【文献】
Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine,1970年,Vol.135,p.917-921
【文献】
Journal of Interferon and Cytokine research,1997年,Vol.17,pp.531-536
【文献】
The Journal of Biological Chemistry,1992年,Vol.267,pp.18315-18319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
生体には、生体内に進入したウイルスや細菌などの病原体をすばやく認識し排除する自然免疫システムが備わっている。病原体が侵入した生体は、気道上皮細胞や樹状細胞などがToll-like receptorやRIG-I-like receptorなどの自然免疫受容体を介して病原体の部分構造を多面的に認識して、自然免疫を活性化し、I型インターフェロン(IFN)や炎症性サイトカインの産生といった自然免疫応答を起こす。このような自然免疫によって認識される病原体の構成成分やそれを模倣した物質は、Immune Potentiator(免疫刺激物質)と呼ばれ、医薬品あるいはワクチンのアジュバントとしての応用研究が行われている。特に、感染症ワクチンやがんワクチンの用途においては、安全性を担保しつつ基本性能を向上させるアジュバントとして、その実用化に期待が集まっている。そのような免疫刺激物質の一つが人工合成した二重鎖リボ核酸(dsRNA)である。
【0003】
人工合成されたdsRNAの代表例としては、二重鎖を構成する一本鎖リボ核酸(ssRNA)がアデニル酸ホモポリマーとウリジル酸ホモポリマーであるpoly(A:U)や、二重鎖を構成するssRNAがグアニル酸ホモポリマーとシチジル酸ホモポリマーであるpoly(G:C)、二重鎖を構成するssRNAがイノシン酸ホモポリマーとシチジル酸ホモポリマーであるpolyIC、二重鎖を構成するssRNAがシチジル酸とウリジル酸が約12:1で混ざり合ったポリマーC12Uとイノシン酸ホモポリマーであるpoly(I:C12U)などがある。これらのホモdsRNA、とりわけpolyICとpoly(I:C12U)は、ウイルス性疾患の治療薬や抗がん治療薬の候補として数多くの基礎研究や応用研究が行われてきた。その中には非臨床試験において副反応が観察された報告があり、そのような知見が実用化を阻む懸念材料の一つとなっている。
【0004】
polyICなどのdsRNAの薬効や副反応を議論するときには、鎖長との関連性について留意すべきである。鎖長が数kbp以上のpolyICは短鎖のpolyICよりも毒性が強いという知見があることを踏まえた議論が必要である。
なお、本願でいう鎖長とは、RNAの塩基数と同義である。ssRNAの鎖長の単位は塩基(base)またはキロ塩基(1 kb = 1000 base)と表記し、dsRNAの場合には、塩基対 (bp)またはキロ塩基対(1 kbp = 1000 bp)と表記する。
また、ssRNAやdsRNAの重量平均鎖長は、好ましくは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析法により決定される鎖長である。具体的には、分子量が既知であるdsRNAやdsDNAを標準品としてGPC分析を行い、得られたデータから平均鎖長や鎖長の中央値を算出する。別法としては、密度勾配沈降速度法で沈降係数S(20,w)を求め、実験式からssRNAやdsRNAの鎖長を概算する方法もある(文献The Journal of Biochemistry (1961)50:377)。
【0005】
非特許文献1は、polyICの鎖長とマウス腹腔内投与における半数致死量(LD50)との関係について論じており、鎖長が0.1kbpから6kbpへと長くなるにつれてpolyICのLD50が低下すること、すなわち毒性が強くなることが記載されている。具体的には、遠心沈降係数11.6S(重量平均鎖長2 kbp)のpolyICのLD50は、遠心沈降係数4.2S(重量平均鎖長0.1 kbp)のpolyICの約1/5であり、遠心沈降係数8.2S(重量平均鎖長0.8 kbp)のpolyICの約2/3となっている。また、特許文献1には、遠心沈降係数が13S以上(すなわち、重量平均鎖長3 kbp以上)のpolyICを静脈投与したマウスは骨髄細胞数が、61%減少したのに対して、遠心沈降係数が8S(重量平均鎖長0.75 kbp)のpolyICを静脈投与したマウスは骨髄細胞数の減少は認められなかったと記述されている。同様に遠心沈降係数が13S以上のpoly(I:C12U)を静脈投与したマウスは骨髄細胞数が59%減少し、遠心沈降係数が9S(重量平均鎖長 1.0 kbp)のpoly(I:C12U)を静脈投与したマウスは骨髄細胞数が減少していない。
【0006】
一方、polyICのI型IFN誘導作用の強さや誘導時間は、鎖長が長いpolyICほど強く長く持続することが非特許文献1に記載されている。また、非特許文献2には、化学合成した70 bpのpolyICは、マウス胎児線維芽細胞においてRIG-I結合力はあるもののIFNβ誘導活性は1.2 kbpのpolyICに比べて著しく低下すると記載されている。さらに、非特許文献3には、I型IFNがシグナルとなって発動するウイルス防御機構のひとつであるdsRNA依存性プロテインキナーゼ反応やdsRNA 依存性の2',5'-オリゴAシンテターゼ反応に必要なdsRNAの鎖長は約40-60 bp以上であると書かれている。
【0007】
このような知見を背景に、アジュバントとして機能し毒性が低いdsRNAの鎖長は、一般的に0.1 kbp〜2.0 kbpが好適と考えられている。
【0008】
人工ホモdsRNAは、リボヌクレオチド二リン酸を基質にポリリボヌクレオチドヌクレオチジルトランスフェラーゼなどの酵素を用いてssRNAを合成し、アニーリング処理にて二重鎖を形成させる製法が一般的である。酵素合成されたssRNAは、酵素反応の特性上、鎖長にばらつきをもった混合物となる。また、ssRNAは物理化学的に不安定であり、我々の経験では中性水溶液中で約50℃以上の雰囲気下でホスホジエステル結合が壊れ、ポリマーの分断が起こる。さらに、イノシン酸ポリマーとシチジル酸ポリマーのようなホモポリマー同士をアニーリングすると、アニーリング条件によっては複数のssRNAが連なり、結果として生成するdsRNAの平均鎖長は長鎖化する。このような技術的背景から、現在市販されているdsRNA試薬は、メーカー毎に、ロット毎に平均鎖長が異なる場合が多く、その毒性も製品ロット毎にまちまちであると推定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように鎖長によって有効性や毒性が変化するdsRNAを、医薬品あるいは医療の現場で安全性を担保しながら利用するためには、鎖長が変化しにくいdsRNAの登場が望まれる。本発明者らは、dsRNAの製法について種々検討する中で、平均鎖長がほぼ同じRNA同士をアニーリングすると、想定以上に長い鎖長のdsRNAが形成される事象に遭遇した。一例を挙げると、平均鎖長が約400 baseのイノシン酸ホモポリマーと平均鎖長が約400 baseのシチジル酸ホモポリマーを加熱冷却してアニーリングすると、2 kbp以上の鎖長成分が多いpolyICが生成した。このpolyICを種々検討した温和な降温条件でアニールすることで2 kbp以上の鎖長成分はある程度減少したが、最も低減できた条件でも10重量%以上残存した。さらに、2 kbp以上の鎖長成分が低減したpolyICも、他の医薬品成分に影響を与えにくい実践的な時間枠で再加熱冷却すると、2 kbp以上の鎖長成分は再び増加してしまった。
【0012】
過去の文献データを調べると、平均鎖長がほぼ同じssRNA同士をアニールして作製したdsRNAの平均鎖長は、それを構成するssRNAの平均鎖長よりも長鎖化することが確認できる。上記非特許文献1には、実験に供したpolyICの平均鎖長と、その材料として用いたイノシン酸ホモポリマーとシチジル酸ホモポリマーの平均鎖長を示す情報が記載されている。データの一例を挙げると、遠心沈降係数6.9S(重量平均鎖長0.3 kb)のイノシン酸ホモポリマーと6.5S(重量平均鎖長0.3 kb)のシチジル酸ホモポリマーをアニールして作製したpolyICは、16.0S(重量平均鎖長5.6 kbp)である。このように、ほぼ同一鎖長の人工ホモRNAをアニーリングすると長鎖化する現象は、使用したRNAの鎖長が2.2S(重量平均鎖長0.05 kb)から12.0S(重量平均鎖長1.0 kb)まであらゆる鎖長域で起こっている。
【0013】
長鎖化したdsRNAを短鎖化する手段としては、超音波処理や乾熱処理など物理化学的な裁断によって為す方法がいくつか知られているが、この長鎖化現象を抑制する製法やdsRNAの構造から長鎖化を抑制する方法についての検討報告はなく、ましてやその長鎖化を防ぐためのdsRNAの構造や手段に関する公知の技術は見当たらなかった。
【0014】
また、dsRNAを医薬品またはそれに類する用途に用いるためには、製剤化の過程でマイコプラズマやウイルスなど増殖力のある病原体の完全除去を担保する必要があり、加熱滅菌が最も確実な処理方法である。従って、加熱冷却によって長鎖化して毒性が高まるといったdsRNA配合製品の実用化を阻む産業利用上の重大な課題を解決する手段も求められている。
【0015】
本発明の目的は、医薬品またはワクチン用アジュバントとして安全なdsRNAまたはその塩、およびその製造方法、さらには安全なdsRNA配合製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、dsRNAの一方の鎖を構成するssRNAの重量平均鎖長を他方の鎖を構成するssRNAの重量平均鎖長の1/2以下とすることにより、得られるdsRNAの長鎖化を抑制できることを見出した。更に、そのようにして得られるdsRNAは、加熱冷却処理を施した際の長鎖成分の増加も抑制されていることが分かった。本発明者らは上記の知見に基づき更に研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は即ち、以下の[1]〜[7]に関する。
[1]重量平均鎖長が0.1 キロ塩基対(kbp)から2.0 kbpの範囲内の二重鎖リボ核酸(dsRNA)またはその塩であって、
該dsRNAの第1の鎖は2以上の一本鎖リボ核酸(ssRNA)からなり、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの全ては、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーであること、
該dsRNAの第2の鎖は1つのssRNAからなること、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの各々は、該第2の鎖を構成する1つのssRNAの部分領域に対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有すること、および
該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの重量平均鎖長は該第2の鎖を構成する1つのssRNAの重量平均鎖長の1/2以下であること
を特徴とする、dsRNAまたはその塩。
[2]該第1の鎖が、重量平均鎖長が0.02〜1.0 キロ塩基(kb)である2以上のssRNAから構成されている、上記[1]に記載のdsRNAまたはその塩。
[3]該dsRNAまたはその塩を70℃に加熱後2℃/hの降下率で35℃まで冷却する操作を行った後、再び70℃に加熱後5℃/minの平均降下率で35℃まで冷却する操作を行った場合、2 kbp以上の鎖長を有するdsRNAの重量比率が10%以下となる、上記[1]または[2]に記載のdsRNAまたはその塩。
[4]該第1の鎖を構成する2以上のssRNAがポリイノシン酸であり、かつ該第2の鎖を構成する1つのssRNAがシチジル酸を80%以上の割合で含むssRNAである、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のdsRNAまたはその塩。
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のdsRNAまたはその塩を含有してなる免疫刺激物質、アジュバント、または医薬品。
[6]重量平均鎖長が0.1 キロ塩基対(kbp)から2.0 kbpの範囲内の二重鎖リボ核酸(dsRNA)またはその塩の製造方法であって、該方法は、
(1)同種のリボヌクレオチドからなるssRNAを調製する工程、
(2)前記(1)のssRNAに対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有するssRNAを調製する工程、および
(3)前記(1)のssRNAと前記(2)のssRNAとをアニーリングさせる工程
を含み、前記(1)のssRNAの重量平均鎖長が、前記(2)のssRNAの重量平均鎖長の1/2以下であってかつ0.02〜1.0 キロ塩基(kb)である、方法。
[7]前記(1)のssRNAがポリイノシン酸であり、かつ前記(2)のssRNAがシチジル酸を80%以上の割合で含むssRNAである、上記[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明で開示した知見を利用することで、dsRNA同士の重合が起こりにくい、すなわち長鎖化に起因する毒性の増加が抑制されたdsRNA、およびそのdsRNAを配合した安全性の高い免疫賦活剤、アジュバント、ワクチン等を提供することができる。本発明はまた、そのようなdsRNAの製造方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(dsRNAまたはその塩)
本発明は新規のdsRNAまたはその塩(以下、これらを総称して「本発明のdsRNA」と呼称することもある)を提供する。本発明のdsRNAは、重量平均鎖長が0.1 キロ塩基対(kbp)から2.0 kbpの範囲内であって、かつ
該dsRNAの第1の鎖は2以上の一本鎖リボ核酸(ssRNA)からなり、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの全ては、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーであること、
該dsRNAの第2の鎖は1つのssRNAからなること、該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの各々は、該第2の鎖を構成する1つのssRNAの部分領域に対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有すること、および
該第1の鎖を構成する2以上のssRNAの重量平均鎖長は該第2の鎖を構成する1つのssRNAの重量平均鎖長の1/2以下であること
をその特徴とする。
なお、上記の通り、第1の鎖は2以上のssRNAからなるものであり、従って本発明のdsRNAにおいては、第2の鎖であるssRNAに対して、第1の鎖である2以上のssRNAがリボヌクレオチド間の相補的な結合により結合している事象が生じ得る。その場合、該dsRNAを構成する第1の鎖は、それを構成する全てのssRNAがホスホジエステル結合で結合したものではなく、直接的には結合していない複数のssRNAを含むことになる。本明細書においては、全てのssRNAが「鎖」状に連結しているか否かに関わらず、dsRNAを構成する2つの鎖のうち、2以上のssRNAからなる側を便宜上、第1の鎖と表現し、1つのssRNAからなる側を便宜上、第2の鎖と表現する。
【0020】
第1の鎖を構成する全てのssRNAは、同種のリボヌクレオチドからなるホモポリマーである。該ssRNAは、以下に限定されないが例えば、アデニル酸ホモポリマー、ウリジル酸ホモポリマー、グアニル酸ホモポリマー、シチジル酸ホモポリマー、イノシン酸ホモポリマー等であり得る。
【0021】
一方、第2の鎖を構成するssRNAは、本発明のdsRNAの使用環境において、第1の鎖を構成する2以上のssRNAの各々と二重鎖を形成できる程度に、該第1の鎖のssRNAと相補する塩基配列を有する。従って、第2の鎖のssRNAは、全ての塩基が第1の鎖のssRNAの塩基に相補的となる配列に限定されるものではない。なお、本発明のdsRNAの使用環境とは、生体に投与することを前提とした用途では、例えば、温度が約37℃の生理食塩水(pHが約7.4、塩化ナトリウム濃度が約150 mM)中に溶解した条件下と考えることができる。
そのため、例えば、第2の鎖のssRNAは、第1の鎖の各ssRNAを構成するリボヌクレオチドに対して相補的なリボヌクレオチドが1種または複数種組み合わされた配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこに、第1の鎖の各ssRNAを構成するリボヌクレオチドに対して相補的ではないリボヌクレオチドが、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。リボヌクレオチドの塩基間の相補性については当該技術分野において良く知られている。
【0022】
具体的には、第1の鎖のssRNAがアデニル酸ホモポリマーの場合には、第2の鎖のssRNAとしてはウリジル酸とイノシン酸から選ばれたリボヌクレオチドが1種または複数種組み合わされた配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこにアデニル酸および/またはグアニル酸および/またはシチジル酸および/またはキサンチル酸が、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。
また、第1の鎖のssRNAがウリジル酸ホモポリマーの場合には、第2の鎖のssRNAとしてはアデニル酸からなる配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこにウリジル酸および/またはグアニル酸および/またはイノシン酸および/またはシチジル酸および/またはキサンチル酸が、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。
また、第1の鎖のssRNAがグアニル酸ホモポリマーの場合には、第2の鎖のssRNAとしてはシチジル酸ホモポリマーは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこにウリジル酸および/またはアデニル酸および/またはグアニル酸および/またはイノシン酸および/またはキサンチル酸が、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。
また、第1の鎖のssRNAがシチジル酸ホモポリマーの場合には、第2の鎖のssRNAとしてはグアニル酸とイノシン酸から選ばれたリボヌクレオチドが1種または複数種組み合わされた配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこにアデニル酸および/またはウリジル酸および/またはシチジル酸および/またはキサンチル酸が、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。
また、第1の鎖のssRNAがイノシン酸ホモポリマーの場合には、第2の鎖のssRNAとしてはアデニル酸とシチジル酸から選ばれたリボヌクレオチドが1種または複数種組み合わされた配列のssRNAは無論のこと、第1の鎖のssRNAとの相補的な結合を著しく阻害しない範囲で、更にそこにウリジル酸および/またはグアニル酸および/またはイノシン酸および/またはキサンチル酸が、当該ssRNAを構成する全リボヌクレオチドに対して20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満、特に好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満の頻度で組み込まれたssRNAであってもよい。一つの実施形態では、第1の鎖のssRNAはイノシン酸ホモポリマーであり、かつ第2の鎖のssRNAはシチジル酸を80%以上の割合で含むssRNAであり、例えば、第1の鎖のssRNAがイノシン酸ホモポリマーであり、かつ第2の鎖のssRNAがシチジル酸ホモポリマーである場合等が挙げられる。
【0023】
作製したRNAが二重鎖を形成しているかどうかは、例えば、ssRNAとdsRNAのAbs 260nmの吸光係数の相違を利用した温度-吸光度曲線を調べることで判定することができる。すなわち、核酸塩基に由来するAbs 260nmの吸収は、核酸塩基同士が水素結合することにより減少する特性を利用する。具体的には、RNA検体を生理食塩水で希釈して石英セルに充填し、温度制御機能付きの分光光度計でゆっくりと石英セルを加熱しながら連続的に吸光度を測定することで温度-吸光度曲線を測定する。検体がdsRNAの場合には、ssRNA間の水素結合が壊れてssRNAに解離しはじめる温度を境にAbs 260nmが急激に上昇するため、その温度-吸光度曲線はシグモイド曲線となるが、検体が二重鎖を形成していないssRNA混合物の場合には、その温度-吸光度曲線は線形となる。
【0024】
本発明のdsRNAは、0.1 kbpから2.0 kbpの範囲内の重量平均鎖長を有し、より好ましくは0.1 kbpから1.0 kbpの範囲内の重量平均鎖長、更により好ましくは0.2 kbpから0.6 kbpの範囲内の重量平均鎖長を有する。
【0025】
本発明のdsRNAにおいては、第1の鎖を構成する2以上のssRNAの重量平均鎖長は、第2の鎖を構成する1つのssRNAの重量平均鎖長の1/2以下である。具体的には、第1の鎖を構成するssRNAの重量平均鎖長は例えば0.02〜1.0 kbであり、好ましくは0.02〜0.4 kb、より好ましくは0.02〜0.2 kbである。一方、第2の鎖のssRNAの重量平均鎖長は例えば0.04〜2.0 kbであり、好ましくは0.04〜0.8 kb、より好ましくは0.04〜0.4 kbである。また、第1の鎖を構成するssRNAの重量平均鎖長を例えば0.02〜0.1 kb、好ましくは0.02〜0.05 kbとし、かつ第2の鎖のssRNAの重量平均鎖長を例えば0.2〜1.0 kb、好ましくは0.3〜0.6kbとすることにより、RLRに認識されるが、TLR-3には認識されにくいdsRNAとすることができる。
【0026】
重量平均鎖長は、前記した通り、GPC分析法によって決定することができる。アガロースゲル電気泳動法やポリアクリルアミドゲル電気泳動法で鎖長を算出する手法もあるが、電気泳動バッファーは塩濃度が低いために、電気泳動中にdsRNAが部分解離して切断されるといった課題があり鎖長分布を精度良く解析できない。したがって、アガロースゲル電気泳動法やポリアクリルアミドゲル電気泳動法で算定した精度の低い鎖長と本発明の実施例で示したデータとを比較することはできない。
【0027】
GPC分析は、水溶性のGPC分析用カラムを装着したGPC解析システムを用いて行うことができる。その場合、溶離液の塩濃度を高く保ち、カラム温度を低くして分析を行うことが肝要である。具体的には例えば、下記の通りにGPC分析を行うことができる。GPC解析システムとしては、島津製作所製のLC Solution GPCを使用し、イソクラテックモードでクロマトグラフィーを行い、Abs 260nmの吸光強度を測定する。カラムとしては、4000 bp以下のdsRNAの分析を行う目的で、TSKgel G5000PWXL(東ソー株式会社製)を使用する。分子量マーカーとしては、モノヌクレオチドと自動合成機で作製したオリゴヌクレオチド、およびλDNAを鋳型にして適当なDNA配列をPCR法で増幅して得られる約100 bpから約4000 bpの各種DNA断片を使用する。
分析条件は以下の通りである。
・溶離液:10mM トリス硫酸バッファー(pH7.0)、150mM 硫酸ナトリウム
・ポンプ流速: 0.5 ml/min
・カラム:TSK-Gel G-5000PWXL
・カラム温度: 25℃
・UV検出: Abs 260 nm
【0028】
LC-Solution GPCから出力されるAbs 260 nmの吸光強度は、表計算ソフトなどで再処理する必要がある。なぜならば、記録されたAbs 260 nmの吸光データは、RNAの濃度ではなく、RNAの濃度とそのRNAの鎖長数の積を表しているからである。LC-Solution GPCに記録された経時的な吸光度データとGPC分子量データのマトリックスを表計算ソフトに取り込み、GPC分子量から塩基数を求め、吸光度を塩基数で除した値Aを求め、値Aと分子量のデータを統計処理して重量平均鎖長と中央値(値Aが極大となる鎖長)を求める。なお、ポリリボヌクレオチドヌクレオチジルトランスフェラーゼで合成したRNAの塩基数とGPC分子量の関係式は、以下の計算式を使用できる。
ssRNAの場合
塩基数=(GPC分子量−98)/(NMP-18)
NMP:ヌクレオチド一リン酸の平均分子量
dsRNAの場合
塩基数=(GPC分子量−196)/(NMP1+NMP2−36)
NMP1:センス側のヌクレオチド一リン酸の平均分子量
NMP2:アンチセンス側のヌクレオチド一リン酸の平均分子量
【0029】
本発明におけるdsRNAの5’末端および3’末端の構造は問わない。具体的には、5’末端は、ヒドロキシルか一リン酸か二リン酸か三リン酸のいずれであってもよく、3’末端もヒドロキシルか一リン酸か二リン酸か三リン酸のいずれであってもよい。
【0030】
本発明のdsRNAにおける塩としては金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、トリスヒドロキシアミノメタン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン等の塩が挙げられる。
【0031】
(免疫刺激物質、アジュバント、医薬品)
本発明のdsRNAは、単独でワクチンや医薬品に配合してもよいし、他の成分との組み合わせや製剤技術と組み合わせて使用することもできる。例えば、ポリリジンやポリグルタミン酸などのカチオン性ポリマーと水素結合させたハイブリッドポリマーとしての利用や、シグナル伝達経路の異なる他の免疫刺激物質との混合、水中油型乳剤などの各種リポソーム基材に含有または吸着させたリポソーム製剤としての利用、増粘剤と混合して展着力を改善する製剤としての利用が挙げられる。さらには、ドラッグデリバリー技術や皮膚パッチ製剤技術と組み合わせることもできる。さらには、シグナル伝達経路の異なる免疫刺激物質と混合して使用することもできる。
【0032】
本発明のdsRNA、およびその混合物の利用目的は、ワクチンや抗がん剤やタンパク医薬、抗体医薬、核酸医薬など他に有効成分がある医薬品の性能を改善する目的で配合することのみならず、本発明のdsRNAを医薬品、動物薬、水産薬の有効成分として利用することもできる。剤形は、注射剤、点鼻剤、点眼剤、経皮吸収剤などどのような形態でも良い。
【0033】
(製造方法)
本発明はまた、dsRNAまたはその塩の製造方法(以下、本発明の製造方法)を提供する。該方法は、
(1)同種のリボヌクレオチドからなるssRNAを調製する工程、
(2)前記(1)のssRNAに対して二重鎖を形成できる程度の相補性を有する塩基配列を有するssRNAを調製する工程、および
(3)前記(1)のssRNAと前記(2)のssRNAとをアニーリングさせる工程
を含み、前記(1)のssRNAの重量平均鎖長が、前記(2)のssRNAの重量平均鎖長の1/2以下であってかつ0.02〜1.0 キロ塩基(kb)である。
工程(1)、(2)のssRNAとしては、本発明のdsRNAについてそれぞれ第1の鎖または第2の鎖を構成するssRNAとして上述したものと同様のものとすることができ、それにより本発明のdsRNAを製造することができる。
【0034】
工程(1)、(2)において、ssRNAは、市販のRNA合成装置を用いてリボヌクレオチド一リン酸を原料に化学合成することができる。また、市販のRNAポリメラーゼを用いて、デオキシリボ核酸を鋳型にリボヌクレオチド三リン酸から酵素合成することもできる。また、市販のポリリボヌクレオチドヌクレオチジルトランスフェラーゼを用いて、鋳型なしにリボヌクレオチド二リン酸から酵素合成することもできる。ssRNAの調製に際し、例えば文献[特開平2-227077号公報]に記載の方法等を適宜利用してもよい。
【0035】
ポリリボヌクレオチドヌクレオチジルトランスフェラーゼで酵素合成したssRNAは、平均鎖長が2 kbを超えることが多いが、反応時間を延長することでより短い鎖長のssRNAを得ることができる。また、RNAの短鎖化は、超音波処理や固体での乾熱処理、アルカリ処理、RNA分解酵素を用いた酵素処理などどのような方法を用いても良い。
【0036】
合成したssRNAの精製、およびそれをアニールしたdsRNAの精製は、透析や沈殿濾過やカラム精製等の公知の手法で実施することができる。精製したssRNAおよびdsRNAは1-20 mg/mlの水溶液として取得することが可能であり、さらに凍結乾燥などの処理によって固体として取得することもできる。
【0037】
工程(3)におけるアニーリング操作は、非特許文献1等に記載の公知の方法で行うことができる。アニーリングに用いるssRNAは精製したssRNAのみならず未精製のssRNAを用いてもよい。
【0038】
dsRNAの塩を取得したいとき、dsRNAが塩の形で得られる場合には、そのまま精製すればよく、遊離の形で得られる場合には、水に溶解してカチオンを加えて塩を形成させ、沈殿濾過やカラム精製等の通常の方法で精製すればよい。
【0040】
試験例1.GPC分析
ポリリボヌクレオチドヌクレオチジルトランスフェラーゼで酵素合成したイノシン酸ホモポリマーとシチジル酸ホモポリマーを、サンプル希釈液[10mM トリス硫酸バッファー(pH7.0)、150mM 硫酸ナトリウム]で希釈し、GPC分析に供した。GPC解析システムは、TSKgel G-5000PWXLパックドカラム(東ソー株式会社製)を装着した島津製作所製のLC Solution GPCを使用し、イソクラテックモードでクロマトグラフィーを行い、Abs 260nmの吸光強度を測定した。分子量マーカーは、モノヌクレオチドと自動合成機で作製したオリゴヌクレオチド、およびλDNAを鋳型にしてPCR法で増幅させた約4000 bpから100 bpのDNA断片を使用した。
分析条件は以下のとおりである。
・溶離液: 10mM トリス硫酸バッファー(pH7.0)、150mM 硫酸ナトリウム
・ポンプ流速: 0.5 ml/min
・カラム: TSK-Gel G-5000PWXL
・カラム温度: 25℃
・検出: Abs 260nm
【0041】
LC-Solution GPCに記録された経時的な吸光度データとGPC分子量データのマトリックスを表計算ソフトに取り込んだ。次に表計算ソフト上で、GPC分子量から塩基数(鎖長)を求め、吸光度を塩基数(鎖長)で除した値Aを算出し、塩基数(鎖長)と値Aの対応データを統計処理して重量平均鎖長と中央値を求めた。さらに、2 kb以上の鎖長成分の重量%を計算した。
【0042】
イノシン酸ホモポリマーおよびシチジル酸ホモポリマーの塩基数(鎖長)算出に使用した計算式は以下のとおりである。
イノシン酸ホモポリマー: 塩基数(鎖長)=(GPC分子量−98)/330.2
シチジル酸ホモポリマー: 塩基数(鎖長)=(GPC分子量−98)/305.2
【0045】
比較例1.dsRNAの作製
イノシン酸ホモポリマーpI-400をアニーリングバッファー[組成: 100 mM HEPESバッファー(pH6.5), 100 mM NaCl]に溶解し、50倍希釈液のAbs 260nmが1.0となる溶液を10 ml作製した。同様にシチジル酸ホモポリマーpC-400をアニーリングバッファーに溶解し、50倍希釈液のAbs 260nmが1.0となる溶液を10 ml作製した。50 ml容プラスチックチューブにpI-400溶液 5 mlとpC-400溶液 5 mlを添加して混合したものを2本作製し、室温で16時間静置した。4M NaCl溶液0.5 mlとイソプロピルアルコール 10 mlをチューブ毎に添加して混合し、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを沈殿させ、遠心上清を除いた。次に70% エタノールをチューブあたり 20 ml添加して混合後、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを再沈殿させて、遠心上清を除去した。再度70% エタノールをチューブあたり20 ml添加して混合後、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを再沈殿させて、遠心上清を除去し、チューブをデシケータに入れて残留エタノールを減圧乾燥で蒸発させた。その後、アニーリングバッファーをチューブあたり10 ml加え、polyIC(400:400)溶液#1、#2を得た(#1および#2は独立した操作により得られたことを表す。)。
【0046】
比較例2.dsRNAのGPC分析
比較例1で得られたpolyIC(400:400)#1および#2の鎖長をGPC分析で解析した。
GPC分析は試験例1に記載した装置と手順で行い、polyICの塩基対数(鎖長)と値Aの対応データを統計処理して重量平均値と中央値を求めた。さらに、2000塩基対(2 kbp)以上の重量%を計算した。
なお、polyICの鎖長は以下の計算式を使用して算出した。
polyIC: 鎖長(bp)=(GPC分子量−196)/635.4
【0047】
計算結果を表2に示した。
重量平均鎖長が2kbよりも短い重量平均鎖長が389塩基のイノシン酸ホモポリマーと重量平均鎖長が344塩基のシチジル酸ホモポリマーを重合して作製したpolyICは、安全上問題視されている2kbp以上の鎖成分が重量比で42-43%も含まれていることが判明した。この2kbp以上の鎖成分は、材料として用いたシチジル酸ホモポリマーとイノシン酸ホモポリマーが、互い違いに複数個連なって形成したと推定される。
【0049】
比較例3.加熱冷却条件の検討
加熱冷却処理は以下の手順で行った。
比較例1で作製したpolyIC(400:400)#1および#2を、それぞれ1 mlずつ内容積1.5 mlのスクリューキャップ付きプラスチックチューブに分注し、下記、条件1、2または3の加熱冷却処理を施した。
条件1: 75℃の温浴で3分間インキュベートして品温を70℃に到達させた後、室温(約26℃)で静置した。35℃までの冷却所要時間は約7分間であり、平均降温速度は5℃/minであった。
条件2: 75℃の温浴で3分間インキュベートして品温を70℃に到達させた後、温浴のヒーター電源を切り、緩やかに35℃まで降温させた。35℃までの冷却所要時間は約2時間であった。
条件3: 75℃の温浴で3分間インキュベートして品温を70℃に到達させた後、ヒーター電源を切り湯温を70℃まで自然降下させ、プログラム式温度調節器を使用して70℃から降下速度 2℃/hで緩やかに35℃まで降温した。35℃までの冷却所要時間は20時間であった。
【0050】
比較例4.dsRNAのGPC分析
比較例3で得られた各サンプルの鎖長を比較例2で解説したGPC分析により調べた。結果を表3にまとめた。
条件1、2または3で加熱冷却処理したpolyIC(400:400)の平均鎖長は、#1と#2の間で極めて類似していることから、再現性のある鎖長分布データと言える。2kbp以上に長鎖化した鎖成分の比率は、温度降下が緩やかな条件ほど低下したが、今回実施した最も緩い条件3でも13%であった。また、すべてのサンプルにおいて鎖長の中央値が重量平均値を超えていることから、サンプルを構成する鎖長成分の主体は、重量平均値よりも長い鎖長成分であることがわかる。複数本のイノシン酸ホモポリマーとシチジル酸ホモポリマーが連なった鎖成分が主体になっていると推定される。
【0052】
比較例5.polyIC(400:400)の再加熱冷却による鎖長変化の解析
再加熱処理による鎖長の変化を調べた。比較例2と同様の手順でpolyIC(400:400) #1および#2 を1 mlずつ内容積 1.5 mlのスクリューキャップ付きプラスチックチューブに分注し条件3で加熱冷却処理を施した後に、条件1または条件2で2回目の加熱冷却処理を施した。加熱冷却処理サンプルのGPC分析と鎖長解析をおこなった。結果を表4にまとめた。
条件3の加熱冷却処理によって13%まで低下した2kbp以上の比率は、条件1または条件2の再処理によってそれぞれ32-33%、18-21%まで再上昇した。すなわち、polyIC(400:400)は、2kbp以上の鎖成分の生成を抑制する処理を施しても、それを再加熱すると2kbp以上の鎖成分の比率が急激に上昇することが明らかとなった。
【0054】
以下に本願発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
polyIC(25:400)の製造
イノシン酸ホモポリマーpI-25 (重量平均鎖長29塩基, 中央値 29塩基)をアニーリングバッファー[組成:100 mM HEPESバッファー(pH6.5), 100 mM NaCl]に溶解し、50倍希釈液のAbs 260nmが1.0となる溶液を10 ml作製した。同様にpC-400(重量平均鎖長344塩基, 中央値 324塩基)をアニーリングバッファーに溶解し、50倍希釈液のAbs 260nmが1.0となる液を10 ml作製した。50 ml容プラスチックチューブにpI-25溶液 5 mlとpC-400溶液 5 mlを添加して混合したものを2本作製し、室温で16時間静置した。4M NaCl溶液0.5 mlとイソプロピルアルコール10 mlをチューブ毎に添加して混合し、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを沈殿させ、遠心上清を除いた。次に70% エタノールをチューブあたり20 ml添加して混合後、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを再沈殿させて、遠心上清を除いた。再度70%エタノールをチューブあたり20 ml添加して混合後、2800×g、10分間の遠心分離でpolyICを再沈殿させて、遠心上清を除いた。チューブをデシケータに入れて残留エタノールを減圧乾燥で蒸発させた後に、アニーリングバッファーをチューブあたり10 ml加え、polyIC(25:400)溶液#1および#2を作製した(#1および#2は独立した操作により得られたことを示す。)。
比較例2と同様の手順でpolyIC(25:400)溶液のGPC分析を実施し鎖長解析を行った。
さらに、polyIC(25:400)溶液#1および#2を使用して、比較例3と同じ手順で条件1および条件2の加熱冷却処理を施したサンプルを調製し、GPC分析と鎖長解析をおこなった。解析結果を表5にまとめた。
polyIC(25:400)は、polyIC(400:400)で観察されたような鎖長の長鎖化現象は認められず、また加熱冷却処理を施しても、複数本のイノシン酸ポリマーとシチジル酸ポリマーとが連なった鎖成分が主体となる現象は観察されなかった。
【0056】
【表5】
【実施例2】
【0057】
polyIC(50:400)の製造
実施例1のpI-25をイノシン酸ホモポリマーpI-50 (重量平均鎖長41塩基, 中央値 35塩基)に代える以外は実施例1に記載どおりの手順でpolyIC(50:400)溶液#1および#2を作製した(#1および#2は独立した操作により得られたことを表す。)。polyIC(50:400)溶液のGPC分析と鎖長解析を比較例2と同様の手順でおこなった。さらに、polyIC(50:400)溶液#1および#2を使用し、比較例3と同じ手順で条件1および条件2の加熱冷却処理を施したサンプルを調製し、GPC分析と鎖長解析をおこなった。解析結果を表6にまとめた。
polyIC(50:400)は、polyIC(400:400)で観察されたような鎖長の長鎖化現象は認められず、また加熱冷却処理を施しても、複数本のイノシン酸ポリマーとシチジル酸ポリマーとが連なった鎖成分が主体となる現象は観察されなかった。
【0058】
【表6】
【実施例3】
【0059】
polyIC(100:400)の製造
実施例1のpI-25をイノシン酸ホモポリマーpI-100 (重量平均鎖長108塩基, 中央値 95塩基)に代える以外は実施例1に記載どおりの手順でpolyIC(100:400)溶液#1および#2を作製した(#1および#2は独立した操作により得られたことを表す。)。さらに、polyIC(100:400)#1の一部を使用し、比較例3の条件1の加熱冷却処理を施したサンプルと条件2の加熱冷却処理を施したサンプルを調製した。同様に、polyIC(100:400)#2を使用し、比較例3と同じ手順で条件1および条件2の加熱冷却処理をそれぞれ施したサンプルを調製し、各サンプルのGPC分析と鎖長解析を比較例2と同様の手順でおこなった。解析結果を表7にまとめた。
polyIC(100:400)は、polyIC(400:400)で観察されたような鎖長の長鎖化現象は認められなかった。平均鎖長は#1と#2チューブの間で若干の差異が認められたが、加熱冷却処理したチューブ間の差異はほとんどなくなった。また、加熱冷却処理サンプルの2kbp以上の長鎖成分の比率は加熱冷却未処理のサンプルと同等で、加熱冷却処理を施しても、複数本のイノシン鎖ポリマーとシチジル酸ポリマーとが連なった鎖成分が主体となる現象は観察されなかった。
【0060】
【表7】
【0061】
上記で条件2の加熱冷却処理を施したpolyIC(100:400) #1とpolyIC(100:400) #2を、上記の条件1で再度加熱冷却処理を施したサンプルを調製し、GPC分析と鎖長解析をおこなった。結果を表8にまとめた。
polyIC(100:400)は、polyIC(400:400)で観察されたような鎖長の長鎖化現象は認められず、また再加熱冷却処理を施しても長鎖成分の増加は観察されなかった。
【0062】
【表8】
【実施例4】
【0063】
polyIC(200:400)の製造
実施例1のpI-25をイノシン酸ホモポリマーpI-200 (重量平均鎖長188塩基, 中央値 157塩基)に代える以外は実施例1に記載どおりの手順でpolyIC(200:400)溶液#1および#2を作製した(#1および#2は独立した操作により得られたことを表す。)。次にpolyIC(200:400)溶液のGPC分析と鎖長解析を比較例2と同様の手順でおこなった。さらに、polyIC(200:400)#1および#2を使用し、比較例3と同じ手順で条件1、条件2、または条件3の加熱冷却処理を施したサンプルを調製し、GPC分析と鎖長解析をおこなった。結果を表9にまとめた。
polyIC(200:400)は、2kbp 以上の長鎖成分が12-16%まで増加したが、この長鎖化現象は加熱冷却処理により低減し、最も緩やかに冷却する条件3の加熱冷却処理でほぼ完全に抑制された。
【0064】
【表9】
【0065】
上記のpolyIC(200:400) #1および#2を用いて、比較例3と同じ手順で条件3の加熱冷却処理した後に、条件1または2で2回目の加熱冷却処理を施したサンプルをそれぞれ調製した。調製したサンプルのGPC分析と鎖長解析をおこなった。結果を表10にまとめた。
条件3で処理したpolyIC(200:400)を条件1で再加熱冷却すると2kbp以上の比率が9%まで上昇して2kbp以上の鎖成分がやや増加する傾向が認められたが、その比率はpolyIC(200:400)を同条件で冷却加熱処理したときの2kbp以上の比率10-11%(表9)よりも低い。また、条件3で処理し条件2で再処理したサンプルにおいては、2kbp以上の比率は4%でほとんど上昇しなかった。すなわち、polyIC(200:400)では、polyIC(400:400)で観察されたような再加熱冷却処理による深刻な2kbp以上の長鎖成分の増加は観察されなかった。
【0066】
【表10】
【0067】
試験例2:TLR-3およびRLRによる各種ポリICの認識性の比較実験
【0068】
背景
動物細胞にはdsRNAを認識する3つの自然免疫受容体が備わっている。TLRファミリーに属するToll like receptor-3 (TLR-3)、およびRLRファミリーに属するRetinoic acid-inducible gene-I(RIG-I)とMelanoma differentiation-Associated protein 5 (MDA-5)である。TLR-3は、細胞のエンドソームに局在する受容体で、dsRNAが結合するとTRIFを経由するシグナル伝達が起こりI型インターフェロン(IFN)や炎症性サイトカインが誘導される。TLR-3が発現する細胞はミエロイド樹状細胞や線維芽細胞など特定の免疫担当細胞に限定される。一方、RIG-I like receptor(RLR)と総称されるRIG-IとMDA-5は、どちらも細胞の細胞質に局在する受容体で、CARDドメインと呼ばれるdsRNA結合ドメインを持つ。CARDドメインにdsRNAが結合すると、RIG-I、MDA-5問わずIPS1経由でシグナル伝達が起こり、I型IFNや炎症性サイトカインが誘導される。RLRは免疫担当細胞を含むすべての細胞で発現している受容体である。RIG-IとMDA-5は、dsRNAの鎖長や5’末端構造によって認識性に違いがある。
TLR-3とRLRの遺伝子配列と蛋白質の一次構造は既に明らかにされている。しかし、各々が認識しやすいdsRNAの二次構造や一次構造を類推できる知見はほとんどない。唯一報告されているのは、ポリA:Uは、TLR-3には認識されるがRLRには認識されにくいという報告である。今回報告するような逆の性質、すなわち、RLRに認識されるがTLR-3には認識されにくいdsRNA、については報告例がない。
【0069】
TLR-3やRLRの認識性は、市販のレポーター細胞を用いて評価することができる。TLR-3認識性の評価は、293細胞などの一般的な細胞にTLR-3遺伝子およびNFκB誘導性の各種レポーター遺伝子をゲノムに組み込んだ細胞を用い、TLR-3刺激に応じて誘導されるNFκBの活性化度をモニタリングすることでできる。RLR認識性の評価は、RLR依存的にIFNβを産生するマウス胎児線維芽細胞のゲノムにNFκBおよびIRF3/7誘導性の各種レポーター遺伝子を組み込んだ細胞を用い、RLR刺激に応じて誘導されるNFκBおよびIRF3/7の活性化度をモニタリングすることでできる。
我々は、鎖長の異なるポリIと約400ntのポリCをアニーリングして作製した各種ポリICのTLR-3認識性やRLR認識性をレポーター細胞を用いて調べた。そして、RLR認識性はポリIの鎖長を問わず一定であるが、TLR-3の認識性はポリI鎖長が約100nt付近から、短くなればなるほど低下する新事実を見出した。
【0070】
試験例2.1.RLR認識性の比較
各種dsRNAのRLR認識性をレポーター細胞を用いて比較評価した。RLRレポーター細胞C57/WT MEF(invivogen, USA)は、NF-κBおよびIRF3/7で誘導される分泌性胎盤アルカリホスファターゼ(ALP)レポーター遺伝子が導入されたマウス初代胎児線維芽細胞株である。この細胞を用いることでdsRNAのRLR認識性をALPの誘導量で相対比較できる。C57/WT MEF細胞を用いたレポーターアッセイは、メーカーのプロトコルに準じて行った。具体的には、ウシ血清10%含有DMEM培地でC57/WT MEFを継代培養し、その細胞懸濁液を12ウェルプレートに1 ml/well播種し、37℃、5% CO
2環境下で約20時間静置培養した。ウシ血清を含まないDMEM培地1 ml/wellに交換後、各種dsRNA 100 ngまたはPBSをトランスフェクション試薬LyoVec(invivogen, USA)と共に添加し、37℃、5% CO
2環境下で静置培養した。2時間後にウシ血清を0.1 ml/well加え、さらに22時間培養し、培養上清を採取して分泌されたALPを定量分析した。ALPの定量分析にはQuantiBlueキット(invivogen, USA)を用い、E.coli由来ALP(タカラバイオ、日本)を標準品として数値化した。その結果をまとめたのが表11である。いずれのdsRNAを用いてもALP誘導量に大差はないことから、dsRNAの構成ssRNAの鎖長比を変えてもRLR認識性はほとんど変わらないことがわかった。
【0071】
【表11】
【0072】
試験例2.2.TLR-3結合性の比較
各種dsRNAのTLR-3認識性をレポーター細胞アッセイで比較した。TLR-3レポーター細胞HEK-Blue hTLR3 細胞(invivogen, USA)は、NF-κBおよびAP-1誘導性ALP遺伝子とヒトTLR-3遺伝子がゲノムに組み込まれた組み換えHEK-293細胞である。この細胞を用いることでTLR-3認識性をALPの誘導量で相対比較できる。HEK-Blue hTLR3細胞を用いたレポーターアッセイは、メーカーのプロトコルに準じて行った。すなわち、抗生物質ゼオシン100 mg/mlおよび抗生物質ブラストサイジン10 mg/mlを含むウシ血清10%含有DMEM培地でHEK-Blue hTLR3を継代培養し、その細胞懸濁液を12ウェルプレートに1 ml/well播種し、37℃、5% CO
2環境下で約44時間静置培養した。ウシ血清を含まず抗生物質ゼオシン100 mg/mlおよび抗生物質ブラストサイジン10 mg/mlを含むDMEM培地1 mlに交換後、各種dsRNA 100 ngまたはPBSを添加し、37℃、5% CO
2環境下で静置培養した。ウシ血清はdsRNA添加2時間後に0.1 ml/well加え、24時間後の上清を採取しALPの誘導量を比較した。ALPの定量分析はQuantiBlueキット(invivogen, USA)を用い、E.coli由来ALP(タカラバイオ、日本)を標準品として数値化した。その結果をまとめたのが表12である。表12から明らかなように、ポリIの鎖長が108nt以下になると、短いほどALP誘導量が減少した。すなわちポリIの鎖長を108nt以下にすることでRLR認識性を保持しつつTLR-3認識性のみが低下するといった、まったく新しい特性を示すdsRNAを作製できることがわかった。
【0073】
【表12】
【0074】
試験例2.3.TLR-3結合性(ネガティブコントロール)の実験
HEK-Blue Null1細胞(invivogen, USA)は、ヒトTLR-3遺伝子のみがトランスフェクションされていないHEK-Blue hTLR3 細胞の親細胞で、同株のネガティブコントロールにあたる。試験例2.2.で用いたHEK-Blue hTLR3 細胞をHEK-Blue Null1細胞に変え、抗生物質ブラストサイジンを培地に添加しないこと以外は試験例2.2.とまったく同様の手順で試験を実施したところ、ALPはほとんど誘導されなかった(表13)。したがって、試験例2.2.で確認されたALP誘導は、TLR-3特異的なシグナル伝達であることが確認された。
【0075】
【表13】
【0076】
試験例3:各種ポリICの自然免疫賦活活性および毒性の評価
【0077】
背景
dsRNAを構成する第1の鎖の鎖長を第2の鎖の鎖長の1/2以下にしたdsRNAが自然免疫賦活剤として機能するかどうかを確認するために、インターフェロンβ誘導性の強さを細胞実験で比較評価した。さらに、同dsRNAの毒性が低減するかどうかを確認するために、マウスを用いた単回投与毒性評価を行った。これら2つの評価の結果、dsRNAを構成する第1の鎖の鎖長を第2の鎖の鎖長の1/2以下にしても自然免疫賦活活性は保持しつつ、毒性が低減することが確認できた。
【0078】
試験例3.1.自然免疫誘導性の評価
アジュバントとして機能するために必須な自然免疫誘導性の強さを評価するために、自然免疫研究に用いられているヒト胎児線維芽細胞株MRC-5(Japanese Collection of Research Bioresources Cell Bank番号 9008)を用いて各種dsRNAのインターフェロン(IFN)β誘導性を評価した。具体的には、ウシ血清10%含有MEM培地でMRC-5を継代培養し、その細胞懸濁液を12ウェルプレートに1 ml/well播種し、37℃、5% CO
2環境下で約20時間静置培養した。ウシ血清を含まないMEM培地 1 ml/wellに交換後、各種dsRNA 30 μgまたはPBSをトランスフェクション試薬LyoVec(invivogen, USA)と共に添加し、37℃、5% CO
2環境下で静置培養した。2時間後にウシ血清を0.1 ml/well加え、さらに22時間培養した。dsRNA添加後10h、24hの培養上清を採取し、培養上清に含まれるIFNβを定量分析した。IFNβの定量分析にはIFNβ ELISAキット(株式会社鎌倉テクノサイエンス, 日本)を用いた。その結果をまとめたのが表14である。いずれのdsRNAを用いてもIFNβ誘導量に大差はないことから、dsRNA を構成するssRNAの鎖長比を変えてもIFNβ誘導性は保持されることが明らかとなった。
【0079】
【表14】
【0080】
試験例3.2.毒性の評価
各種鎖長のポリIとポリCを用いて作成したpolyI:Cを生理食塩水に溶解し、5 mg/mlから20 mg/ml濃度の溶液を作製した。これらの水溶液を健康なCrlj:CD1マウスの雄に6週齢で単回腹腔内投与し、急性毒性を比較した。マウスは室温22℃±3℃、湿度55%±10%、換気回数10回以上/h、照明12時間/dayの環境下に設置されたマウス用ケージに5匹ずつ収容し、水と餌を自由に摂取できる条件で飼育した。腹腔内投与前に約1週間の馴化期間を設け、投与後は、投与日を1日目と数えて7日間飼育し、様子を観察した。表15は、polyI:Cの投与量と7日間飼育後の生存数をまとめたものである。第1の鎖の鎖長を第2の鎖の鎖長の1/2以下にすることでマウスの生存数が改善した。すなわち、毒性が低減することが確認された。
【0081】
【表15】
【0082】
本出願は日本で出願された特願2012−267012(出願日:2012年12月6日)および特願2013−145471(出願日:2013年7月11日)を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含されるものである。