【実施例】
【0043】
まず、以下の各実験例において調製した軟骨分化培養液の評価手順について説明する。
(移植細胞の準備)
移植細胞としては、以下の手順によりヒト腸骨骨髄液から採取した間葉系幹細胞を用いた。
【0044】
ヒト腸骨骨髄液を採取し、αMEM培地(10%FBS、32単位/ml ペンシリン、50μg/ml ストレプトマイシン)でよく懸濁し,骨髄液をほぐした後、300g、5分間遠心分離して、細胞を分離した。
【0045】
前記骨髄液から約7×10
7個の有核細胞を得た。骨髄液から採取した細胞を有核細胞数3.75×10
7細胞個/75cm
2となるように培養フラスコへ播種し、37℃にて5%炭酸ガス存在下で培養した。3日目で培地を交換し、以後3日に1回培地を交換した。bFGFは5日目から3ng/mlで培地に添加した。10日前後でほぼ集密的にまで増殖した。これらの培養皿をトリプシン(0.05%)+EDTA(0.2mM)で5分間インキュベートして、細胞を単離した。細胞数をCoulterカウンター(Z1シングル,コールター社製)で計測し、5,000細胞個/cm
2の密度で細胞を播種した。この操作を繰り返して、ほぼ集密的(コンフルエント)になった二代目の継代培養皿から得た三代目の細胞を試験に用いた。
(軟骨への分化誘導)
増殖させた細胞を2×10
5細胞個/1mlの密度で、各実験例で調製した軟骨分化培養液を用いた軟骨分化培地に懸濁させ、15ml遠枕管に移し、500Gで遠心し、ペレット(細胞塊)を得た。
【0046】
遠枕管のフタをゆるめ、37℃、5%炭酸ガス存在下で培養した。2日目で軟骨分化培地を交換し、以後2日に1回培地を交換し、4週間培養して軟骨へと分化誘導した。
【0047】
なお、培地を交換する際にも、各実験例で調製した軟骨分化培養液を用いている。
(評価方法)
上述のように各実験例の軟骨分化培養液を用いて軟骨へと分化誘導した後、以下の2つの手法により評価を行った。
<病理組織学的評価>
各実験例の軟骨分化培養液により培養した組織を10%ホルマリン中性緩衝溶液で2日間固定した後にパラフィン包埋し、ミクロトームにて厚さ5μmに切り出し、トルイジンブルー染色を行った。そして、光学顕微鏡下にて観察を行い染色の有無を確認した。
【0048】
後述する表に示した各実験例の評価結果のうち×は染色が無かったことを、すなわち軟骨組織が確認されなかったことを示している。
【0049】
そして、後述する表に示した各実験例の評価結果のうち、〇については染色があったことを、すなわち軟骨組織が確認されたことを示している。染色があった試料については、トルイジンブルー染色にて赤紫色に染まるメタクロマジー(異調性)陽性の軟骨基質が多く沈着した成熟した軟骨組織である事を確認した。
<生物学的評価>
培養した組織をパパイン水溶液で消化したサンプルをGAG定量キット及びDNA定量キットで定量し、単位DNAあたりのグリコサミノグリカン量を算定し、別途細胞数とDNA量の関係を計測した結果より単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量を定量した。II型コラーゲン、I型コラーゲンはELISAにより定量し、同様に単位細胞あたりの数値として算出した。
【0050】
なお、評価は以下の表1に示す成分からなる培養液を軟骨分化培養液として用いて、上述の手順と同様にして軟骨組織を培養し、培養した軟骨組織について同様にして分析した結果を基準として、後述する評価式に基づいて行った。なお、表1に示す成分からなる培養液は、既述の非特許文献1(より具体的には非特許文献1の参考文献19も参照)に開示された培養液の組成を示している。また、表1中DMEMの添加量を残部としているが、これはDMEMが軟骨分化培養液を1ml調製した場合の残部であることを示している。
【0051】
評価は具体的には、(1)単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量、及び(2)II型コラーゲン比率(II/(I+II)×100(%))を算出し、その結果について、以下の評価式に基づいて基準値と、各実験例の結果とを比較して〇〜××で評価している。
【0052】
なお、単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量、及びII型コラーゲン比率は数値が大きいほど軟骨分化が促進されていることを意味する。
【0053】
以下の評価式中Ctrlが表1に示した培養液を用いて培養した軟骨組織についての評価結果を、Exが各実験例で調製した培養液を用いて培養した軟骨組織についての評価結果を示している。
○ : Ctrl <<< Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.5倍以上)
△+ : Ctrl << Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.2倍以上1.5倍未満)
△− : Ctrl < Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1.05倍以上1.2倍未満)
× : Ctrl = Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)の1倍以上1.05倍未満)
×× : Ctrl > Ex (実験結果(Ex)がコントロール(Ctrl)未満)
いずれの実験例においても(1)単位細胞あたりのグリコサミノグリカン量についての評価と、(2)II型コラーゲン比率(II/(I+II)×100(%))についての評価とは同じ評価となった。このため、表7〜表9の生物学的評価の欄で1つの結果として示している。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、各実験例における軟骨分化培養液の調製手順について説明する。例1、例6〜例22が実施例、例2〜例5が比較例となる。
【0056】
なお、以下の各実験例においてITS+、脂肪酸濃縮液、ビタミン液、EAAとしては表2〜表5に示した成分を含有する試薬を用いている。表2がITS+、表3が脂肪酸濃縮液、表4がビタミン液、表5がEAAの組成をそれぞれ示している。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
[例1〜例5]
以下の表6に示した共通成分と、各実験例について表7に示した各成分とを混合することにより軟骨分化培養液を調製した。
【0062】
すなわち、例えば例1の場合には、表6に示した共通成分と、表7に示したヘパリン100Unit/mlと、bFGF100ng/mLと、TGF−β3を10ng/mLと、インスリン100μg/mLと、ITS+を1%とを混合して軟骨分化培養液を調製した。
【0063】
なお、ITS+の単位は体積比での百分率を示しており、共通成分を含む軟骨分化培養液全体に対する比率を示している。
【0064】
また、表6においてDMEMの添加量を残部としているが、これはDMEMが、軟骨分化培養液を1ml調製した場合の残部であることを示している。
【0065】
得られた軟骨分化培養液について上述の評価を行った。結果を表7に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
以上に示した実験例のうち、例1と、例2〜例5と、を比較すると明らかなように、例1は生物学的評価についても〇となっており、軟骨分化が促進されていることが確認できた。例1の軟骨分化培養液が、ヘパリンと、bFGFとを同時に含んでおり、これを添加した軟骨分化培養液を用いた培地が、間葉系幹細胞の軟骨分化を特に促進できたためと考えられる。
【0069】
また、ヘパリンと、bFGFのうち、いずれか一方のみを含む例2、例3についても両方を含まない例4と同様に生物学的評価は×となることが確認できた。従って、ヘパリンと、bFGFのうちいずれか一方のみを添加するのではなく、例1のようにヘパリンとbFGFとを同時に添加することで軟骨分化を特に促進できることを確認できた。
【0070】
[例6〜例19]
上述の表6に示した共通成分と、各実験例について表8に示した各成分とを混合した点以外は、例1と同様にして軟骨分化培養液を調製し、評価を行った。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
例6〜例9については、ヘパリン、及びbFGFのいずれか一方または両方を含まない例2〜例5と比較すると軟骨分化を促進する効果は確認できたものの、例1と比較すると、軟骨分化を促進する効果が若干劣ることが確認された。
【0073】
また例10〜例19については、生物学的評価が例1と同様に〇となっており、例1と同様に軟骨分化を促進する効果を有することが確認できた。
【0074】
これらの結果から、ヘパリンの添加量は1Unit/mL以上10000Unit/mL以下が好ましく、bFGFの添加量は1ng/mL以上10000ng/mL以下が好ましいことを確認できた。
【0075】
[例20〜例22]
上述の表6に示した共通成分と、各実験例について表9に示した各成分とを混合した点以外は、例1と同様にして軟骨分化培養液を調製し、評価を行った。結果を表9に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
例20〜例22については生物学的評価が△+になっていることから従来技術と比較して、軟骨分化を促進する効果は確認できたものの、例1に比べると、その効果は若干劣ることが確認できた。これらの結果から、軟骨分化培養液は、TGF−β3、インスリン、及びITS+も含有していることが好ましいことを確認できた。