特許第6446295号(P6446295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446295
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】分割型メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   F16J15/34 F
   F16J15/34 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-45890(P2015-45890)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-166631(P2016-166631A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 博之
(72)【発明者】
【氏名】西 崇伺
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−298123(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/161704(WO,A1)
【文献】 特表2014−529052(JP,A)
【文献】 特開2001−141074(JP,A)
【文献】 特開平10−103530(JP,A)
【文献】 特開2005−302856(JP,A)
【文献】 特開2013−242023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースに設けられた静止環と、前記静止環と軸方向に対向して配設され、前記被軸封機器の回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記静止環及び回転環の少なくとも一方が、周方向に2つに分割されてなる分割型メカニカルシールであって、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、環状の保持部材に保持されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環のシール面にダイヤモンド膜が形成されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環の外周面及び内周面の少なくとも一方の面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環の分割面にダイヤモンド膜が形成されている、分割型メカニカルシール。
【請求項2】
被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースに設けられた静止環と、前記静止環と軸方向に対向して配設され、前記被軸封機器の回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記静止環及び回転環の少なくとも一方が、周方向に2つに分割されてなる分割型メカニカルシールであって、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、環状の保持部材に保持されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環のシール面にダイヤモンド膜が形成されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環の外周面及び内周面の少なくとも一方の面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続しており、当該二つ割の静止環及び/又は回転環の一方のセグメントの熱を保持部材を介して他方のセグメントに伝えるダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている、分割型メカニカルシール。
【請求項3】
前記二つ割の静止環及び/又は回転環の分割面にダイヤモンド膜が形成されている、請求項2に記載の分割型メカニカルシール。
【請求項4】
前記二つ割の静止環及び/又は回転環が、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の自然割により作製されている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の分割型メカニカルシール。
【請求項5】
前記二つ割の静止環及び/又は回転環が、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の切削加工により作製されている、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の分割型メカニカルシール。
【請求項6】
前記ダイヤモンド膜の熱伝導率が1000〜2000W/m・kである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の分割型メカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分割型メカニカルシールに関する。さらに詳しくは、例えば河川用ポンプ等の被軸封機器における回転軸とケーシングとの間を、回転環のシール面と静止環のシール面とを接触させてシールするメカニカルシールであって、回転環及び静止環の少なくとも一方が二つ割にされている分割型メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
回転環のシール面と静止環のシール面とを接触させてシールするメカニカルシールが、各種産業用ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ等の種々の被軸封機器における回転軸とケーシングとの間をシールするために採用されている。
【0003】
メカニカルシールが適用される被軸封機器のうち、例えば河川用のポンプは大型のものが多く、これに伴いメカニカルシールを構成する回転環及び静止環も大型化する。かかる大型の回転環及び静止環を含むメカニカルシールを被軸封機器に組み付ける作業、及び、機器のメンテナンス時に当該メカニカルシールを分解したり組み立てたりする作業は、多大な労力とかなりの熟練度とを必要としていた。
【0004】
そこで、メカニカルシールの分解及び組立作業を容易に行うことができるように、大型の静止環及び/又は回転環を二つ割にした分割型のメカニカルシールが、従来、種々提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。かかる二つ割の静止環又は回転環は、内周面の所定箇所にノッチ(切込み)を入れた環状体からなる静止環又は回転環の内周面に径外方向の力を加えることで分割する「自然割」と呼ばれる方法、又は、環状の部材の切削加工により作製することができる。分割型のメカニカルシールでは、静止環又は回転環を構成する二つのピース又はセグメント(以下、これらを総称して「セグメント」という)の周方向の端面である分割面又は接合面(以下、これらを総称して「分割面」という)同士を互いに当接させた状態で当該二つのセグメントを環状のリテーナに組み付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−298123号公報
【特許文献2】特開2013−242023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記二つのセグメントは、所定の公差内のものが製品として出荷され被軸封機器に組み付けられて使用されるが、両セグメントのサイズや平坦度を実質的に完全に一致させることは難しい。また、製造工程においてセグメント内に残る残留応力の影響により両セグメントに若干の変形が生じることもあり、組付け状態において当該両セグメントの分割面同士を一致させることも難しい。すなわち、分割面において軸方向及び/又は径方向に段差が生じることがある。さらに、両セグメントは、被軸封機器への組付けに際し、環状部材とリテーナとの間に挟持され、当該環状部材によって前記リテーナ側に押し付けられることでリテーナに固定されるが、このとき、両セグメントに加わる締付力が周方向で均一ではない。
【0007】
このため、両セグメントのシール面が、これと対向するシール面に押し付けられる力が不均一となり、その結果、両セグメントで発生する摩擦熱がセグメント間で相違する場合がある。両セグメントの発熱量が異なると、セグメント間で熱膨張差が生じ、両セグメントの分割面に隙間が生じる虞がある。両セグメントの分割面に隙間ができると、この隙間から流体が漏れる等シール性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、二つ割の回転環及び/又は静止環における二つのセグメントを均熱にし、当該セグメント間に熱膨張差が生じるのを緩和することで両セグメントの分割面からの流体漏れを防止又は抑制することができる分割型メカニカルシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の分割型メカニカルシールは、被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースに設けられた静止環と、前記静止環と軸方向に対向して配設され、前記被軸封機器の回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記静止環及び回転環の少なくとも一方が、周方向に2つに分割されてなる分割型メカニカルシールであって、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環は、環状の保持部材に保持されており、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環のシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記二つ割の静止環及び/又は回転環の外周面及び内周面の少なくとも一方の面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0010】
本発明の分割型メカニカルシールでは、静止環及び回転環の少なくとも一方が、周方向に2つに分割されており、この二つ割の静止環及び/又は回転環のシール面とともに、当該二つ割の静止環及び/又は回転環の外周面及び内周面の少なくとも一方の面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、二つ割の静止環及び/又は回転環の一方のセグメントの摺動面であるシール面で発生した摩擦熱を速やかに当該セグメントの外周面及び/又は内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して当該セグメントを保持する保持部材に伝え、この保持部材を介して他方のセグメントに伝えることができる。このため、一方のセグメントのシール面での発熱量が他方のセグメントのシール面での発熱量より大きい場合でも、当該一方のセグメントの熱を他方のセグメントに伝えることで両セグメントの温度の均一化ないし均熱化を図ることができる。これにより、両セグメントの分割面に熱膨張差が生じて当該分割面に隙間ができ、この隙間を介して流体が漏れるのを防止又は抑制することができる。その結果、良好なシール性を維持することができる。
【0011】
(2)前記(1)の分割型メカニカルシールにおいて、前記二つ割の静止環及び/又は回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されていることが好ましい。この場合、背面に形成されたダイヤモンド膜を介しても一方のシール面で発生した摩擦熱を保持部材に伝えることができ、両セグメントの温度の均一化をさらに図ることができる。
【0012】
(3)前記(1)又は(2)の分割型メカニカルシールにおいて、前記二つ割の静止環及び/又は回転環の分割面にダイヤモンド膜が形成されていることが好ましい。この場合、分割面に形成されたダイヤモンド膜を介しても一方のシール面で発生した摩擦熱を保持部材に伝えることができ、両セグメントの温度の均一化をさらに図ることができる。
【0013】
(4)前記(1)又は(2)の分割型メカニカルシールにおいて、前記二つ割の静止環及び/又は回転環を、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の自然割により作製することができる。
【0014】
(5)前記(1)〜(3)の分割型メカニカルシールにおいて、前記二つ割の静止環及び/又は回転環を、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の切削加工により作製することができる。
【0015】
(6)前記(1)〜(5)の分割型メカニカルシールにおいて、前記ダイヤモンド膜の熱伝導率を1000〜2000W/m・kとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分割型メカニカルシールによれば、二つ割の回転環及び/又は静止環における二つのセグメントを均熱にし、当該セグメント間に熱膨張差が生じるのを緩和することで両セグメントの分割面からの流体漏れを防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の分割型メカニカルシールの一実施形態の縦断面説明図である。
図2図1に示される分割型メカニカルシールの要部拡大説明図である。
図3図1に示される分割型メカニカルシールにおける静止環を構成する二つのセグメントの斜視説明図である。
図4図1に示される分割型メカニカルシールの変形例の要部拡大説明図である。
図5図1に示される分割型メカニカルシールの他の変形例の要部拡大説明図である。
図6図1に示される分割型メカニカルシールのさらに他の変形例の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の分割型メカニカルシールの実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る分割型メカニカルシールMの縦断面説明図であり、図2は、図1に示される分割型メカニカルシールMの要部拡大説明図であり、図3は、図1に示される分割型メカニカルシールMにおける静止環を構成する二つのセグメントの斜視説明図である。なお、図1及び後出する図2〜6においては、分かりやすくするために、ダイヤモンド膜の膜厚を誇張して描いている。
【0019】
本実施形態に係る分割型メカニカルシールMは、各種産業用ポンプ、特に河川用ポンプ等の大型の被軸封機器に好適に用いることができ、当該被軸封機器のケーシング1と、このケーシング1に挿入される回転軸2との間に配設されている。分割型メカニカルシールMは、前記ケーシング1に固定されるシールケース3に設けられた静止環4と、前記静止環4と軸方向に対向して配置され、前記回転軸2に設けられた回転環5と、前記静止環4と回転環5との対面するシール面4a、5a同士を接触させるために当該静止環4及び回転環5のうちの一方である静止環4を他方の回転環5側に押す弾性手段であるスプリング6とを備えている。
【0020】
分割型メカニカルシールMは、回転環5をシールケース3外の非密封流体領域Aに配置して、静止環4及び回転環5の対向する端面であるシール面4a,5aの相対回転摺接作用により当該相対回転摺接部分の内周側領域である被密封流体領域Bと、その外周側領域である非密封流体領域Aとを遮断するように構成された、いわゆるアウトサイド型のメカニカルシールである。
【0021】
シールケース3は、回転軸2よりも大径の内筒部3aを有する断面L字状の金属製の環状体からなり、ボルト7によりケーシング1に固定されている。
【0022】
静止環4は、シール面4aを有する先端部4bと、保持部材を構成する緊縛リング8により緊縛される本体部4cとからなる環状体である。本実施形態における静止環4は、図3に示されるように、周方向に2つに分割された円弧状セグメント9,10からなっている。静止環4は、SiCの焼結体で作製されており、この焼結体は、例えばSiCの常温焼結又は反応焼結により得ることができる。また、静止環4は超硬合金(WC)で作製してもよい。また、2つの円弧状セグメント9、10は、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の自然割により作製してもよいし、同じく環状のSiCの焼結体又は超硬合金の切削加工により作製してもよい。
【0023】
静止環4の背面4dは、シールケース3に保持された、保持部材を構成する第1リテーナ11に、前記緊縛リング8によって押圧されている。より詳細には、静止環4の外周面4eは当該静止環4のシール面4aから離れるにしたがい径大となるテーパ面とされており、一方、緊縛リング8の内周面8aは、静止環4のテーパ面と対応する形状のテーパ面とされている。そして、緊縛リング8を機内側(図1において右側)に締め付けることにより、当該緊縛リング8の内周面8aが静止環4の外周面4eと当接し、当該静止環4を第1リテーナ11側に押圧する。
【0024】
第1リテーナ11は、筒状の保持部11aと、当該保持部11aの先端部に一体形成された環状のフランジ部11bとからなる金属製の円筒体である。第1リテーナ11は、保持部11aをシールケース3の内筒部3aにOリング12を介して嵌合させることにより、当該シールケース3の軸線方向に移動可能に保持されている。第1リテーナ11は、フランジ部11bに形成された係合孔(図示せず)に、前記シールケース3のフランジ部3bに突設したピン(図示せず)を係合させることにより、所定範囲での軸線方向の移動を許容された状態でシールケース3に対する相対回転を阻止している。
【0025】
第1リテーナ11のフランジ部11bにおける静止環側の面には、Oリング13が配設されており、当該フランジ部11bの静止環側の面と、静止環4の背面4dとの間を二次シールしている。また、フランジ部11bの静止環側の面にはドライブピン14が突設されており、このドライブピン14を静止環4の背面4dに形成された係合凹部15に係合させることにより、静止環4の第1リテーナ11に対する相対回転が阻止されている。
【0026】
回転環5は断面矩形状の環状体からなっており、前記静止環4のシール面4aと対向する面がシール面5aとされている。回転環5は、断面矩形の環状凹所16を有する第2リテーナ17に保持されている。本実施形態における回転環5は、例えばSiC焼結体、超硬合金(WC)若しくは前記二者の表面にダイヤモンド膜が形成されたもの、カーボン又はC−SiC(多孔質炭素材の空孔にSiCを充填した複合材料)等の材料で作製することができる。更にシール面を酸化クロム(Cr)により構成したステンレス製シールリングを使用することもできる。
【0027】
第2リテーナ17の内周面17aにはOリング18、19が配設されており、それぞれ当該第2リテーナ17の内周面17aと、回転環5の内周面5b及び背面5cとの間をシールしている。第2リテーナ17の内周面17aにはピン20が突設されており、このピン20は、回転環5の背面5cに形成された係合凹部21と係合している。これにより、回転環5の第2リテーナ17に対する相対回転が阻止されている。
【0028】
なお、図1において、符号22は周方向に2分割された二つ割のストッパーリングであり、締結ボルト23によりリング状に締結されて回転軸2に嵌合されている。ストッパーリング22は、当該ストッパーリング22に螺合させたセットスクリュー24を回転軸2へと締め付けることにより当該回転軸2に固定されている。ストッパーリング22の回転環5側の端面22aにはピン25が突設されており、このピン25を第2リテーナ17の背面17bに形成された係合凹部26に係合させることにより、第2リテーナ17のストッパーリング22に対する相対回転を阻止するように構成されている。また、ストッパーリング22の回転環5側の端面22aに当接して回転環5をフロートさせるためのスペーサ30が配設されている。このスペーサ30は回転軸2の外周に嵌合されている。
なお、本実施形態では、回転環5の外方にシール面から漏えいした流体が遠心力により飛散することを防止するための円筒状のカバー31が配設されている。このカバー31は二つ割構造であり、ボルト32によって緊縛リング8に固定されている。
【0029】
第1リテーナ11のフランジ部11bには周方向に沿って複数の貫通孔27が形成されており、この貫通孔27内に円板状のスプリング受け28が配設されている。スプリング6の機外側の端部は前記スプリング受け28に固定されており、スプリング6の機内側の端部はシールケース3のフランジ部3bに当接している。スプリング6による静止環4の回転環5への押圧力は、緊縛リング8に螺合されて前記貫通孔27に突出する調整ボルト29を回転させることで調整することができる。
【0030】
本実施形態では、緊縛リング8、第1リテーナ11が静止環4を保持する保持部材を構成しており、第2リテーナ17が回転環5を保持する保持部材を構成している。このうち、緊縛リング8及び第1リテーナ11は、後述するように一方のセグメントのシール面で発生した摩擦熱を他方のセグメントに伝熱する役割も果たしており、そのために、例えばSUS304,SUS316等の熱伝導率の高い金属で作製されている。
【0031】
本実施形態では、静止環4のシール面4a、外周面4e、及び、当該静止環4における前記シール面4aと反対側の面である背面4dにダイヤモンド膜d1,d2,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、互いに連続するように形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環4の一方のセグメントの摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに当該セグメントの外周面4eに形成されたダイヤモンド膜d2を経由して緊縛リング8に伝えるとともに、静止環4の背面4dに形成されたダイヤモンド膜d3を介して第1リテーナ11に伝えることができる。そして、緊縛リング8及び第1リテーナ11を介して他方のセグメントに伝えることができる。このため、一方のセグメントのシール面での発熱量が他方のセグメントのシール面での発熱量より大きい場合でも、当該一方のセグメントの熱を他方のセグメントに伝えることで両セグメントの温度の均一化ないし均熱化を図ることができる。これにより、両セグメントの分割面に熱膨張差が生じて当該分割面に隙間ができ、この隙間を介して流体が漏れるのを防止又は抑制することができる。その結果、良好なシール性を維持することができる。
【0032】
ダイヤモンド膜は、例えばマイクロ波CVD法、熱フィラメントCVD法等の一般的な製造技術を用いて作製することができる。また、ダイヤモンド膜の厚さは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、3〜20μm、好ましくは3〜10μmである。静止環4のシール面4aで発生した摩擦熱が当該静止環4の母材であるSiC焼結体に移動する前に外周面4bのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、3μm以上の厚さであることが望ましい。また、ダイヤモンド膜が厚くなる程膜の表面粗度も大きくなり、精密な機械部品であるメカニカルシールのシール面として使用するのが困難になるのに加えてダイヤモンド膜の残留応力を極力小さくするという観点からは、10μm以下であることが望ましい。
【0033】
ダイヤモンド膜d1とダイヤモンド膜d2、d3とは同じ厚さであってもよいが、互いに異なる厚さであってもよい。静止環4のシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに外周面4eのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、外周面4eのダイヤモンド膜d2の膜厚がシール面4aのダイヤモンド膜d1の膜厚以上であることが望ましいが、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0034】
図4は、図1〜3に示される分割型メカニカルシールMの変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、静止環4の外周面4eに代えて当該静止環4の内周面4fにダイヤモンド膜d4が形成されている点が前記分割型メカニカルシールMと異なっている。したがって、分割型メカニカルシールMと共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0035】
この変形例では、静止環4のシール面4a、内周面4f及び背面4dにダイヤモンド膜d1,d4、d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d4、d3は、互いに連続するように形成されている。このため、静止環4の一方のセグメントの摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに当該セグメントの内周面4fに形成されたダイヤモンド膜d4を経由して当該静止環4の背面4dに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができ、さらにダイヤモンド膜d3を介して第1リテーナ11に伝えることができる。そして、第1リテーナ11を介して他方のセグメントに伝えることができる。このため、一方のセグメントのシール面での発熱量が他方のセグメントのシール面での発熱量より大きい場合でも、当該一方のセグメントの熱を他方のセグメントに伝えることで両セグメントの温度の均一化ないし均熱化を図ることができる。これにより、両セグメントの分割面に熱膨張差が生じて当該分割面に隙間ができ、この隙間を介して流体が漏れるのを防止又は抑制することができる。その結果、良好なシール性を維持することができる。
【0036】
図5は、図1〜3に示される分割型メカニカルシールMの他の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、静止環4の外周面4e及び背面4dに代えて当該静止環4の外周面4eにダイヤモンド膜d2が形成されている点が前記分割型メカニカルシールMと異なっている。したがって、分割型メカニカルシールMと共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0037】
この変形例では、静止環4のシール面4a及び外周面4eにダイヤモンド膜d1,d2がそれぞれ形成されている。静止環4の一方のセグメントの摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに当該セグメントの外周面4eに形成されたダイヤモンド膜d2を経由して緊縛リング8に伝えることができる。そして、緊縛リング8を介して他方のセグメントに伝えることができる。このため、一方のセグメントのシール面での発熱量が他方のセグメントのシール面での発熱量より大きい場合でも、当該一方のセグメントの熱を他方のセグメントに伝えることで両セグメントの温度の均一化ないし均熱化を図ることができる。これにより、両セグメントの分割面に熱膨張差が生じて当該分割面に隙間ができ、この隙間を介して流体が漏れるのを防止又は抑制することができる。その結果、良好なシール性を維持することができる。
【0038】
図6は、図1〜3に示される分割型メカニカルシールMの変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、静止環4の外周面4e及び背面4dだけでなく当該静止環4の内周面4f及び分割面4g(図3参照)にもダイヤモンド膜が形成されている点が前記分割型メカニカルシールMと異なっている。したがって、分割型メカニカルシールMと共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。なお、分割面4gにもダイヤモンド膜が形成されていることから、本変形例に係るメカニカルシールの静止環4は、自然割により作製されたものではなく、環状のSiCの焼結体又は超硬合金の切削加工により作製されたものであり、切削加工後のセグメントにダイヤモンド膜が形成されている。
【0039】
この変形例では、静止環4のシール面4a、外周面4e,内周面4f及び背面4dにダイヤモンド膜d1、d2、d4、d3がそれぞれ形成されるとともに、当該静止環4の分割面4gにもダイヤモンド膜が形成されている。各ダイヤモンド膜は、互いに連続するように形成されている。このため、静止環4の一方のセグメントの摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに当該セグメントの外周面4e及び内周面4fに形成されたダイヤモンド膜d2、d4並びに分割面4gに形成されたダイヤモンド膜を経由して当該静止環4の背面4dに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができ、さらにダイヤモンド膜d3を介して第1リテーナ11に伝えることができる。また、外周面4eに形成されたダイヤモンドd2を介して緊縛リング8に伝えることができる。そして、緊縛リング8及び第1リテーナ11を介して他方のセグメントに伝えることができる。このため、一方のセグメントのシール面での発熱量が他方のセグメントのシール面での発熱量より大きい場合でも、当該一方のセグメントの熱を他方のセグメントに伝えることで両セグメントの温度の均一化ないし均熱化を図ることができる。これにより、両セグメントの分割面に熱膨張差が生じて当該分割面に隙間ができ、この隙間を介して流体が漏れるのを防止又は抑制することができる。その結果、良好なシール性を維持することができる。
【0040】
なお、本発明のメカニカルシールは前述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、静止環及び回転環のうち静止環だけが二つ割であったが、メカニカルシールにおける回転環だけを二つ割とすることもできるし、また、静止環及び回転環の両方を二つ割とすることもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 :ケーシング
2 :回転軸
3 :シールケース
3a:内筒部
3b:フランジ部
4 :静止環
4a:シール面
4b:先端部
4c:本体部
4d:背面
4e:外周面
4f:内周面
4g:分割面
5 :回転環
5a:シール面
5b:内周面
5c:背面
6 :スプリング
7 : ボルト
8 :緊縛リング
8a:テーパ面
9 :セグメント
10 :セグメント
11 :第1リテーナ
11a:保持部
11b:フランジ部
12 :Oリング
13 :Oリング
14 :ドライブピン
15 :係合凹部
16 :環状凹所
17 :第2リテーナ
17a:内周面
17b:背面
18 :Oリング
19 :Oリング
20 :ピン
21 :係合凹部
22 :ストッパーリング
22a:端面
23 :締結ボルト
24 :セットスクリュー
25 :ピン
26 :係合凹部
27 :貫通孔
28 :スプリング受け
29 :調整ボルト
30 :スペーサ
31 :カバー
32 :ボルト
M :メカニカルシール
d1:ダイヤモンド膜
d2:ダイヤモンド膜
d3:ダイヤモンド膜
d4:ダイヤモンド膜
d5:ダイヤモンド膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6