【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金A〜Lを溶解し、連続鋳造により直径196mmのビレット形状に造塊した。得られたビレットを500℃で8時間の均質化処理を施した後、420℃の温度で外径52mm、肉厚2mmのパイプ形状にポートホール押出した(コンテナ径:200mm、押出比:100)。なお、表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0038】
押出されたアルミニウム合金管を試験材(1〜12)として、以下の方法により、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
また、アルミニウム合金A〜Cの押出管を、さらに、外径40mm、肉厚1.4mm、となるように引抜き加工(断面減少率:48%)し、これらを試験材(13〜15)として、同様に、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
さらに、アルミニウム合金Aの押出管、アルミニウム合金Aの引抜き管について、420℃の温度で1.5時間の軟化処理を施し、これらを試験材(16〜17)として、同様に、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
耐食性:試験材の長さ方向中央部より120mmを切り出し、両端をマスキングして、JIS Z−2371準拠のCASS試験を1000時間実施し、試験後のサンプルについては、試験法の定める手順で酸洗浄を行って腐食生成物を除去し、焦点深度法により最大腐食深さを測定し、貫通が生じているものを不合格(×)とした。
【0043】
扁平試験:試験材の長さ方向中央部より20mm長さのサンプルを切り出し、鉄板で挟んで長さ方向と直角方向に5mm/分の加圧速度で管の内面同士が接触するまで圧縮(引張試験機を使用し、圧縮モードで試験を実施)し、割れ発生の有無により曲げ加工性を評価した。割れが発生しなかったものを合格(○)とし、割れが発生したものを不合格(×)とした。
【0044】
拡管試験:試験材の長さ方向中央部より20mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に5mm/分の速度で90°のコーンを挿入(引張試験機を使用し、圧縮モードで試験を実施)し、割れ発生の有無により押出時の材料溶着部の強度を評価した。溶着部において割れが発生しなかったものを合格(○)とし、溶着部において割れが発生したものを不合格(×)とした。
【0045】
機械的特性:試験材の長さ方向中央部よりサンプルを切り出して、JIS 11号試験片を作製し、JIS Z−2241に準拠して引張試験を行い、機械的特性を評価した。配管材として好ましい強度(引張強さ:95MPa以上、耐力:50MPa以上)を有するものを合格とした。
【0046】
材料組織:試験材の長さ方向中央部(押出管の押出頭部より4000mmの部分、引抜き後の管の長さ方向において頭部より5920mmの部分、および、軟化処理後の管の長さ方向において頭部より6000mmの部分)より20mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向と直角方向の断面観察を実施した。サンプルは研磨後にエッチングを施し、偏光顕微鏡を用いて50倍でそれぞれ任意の三視野を撮影し、交差法で結晶粒径を測定し、それらの平均値を用いた。
【0047】
長さ方向(押出方向)におけるMg濃度の差:押出し後、引抜き加工後、軟化処理後の管の頭部より1000mmの部分から、2000mm毎に6点について、発光分光分析によりMg濃度を測定し、Mg濃度の最大値と最小値との差を評価した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜3(第1の実施形態)、13〜15(第2の実施形態)、16(第3の実施形態)、17(第4の実施形態)はいずれも、強度、耐食性に優れ、扁平試験で内面を密着させた際に割れが生じることがなく、拡管試験で溶着部より割れを生じることがない良好な加工性をそなえていた。
【0050】
これに対して、試験材4はMg含有量が少ないため、1000系(純アルミニウム系)と同等の強度となり、一般に配管材に要求される強度を達成することができないものであった。試験材5はMg含有量が多いため、押出時のメタルの溶着が不十分となり、拡管試験で割れが発生した。
【0051】
試験材6、7、9はそれぞれSi、Fe、Mnの含有量が多いため、また、試験材8、11はそれぞれCu、Znの含有量が多いため、いずれも耐食性評価において貫通腐食が生じた。
【0052】
試験材10はCrの含有量が多いため再結晶が不均一となっており、製品としての加工性が低下するおそれがあるものである。試験材12はTiの含有量が多いため、巨大晶出物が発生して押出時に表面欠陥を生じており、引抜き加工時の割れや切れ、また製品としての加工性の低下が懸念されるものである。
【0053】
実施例2、比較例2
表1の合金Bの組成を有するアルミニウム合金を溶解し、連続鋳造により表3、表4に示すビレット径の押出用ビレットに造塊した。得られたビレットについて、表3、表4に示す条件で均質化処理を施し、管形状にポートホール押出を行って管形状に押出成形した。
【0054】
一部については、第2の実施形態の製品を得るために、押出管を表3、表4に示す断面減少率で引抜き加工し、また、一部については、第3および第4の実施形態による製品を得るために、押出管および引抜き管に、表3、表4に示す温度で1.5時間の軟化処理を施した。
【0055】
得られたアルミニウム合金管を試験材として、実施例1と同じ方法で、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表5に示す。なお、長さ方向のMg濃度の最大値と最小値の差の評価において、押出管および押出後に軟化処理した管については、管の頭部より1000mmの部分から1500mm毎に5点、引抜き管および引抜き後に軟化処理した管については、管の頭部より1000mmの部分から2500mm毎に5点について、発光分光分析によりMg濃度を測定し、Mg濃度の最大値と最小値の差を測定した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、本発明に従う試験材21、27〜29(第1の実施形態)、24、30〜34(第2の実施形態)、22〜23(第3の実施形態)、25〜26(第4の実施形態)はいずれも、強度、耐食性に優れ、扁平試験で内面を密着させた際に割れが生じることがなく、拡管試験で溶着部より割れを生じることがない良好な加工性をそなえていた。
【0060】
一方、表4に示す製造条件で製造されたものにおいて、製造条件lのものは均質化処理温度が低いため、また製造条件nのものは均質化処理時間が短いため、いずれもビレットの鋳塊組織のミクロ偏析が解消されず、長さ方向(押出方向)におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%を超えていた。
【0061】
製造条件mのものは均質化処理温度が高いためビレットに部分溶融が生じ、押出ができなかった。製造条件oのものは押出温度が低いため、押出圧が高くなり押出が困難となった。製造条件pのものは押出温度が高いため、押出管にムシレが生じた。
【0062】
製造条件qのものは押出管の肉厚が小さいため、押出圧が高くなり押出が困難となった。製造条件rのものは押出管の肉厚が大きく押出比が不十分であるため、押出時に溶着部でのメタルの溶着が不足し、押出管に割れが生じた。
【0063】
製造条件sのものは押出比が小さいため、押出時に溶着部でのメタルの溶着が不足し、押出管に割れが生じた。製造条件tのものは押出比が大きいため、押出圧が高くなり押出が困難となった。
【0064】
上記製造条件m、o〜tのものについては引抜き加工を行うことなく製造を中止した。条件uのものは引抜き加工度が大きいため、加工硬化のため引抜き加工が困難となり、製品管の製造ができなかった。
【0065】
製造条件vおよびwのものは、軟化処理温度が280℃と低いため、軟化が完了せず一部に加工組織が残存しており、部分的に強度が不均一となって製品としての加工性が低下するおそれがあるものである。また、製造条件xおよびyのものは、軟化処理温度が565℃と高いため、平均結晶粒径がそれぞれ383μmおよび321μmで、いずれも300μmを超えて粗大化しており、曲げや拡管等の加工時に肌荒れ等の不具合を生じるおそれがあるものであった。