特許第6446222号(P6446222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6446222軟骨分化培養液、及び軟骨組織の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446222
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】軟骨分化培養液、及び軟骨組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20181217BHJP
【FI】
   C12N5/077
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-201803(P2014-201803)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-67311(P2016-67311A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 克之
(72)【発明者】
【氏名】重光 勇介
(72)【発明者】
【氏名】坂井 裕大
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/022788(WO,A1)
【文献】 特開平02−040399(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111161(WO,A1)
【文献】 特表2013−529932(JP,A)
【文献】 Journal of Cellular Physiology,1986年,Vol. 128, No. 3,p. 475-484
【文献】 Journal of Cellular Physiology,1989年,Vol. 138, No. 1,p. 215-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリンと、
bFGFと、を含み、
前記bFGFの含有量が、1ng/mL以上である、軟骨分化培養液。
【請求項2】
前記ヘパリンの含有量が、1Unit/mL以上10000Unit/mL以下であり、
前記bFGFの含有量が、10000ng/mL以下である、請求項1に記載の軟骨分化培養液。
【請求項3】
さらに、
TGF−β3と、
インスリンと、
ITS+と、を含む請求項1または2に記載の軟骨分化培養液。
【請求項4】
前記TGF−β3の含有量が0.1ng/mL以上1000ng/mL以下であり
前記インスリンの含有量が1μg/mL以上10000μg/mL以下であり
前記ITS+の含有量が0.1体積%以上10体積%以下である請求項3に記載の軟骨分化培養液。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載軟骨分化培養液を用い間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させる、軟骨組織の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨分化培養液、及び軟骨組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞を用いた再生医療の研究が盛んに行われている。幹細胞は分化能を有し、培地組成の選択により分化をコントロールできることから、各種分野における応用が期待されている。
【0003】
そして、例えば補綴歯科治療の分野においては、従来から骨造成の要求が高かった。そこで、間葉系幹細胞を軟骨分化させ、培養軟骨による骨造成技術の検討がなされるようになっている。
【0004】
間葉系幹細胞の軟骨分化は、軟骨分化培養液を用いた培地中で間葉系幹細胞を培養することによりなされており、例えば非特許文献1には、α−MEMに、ITS、TGFβ3、デキザメサゾン、アスコルビン酸を添加した培養液を用いた例が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Science 1999,284(5411)143−147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示されているような従来の培養液では軟骨分化が十分に促進できていなかった。
【0007】
本発明は上記従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであって、本発明の一側面では、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進することができる軟骨分化培養液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ヘパリンと、bFGFと、を含み、前記bFGFの含有量が、1ng/mL以上である、軟骨分化培養液を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進することができる軟骨分化培養液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0011】
本実施形態では軟骨分化培養液の一構成例について説明する。
【0012】
本実施形態の軟骨分化培養液は、ヘパリンと、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor:塩基性線維芽細胞増殖因子)とを含むことができる。
【0013】
本発明の発明者らは、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進することができる軟骨分化培養液について検討を行った。そして、ヘパリンと、bFGFとを含む軟骨分化培養液を用いることで間葉系幹細胞の軟骨分化を特に促進できることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の発明者らの検討によると、bFGFは、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進する働きを有している。しかしながら、bFGFは短期間に分解してしまうため、軟骨分化培養液がbFGFを含有するのみでは、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進する観点では十分な効果を発揮することができなかった。
【0015】
そこで、本発明の発明者らがさらに検討を行ったところ、ヘパリンは、bFGFを安定化する働きを有することが見出された。このため、軟骨分化培養液がヘパリンとbFGFとを併せて含有することにより、bFGFによる間葉系幹細胞の軟骨分化促進の効果を継続させることができ、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進する機能を特に高めることができる。
【0016】
軟骨分化培養液中のヘパリン、及びbFGFの含有量は特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、軟骨分化培養液中のヘパリンの含有量は1Unit/mL以上10000Unit/mL以下であることが好ましく、10Unit/mL以上1000Unit/mL以下であることがより好ましい。
【0017】
また、軟骨分化培養液中のbFGFの含有量は1ng/mL以上10000ng/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1000ng/mL以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態の軟骨培養液には上述の成分に限られず、さらに任意の成分を含むことができる。
【0019】
本実施形態の軟骨分化培養液には、例えばさらに、TGF−β3(transforming growth factor−β3)と、インスリンと、ITS+(Insulin−Transferrin−Selenite)と、を含むことが好ましい。
【0020】
TGF−β3、インスリン、及びITS+についも間葉系幹細胞の軟骨分化を促進する働きを有しており、これらの成分を含有する軟骨分化培養液は間葉系幹細胞の軟骨分化を促進することができる。
【0021】
従来の培養液において、インスリン、またはITS+のいずれか一方を添加することは知られていたが、両成分を同時に添加することは行われていなかった。ところが、本発明の発明者らの検討によると、インスリンと、ITS+と、を同時に添加することにより、間葉系幹細胞の軟骨分化を特に促進することができる。
【0022】
軟骨分化培養液中のTGF−β3、インスリン、及びITS+の含有量は特に限定されるものではなく、任意にその含有量を選択することができる。
【0023】
例えば軟骨分化培養液中のTGF−β3の含有量は0.1ng/mL以上1000ng/mL以下の割合であることが好ましく、1ng/mL以上100ng/mL以下であることがより好ましい。
【0024】
また、軟骨分化培養液中のインスリンの含有量は、1μg/mL以上10000μg/mL以下であることが好ましく、10μg/mL以上1000μg/mL以下であることがより好ましい。
【0025】
軟骨分化培養液中のITS+の含有量は、体積比で0.1%以上10%以下であることが好ましく、0.5%以上5%以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態の軟骨分化培養液は、さらに任意の成分を含むことができる。例えば、脂肪酸濃縮液、ビタミン液、EAA(Essential Amino Acids)、エリスロポエチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、及び活性型ビタミンDを含むことができる。
【0027】
上述した成分のうち、脂肪酸濃縮液、ビタミン液、EAAは、細胞の培養に必要な脂肪酸、ビタミン、アミノ酸を供給するために添加しているものである。
【0028】
上述した成分のうち、エリスロポエチンは赤血球の分泌を促進する成分として知られているが、本発明の発明者らの検討によると、間葉系幹細胞の軟骨分化を促進する機能も有することが見出された。
【0029】
また、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸は軟骨の基質に含まれる成分であり、間葉系幹細胞の軟骨分化を補助する機能を有する。
【0030】
脂肪酸濃縮液、ビタミン液、EAA、エリスロポエチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、及び活性型ビタミンDは、それぞれ単独で本実施形態の軟骨分化培養液に含まれていても上述の効果を発揮できるが、全てが同時に含まれていることが好ましい。本実施形態の軟骨分化培養液が、上述の成分を全て同時に含む場合、特に間葉系幹細胞の軟骨分化を促進することができる。
【0031】
軟骨分化培養液中のこれらの成分の含有量についても特に限定されるものではなく、任意にその含有量を選択することができる。
【0032】
例えば、軟骨分化培養液中の脂肪酸濃縮液の含有量は、体積比で0.01%以上10%以下であることが好ましく、0.1%以上5%以下であることがより好ましい。
【0033】
軟骨分化培養液中のビタミン液の含有量は、体積比で0.01%以上10%以下であることが好ましく、0.1%以上5%以下であることがより好ましい。
【0034】
軟骨分化培養液中のEAAの含有量は、体積比で0.01%以上10%以下であることが好ましく、0.1%以上5%以下であることがより好ましい。
【0035】
軟骨分化培養液中のエリスロポエチンの含有量は、0.1IU/mL以上1000IU/mL以下であることが好ましく、1IU/mL以上100IU/mL以下であることがより好ましい。
【0036】
軟骨分化培養液中のコンドロイチン硫酸の含有量は、0.1μg/mL以上1000μg/mL以下であることが好ましく、1μg/mL以上100μg/mL以下であることがより好ましい。
【0037】
軟骨分化培養液中のヒアルロン酸の含有量は、0.01μg/mL以上100μg/mL以下であることが好ましく、0.1μg/mL以上10μg/mL以下であることがより好ましい。
【0038】
軟骨分化培養液中の活性型ビタミンDの含有量は、0.01ng/mL以上100ng/mL以下であることが好ましく、0.1ng/mL以上10ng/mL以下であることがより好ましい。
【0039】
また、上述の成分に加えて抗生物質等も含むことができる。
【0040】
軟骨分化培養液の基材としては例えば基礎培地を用いることができ、基材に上記成分を添加、混合することにより軟骨分化培養液とすることができる。この際用いる基礎培地の種類は特に限定されるものではなく、一般的に市販されている各種基礎培地を用いることができる。特に基礎培地としては例えばDMEM等を好ましく用いることができる。また基礎培地は、市販品に依らなくとも、水にアミノ酸、ビタミン、pH調整剤等の各種成分を添加して作製することもできる。このとき用いる水は、微粒子、イオン微粒金属や有機物を除去した超純水であることが好ましい。勿論、水に基礎培地の成分及び、上記成分を混合することによっても本実施形態の軟骨分化培養液を作製することができる。
【0041】
そして、上述の軟骨分化培養液を用いた培地中で、分化した軟骨細胞からなる軟骨組織を生成することができる。
【0042】
上述の軟骨分化培養液を用いた培地中で、間葉系幹細胞を分化した軟骨細胞からなる軟骨組織を生成する場合、従来の培養液を用いた培地により間葉系幹細胞を分化した軟骨細胞からなる軟骨組織を生成する場合と比較して、軟骨基質の産生量を多くすることができる。
【実施例】
【0043】
まず、以下の各実験例において調製した軟骨分化培養液の評価手順について説明する。
(移植細胞の準備)
移植細胞としては、以下の手順によりヒト腸骨骨髄液から採取した間葉系幹細胞を用いた。
【0044】
ヒト腸骨骨髄液を採取し、αMEM培地(10%FBS、32単位/ml ペンシリン、50μg/ml ストレプトマイシン)でよく懸濁し,骨髄液をほぐした後、300g、5分間遠心分離して、細胞を分離した。
【0045】
前記骨髄液から約7×10個の有核細胞を得た。骨髄液から採取した細胞を有核細胞数3.75×10細胞個/75cmとなるように培養フラスコへ播種し、37℃にて5%炭酸ガス存在下で培養した。3日目で培地を交換し、以後3日に1回培地を交換した。bFGFは5日目から3ng/mlで培地に添加した。10日前後でほぼ集密的にまで増殖した。これらの培養皿をトリプシン(0.05%)+EDTA(0.2mM)で5分間インキュベートして、細胞を単離した。細胞数をCoulterカウンター(Z1シングル,コールター社製)で計測し、5,000細胞個/cmの密度で細胞を播種した。この操作を繰り返して、ほぼ集密的(コンフルエント)になった二代目の継代培養皿から得た三代目の細胞を試験に用いた。
(軟骨への分化誘導)
増殖させた細胞を2×10細胞個/1mlの密度で、各実験例で調製した軟骨分化培養液を用いた軟骨分化培地に懸濁させ、15ml遠枕管に移し、500Gで遠心し、ペレット(細胞塊)を得た。
【0046】
遠枕管のフタをゆるめ、37℃、5%炭酸ガス存在下で培養した。2日目で軟骨分化培地を交換し、以後2日に1回培地を交換し、4週間培養して軟骨へと分化誘導した。
【0047】
なお、培地を交換する際にも、各実験例で調製した軟骨分化培養液を用いている。
(評価方法)
上述のように各実験例の軟骨分化培養液を用いて軟骨へと分化誘導した後、以下の2つの手法により評価を行った。
<病理組織学的評価>
各実験例の軟骨分化培養液により培養した組織を10%ホルマリン中性緩衝溶液で2日間固定した後にパラフィン包埋し、ミクロトームにて厚さ5μmに切り出し、トルイジンブルー染色を行った。そして、光学顕微鏡下にて観察を行い染色の有無を確認した。
【0048】
後述する表に示した各実験例の評価結果のうち×は染色が無かったことを、すなわち軟骨組織が確認されなかったことを示している。
【0049】
そして、後述する表に示した各実験例の評価結果のうち、〇については染色があったことを、すなわち軟骨組織が確認されたことを示している。染色があった試料については、トルイジンブルー染色にて赤紫色に染まるメタクロマジー(異調性)陽性の軟骨基質が多く沈着した成熟した軟骨組織である事を確認した。
<生物学的評価>
培養した組織をパパイン水溶液で消化したサンプルをGAG定量キット及びDNA定量キットで定量し、単位DNAあたりのグリコサミノグリカン量を算定し、別途細胞数とDNA量の関係を計測した結果より単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量を定量した。II型コラーゲン、I型コラーゲンはELISAにより定量し、同様に単位細胞あたりの数値として算出した。
【0050】
なお、評価は以下の表1に示す成分からなる培養液を軟骨分化培養液として用いて、上述の手順と同様にして軟骨組織を培養し、培養した軟骨組織について同様にして分析した結果を基準として、後述する評価式に基づいて行った。なお、表1に示す成分からなる培養液は、既述の非特許文献1(より具体的には非特許文献1の参考文献19も参照)に開示された培養液の組成を示している。また、表1中DMEMの添加量を残部としているが、これはDMEMが軟骨分化培養液を1ml調製した場合の残部であることを示している。
【0051】
評価は具体的には、(1)単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量、及び(2)II型コラーゲン比率(II/(I+II)×100(%))を算出し、その結果について、以下の評価式に基づいて基準値と、各実験例の結果とを比較して〇〜××で評価している。
【0052】
なお、単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量、及びII型コラーゲン比率は数値が大きいほど軟骨分化が促進されていることを意味する。
【0053】
以下の評価式中Ctrlが表1に示した培養液を用いて培養した軟骨組織についての評価結果を、Exが各実験例で調製した培養液を用いて培養した軟骨組織についての評価結果を示している。
○ : Ctrl <<< Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.5倍以上)
△+ : Ctrl << Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.2倍以上1.5倍未満)
△− : Ctrl < Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.05倍以上1.2倍未満)
× : Ctrl = Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1倍以上1.05倍未満)
×× : Ctrl > Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)未満)
いずれの実験例においても(1)単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量についての評価と、(2)II型コラーゲン比率(II/(I+II)×100(%))についての評価とは同じ評価となった。このため、表7〜表9の生物学的評価の欄で1つの結果として示している。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、各実験例における軟骨分化培養液の調製手順について説明する。例1、例6〜例22が実施例、例2〜例5が比較例となる。
【0056】
なお、以下の各実験例においてITS+、脂肪酸濃縮液、ビタミン液、EAAとしては表2〜表5に示した成分を含有する試薬を用いている。表2がITS+、表3が脂肪酸濃縮液、表4がビタミン液、表5がEAAの組成をそれぞれ示している。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
[例1〜例5]
以下の表6に示した共通成分と、各実験例について表7に示した各成分とを混合することにより軟骨分化培養液を調製した。
【0062】
すなわち、例えば例1の場合には、表6に示した共通成分と、表7に示したヘパリン100Unit/mlと、bFGF100ng/mLと、TGF−β3を10ng/mLと、インスリン100μg/mLと、ITS+を1%とを混合して軟骨分化培養液を調製した。
【0063】
なお、ITS+の単位は体積比での百分率を示しており、共通成分を含む軟骨分化培養液全体に対する比率を示している。
【0064】
また、表6においてDMEMの添加量を残部としているが、これはDMEMが、軟骨分化培養液を1ml調製した場合の残部であることを示している。
【0065】
得られた軟骨分化培養液について上述の評価を行った。結果を表7に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
以上に示した実験例のうち、例1と、例2〜例5と、を比較すると明らかなように、例1は生物学的評価についても〇となっており、軟骨分化が促進されていることが確認できた。例1の軟骨分化培養液が、ヘパリンと、bFGFとを同時に含んでおり、これを添加した軟骨分化培養液を用いた培地が、間葉系幹細胞の軟骨分化を特に促進できたためと考えられる。
【0069】
また、ヘパリンと、bFGFのうち、いずれか一方のみを含む例2、例3についても両方を含まない例4と同様に生物学的評価は×となることが確認できた。従って、ヘパリンと、bFGFのうちいずれか一方のみを添加するのではなく、例1のようにヘパリンとbFGFとを同時に添加することで軟骨分化を特に促進できることを確認できた。
【0070】
[例6〜例19]
上述の表6に示した共通成分と、各実験例について表8に示した各成分とを混合した点以外は、例1と同様にして軟骨分化培養液を調製し、評価を行った。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
例6〜例9については、ヘパリン、及びbFGFのいずれか一方または両方を含まない例2〜例5と比較すると軟骨分化を促進する効果は確認できたものの、例1と比較すると、軟骨分化を促進する効果が若干劣ることが確認された。
【0073】
また例10〜例19については、生物学的評価が例1と同様に〇となっており、例1と同様に軟骨分化を促進する効果を有することが確認できた。
【0074】
これらの結果から、ヘパリンの添加量は1Unit/mL以上10000Unit/mL以下が好ましく、bFGFの添加量は1ng/mL以上10000ng/mL以下が好ましいことを確認できた。
【0075】
[例20〜例22]
上述の表6に示した共通成分と、各実験例について表9に示した各成分とを混合した点以外は、例1と同様にして軟骨分化培養液を調製し、評価を行った。結果を表9に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
例20〜例22については生物学的評価が△+になっていることから従来技術と比較して、軟骨分化を促進する効果は確認できたものの、例1に比べると、その効果は若干劣ることが確認できた。これらの結果から、軟骨分化培養液は、TGF−β3、インスリン、及びITS+も含有していることが好ましいことを確認できた。