(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電動オイルポンプと、前記電動オイルポンプからオイルが供給されるとともに、発進変速段を確立する第1摩擦締結要素と、前記第1摩擦締結要素を動力伝達状態として発進する際に解放状態とされる第2摩擦締結要素と、前記第2摩擦締結要素に供給されるオイルを指示電流に応じてドレーンするとともに指示電流を低下させることでドレーン度合いが小さくなるソレノイドと、を備える車両用駆動制御装置の制御方法であって、
車両が停止した状態で成立する自動停止条件が成立した場合に、走行用駆動源を自動停止することと、
前記自動停止条件の成立に応じた前記走行用駆動源の自動停止中に電動オイルポンプを駆動し、前記第1摩擦締結要素と前記第2摩擦締結要素とにオイルを供給することと、
前記自動停止中に、前記ソレノイドへの指示電流を前記第2摩擦締結要素が解放状態となる指示電流の最小値よりも低下させることと、
を含む車両用駆動制御装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、車両用駆動制御装置100を含む車両の要部を示す図である。車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、バリエータ20と、副変速機構30と、車軸部4と、駆動輪5と、を備える。以下では、車両用駆動制御装置100を単に駆動制御装置100と称す。
【0016】
エンジン1は、車両の走行用駆動源を構成する。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aを締結することで、動力伝達効率を高めることができる。バリエータ20と副変速機構30とは、入力された回転速度を変速比に応じた回転速度で出力する。車軸部4は、減速ギヤや差動装置や駆動車軸を有して構成される。エンジン1の動力は、トルクコンバータ2、バリエータ20、副変速機構30及び車軸部4を介して駆動輪5に伝達される。
【0017】
バリエータ20は無段変速機構であり、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、ベルト23と、を備える。以下では、プライマリをPRIと称し、セカンダリをSECと称す。
【0018】
PRIプーリ21は、固定プーリ21aと、可動プーリ21bと、PRI室21cと、を有する。PRIプーリ21では、PRI室21cにPRI圧が供給される。
【0019】
SECプーリ22は、固定プーリ22aと、可動プーリ22bと、SEC室22cと、を有する。SECプーリ22では、SEC室22cにSEC圧が供給される。
【0020】
ベルト23は、PRIプーリ21の固定プーリ21aと可動プーリ21bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面と、SECプーリ22の固定プーリ22aと可動プーリ22bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面に巻き掛けられる。
【0021】
バリエータ20は、PRIプーリ21とSECプーリ22との溝幅をそれぞれ変更することでベルト23の巻掛け径を変更して変速を行うベルト式無段変速機構を構成している。
【0022】
このようなバリエータ20では、PRI圧を制御することにより、可動プーリ21bが作動し、PRIプーリ21の溝幅が変更される。また、SEC圧を制御することにより、可動プーリ22bが作動し、SECプーリ22の溝幅が変更される。
【0023】
PRI圧及びSEC圧は、ライン圧PLを元圧として油圧制御回路11で生成される。PRI圧及びSEC圧のうち一方には、ライン圧PLが適用されてもよい。この場合、バリエータ20を片調圧方式のバリエータとして構成することができる。
【0024】
副変速機構30は有段変速機構であり、前進2段、後進1段の変速段を有する。副変速機構30は、前進用変速段として、1速と、1速よりも変速比が小さい2速を有する。副変速機構30は、エンジン1から駆動輪5に至るまでの動力伝達経路において、バリエータ20の出力側に直列に設けられる。
【0025】
副変速機構30は、バリエータ20に直接接続されてもよく、ギヤ列など他の構成を介してバリエータ20に間接的に接続されてもよい。副変速機構30は、前進3段以上の多段の変速段を有していてもよい。
【0026】
副変速機構30はバリエータ20とともに、自動変速機構3を構成する。バリエータ20と副変速機構30とは構造上、個別の変速機構として構成されてもよい。
【0027】
車両は、オイルポンプ10と、油圧制御回路11と、コントローラ12と、をさらに備える。油圧制御回路11は、オイルポンプ10を含む構成として把握されてもよい。
【0028】
オイルポンプ10は、エンジン1により駆動されてオイルを吐出する。バリエータ20や副変速機構30には、オイルポンプ10を油圧源として油圧が供給される。
【0029】
油圧制御回路11は、オイルポンプ10が吐出したオイルの圧力すなわち油圧を調整してバリエータ20や副変速機構30の各部位に伝達する。油圧制御回路11では例えば、ライン圧PLやPRI圧やSEC圧の調整が行われる。油圧制御回路11には、電動オイルポンプ111がさらに設けられる。電動オイルポンプ111については後述する。
【0030】
コントローラ12は電子制御装置であり、油圧制御回路11を制御する。コントローラ12には、回転センサ41や、回転センサ42や、回転センサ43の出力信号が入力される。
【0031】
回転センサ41は、バリエータ20の入力側の回転速度を検出するためのバリエータ入力側回転センサである。回転センサ42は、バリエータ20の出力側の回転速度を検出するためのバリエータ出力側回転センサである。回転センサ42は具体的には、バリエータ20の出力側且つ副変速機構30の入力側の回転速度を検出する。回転センサ43は、副変速機構30の出力側の回転速度を検出するための副変速機構出力側回転センサである。回転センサ43は、駆動輪5の回転状態を示すパルス信号を検出するように構成される。
【0032】
バリエータ20の入力側の回転速度は具体的には、バリエータ20の入力軸の回転速度である。バリエータ20の入力側の回転速度は、前述の動力伝達経路において、例えばギヤ列をバリエータ20との間に挟んだ位置の回転速度であってもよい。バリエータ20の出力側の回転速度や、副変速機構30の出力側の回転速度についても同様である。
【0033】
コントローラ12には、さらにこのほかアクセル開度センサ44や、インヒビタスイッチ45や、エンジン回転センサ46や、油温センサ47などの出力信号が入力される。
【0034】
アクセル開度センサ44は、アクセルペダルの操作量を表すアクセル開度APOを検出する。インヒビタスイッチ45は、セレクトレバーの位置を検出する。エンジン回転センサ46は、エンジン1の回転速度Neを検出する。油温センサ47は、自動変速機構3の油温を検出する。
【0035】
コントローラ12は、これらの信号に基づき変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を油圧制御回路11に出力する。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、ライン圧やPRI圧やSEC圧を制御したり、油圧経路の切り換えを行ったりする。
【0036】
これにより、油圧制御回路11からバリエータ20や副変速機構30の各部位に変速制御信号に応じた油圧の伝達が行われる。結果、バリエータ20や副変速機構30の変速比が、変速制御信号に応じた変速比すなわち目標変速比に変更される。
【0037】
駆動制御装置100は、エンジン1から駆動輪5への動力の伝達を制御するための装置であり、トルクコンバータ2やバリエータ20や副変速機構30のほか、オイルポンプ10や、油圧制御回路11や、コントローラ12や、回転センサ41、回転センサ42及び回転センサ43を有して構成されている。
【0038】
本実施形態では、コントローラ12は、バリエータ20や副変速機構30の変速制御のほか、エンジン1の自動停止や再始動を行う。エンジン1の自動停止や再始動は例えば、エンジン制御を行うためのエンジン用コントローラで行われてもよい。この場合、駆動制御装置100は、エンジン用コントローラや、変速制御やエンジン制御を統合するための統合コントローラをさらに有して構成されていると把握することができる。
【0039】
次に、駆動制御装置100を構成する油圧制御回路11及び副変速機構30について、さらに説明する。
【0040】
図2は、油圧制御回路11及び副変速機構30の要部を示す図である。油圧制御回路11は、電動オイルポンプ111と、第1ソレノイド112と、第2ソレノイド113と、油路114と、を備える。副変速機構30は、第1摩擦締結要素31と、第2摩擦締結要素32と、を備える。以下では、ソレノイドをSOLと称す。
【0041】
電動オイルポンプ111は、第1摩擦締結要素31及び第2摩擦締結要素32にオイルを供給する。電動オイルポンプ111は、油路114を介して第1摩擦締結要素31及び第2摩擦締結要素32に接続される。
【0042】
油路114は、第1摩擦締結要素31及び第2摩擦締結要素32に分岐して接続する。第1分岐油路114aは、油路114のうち電動オイルポンプ111から第1摩擦締結要素31に分岐して接続する部分の油路である。第2分岐油路114bは、油路114のうち電動オイルポンプ111から第2摩擦締結要素32に分岐して接続する部分の油路である。
【0043】
第1分岐油路114aには、第1SOL112が設けられる。第1SOL112は、第1摩擦締結要素31に供給されるオイルを指示電流C1に応じてドレーンする。第1SOL112では、指示電流C1を低下させることでドレーン度合いが大きくなる。第1SOL112には、指示電流C1がゼロのときにドレーン度合いが最大になり、指示電流C1が最大のときにドレーン度合いが最小になるノーマリークローズタイプのSOLが用いられる。
【0044】
第1SOL112は、ドレーン度合いによってドレーン油量を調整することで、供給油圧P1を制御する。第1SOL112では、指示電流C1を低下させることでドレーン度合いが大きくなるので、第1SOL112は、指示電流C1に応じた供給油圧P1の変化特性として、指示電流C1が大きい場合ほど供給油圧P1が大きくなる特性を有する。このため、第1SOL112は例えば、指示電流C1が最大の場合に、供給油圧P1によって第1摩擦締結要素31を締結させることができる。
【0045】
第2分岐油路114bには、第2SOL113が設けられる。第2SOL113は、第2摩擦締結要素32に供給されるオイルを指示電流C2に応じてドレーンする。第2SOL113では、指示電流C2を低下させることでドレーン度合いが小さくなる。第2SOL113には、指示電流C2がゼロのときにドレーン度合いが最小になり、指示電流C2が最大のときにドレーン度合いが最大になるノーマリーオープンタイプのSOLが用いられる。
【0046】
第2SOL113は、ドレーン度合いによってドレーン油量を調整することで、供給油圧P2を制御する。第2SOL113では、指示電流C2を低下させることでドレーン度合いが小さくなるので、第2SOL113は、指示電流C2に応じた供給油圧P2の変化特性として、指示電流C2が小さい場合ほど供給油圧P2が大きくなる特性を有する。このため、第2SOL113は例えば、指示電流C2がゼロの場合に、供給油圧P2によって第2摩擦締結要素32を締結させることができる。
【0047】
第1SOL112及び第2SOL113は、コントローラ12によって制御される。第1SOL112及び第2SOL113には、リニアソレノイドを用いることができる。
【0048】
第1摩擦締結要素31は、1速すなわち発進変速段を確立する摩擦締結要素である。第2摩擦締結要素32は、2速すなわち発進変速段よりも変速比が高い変速段を確立する摩擦締結要素である。第2摩擦締結要素32は、第1摩擦締結要素31を動力伝達状態として発進する際には解放状態とされる。これにより、インターロックが防止される。
【0049】
電動オイルポンプ111は、セレクトレバーの操作に応じて駆動するマニュアルバルブを介して第1摩擦締結要素31及び第2摩擦締結要素32にオイルを供給するように構成されてよい。マニュアルバルブは、セレクトレバーによる選択レンジが副変速機構30の変速を許可する許可レンジである場合に開弁するように構成することができる。
【0050】
次に、本実施形態でコントローラ12が行う制御の一例を
図3に示すフローチャートを用いて説明する。
図3に示す処理は、微小時間毎に繰り返し実行することができる。
【0051】
ステップS1で、コントローラ12は車両が停止しているか否か、すなわち停車状態であるか否かを判定する。停車状態であるか否かは、車速VSPがゼロであるか否かで判定することができ、具体的には次のように判定される。
【0052】
すなわち、コントローラ12は、回転センサ43によってパルス信号が検出されてからの経過時間であって次のパルス信号が検出される前の時点における経過時間が、停車判定時間以上になった場合に停車していると判定し、停車判定時間未満の場合に停車していないと判定する。
【0053】
ステップS1で肯定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS1で否定判定であれば、処理はステップS3に進む。
【0054】
ステップS3で、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速にダウンシフトさせる2−1変速を行う。
【0055】
2−1変速の際には、第1摩擦締結要素31を締結するために第1摩擦締結要素31への供給油圧P1を上昇させる。また、第2摩擦締結要素32を解放するために第2摩擦締結要素32への供給油圧P2を低下させる。
【0056】
したがって、2−1変速の際には、ノーマリークローズタイプの第1SOL112への指示電流C1は増加される。また、ノーマリーオープンタイプの第2SOL113への指示電流C2も増加される。
【0057】
ステップS5で、コントローラ12は、アイドルストップの実行条件が成立したか否かを判定する。アイドルストップの実行条件は、車両が停止した状態で成立する自動停止条件の一例であり、具体的には例えば次のような条件である。
【0058】
すなわち、アイドルストップの実行条件は例えば、車速VSPがゼロであることや、ブレーキペダルが踏み込まれていることや、アクセルペダルが踏み込まれていないことを含む。また、アイドルストップの実行条件は例えば、副変速機構30の変速段が1速であること、したがって2−1変速が完了したことや、バリエータ20の変速比が最Low変速比であることや、セレクトレバーによる選択レンジがアイドルストップの実行を許可する許可レンジであることを含む。アイドルストップの実行条件では、このほか例えばエンジン1の水温や、自動変速機構3の油温や、路面勾配を考慮することができる。
【0059】
ステップS5で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS5で肯定判定であれば、処理はステップS7に進む。
【0060】
ステップS7で、コントローラ12は、電動オイルポンプ111を駆動する。これにより、電動オイルポンプ111から第1摩擦締結要素31や第2摩擦締結要素32にオイルを供給することができる。
【0061】
ステップS9で、コントローラ12は、アイドルストップを実行することでエンジン1を自動停止する。この例のように、アイドルストップは、電動オイルポンプ111の駆動を開始してから行うことができる。
【0062】
ステップS11で、コントローラ12は、第2SOL113への指示電流C2を低下させる。これにより、第2摩擦締結要素32への供給油圧P2が上昇し、第2摩擦締結要素32が締結される。
【0063】
ステップS13で、コントローラ12は、アイドルストップの実行条件が不成立になったか否かを判定する。アイドルストップの実行条件は例えば、運転者が車両を発進させるべくベレーキペダルから足を放した場合に不成立になる。ステップS13で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS13で肯定判定であれば、処理はステップS15に進む。
【0064】
ステップS15で、コントローラ12は、指示電流C2を増加させる。これにより、第2摩擦締結要素32への供給油圧P2が低下し、第2摩擦締結要素32が解放される。ステップS15の後には、本フローチャートの処理は一旦終了する。
【0065】
図4は、コントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例である第1のタイミングチャートを示す図である。第1のタイミングチャートでは、車両が停止する場合について説明する。
【0066】
タイミングT11前には、回転センサ43によってパルスが検出される。検出されたパルスは、タイミングT11で検出されなくなる。タイミングT11からの経過時間は、タイミングT12で停車判定時間になる。このため、タイミングT12から車両は停車していると判定される。
【0067】
タイミングT12からは、2−1変速が開始される。このため、タイミングT12から第1SOL112への指示電流C1及び第2SOL113への指示電流C2が増加される。結果、第1摩擦締結要素31への供給油圧P1は上昇し、第2摩擦締結要素32への供給油圧P2は低下する。
【0068】
タイミングT13では、2−1変速が完了し、アイドルストップの実行条件が成立する。このため、タイミングT13では、電動オイルポンプ111の駆動が開始される。
【0069】
タイミングT14では、アイドルストップが開始される。このため、タイミングT14からは、アイドルストップ実行条件の成立に応じてエンジン1が自動停止中になる。
【0070】
エンジン1が自動停止中であることは、アイドルストップ開始時のタイミングT14以降の状態であって、アイドルストップによって回転速度Neがゼロに向かって低下している状態と、アイドルストップによってエンジン1の回転速度Neがゼロになっている状態との両方を含む。
【0071】
タイミングT13で開始された電動オイルポンプ111の駆動は、タイミングT14以降のエンジン1の自動停止中に引き続き行われる。これにより、エンジン1の自動停止中に、電動オイルポンプ111から第1摩擦締結要素31や第2摩擦締結要素32にオイルが供給される。
【0072】
タイミングT14では、指示電流C2の低下も開始される。結果、供給油圧P2が上昇し始める。この例では、指示電流C2が経過時間に応じて一定の度合いで低下される結果、供給油圧P2が経過時間に応じて一定の度合いで上昇する。
【0073】
指示電流C2は、タイミングT14以降のエンジン1の自動停止中に最小値MINよりも低下される。最小値MINは、第2摩擦締結要素32が解放状態となる指示電流C2の最小値である。指示電流C2を最小値MINよりも低下するにあたり、指示電流C2は、第2摩擦締結要素32でスリップが生じる大きさに低下されてもよく、第2摩擦締結要素が完全に締結された状態になる大きさに低下されてもよい。
【0074】
指示電流C2は、下限値LOWを有する。下限値LOWは、ゼロよりも大きく且つ実電流値を検知可能な範囲内で設定される。下限値LOWは例えば100mAであり、実験等に基づき予め設定することができる。下限値LOWは、実電流値を検知可能な最小値に設定することができる。この例では、指示電流C2は下限値LOWまで低下される。
【0075】
図5は、コントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例である第2のタイミングチャートを示す図である。第2のタイミングチャートでは、車両が発進する場合について説明する。
【0076】
タイミングT21では、アイドルストップの実行条件が不成立になる。このため、タイミングT21からは、第2SOL113への指示電流C2の増加が開始される。結果、第2摩擦締結要素32への供給油圧P2が低下する。この例では、指示電流C2を最小値MINよりも大きな値にステップ的に増加させることで、供給油圧P2をステップ的に低下させている。
【0077】
タイミングT21では、エンジン1の再始動も開始される。このため、タイミングT21からは、回転速度Neも上昇する。回転速度Neは、エンジン1のクランキングを経て、タイミングT22から大きく上昇する。
【0078】
次に本実施形態にかかる駆動制御装置100の主な作用効果について説明する。駆動制御装置100は、アイドルストップの実行条件が成立した場合に、エンジン1を自動停止する駆動源制御部としてのコントローラ12と、電動オイルポンプ111と、第1摩擦締結要素31と、第2摩擦締結要素32と、第2SOL113と、を備える。コントローラ12は、駆動源制御部として設けられるほか、エンジン1の自動停止中に指示電流C2を最小値MINよりも低下させるソレノイド制御部として設けられる。
【0079】
このような構成の駆動制御装置100によれば、停車状態で行われるエンジン1の自動停止中に、第2摩擦締結要素32の締結を許容して上記のように指示電流C2を低下させる。停車状態であれば、第2摩擦締結要素32を締結しても、意図しない駆動力が駆動輪5に伝達されることや、意図しない制動力が発生することがないためである。このような構成の駆動制御装置100によれば、上記のように指示電流C2を低下させるので、停車状態で行われるエンジン1の自動停止中に消費電力を低減することができる。
【0080】
指示電流C2の低下開始タイミングは、例えば停車したタイミングに設定することも考えられる。ところが停車したタイミングでは、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止は開始されない。したがって、エンジン1は駆動状態にあり、車両はプレーキペダルの解放やアクセルペダルの踏み込みによって行われる運転者の発進要求に応じて、エンジン1から駆動輪5に動力を伝達可能な状態にある。
【0081】
このような状態で、指示電流C2を低下させると、第2摩擦締結要素32による制動力が発生し、指示電流C2の大きさによっては、副変速機構30がインターロック状態になる。結果、運転者の発進要求に応じた動力をエンジン1から駆動輪5に伝達することができずに、運転者に違和感を与える事態が発生し得る。
【0082】
このような事情に鑑み、走行駆動源がエンジン1で構成される駆動制御装置100では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止開始とともに、指示電流C2の低下を開始する。
【0083】
このような構成の駆動制御装置100によれば、指示電流C2の低下開始後に運転者の発進要求があっても、エンジン1の再始動に時間を要するので、その間に指示電流C2を増加させることができる。したがって、その間に第2摩擦締結要素32による制動力をゼロにしたり低減したりすることができる。このため、運転者に違和感を与えることを防止したり、運転者に与える違和感を低減したりすることができる。
【0084】
このような構成の駆動制御装置100は具体的には、駆動源制御部としてのコントローラ12が、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止開始後、エンジン1を再始動する場合に、エンジン1がスタータによってのみ再始動されるように構成される場合に好適である。
【0085】
これは、エンジン1をスタータで再始動する場合には、自動停止開始後、すぐに発進要求がされても、回転速度Neがスタータ始動可能な回転速度まで低下しないと再始動することができないためである。
【0086】
このためこの場合には、回転速度Neがスタータ始動可能な回転速度に低下するまでの間に、第2摩擦締結要素32による制動力をゼロにしたり低減したりすることで、運転者に違和感を与える事態を改善することができる。またこの場合には、回転速度Neの低下を待つことなく、指示電流C2の低下を開始する分、消費電力低減を好適に図ることもできる。
【0087】
駆動制御装置100では、指示電流C2は、ゼロよりも大きく且つ実電流値を検知可能な範囲内で設定される下限値LOWを有する。
【0088】
このような構成の駆動制御装置100によれば、実電流値がゼロである場合にその原因が指示電流C2ではなく、断線等のフェールであることを区別することができる。このため、電力消費を極力抑制しつつ、断線等のフェールを検知することができる。
【0089】
駆動制御装置100では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、アイドルストップの実行条件が不成立になった場合に、指示電流C2の増加を開始する。
【0090】
このような構成の駆動制御装置100によれば、アイドルストップの実行条件が不成立になったことによって運転者の発進要求をいち早く検知し、指示電流C2の増加を開始することができる。このため、第2摩擦締結要素32による制動力の低下を最大限早く開始することができる。したがって、発進に際して第2摩擦締結要素32による制動力が妨げになることをタイミング上、最大限抑制することができる。
【0091】
(第2実施形態)
本実施形態では、エンジン1はスタータで再始動されるほか、リカバー可能回転速度Ne1以上で行われる燃料リカバーにより再始動されるように構成される。また、コントローラ12は、次に説明する制御を行うように構成される。これらの点以外、本実施形態にかかる駆動制御装置100は、第1実施形態にかかる駆動制御装置100と同様に構成される。
【0092】
ここで、エンジン1の再始動の応答性は、スタータによる再始動よりも燃料リカバーによる再始動のほうが高い。したがって、エンジン1の自動停止開始後に発進要求が行われた場合、発進要求に応じてエンジン1から駆動輪5に動力が伝達されるまでの時間は、スタータによる再始動よりも燃料リカバーによる再始動のほうが短い。
【0093】
このため、エンジン1が燃料リカバーにより再始動される場合には、指示電流C2の低下開始後に行われる発進要求に対し、指示電流C2を増加して第2摩擦締結要素32による制動力をなくそうとしても、十分に間に合わない可能性がある。
【0094】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ12が次に説明するように構成される。
【0095】
図6は、本実施形態でコントローラ12が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
図6に示すフローチャートは、ステップS9に続いてステップS10の処理が追加される点以外、
図3に示すフローチャートと同じである。このため、ここでは主にステップS10について説明する。
【0096】
ステップS10で、コントローラ12は、回転速度Neがリカバー可能回転速度Ne1よりも低いか否かを判定する。リカバー可能回転速度Ne1は、スタータ始動可能な回転速度よりも高い回転速度であり、実験等により予め設定することができる。ステップS10で否定判定であれば、本フローチャートの処理は一旦終了する。ステップS10で肯定判定であれば、処理はステップS11に進む。
【0097】
このように、本実施形態にかかる駆動制御装置100では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止が開始され、且つ回転速度Neがリカバー可能回転速度Ne1未満になった場合に、指示電流C2の低下を開始する。
【0098】
このため、エンジン1の自動停止が開始されても、回転速度Neがリカバー可能回転速度Ne1以上である場合には、指示電流C2の低下を開始しない。すなわち、運転者による発進要求に応じてエンジン1が燃料リカバーにより再始動され得る場合には、第2摩擦締結要素32による制動力を発生させない。
【0099】
このため、本実施形態にかかる駆動制御装置100によれば、エンジン1が燃料リカバーにより再始動される場合であっても、発進要求に応じて行うべき動力伝達の応答性を確保することができる。また、回転速度Neがリカバー可能回転速度Ne1未満になった場合には、エンジン1をスタータで再始動する必要があるので、第1実施形態で前述したのと同様に運転者に与える違和感を改善することができる。
【0100】
(第3実施形態)
本実施形態にかかる駆動制御装置100は、コントローラ12が以下で説明するように構成される点以外、第1実施形態における駆動制御装置100と同様に構成される。同様の変更は、例えば第2実施形態にかかる駆動制御装置100に対して行われてもよい。
【0101】
ここで、回転センサ43によってパルス信号が検出されたときからの経過時間であって、次のパルス信号が検出される前の時点における経過時間は、緩減速時など駆動輪5がゆっくり回転している場合にも、停車判定時間以上になり得る。
【0102】
この場合、駆動輪5が回転しているにも関わらず、停車していると判定され、アイドルストップの実行条件が成立し得る。このため、エンジン1の自動停止中に指示電流C2を低下させた際に、第2摩擦締結要素32による急激な制動力が発生し、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0103】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ12が次に説明するように構成される。
【0104】
図7は、本実施形態でコントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図7に示すタイミングチャートは、タイミングT14以降の指示電流C2及び供給油圧P2の変化が異なる点以外、
図4に示すタイミングチャートと同じである。このため、ここでは主に異なる点について説明する。
【0105】
本実施形態では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、エンジン1の自動停止中に指示電流C2を低下させるにあたり、経過時間が長いほど指示電流C2の低下度合いを大きくするように構成される。このため、タイミングT14からの指示電流C2及び供給油圧P2の変化では、傾きの大きさが次第に大きくなる。したがって、経過時間が長いほど第2摩擦締結要素32のトルク伝達容量、したがって第2摩擦締結要素32による制動力の増加率が大きくなる。
【0106】
本実施形態にかかる駆動制御装置100によれば、このようにコントローラ12を構成したので、次のような作用効果を得ることができる。
【0107】
すなわち、指示電流C2の低下を開始するタイミングT14付近では、第2摩擦締結要素32による制動力の増加率を抑制することで、運転者に違和感を与える事態を改善することができる。また、経過時間が長くなり停車している可能性が高い場合ほど、指示電流C2を素早く低下させることで、電力消費の低減を図ることもできる。
【0108】
(第4実施形態)
本実施形態にかかる駆動制御装置100は、コントローラ12が以下で説明するように構成される点以外、第1実施形態における駆動制御装置100と同様に構成される。同様の変更は例えば、第2実施形態や第3実施形態にかかる駆動制御装置100に対して行われてもよい。
【0109】
ここで、アイドルストップの実行条件が不成立になった場合に、指示電流C2の増加を開始し第2摩擦締結要素32による制動力を低下するに際しては、次のような事態が生じ得る。
【0110】
すなわち、この際にはエンジン1の再始動によって急激に立ち上がった動力が、第1摩擦締結要素31を介して駆動輪5に伝達される。そして、駆動輪5に伝達された動力が、車両の飛び出し感として現れ、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0111】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ12が次に説明するように構成される。
【0112】
図8は、本実施形態でコントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図8に示すタイミングチャートは、タイミングT21以降の指示電流C2及び供給油圧P2の変化が異なる点以外、
図5に示すタイミングチャートと同じである。このため、ここでは主に異なる点について説明する。
【0113】
本実施形態では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、タイミングT21で指示電流C2の増加を開始するとともに、第1電流値α1まで指示電流C2を徐々に増加させる。第1電流値α1は、第2摩擦締結要素32が解放状態となる指示電流C2の最小値、すなわち最小値MINである。
【0114】
また、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、指示電流C2が第1電流値α1よりも大きくなった場合には、指示電流C2をステップ的に増加させる。すなわちこの場合には、コントローラ12は例えば、引き続き指示電流C2を徐々に増加させることも可能であるところ、指示電流C2をステップ的に増加させる。
【0115】
指示電流C2を徐々に増加させるには例えば、指示電流C2を所定の度合いで増加させることができる。所定の度合いは、実験等に基づき予め設定することができる。指示電流C2を徐々に増加させるには、指示電流C2の変化が曲線状になるように連続的に増加させることもできる。
【0116】
本実施形態にかかる駆動制御装置100によれば、このようにコントローラ12を構成したので、第2摩擦締結要素32が動力伝達状態である間は、第2摩擦締結要素32による制動力を徐々に低下させることができる。したがって、車両の飛び出し感を低減することができる。また、その後は、指示電流C2を素早く増加させることで、ばらつき等によって第2摩擦締結要素32による制動力が意図せず発生することを抑制することもできる。
【0117】
(第5実施形態)
本実施形態にかかる駆動制御装置100は、コントローラ12が以下で説明するように構成される点以外、第1実施形態における駆動制御装置100と同様に構成される。同様の変更は例えば、第2実施形態や第3実施形態にかかる駆動制御装置100に対して行われてもよい。
【0118】
図9は、本実施形態でコントローラ12が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図9に示すタイミングチャートは、タイミングT21以降の指示電流C2及び供給油圧P2の変化が異なる点以外、
図5に示すタイミングチャートと同じである。このため、ここでは主に異なる点について説明する。
【0119】
本実施形態では、ソレノイド制御部としてのコントローラ12は、タイミングT21で指示電流C2の増加を開始した場合に、第2電流値α2まで指示電流C2をステップ的に増加させ、第2電流値α2から第1電流値α1まで指示電流C2を徐々に増加させる。
【0120】
第2電流値α2は、エンジン1からの入力トルクによって第2摩擦締結要素32で差回転が生じる電流値であり、実験等に基づき予め設定することができる。エンジン1からの入力トルクは具体的には、エンジン1のクランキング中に入力されるトルクである。ソレノイド制御部としてのコントローラ12はさらに、指示電流C2が第1電流値α1よりも大きくなった場合には、指示電流C2をステップ的に増加させる。
【0121】
本実施形態にかかる駆動制御装置100によれば、このようにコントローラ12を構成したので、第2摩擦締結要素32が制動力を調整可能なスリップ状態になるまでの間は、指示電流C2を素早く増加させ、第2摩擦締結要素32がスリップ状態になってから、第2摩擦締結要素32による制動力を徐々に低下させることができる。このため、指示電流C2を適切に設定することができる分、車両の飛び出し感を適切に低減することが容易になる。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0123】
上述した実施形態では、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止開始とともに、指示電流C2の低下を開始する場合について説明した。
【0124】
しかしながら、指示電流C2の低下は例えば、アイドルストップの実行条件の成立に応じたエンジン1の自動停止開始から所定時間経過した場合に開始されてもよい。所定時間は、実験等に基づき予め設定することができる。
【0125】
上述した実施形態では、第1摩擦締結要素31及び第2摩擦締結要素32が、副変速機構30において変速段を確立する場合について説明した。
【0126】
しかしながら、例えば有段の自動変速機構を備える場合には、有段の自動変速機構において1速の変速段を確立する摩擦締結要素が第1摩擦締結要素31とされ、2速以上の変速段を確立する摩擦締結要素のいずれかが第2摩擦締結要素32とされてもよい。
【0127】
また、例えば前進1速、後進1速の前後進切替機構を備える場合には、前進1速の変速段を確立する摩擦締結要素が第1摩擦締結要素31とされ、後進1速の変速段を確立する摩擦締結要素が第2摩擦締結要素32とされてもよい。
【0128】
上述した実施形態では、走行用駆動源がエンジン1である場合について説明した。しかしながら、走行用駆動源としては例えば、モータや、エンジン1及びモータを用いることも考えられる。
【0129】
本願は2015年8月25日に日本国特許庁に出願された特願2015−165727に基づく優先権を主張し、この出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。