特許第6446134号(P6446134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイムバイオ カンパニー、リミテッドの特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446134
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】癌幹細胞治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20181217BHJP
   A61K 31/08 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20181217BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20181217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   A61K31/7004ZNA
   A61K31/08
   A61K31/4422
   A61K31/496
   A61K31/713
   A61K48/00
   A61K31/155
   A61P43/00 105
   A61P35/00
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-523451(P2017-523451)
(86)(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公表番号】特表2017-534628(P2017-534628A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】KR2015011436
(87)【国際公開番号】WO2016068600
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0147972
(32)【優先日】2014年10月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518189840
【氏名又は名称】ハイムバイオ カンパニー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チェ ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ウン ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、キ チョン
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 PLOS ONE,2013年,vol.8, no.11, e80397,p.1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7004
A61K 31/08
A61K 31/155
A61K 31/4422
A61K 31/496
A61K 31/713
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−脱酸ブドウ糖(2−deoxyglucose、2DG)、ならびに、カロキシン(caloxin)、ニフェジピン(nifedipine)、KN62(1−[N,O−bis(5−isoquinolinesulphonyl)−N−methyl−L−tyrosyl]−4−phenylpiperazine)、および、SiCaMK−2αからなる群から選択される1つ以上を、有効成分として含む、癌幹細胞成長抑制用組成物。
【請求項2】
前記組成物は、メトホルミン(metformin)、フェンホルミン(phenformin)、または、ブホルミン(buformine)を追加的に含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2−脱酸ブドウ糖(2−deoxyglucose、2DG)、ならびに、カロキシン(caloxin)、ニフェジピン(nifedipine)、KN62(1−[N,O−bis(5−isoquinolinesulphonyl)−N−methyl−L−tyrosyl]−4−phenylpiperazine)、および、SiCaMK−2αからなる群から選択される1つ以上を、有効成分として含む、癌幹細胞治療用薬学組成物。
【請求項4】
前記組成物は、メトホルミン(metformin)、フェンホルミン(phenformin)、または、ブホルミン(buformine)を追加的に含むことを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記癌は、乳癌、子宮癌、胃癌、脳癌、直膓癌、大膓癌、肺癌、皮膚癌、血液癌、および肝臓癌からなる群より選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース吸収抑制剤(glucose uptake inhibitor)およびカルシウムポンプ抑制剤(calcium pump inhibitor)を含む癌幹細胞治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近活発に開発され抗癌治療に実質的に使用されている抗癌剤のほとんどは、速やかに増殖する癌細胞を標的とする薬物が大部分である。このような薬物を用いた抗癌治療の場合、初期には効果的に癌細胞が死滅して癌が治ると見られるが、結局、体内に残っている癌幹細胞(cancer stem cell)は除去できず癌の再発および/または転移が活発に起こり、結局、既存の抗癌療法に対する耐性を示す問題点がたびたび発生しているため、最近、癌幹細胞への関心が高まっている。癌幹細胞は、一般的な幹細胞と類似して、無制限の再生能力を有する癌細胞で、一般的な癌細胞とは異なってゆっくり増殖し、幹細胞特有の能力である自己再生や分化能力を有している癌細胞であって、従来知られている癌細胞と異なる機序(mechanism)を有することが知られているが、まだ癌幹細胞に対する研究は活発に行われておらず、特に癌幹細胞を標的とする癌幹細胞治療用薬物に対する研究はほぼ皆無であるのが現状である(韓国出願特許第10−2011−0066035号)。
【0003】
このように、癌幹細胞に効果的な癌幹細胞治療用組成物の開発は、癌の治療効果を高められるだけでなく、癌の再発および/または転移を抑制できる効果的な治療方法になると期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の従来技術上の問題点を解決するためになされたものであって、グルコース吸収抑制剤(glucose uptake inhibitor)およびカルシウムポンプ抑制剤(calcium pump inhibitor)を含む癌幹細胞治療用組成物を提供することを目的とする。
【0005】
しかし、本発明がなそうとする技術的課題は、以上に言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本願に記載された多様な具体例が図面を参照して記載される。下記の説明において、本発明の完全な理解のために、多様な特異的詳細事項、例えば、特異的形態、組成物、および工程などが記載されている。しかし、特定の具体例は、これらの特異的詳細事項の一つ以上なく、または他の公知の方法および形態とともに実行できる。他の例において、公知の工程および製造技術は、本発明を不必要に曖昧にしないようにするために、特定の詳細事項として記載されない。「一具体例」または「具体例」に対する本明細書全体にわたる参照は、具体例と結び付けて記載された特別な特徴、形態、組成または特性が本発明の一以上の具体例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる多様な位置で表現された「一具体例において」または「具体例」の状況は、必ずしも本発明の同一の具体例を示すものではない。追加的に、特別な特徴、形態、組成、または特性は、一以上の具体例において、何らかの適した方法で組み合わされる。
【0007】
本明細書において、「癌幹細胞(cancer stem cell)」とは、幹細胞特有の能力である自己再生や分化能力を有している包括的な意味の癌細胞を意味する。前記癌幹細胞は、正常な腫瘍の生長条件(前記「正常な腫瘍の生長条件」とは、細胞の成長に必要な営養分(ブドウ糖)が十分で腫瘍微細環境の生長条件が豊かで細胞ストレスのない状態を指し示す。)で、一般的な癌細胞とは異なって遅い速度で増殖したり、休止期(dormant state)状態を維持して抗癌剤に対する抵抗性を有していることがあり、例えば、PGC−1αなどの転写調節因子の発現が正常な腫瘍細胞と異なって統制され、主要代謝調節物質の機能が一般的な癌細胞と比較して異なることがある。このような異なる代謝調節能力とこれに機序的に連携された細胞信号伝達系の調節により、栄養欠乏状態で細胞死滅(apoptosis)に対する抵抗性を獲得し、浸潤および/または転移能がある細胞を包括的に指し示す。しかし、一般的な癌細胞に分化できる細胞であれば、これに制限はない。
【0008】
本発明は、グルコース吸収抑制剤(glucose uptake inhibitor)およびカルシウムポンプ抑制剤(calcium pump inhibitor)を有効成分として含む、癌幹細胞成長抑制用組成物または癌幹細胞治療用薬学組成物を提供する。
【0009】
本発明の一具体例において、前記グルコース吸収抑制剤は、好ましくは、グルコース誘導体(glucose derivative)であり、より好ましくは、2−脱酸ブドウ糖(2−deoxyglucose、2DG)や、細胞のエネルギー源である糖の吸収を制限して栄養欠乏状態および/または代謝エネルギー枯渇関連の小胞体ストレス状態を誘導して細胞の成長を抑制し、癌幹細胞で原形質膜カルシウム−ATPアーゼ(plasma membrane Ca2+ ATPase、PMCA)の発現を誘導(induction)する化合物であれば、これに制限はない。前記誘導体とは、グルコースの一部を変化させて得られる類似の化合物であって、正常グルコースと競争的に作用して糖の吸収を抑制する化合物を意味する。
【0010】
本発明の他の具体例において、前記カルシウムポンプ抑制剤は、好ましくは、原形質膜カルシウム−ATPアーゼ(plasma membrane Ca2+ ATPase、PMCA)の抑制剤、CaMK−2α(Ca2+/calmodulin−dependent kinase−2alpha)の抑制剤などであり、より好ましくは、カロキシン(caloxin)、ニフェジピン(nifedipine)、KN62(1−[N,O−bis(5−isoquinolinesulphonyl)−N−methyl−L−tyrosyl]−4−phenylpiperazine)、CaMK−2αに特異的に結合するsiRNAなどであってもよいが、癌幹細胞の細胞内カルシウム濃度を調節する能力を抑制できる物質であれば、これに制限はない。前記PMCAの抑制剤とは、PMCAの活性を抑制して細胞の外部にカルシウムを放出することを抑制できる物質を意味する。
【0011】
本発明のさらに他の具体例において、前記組成物は、ビグアナイド(biguanide)系化合物を追加的に含んでもよい。前記ビグアナイド系化合物は、好ましくは、ビグアナイド系糖尿病治療剤であり、より好ましくは、メトホルミン(metformin)、フェンホルミン(phenformin)、ブホルミン(buformine)などであってもよいが、細胞内エネルギー生成を妨げて栄養欠乏類似状態を誘導するビグアナイド系化合物であれば、これに制限はない。
【0012】
本発明のさらに他の具体例において、前記癌は、好ましくは、乳癌、子宮癌、胃癌、脳癌、直膓癌、大膓癌、肺癌、皮膚癌、卵巣癌、腎臓癌、血液癌、膵癌、前立腺癌、甲状腺癌、肝臓癌などであってもよいし、より好ましくは、乳癌であってもよいが、腫瘍の分化および/または増殖などの癌の進行が本発明で記述する癌幹細胞に依存的な癌の種類であれば、これに制限はない。
【0013】
前記癌幹細胞治療用薬学組成物は、追加的に他の抗癌剤と併用投与することができ、これにより、効果的に癌幹細胞だけでなく、一般的な癌細胞まで治療するのに使用可能であり、前記薬学組成物は、癌の再発または転移抑制用薬学組成物としても使用可能である。
【0014】
本発明において、前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末、または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学組成物は、ヒトを対象にすることを特徴とすることができる。前記薬学組成物は、これらに限定されるものではないが、それぞれ、通常の方法により、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤、および滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用可能である。本発明の薬学組成物は、薬剤的に許容可能な担体を含むことができる。薬剤学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。本発明の薬剤学的組成物の剤形は、上述のような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造される。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリクサー(elixir)、サスペンション、シロップ、ウェハーなどの形態で製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬の形態で製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0015】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤、および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、または鉱物油などが使用されてもよい。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含んでもよい。
【0016】
本発明に係る薬学組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髓内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、泄下、または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。本願に使用された用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内、および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学組成物はさらに、直腸投与のための坐剤の形態で投与されてもよい。
【0017】
本発明の薬学組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合、および予防または治療される特定疾患の重症度を含む様々な要因により多様に変化可能であり、前記薬学組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路、および期間によって異なるが、当業者によって適切に選択され、1日0.0001〜50mg/kg、または0.001〜50mg/kgで投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明に係る医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るグルコース吸収抑制剤(glucose uptake inhibitor)およびカルシウムポンプ抑制剤(calcium pump inhibitor)を含む癌幹細胞治療用組成物は、グルコース吸収抑制剤と、追加的にビグアナイド系薬物を用いて癌幹細胞に栄養欠乏および代謝エネルギー枯渇関連の小胞体ストレス状態を誘導し、これにより、癌幹細胞でPMCAの発現を誘導(induction)させ、カルシウムポンプ抑制剤を併用投与することによって、癌幹細胞が有するCa2+関連細胞死滅に対する抵抗性を低下させて癌幹細胞の死滅を誘導することで、効果的な癌幹細胞の治療剤として使用可能であり、これにより、多様な癌幹細胞を効果的に治療して癌の再発および/または転移を効果的に抑制できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例によるs−MDA−MB−231およびs−MCF−7細胞株のグルコース欠乏状態における生存率をクリスタルバイオレット染色法で確認した結果を示す図である。
図2】本発明の一実施例によるs−MDA−MB−231およびs−MCF−7細胞株のグルコース欠乏状態における生存率をΜTΤ assayで確認した結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例によるTUNEL assay結果を示す図である。
図4】本発明の一実施例による免疫学的分析結果を示す図である。
図5】本発明の一実施例による細胞周期分析結果を示す図である。
図6】本発明の一実施例による細胞内部のCa2+量を確認した結果を示す図である。
図7】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現量を確認した結果を示す図である。
図8】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現が抑制された細胞株の細胞内部のCa2+量を確認した結果を示す図である。
図9】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現が抑制された細胞株におけるTUNEL assay結果を示す図である。
図10】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現が抑制された細胞株における免疫学的分析結果を示す図である。
図11】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現が抑制された細胞株における細胞周期分析結果を示す図である。
図12】本発明の一実施例によるPGC−1αとCaMK−2αとの関連関係を確認した結果を示す図である。
図13】本発明の一実施例によるPGC−1αの発現が抑制された細胞株における細胞内部のCa2+量を確認した結果を示す図である。
図14】本発明の一実施例によるPGC−1αとPMCA1との結合(binding)関係をEMSAで確認した結果を示す図である。
図15】本発明の一実施例によるPGC−1αとPMCA2との結合(binding)関係をEMSAで確認した結果を示す図である。
図16】本発明の一実施例による栄養欠乏状態におけるPMCAの発現量を確認した結果を示す図である。
図17】本発明の一実施例によるCaMK−2αの発現が抑制された細胞株におけるPMCAの発現量を確認した結果を示す図である。
図18】本発明の一実施例によるカルシウムポンプ抑制剤の効果を確認した結果を示す図である。
図19】本発明の一実施例による乳癌動物モデルにおける蛋白質の発現を免疫化学染色で確認した結果を示す図である。
図20】本発明の一実施例による乳癌動物モデルにおいて併用投与による抗癌効果を確認した結果を示す図である。
図21】本発明の一実施例による癌細胞と癌幹細胞との遺伝子発現の差を確認した結果を示す図である。
図22】本発明の一実施例による癌細胞と癌幹細胞のカルシウム調節関連蛋白質の発現をウェスタンブロッティングで確認した結果を示す図である。
図23】本発明の一実施例による癌幹細胞のカルシウムイオン調節機序を簡略に示す模式図である。
図24】本発明の一実施例による時間に応じたCaMK−2α信号伝達機序の変化を確認した結果を示す図である。
図25】本発明の一実施例によるpNF−kBの役割を確認した結果を示す図である。
図26】本発明の一実施例によるTUNEL assay結果を示す図である。
図27】本発明の一実施例によるウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図28】本発明の一実施例による細胞の生存率を確認した結果を示す図である。
図29】本発明の一実施例による癌幹細胞に基づく動物モデルの癌の生長を確認した結果を示す図である。
図30】本発明の一実施例による癌幹細胞に基づく動物モデルの蛋白質の発現量を確認した結果を示す図である。
図31】本発明の一実施例による癌幹細胞に基づく動物モデルの蛋白質の発現量を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0021】
〔実施例1〕癌幹細胞の作製
癌幹細胞(cancer stem cell)を調製するために、乳癌細胞株のMDA−MB−231とMCF−7細胞株のそれぞれの親細胞(parental cell)であるp−MDA−MB−231とp−MCF−7を長期間栄養欠乏状態を誘導して栄養欠乏状態で細胞死滅を回避し生存した細胞(s−MDA−MB−231およびs−MCF−7)を選別して、通常の癌幹細胞特異的生物学的特性の分析により検証後、癌幹細胞を作製した。癌幹細胞の機序究明および癌幹細胞を抑制できる治療剤の開発のために、s−MDA−MB−231とs−MCF−7細胞にそれぞれshPGC−1αpGFP−V−RSベクター(Origene)を形質注入(transfection)して、shPGC−1αを安定的に発現する幹細胞(stem cell)であるsshPGC−1α−MDA−MB−231とs−shPGC−1α−MCF−7をそれぞれ作製して実験に使用した。それぞれの細胞株は、10%のウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)が含まれたRPMI−1640培地で培養した。
【0022】
〔実施例2〕癌幹細胞のグルコース欠乏状態における生存率の確認
グルコース欠乏状態(glucose deprivation)で癌細胞と癌幹細胞の生存率を比較するために、実施例1と同様の方法で用意したp−MDA−MB−231、p−MCF−7、s−MDA−MB−231、およびs−MCF−7細胞株を、96ウェルプレートに5X10/100uLの濃度となるようにそれぞれ添加し、培養容器面積の70%程度になるまで培養した後に、グルコースが欠乏している10%FBSが添加されたRPMI−1640培地に交換して、3日間追加培養した。そして、それぞれ0、12、24、36、48、60、および72時間に細胞の生存率を確認した。細胞の生存率は、クリスタルバイオレット染色(crystal violet staining)およびMTT(3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide)assayにより確認した。クリスタルバイオレット染色結果は図1に示し、ΜTΤ assay結果は図2に示した。
【0023】
図1に示されているように、クリスタルバイオレットで染色して培養容器の表面に付着している細胞の数を確認した結果、癌幹細胞であるs−MDA−MB−231およびs−MCF−7細胞株の場合に、親細胞のp−MDA−MB−231およびp−MCF−7と比較して著しく高い生存率を示すことを確認した。
【0024】
また、図2に示されているように、培養初期段階(12時間培養後)では、癌幹細胞と一般的な癌細胞との生存率には有意な差を示していないが、培養後期段階(48時間培養後)へいくほど癌幹細胞と一般的な癌細胞との生存率には著しい差を示すことを確認した。特に、s−MDA−MB231細胞株の場合には、癌細胞と癌幹細胞との間の生存率が40%以上差が生じることを確認した。
【0025】
前記結果を通して、癌幹細胞の場合、グルコース不足状態、すなわち、栄養欠乏状態で一般的な癌細胞と比較して高い生存率を示すことを確認し、これにより、癌幹細胞は、栄養欠乏状態、すなわち、エネルギー不足状況に対する高い抵抗性を有していることを確認できた。
【0026】
〔実施例3〕癌幹細胞の細胞死滅抵抗性の確認
(3.1.TUNEL assay)
癌幹細胞が栄養欠乏状態で高い生存率を示す原因が細胞死滅(apoptosis)に対する抵抗性によるかを確認するために、実施例2と同様の方法により、グルコース欠乏状態で40時間培養したp−MDA−MB−231、p−MCF−7、s−MDA−MB−231、およびs−MCF−7細胞株をそれぞれ回収して、TUNEL assayを実施した。TUNEL assayは、回収された細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液(paraformaldehyde solution)を用いて48時間固定させた後に、Terminal Deoxynucleotidyl Transferase dUTP Nick end Labeling(TUNEL)kitを用いてプロトコルに従って染色し、蛍光顕微鏡を用いて観察しながら、Zeiss LSM Image Browser software programを用いて蛍光イメージを分析した。その結果は図3に示した。
【0027】
図3に示されているように、一般的な癌細胞であるp−MDA−MB−231およびp−MCF−7細胞株では、細胞死滅によるDNA断片化(DNA fragmentation)が多数の細胞で観察されたが、癌幹細胞のs−MDA−MB−231およびs−MCF−7細胞株では、DNA断片化が生じた細胞の数が少ないことを確認した。これにより、癌幹細胞は、栄養欠乏状態で誘発される細胞死滅(apoptosis)に対して抵抗性を有していることを確認でき、これにより、栄養欠乏状態でも高い生存率を示すことを確認できた。
【0028】
(3.2.免疫学的分析(Immunoblot analysis、western blotting))
癌幹細胞が栄養欠乏状態で高い生存率を示す原因である細胞死滅(apoptosis)に対する抵抗性に細胞死滅関連の蛋白質が関与するかを確認するために、実施例2と同様の方法により、グルコース欠乏状態で40時間培養したp−MDA−MB−231、p−MCF−7、s−MDA−MB−231、およびs−MCF−7細胞株をそれぞれ回収して、免疫学的分析を実施した。回収された細胞は、冷たいPBS(phosphate buffered saline)緩衝溶液を用いて2回洗浄し、RIPA緩衝溶液を用いて細胞を溶解させて蛋白質を分離し、分離された蛋白質は、後の実験のためにBCA assayにより蛋白質の量を測定した。そして、それぞれの細胞株から獲得した蛋白質20ugを8−10%SDS−ポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel)を用いて分離し、電気を利用してPVDF膜(membrane)に移動させた。蛋白質の移動したPVDP膜は、5%脱脂粉乳を用いて室温で1時間処理した後に、caspase−3、caspase−7、Bcl−2、およびbeta−actin(対照群、control)に対するそれぞれの一次抗体(primary antibody)とともに4℃で16時間反応させた。抗体と反応させたPVDP膜は、TBST溶液を用いて3回洗浄して結合していない一次抗体を除去し、HPRの結合されている二次抗体(secondary antibody)と室温で1時間追加反応させた。反応が完了した後に、TBST溶液を用いて洗浄して二次抗体をすべて除去し、ECL溶液を処理し、3分間反応させた後に、Kodak X−OMAT AR Filmで現像した。その結果は図4に示した。
【0029】
図4に示されているように、s−MDA−MB231細胞株では、活性化されたcaspase(cleaved form)3および7の量がすべて減少し、s−MCF−7では、活性化されたcaspase7および9の量がすべて減少することを確認し、前記結果を通して、栄養欠乏状態における癌幹細胞は、細胞死滅マーカーとして知られているcaspaseの発現およびオートファジー細胞死滅(autophatic cell death)関連物質であるp62およびLC3Bが減少することを確認し、逆に、抗細胞死滅マーカー(anti−apoptosis marker)として知られているBcl−2の発現が増加して、栄養欠乏状態で生存能力が増加することを確認できた。
【0030】
(3.3.細胞周期分析(Cell cycle analysis))
癌幹細胞の、栄養欠乏状態における細胞死滅(apoptosis)が誘発されるかを確認するために、実施例2と同様の方法により、グルコース欠乏状態で12時間(初期、early phase)および40時間(後期、late phase)培養したp−MDA−MB−231、p−MCF−7、s−MDA−MB−231、およびs−MCF−7細胞株をそれぞれ回収して、細胞周期分析を実施した。回収された細胞は、70%エタノール(ethanol)を用いて固定させた後に、40ug/mL propidium iodide(PI)と100ug/mLのRNaseとが混合されているPBS緩衝溶液で30分間反応させてtotal DNAをすべて染色し、染色した細胞の細胞周期分析は、FACS Calibur Flow Cytometerを用いて観察した。G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の割合(proportion)は、FACSおよびDNA software program(FlowJo)を用いて測定した。その結果は図5に示した。
【0031】
図5に示されているように、初期段階(early phase)では、一般的な癌細胞と癌幹細胞とで細胞周期により有意な差を示していないのに対し、後期段階(late phase)では、癌幹細胞でsub−G0/Gl期の細胞数が著しく減少したことを確認した。前記結果を通して、栄養欠乏状態の後期段階で、一般的な癌細胞の場合には細胞死滅が増加したのに対し、癌幹細胞の場合には細胞死滅が減少したことを確認できた。
【0032】
前記結果を通して、癌幹細胞は、栄養欠乏状態で一般的な癌細胞と比較して細胞死滅(apoptosis)に対する抵抗性(anti−apoptosis)を有していて、栄養欠乏状態でも高い生存率を示すことを確認できた。
【0033】
〔実施例4〕癌幹細胞の細胞死滅抵抗性の原因の確認
(4.1.細胞内部のCa2+量の確認)
細胞死滅が起こる多くの細胞の場合、小胞体(endoplasmic reticulum)から細胞質(cytosol)にCa2+が分泌したり、原形質膜(plasma membrane)を通して細胞の内部にCa2+が流入する現象が生じて細胞内部のカルシウム濃度が維持されないことから、癌幹細胞でもCa2+の移動現象が生じるかを確認するために、実施例3と同様の方法により、栄養欠乏状態の細胞株を用意した後に、カルシウム染色剤のfura−2−AMを用いて細胞内部のCa2+量を確認した。その結果は図6に示した。
【0034】
図6に示されているように、初期段階では、一般的な癌細胞と癌幹細胞との細胞内部のCa2+量は大きな差を示していないが、後期段階では、癌幹細胞の細胞内部のCa2+量が一般的な癌細胞と比較して高いことを確認した。
【0035】
(4.2.CaMK−2α(Ca2+/calmodulin−dependent kinase−2alpha)の発現量の確認)
癌幹細胞の細胞内部のCa2+量が一般的な癌細胞と比較して高い理由を確認するために、CaMK−2αの発現量をウェスタンブロッティング(western blotting)を利用して確認した。ウェスタンブロッティングは、実施例3.2と同様の方法で実施した。その結果は図7に示した。
【0036】
図7に示されているように、癌幹細胞では、初期および後期段階ともにおいてCaMK−2αの発現量が増加したことを確認し、前記結果を通して、癌幹細胞では、CaMK−2αの発現量が増加し、栄養欠乏および代謝エネルギーストレス状態で小胞体から細胞の内部に遊離されたCa2+量を適正水準に調節して、細胞死滅に対する抵抗性を有することを確認できた。
【0037】
(4.3.CaMK−2α(Ca2+/calmodulin−dependent kinase−2alpha)の発現抑制効果の確認)
癌幹細胞のCaMK−2αの発現を抑制する場合の効果を確認するために、それぞれの細胞株にバイオニアから購入したCaMK−2α siRNAを形質注入(transfection)して、CaMK−2αの発現が抑制された癌幹細胞株を作製した。そして、実施例4.1および4.2と同様の方法でCaMK−2αの発現量および細胞内部のCa2+量を測定した。その結果は図8に示した。
【0038】
図8に示されているように、CaMK−2αの発現が抑制された癌幹細胞では、細胞内部のCa2+量が減少しないことを確認し、前記結果を通して、癌幹細胞でのCaMK−2αの発現は、細胞内部のCa2+量を維持するのに重要な役割を果たすことを確認できた。
【0039】
また、CaMK−2αの発現が抑制された癌幹細胞株を用いて、実施例3と同様の方法でTUNEL assay、免疫学的分析、および細胞周期分析を実施した。その結果はそれぞれ図9図11に示した。
【0040】
図9に示されているように、栄養欠乏状態で癌幹細胞は一般的に細胞死滅に対する抵抗性を示すが、siRNAを用いてCaMK−2αの発現を抑制させた癌幹細胞の場合には、一般的な癌細胞と同じく、細胞死滅が誘発されてDNA断片化が誘発されたことを確認した。
【0041】
図10に示されているように、CaMK−2αの発現が抑制された癌幹細胞の場合には、一般的な癌細胞と同じく、栄養欠乏状態で活性化されたcaspaseの量が再び増加し、Bcl−2の発現量は減少することを確認した。また、リン酸化されたAKT(pAKT)、リン酸化されたIkB(pIkB)、およびリン酸化されたNF−kB(pNF−kB)の量は減少することを確認し、カルシウムイオンの分泌通路であるIP3Rは増加することを確認した。
【0042】
前記結果を通して、癌幹細胞のCaMK−2αの発現を抑制させると、癌幹細胞の栄養欠乏状態における細胞死滅に対する抵抗性が減少して、一般的な癌細胞と類似の結果を示すことを確認できた。
【0043】
図11に示されているように、CaMK−2αの発現が抑制された癌幹細胞の場合には、一般的な癌細胞と同じく、後期段階でsub−G0/G1期の細胞の割合が増加したことを確認し、これにより、栄養欠乏状態で癌幹細胞の細胞死滅が増加したことを確認できた。
【0044】
前記結果を通して、癌幹細胞は、栄養欠乏状態でCaMK−2αの発現量を増加させて細胞内部のCa2+量を適正水準に調節することによって、Ca2+関連細胞死滅(Ca2+ mediated apoptosis)に対する抵抗性を有し、癌幹細胞のCaMK−2αの発現を抑制すると抵抗性を失うことを確認できた。
【0045】
(4.4.PGC−1α(peroxisome proliferator activated receptor gamma coactivator1)とCaMK−2αとの関連関係の確認)
従来栄養欠乏状態で発現が調節されると知られているPGC−1αがCa2+関連細胞死滅に対する抵抗性と関係があるかを確認するために、s−MDA−MB−231細胞株にsh−PGC−1αベクター(Origene)を形質注入(transfection)して、PGC−1αの発現を抑制させた癌幹細胞株を作製し、実施例3.2と同様の方法で免疫学的分析を実施した。その結果は図12に示した。
【0046】
図12に示されているように、PGC−1αの発現が抑制された癌幹細胞では、初期および後期段階でCaMK−2αの発現も抑制され、一般的な癌細胞と同じく、栄養欠乏状態でBcl−2の発現およびpAKTおよびpNF−kBの発現が減少することを確認できた。また、小胞体から分泌したCa2+を細胞の外部に排出させるのに関与すると知られているPMCA(plasma membrane Ca2+ ATPase)蛋白質の発現も減少することを確認した。
【0047】
前記結果を通して、PGC−1αの発現が抑制された癌幹細胞では、CaMK−2αの発現およびPMCAの発現が抑制されることを確認したため、細胞内部のCa2+量にはどのような変化があるかを確認するために、実施例4.1と同様の方法でCa2+量を確認した。その結果は図13に示した。
【0048】
図13に示されているように、栄養欠乏状態の初期段階では有意な差を示していないが、後期段階では、PGC−1αの発現が抑制された癌幹細胞では細胞内部のCa2+量が増加し、細胞死滅が起こることを確認した。
【0049】
前記結果を通して、栄養欠乏状態の時、癌幹細胞ではPGC−1αの発現が増加してCaMK−2αの発現を誘導し、これにより、細胞内部のCa2+量を適正水準に維持させることによって、Ca2+関連細胞死滅(Ca2+ mediated apoptosis)に対する抵抗性を有することを確認でき、癌幹細胞が栄養欠乏状態で生存率が増加するのにはPGC−1αが重要な役割を担うことを確認できた。
【0050】
〔実施例5〕癌幹細胞におけるPGC−1αの役割の確認
(5.1.PGC−1αとPMCA1との結合関係の確認)
PGC−1αとPMCA1との関連関係を確認するために、EMSA kitを用いてプロトコルに従ってEMSA assayを実施した。結合配列(probe)としては、PMCA1のプロモーター(promoter)の結合部位配列である「TTGACCTTTGGCCCA」を使用した。その結果は図14に示した。
図14に示されているように、後期段階の癌幹細胞では、HNF4α、PGC−1α、およびDNA(probe)との結合が増加するのに対し、一般的な癌細胞や、PGC−1αの発現が抑制された癌幹細胞では結合が減少することを確認した。前記結果を通して、栄養欠乏状態でPGC−1αがHNF4αと結合してPMCA1のプロモーター部位に結合してPMCA1の発現を調節することを確認できた。
【0051】
(5.2.PGC−1αとPMCA2との結合関係の確認)
PGC−1αとPMCA2との関連関係を確認するために、EMSA kitを用いてプロトコルに従ってEMSA assayを実施した。結合配列(probe)としては、PMCA2のプロモーター(promoter)の結合部位配列である「CTGGAAATACCCC」を使用した。その結果は図15に示した。
【0052】
図15に示されているように、栄養欠乏状態の癌幹細胞では、NF−kB、PGC−1α、およびDNA(probe)の結合が増加し、NF−kBに対する抗体であるanti−p65またはanti−p50を追加的に入れた場合には、抗体が追加的に結合してsupershiftが起こることを確認した。前記結果を通して、栄養欠乏状態でPGC−1αがNF−kBと結合し、PMCA2のプロモーター部位に結合してPMCA2の発現を調節することを確認できた。
【0053】
(5.3.PMCAと栄養欠乏状態との関連関係の確認)
栄養欠乏状態でPMCAの発現量の変化を確認するために、実施例2と同様の方法により、栄養欠乏状態でそれぞれの細胞株を培養し、培養時間に応じてqRT−PCRを実施した。それぞれの時間に回収した細胞は、RNeasy Mini Kitを用いてプロトコルに従ってRNAを抽出し、抽出されたRNA1ugを用いて、one step RT−PCR kitを用いてqRT−PCRを実施した。使用したプライマー配列を表1に記載した。その結果は図16に示した。また、CaMK−2αの発現を抑制させた細胞株を用いて同様の実験を実施した結果は図17に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
図16に示されているように、s−MDA−MB−231細胞株では、培養時間が増加するに伴ってPMCA1およびPMCA2の発現が増加し、s−MCF−7細胞株では、PMCA1、PMCA2、およびPMCA4の発現が増加することを確認した。また、図17に示されているように、CaMK−2αの発現が抑制された細胞株の場合には、癌幹細胞とは異なって、栄養欠乏状態でPMCAの発現量が増加しないことを確認した。
【0056】
(5.4.PMCA抑制効果の確認)
栄養欠乏状態でPMCAを抑制した時、癌幹細胞のカルシウム濃度調節能力が変化するかを確認するために、原形質膜でCa2+−ATPアーゼ(calcium ATPase)として作用するPMCAの抑制剤でカルシウムポンプ抑制剤(calcium pump inhibitor)であるカロキシン(caloxin)を使用し、小胞体でCa2+−ATPアーゼ(calcium ATPase)として作用するSERCA(sarco/endoplasmic reticulum Ca2+−ATPase)の抑制剤であるタプシガルギン(thapsigargin)を用いてPMCAまたはSERCAの活性を抑制させた後に、癌幹細胞における細胞外Ca2+量の変化を測定した。その結果は図18に示した。
【0057】
図18に示されているように、カルシウムポンプ抑制剤のカロキシンを処理すると、癌幹細胞の細胞外カルシウム濃度が低くなることを確認し、細胞の生存率も一般的な癌細胞と同じく減少することを確認した。反面、SERCAの抑制剤であるタプシガルギンを処理した場合には、癌幹細胞の細胞外カルシウム濃度が高く維持され、細胞の生存率も高いことを確認した。前記結果を通して、カルシウムポンプ抑制剤を処理してPMCAの活性を抑制させると、栄養欠乏状態における癌幹細胞の生存率を低下させられることを確認できた。
【0058】
前記結果を通して、栄養欠乏状態および代謝エネルギー枯渇関連の小胞体ストレス状態で、癌幹細胞は、PGC−1αの発現を増加させてCaMK−2αの発現を促進し、また、PMCA1およびPMCA2のcoactivatorとして作用してPMCA蛋白質の発現を増加させて、栄養欠乏状態で小胞体から細胞質に分泌したCa2+を細胞の外部に排出させる作用により、Ca2+がミトコンドリアに蓄積されて細胞死滅が誘導されるCa2+関連細胞死滅(Ca2+ mediated apoptosis)に対する抵抗性を示すことを確認できた。また、前記結果を通して、一般的な癌治療に使用される栄養欠乏状態を誘導する方法に、追加的にカルシウムポンプ抑制剤を組み合わせると、癌幹細胞に効果的な治療方法として使用可能であることを予想できた。
【0059】
〔実施例6〕癌幹細胞に効果的な治療方法の確認
(6.1.動物モデルの作製)
癌幹細胞に効果的な治療方法を確認するために、乳癌動物モデルを作製した。乳癌動物モデルの作製のために、乳癌細胞であるp−MDA−MB−231とp−MCF−7細胞株と、乳癌幹細胞であるs−MDA−MB−231とs−MCF−7細胞株をin vitroでそれぞれ培養した後に、1.0X10 cells/mouseとなるように5−6週目BALB/c nude miceのupper left flank部位に注入し、7日間水と飼料を提供し、22℃で12時間の周期で光を調節して、乳癌動物モデルを作製した。
【0060】
(6.2.免疫化学染色(Immunohistochemistry))
実施例6.1と同様の方法で作製した乳癌動物モデルにおいてPMCA1、PMCA2、PGC−1α、およびCaMK−2αの発現が増加するかを確認するために、免疫化学染色法を利用して確認した。Standard surgical pathology protocolsに従ってマウスの癌組織を回収して、10%neutral buffered formalinを用いて固定化させ、再びパラフィンに固定させて5umの間隔で組織を切った後、パラフィンを除去した。そして、pH6のクエン酸塩緩衝溶液(citrate buffer)中で抗原復旧(antigen retrieval)を実施し、3%過酸化水素(hydrogen peroxide)を5分間処理した後に、PMCA1、PMCA2、PGC−1α、およびCaMK−2αに対する1:100の濃度で希釈したそれぞれの一次単クローン抗体(primary monoclonal antibody)を処理した。そして、ヘマトキシリン(haematoxylin)を用いて逆染色した後に、乾燥させて観察した。染色された部位は、MetaMorph4.6softwareを用いて定量した。その結果は図19に示した。
【0061】
図19に示されているように、癌幹細胞を注入した乳癌動物モデルにおいてPMCA1、PMCA2、PGC−1α、およびCaMK−2αはすべて発現が増加したことを確認した。
【0062】
(6.3.癌幹細胞のための治療方法の確認)
実施例6.1と同様の方法で作製した乳癌動物モデルを9匹ずつ1つの実験群に分類し、グルコース吸収抑制剤(glucose uptake inhibitor)の2−脱酸ブドウ糖(2−deoxyglucose、2DG)を500mg/kg、ビグアナイド(biguanide)系薬物のメトホルミン(metformin)を250mg/kg、そしてカルシウムポンプ抑制剤のカロキシン2al(caloxin2al)を200mg/kgとなるように薬物を組み合わせて、45日間、1日1回腹腔注射(intraperitoneal injection)し、毎日、カリパス(calipers)を用いて癌の横(a)および縦(b)の直径を測定し、「4/3XπX(acmXbcm)X1/2」式を用いて癌の大きさ(volume)を測定した。その結果は表2および図20に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2および図20に示されているように、一般的な癌細胞と癌幹細胞の癌の大きさ(volume)を比較すると、癌幹細胞の場合に、癌の成長が著しく速いことを確認した。また、癌幹細胞の場合、2−脱酸ブドウ糖のみを処理した場合には対照群と比較して癌の大きさがやや減少したことを確認でき、2−脱酸ブドウ糖とメトホルミンを併用投与した場合にも癌の大きさがやや減少するが、2−脱酸ブドウ糖とカロキシンを併用投与する場合に癌の大きさが5倍以上減少することを確認した。また、2−脱酸ブドウ糖、カロキシン、およびメトホルミンを併用投与した場合には癌幹細胞がほとんど成長しないことを確認した。
【0065】
前記結果を通して、グルコース吸収抑制剤とビグアナイド系薬物を用いて癌幹細胞に栄養欠乏状態および代謝エネルギー枯渇関連の小胞体ストレス状態を誘導し、これにより、癌幹細胞でPMCAの発現を誘導(induction)させ、カルシウムポンプ抑制剤を併用投与することによって、癌幹細胞が有するCa2+関連細胞死滅に対する抵抗性を低下させて癌幹細胞の死滅を誘導し、効果的な癌幹細胞特異的な治療方法として使用可能であることを確認でき、これにより、既存の抗癌剤の限界である癌幹細胞による再発および/または転移を効果的に抑制可能であることを確認できた。
【0066】
〔実施例7〕癌幹細胞の生存機序の確認
(7.1.癌細胞と癌幹細胞との遺伝子発現の差の確認)
癌幹細胞の生存機序を確認するために、実施例2と同様の方法により、グルコース欠乏状態で40時間培養したp−MDA−MB−231、p−MCF−7、s−MDA−MB−231、およびs−MCF−7細胞株をそれぞれ回収し、実施例5.3と同様の方法でRNAを抽出してマイクロアレイ(microarray)を実施した。その結果は図21に示した。
【0067】
図21に示されているように、Ca2+−ATPアーゼ(calcium ATPase)として作用するSERCA2遺伝子が癌幹細胞で有意に増加することを確認した。
【0068】
また、カルシウムを調節する遺伝子の発現の差を確認するために、実施例3.2と同様の方法でウェスタンブロッティングを実施した。その結果は図22に示した。
【0069】
図22に示されているように、癌幹細胞では、SERCA2の発現は増加し、逆にIP3Rの発現は減少することを確認した。一般的に、グルコースが不足する状況になると、細胞ではIP3Rという通路を通してカルシウムイオンが細胞質に分泌し、カルシウムの分泌が急激に増加すると、最終的には細胞死滅が誘導されるが、この時、SERCA2を通して再びカルシウムイオンが再吸収されて細胞死滅を抑制させられることが知られている。
【0070】
前記結果を通して、癌幹細胞では、SERCA2の発現が増加してカルシウムの再吸収を促進させるだけでなく、IP3Rの発現を阻害してカルシウムイオンが細胞質に分泌することを同時に抑制することを確認できた。
【0071】
前記結果を通して、図23に示されているように、CaMK−2αの調節によって、癌幹細胞は、一次的にはIP3Rの発現を抑制してカルシウムイオンの分泌を抑制し、二次的には分泌したカルシウムイオンをSERCAを通して再び細胞の内部に吸収して細胞死滅を抑制して、営養分が枯渇した状態でも生存能力が増加することを確認できた。
【0072】
(7.2.CaMK−2α信号伝達機序の変化の確認)
栄養欠乏状態で時間に応じたCaMK−2α信号伝達機序の変化を確認するために、実施例3.2と同様の方法でウェスタンブロッティングを実施し、pNF−kBを用いて実施例5.1と同様の方法でEMSA assayを実施した。その結果は図24および図25に示した。
【0073】
図24に示されているように、癌幹細胞では、一般的な癌細胞とは異なって、栄養欠乏状態が進行するに伴ってCaMK−2α信号伝達機序の信号伝達物質が活性化されることを確認した。
【0074】
また、図25に示されているように、pNF−kBは、IP3Rの抑制子であるBcl−2とSERCA2の発現を増加させる転写因子(transcription factor)として作用することを確認した。前記結果を通して、CaMK−2α信号伝達が活性化されると、NF−kBがリン酸化されて活性化され、活性化されたNF−kBによってBcl−2およびCERCA2の発現が増加してカルシウムイオンの再吸収が増加するだけでなく、IP3Rの発現が抑制されてカルシウムイオンの分泌が抑制されることを確認できた。
【0075】
(7.3.CaMK−2α信号伝達機序の抑制効果の確認)
CaMK−2α信号伝達を抑制した時の効果を確認するために、CaMK−2αの抑制剤としてよく知られているKN62(1−[Ν,O−bis(5−isoquinolinesulphonyl)−N−methyl−L−tyrosyl]−4−phenylpiperazine)を癌幹細胞に10uMの濃度で処理した後、実施例3.1と同様の方法でTUNEL assayを実施して細胞死滅およびDNA断片化を確認し、実施例3.2と同様の方法でウェスタンブロッティングを実施して遺伝子の発現を確認し、実施例2と同様の方法で細胞の生存率を確認した。その結果は図26図28に示した。
【0076】
図26図28に示されているように、栄養欠乏状態の癌幹細胞でCaMK−2α信号伝達が抑制されると、NF−kBのリン酸化が行われず、これによってIP3Rの発現が阻害され、逆にSERCA2の発現は増加してカルシウムイオンの分泌が増加し、最終的には細胞死滅(apoptosis)が誘導されることを確認し、前記結果を通して、CaMK−2αの抑制剤は、癌幹細胞が有するCa2+関連細胞死滅に対する抵抗性を低下させて癌幹細胞の死滅を誘導し、効果的な癌幹細胞特異的な治療方法として使用可能であることを確認できた。
【0077】
〔実施例8〕癌幹細胞動物モデルの特徴の確認
実施例6と同様の方法で作製した動物モデルの特徴を確認するために、生成された乳癌組織を抽出して癌の大きさを測定した。その結果は図29に示した。また、乳癌組織の蛋白質の発現程度をウェスタンブロッティングと免疫化学染色法を実施して確認した。ウェスタンブロッティングは、実施例3.2と同様の方法で実施し、免疫化学染色法は、実施例6.2と同様の方法で実施した。その結果は図30および図31に示した。
【0078】
図29に示されているように、癌幹細胞に基づく動物モデルの場合、一般的な癌細胞に基づく動物モデルより癌の成長速度が速いことを確認した。また、図30および図31に示されているように、in vitro実験と同じく、癌幹細胞に基づく動物モデルの場合、一般的な癌細胞に基づく動物モデルと比較してIP3Rの発現は減少し、SERCA2の発現は増加していることを確認した。
【0079】
前記結果を通して、癌幹細胞の場合、体内の劣悪な状況でCaMK−2α信号伝達機序を活性化させ、最終的にはIP3Rの発現は抑制し、SERCA2の発現は増加させてカルシウムイオンの分泌による細胞死滅を抑制して体内で癌の生存能力を増加させ、再発および/または転移を促進可能であることを確認できた。これにより、癌幹細胞に効果的な癌幹細胞治療用組成物は、既存の癌治療の限界を克服して癌の治療効果を極大化できるだけでなく、癌の再発および/または転移を抑制できる効果的な治療方法として使用可能であることを確認できた。
【0080】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実現例に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるわけではない点は明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付した請求項とその等価物によって定義されるというべきである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の組成物は、効果的に癌幹細胞の死滅を誘導することで、癌幹細胞の治療剤として使用可能であり、これにより、多様な癌幹細胞を効果的に治療して癌の再発および/または転移を効果的に抑制できる薬学組成物として使用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31