特許第6446124号(P6446124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6446124耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446124
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/047 20060101AFI20181217BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20181217BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C22F1/047
   C22C21/06
   C22F1/00 612
   C22F1/00 626
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 631A
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 694A
   C22F1/00 694B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-510257(P2017-510257)
(86)(22)【出願日】2016年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2016060950
(87)【国際公開番号】WO2016159361
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-76777(P2015-76777)
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】八太 秀周
(72)【発明者】
【氏名】石坂 拓巳
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102465221(CN,A)
【文献】 特開平05−007927(JP,A)
【文献】 特開2003−105474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
B21C 23/00 − 23/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:0.7%(質量%、以下同じ)以上1.5%未満、Ti:0%を超え0.15%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物としてのSiを0.20%以下、Feを0.20%以下、Cuを0.05%以下、Mnを0.10%以下、Crを0.10%以下、Znを0.10%以下に規制し、ポートホール押出により作製されたアルミニウム合金管であって、管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、Mg:0.7%以上1.5%未満、Ti:0%を超え0.15%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物としてのSiを0.20%以下、Feを0.20%以下、Cuを0.05%以下、Mnを0.10%以下、Crを0.10%以下、Znを0.10%以下に規制したアルミニウム合金のビレットを450℃〜570℃の温度で4時間以上均質化処理した後、押出温度400℃〜550℃でポートホール押出を行うことを特徴とする耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法。
【請求項2】
管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、請求項1に記載の製造方法により作製されたアルミニウム合金押出管を、断面減少率が0%を超え70%以下の加工度で引抜き加工することを特徴とする耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法。
【請求項3】
管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、請求項1または2に記載の製造方法により作製されたアルミニウム合金管を、300〜560℃の温度で軟化処理することを特徴とする耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法。
【請求項4】
押出比を10〜200として、押出された管の肉厚が0.5〜10mmとなるように前記ポートホール押出を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管やホースジョイントなどとして用いられる耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配管材やホースジョイント材などのアルミニウム合金管材としては、1000系(純アルミニウム系)、3000系(Al−Mn系)、6000系(Al−Mg−Si系)のアルミニウム合金の押出管が用いられてきた。
【0003】
押出管を製造するための押出方法としては、中空孔を持つビレットをステムに接続したマンドレルを用いて円形管に押出成形するマンドレル押出、材料を分割するポート孔と中空部をつくるマンドレルを設けた雄型と、分割された材料をマンドレルを取り囲んで一体化、溶着するためのチャンバーを設けた雌型を組み合わせたホローダイスを用いて押出成形するポートホール押出があるが、マンドレル押出による押出管は偏肉が生じ易く、薄肉管を成形し難いなどの問題があるため、配管材やホースジョイント材などのアルミニウム合金管としては、ポートホール押出により押出管を作製するのが望ましい。
【0004】
上記従来のアルミニウム合金については、いずれの押出法も適用可能であり、ポートホール押出を適用して所定形状の押出管を作製することができるが、1000系アルミニウム材は高強度の要求に応えらず、3000系アルミニウム合金材はMnの過剰析出により耐食性が低下する場合があり、6000系アルミニウム合金材は熱処理型であるため製造工程に制約が多いなど、それぞれ材料特性上、製造上の難点がある。
【0005】
これに対して、5000系(Al−Mg系)のアルミニウム合金は、強度、耐食性、加工性などに優れた材料特性をそなえているが、硬質であるため、一般にはポートホール押出ができず、中空管は、通常、マンドレル押出により押出成形されている。5000系アルミニウム合金をポートホール押出により成形する試みもいくつか提案されているが、特殊なダイス構造を必要としたり、押出管の断面寸法上の制約があるなど、必ずしも満足すべきものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−105474号公報
【特許文献2】特開2003−226928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、配管やホースジョイントなどとして用いられるアルミニウム合金管における上記従来の問題点を解消するために、合金成分を調整し、好ましくは押出条件を特定することにより、5000系アルミニウム合金のポートホール押出を可能としたことに基づいてなされたものであり、その目的は、強度、耐食性に優れるとともに、優れた加工性をそなえた5000系のアルミニウム合金管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための請求項による耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法は、Mg:0.7%(質量%、以下同じ)以上1.5%未満、Ti:0%を超え0.15%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物としてのSiを0.20%以下、Feを0.20%以下、Cuを0.05%以下、Mnを0.10%以下、Crを0.10%以下、Znを0.10%以下に規制し、ポートホール押出により作製されたアルミニウム合金管であって、管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、Mg:0.7%以上1.5%未満、Ti:0%を超え0.15%以下を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物としてのSiを0.20%以下、Feを0.20%以下、Cuを0.05%以下、Mnを0.10%以下、Crを0.10%以下、Znを0.10%以下に規制したアルミニウム合金のビレットを450℃〜570℃の温度で4時間以上均質化処理した後、押出温度400℃〜550℃でポートホール押出を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項による耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法は、管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、請求項に記載の製造方法により作製されたアルミニウム合金押出管を、断面減少率が0%を超え70%以下の加工度で引抜き加工することを特徴とする。
【0014】
請求項3による耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法は、管の長さ方向におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であり、管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であるアルミニウム合金管を製造する方法であって、請求項1または2に記載の製造方法により作製されたアルミニウム合金管を、300〜560℃の温度で軟化処理することを特徴とする。
【0015】
請求項による耐食性および加工性に優れたアルミニウム合金管の製造方法は、請求項のいずれかにおいて、押出比を10〜200として、押出された管の肉厚が0.5〜10mmとなるように前記ポートホール押出を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度、耐食性に優れるとともに、優れた加工性をそなえた5000系のアルミニウム合金管およびその製造方法が提供される。当該アルミニウム合金管は、扁平試験で内面を密着させた際に割れを生じることがなく、拡管試験で溶着部より割れを生じることがない良好な加工性をそなえている。また、本発明の製造方法によれば、良好な押出性を得ることができ、押出時の加工発熱を抑制できるため、押出管の結晶粒径を小さくすることができ、肌荒れなどを生じることなく加工することを可能とする優れた加工性をそなえた管材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によるアルミニウム合金管は、所定の組成を有するアルミニウム合金の押出用ビレットを、ポートホール押出することにより作製される。
【0018】
本発明によるアルミニウム合金管の合金成分の意義およびその限定理由について以下に説明する。
Mgは強度を向上するために機能するもので、好ましい含有量は0.7%以上1.5%未満の範囲である。含有量が0.7%より少ないと1000系合金と同等の強度となり、一般的に配管材に要求される強度を達成することができず、1.5%以上含有すると、ポートホール押出時の押出圧力が上昇し押出性が害される。Mgの含有量を0.7%以上1.5%未満とすることにより、配管材などとして要求される強度を達成することができるとともに、押出時の熱間変形抵抗が従来のマンドレル押出時以上に上昇することがなく、良好な押出性が得られる。押出時の加工熱も抑制できるため、押出管の結晶粒径を小さくすることができる。すなわち、押出管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径を300μm以下とすることができ、肌荒れなどを生じることなく加工することを可能とする優れた加工性をそなえた管材を得ることができる。Mgのさらに好ましい含有範囲は0.7%〜1.3%である。
【0019】
Tiは、鋳造組織の微細化など組織微細化剤として添加される。好ましい含有量は0%を超え0.15%以下の範囲である。Tiを含有しない場合は、羽毛状晶などの粗大かつ不均一な鋳造組織となり、押出管の組織に部分的に粗大結晶粒が生じたり、添加元素の固溶状態が不均一となるおそれがある。0.15%を超えて含有されると、巨大晶出物を生じ、押出時に表面欠陥等が発生したり、巨大晶出物を起点として引抜き加工時に割れや切れが生じ易くなり、製品としての加工性を損なう可能性がある。Tiのさらに好ましい含有範囲は0.01〜0.05%である。
【0020】
本発明においては、不可避的不純物としてのSiの含有量を0.20%以下、Feの含有量を0.20%以下、Cuの含有量を0.05%以下、Mnの含有量を0.10%以下、Crの含有量を0.10%以下、Znの含有量を0.10%以下に規制する。
【0021】
Si含有量が0.20%を超えると、MgSi化合物が過剰に形成されて耐食性を低下させる。Fe含有量が0.20%を超えると、AlFe化合物が過剰に析出して耐食性を低下させる。Cu含有量が0.05%を超えると、粒界腐食感受性が高くなり耐食性が低下する。
【0022】
Mn含有量が0.10%を超えると、過剰析出が進行した場合、耐食性が害される。Cr含有量が0.10%を超えると、Crは再結晶を抑制するため、再結晶が不均一となり製品としての加工性が低下し易くなる。Zn含有量が0.10%を超えると、全面腐食が進行して腐食量が増加し、耐食性を低下させる。
【0023】
上記の不可避的不純物Si、Fe、Cu、Mn、Cr、Zn以外のその他不純物は、本発明の効果に影響しない範囲で含有してもよく、その他不純物は各々で0.05%以下、合計で0.15%以下の範囲で許容される。
【0024】
本発明によるアルミニウム合金管は、第1の実施形態として、ポートホール押出により作製された押出管の形態で使用することもでき、第2の実施形態として、ポートホール押出により作製された押出管をさらに引抜き加工した形態で使用することもでき、第3の実施形態として、押出管をさらに軟化処理した形態で使用することもでき、第4の実施形態として、引抜き加工後さらに軟化処理した形態で使用することもできる。
【0025】
本発明においては、第1〜4のいずれの実施形態においても、アルミニウム合金管の長さ方向において、Mg濃度の最大値と最小値の差が0.2%以下であることが望ましく、Mg濃度の最大値と最小値の差が0.2%を超えると部分的に強度が異なり、アルミニウム合金管を使用サイズで切断して配管などとして使用する際、曲げ加工や拡管加工時に部分的に不具合が生じるおそれがある。
【0026】
また、第1〜4のいずれの実施形態においても、本発明のアルミニウム合金管においては、アルミニウム合金管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μm以下であることが望ましい。長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が300μmを超えると、加工性が低下し、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合を生じるおそれがある。アルミニウム合金管の長さ方向と直角方向の断面の平均結晶粒径が200μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
以下、本発明のアルミニウム合金管の製造方法について説明する。
上記の組成を有するアルミニウム合金の溶湯を常法に従って造塊し、得られた鋳塊(ビレット)を均質化処理した後、押出に際してビレットを再加熱して、押出後の管の肉厚が特定寸法となるようにポートホール押出を行い、押出管を作製する(第1の実施形態)。第2の実施形態としては、押出管をさらに引抜き加工し、第3の実施形態としては、押出管にさらに軟化処理を施し、第4の実施形態としては、引抜き加工後さらに軟化処理を施す。
【0028】
鋳塊(ビレット)の均質化処理は、450℃〜570℃の温度域で4時間以上の時間行うのが好ましい。均質化処理温度が450℃より低い場合、均質化処理時間が4時間より短い場合は、拡散エネルギー不足となってビレットの鋳塊組織のミクロ偏析が解消されず、押出後(第1の実施形態)、引抜き加工後(第2の実施形態)、軟化処理後(第3および第4の実施形態)のアルミニウム合金管の長さ方向のMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%を超え、部分的な強度の不均一も生じ、曲げ加工性や拡管加工性などの加工性が低下し易くなる。均質化処理温度が570℃より高いと、固相線温度以上となりビレットが部分溶融するおそれがある。均質化温度は500〜560℃がより好ましい。均質化処理は4時間以上行えば必要とされる性能が得られるが、製造コストを考慮すると実用上20時間以下とするのが好ましい。
【0029】
ポートホール押出は400℃〜550℃の温度で行なうのが望ましい。押出温度が400℃より低い場合は押出圧力が高くなり、押出が困難となるおそれがある。押出温度が550℃より高い場合は、押出時に押出されたアルミニウム合金管にムシレ欠陥が生じ易くなる。
【0030】
本発明においては、合金組成と均質化処理条件、押出温度条件を組み合わせることにより、押出時の熱間変形抵抗が低下するため、押出圧力が低下して、押出成形されたアルミニウム合金管の長さ方向(押出方向)と直角方向の平均結晶粒径を300μm以下とすることができ、曲げ加工性、拡管加工性が良好で、肌荒れなどの不具合を生じることなく加工することができる優れた加工性をそなえたアルミニウム合金管の製造が達成される。
【0031】
押出加工時の押出比は10〜200とするのが好ましい。押出比が10より低い場合は溶着部でのメタルの溶着が不十分となり、押出後に溶着部から割れが発生し易くなる。押出比が200より高いと、押出圧力が高くなり押出が困難となるおそれがある。
【0032】
押出後のアルミニウム合金管の肉厚が0.5〜10mmとなるようにポートホール押出を行うのが好ましく、管の肉厚が0.5mmより薄くなると、押出圧力が高くなり押出が困難となるおそれがある。管の肉厚が10mmより厚くなると、押出比によっては押出管の溶着が不十分となる。
【0033】
押出比および管の肉厚が共に下限未満の場合あるいは上限を超える場合は、押出時の圧力が高くなり、その結果、押出材の加工発熱も高くなるため、押出成形されたアルミニウム合金管の結晶粒径が大きくなる。本発明においては、押出比、押出後の管の肉厚を規定することによって、より確実に加工性に優れかつ耐食性に優れたアルミニウム合金管を得ることができる。
【0034】
第2の実施形態においては、ポートホール押出により作製されたアルミニウム合金管をさらに引抜き加工する。押出後の引抜き加工は、断面減少率0%を超え70%以下の加工度で行うのが好ましい。断面減少率が70%を超えると、冷間加工度が大きくなって引抜き加工が困難となるおそれがある。
【0035】
第3の実施形態においては、押出管にさらに軟化処理を施し、第4の実施形態においては、引抜き加工されたアルミニウム合金管にさらに軟化処理を施す。軟化処理は、300〜560℃の温度域で0時間を超え3時間以下の時間行うのが好ましい。軟化処理温度が300℃より低い場合は軟化が不十分となり、部分的に強度が不均一となって曲げ加工性や拡管加工性などの加工性が低下する。軟化処理温度が560℃より高い場合、軟化処理時間が3時間より長い場合は、結晶粒度が300μmを超えて過剰に成長し、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合を生じるおそれがある。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金A〜Lを溶解し、連続鋳造により直径196mmのビレット形状に造塊した。得られたビレットを500℃で8時間の均質化処理を施した後、420℃の温度で外径52mm、肉厚2mmのパイプ形状にポートホール押出した(コンテナ径:200mm、押出比:100)。なお、表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0038】
押出されたアルミニウム合金管を試験材(1〜12)として、以下の方法により、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
また、アルミニウム合金A〜Cの押出管を、さらに、外径40mm、肉厚1.4mm、となるように引抜き加工(断面減少率:48%)し、これらを試験材(13〜15)として、同様に、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0040】
さらに、アルミニウム合金Aの押出管、アルミニウム合金Aの引抜き管について、420℃の温度で1.5時間の軟化処理を施し、これらを試験材(16〜17)として、同様に、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
耐食性:試験材の長さ方向中央部より120mmを切り出し、両端をマスキングして、JIS Z−2371準拠のCASS試験を1000時間実施し、試験後のサンプルについては、試験法の定める手順で酸洗浄を行って腐食生成物を除去し、焦点深度法により最大腐食深さを測定し、貫通が生じているものを不合格(×)とした。
【0043】
扁平試験:試験材の長さ方向中央部より20mm長さのサンプルを切り出し、鉄板で挟んで長さ方向と直角方向に5mm/分の加圧速度で管の内面同士が接触するまで圧縮(引張試験機を使用し、圧縮モードで試験を実施)し、割れ発生の有無により曲げ加工性を評価した。割れが発生しなかったものを合格(○)とし、割れが発生したものを不合格(×)とした。
【0044】
拡管試験:試験材の長さ方向中央部より20mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に5mm/分の速度で90°のコーンを挿入(引張試験機を使用し、圧縮モードで試験を実施)し、割れ発生の有無により押出時の材料溶着部の強度を評価した。溶着部において割れが発生しなかったものを合格(○)とし、溶着部において割れが発生したものを不合格(×)とした。
【0045】
機械的特性:試験材の長さ方向中央部よりサンプルを切り出して、JIS 11号試験片を作製し、JIS Z−2241に準拠して引張試験を行い、機械的特性を評価した。配管材として好ましい強度(引張強さ:95MPa以上、耐力:50MPa以上)を有するものを合格とした。
【0046】
材料組織:試験材の長さ方向中央部(押出管の押出頭部より4000mmの部分、引抜き後の管の長さ方向において頭部より5920mmの部分、および、軟化処理後の管の長さ方向において頭部より6000mmの部分)より20mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向と直角方向の断面観察を実施した。サンプルは研磨後にエッチングを施し、偏光顕微鏡を用いて50倍でそれぞれ任意の三視野を撮影し、交差法で結晶粒径を測定し、それらの平均値を用いた。
【0047】
長さ方向(押出方向)におけるMg濃度の差:押出し後、引抜き加工後、軟化処理後の管の頭部より1000mmの部分から、2000mm毎に6点について、発光分光分析によりMg濃度を測定し、Mg濃度の最大値と最小値との差を評価した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜3(第1の実施形態)、13〜15(第2の実施形態)、16(第3の実施形態)、17(第4の実施形態)はいずれも、強度、耐食性に優れ、扁平試験で内面を密着させた際に割れが生じることがなく、拡管試験で溶着部より割れを生じることがない良好な加工性をそなえていた。
【0050】
これに対して、試験材4はMg含有量が少ないため、1000系(純アルミニウム系)と同等の強度となり、一般に配管材に要求される強度を達成することができないものであった。試験材5はMg含有量が多いため、押出時のメタルの溶着が不十分となり、拡管試験で割れが発生した。
【0051】
試験材6、7、9はそれぞれSi、Fe、Mnの含有量が多いため、また、試験材8、11はそれぞれCu、Znの含有量が多いため、いずれも耐食性評価において貫通腐食が生じた。
【0052】
試験材10はCrの含有量が多いため再結晶が不均一となっており、製品としての加工性が低下するおそれがあるものである。試験材12はTiの含有量が多いため、巨大晶出物が発生して押出時に表面欠陥を生じており、引抜き加工時の割れや切れ、また製品としての加工性の低下が懸念されるものである。
【0053】
実施例2、比較例2
表1の合金Bの組成を有するアルミニウム合金を溶解し、連続鋳造により表3、表4に示すビレット径の押出用ビレットに造塊した。得られたビレットについて、表3、表4に示す条件で均質化処理を施し、管形状にポートホール押出を行って管形状に押出成形した。
【0054】
一部については、第2の実施形態の製品を得るために、押出管を表3、表4に示す断面減少率で引抜き加工し、また、一部については、第3および第4の実施形態による製品を得るために、押出管および引抜き管に、表3、表4に示す温度で1.5時間の軟化処理を施した。
【0055】
得られたアルミニウム合金管を試験材として、実施例1と同じ方法で、耐食性、加工性、強度、結晶粒度、長さ方向(押出方向)のMg濃度の最大値と最小値の差を評価した。結果を表5に示す。なお、長さ方向のMg濃度の最大値と最小値の差の評価において、押出管および押出後に軟化処理した管については、管の頭部より1000mmの部分から1500mm毎に5点、引抜き管および引抜き後に軟化処理した管については、管の頭部より1000mmの部分から2500mm毎に5点について、発光分光分析によりMg濃度を測定し、Mg濃度の最大値と最小値の差を測定した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、本発明に従う試験材21、27〜29(第1の実施形態)、24、30〜34(第2の実施形態)、22〜23(第3の実施形態)、25〜26(第4の実施形態)はいずれも、強度、耐食性に優れ、扁平試験で内面を密着させた際に割れが生じることがなく、拡管試験で溶着部より割れを生じることがない良好な加工性をそなえていた。
【0060】
一方、表4に示す製造条件で製造されたものにおいて、製造条件lのものは均質化処理温度が低いため、また製造条件nのものは均質化処理時間が短いため、いずれもビレットの鋳塊組織のミクロ偏析が解消されず、長さ方向(押出方向)におけるMg濃度の最大値と最小値の差が0.2%を超えていた。
【0061】
製造条件mのものは均質化処理温度が高いためビレットに部分溶融が生じ、押出ができなかった。製造条件oのものは押出温度が低いため、押出圧が高くなり押出が困難となった。製造条件pのものは押出温度が高いため、押出管にムシレが生じた。
【0062】
製造条件qのものは押出管の肉厚が小さいため、押出圧が高くなり押出が困難となった。製造条件rのものは押出管の肉厚が大きく押出比が不十分であるため、押出時に溶着部でのメタルの溶着が不足し、押出管に割れが生じた。
【0063】
製造条件sのものは押出比が小さいため、押出時に溶着部でのメタルの溶着が不足し、押出管に割れが生じた。製造条件tのものは押出比が大きいため、押出圧が高くなり押出が困難となった。
【0064】
上記製造条件m、o〜tのものについては引抜き加工を行うことなく製造を中止した。条件uのものは引抜き加工度が大きいため、加工硬化のため引抜き加工が困難となり、製品管の製造ができなかった。
【0065】
製造条件vおよびwのものは、軟化処理温度が280℃と低いため、軟化が完了せず一部に加工組織が残存しており、部分的に強度が不均一となって製品としての加工性が低下するおそれがあるものである。また、製造条件xおよびyのものは、軟化処理温度が565℃と高いため、平均結晶粒径がそれぞれ383μmおよび321μmで、いずれも300μmを超えて粗大化しており、曲げや拡管等の加工時に肌荒れ等の不具合を生じるおそれがあるものであった。