(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成される請求項5に記載の光学フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光学フィルムは、厚さ方向に中心軸(貫通孔の軸線)が直線状に貫通し、表面と裏面の孔径が所定の比率で異なる非対称構造の貫通孔(以下、単に「非対称貫通孔」ともいう)を複数有する。本発明の光学フィルムとしては、当該貫通孔を除いて無孔の樹脂フィルムを用いるのが好ましい。
【0012】
図1、
図2及び
図3に光学フィルムの一例を示す。
図2は、
図1に示す光学フィルム11の断面B−Bを示す。光学フィルム11には、その厚さ方向に貫通する多数の貫通孔12が形成されている。光学フィルム11は、貫通孔12を除き、無孔である。貫通孔の軸線は、直線状である。
【0013】
貫通孔の孔径とは、一方の主面における開口径a(もしくはb)の開孔の断面形状(例えば開口形状)を円とみなしたときの当該円の直径、換言すれば、一方の主面における開口径a(もしくはb)の開孔の断面積(例えば開口面積)と同一の面積を有する円の直径をいう。また、下記の開口径a及び開口径bは、特に記載のない限り、前記直径の平均値を意味する。
【0014】
前記光学フィルムは、一方の主面の貫通孔の開口径aと他方の主面の貫通孔の開口径bとの比a/bが80%未満であり、75%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。前記貫通孔の開口径aの孔径は通常20μm以下であり、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。このような孔径の比率が特定の範囲にある非対称貫通孔を有するフィルムとすることによって、フィルムの表と裏での反射率の差が大きくなる。フィルムが適切な機械的強度を保持できるため、貫通孔aの孔径は通常20μm以下である。貫通孔aの径(開口径)及びa/bの下限は、開口径aの貫通孔を有する主面(以下、「開口径a面」ともいう)と開口径bの貫通孔を有する主面(以下、「開口径b面」ともいう)の反射率が異なり孔径比率a/bが上記範囲にある限り、特に限定されない。当該孔径aの下限は、例えば、0.05μmである。
【0015】
貫通孔の開口形状は、特に限定されず、例えば、円形であってもよいし、不定形であってもよい。
図1及び
図2に示す光学フィルム11では、貫通孔12の開口形状は円形である。
【0016】
貫通孔の軸線は、通常、光学フィルムの主面に垂直な方向である。当該貫通孔が光学フィルムの厚さ方向に貫通する(当該貫通孔によって、光学フィルムの厚さ方向の通気が確保される)限り、貫通孔の軸線は、主面に垂直な方向から傾いていてもよい(
図3)。前記傾きは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、前記軸線の方向はランダムに異なっていてもよい(
図3)。
【0017】
光学フィルムは複数の貫通孔を有し、貫通孔同士は、典型的には互いに独立しているが、本発明の効果を妨げない限り、2以上の貫通孔同士が結合されていてもよい。例えば、貫通孔の軸線が光学フィルムの主面に垂直な方向である場合、表面と裏面の孔径の相違に起因して、開口径aの貫通孔を有する主面の開孔同士は互いに独立し、開口径bの貫通孔
を有する主面の開孔同士が結合されていてもよい。貫通孔は、例えばイオンビーム照射及びエッチングにより形成できる。
【0018】
樹脂フィルムを材料として、イオンビーム照射及びエッチングでは、開口径及び軸線の方向が揃った多数の貫通孔を樹脂フィルムに形成できる。また、樹脂フィルムの少なくとも一部に軸線の方向がランダムに異なる部分を含む場合、前記部分はイオンビーム照射をランダム方向に行うことで形成でき、前記部分において2以上の貫通孔同士がフィルム内で結合されていてもよい(
図3)。
【0019】
前記非対称貫通孔を有する樹脂フィルムを構成する材料としては、イオンビーム照射及びエッチングによって上記貫通孔が形成される材料である限り、特に限定されない。前記材料としては、例えば、アルカリ溶液又は酸性溶液によってエッチング可能な樹脂から構成される樹脂フィルムが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなる群から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。表面の平滑性に優れることから、樹脂フィルムはPETから構成されることがさらに好ましい。これらの樹脂は、アルカリ物質及び/又は酸化剤を含むエッチング処理液により分解される。PIは、次亜塩素酸ナトリウムを主成分として含むエッチング処理液により分解される。その他の樹脂は、水酸化ナトリウムを主成分として含むエッチング処理液により分解される。アルカリ物質は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。酸化剤は、例えば、亜塩素酸及びその塩、次亜塩素酸及びその塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。前記樹脂フィルムは、樹脂以外の材料を含んでいてもよい。前記樹脂以外の材料としては、例えば、光安定剤、酸化防止剤等の任意の添加剤、樹脂原料に由来するオリゴマー成分、金属酸化物(例えば白色顔料:アルミナ、酸化チタン等)等が挙げられる。
【0020】
前記非対称貫通孔を有する樹脂フィルムは、以下の製造方法により作製することができる。
【0021】
イオンビームを、高分子フィルム(前記した材料としての樹脂フィルム)に照射する工程(I)と、前記イオンビーム照射後の高分子フィルムにおけるイオンが衝突した部分を化学エッチングして、前記イオンの衝突の軌跡に沿って延びる貫通孔を当該フィルムに形成する工程(II)と、を含む。前記工程(II)において、前記高分子フィルムの一方の主面へのマスキング層の配置により、当該一方の主面からの前記部分のエッチングに比べて、前記高分子フィルムの他方の主面からの前記部分のエッチングの程度が大きい化学エッチングを実施することにより得ることができる。前記製造方法は、非対称貫通孔を有するフィルムが得られる限り、工程(I)、(II)以外の任意の工程を含んでいてもよい。
【0022】
[工程(I)]
工程(I)では、イオンビームを高分子フィルムに照射する。イオンビームは、加速されたイオンにより構成される。イオンビームの照射により、当該ビーム中のイオンが衝突した高分子フィルムが形成される。イオンビームを照射する方法は限定されない。例えば、高分子フィルム1をチャンバーに収容し、チャンバー内の圧力を低くした後(例えば、照射するイオン2のエネルギーの減衰を抑制するために高真空雰囲気とした後)、ビームラインからイオン2を高分子フィルム1に照射する。チャンバー内に特定の気体を加えてもよいし、高分子フィルム1をチャンバーに収容するが当該チャンバー内の圧力を減圧せず、例えば大気圧でイオンビームの照射を実施してもよい。
【0023】
イオンビームを高分子フィルムに照射すると、
図4に示すように、ビーム中のイオン2
が高分子フィルム1に衝突し、衝突したイオン2は当該フィルム1の内部に軌跡3(このようなイオンの衝突の軌跡を「イオントラック」ともいう)を残す。イオン2は、通常、高分子フィルム1を貫通する。
【0024】
帯状の高分子フィルム1が巻回されたロールを準備し、当該ロールから高分子フィルム1を送り出しながら、連続的に高分子フィルム1にイオンビームを照射してもよい。上述したチャンバー内に上記ロール(送り出しロール)と、イオンビーム照射後の高分子フィルム1を巻き取る巻き取りロールとを配置し、減圧、高真空等の任意の雰囲気としたチャンバー内において送り出しロールから帯状の高分子フィルム1を送り出しながら連続的に当該フィルムにイオンビームを照射し、ビーム照射後の高分子フィルム1を巻き取りロールに巻き取ってもよい。
【0025】
前記樹脂から構成される高分子フィルム1は、イオン2が衝突した部分の化学エッチングがスムーズに進行しながらも、その他の部分の化学エッチングが進行し難い特徴を有しており、高分子フィルム1における軌跡3に対応する部分の化学エッチングの制御が容易となる。このため、非対称貫通孔を有する樹脂フィルムとしての細孔の形状の制御の自由度をより高くできる。
【0026】
イオンビームを照射する高分子フィルム1は、例えば、無孔のフィルムである。この場合、工程(I)及び(II)以外に当該フィルムに孔を設けるさらなる工程を実施しない限り、工程(I)及び(II)により形成された細孔以外の部分が無孔である樹脂フィルムを得ることができる。上記さらなる工程を実施した場合、工程(I)及び(II)により形成された細孔と、上記さらなる工程により形成された孔とを有する樹脂フィルムが得られる。
【0027】
高分子フィルム1に照射、衝突させるイオン2の種類は限定されないが、高分子フィルム1を構成する樹脂との化学的な反応が抑制されることから、ネオンより質量数が大きいイオンが好ましい。具体的には、アルゴンイオン、クリプトンイオン及びキセノンイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンが好ましい。
【0028】
ビーム照射後の高分子フィルム1に形成される軌跡3の状態は、当該フィルムに照射したイオン2の種類及びエネルギーによっても変化する。例えば、アルゴンイオン、クリプトンイオン及びキセノンイオンでは、同じエネルギーの場合、原子番号が小さい原子のイオンほど、高分子フィルム1に形成される軌跡3の長さが長くなる。イオン種の変化及びイオンのエネルギーの変化に伴う軌跡3の状態の変化は、工程(II)の化学エッチング後に形成される細孔の形状に影響を与える。このため、イオン種及びそのエネルギーの選択を併用することにより、非対称貫通孔を有する樹脂フィルムとしての細孔の形状の制御の自由度をより高くできる。
【0029】
イオン2がアルゴンイオンである場合、そのエネルギーは、典型的には100〜1000MeVである。イオン2がクリプトンイオンである場合、そのエネルギーは、典型的には100〜1000MeVである。イオン2がキセノンイオンである場合、そのエネルギーは、典型的には100〜1000MeVである。高分子フィルム1に照射するイオン2のエネルギーは、イオン種及び高分子フィルムを構成する樹脂の種類に応じて調整しうる。
【0030】
高分子フィルム1に照射するイオン2のイオン源は限定されない。イオン源から放出されたイオン2は、例えば、イオン加速器により加速された後にビームラインを経て高分子フィルム1に照射される。イオン加速器としては、例えば、AVFサイクロトロン等のサイクロトロンが挙げられる。
【0031】
イオン2の経路となるビームラインの圧力は、ビームラインにおけるイオン2のエネルギー減衰を抑制する観点から、10
-5〜10
-3Pa程度の高真空が好ましい。イオン2を照射する高分子フィルム1が収容されるチャンバーの圧力が高真空に達していない場合、イオン2を透過する隔壁によって、ビームラインとチャンバーとの圧力差を保持してもよい。隔壁は、例えば、チタン膜あるいはアルミニウム膜から構成される。
【0032】
イオン2は、例えば、高分子フィルム1の主面に垂直な方向から当該フィルムに照射される。この場合、軌跡3がフィルム1の主面に垂直に延びるため、後の化学エッチングにより、フィルム1の主面に垂直な方向に延びる細孔が形成された樹脂フィルムが得られる。イオン2は、高分子フィルム1の主面に対して斜めの方向から当該フィルムに照射してもよい。この場合、後の化学エッチングにより、フィルム1の主面に対して斜めの方向に延びる細孔が形成された樹脂フィルムが得られる。高分子フィルム1に対してイオン2を照射する方向は、公知の手段により制御できる。
【0033】
イオン2は、例えば、複数のイオン2の飛跡が互いに平行となるように当該フィルム1に照射される。この場合、後の化学エッチングにより、互いに平行に延びる複数の細孔が形成された樹脂フィルムが得られる。イオン2を、複数のイオン2の飛跡が互いに非平行(例えば互いにランダム)となるように当該フィルム1に照射してもよい。
【0034】
イオン2は、2以上のビームラインから高分子フィルム1に照射してもよい。
工程(I)は、高分子フィルム1の主面、例えば上記一方の主面、にマスキング層が配置された状態で実施してもよい。
【0035】
[工程(II)]
工程(II)では、工程(I)においてイオンビームを照射した後の高分子フィルム1におけるイオン2が衝突した部分を化学エッチングして、イオン2の衝突の軌跡3に沿って延びる細孔を当該フィルム1に形成する。
【0036】
イオンビームを照射した後の高分子フィルム1には衝突の軌跡(イオントラック)3が残存している。軌跡3では、高分子フィルム1を構成するポリマー鎖に、イオン2との衝突による損傷が生じている。損傷が生じたポリマー鎖は、イオン2と衝突していないポリマー鎖に比べて、化学エッチングにより分解、除去されやすい。このためイオンビーム照射後の高分子フィルム1を化学エッチングすることにより、高分子フィルム1における軌跡3の部分が選択的に除去され、イオン2の衝突の軌跡3に沿って延びる細孔が形成された樹脂フィルムが得られる。
【0037】
イオン2は通常高分子フィルム1を貫通するため、ビーム照射後の高分子フィルム1におけるイオン2が衝突した部分の全てを化学エッチングすることにより細孔として貫通孔が形成される。得られた樹脂フィルムにおける細孔以外の部分は、フィルム1の状態を変化させる工程をさらに実施しない限り、基本的に、イオンビーム照射前の高分子フィルム1と同じである。当該細孔以外の部分は、例えば無孔でありうる。
【0038】
工程(II)では、高分子フィルム1の一方の主面にマスキング層を配置した状態で化学エッチングを実施する。このため、この化学エッチングでは、高分子フィルム1におけるイオン2が衝突した部分のエッチングについて、マスキング層を配置した上記一方の主面からのエッチングに比べて、他方の主面からのエッチングの程度が大きくなる。すなわち、工程(II)では、当該フィルムの双方の主面からのエッチングが非対称的に進行する化学エッチングを実施する(以下、単に「非対称エッチング」ともいう)。一方、従来の方法では、高分子フィルムの双方の主面からのエッチングが均等に(対称的に)進行する(
以下、単に「対称エッチング」ともいう)。なお、「エッチングの程度が大きい」とは、より具体的には、例えば、上記部分について単位時間あたりのエッチング量が大きいこと、すなわち上記部分についてエッチング速度が大きいことを意味する。
【0039】
工程(II)では、高分子フィルム1の一方の主面への、高分子フィルム1におけるイオン2が衝突した部分に比べて化学エッチングされ難いマスキング層の配置により、当該一方の主面からの上記部分のエッチングを抑止しながら、高分子フィルム1の他方の主面からの上記部分のエッチングを進行させる化学エッチングを(非対称エッチングを)実施してもよい。このようなエッチングは、例えば、マスキング層の種類及び厚さの選択、マスキング層の配置、エッチング条件の選択等により、実施できる。
【0040】
マスキング層の種類は特に限定されないが、高分子フィルム1におけるイオン2が衝突した部分に比べて化学エッチングされ難い材料から構成される層であることが好ましい。「エッチングされ難い」とは、より具体的には、例えば、単位時間あたりにエッチングされる量が小さいこと、すなわち、被エッチング速度が小さいことを意味する。化学エッチングされ難いか否かは、工程(II)において実際に実施する非対称エッチングの条件(エッチング処理液の種類、エッチング温度、エッチング時間等)に基づいて判断できる。後述のように工程(II)において複数回の非対称エッチングを、マスキング層の種類及び/又は配置面を変えながら実施する場合、各エッチングの条件に基づいてそれぞれのエッチングについて判断すればよい。
【0041】
マスキング層は、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール及び金属箔からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される。これらの樹脂は、化学エッチングされ難いとともに、イオンビームの照射によっても損傷を受け難い。
【0042】
工程(I)において、マスキング層を配置した高分子フィルム1にイオンビームを照射した場合、当該マスキング層にもイオントラックが形成される。これを考慮すると、マスキング層を構成する材料は、イオンビームの照射によってもそのポリマー鎖が損傷を受け難い材料であることが好ましい。
【0043】
マスキング層は、非対称エッチングを実施する領域に相当する、高分子フィルム1の一方の主面の少なくとも一部に配置すればよく、必要に応じて、高分子フィルム1の一方の主面の全体に配置してもよい。
【0044】
高分子フィルム1の主面へのマスキング層の配置方法は、非対称エッチングを実施する間、マスキング層が当該主面から剥離しない限り限定されない。マスキング層は、例えば、粘着剤により高分子フィルム1の主面に配置される。すなわち工程(II)において、マスキング層が粘着剤によって上記一方の主面に貼り合わされた状態で、上記化学エッチング(非対称エッチング)を実施してもよい。粘着剤によるマスキング層の配置は、比較的容易に行うことができる。また、粘着剤の種類(例えば、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等)を選択することにより、非対称エッチング後の高分子フィルム1からのマスキング層の剥離が容易となる。
【0045】
工程(II)では、非対称エッチングを複数回実施してもよい。また、少なくとも一回の非対称エッチングを実施する限り、対称エッチングを実施してもよい。例えば、エッチングの途中でマスキング層を高分子フィルム1から剥離することにより、非対称エッチングから対称エッチングの進行に切り替えてもよい。
【0046】
工程(II)において非対称エッチングを複数回実施することにより、形成する細孔の
形状、典型的にはその断面形状、の制御の自由度がより高くなる。また、マスキング層を配置する主面の入れ替え、及び/又はエッチング条件の変化を併用することにより、形成する細孔の形状の制御の自由度がさらに高くなる。
図5に、工程(II)の例と、当該例において形成される細孔の形状(断面形状)を示す。
【0047】
図5に示す例では、イオンビーム照射後の高分子フィルム1の一方の主面にマスキング層4を配置し(
図5(a))、この状態で化学エッチングを実施している。これにより、マスキング層が配置されていない他方の面から、イオンビームの照射により形成された軌跡3に沿ってエッチングが進行し、当該軌跡3に沿って延びる貫通孔が細孔5として形成される(
図5(b))。
図5(b)に示すように、マスキング層4が配置されている主面からは、エッチングが進行せず、細孔が形成されない。軌跡3に沿う方向のエッチング速度Vtと、軌跡3の延びる方向に垂直な方向のエッチング速度Vbとの関係Vt>>Vbにより、形成された貫通孔の断面は円錐状の形状を有するとともに、エッチングのさらなる進行により、その先端がフィルム1の上記一方の主面に開口している。そして、当該貫通孔の上記一方の主面における開口径と、他方の主面における開口径とは互いに異なっており、エッチングの基点となった上記他方の主面における開口径の方が大きい。すなわち、
図5に示す例では、円錐状の断面形状を有する貫通孔であって、その開口径が高分子フィルム1の双方の主面間で異なる貫通孔が形成された樹脂フィルム6を得ている(
図5(c))。上記一方の主面における貫通孔の開口径aと、上記他方の主面における貫通孔の開口径bとの比a/bは、80%未満であり、工程(II)におけるエッチングの条件により、この比をさらに小さい値(例えば、75%以下、70%以下又は60%以下)とすることもできる。
【0048】
前記製造方法では、工程(II)において、高分子フィルムの膜厚方向に孔径が変化している貫通孔であって、高分子フィルムの一方の主面における開口径aと他方の主面における開口径bとの比a/bが80%未満となる非対称貫通孔を形成できる。貫通孔の中心軸は、通常、軌跡3に沿っている。
【0049】
図5に示す例では既に一回の非対称エッチングを実施しているため、
図5(c)に示すマスキング層4が剥離された状態からさらに化学エッチングを進行させてもよい。これにより、例えば、貫通孔5の開口径、あるいは高分子フィルム1の一方の主面における貫通孔5の開口径と、他方の主面における貫通孔5の開口径との比を制御できる。なお、
図5では、説明を分かり易くするために、細孔5の幅(孔径)がその長さよりも誇張して描かれている。
【0050】
工程(II)で形成する貫通孔の開口径は、特に限定されず、例えば、エッチング温度、エッチング時間、エッチング処理液の組成等のエッチング条件により制御できる。開口径の下限は、例えば、0.01μmとすることができる。
【0051】
工程(I)においてイオンビーム照射を実施する高分子フィルム1が無孔である場合等には、全ての貫通孔の開口径が10μm以下である樹脂フィルム6とすることもできる。あるいは、開口径の平均(平均開口径)が10μm以下である樹脂フィルム6とすることもできる。
【0052】
形成する貫通孔の密度(1平方センチメートル当たりの孔数)は、例えば、イオンビームの照射条件(イオン種、イオンのエネルギー、イオンの衝突密度(照射密度)等)により制御でき、特に限定されないが、例えば、10個/cm
2〜1×10
8個/cm
2であってもよく、孔の数が多すぎると近接した孔同士の結合によって孔が拡大する等のフィルムの機械的強度が低下するおそれがあり、少なすぎるとフィルムの表面と裏面での反射率の相違が大きくなりにくいことから、5.0×10
3個/cm
2〜7.0×10
7個/cm
2程
度が好ましい。
【0053】
化学エッチングに使用するエッチング処理液は特に限定されない。エッチング処理液は、例えば、アルカリ性溶液、酸性溶液、又は酸化剤、有機溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を添加したアルカリ性溶液もしくは酸性溶液である。アルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような塩基を含む溶液(典型的には水溶液)等が挙げられる。酸性溶液としては、例えば、硝酸、硫酸のような酸を含む溶液(典型的には水溶液)等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、重クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、アミノアルコール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等が挙げられる。
【0054】
マスキング層を用いた非対称エッチングとすることを除き、具体的なエッチングの手法は公知の手法に従えばよい。例えば、エッチング処理液に、マスキング層を配置したビーム照射後の高分子フィルムを所定の温度かつ所定の時間、浸漬すればよい。エッチングの温度は、例えば、40〜150℃であってもよい。エッチングの時間は、例えば、10秒〜60分であってもよい。
【0055】
エッチング終了後、フィルムを取出し、洗浄し、乾燥させ、次いで、マスキング層を剥離する。フィルムの取出、洗浄、乾燥、剥離等の方法は特に限定されない。これによって、非対称貫通孔を有する樹脂フィルムが得られる。
【0056】
前記樹脂フィルムにおいて、貫通孔の延びる方向(中心軸の方向)は、当該フィルムの主面に対して垂直な方向(フィルムの法線方向)でも、傾いた方向でもありうる。垂直を含めその角度は、高分子フィルムに対するイオンビームの照射角度により制御できる。
【0057】
本発明の光学フィルムは、特に限定されず、フィルムとして単層で使用してもよく、積層体として使用してもよいが、フィルムの厚さを低減し、薄膜フィルムとして用いる点から単層で用いるのが好ましい。また、本発明の光学フィルムにおいて、前記貫通孔には樹脂等は充填されていない。
【0058】
本発明の光学フィルムは、開口径aの貫通孔を有する主面(開口径a面)と開口径bの貫通孔を有する主面(開口径b面)との開口率の比率は、フィルムの表と裏での反射率の差をより大きくできる点から、65%以下が好ましく、63%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。開口率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0059】
さらに、光学フィルムの厚さは、良好な反射率を有することから、1〜100μm程度が好ましく、5〜90μm程度がより好ましく、5〜80μm程度がさらに好ましい。また、薄膜フィルムであるため、屈曲性が低下する等の問題を生じない。
【0060】
本発明の光学フィルムは、波長領域が300〜800nmの光の反射率が異なり、前記反射率の表面と裏面での差が大きいことが好ましい。表面と裏面の反射率は、2%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。反射率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。本発明の光学フィルムは、反射率が表面と裏面で異なるため、反射率の異なるフィルムを積層する、孔を有するフィルムの場合は孔の位置あわせをする等の工程が不要であり、工業的に有利である。反射率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0061】
本発明の光学フィルムは、特に限定されず、光学用途に利用できる。このような用途と
しては、例えば、電子ペーパー、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ、介護用モニター、医療用モニター等の各種ディスプレイ、偏光板、光学レンズ、照明用部材等に利用でき、また、本発明の光学フィルムは、液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、等の各種機能フィルム、又、有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等として利用することができる。
【0062】
本発明の他の実施形態としては、本発明の光学フィルムを備える光学部材が挙げられる。本発明の光学フィルムを他の部材と接合することで光学部材となり得る。このとき、他の部材は特に限定されない。
【0063】
本発明の他の実施形態としては、本発明の光学フィルムを粉砕して得られる粉砕物を含有する組成物が挙げられる。
【0064】
光学フィルムの粉砕方法は、特に限定されず、例えば、必要に応じて裁断機で裁断し、その後、粉砕機にて粉砕する方法等が挙げられる。粉砕機の種類には、特に制限はなく、ニ軸回転せん断式破砕機、一軸回転せん断式破砕機等のせん断式破砕機、ハンマーミル、インパクトクラッシャー等の衝撃式破砕機、シュレッダー等を用いることができる。粉砕物の大きさは特に限定されない。
【0065】
このような組成物は、表面と裏面で反射率の差が大きいフィルムの粉砕物を含むため、反射率を向上させる、ランダムな反射率を得る、又は遊色効果を得る等を目的として、塗料、化粧品等に利用できる。
【0066】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0067】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0068】
実施例及び比較例のフィルムの各物性について、以下の方法で測定した。
【0069】
[孔径]
各実施例及び比較例のフィルムの表面の双方の主面(表面及び裏面)をSEM(JEOL社(日本電子株式会社)製、JSM−6510LV)により撮像し、得られたSEM像から任意に選択した10の貫通孔の孔径(直径)を各々当該像から測定し、その平均値を貫通孔の孔径とした。
【0070】
[孔密度]
フィルムの孔密度(1平方センチメートル当たりの孔数)は、各試料について、上記の孔径の測定で使用したSEM像の孔数を目視でカウントし、1平方センチメートル当たりに換算して算出した。
【0071】
[開口率]
樹脂フィルムの開口率は、樹脂フィルムの双方(表面及び裏面)の主面について、評価した。具体的には、まず、前記主面をSEM(JEOL社(日本電子株式会社)製、JS
M−6510LV)により撮像し、得られたSEM像上に存在する貫通孔の数(孔数)を目視にてカウントした。次いで、カウントした孔について、上記手法で測定した孔径(平均孔径)から求めた貫通孔の面積(孔面積)を算出し、孔数、孔面積(μm
2)及びSEM像の面積(μm
2)を用いて下記式から算出した。
開口率(%)={(孔面積×孔数)/SEM像の面積}×100
なお、SEM像の撮影では、可能な限り画像に含まれる孔の輪郭が欠けないように視野範囲を設定した。前記範囲において、隣接する孔とつながっている孔及び画像の境界に跨って存在する孔は、孔径、孔数及び孔密度の評価において評価対象外とした。
【0072】
[光学特性]
各試料の表と裏について、それぞれの反射率(%R)を、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V−560、ダブルビーム方式、検出器:光電子増倍管)に積分球装置(日本分光株式会社製、商品名:ISV−469)を取り付けた装置で測定した。測定波長領域は300〜800nmとした。なお、反射率は、標準反射板として硫酸バリウム板を用いた時の光線反射率を100とした時の相対値である。また、表に記載の反射率は、測定波長領域は300〜800nmにおける反射率の平均値として算出した。
【0073】
[実施例1]
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane、厚さ50μm)を準備した。このフィルムは、無孔のPETフィルムにイオンビームを照射し、照射後のフィルムを化学エッチングして製造されたフィルムである。このフィルムの表面及び断面をSEMにより観察したところ、以下のことが確認された:
(1)貫通孔が、0.25μmの径を有するストレート孔である;
(2)フィルムの主面に対して垂直な方向に延びる貫通孔がフィルム内に存在している;(3)フィルムの孔密度は、2.0×10
6個/cm
2である。
【0074】
次に前記多孔PETフィルムの一方の主面に、マスキング層としてポリエチレンフィルム(厚さ55μm)をアクリル系粘着剤により貼付した。これを80℃に保持したエッチング処理液(水酸化カリウム濃度20質量%の水溶液)に23分浸漬した。エッチング終了後、フィルムを取出し、RO水で浸漬・洗浄し、50℃の乾燥オーブンにて乾燥した。その後、マスキング層を剥離し、非対称貫通孔が形成された光学フィルムを得た。
【0075】
得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0076】
[実施例2]
多孔PETフィルムの一方の主面に、マスキング層を貼付した後のエッチング時間を20分とした以外は、実施例1と同様にして非対称貫通孔が形成された光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0077】
[実施例3]
多孔PETフィルムの一方の主面に、マスキング層を貼付した後のエッチング時間を10分とした以外は、実施例1と同様にして非対称貫通孔が形成された光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0078】
[比較例1]
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane、厚さ50μm)を準備した。このフィルムは、無孔のPETフィルムにイオンビームを照射し、照射後のフィルムを化学エッチングして製造されたフィルムである。このフィルムの表面及び断面をSEMより観察したところ、以下のことが確認された:
(1)貫通孔が、0.25μmの径を有するストレート孔である;
(2)フィルムの主面に対して垂直な方向に延びる貫通孔がフィルム内に存在している;(3)フィルムの孔密度は、2.0×10
6個/cm
2である。
【0079】
次に前記多孔PETフィルムを80℃に保持したエッチング処理液(水酸化カリウム濃度20質量%の水溶液)に20分浸漬した。エッチング終了後、フィルムを取出し、RO水で浸漬・洗浄し、50℃の乾燥オーブンにて乾燥した。その後、垂直な貫通孔が形成された光学フィルムを得た。
【0080】
得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0081】
[比較例2]
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane、厚さ50μm)を準備した。このフィルムは、無孔のPETフィルムにイオンビームを照射し、照射後のフィルムを化学エッチングして製造されたフィルムである。このフィルムの表面及び断面をSEMより観察したところ、以下のことが確認された:
(1)貫通孔が、0.25μmの径を有するストレート孔である;
(2)フィルムの主面に対して垂直な方向に延びる貫通孔がフィルム内に存在している;(3)フィルムの孔密度は、2.0×10
6個/cm
2である。
【0082】
次に前記多孔PETフィルムを80℃に保持したエッチング処理液(水酸化カリウム濃度20質量%の水溶液)に23分浸漬した。エッチング終了後、フィルムを取出し、RO水で浸漬・洗浄し、50℃の乾燥オーブンにて乾燥した。その後、垂直な貫通孔が形成された光学フィルムを得た。
【0083】
得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0084】
[比較例3]
厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成された非多孔質の市販のPETフィルム(it4ip製、Track etched membrane、厚さ50μm)を準備した。このフィルムは、無孔のPETフィルムにイオンビームを照射し、照射後のフィルムを化学エッチングして製造されたフィルムである。このフィルムの表面及び断面をSEMにより観察したところ、以下のことが確認された:
(1)貫通孔が、0.25μmの径を有するストレート孔である;
(2)フィルムの主面に対して垂直な方向に延びる貫通孔がフィルム内に存在している;(3)フィルムの孔密度は、2.0×10
6個/cm
2である。
【0085】
次に前記多孔PETフィルムの一方の主面に、マスキング層としてポリエチレンフィル
ム(厚さ55μm)をアクリル系粘着剤により貼付した。これを80℃に保持したエッチング処理液(水酸化カリウム濃度20質量%の水溶液)に5分浸漬した。エッチング終了後、フィルムを取出し、RO水で浸漬・洗浄し、50℃の乾燥オーブンにて乾燥した。その後、マスキング層を剥離し、非対称貫通孔が形成された光学フィルムを得た。
【0086】
得られた光学フィルムの双方(表面及び裏面)の面について、孔径、開口率及び反射率を測定した。また、測定結果に基づいて、孔径比率及び開口比率を算出した。結果を下記表1に示す。他方の主面の孔径より小さい孔径を有する面がマスキング面を表す。
【0087】
【表1】
【0088】
図6及び表1の反射率について、非対称構造のフィルムの実施例1と対称構造のフィルムの比較例1、2とを比較した場合、実施例1のフィルムの反射率の方が表裏共に高く、かつ、実施例1のフィルムでは表裏の反射率に有意に差異が生じていた。また、表1及び
図7において、共に非対称構造である実施例と比較例3の反射率を比較した場合、比較例3においても表裏の反射率に差が生じたが、差は1%であった。
以上のように、本発明の光学フィルムは、表裏で反射率が異なるため、表裏で二通りの用途にも使用できる。