(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446172
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20181217BHJP
F16K 11/044 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
F16K31/06 305K
F16K11/044 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-91902(P2013-91902)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-214789(P2014-214789A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年1月14日
【審判番号】不服2017-15765(P2017-15765/J1)
【審判請求日】2017年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】木船 仁志
【合議体】
【審判長】
久保 竜一
【審判官】
藤井 昇
【審判官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−136725(JP,A)
【文献】
実開昭60−162778(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K31/06
F16K11/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が導入導出される弁室と、該弁室に連通する入口ポートを有する流入管と、該弁室に連通する第1の出口ポート及び前記弁室内の端部に弁座を有する流出管とを備える弁本体と、
前記弁室に連通する第2の出口ポート及び前記弁室内の端部に弁座を有し、前記流出管の軸線方向、且つ前記弁室から離れる方向に延設されたパイプ部材と、
電磁コイルが巻き付けられた胴体を有するコイルボビンと、
該コイルボビンの前記胴体の内周面と前記パイプ部材の外周面との間に配置された吸引子と、
前記コイルボビンの前記胴体に前記軸線方向に移動自在に内挿され、前記吸引子に対向する筒体と、該筒体の前記弁座側端部において弁体を保持する弁体保持部と、該弁体保持部より前記吸引子側の位置で前記筒体に穿設された流体挿通孔とを有する円筒状の弁ホルダと、
該弁ホルダを前記流出管の弁座方向に押圧するコイルばねと、
前記弁室内において前記弁本体に一体形成された複数のリブ状の案内突起と、を備え、
前記弁体保持部に保持された前記弁体は、前記流出管の弁座に当接する位置と前記パイプ部材の弁座に当接する位置との間を前記軸線方向に移動自在に配置され、
前記電磁コイルを励磁しないときには、前記コイルばねにより前記流出管の弁座方向に押圧された前記弁ホルダによって前記弁体は前記流出管の弁座方向に移動し、該弁体が前記流出管の弁座に当接して前記第1の出口ポートを塞ぎ、前記流体挿通孔を介して前記入口ポートと前記第2の出口ポートとを連通させ、
前記電磁コイルを励磁したときには、前記吸引子は前記コイルばねのばね力に抗して前記弁ホルダを前記吸引子方向へ移動させ、前記弁体が前記パイプ部材の弁座に当接して前記第2の出口ポートを塞ぎ、前記入口ポートと前記第1の出口ポートとを連通させ、
前記弁ホルダの前記軸線方向の移動に際し、前記コイルボビンの内周面は、前記弁ホルダの前記吸引子側の外周面に当接して前記弁ホルダを案内し、前記案内突起は、前記弁ホルダの前記流体挿通孔よりも前記弁体保持部側の外周面にのみ当接して前記弁ホルダを案内することを特徴とする電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に装備されるウインドウォッシャ装置において、ウォッシャ液の流路の切り換えなどに用いられる電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記用途に用いられる電磁弁として、特許文献1には、電磁コイルの下部に形成された弁筐体の弁室に、案内部材として複数本のピンからなる弁素子案内部材を同心円状でかつ軸方向に並設し、磁性体からなる円板状の弁素子を点接触状態で摺動自在に案内することで、弁室内の流路の拡大と円滑な弁素子の作動を実現した電磁弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平3−24947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電磁弁においては、複数本のピンを挿入する弁室の穴位置の公差、ピンの外径公差、挿入する際のピンの傾きなどにより、弁体の位置等がばらつき、異物の噛み込みによって誤動作が生じたり、弁座と弁体との間のシール性が悪化するという問題があった。また、複数本のピンを精度よく弁室に組み付ける必要があるため、手間が掛かり、製造コストの増加に繋がる。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、異物の噛み込みによる誤動作を防止し、動作安定性の高い電磁弁を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明に係る電磁弁は、流体が導入導出される弁室と
、該弁室に連通する入口ポート
を有する流入管と、該弁室に連通する第1の出口ポート
及び前記弁室内の端部に弁座を有する
流出管とを備える弁本体と、前記弁室に連通する第2の出口ポート
及び前記弁室内の端部に弁座を有し、
前記流出管の軸線方向、且つ前記弁室から
離れる方向に延設されたパイプ部材と、電磁コイルが巻き付けられた胴体を有するコイルボビンと、該コイルボビンの前記胴体の内周面と前記パイプ部材の外周面との間に配置された吸引子と、前記コイルボビンの前記胴体に
前記軸線方向
に移動自在に内挿され、前記吸引子に対向する筒体
と、該筒体の前記弁座側端部において弁体を保持する弁体保持部
と、該弁体保持部より前記吸引子側の位置で前記筒体に穿設された流体挿通孔
とを有する円筒状の弁ホルダと、
該弁ホルダを前記流出管の弁座方向に押圧するコイルばねと、前記弁室内において前記弁本体に一体形成された複数のリブ状の案内突起と、を備え、
前記弁体保持部に保持された前記弁体は、前記流出管の弁座に当接する位置と前記パイプ部材の弁座に当接する位置との間を前記軸線方向に移動自在に配置され、前記電磁コイルを励磁しないときには、前記コイルばねにより前記流出管の弁座方向に押圧された前記弁ホルダによって前記弁体は前記流出管の弁座方向に移動し、該弁体が前記流出管の弁座に当接して前記第1の出口ポートを塞ぎ、前記流体挿通孔を介して前記入口ポートと前記第2の出口ポートとを連通させ、前記電磁コイルを励磁したときには、前記吸引子は前記コイルばねのばね力に抗して前記弁ホルダを前記吸引子方向へ移動させ、前記弁体が前記パイプ部材の弁座に当接して前記第2の出口ポートを塞ぎ、前記入口ポートと前記第1の出口ポートとを連通させ、前記弁ホルダの前記軸線方向の移動に際し、前記コイルボビンの内周面は、前記弁ホルダの前記吸引子側の外周面に当接し
て前記弁ホルダを案内し、前記案内突起は、前記弁ホルダの前記流体挿通孔よりも前記弁体保持部側の外周面に
のみ当接し
て前記弁ホルダを案内することを特徴とする。
【0007】
リブ状の案内突起を備えた本発明の電磁弁によれば、異物の噛み込みによる誤動作が防止され、プランジャの摺動安定性が増して動作安定性が向上し、製造コストも低減することができる。
【0008】
複数のリブ状の案内突起を弁座の近傍に設けたため、電磁弁を横置きにした場合、すなわち、弁体が水平方向に移動するように電磁弁を配置した場合でも、弁座と弁体との軸ずれを防止することができ、弁座と弁体との間のシールを良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、リブ状の案内突起を備えた本発明の電磁弁によれば、異物の噛み込みによる誤動作が防止され、プランジャの摺動安定性が増して動作安定性が向上し、弁座と弁体との間のシールを良好に維持し、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る電磁弁の一実施の形態を示す断面図である。
【
図2A】
図1の電磁弁の弁体及びその近傍を示す拡大断面図である。
【
図3A】
図1の電磁弁の動作を説明するための断面図であって、電磁コイルを励磁した状態を示す。
【
図3B】
図1の電磁弁の動作を説明するための断面図であって、電磁コイルを非励磁とした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る電磁弁の一実施の形態を示している。この電磁弁1は、車両に搭載されて洗浄液等の液体やその他の流体の流路を切換えるもので、入口ポート41a及び第1の出口ポート42aの各々に連通する弁室45を有する弁本体40と、弁室45内に配置される弁体64と、弁体64を保持する弁ホルダ60と、弁ホルダ60を第1の出口ポート42aの方向に押圧するコイルばね66と、弁室45に連通する第2の出口ポート10aを有する。更に、弁室45から右方に延びるパイプ部材10と、パイプ部材10を囲繞する吸引子50と、吸引子50を囲繞する電磁コイル21と、電磁コイル21を巻き付けるコイルボビン20と、 コイルボビン20全体を囲繞するモールドカバー30等を備える。
【0014】
樹脂製の弁本体40は、周壁から下方へ延びる流入管41と、左端面から左方へ延びる流出管42とを有している。流入管41には入口ポート41aが形成され、流出管42には第1の出口ポート42aが形成される。弁室45内において、入口ポート41aと第1の出口ポート42aとが断面L字状に連通する。弁本体40の右方開口の周囲には、モールドカバー30へ向けて突出する環状溶着接合壁44が設けられる。
【0015】
弁本体40の流出管42の右端側は弁室45内に突出している。また、流入管41の入口ポート41aの開口は弁室45に連通し、ウォッシャ液を弁室45内へ導くように構成される。
【0016】
図2A、
図2Bに示すように、弁本体40には、流出管42の弁座42bの近傍に、弁体64の水平方向の移動(弁体64を保持する弁体保持部62の水平方向の移動)を案内する複数のリブ状の案内突起40aが突出する。隣接する案内突起40aと弁本体40の内周面40bとの間には流路40cが形成される。
【0017】
図1に示すように、樹脂製のパイプ部材10は、中間部に円板状溶着突起部11が上下方向に延び、第2の出口ポート10aが弁室45に連通する。
【0018】
樹脂製のコイルボビン20は、電磁コイル21を巻き付ける胴体22とその両端に電磁コイル21の巻線をばらつき規制する一対のつば部23、24とを有する。
【0019】
吸引子50は磁性金属により円筒状に形成され、コイルボビン20の胴体22の内周面とパイプ部材10の外周面との間に配置される。
【0020】
モールドカバー30は樹脂製で、コイルボビン20を覆うようにパイプ部材10に同軸上に一体的に成形される。電磁コイル21及び吸引子50がモールドカバー30の外側において磁性材料からなるハウジング70により覆われる。
【0021】
モールドカバー30にはコネクタ部35が一体成形され、コネクタ部35の内部には電磁コイル21に通電するための外部端子36が突出する。
【0022】
パイプ部材10の外周面とコイルボビン20の胴体22との間には、円板状溶着突起部11に対して右側には吸引子50が位置し、左側には磁性材料からなる円筒状の弁ホルダ60がパイプ部材10の外周面に沿って水平方向へ移動可能に位置する。
【0023】
弁ホルダ60はコイルボビン20の内周とパイプ部材10の外周との間に摺動自在に配置され、
図2A、
図2Bに示すように、パイプ部材10とコイルボビン20との間に位置する筒体61と、筒体61の先端に弁体64を保持する弁体保持部62を有する。弁ホルダ60の中間部に1つ又は複数の液体挿通孔(流体挿通孔)63が開設され、弁体保持部62には、弁体保持部62の内径と略同径のゴム等の弾性を有する材料により成形された弁体64が適宜の手法により固定されている。
【0024】
本実施形態においては、この固定は、弁体64の外周に設けられた複数の突起又は環状突起が当該弁体64の弾性を利用して弁体保持部62の内側に形成された凹部(保持部)に嵌入されることにより行われているが、例えばかしめや接着等の手段を用いて弁体64を固定してもよい。
【0025】
筒体61の内周面には一端を閉じ他端を開いたばね挿入溝65が形成され、ばね挿入溝65には弁ホルダ60を常時流出管42の弁座42b側に押圧するコイルばね66が挿入されている。
【0026】
次に、上記構成を有する電磁弁1の動作について、
図1、
図3A及び
図3Bを参照しながら説明する。
【0027】
電磁コイル21に通電しないときには、
図3Bに示すように、コイルばね66により左方に押圧された弁ホルダ60によって弁体64は左方に移動し、弁体64の左面が流出管42の弁座42bに当接し、第1の出口ポート42aを塞ぐ。そのため、流入管41の入口ポート41aから弁室45内へ流入した液体(例えばウォッシャ液)は、第1の出口ポート42aへ案内されずに弁室45内を介して弁ホルダ60の液体挿通孔63からパイプ部材10の第2の出口ポート10aの左端開口へ案内され、当該第2の出口ポート10aの右端開口から流出し、例えばフロントやリアのウィンドガラスに噴射される。
【0028】
一方、外部端子36から電磁コイル21に通電されると電磁コイル21は励磁され、電磁コイル21により発生した磁界が吸引子50に作用し、吸引子50には弁ホルダ60を右方向へ移動させる力が発生する。その結果、吸引子50はコイルばね66による左向きのばね力に抗して弁ホルダ60を右方へ移動させ、
図3Aに示すように、弁体64の右面がパイプ部材10の弁座10bに当接し、第2の出口ポート10aを塞ぐ。このため、入口ポート41aから弁室45内へ流入されたウォッシャ液は第2の出口ポート10aへ案内されずに弁室45内を介して第1の出口ポート42aの右端開口へ案内され、第1の出口ポート42aの左端開口から流出し、例えばリアカメラ等に噴射される。
【0029】
すなわち、弁体64が常時流出管42の弁座42bに当接し、第1の出口ポート42aを塞いで第2の出口ポート10aを開き、通電された電磁コイル21の磁力による吸引子50の吸引により、弁体64が移動してパイプ部材10の弁座10bに当接し、第2の出口ポート10aを塞いで第1の出口ポート42aを開く。このようにして弁室45内で流路の切換えが行われる。
【0030】
上記弁体64の水平方向の移動に際し、弁ホルダ60の筒体61がコイルボビン20の胴体22の内周面とコイルばね66の外周との間で水平方向に案内されると共に、弁ホルダ60の弁体保持部62が、弁本体40の弁座42bの近傍に位置する内周面40bから突出する複数のリブ状の案内突起40aに当接して水平方向に案内される。このため、パイプ部材10及び弁ホルダ60が水平方向に配置されて弁体64が下方に移動し易くなっている環境下でも、弁体64の位置がばらつくことなく、弁体64と流出管42の弁座42bとの間、及び弁体64とパイプ部材10の弁座10bとの間の良好なシール性を確保することができる。
【0031】
なお、前述の説明においては、当該電磁弁1は車両に搭載され、洗浄液等の液体やその他の流体の流路を切換えるものとしたが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 電磁弁
10 パイプ部材
10a 第2の出口ポート
10b 弁座
11 円板状溶着突起部
20 コイルボビン
21 電磁コイル
22 胴体
23、24 つば部
30 モールドカバー
35 コネクタ部
36 外部端子
40 弁本体
40a 案内突起
40b 内周面
40c 流路
41 流入管
41a 入口ポート
42 流出管
42a 第1の出口ポート
42b 弁座
44 環状溶着接合壁
45 弁室
50 吸引子
60 弁ホルダ
61 筒体
62 弁体保持部
63 液体挿通孔(流体挿通孔)
64 弁体
65 ばね挿入溝
66 コイルばね
70 ハウジング