特許第6446249号(P6446249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446249
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】水銀回収システム及び水銀回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20181217BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20181217BHJP
   C04B 7/60 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B01D53/64 100
   B09B3/00 303L
   C04B7/60ZAB
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-246646(P2014-246646)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-107202(P2016-107202A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】輪達 仁司
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−207658(JP,A)
【文献】 特開2000−288527(JP,A)
【文献】 特開昭61−061687(JP,A)
【文献】 特開2002−355531(JP,A)
【文献】 特開平07−328583(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0118151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/85
B09B 1/00− 5/00
B01J 20/00−20/34
C22B 1/00−61/00
F27D 17/00−99/00
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀を含む物質を間接加熱して該物質に含まれる水銀を揮発させ、揮発水銀を含む搬送用ガスを排出する外熱キルンと、
外熱キルンから排出された搬送用ガスを集塵する集塵装置と、
該集塵装置の排ガスに希釈用空気を添加する添加装置と、
該希釈用空気を添加した後の排ガスに含まれる水銀を回収する水銀回収装置と、
前記集塵装置から排出されたダストを前記外熱キルンに戻す循環ルートとを備えることを特徴とする水銀回収システム。
【請求項2】
前記外熱キルンにおける水銀を含む物質の流れと、該物質から揮発した水銀を含むガスの流れとが向流であることを特徴とする請求項1に記載の水銀回収システム。
【請求項3】
前記外熱キルンは、前記水銀を含む物質を供給する物質供給部と、該水銀を含む物質から水銀が除去されて生じた水銀除去物質を排出する物質排出部と、ガスを導入するガス導入部と、前記搬送用ガスを排出するガス排出部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水銀回収システム。
【請求項4】
水銀を含む物質を外熱キルンを用いて間接加熱して該物質に含まれる水銀を揮発させ、
揮発水銀を含む搬送用ガスを集塵し、
該集塵後の排ガスに希釈用空気を添加し、
該希釈用空気を添加した後の排ガスに含まれる水銀を回収し、
前記集塵によって得られたダストを前記水銀を含む物質と共に間接加熱することを特徴とする水銀回収方法。
【請求項5】
前記間接加熱によって生じた揮発水銀を含むガスと水銀除去物質とを互いに分離し、該揮発水銀を含むガスを前記搬送用ガスとすることを特徴とする請求項に記載の水銀回収方法。
【請求項6】
前記水銀を含む物質としてセメントキルン排ガスから回収したダスト又は石炭灰を用い、前記間接加熱によって得られた水銀除去物質をセメント原料として利用することを特徴とする請求項又はに記載の水銀回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン排ガスから回収したダストや石炭灰等の水銀を含む物質から水銀を回収するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントキルン排ガスには、セメントの主原料である石灰石等の天然原料が含有する水銀や、フライアッシュ等のリサイクル資源に含まれる水銀に由来する微量の水銀が含まれている。セメントキルン排ガス中の水銀が増加すると、大気汚染の原因となる虞があり、フライアッシュ等のリサイクル資源利用拡大の阻害要因となる虞もある。
【0003】
そこで、特許文献1には、図2に示すように、空気A11を加熱する熱風炉12と、セメントキルン排ガスから回収した、水銀を含むキルンダストD11を熱風炉12からのガスG11で直接加熱する抽気ダクト13と、揮発水銀を含む搬送用ガスG12を集塵して水銀含有ガスG13と水銀除去ダストD12とに分離するサイクロン14と、水銀含有ガスG13を集塵して水銀含有ガスG14と水銀除去ダストD13とに分離するバグフィルタ15と、水銀含有ガスG14から熱回収する熱交換器16と、水銀含有ガスG15に含まれる水銀を回収する活性炭吸着塔19と、熱交換器16で生じた熱を熱風炉12に供給するファン18とを備えるセメントキルン排ガスの処理装置11が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−88770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の処理方法では、キルンダストD11を均一に加熱することが容易ではなく、キルンダストD11中の水銀を漏れなく揮発させるには加熱に用いるガスG11を大量に使用せざるを得なかった。このため、搬送用ガスG12の量が多くなり、加熱装置としての抽気ダクト13、集塵装置としてのサイクロン14やバグフィルタ15、及び水銀回収装置としての活性炭吸着塔19等の関連設備を大型化せざるを得ず、設備コスト及び運転コストが高くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、低コストで水銀を含む物質から効率よく水銀を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、水銀回収システムであって、水銀を含む物質を間接加熱して該物質に含まれる水銀を揮発させ、揮発水銀を含む搬送用ガスを排出する外熱キルンと、該外熱キルンから排出された搬送用ガスを集塵する集塵装置と、該集塵装置の排ガスに希釈用空気を添加する添加装置と、該希釈用空気を添加した後の排ガスに含まれる水銀を回収する水銀回収装置と、前記集塵装置から排出されたダストを前記外熱キルンに戻す循環ルートとを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、外熱キルンを用いることで大量のガスを使用しなくとも水銀を含む物質を均一に加熱することができるため、外熱キルンから排出される搬送用ガス量を少なくすることができ、外熱キルン、集塵装置、及び水銀回収装置等の関連設備の小型化が可能となる。また、水銀を含む物質と加熱媒体との接触により加熱媒体に水銀が含まれることを防止することができ、加熱媒体の処理装置を簡易なものとすることができる。
【0009】
さらに、集塵装置から排出されたダストを外熱キルンに戻すこと、すなわちダストを循環させることで、ダストに残存する水銀を外熱キルンでさらに揮発させ、効率よく水銀を回収し、系外に排出される水銀を少なくすることができる。また、集塵装置の排ガスに希釈用空気を添加する添加装置を設けたため、水銀回収装置に導入されるガスの水銀濃度を吸着に適した濃度にすることができる。
【0010】
上記水銀回収システムにおいて、前記外熱キルンにおける水銀を含む物質の流れと、該物質から揮発した水銀を含むガスの流れとを向流とすることができる。これにより、水銀を含む物質から揮発した水銀を効率的に搬送用ガスに含めることができ、さらに効率よく水銀を回収することができる。
【0011】
また、前記外熱キルンは、前記水銀を含む物質を供給する物質供給部と、該水銀を含む物質から水銀が除去されて生じた水銀除去物質を排出する物質排出部と、ガスを導入するガス導入部と、前記搬送用ガスを排出するガス排出部とを備えることができる。これにより、搬送用ガスによって水銀除去物質を搬送せずに揮発水銀のみを搬送すればよいため、搬送用ガスをさらに少量とすることができる
【0012】
また、本発明は、水銀回収方法であって、水銀を含む物質を外熱キルンを用いて間接加熱して該物質に含まれる水銀を揮発させ、揮発水銀を含む搬送用ガスを集塵し、該集塵後の排ガスに希釈用空気を添加し、該希釈用空気を添加した後の排ガスに含まれる水銀を回収し、前記集塵によって得られたダストを前記水銀を含む物質と共に間接加熱することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、上記発明と同様に、外熱キルンを用いて間接加熱を行うことで大量のガスを使用しなくとも水銀を含む物質を均一に加熱することができるため、搬送用ガス量を少なくすることができ、間接加熱、集塵、及び水銀回収に要するコストを低減することができる。また、水銀を含む物質と加熱媒体との接触により加熱媒体に水銀が含まれることを防止することができ、加熱媒体の処理を簡易なものとすることができる。
【0014】
さらに、集塵装置から排出されたダストを循環させることで、ダストに残存する水銀を外熱キルンでさらに揮発させ、効率よく水銀を回収し、系外に排出される水銀を少なくすることができる。また、集塵後の排ガスに希釈用空気を添加することで、ガスの水銀濃度を吸着に適した濃度にすることができる。
【0015】
上記水銀回収方法において、前記間接加熱によって生じた揮発水銀を含むガスと水銀除去物質とを互いに分離し、該揮発水銀を含むガスを前記搬送用ガスとすることができる。これにより、搬送用ガスによって水銀除去物質を搬送せずに揮発水銀のみを搬送すればよいため、搬送用ガスをさらに少量とすることができる。
【0016】
また、前記水銀を含む物質としてセメントキルン排ガスから回収したダスト又は石炭灰を用い、前記間接加熱によって得られた水銀除去物質をセメント原料として利用することができる。これにより、セメントキルン排ガスから回収したダスト又は石炭灰と共に、水銀除去物質も有効利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、低コストで水銀を含む物質から効率よく水銀を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る水銀回収システムの一実施の形態を示す全体構成図である。
図2】従来の水銀回収システムの一例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下では、本発明に係る水銀回収システムによってセメントキルン排ガスから回収したダストを処理する場合を例にとって説明する。
【0020】
図1は本発明に係る水銀回収システムの一実施の形態を示し、この水銀回収システム1は、セメントキルン排ガスから回収した、水銀を含むキルンダストD1を貯留するホッパ2と、ホッパ2から供給されたキルンダストD1と、後述する水銀除去ダストD2とが混在した水銀含有ダストD3を運搬するスクリューコンベア3と、スクリューコンベア3から供給された水銀含有ダストD3を間接加熱し、間接加熱によって揮発した水銀を含むガスと水銀除去ダストD4とを互いに分離する外熱キルン4と、外熱キルン4から排出された搬送用ガスG1を水銀含有ガスG2と水銀除去ダストD2とに分離するバグフィルタ5と、バグフィルタ5から排出された水銀含有ガスG2に希釈用空気A2を添加して水銀希釈ガスG3とするファン6と、水銀希釈ガスG3に含まれる水銀を吸着して回収する活性炭吸着塔7と、バグフィルタ5から排出された水銀除去ダストD2をスクリューコンベア3に戻す循環ルート8とを備える。
【0021】
間接加熱装置としての外熱キルン4は、回転式のキルン4aと、キルン4aを囲繞して高温ガスが導入されるジャケット4bと、水銀含有ダストD3を供給するダスト供給部4cと、空気A1を導入するガス導入部4dと、搬送用ガスG1を排出するガス排出部4eと、水銀除去ダストD4を排出するダスト排出部4fとを有する。
【0022】
集塵装置としてのバグフィルタ5には、900℃程度までの耐熱性を有する高耐熱型のバグフィルタや、通常の耐熱性を有するバグフィルタを使用することができる。
【0023】
水銀回収装置としての活性炭吸着塔7は、水銀希釈ガスG3中の水銀を吸着して回収するために備えられる。活性炭吸着塔7で使用される活性炭としては、市販の活性炭の中で、水銀回収能力に特に優れる活性炭を選定することが望ましく、具体的には、水銀吸着用として調整された硫黄添着処理が施されている活性炭が好適である。
【0024】
次に、上記構成を有する水銀回収システム1の動作について図1を参照しながら説明する。
【0025】
外熱キルン4のジャケット4bに高温ガスを導入してキルン4aの内部を加熱し、キルンダストD1をスクリューコンベア3を介してキルン4aに供給して間接加熱する。キルンダストD1は、キルン4aの高温となった内面に接触して加熱され、水銀が揮発する。一方、水銀を除去した水銀除去ダストD4をダスト排出部4fから系外に排出してセメント原料等として利用する。
【0026】
ガス導入部4dから導入した空気A1によって揮発した水銀を搬送し、揮発水銀を含む搬送用ガスG1をガス排出部4eから排出する。搬送用ガスG1をバグフィルタ5に導入して水銀含有ガスG2と水銀除去ダストD2とに分離する。
【0027】
水銀含有ガスG2に、ファン6から希釈用空気A2を添加して水銀含有ガスG2の水銀濃度が活性炭吸着塔7での吸着に適した濃度(1,000mg/m3以下)となるように希釈した後、水銀希釈ガスG3中の水銀を活性炭吸着塔7で吸着して回収する。ここで、希釈用空気A2の温度を20℃〜80℃にすることで、水銀含有ガスG2を希釈するだけでなく冷却することもでき、活性炭吸着塔7での吸着効率を高めることができる。活性炭吸着塔7から排出された水銀除去ガスG4は、適切な排ガス処理をした後大気に放出する。一方、水銀除去ダストD2は、循環ルート8を介してスクリューコンベア3に戻し、キルンダストD1と共に水銀含有ダストD3としてキルン4aに供給する。
【0028】
以上のように、上記実施の形態では、外熱キルン4を用いることで大量のガスを使用しなくとも水銀含有ダストD3をジャケット4bによって均一に加熱することができるため、外熱キルン4のガス排出部4eから排出される搬送用ガスG1の量を少なくすることができ、外熱キルン4、バグフィルタ5、及び活性炭吸着塔7等の関連設備の小型化が可能となる。また、水銀含有ダストD3と加熱媒体(本実施の形態ではジャケット4bに導入される高温ガス)との接触により加熱媒体に水銀が含まれることを防止することができ、加熱媒体の処理装置を簡易なものとすることができる。
【0029】
さらに、バグフィルタ5から排出された水銀除去ダストD2を循環ルート8を介して外熱キルン4に戻すことで、水銀除去ダストD2に残存する水銀を外熱キルン4でさらに揮発させ、効率よく水銀を回収し、系外に排出される水銀を少なくすることができる。
【0030】
尚、上記実施の形態では、セメントキルン排ガスから回収したダストを処理する場合について説明したが、石炭灰等の水銀を含む物質であれば、その他の物質を処理することも可能である。
【0031】
また、外熱キルン4のガス導入部4dに導入する空気A1に代えて不活性ガスを用いることもでき、希釈用ガスとして希釈用空気A2以外に不活性ガスを用いることもできる。また、加熱した空気A1を外熱キルン4のガス導入部4dに導入することもでき、空気A1をキルン4a内に滞留させて加熱することもできる。外熱キルン4のキルン4aの内部を加熱するにあたり、高温ガス以外の加熱媒体を用いてもよい。
【0032】
さらに、上記水銀回収システム1におけるバグフィルタ5及び活性炭吸着塔7に代えて他の形式の集塵装置及び水銀吸着装置を用いることもできる。外熱キルン4は、搬送用ガスG1を排出するガス排出部4eと、水銀除去ダストD4を排出するダスト排出部4fとを有し、搬送用ガスG1と水銀除去ダストD4とを別々に排出するが、水銀除去ダストの一部が搬送用ガスG1に混在するためバグフィルタ5を設けている。搬送用ガスと水銀除去ダストとの排出部が共通するような外熱キルンを用い、搬送用ガス中の水銀除去ダストの濃度が高くなった場合でも、集塵装置で搬送用ガスを集塵して対応することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 水銀回収システム
2 ホッパ
3 スクリューコンベア
4 外熱キルン
4a キルン
4b ジャケット
4c ダスト供給部
4d ガス導入部
4e ガス排出部
4f ダスト排出部
5 バグフィルタ
6 ファン
7 活性炭吸着塔
8 循環ルート
A1 空気
A2 希釈用空気
D1 キルンダスト
D2 水銀除去ダスト
D3 水銀含有ダスト
D4 水銀除去ダスト
G1 搬送用ガス
G2 水銀含有ガス
G3 水銀希釈ガス
G4 水銀除去ガス
図1
図2