好ましい。シス体およびトランス体のうちのトランス体の割合は、好ましくは51%以上であることが好ましい。より好ましい下限値は55%であり、さらに好ましくは60%であり、特に好ましくは65%である。一方、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは85%であり、特に好ましくは79%である。
【0045】
〈環状エステル化合物(b)〉
本発明に係る環状エステル化合物(b)としては、具体的には、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジヘキシル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジへプチル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジオクチル、及びシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2-エチルヘキシルなどが好ましい例示として挙げられる。その理由は、触媒性能だけでなく、これらの化合物がDiels Alder反応を利用して比較的安価に製造できる点にある。
【0046】
本発明に係る環状エステル化合物(a)および(b)は、各々単独で用いてもよく各2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)の組合せモル比(環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))×100(モル%))は10モル%以上であることが好ましい。更に好ましくは、30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上、特により好ましくは50モル%である。好ましい上限値は99モル%、好ましくは90モル%。より好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0048】
本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)の調製には、上記の環状エステル化合物(a)および(b)の他、マグネシウム化合物およびチタン化合物が用いられる。また、本発明の目的を損なわない限り、後述する触媒成分(d)とを組み合わせて用いてもよい。本発明に係るマグネシウム化合物としては、特に塩化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0049】
〈チタン化合物〉
固体状チタン触媒成分(I)の調製に用いられるチタン化合物として具体的には、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタンが好ましく用いられる。
【0050】
上記のようなマグネシウム化合物およびチタン化合物としては、例えば特開平5-170843号公報、特開平3−7703号公報などに詳細に記載されている化合物も挙げることができる。
【0051】
固体状チタン触媒成分(I)の調製には、環状エステル化合物(a)および(b)を使用する他は、公知の方法を制限無く使用することができる。具体的には、例えば国際公開2010/032793号パンフレットに詳細に記載された方法を採用することができる。
【0052】
〈芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物〉
前記固体状チタン触媒成分(I)は、さらに、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「触媒成分(d)」ともいう。)を含んでいてもよい。固体状チタン触媒成分(I)が触媒成分(d)を含んでいると触媒活性を向上させたり、立体規則性を高めたり、分子量分布をより広げることができる場合がある。
【0053】
この触媒成分(d)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、たとえば特開平5−170843号公報や特開2001−354714号公報などに記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0054】
芳香族カルボン酸エステルとしては、芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n-ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、及びフタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0055】
また、前記ポリエーテル化合物の具体的な化合物としては、1,3−ジエーテル類が好ましく、特に、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、及び2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)1,3-ジメトキシプロパンが好ましい。
【0056】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜90であることが望ましく、環状エステル化合物(a)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(a)のモル数/チタン原子のモル数)および環状エステル化合物(b)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(b)のモル数/チタン原子のモル数)は、0.01〜100、好ましくは0.2〜10であることが望ましい。
【0058】
ここで、環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)の好ましい比率としては、100×環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))の値(モル%)の下限が5モル%、好ましくは25モル%、より好ましくは40モル%であり、特により好ましくは50モル%である。上限は99モル%、好ましくは90モル%、より好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0059】
マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子
のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜50であることが望ましい。
【0060】
また、前述した環状エステル化合物(a)および(b)以外に含まれても良い成分、例えば触媒成分(c)および触媒成分(d)の含有量は、好ましくは環状エステル化合物(a)および(b)100重量%に対して20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0061】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、環状エステル化合物(a)および(b)を使用する以外は、例えばEP585869A1(欧州特許出願公開第0585869号明細書)や特開平3−7703号公報等に記載の条件を好ましく用いることができる。
【0062】
〈有機金属化合物触媒成分(II)〉
有機金属化合物触媒成分(II)としては、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物が挙げられる。具体的には、第13族金属を含む化合物、例えば、有機アルミニウム化合物、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物などを用いることができる。これらの中でも有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0063】
有機金属化合物触媒成分(II)として具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物触媒成分を好ましい例として挙げることができる。
【0064】
〈電子供与体(III)〉
また、オレフィン重合用触媒は、上記の有機金属化合物触媒成分(II)と共に、必要に応じて電子供与体(III)を含んでいてもよい。電子供与体(III)として好ましくは、有機ケイ素化合物が挙げられる。この有機ケイ素化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、及びジシクロペンチルジメトキシシランが好ましく用いられる。
【0065】
また、国際公開第2004/016662号パンフレットに記載されているアルコキシシラン化合物も前記有機ケイ素化合物の好ましい例である。アルコキシシラン化合物の具体例としては、ジメチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジメチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリn−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、メチル−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、t−ブチルアミノトリエトキシシラン、エチル−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、エチル−iso−プロピルアミノトリエトキシシラン、及びメチルエチルアミノトリエトキシシランが挙げられる。
【0066】
また、前記有機ケイ素化合物の他の例としては、具体的には、(パーヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4−テトラヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、及びオクタメチレンイミノトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0067】
これらの有機ケイ素化合物は、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0068】
また、電子供与体(III)として他に有用な化合物としては、前記触媒成分(d)として定義した、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(ポリエーテル化合物)も好ましい例として挙げられる。
【0069】
なお、オレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にも必要に応じてオレフィン重合に有用な他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、シリカなどの担体、帯電防止剤等、粒子凝集剤、保存安定剤などが挙げられる。粒子凝集剤として、例えば塩化マグネシウムとエタノールを用いて粒子を生成する際、ソルビタンジステアレートなどが好ましい化合物として使用される。
【0070】
〈プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の重合方法〉
本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、二つ以上の反応装置を直列に連結した重合装置を用い、次の二つの工程([工程1]および[工程2])を連続的に実施することによって得ることが好ましい。
【0071】
[工程1]は、重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンを単独で重合させ、またはプロピレンとエチレンとを共重合させる。[工程1]では、プロピレンに対してエチレンのフィード量を少量とすることによって、[工程1]で製造されるポリプロピレンまたはプロピレン・エチレンランダム共重合体がプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)の主成分となるようにする。
【0072】
[工程2]は、重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンとエチレンとを共重合させる。[工程2]では、プロピレンに対するエチレンのフィード量を[工程1]のときよりも多くすることによって、[工程2]で製造されるプロピレン・エチレン共重合エラストマーがプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の主成分となるようにする。
【0073】
このようにすることにより、Dinsolに係る要件(A1)〜(A3)および(A7)は、[工程1]における重合条件の調整によって、Dsolに係る要件(A4)および(A5)は、[工程2]における重合条件の調整によって、満足させることが可能となる。また、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)とプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)との組成比に係る要件(A6)は、[工程1]と[工程2]とで製造する重合体の量比を調整することによって制御することができる。
【0074】
要件(A3)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]insolについては、[工程1]における水素などの分子量調節剤のフィード量などによって調節することが可能である。
【0075】
要件(A4)のDsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]solについては、[工程2]における水素などの分子量調節剤のフィード量などによって調節することが可能である。
【0076】
要件(A7)のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量については、[工程2]におけるエチレンのフィード量などによって調節することが可能である。
【0077】
要件(A6)のエチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)lとプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)との組成比、およびプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレートは、[工程1]と[工程2]とで製造する重合体の量比を調整することによって、適切に調節することが可能である。
【0078】
要件(A5)のエチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量については、用いる固体触媒や電子供与性化合物の種類を調整することによっても調整が可能である。また、[工程1]におけるエチレンのフィード量などによって調整することも可能である。
【0079】
また、本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、前記方法の[工程1]で製造されるプロピレン・エチレンランダム共重合体と、前記方法の[工程2]で製造されるプロピレン・エチレンランダム共重合体エラストマーを、重合触媒の存在下で個別に製造した後に、これら物理的手段を用いてブレンドして製造しても良い。
【0080】
<エチレン系エラストマー(B)>
本発明の表面保護用プロピレン共重合体組成物に含まれる成分の一つであるエチレン系エラストマー(B)は、下記要件(B1)〜(B2)を満たす、エチレンと炭素数が3〜20のα-オレフィンとのランダム共重合体である。
【0081】
本発明に係るエチレン系エラストマー(B)は、下記要件を満たすものが得られる限り、用いる重合触媒や重合条件は特に限定されない。また、エチレン系エラストマー(B)は、単独で使用することもできるし、二種以上を用いてもよい。
【0082】
(B1)190℃、2.16kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が、0.3〜1.0g/10分の範囲にある。MFRの下限は、好ましくは0.4g/10分、より好ましくは0.5g/10分、MFRの上限は好ましくは0.9g/10分、より好ましくは0.8g/10分である。
【0083】
エチレン系エラストマー(B)のMFRが、上記下限値以上であれば得られるプロピレン共重合体組成物の押出特性および得られる表面保護フィルムはフィッシュアイが少なく、耐ブロッキング性に優れ、エチレン系エラストマー(B)のMFRが、上限値以下であれば得られる表面保護フィルムはフィッシュアイが少なく、表面粗度に優れる。
【0084】
エチレン系エラストマー(B)のMFRを上記範囲にコントロールする方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。また、例えば市販のエチレン系エラストマーの中から適切なものを選定することによって上記範囲内とすることができる。
【0085】
(B2)密度が860〜900kg/m3の範囲にある。エチレン系エラストマー(B)の密度の下限は好ましくは870kg/m3、より好ましくは875kg/m3、エチレン系エラストマー(B)の密度の上限は好ましくは895kg/m3、より好ましくは890kg/m3、さらに好ましくは889kg/m3、最も好ましくは888kg/m3である。
【0086】
エチレン系エラストマー(B)の密度が上記範囲内であると、得られる表面保護フィルムのフィッシュアイを好適に抑制することができる。
【0087】
エチレン系エラストマー(B)の密度を上記範囲にコントロールする方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。また、例えば市販のエチレン系エラストマーの中から適切なものを選定することによって上記範囲内とすることができる。
【0088】
すなわち、本発明の表面保護フィルムの表面層が、後述するような平均表面粗度を示し、耐ブロッキング性に優れ、しかもフィッシュアイの抑制されたものとなる理由については定かではないが、本発明者は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)へ、フィッシュアイの核とならない程度の高い粘度のエチレン系エラストマー(B)を配合することで、表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物中のエチレン系エラストマー(B)成分のドメインサイズ(分散粒径)が大きいものとなり、これを成形することでフィルムの表面粗度が粗いものとなり、耐ブロッキング性が顕著に向上したものと考えている。
【0089】
<表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物>
本発明の表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物〔以下、「プロピレン共重合体組成物」と呼称する場合がある。〕は、表面保護フィルムの表面層を形成するのに好適な組成物であって、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を75〜97重量%、及び前記エチレン系エラストマー(B)を3〜25重量%〔但し、(A)+(B)=100重量%とする。〕を含む組成物である。
【0090】
本発明のプロピレン共重合体組成物に含まれるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の含有量の下限は好ましくは76重量%、より好ましくは77重量%、上限は好ましくは96重量%、より好ましくは95重量%、さらに好ましくは93重量%である。また、エチレン系エラストマー(B)の含有量の下限は好ましくは4重量%、より好ましくは5重量%、さらに好ましくは7重量%であり、上限は好ましくは24重量%、より好ましくは23重量%である。
【0091】
エチレン系エラストマー(B)の配合量が上記下限値以上であると、得られる表面保護フィルムは表面粗度に優れ、フィッシュアイが抑制され、上記上限値以下であることで、フィルム成形性に優れる。
【0092】
また、本発明のプロピレン共重合体組成物は、通常、230℃、2.16kg荷重下のメルトフローレート(MFRE)が、好ましくは0.5〜50g/10分の範囲にあり、下限はより好ましくは3g/10分、上限はより好ましくは6g/10分である。MFREが上記範囲であると、フィルム成形性に優れるため好ましい。
【0093】
本発明のプロピレン共重合体組成物には、得られる表面保護フィルムに、更に、耐衝撃性、透明性、寸法安定性、高速押出シート成形性付与等の機能を付与する目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ポリエチレン樹脂(C)あるいはその他の熱可塑性樹脂を配合しておいてもよい。
【0094】
例えば、本発明のプロピレン共重合体組成物が、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)、エチレン系エラストマー(B)及びポリエチレン樹脂(C)を含む組成物の場合、ポリエチレン樹脂(C)の量は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)100質量部に対して、通常、0〜30質量部、好ましくは1〜20質量部である。なお、エチレン系エラストマー(B)とポリエチレン樹脂(C)との比率は目的に応じて任意に調整することができる。
【0095】
本発明のプロピレン共重合体組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ビタミン類、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、ミネラルオイル等の添加物を含んでいてもよい。すなわち、本発明の表面保護フィルムの表面層は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、前記各種添加剤を含有してもよい。
【0096】
<表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物の製造>
本発明の表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物は、前述したプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)とエチレン系エラストマー(B)とを溶融混練することによって製造することができるし、あるいはプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を造粒したペレットと、エチレン系エラストマー(B)のペレットとをドライブレンドすることによっても製造することができる。好適には、溶融混練により製造する方法を用いることができ、このとき、連続式押出機や密閉式混練機を用いることができる。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の装置を挙げることができる。これらのうち、経済性、処理効率等の観点から一軸押出機及び/または二軸押出機を用いることが好ましい。
【0097】
本発明の表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物は、表面層及び粘着層を有する表面保護フィルムの表面層を形成する組成物として好適に用いられる。
【0098】
<表面保護フィルム>
本発明の表面保護フィルムは、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物から形成されたフィルムを表面層として有する。本発明の表面保護フィルムは、単層で形成されていてもよいが、表面層の片面に粘着層を有する、少なくとも2層の積層フィルムであってもよい。
【0099】
〈表面層〉
本発明の表面保護フィルムの表面層は、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物から形成されてなる。
【0100】
〈粘着層〉
本発明の表面保護フィルムの粘着層を形成する材料としては、表面保護フィルムを被着体に貼付することができる限り特に制限されず、たとえばEVA系、SBR系、SIS系、SBS系、SEBS系、ブチルエラストマー系、天然エラストマー系、およびアクリル系等の粘着剤を挙げることができる。
【0101】
粘着層を形成する材料として、密度が0.900kg/m3以下の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることもできる。
【0102】
また、前記粘着層を形成する材料として、メタロセン触媒系で重合された、特開2009−185239号公報に記載のあるプロピレン系ブランダムブロック共重合体を用いることもできる。
【0103】
粘着剤をTダイ共押出成形法で共押出しして製膜する場合は、EVA系、SEBS系、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましく使用可能である。また、粘着剤を基材フィルムに塗布する場合は、アクリル系粘着剤が好ましく使用可能である。
【0104】
本発明の表面保護フィルムにおける粘着層には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ビタミン類、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、ミネラルオイル等の添加物を含んでいてもよい。
【0105】
本発明の表面保護フィルムは、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物から形成されたフィルムを表面層、及び必要に応じて粘着層を有するが、表面層として、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物から形成された層を有する限り、他の片面、あるいは粘着層との間に中間層を有してしてもよい。かかる中間層は、単層であっても、二層以上の層であってもよい。
【0106】
〈中間層〉
本発明の表面保護フィルムの中間層は、表面保護フィルムの機械強度や透明性制御を目的として設けられていてもよく、また、表面層および粘着層との接着力が不足する場合には、ポリオレフィン樹脂や接着性樹脂ないしは接着剤からなる接着性を有する層であってもよい。
【0107】
中間層としては表面層および粘着層の機能を阻害しない限り特に制限はないが、一般には、融点が100℃以上のポリプロピレンやポリエチレンなどの結晶性ポリオレフィンや、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン系エラストマーなどが使用できる。
【0108】
中間層に接着性を付与したい場合には、変性ポリオレフィンや、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステルエラストマーなどが用いられる。
【0109】
これらの中で、生産性および透明性の点から、ポリプロピレンやポリオレフィンエラストマーを中間層として使用するのが好ましい。
【0110】
本発明の表面保護フィルムの厚みは、目的に応じて適宜決定することができ、たとえば10〜200μmとすることができる。前記表面層の厚みとしては8〜150μm、前記粘着層の厚みとしては2〜50μmとすることができる。
【0111】
本発明の表面保護フィルムの表面層は、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物を用いて形成されているので、フィッシュアイが効果的に抑制されている。またこのような表面層を有する本発明の表面保護フィルムは、表面保護フィルムをロール状に巻き取った場合に接触する粘着層とのブロッキングを生じにくく、耐ブロッキング性に優れ、ロール状のフィルムの繰り出し性に優れる。
【0112】
表面保護フィルムの表面となる表面層の露出している表面、すなわち、粘着層側とは反対側の面は、一定の凹凸を形成していることが好ましく、表面状態を示すパラメータである平均表面粗度Ra(算術平均粗さ)が、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.6μm以上であることが望ましい。本発明の表面保護フィルムの表面層側の表面が、このような平均表面粗度Raを有する場合には、一定の凹凸を有することにより、表面保護フィルムをロール状に巻き取った場合に、重なるフィルムの粘着層との接触が点接触となり、接触面積が低減されるため、粘着層との固着が抑制され、表面保護フィルムが、耐ブロッキング性に優れ、ロール状のフィルムの繰り出し性に優れるものとなる。
【0113】
このような平均表面粗度を有する表面層は、前記本発明に係るプロピレン・エチレンブロック共重合体を常法によりフィルム化した場合に容易に得ることができる。
【0114】
本発明の表面保護フィルムの表面層が、このような平均表面粗度を示し、耐ブロッキング性に優れ、しかもフィッシュアイの抑制されたものとなる理由については定かではないが、本発明者は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)へ、フィッシュアイの核とならない程度の高い粘度のエチレン系エラストマー(B)を配合することで、表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物中のエチレン系エラストマー(B)成分のドメインサイズ(分散粒径)が大きいものとなり、これを成形することでフィルムの表面粗度が粗いものとなり、耐ブロッキング性が顕著に向上したものと考えている。
【0115】
なお、フィッシュアイ核はプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)中に存在するエラストマー成分の中で特に高分子量のものに起因する高粘度成分であると考えられる。ここで、耐ブロッキング性を向上させるフィルム表面の凹凸は数μmオーダー、例えば1〜3μm程度であるのに対して、FE核は数十μmオーダー、例えば10〜50μm程度と大きさのオーダーが異なる。
【0116】
<表面保護フィルムの製造方法>
本発明の表面保護フィルムは、公知の各種の方法を採用することができる。例えば、前記表面保護フィルム用プロピレン共重合体組成物を、必要に応じて中間層を形成する重合体とともに、T−ダイからフィルム状に製膜する方法、サーキュラーダイからチューブ状に製膜する方法により単層/多層の表面保護フィルムを得ることができる。また、これらの方法により製膜した表面保護フィルムをドライラミネート法、押出ラミネート法により、他のフィルムと多層積層化することもできる。
【0117】
また、上記のような方法で形成された表面フィルムは適宜延伸して使用することができる。
【0118】
本発明の表面保護フィルムの粘着層は、公知の各種の方法により形成される。例えば、塗工機で表面層を含む基材上に粘着剤をコーティングする方法、基材と粘着剤をTダイやサーキュラーダイから多層フィルム状に製膜する共押出法等が挙げられる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
実施例および比較例における物性の測定方法は次の通りである。
【0121】
(1)MFR(メルトフローレート):g/10分
MFRは、ASTM D1238(230℃または190℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
【0122】
(2)室温n−デカン可溶部量(Dsol)
最終生成物〔すなわち、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)〕のサンプル5gにn−デカン200mlを加え、145℃で30分間加熱溶解した。約3時間かけて、20℃まで冷却させ、30分間放置した。その後、析出物(以下、n−デカン不溶部:Dinsol)を濾別した。濾液を約3倍量のアセトン中に入れ、n−デカン中に溶解していた成分を析出させた(析出物(A))。析出物(A)とアセトンを濾別し、析出物を乾燥した。なお、濾液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。
【0123】
室温n−デカン可溶部量は、以下の式によって求めた。
【0124】
室温n−デカン可溶部量(wt%)=〔析出物(A)重量/サンプル重量〕×100
(3)エチレンに由来する骨格の含有量
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)及び室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格濃度を測定するために、サンプル20〜30mgを1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(2:1)溶液0.6mlに溶解後、炭素核磁気共鳴分析(13C-NMR)を行った。プロピレン、エチレン、α-オレフィンの定量はダイアッド連鎖分布より求めた。
【0125】
例えば、プロピレン−エチレン共重合体の場合、
PP=Sαα、EP=Sαγ+Sαβ、EE=1/2(Sβδ+Sδδ)+1/4Sγδを用い、以下の計算式(Eq−1)および(Eq−2)により求めた。
【0126】
プロピレン(mol%)=(PP+1/2EP)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)] …(Eq−1)
エチレン(mol%)=(1/2EP+EE)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)]…(Eq−2)
(4)極限粘度[η]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた。
【0127】
[η]= lim(ηsp/C) (C→0)
(5)ヘイズ(HAZE)
JIS K 7105に準拠して測定した。
【0128】
(6)平均表面粗度(Ra)
表面保護フィルムの表面層の、MD方向の平均表面粗度Raを、JIS−B0601:2001に準じて表面粗さ測定機を用い、測定速度0.15mm/分でn=3測定し、算術平均した。
【0129】
(7)フィッシュアイ(FE)
FEカウンターを用いて、大きさ100μm以上のFEの個数(個/m2)をカウントした。
【0130】
〔プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製造例1(A−1)〕
(1)固体状チタン触媒成分の調製
内容積2リットルの高速撹拌装置(特殊機化工業製(TKホモミクサーM型))を充分窒素置換した後、この装置に精製デカン700ml、市販塩化マグネシウム10g、エタノール24.2gおよび商品名レオドールSP−S20(花王(株)製ソルビタンジステアレート)3gを入れ、この懸濁液を撹拌しながら系を昇温し、懸濁液を120℃にて800rpmで30分撹拌した。次いでこの懸濁液を、沈殿物が生じないように高速撹拌しながら、内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブを用いて、予め−10℃に冷却された精製デカン1リットルを張り込んである2リットルのガラスフラスコ(攪拌機付)に移した。移液により生成した固体を濾過し、精製n−ヘプタンで充分洗浄することにより、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0131】
この固体状付加物をデカンで懸濁状にして、マグネシウム原子に換算して23ミリモルの上記固体状付加物を、−20℃に保持した四塩化チタン100ml中に、攪拌下、導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を、固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.085モルの割合の量で添加し、40分間で110℃まで昇温した。110℃に到達したところで更にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.0625モルの割合の量で添加し、温度を110℃で90分間攪拌しながら保持することによりこれらを反応させた。
【0132】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して110℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0133】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α−1)はデカン懸濁液として保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
【0134】
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α−1)の組成はチタン3.2質量%、マグネシウム17質量%、塩素57質量%、3,6−ジメチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル10.6質量%、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル8.9質量%およびエチルアルコール残基0.6質量%であった。
【0135】
(2)前重合触媒の製造
固体触媒成分230g、トリエチルアルミニウム67mL、ヘプタン115Lを内容量200Lの攪拌機付き重合槽に挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを2300g挿入し、60分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ未反応のプロピレンを窒素で置換して前重合触媒を得た。
【0136】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を124NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.69g/時間、トリエチルアルミニウム2.3ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン2.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.34MPa/Gであった。
【0137】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が4.0mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.14MPa/Gで重合を行った。
【0138】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ気固分離を行った。その際に反応量調整のためにアトマー163(クローダジャパン社製)を5.9g/時間で連続的に供給してポリプロピレンホモポリマーパウダーと接触させた。その後、内容量480Lの気相重合器にこのパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.52(モル比)、水素/エチレン=0.048(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.10MPa/Gで重合を行った。
【0139】
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−1)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0140】
〔プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製造例2(A−2)〕
(1)固体状チタン触媒成分の調製及び(2)前重合触媒の製造は、製造例1と同様に行い、
(3)本重合を以下の方法で行った。
【0141】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を123NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.56g/時間、トリエチルアルミニウム2.3ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン2.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.34MPa/Gであった。
【0142】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が4.0mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.14MPa/Gで重合を行った。
【0143】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ気固分離を行った。その際に反応量調整のためにアトマー163(クローダジャパン社製)を1.4g/時間で連続的に供給してポリプロピレンホモポリマーパウダーと接触させた。その後、内容量480Lの気相重合器にこのパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.52(モル比)、水素/エチレン=0.048(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.10MPa/Gで重合を行った。
【0144】
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−2)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0145】
〔プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製造例3(A−3)〕
(1)固体状チタン触媒成分の調製及び(2)前重合触媒の製造は、製造例1と同様に行い、(3)本重合を以下の方法で行った。
【0146】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を123NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.58g/時間、トリエチルアルミニウム2.3ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン2.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.36MPa/Gであった。
【0147】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が4.2mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.14MPa/Gで重合を行った。
【0148】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ気固分離を行った。その際に反応量調整のためにアトマー163(クローダジャパン社製)を5.0g/時間で連続的に供給してポリプロピレンホモポリマーパウダーと接触させた。その後、内容量480Lの気相重合器にこのパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.58(モル比)、水素/エチレン=0.048(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.10MPa/Gで重合を行った。
【0149】
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−3)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0150】
〔プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の製造例4(A−4)〕
(1)固体状チタン触媒成分の調製及び(2)前重合触媒の製造は、製造例1と同様に行い、(3)本重合を以下の方法で行った。
【0151】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を123NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.55g/時間、トリエチルアルミニウム2.3ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン2.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.35MPa/Gであった。
【0152】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が4.0mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.15MPa/Gで重合を行った。
【0153】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ気固分離を行った。その際に反応量調整のためにアトマー163(クローダジャパン社製)を5.0g/時間で連続的に供給してポリプロピレンホモポリマーパウダーと接触させた。その後、内容量480Lの気相重合器にこのパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.52(モル比)、水素/エチレン=0.022(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.10MPa/Gで重合を行った。
【0154】
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−4)は、80℃で真空乾燥を行った。
【0155】
〔プロピレン・エチレンブロック共重合体(E)の製造例5(E−5)〕
(1)マグネシウム化合物の調製
攪拌機付き反応槽(内容積500リットル)を窒素ガスで充分に置換し、エタノール97.2kg、ヨウ素640g、及び金属マグネシウム6.4kgを投入し、攪拌しながら還流条件下で系内から水素ガスの発生が無くなるまで反応させ、固体状反応生成物を得た。この固体状反応生成物を含む反応液を減圧乾燥させることにより、目的のマグネシウム化合物(固体触媒の担体)を得た。
【0156】
(2)固体触媒成分の調製
窒素ガスで充分に置換した攪拌機付き反応槽(内容積500リットル)に、前記マグネシウム化合物(粉砕していないもの)30kg、精製ヘプタン(n−ヘプタン)95リットル、四塩化ケイ素4.4リットル、及びフタル酸ジ−n−ブチル6.0リットルを加えた。系内を90℃に保ち、攪拌しながら四塩化チタン144リットルを投入して110℃で2時間反応させた後、固体成分を分離して90℃の精製ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化チタン228リットルを加え、110℃で2時間反応させた後、精製ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒成分を得た。
【0157】
(3)予備重合触媒の調製
内容積500リットルの攪拌機付き反応槽に精製ヘプタン230リットルを投入し、前記の固体触媒成分を25kg、トリエチルアルミニウムを固体触媒成分中のチタン原子に対して1.0mol/mol、ジシクロペンチルジメトキシシランを1.8mol/molの割合で供給した。その後、プロピレンをプロピレン分圧で0.3kg/cm2Gになるまで導入し、25℃で4時間反応させた。反応終了後、固体触媒成分を精製ヘプタンで数回洗浄し、更に二酸化炭素を供給し24時間攪拌した。
【0158】
(4)本重合
直列に接続された2槽の重合槽を用い、ブロック重合を実施した。
【0159】
前段として、内容積200リットルの攪拌翼付き重合槽(ホモ重合槽)に、プロピレンを45kg/h、水素を380Nl/hで供給しホモ重合を行った。重合速度30kg/時間となるように前記予備重合処理済みの固体触媒成分を供給し、トリエチルアルミニウムを120ミリモル/時間で、ジシクロペンチルジメトキシシランを12ミリモル/時間でそれぞれ供給し、重合温度83℃、重合槽圧力3.0MPa(Gauge)で反応させた。このとき、水素を用いて所定の分子量になるように調整した。ついで、前段重合槽から連続的にパウダーを抜き出し、後段(ブロック重合槽)へ移送した。
【0160】
後段重合槽(ブロック重合槽)では、重合温度60℃において、プロピレンを9.9kg/h、エチレンを15.5kg/h、水素を400NL/hでそれぞれ供給した。また、反応器上部から供給する触媒活性制御剤エタノールを4.4g/hで供給した。後段重合槽からパウダーを連続的に抜出し、プロピレン・エチレンブロック共重合体パウダー(PP−A)を得た。
【0161】
製造例1〜4で得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−1)〜(A−4)及び製造例5で得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(E−5)の物性を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
[実施例1〜8、参考例1、及び比較例1、2]
製造例1〜5で製造したプロピレン・エチレンブロック共重合体(表2では、「ブロック共重合体」と略記)と、エチレン系エラストマー(B)(表2では、「エラストマー」と略記)として、三井化学社製 商品名 タフマーA−0585X:MFR(190℃)=0.5g/10分、密度=885kg/mを、実施例1〜8については実施例に記載した配合量、参考例1はエチレン系エラストマー(B)を配合しない(プロピレン・エチレンブロック共重合体のみ)とした。
【0164】
これら100重量部に対して、熱安定剤IRGANOX1010:0.1重量部、IRGAFOS168:0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、神戸製鋼製二軸混練機(スクリュー径30mm)を用いて230℃にて溶融混練して、ペレット状のプロピレン共重合体組成物を調整した。
【0165】
ダイ幅250mmの単層Tダイ成形機に、25mmの単軸押出し機を装着したものをフィルム成形機として用い、厚み50μmの単層フィルムを成形した。
【0166】
得られたフィルムのヘイズ、引張弾性率、表面粗さ、線膨張係数を測定した。又、フィルム成形時にオンラインのフィッシュアイカウンター(ヒューテック社製)にて、フィシュアイ数を計測した。
【0167】
結果を表2に示す。
【0168】
【表2】
【0169】
実施例の考察
表2に示す通り、製造例1〜4で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A−1)〜(A−4)を用いて得られる実施例1〜8に示す表面保護フィルムは、各々と対比されるエチレン系エラストマー(B)無添加品(参考例1)と比較して、フィルムの表面粗さが大きくなっているにも係らずフィッシュアイ数が減少し、フィッシュアイレベルが良好となっている。
【0170】
比較例1,2に示すように。従来は、表面粗度が大きく、しかもフィッシュアイが少ないという、相反する性質を共に満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体の表面保護フィルムを得ることが困難であったが、上記実施例1〜8に示すように、本願発明ではこれまで以上にこれらのバランスに優れた表面保護フィルムを得ることが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の表面保護フィルムは、表面保護フィルムを用いる各種用途に制限なく用いることができるほか、十分な透明性を示すことから、光学フィルム、光学部材、電気材料などの表面を保護する用途に好適に用いることができる。