特許第6446300号(P6446300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446300
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】外装建材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20181217BHJP
   E04F 13/12 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B32B15/08 G
   E04F13/12 A
   E04F13/12 C
【請求項の数】7
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-47392(P2015-47392)
(22)【出願日】2015年3月10日
(62)【分割の表示】特願2014-164258(P2014-164258)の分割
【原出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2016-5885(P2016-5885A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111308(P2014-111308)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】原 丈人
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂戸 健二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和彦
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−276561(JP,A)
【文献】 特開平05−220449(JP,A)
【文献】 特開平11−156999(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
E04F 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非クロメート防錆処理が施された金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する、クロメートフリーの塗装金属板を含む外装建材であって、
前記上塗り塗膜は、細孔を有する粒子である光沢調整剤および細孔を有しない一次粒子である艶消し剤を含有し、
前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、
前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、
前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する、外装建材
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
2.0≦D297.5/T≦7.0
13≦T≦20
【請求項2】
非クロメート防錆処理が施された金属板と、前記金属板上に配置される中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有する、クロメートフリーの塗装金属板を含む外装建材であって、
前記上塗り塗膜は、細孔を有する粒子である光沢調整剤および細孔を有しない一次粒子である艶消し剤を含有し、
前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、
前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、
前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する、外装建材
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
0.5≦D297.5/T≦7.0
3≦T≦20
【請求項3】
前記塗装金属板は、前記金属板および前記上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有する、請求項1に記載の外装建材
【請求項4】
前記塗装金属板は、前記金属板および前記中塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有する、請求項2に記載の外装建材
【請求項5】
前記Ruは、前記T未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の外装建材
【請求項6】
前記光沢調整剤は、シリカ粒子である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の外装建材
【請求項7】
前記塗装金属板の75°における光沢度が1〜25である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の外装建材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装用の塗装金属板および外装建材に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装金属板は、汎用性、意匠性、耐久性などにおいて優れており、様々な用途で使用されている。外装建材の用途の塗装金属板には、通常、主に意匠性の観点から、光沢調整剤が、当該塗装金属板の表面の上塗り塗膜に配合されている。当該外装建材用の塗装金属板における上記光沢調整剤には、シリカ粒子が通常使用されている。当該シリカ粒子の粒径は、通常、平均粒径で規定されている。上記塗装金属板における上記光沢調整剤としてのシリカ粒子の平均粒径は、色や用途にもよるが、通常、3〜30μmである(例えば、特許文献1(段落0018)参照)。また、塗膜に凹凸感を付与し、いわゆる「艶消し塗装鋼板」の外観および質感を付与するためには、光沢調整剤より大粒径の艶消し剤を、さらに添加する必要がある。艶消し剤の種類の例には、ガラスビーズや樹脂ビーズなどが含まれる。通常、艶消し剤の平均粒径は、10〜50μmである(例えば、特許文献2(段落0016)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−148107号公報
【特許文献2】特開2004−154993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外装建材用の塗装金属板では、クロメート系塗装鋼板が使用されている。当該クロメート系塗装鋼板では、成型加工性や切断端面部の耐食性を向上するための取組みが為されており、クロメート系塗装鋼板は、長期に渡る耐久性を有していた。一方、近年では外装建材の技術分野においても、環境保全に対する強い関心が寄せられている。このため、環境へ悪影響を及ぼすか、またはその可能性が懸念される成分の使用を禁止する法的規制が検討されている。たとえば、塗装金属板において、防錆成分として汎用されている6価クロム成分については、近い将来に使用を制限することが検討されている。クロメートフリー塗装鋼板についても、塗装前処理や防錆顔料の適正化など種々の検討が行われ、成形加工部や切断端面部では、クロメート系塗装鋼板と遜色がない特性が得られるようになった。
【0005】
しかしながら、クロメート系塗装鋼板では、平坦部耐食性は大きな問題とならなかったが、クロメートフリー塗装鋼板では平坦部での腐食が顕著となることがあり、特に、シリカ粒子を上記光沢調整剤に用いた場合、図1に示されるように、実使用において、想定した使用年数よりも早くに、平坦部でしみ状錆や塗膜膨れなどの腐食が発生することがあった。
【0006】
本発明は、艶消し意匠を有するとともに、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板および外装建材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、平坦部での前述した腐食の原因について鋭意検討した。図2は、クロメートフリーの塗装金属板の平坦部における腐食している部分の顕微鏡写真である。図2中、A部は、上塗り塗膜から光沢調整剤としてのシリカ粒子が露出している部分であり、B部は、シリカ粒子が上塗り塗膜から脱落した部分である。また、図3は、上記塗装金属板のA部の、図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真であり、図4は、上記塗装金属板のB部の、図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真である。図3は、上塗り塗膜の表面に露出したシリカ粒子にはクラックが発生している様子を明確に示しており、図4は、シリカ粒子が脱落した上塗り塗膜の穴が、金属板の腐食の起点になっていることを明確に示している。
【0008】
上記のように、本発明者らは、シリカ粒子のような細孔を有する粒子を光沢調整剤に用いた場合、当該腐食は、上塗り塗膜の、光沢調整剤が割れ、崩壊し、あるいは脱落した部分で生じること、を確認し、また、実使用によって減耗していく上塗り塗膜から露出した光沢調整剤が割れ、崩れて、上塗り塗膜から脱落すること、を確認した。
【0009】
また、本発明者らは、光沢調整剤についても検討した結果、平均粒径で規定されているシリカ粒子には、上塗り塗膜の厚さに対して当該平均粒径よりもかなり大きな粒子が含まれていることを確認した。たとえば、本発明者らは、上記光沢調整剤に用いられる市販のシリカ粒子のうち、平均粒径が3.3μmであるシリカ粒子を電子顕微鏡で観察したところ、粒径が約15μmのシリカ粒子が含まれていることを確認した(図5)。さらに、本発明者らは、当該シリカ粒子の表面(図6A中のB部)を観察したところ、凝集粒子特有の無数の微細な隙間が表面に開口していることを確認した(図6B)。
【0010】
また、本発明者らは、上塗り塗膜にさらに用いられうる艶消し剤としてシリカやポリアクリロニトリル(PAN)などのような凝集粒子を用いた場合も同様に、上塗り塗膜から露出した艶消し剤が割れ、崩壊し、あるいは脱落した部分が腐食の起点になることを確認した(図7および図8)。
【0011】
そして、本発明者らは、こうした大粒径の凝集粒子が耐食性の低下をもたらすことに着目し、上塗り塗膜の膜厚に対する特定の粒径の光沢調整剤および艶消し剤を用いることによって、従来の金属板におけるクロメート系の化成処理および下塗り塗膜中の含クロム防錆顔料の使用による耐食性と同等かそれ以上の耐食性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の塗装金属板および外装建材に関する。
[1]金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板であって、前記上塗り塗膜は、細孔を有する粒子である光沢調整剤および一次粒子である艶消し剤を含有し、前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する、塗装金属板。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
2.0≦D297.5/T≦7.0
13≦T≦20
[2]金属板と、前記金属板上に配置される中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板であって、前記上塗り塗膜は、細孔を有する粒子である光沢調整剤および一次粒子である艶消し剤を含有し、前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する、塗装金属板。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
0.5≦D297.5/T≦7.0
3≦T≦20
[3]前記金属板および前記上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有する、[1]に記載の塗装金属板。
[4]前記金属板および前記中塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有する、[2]に記載の塗装金属板。
[5]前記Ruは、前記T未満である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[6]前記金属板は、非クロメート防錆処理が施されており、前記塗装金属板は、クロメートフリーである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[7]前記金属板は、クロメート防錆処理が施されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[8]前記光沢調整剤は、シリカ粒子である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[9]75°における光沢度が1〜25である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[10]外装用塗装金属板である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の塗装金属板。
[11][1]〜[9]のいずれか一項に記載の塗装金属板で構成されている外装建材。
【0013】
また、本発明は、以下の塗装金属板の製造方法に関する。
[12]金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法であって、樹脂、光沢調整剤および艶消し剤を含有する上塗り塗料を前記金属板上に塗布する工程と、前記上塗り塗料の塗膜を硬化して前記上塗り塗膜を形成する工程と、を含み、前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記光沢調整剤は、細孔を有する粒子であり、前記艶消し剤は、一次粒子であり、前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布の上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する前記光沢調整剤および艶消し剤を用いる、塗装金属板の製造方法。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
2.0≦D297.5/T≦7.0
13≦T≦20
[13]金属板と、前記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法であって、樹脂、光沢調整剤および艶消し剤を含有する上塗り塗料を前記金属板上に塗布する工程と、前記上塗り塗料の塗膜を硬化して前記上塗り塗膜を形成する工程と、を含み、前記上塗り塗膜における前記光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記光沢調整剤は、細孔を有する粒子であり、前記艶消し剤は、一次粒子であり、前記光沢調整剤の個数平均粒径をR(μm)、前記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、前記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、前記光沢調整剤の個数粒度分布の上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する前記光沢調整剤および艶消し剤を用いる、塗装金属板の製造方法。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R≧1.0
0.5≦D297.5/T≦7.0
3≦T≦20
[14]前記上塗り塗料は、前記上塗り塗料中の粒子を粉砕する処理が施された、[12]または[13]に記載の塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、想定される使用年数における光沢調整剤の露出や割れなど、および艶消し剤の割れや脱落などが予防される。その結果、光沢が調整された所期の意匠性を有するとともに、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等かそれ以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】5年の実使用でクロメートフリーの塗装金属板の平坦部に発生した腐食部(塗膜膨れ)の顕微鏡写真である。
図2】クロメートフリーの塗装金属板の平坦部における腐食している部分の顕微鏡写真である。
図3図2に示す塗装金属板のA部の、図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真である。
図4図2に示す塗装金属板のB部の、図2中の直線Lに沿っての断面の反射電子顕微鏡写真である。
図5】平均粒径が3.3μmである市販のシリカ粒子の電子顕微鏡写真である。
図6図6Aは、市販のシリカ粒子の電子顕微鏡写真であり、図6Bは、図6A中のB部をさらに拡大して示す電子顕微鏡写真である。
図7図7は、艶消し剤としてシリカ粒子を用いたクロメートフリーの塗装金属板の平坦部における腐食している部分の断面の顕微鏡写真である。
図8図8は、艶消し剤としてPAN粒子を用いたクロメートフリーの塗装金属板の平坦部における腐食している部分の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る塗装金属板を説明する。上記塗装金属板は、金属板と、当該金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する。
【0017】
上記金属板は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。当該金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などが含まれる。上記金属板は、耐食性、軽量化および対費用効果の観点から、めっき鋼板であることが好ましい。当該めっき鋼板は、特に、耐食性の観点、および外装建材としての適性の観点から、溶融55%Al―Zn合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板またはアルミニウムめっき鋼板であることが好ましい。
【0018】
上記金属板は、その表面に化成処理皮膜を有することが、塗装金属板の密着性および耐食性を向上させる観点から好ましい。化成処理は、金属板の塗装前処理の一種であり、化成処理皮膜は、当該塗装前処理によって形成される組成物の層である。上記金属板は、非クロメート防錆処理が施されていることが、塗装金属板の製造および使用における環境への負荷を軽減する観点から好ましく、クロメート防錆処理が施されていることが、耐食性をさらに高める観点から好ましい。
【0019】
上記非クロメート防錆処理による上記化成処理皮膜の例には、Ti−Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜、樹脂系皮膜、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜、シリカ系皮膜、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜、ジルコニウム系皮膜、および、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜、が含まれる。
【0020】
上記の観点から、上記金属板における、当該Ti−Mo複合皮膜の付着量は、全TiおよびMo換算で10〜500mg/mであることが好ましく、上記フルオロアシッド系皮膜の付着量は、フッ素換算または総金属元素換算で3〜100mg/mであることが好ましく、上記リン酸塩皮膜の付着量は、リン元素換算で0.1〜5g/mであることが好ましい。
【0021】
また、上記樹脂系皮膜の付着量は、樹脂換算で1〜500mg/mであることが好ましく、上記樹脂およびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜50mg/mであることが好ましく、上記シリカ系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/mであることが好ましく、上記シリカおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1〜200mg/mであることが好ましく、上記ジルコニウム系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/mであることが好ましく、上記ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1〜100mg/mであることが好ましい。
【0022】
また、上記クロメート防錆処理の例には、塗布型クロメート処理、および、リン酸―クロム酸系処理、が含まれる。上記の観点から、上記金属板における当該クロメート防錆処理による皮膜の付着量は、クロム元素換算で20〜80g/mであることが好ましい。
【0023】
上記上塗り塗膜は、通常、樹脂で構成される。当該樹脂は、意匠性や耐候性などの観点から、適宜に選ばれる。当該樹脂の例には、ポリエステル、アクリル樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。
【0024】
上記上塗り塗膜の膜厚Tは、13〜20μmである。上塗り塗膜の膜厚Tは、厚すぎると塗装不良(ワキ)の発生や生産性の低下および製造コストの上昇などの原因となることがあり、薄すぎると所期の意匠性や所期の平坦部耐食性が得られないことがある。たとえば、生産性が良好であり、所期の光沢と発色を呈し、かつ少なくとも10年の外装建材としての実使用が可能な塗装金属板を得るためには、上塗り塗膜の膜厚Tは、上記の観点から、例えば14μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。また、上記の理由から、上塗り塗膜の膜厚Tは、19μm以下であることが好ましく、18μm以下であることがより好ましい。上塗り塗膜の膜厚Tは、例えば上塗り塗膜の艶消し剤が存在しない部分の複数個所における底面から表面までの距離の平均値である。
【0025】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、当該他の塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、意匠性、耐食性および加工性の観点から、14〜20μmであることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上塗り塗膜の膜厚Tは、3〜20μmである。さらに、上記の観点から、4.0〜19μmであることが好ましく、5.0〜18μmであることがより好ましい。
【0026】
上記上塗り塗膜の膜厚Tは、塗装金属板の意匠性の観点から、上塗り塗膜の色が明るいとより厚いことが好ましく、上塗り塗膜の色が濃いとより薄くすることが可能である。一概には言えないが、例えば、上塗り塗膜のL値が80以下であれば、上塗り塗膜の膜厚Tは15μm以下とすることができ、上塗り塗膜のL値が80超であれば膜厚Tは、15μm超であることが好ましい。
【0027】
あるいは、上記上塗り塗膜の膜厚Tは、塗装金属板の意匠性の観点から、上塗り塗膜の色が、上塗り塗膜形成前の鋼板の表面(例えば後述する下塗り塗膜または中塗り塗膜)の色に近いほど薄くすることが可能である。一概には言えないが、例えば、上塗り塗膜のL値と当該塗膜形成前の鋼板の表面の色のL値との差の絶対値ΔLが10以下であれば上塗り塗膜の膜厚Tを13μm以下することができ、ΔLが20以下であれば膜厚Tを15μm以下とすることができ、ΔLが50以下であれば膜厚Tを17μm以下とすることができる。
【0028】
また、本実施の形態に係る塗装金属板では、中塗り塗膜を有しない塗装金属板における上塗り塗膜でも、中塗り塗膜を有する塗装金属板における上塗り塗膜と同様に形成することができる。たとえば、上塗り塗膜の色が、その下地(例えば、下塗り塗膜)の色と近い場合(例えば、ΔLが10以下)や、上塗り塗膜の色が濃色である場合(例えば、L値が25以下)などでは、上塗り塗膜の膜厚Tを、中塗り塗膜を有する塗装金属板における上塗り塗膜の膜厚と同等に(例えば、3μmまで)薄くすることができる。
【0029】
なお、上記L値は、市販の分光測色計(例えばコニカミノルタオプティクス株式会社製「CM3700d」)による測定結果からハンター色差式により算出して求めることができる。
【0030】
上記上塗り塗膜は、光沢調整剤を含有する。当該光沢調整剤は、塗装金属板における所期の光沢を実現する目的や、製造ロット間での光沢のバラツキを調整する目的などで、上塗り塗膜の表面を適度に粗すために上塗り塗膜中に配合され、光沢を伴う所期の外観を塗装金属板にもたらす。
【0031】
上記光沢調整剤の個数平均粒径R(以下、「R1」ともいう)は、1.0μm以上である。光沢調整剤が小さすぎると上塗り塗膜の光沢が高すぎ、所期の意匠性が得られないことがある。このように、光沢調整剤の当該個数平均粒径R1は、塗装金属板の所期の意匠性(光沢度)に応じて後述の式を満たす範囲において適宜に決めることが可能であるが、大きすぎると上塗り塗膜の粗度が大きくなり、所期の意匠性が得られなくなる。たとえば、平坦部耐食性とともに、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得る観点から、光沢調整剤の個数平均粒径R1は、2.0μm以上であることが好ましく、3.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがより好ましく、あるいは7.0μm以上であることがさらに好ましい。当該個数平均粒径は、上塗り塗膜の断面の観察により確認することが可能であり、あるいは、画像解析法およびコールター法で(例えば、ベックマン・コールター社製 精密粒度分布測定装置「Multisizer4」を用いて)測定することが可能である。
【0032】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、上記光沢調整剤の個数平均粒径R1は、上塗り塗膜の膜厚Tに応じて決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上記光沢調整剤の個数平均粒径R1は、所期の光沢による意匠性、耐食性および加工性の観点から、2.0μm以上であることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、上記光沢調整剤の個数平均粒径R1は、1.0μm以上である。さらに、上記の観点から、2.0μm以上であることが好ましい。
【0033】
上記上塗り塗膜における上記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%である。当該含有量が多すぎると上塗り塗膜の光沢が低すぎ、また加工部密着性が低下する。当該含有量が少なすぎると当該光沢が制御できないため、多くても少なくても所期の意匠性が得られないことがある。たとえば、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得る観点から、上塗り塗膜中における光沢調整剤の含有量は、0.4体積%以上であることが好ましく、0.6体積%以上であることがより好ましい。また、上記の理由から、上塗り塗膜中における光沢調整剤の含有量は、13体積%以下であることが好ましく、11体積%以下であることがより好ましい。当該含有量は、上塗り塗膜の灰分の測定や上塗り塗膜の溶解による光沢調整剤の回収、複数箇所での元素識別した断面像についての画像解析などによって確認することが可能である。
【0034】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、上記光沢調整剤の含有量は、上塗り塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、光沢調整剤の含有量は、意匠性、耐食性および加工性の観点から、0.4〜15体積%であることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%である。さらに、上記の観点から、0.1〜13体積%であることが好ましく、0.2〜11体積%であることがより好ましい。
【0035】
上記光沢調整剤は、細孔を有する粒子(以下、「細孔粒子」とも言う)である。細孔粒子の例には、一次粒子が化学的に接合した凝集体、一次粒子が物理的に接合した集合体、および多孔質粒子が含まれる。当該多孔質粒子は、少なくとも粒子の内部に多孔質構造を有する。上記光沢調整剤は、上記細孔粒子のみから構成されていてもよいし、細孔粒子以外の粒子を含んでいてもよい。当該細孔粒子は、無機粒子であっても有機粒子であってもよく、後述する式を満足する範囲において、光沢調整剤として用いられる公知の細孔粒子から選ぶことができる。当該細孔粒子の材料の例には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ポリアクリロニトリル、および、炭酸カルシウム−リン酸カルシウム複合体、が含まれる。上記光沢調整剤は、塗装金属板の光沢の高い調整作用を有する観点から、シリカ粒子であることが好ましい。
【0036】
上記塗装金属板は、上記光沢調整剤の個数平均粒径をR1(μm)、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記光沢調整剤の個数基準の累積粒度分布(以下、「個数粒度分布」とも言う)における97.5%粒子径をD197.5(μm)としたときに、下記式を満足する。ただし、前記光沢調整剤の個数粒度分布の上限粒径をRu(μm)としたときに、当該Ruは、1.2T以下である。「上限粒径(Ru)」は、個数粒度分布における粒度分布曲線が、個数平均粒径R1以上でベースラインと重なるときの粒径である。
D197.5/T≦0.7
【0037】
D197.5は、本発明の効果が得られる上記光沢調整剤の粒径の実質的な指標となる。D197.5/Tが大きすぎると、上塗り塗膜の実使用に伴う減耗によって上記細孔粒子が露出し、所期の平坦部耐食性が得られないことがあり、D197.5/Tが小さすぎると所期の光沢度が得られないことがある。
【0038】
たとえば、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得る観点から、D197.5/Tは、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。また、たとえば、外装建材としての実使用年数が少なくとも10年以上である塗装金属板を得る観点から、D197.5/Tは、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0039】
一方、当該個数粒度分布では、D197.5よりも大きな粒子は、当該粒子全ての個数の約2.5%程度しか含まれない。したがって、「D197.5/T≦0.7」を満たす個数粒度分布における個数平均粒径R1以上の粒径において、当該粒度分布曲線が特定のシャープさを呈する光沢調整剤は、そのまま、本発明に適用することが可能である。すなわち、「D197.5/T≦0.7」を満たす個数平均粒径R1以上の個数粒度分布における粒度分布曲線と当該個数粒度分布におけるベースラインとの重複点(Ru)が1.2T以下である上記光沢調整剤は、本発明に適用され得る。
【0040】
上限粒径Ru(μm)が1.2T以下であっても(0.7T超であっても)十分な平坦部耐食性が発現される理由は、以下のように考えられる。まず、上塗り塗膜では、光沢調整剤の上には上塗り塗膜の樹脂組成物が被さるので、1.2Tまでの粒径の光沢調整剤であれば、通常、上塗り塗膜の表面に露出しないため、と考えられる。また、上記光沢調整剤において0.7Tよりも大きな粒径の粒子は、上記R1よりも大きい範囲の実際の上記個数粒度分布が正規分布からずれたとしても、正規分布からさほどに大きくずれるとは考えられにくいので、多くても全体の2.5%未満しか存在しないと考えられる。このため、上記光沢調整剤における0.7Tよりも大きな粒径の粒子は、平坦部耐食性に実質的な影響を及ぼすには少なすぎる、と考えられる。さらに、上記光沢調整剤は、一般に異形であり、通常、ある程度扁平である。上塗り塗膜中の上記光沢調整剤は、後述の上塗り塗料の塗布によって、通常、光沢調整剤の長軸方向が鉛直方向よりも水平方向により向きやすいので、上塗り塗膜中の上記光沢調整剤における膜厚方向における粒径は、その光沢調整剤の長径(例えば1.2T)よりも通常は小さくなるため、と考えられる。
【0041】
上記Ruが大きすぎると、上塗り塗膜の実使用に伴う減耗によって上記細孔粒子が露出し、所期の平坦部耐食性が得られないことがある。外装建材としての実使用年数が少なくとも10年以上である塗装金属板を得る観点から、RuはT未満であることが好ましく、0.7T以下であることがより好ましく、0.6T以下であることがさらに好ましい。R1、D197.5およびRuは、上記光沢調整剤の個数粒度分布から求めることが可能である。
【0042】
なお、上記光沢調整剤の個数粒度分布における、平均粒径R1よりも小さい側については、上記の粒度分布の条件を満足する範囲において、いかなる態様であってもよい。
【0043】
上記の粒度分布に係る条件を満足する上記光沢調整剤には、市販品またはその分級品を用いることが可能である。
【0044】
なお、上記塗装金属板を製造するにあたり、上記光沢調整剤が前述の粒子の大きさの条件を満足しないこと(例えば1.2Tよりも大きな粒径を有する粗大粒子が存在することなど)があり、あるいは、製造の過程で上記の条件から外れることがある。この場合、後述するローラーミルによる処理のように、後述の上塗り塗料中で当該粗大粒子を粉砕する工程を行うことが、上記の塗装金属板を得る観点から好適である。
【0045】
また、上記上塗り塗膜は、艶消し剤も含有する。上記艶消し剤は、上塗り塗膜に光沢調整剤により付与される粗さよりも大きな目視で確認できる凹凸を発現し、テクスチャーを付与するために上塗り塗膜中に配合され、所期の外観を塗装金属板にもたらす。また、当該艶消し剤は、上塗り塗膜よりも大きい粒径を有するものを含み、上塗り塗膜への傷付きを防止することができる。これにより塗装金属板の耐傷付き性を向上させることもできる。
【0046】
上記艶消し剤の個数平均粒径(以下、「R2」ともいう)は、特に限定されないが、艶消し剤が小さすぎると上塗り塗膜の光沢を下げることができず、所期の意匠性が得られないことがある。艶消し剤の当該個数平均粒径R2は、塗装金属板の所期の意匠性(光沢度)に応じて後述の式を満たす範囲において適宜に決めることが可能であるが、大きすぎると塗装時に艶消し剤によるスジ引きが発生し、所期の意匠性が得られないことがある。たとえば、平坦部耐食性とともに、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得るためには、艶消し剤の個数平均粒径R2は、5.0μm以上であることが好ましく、10.0μm以上であることがより好ましく、15.0μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、25μm以上であることがより一層好ましい。また、上記の理由から、艶消し剤の個数平均粒径R2は、75μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましい。当該個数平均粒径は、上塗り塗膜の断面の観察により確認することが可能であり、あるいは、画像解析法およびコールター法で(例えば、ベックマン・コールター社製 精密粒度分布測定装置「Multisizer4」を用いて)測定することが可能である。
【0047】
上記上塗り塗膜における上記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%である。当該含有量が多すぎると上塗り塗膜の光沢が低下し、加工部密着性が低下する。一方、少なすぎると光沢の調整ができず、いずれも所期の意匠性が得られないことがある。たとえば、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得る観点から、上塗り塗膜中における艶消し剤の含有量は、0.4体積%以上であることが好ましく、0.6体積%以上であることがより好ましい。また、上記の理由から、上塗り塗膜中における艶消し剤の含有量は、13体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましい。当該含有量は、上塗り塗膜の灰分の測定や上塗り塗膜の溶解による艶消し剤の回収、複数箇所での元素識別した断面像についての画像解析などによって確認することが可能である。
【0048】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、上記艶消し剤の含有量は、当該他の塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、艶消し剤の含有量は、意匠性、耐食性および加工性の観点から、0.4〜15体積%であることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%である。さらに、上記の観点から、0.1〜13体積%であることが好ましく、0.2〜11体積%であることがより好ましい。
【0049】
上記艶消し剤は、一次粒子である。当該一次粒子とは、その空隙に存在する物質(例えば水)が膨張したときに粒子を崩壊させうるような、細孔を有さない粒子を言う。当該一次粒子は、樹脂粒子であっても無機粒子であってもよく、後述する式を満足する範囲において、艶消し剤として用いられる公知の一次粒子から選ぶことができる。当該一次粒子の具体例には、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂からなる一次粒子(樹脂粒子);ガラス、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、アルミナ・シリカなどの無機化合物からなる一次粒子(無機粒子)である。これらの一次粒子の形状は、略球形であることが好ましいが、円柱形状や円板形状などの他の形状であってもよい。また、粒子の崩壊の起点となるような細孔でなければ、一次粒子の表面には、凹部などが存在してもよい。
【0050】
上記塗装金属板は、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)としたときに、下記式を満足する。
2.0≦D297.5/T≦7.0
【0051】
D297.5は、本発明の効果が得られる上記艶消し剤の粒径の実質的な指標となる。D297.5/Tが大きすぎると、上塗り塗膜の塗装時に艶消し剤を起因としたスジ引きなどが発生し、美麗な塗装外観が得られないことがあり、D297.5/Tが小さすぎると所期のテクスチャーが得られないことがある。
【0052】
たとえば、75°における光沢度が1〜25の塗装金属板を得る観点から、D297.5/Tは、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。また、たとえば、外装建材としての実使用年数が少なくとも10年以上である塗装金属板を得る観点から、D297.5/Tは、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。R2およびD297.5は、上記艶消し剤の個数粒度分布から求めることが可能である。
【0053】
また、塗装金属板が上塗り塗膜以外の他の塗膜を有する場合には、D297.5/Tは、当該他の塗膜の存在をさらに考慮して決めることが可能である。たとえば、塗装金属板が後述する下塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、D297.5/Tは、意匠性、耐食性および加工性の観点から、3.0〜7.0であることが好ましい。また、塗装金属板が下塗り塗膜と後述する中塗り塗膜と上塗り塗膜とを有する場合には、D297.5/Tは、0.5〜7.0である。さらに、上記の観点から、1.0〜6.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがより好ましい。
【0054】
上記上塗り塗膜は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、前述した樹脂、光沢調整剤および艶消し剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。たとえば、上塗り塗膜は、着色剤をさらに含有していてもよい。着色剤の例には、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤などの無機顔料;CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、CoCr、Mn、Co、SnZnTiなどの金属成分を含む複合酸化物焼成顔料;Alフレーク、樹脂コーティングAlフレーク、Niフレーク、ステンレスフレークなどのメタリック顔料;および、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラックなどの有機顔料;が含まれる。上記着色剤は、上記光沢調整剤に対して十分に小さく、例えば、上記着色剤の個数平均粒径は、0.01〜1.5μmである。また、上塗り塗膜における着色剤の含有量は、例えば、2〜20体積%である。
【0055】
また、上記上塗り塗膜は、体質顔料をさらに含有していてもよい。当該体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタンなどが含まれる。上記体質顔料は、上記光沢調整剤に対して十分に小さく、例えば、上記体質顔料の個数平均粒径は、0.01〜1μmである。また、上塗り塗膜における体質顔料の含有量は、例えば、0.1〜15体積%である。
【0056】
また、上記上塗り塗膜は、塗装金属板の加工時における上塗り塗膜でのカジリの発生を防止する観点から、潤滑剤をさらに含有していてもよい。当該潤滑剤の例には、フッ素系ワックス、ポリエチレン系ワックス、スチレン系ワックスおよびポリプロピレン系ワックスなどの有機ワックス、および、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤、が含まれる。上塗り塗膜における潤滑剤の含有量は、例えば、0〜10体積%である。
【0057】
上記上塗り塗膜は、上記金属板の表面や後述の下塗り塗膜の表面などに、上塗り塗膜用の塗料を塗布し、乾燥させ、必要に応じて硬化させる公知の方法によって作製される。上塗り塗膜用の塗料は、前述した上塗り塗膜の材料を含有するが、本実施の形態の効果が得られる範囲において、当該材料以外の他の成分をさらに含有していてもよい。
【0058】
たとえば、上塗り塗膜用の塗料は、硬化剤をさらに含有していてもよい。上記硬化剤は、上塗り塗膜を作製する際の硬化(焼付け)時に、前述のポリエステルまたはアクリル樹脂を架橋する。硬化剤の種類は、使用する樹脂の種類や焼付け条件などに応じて、前述した架橋剤や既知の硬化剤などから適宜選択することができる。
【0059】
上記硬化剤の例には、メラミン化合物、イソシアネート化合物およびメラミン化合物とイソシアネート化合物の併用などが含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。イソシアネート化合物は、芳香族、脂肪族、脂環族のいずれでもよく、例としては、m−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのブロック化合物が含まれる。
【0060】
また、上塗り塗膜は、上塗り塗膜用の塗料の貯蔵安定性に影響しない範囲内において、硬化触媒をさらに適宜含有していてもよい。上塗り塗膜中における上記硬化剤の含有量は、例えば、10〜30体積%である。
【0061】
また、上塗り塗膜は、耐候性を更に向上させるために10体積%以下の紫外線吸収剤(UVA)や光安定化剤(HALS)を適宜含有してもよい。さらには、上塗り塗膜は、雨筋汚れを防止するための親水化剤、例えば30体積%以下のテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物などを含んでいてもよい。
【0062】
上記塗装金属板は、本実施の形態における効果を奏する範囲において、さらなる構成要素を有していてもよい。たとえば、上記塗装金属板は、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性および耐食性を高める観点から、上記金属板および前記上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有することが好ましい。上記下塗り塗膜は、金属板の表面、あるいは上記化成処理皮膜が作製されている場合は、当該化成処理皮膜の表面、に配置される。
【0063】
上記下塗り塗膜は、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、エポキシ樹脂、ポリエステル、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびフェノキシ樹脂が含まれる。
【0064】
上記下塗り塗膜は、防錆顔料や、着色顔料、メタリック顔料、体質顔料などをさらに含有していてもよい。上記防錆顔料の例には、変性シリカ、バナジン酸塩、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、およびポリリン酸アルミニウムなどの非クロム系の防錆顔料やクロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウムなどのクロム系防錆顔料が含まれる。上記着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、コバルトグリーン、アニリンブラックおよびフタロシアニンブルーが含まれる。上記メタリック顔料の例には、アルミニウムフレーク(ノンリーフィングタイプ)、ブロンズフレーク、銅フレーク、ステンレス鋼フレークおよびニッケルフレークが含まれる。上記体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムが含まれる。
【0065】
上記の顔料の下塗り塗膜中における含有量は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、適宜に決めることが可能であり、例えば上記下塗り塗膜における上記防錆顔料の含有量は、例えば10〜70体積%であることが好ましい。
【0066】
また、上記塗装金属板は、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性および耐食性を高める観点から、上記下塗り塗膜および上記上塗り塗膜の間に中塗り塗膜をさらに有していてもよい。
【0067】
上記中塗り塗膜は、樹脂で構成される。当該樹脂の例には、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリエステル、ポリエステル変性シリコーン、アクリル樹脂、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニルが含まれる。上記中塗り塗膜も、上記下塗り塗膜と同様に、本実施の形態における効果が得られる範囲において、防錆顔料や着色顔料、メタリック顔料などの添加剤をさらに適宜に含有していてもよい。
【0068】
本実施の形態に係る塗装金属板は、クロメートフリーおよびクロメート系の塗装金属板である。「クロメートフリー」とは、上記塗装金属板が6価クロムを実質的に含有しないことを意味する。上記塗装金属板が「クロメートフリー」であることは、例えば、前述した金属板、化成処理皮膜、下塗り塗膜および上塗り塗膜のいずれにおいても、上塗り塗膜または下塗り塗膜を単独で作製した金属板から50mm×50mmの試験片4枚を切り出し、沸騰している純水100mLに10分間浸漬した後、当該純水中に溶出した6価クロムを、JIS H8625付属書の2.4.1の「ジフェニルカルバジッド比色法」に準拠する濃度の分析方法で定量したときに、検出限界以下であること、によって確認することが可能である。上記塗装金属板は、実使用において環境へ6価クロムを溶出せず、かつ、平坦部で十分な耐食性を発現する。なお、「平坦部」とは、上記金属板の上記上塗り塗膜で覆われており、曲げ加工、絞り加工、張り出し加工、エンボス加工、ロール成型等により変形していない部分を言う。
【0069】
上記塗装金属板は、艶消しの塗装金属板に好適である。艶消しとは、75°における光沢度が1〜25であることを言う。当該光沢度が高すぎると、エナメル調の光沢が優勢となり、艶消し観が得られないことがある。上記光沢度は、光沢調整剤および艶消し剤の平均粒径や上塗り塗膜におけるこれらの含有量などによって調整される。
【0070】
上記の塗装金属板は、上記樹脂、上記光沢調整剤および上記艶消し剤を含有する上塗り塗料を上記金属板上に塗布する第1の工程と、当該上塗り塗料の塗膜を硬化して上記上塗り塗膜を形成する第2の工程と、を含む。
【0071】
上記第1の工程において、上記上塗り塗料は、上記金属板の表面に直接塗布されてもよいし、上記金属板の表面に形成された上記化成処理皮膜に塗布されてもよいし、当該塗装金属板の表面または当該化成処理皮膜の表面に形成された上記下塗り塗膜に塗布されてもよい。
【0072】
上記上塗り塗料は、例えば、前述した上塗り塗膜の材料を溶剤中に分散することによって調製される。当該塗料は、溶剤や架橋剤などを含んでいてもよい。上記溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;セロソルブなどのエーテル;および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン;が含まれる。
【0073】
上記上塗り塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法によって塗布される。上記上塗り塗料の塗布量は、上塗り塗膜の所期の膜厚Tに応じて適宜に調整される。
【0074】
なお、前述のとおり、艶消し剤を上塗り塗膜に配合することにより、独特の意匠を発現するだけでなく、塗膜金属板の耐傷付き性も向上させることができる。この意匠および耐傷付き性を両立させるために、光沢調整剤のみを含み、艶消し剤を含まない塗膜よりも厚く塗装することが好ましい。また、上塗り塗膜に艶消し剤を配合することによって、塗料の不揮発成分の割合が増加するため、光沢調整剤のみを含み、艶消し剤を含まない塗膜より厚く塗装することが可能になる。
【0075】
上記上塗り塗料に含有される上記光沢調整剤は、前述した大きさの条件を満足する。上記上塗り塗料において上記光沢調整剤が前述の大きさの条件を満足しない場合には、上記上塗り塗料に、当該上塗り塗料中の粒子を粉砕する処理を施すことによって、上記条件を満足する上記上塗り塗料を得ることが可能である。上記の「粒子を粉砕する処理」の例には、ローラーミルによる処理が含まれる。より具体的には、艶消し剤を上塗り塗料に配合する前において、上記Ruが1.2Tを下回るように、当該ローラーミルのローラー間のクリアランスおよび処理時間を適切に設定することによって、処理を行う。その後、艶消し剤を配合することにより、上記条件を満足する上記上塗り塗料を得ることが可能である。
【0076】
上記第2の工程は、例えば、上記上塗り塗料を金属板に焼き付ける公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、第2の工程において、上塗り塗膜用の塗料が塗布された金属板は、その到達温度が200〜250℃となるように加熱される。
【0077】
上記塗装金属板の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した第1の工程および第2の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、化成処理皮膜を形成する工程、下塗り塗膜を形成する工程、および、中塗り塗膜を形成する工程、が含まれる。
【0078】
上記化成処理皮膜は、当該皮膜を形成するための水性化成処理液を、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの公知の方法で上記金属板の表面に塗布し、塗布後に上記金属板を水洗せずに乾燥させることによって形成することが可能である。当該金属板の乾燥温度および乾燥時間は、生産性の観点から、例えば、金属板の到達温度で60〜150℃、2〜10秒間であることが好ましい。
【0079】
上記下塗り塗膜は、下塗り塗膜用の塗料の塗布によって作製される。当該塗料は、溶剤や架橋剤などを含んでいてもよい。上記溶剤の例には、トルエン、キシレンなどの炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;セロソルブなどのエーテル;および、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン;が含まれる。また、上記架橋剤の例には、前述した樹脂を架橋する、メラミン樹脂やイソシアネート樹脂などが含まれる。下塗り塗膜用の塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。
【0080】
下塗り塗膜用の塗料は、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法で、1〜10μm(好ましくは3〜7μm)の乾燥膜厚が得られる塗布量で金属板に塗布される。当該塗料の塗膜は、例えば金属板の到達温度で180〜240℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
【0081】
上記中塗り塗膜も、下塗り塗膜と同様に、中塗り塗膜用の塗料の塗布によって作製される。当該塗料も、中塗り塗膜の材料以外に、上記溶剤や上記架橋剤などを含んでいてもよい。中塗り塗膜用の塗料は、前述した材料を均一に混合、分散させることによって調製される。中塗り塗膜用の塗料は、例えば上記の公知の方法で、当該塗料の乾燥膜厚と下塗り塗膜の膜厚との総和で1〜10μm(好ましくは3〜7μm)となる塗布量で下塗り塗膜に塗布されることが、加工性の観点から好ましい。当該塗料の塗膜は、例えば金属板の到達温度で180〜240℃の温度で金属板を加熱することにより金属板に焼き付けられ、作製される。
【0082】
上記塗装金属板の用途は、外装用が好適である。「外装用」とは、屋根、壁、役物、看板および屋外設置機器などの、外気に露出する部分であって、日光やその反射光に照射され得る部分に使用されることを言う。外装用の塗装金属板の例には、外装建材用の塗装金属板などが含まれる。
【0083】
上記塗装金属板は、曲げ加工、絞り加工、張り出し加工、エンボス加工、ロール成型などの公知の加工によって、外装建材などの外装建材に成形される。このように当該外装建材は、上記塗装金属板によって構成される。当該外装建材は、上記の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記外装建材は、当該外装建材の実使用における適切な設置に供される構成をさらに有していてもよい。このような構成の例には、外装建材を建物に固定するための部材や、外装建材同士を連結するための部材、および、外装建材の取り付け時の向きを示すマーク、断熱性を向上させるための発泡シートや発泡層などが含まれる。これらの構成は、前述の外装用塗装金属板に含まれていてもよい。
【0084】
上記塗装金属板では、上記光沢調整剤(細孔粒子)は、十分に上塗り塗膜中に閉じ込められる。また、上記上塗り塗膜中の光沢調整剤の、上塗り塗膜の膜厚方向における粒径は、その粒子形状が扁平であるほど、十分に小さくなりやすい。さらに、約97.5個数%、と大部分の上記光沢調整剤が、上塗り塗膜の膜厚Tに対して、「0.7T」と十分に小さな粒径かそれ以下の粒径を有する。よって、外装の用途での実使用によって上塗り塗膜の樹脂が上塗り塗膜の表面から徐々に減耗しても所期の使用年数以内であれば上記細孔粒子が露出しないように、上記の上塗り塗膜を設計することが可能である。
【0085】
一方、上記塗装金属板では、艶消し剤は、上塗り塗膜を構成する樹脂に覆われているものの、艶消し剤の少なくとも一部の粒子は、艶消し剤を含まない部分の上塗り塗膜の膜厚に対して大きい。そのため、所期の使用年数以内であっても外装の用途での実使用によって上塗り塗膜の樹脂が上塗り塗膜の表面から徐々に減耗したときに、上塗り塗膜から艶消し剤が表出することがある。このような状況において、上塗り塗膜に艶消し剤として細孔粒子を配合すると、上塗り塗膜の、艶消し剤が割れ、崩壊し、あるいは脱落した部分が腐食の起点となるおそれがある。このため、上記塗装金属板では、艶消し剤として一次粒子を配合する。よって、外装の用途での実使用によって上塗り塗膜の表面から上記一次粒子が表出しても、細孔粒子において生じるような割れや崩壊および上記上塗り塗膜からの脱落が防止され、雨水などの腐食因子が金属板に到達し得ない。
【0086】
したがって、所期の使用年数以内における上記光沢調整剤(細孔粒子)の割れや崩壊および上記上塗り塗膜からの脱落ならびに上記艶消し剤(一次粒子)の割れ、崩壊、および上塗り塗膜からの脱落が防止され、所期の使用年数の間、雨水などの腐食因子が金属板に到達し得ない。このため、上記塗装金属板は、クロメートフリーであれば(上記金属板が非クロメート防錆処理されていれば)、クロメート処理された従来の塗装金属板と少なくとも同等の平坦部耐食性を発現し、クロメート処理されていれば、クロメート処理された従来の塗装金属板と同等かそれ以上の平坦部耐食性を発現する。本実施の形態における塗装金属板の「クロメート処理」の例には、上記金属板のクロメート防錆処理の他に、クロメート系防錆顔料を含有する下塗り塗膜の採用、が含まれ、「クロメート処理された塗装金属板」の例には、非クロメート防錆処理された金属板とクロメート系防錆顔料を含有する下塗り塗膜とを有する塗装金属板、クロメート防錆処理された金属板とクロメート系防錆顔料を含有しない下塗り塗膜とを有する塗装金属板、および、クロメート防錆処理された金属板とクロメート系防錆顔料を含有する下塗り塗膜とを有する塗装金属板、が含まれる。
【0087】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態によれば、金属板と、当該金属板上に配置される上塗り塗膜とを有し、当該上塗り塗膜が細孔を有する粒子(細孔粒子)である光沢調整剤および一次粒子である艶消し剤を含有し、上記上塗り塗膜における上記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、当該光沢調整剤の個数平均粒径をR1(μm)、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)としたときに、下記式を満足することから、クロメートフリーであっても十分な平坦部耐食性を有する塗装金属板を提供することができる。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R1≧2.0
2.0≦D297.5/T≦7.0
13≦T≦20
【0088】
また、本実施の形態によれば、金属板と、前記金属板上に配置される中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有し、当該上塗り塗膜が細孔を有する粒子(細孔粒子)である光沢調整剤および一次粒子である艶消し剤を含有し、上記上塗り塗膜における上記光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、当該光沢調整剤の個数平均粒径をR1(μm)、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における上限粒径をRu(μm)としたときに、下記式を満足することから、クロメートフリーであっても十分な平坦部耐食性を有する塗装金属板を提供することができる。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R1≧1.0
0.5≦D297.5/T≦7.0
3≦T≦20
【0089】
また、上記RuがT未満であることは、塗装金属板の平坦部耐食性をより高める観点、あるいは、十分な平坦部耐食性を有する塗装金属板のさらなる長寿命化の観点、からより一層効果的である。
【0090】
また、上記金属板には非クロメート防錆処理が施されており、上記塗装金属板がクロメートフリーであることは、塗装金属板の使用または製造における環境の負荷を軽減する観点からより一層効果的であり、上記金属板にはクロメート防錆処理が施されていることは、塗装金属板の平坦部耐食性をさらに高める観点から、より一層効果的である。
【0091】
また、上記前記光沢調整剤がシリカ粒子であることは、所期の意匠性を有する塗装金属板を安価に製造する観点からより一層効果的である。
【0092】
また、上記塗装金属板が上記金属板および上記上塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有することは、塗装金属板における上塗り塗膜の密着性および耐食性を高める観点からより効果的であり、上記金属板および上記中塗り塗膜の間に下塗り塗膜をさらに有することは、上記の観点からより一層効果的である。
【0093】
また、上記塗装金属板の75°における光沢度が1〜25であると、所期の意匠性と十分な平坦部耐食性との両方を実現される。
【0094】
また、上記塗装金属板が外装用塗装金属板であることは、実使用時におけるクロムの溶出による環境への負荷を軽減する観点から、より一層効果的である。
【0095】
また、上記塗装金属板で構成されている外装建材は、クロメートフリーであっても10年間以上の実使用において優れた平坦部耐食性を奏することが可能である。
【0096】
また、前述した、上記金属板と、上記金属板上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法は、樹脂および光沢調整剤および艶消し剤を含有する上塗り塗料を上記金属板上に塗布する工程と、上記上塗り塗料の塗膜を硬化して上記上塗り塗膜を形成する工程と、を含み、上記上塗り塗膜における上記光沢調整剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.2〜15体積%であり、上記光沢調整剤は、細孔を有する粒子であり、前記艶消し剤は、一次粒子であり、上記光沢調整剤の個数平均粒径をR1(μm)、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布の上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する上記光沢調整剤および艶消し剤を用いる。よって、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板を提供することができる。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R1≧2.0
2.0≦D297.5/T≦7.0
13≦T≦20
【0097】
また、前述した、上記金属板と、上記金属板上に配置される中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に配置される上塗り塗膜とを有する塗装金属板を製造する方法は、樹脂および光沢調整剤および艶消し剤を含有する上塗り塗料を上記金属板上に塗布する工程と、上記上塗り塗料の塗膜を硬化して上記上塗り塗膜を形成する工程と、を含み、上記上塗り塗膜における上記光沢調整剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、前記上塗り塗膜における前記艶消し剤の含有量は、0.01〜15体積%であり、上記光沢調整剤は、細孔を有する粒子であり、前記艶消し剤は、一次粒子であり、上記光沢調整剤の個数平均粒径をR1(μm)、上記上塗り塗膜の膜厚をT(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布における97.5%粒子径をD197.5(μm)、前記艶消し剤の個数基準の累積粒度分布における97.5%粒子径をD297.5(μm)、上記光沢調整剤の個数粒度分布の上限粒径をRu(μm)、としたときに、下記式を満足する上記光沢調整剤および艶消し剤を用いる。よって、クロメートフリーであっても、クロメート防錆処理された金属板を含む塗装金属板と同等以上の優れた平坦部耐食性を有する塗装金属板を提供することができる。
D197.5/T≦0.7
Ru≦1.2T
R1≧1.0
0.5≦D297.5/T≦7.0
3≦T≦20
【0098】
上記製造方法において、上記上塗り塗料には、上記上塗り塗料中の粒子を粉砕する処理が施されていると、上塗り塗膜中に意図せずに不規則に存在する粗大粒子が上塗り塗料から実質的に除かれるので、塗装金属板の平坦部耐食性を高める観点からより一層効果的である。
【0099】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0100】
[塗装原板1〜5の作製]
両面付着量150g/mの溶融55%Al―Zn合金めっき鋼板をアルカリ脱脂した(塗装原板1)。次いで、当該めっき鋼板のめっき層の表面に、塗装前処理として、20℃の、下記非クロメート防錆処理液を塗布し、当該めっき鋼板を水洗することなく100℃で乾燥し、Ti換算で10mg/mの付着量の非クロメート防錆処理されためっき鋼板(塗装原板2)を得た。
(非クロメート防錆処理液)
ヘキサフルオロチタン酸 55g/L
ヘキサフルオロジルコニウム酸 10g/L
アミノメチル置換ポリビニルフェノール 72g/L
水 残り
【0101】
また、塗装原板2の表面に、エポキシ樹脂系の下記下塗り塗料を塗布し、上記めっき鋼板の到達温度が200℃となるように上記化成処理鋼板を加熱し、乾燥膜厚が5μmの下塗り塗膜を有するクロメートフリーの上記めっき鋼板(塗装原板3)を得た。
リン酸塩混合物 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
クリアー塗料 残り
【0102】
また、上記クロメートフリー処理液に代えてクロメート処理液である日本ペイント株式会社製の「サーフコートNRC300NS」(「サーフコート」は同社の登録商標)を用いて、クロム換算で20mg/mの付着量のクロメート防錆処理をし、次いで、上記クロメート防錆処理されためっき鋼板の表面に、エポキシ樹脂系の下記下塗り塗料を塗布し、上記めっき鋼板の到達温度が200℃となるように上記化成処理鋼板を加熱し、乾燥膜厚が5μmの下塗り塗膜を有するクロメート系の下塗り塗膜を有するめっき鋼板(塗装原板4)を得た。
クロム酸ストロンチウム 15体積%
硫酸バリウム 5体積%
シリカ 1体積%
クリアー塗料 残り
【0103】
なお、上記下塗り塗料において、上記クリアー塗料は、日本ファインコーティングス株式会社製「NSC680」である。また、上記下塗り塗料において、上記リン酸塩混合物は、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、および、トリポリリン酸アルミニウム、の混合物である。また、上記シリカは、体質顔料であり、その平均粒径は5μmである。さらに、上記体積%は、下塗り塗料中の固形分に対する割合である。
【0104】
また、塗装原板3の表面に、ポリエステル系の下記中塗り塗料を塗布し、上記めっき鋼板の到達温度が220℃となるように上記化成処理鋼板を加熱し、上記下塗り塗膜の上に、乾燥膜厚が5μmの中塗り塗膜を有するクロメートフリーの上記めっき鋼板(塗装原板5)を得た。
カーボンブラック 7体積%
シリカ粒子1 1体積%
ポリエステル系の塗料 残り
【0105】
上記ポリエステル系の塗料は、日本ファインコーティングス株式会社製の「CAクリアー塗料」であり、ポリエステル系の塗料(PE)である。カーボンブラックは着色顔料である。上記体積%は、上塗り塗料中の固形分に対する割合である。
【0106】
また、上記シリカ粒子1(シリカ1)は、例えば分級品またはその混合物であり、正規分布様の粒度分布を有する。シリカ粒子1の個数平均粒径R1は3.0μmであり、個数粒度分布におけるD197.5は6.1μmである。また、個数粒度分布における上限粒径Ruは、12.0μmである。
【0107】
下記の成分を下記の量で混合し、上塗り塗料を得た。
カーボンブラック 7体積%
シリカ粒子1 5体積%
アクリル粒子1 5体積%
クリアー塗料1 残り
【0108】
上記クリアー塗料1は、日本ファインコーティングス株式会社製の「CAクリアー塗料」であり、ポリエステル系の塗料(PE)である。カーボンブラックは着色顔料である。下記体積%は、上塗り塗料中の固形分に対する割合である。
【0109】
上記アクリル粒子1(アクリル1)は、正規分布様の粒度分布を有する。当該アクリル粒子1は、懸濁重合によって作製されており、前述の一次粒子に該当する。当該アクリル粒子1の個数平均粒径R2は、35μmであり、個数粒度分布におけるD297.5は50μmである。
【0110】
[塗装金属板1の作製]
上記上塗り塗料を塗装原板3の下塗り塗膜の表面に塗布し、塗装原板3における上記めっき鋼板の到達温度が220℃となるように塗装原板3を加熱し、乾燥膜厚Tが15μmの上塗り塗膜を作製した。こうして、塗装金属板1を作製した。
【0111】
なお、塗装金属板1を切断してその断面を露出させ、エポキシ樹脂の塊内に封入し、上記断面をさらに研摩し、当該断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、得られた複数箇所の画像を処理、分析することによって、シリカ粒子1およびアクリル粒子1の粒度分布を求めたところ、R1、R2、D197.5、D297.5およびRuは、上記の数値と実質的に同じであることが確認された。
【0112】
[塗装金属板2〜4の作製]
上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが13μmとなるように変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板2を作製した。また、上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが10μmとなるように変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板3を作製した。さらに、上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが22μmとなるように変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板4を作製した。
【0113】
[塗装金属板5〜8の作製]
上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子2を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板5を作製した。シリカ粒子2は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は8.2μmであり、D197.5は10.4μmであり、Ruは、18.8μmである。
【0114】
また、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子3を用いた以外は、塗装金属板2と同様にして、塗装金属板6を作製した。シリカ粒子3は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は5.5μmであり、D197.5は9.6μmであり、Ruは、10.8μmである。
【0115】
また、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子4を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板7を作製した。シリカ粒子4は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は3.7μmであり、D197.5は5.4μmであり、Ruは、7.0μmである。
【0116】
また、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子5を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板8を作製した。シリカ粒子5は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は0.7μmであり、D197.5は1.4μmであり、Ruは、2.0μmである。
【0117】
[塗装金属板9〜11の作製]
上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を0.1体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板9を作製した。また、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を13体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板10を作製した。また、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を20体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板11を作製した。
【0118】
[塗装金属板12の作製]
上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子1に代えてアクリル粒子2を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板12を作製した。アクリル粒子2は、懸濁重合によって作製されており、前述の一次粒子に該当する。アクリル粒子2のR2は10.0μmであり、D297.5は15.0μmである。
【0119】
[塗装金属板13の作製]
上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子1に代えてアクリル粒子3を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板13を作製した。アクリル粒子3は、懸濁重合によって作製されており、前述の一次粒子に該当する。アクリル粒子3のR2は80.0μmであり、D297.5は120.0μmである。
【0120】
[塗装金属板14の作製]
上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子1に代えてポリアクリロニトリル(PAN)粒子1を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板14を作製した。PAN粒子1は、スプレードライ法によって作製されており、前述の細孔粒子に該当する。PAN粒子1のR2は10.7μmであり、D297.5は33.0μmである。
【0121】
[塗装金属板15の作製]
上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子1に代えてアクリル粒子4を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板15を作製した。アクリル粒子4のR2は60.0μmであり、D297.5は70.0μmである。
【0122】
[塗装金属板16〜18の作製]
上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を0.1体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板16を作製した。また、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を13体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板17を作製した。また、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を20体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板18を作製した。
【0123】
[塗装金属板19、20の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板5に上塗り塗膜を形成し、上塗り塗膜中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子17を用い、上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが2.2μmとなるように変更した以外は、塗装金属板12と同様にして、塗装金属板19を作製した。シリカ粒子17は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は1.0μmであり、D197.5は1.4μmであり、Ruは、1.5μmである。
【0124】
上塗り塗膜中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子18を用い、上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが3μmとなるように変更した以外は、塗装金属板19と同様にして、塗装金属板20を作製した。シリカ粒子18は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は1.0μmであり、D197.5は2.0μmであり、Ruは、2.6μmである。
【0125】
[塗装金属板21の作製]
上塗り塗料の塗布量を、乾燥膜厚Tが20μmとなるように変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板21を作製した。
【0126】
[塗装金属板22〜25の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板5に上塗り塗膜を形成し、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を0.01体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板22を作製した。また、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を0.0005体積%に変更した以外は、塗装金属板22と同様にして、塗装金属板23を作製した。また、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を15体積%に変更した以外は、塗装金属板22と同様にして、塗装金属板24を作製した。さらに、上塗り塗料中のシリカ粒子の含有量を16体積%に変更した以外は、塗装金属板22と同様にして、塗装金属板25を作製した。
【0127】
[塗装金属板26の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板5に上塗り塗膜を形成し、上塗り塗膜中の艶消し剤に、アクリル粒子1に代えてアクリル粒子5を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板26を作製した。アクリル粒子5は、例えば分級品またはその混合物であり、R2は5.0μmであり、D297.5は7.2μmである。
【0128】
[塗装金属板27〜30の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板5に上塗り塗膜を形成し、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を0.01体積%に変更した以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板27を作製した。また、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を0.0005体積%に変更した以外は、塗装金属板27と同様にして、塗装金属板28を作製した。また、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を15体積%に変更した以外は、塗装金属板27と同様にして、塗装金属板29を作製した。さらに、上塗り塗料中のアクリル粒子の含有量を16体積%に変更した以外は、塗装金属板27と同様にして、塗装金属板30を作製した。
【0129】
[塗装金属板31〜33の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板1に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板31を作製した。また、塗装原板3に代えて塗装原板2に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板32を作製した。また、塗装原板3に代えて塗装原板4に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板33を作製した。
【0130】
[塗装金属板34、35の作製]
上塗り塗料のクリアー塗料1に代えてクリアー塗料2を用いた以外は塗装金属板1と同様にして、塗装金属板34を得た。当該クリアー塗料2は、日本ファインコーティングス株式会社製の「QKクリアー塗料」であり、ポリエステル系の塗料(PE)である。また、クリアー塗料1に代えてクリアー塗料3を用いた以外は塗装金属板1と同様にして、塗装金属板35を得た。当該クリアー塗料3は、日本ファインコーティングス株式会社製の「NSC3300クリアー塗料」であり、ポリエステル系の塗料(PE)である。
【0131】
[塗装金属板36、37の作製]
上塗り塗料のシリカ粒子1に代えてポリアクリロニトリル(PAN)粒子2を用いた以外は塗装金属板1と同様にして、塗装金属板36を得た。当該PAN粒子2は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は5.0μmであり、D197.5は7.6μmであり、Ruは、9.5μmである。また、上塗り塗料のシリカ粒子1に代えて炭酸カルシウム−リン酸カルシウム複合体(CaCPC)粒子を用いた以外は塗装金属板1と同様にして、塗装金属板37を得た。当該CaCPC粒子は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は5.0μmであり、D197.5は7.6μmであり、Ruは、9.5μmである。
【0132】
[塗装金属板38、39の作製]
また、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子6を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板38を作製した。シリカ粒子6は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は5.0μmであり、D197.5は7.6μmであり、Ruは、14.0μmである。
【0133】
また、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子7を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板39を作製した。シリカ粒子7は、例えば分級品またはその混合物であり、R1は7.5μmであり、D197.5は9.2μmであり、Ruは、14.8μmである。
【0134】
[塗装金属板40の作製]
上塗り塗料のアクリル粒子1に代えてガラス粒子を用いた以外は塗装金属板1と同様にして、塗装金属板40を得た。当該ガラス粒子は、前述の一次粒子に該当する。当該ガラス粒子のR2は20.0μmであり、D297.5は30.0μmである。
【0135】
[塗装金属板41〜43の作製]
塗装原板3に代えて塗装原板4に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板38と同様にして、塗装金属板41を作製した。また、塗装原板3に代えて塗装原板4に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板39と同様にして、塗装金属板42を作製した。また、塗装原板3に代えて塗装原板5に上塗り塗膜を形成する以外は、塗装金属板3と同様にして、塗装金属板43を作製した。
【0136】
[塗装金属板44、45の作製]
また、上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子5に代えてアクリル粒子6を用いた以外は、塗装金属板26と同様にして、塗装金属板44を作製した。アクリル粒子6は、例えば分級品またはその混合物であり、R2は10.0μmであり、D297.5は15.0μmである。
【0137】
また、上塗り塗料中の艶消し剤に、アクリル粒子5に代えてアクリル粒子7を用いた以外は、塗装金属板26と同様にして、塗装金属板45を作製した。アクリル粒子7は、例えば分級品またはその混合物であり、R2は5.0μmであり、D297.5は7.5μmである。
【0138】
[評価]
塗装金属板1〜45のそれぞれについて、下記の測定および試験を行った。
【0139】
(1)75°光沢度(G75)
塗装金属板1〜45のそれぞれの、JIS K5600−4−7(ISO 2813:1994)で規定される75°における鏡面光沢度(G75)を日本電色株式会社製 光沢計VG−2000によって測定した。
【0140】
(2)塗装外観
塗装金属板1〜45のそれぞれの、乾燥後の上塗り塗膜の外観を、以下の基準により評価した。
(評価基準)
G:光沢異常および塗膜欠陥が認められず、フラットであり、また艶消し外観が認められる
NG1:光沢が高すぎ、艶消し外観が得られない(光沢度が25より大きい)
NG2:塗膜時に、ワキが見られる
NG3:塗装時に、スジ引きが見られる
NG4:隠蔽性不足
【0141】
(3)耐傷付き性
塗装金属板1〜45のそれぞれに125μmφダイヤモンド針を使用し、400gの荷重を加えてクレメンス型引っ掻き試験を行い、下記の基準で評価した。
(評価基準)
G:素地(金属板)に到達する傷が認められない
NG:素地(金属板)に到達する傷が認められる
【0142】
(4)加工部密着性
塗装金属板1〜45のそれぞれに0T曲げ(密着曲げ)加工を施し、当該0T曲げ部のセロハンテープ剥離試験を行い、以下の基準により評価した。
(評価基準)
G:塗膜の剥離が認められない
NG:塗膜の剥離が認められる
【0143】
(5)平坦部耐食性
塗装金属板1〜45のそれぞれについて、まずJIS K5600−7−7(ISO 11341:2004)に規定されているキセノンランプ法促進耐候性試験を1,000時間行い、次いで、JIS H8502に規定されている「中性塩水噴霧サイクル試験」(いわゆるJASO法)を720時間行った。上記二つの試験の実施を1サイクルとし、塗装金属板1〜45のそれぞれについて、1サイクル(実使用の耐久年数が5年程度に相当)試験品と、2サイクル(実使用の耐久年数10年程度に相当)試験品のそれぞれを水洗し、目視、および、10倍ルーペによる拡大観察によって、塗装金属板の平坦部における塗膜の膨れの有無を観察し、以下の基準により評価した。
(評価基準)
A:膨れが認められない
B:拡大観察で僅かに微小な膨れが認められるが、目視では当該膨れが認められない
C:目視で膨れが認められる
【0144】
塗装金属板1〜45の、塗装原板の種類、光沢調整剤の種類、艶消し剤の種類、R1、R2、D197.5、D297.5、Ru、上塗り塗膜の樹脂の種類、T、光沢調整剤の含有量、艶消し剤の含有量、D197.5/Tの値、D297.5/Tの値、Ru/Tの値、および、実施例または比較例の別、を表1および表2に示す。また、塗装金属板1〜45の上記評価の結果を表3および表4に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
(4)平坦部耐食性
塗装金属板1、34、42および43のそれぞれについて、平坦部耐食性に係る前述の試験を3サイクル(実使用の耐久年数15年程度に相当)まで行い、3サイクル試験品のそれぞれを水洗し、目視、および、10倍ルーペによる拡大観察によって、塗装金属板の平坦部における塗膜の膨れの有無を観察し、前述の基準により評価した。結果を表5に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
[参考実験1]
シリカ粒子1から粒径R1’が0.7Tμm(T=15μm)以上の粒子を除去し、10.5μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子1を得た。これをシリカ粒子8とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子8を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板46を作製した。
【0152】
また、粒径R1’が0.8Tμm(12.0μm)以上の粒子を除去し、12.0μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Aを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Aを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、0.8T以下のシリカ粒子Aの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子(含有比率:97.5/2.5)を得た。これをシリカ粒子9とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子9を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板47を作製した。
【0153】
また、粒径R1’が0.9Tμm(13.5μm)以上の粒子を除去し、13.5μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Bを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Bを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、0.9T以下のシリカ粒子Bの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子10とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子10を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板48を作製した。
【0154】
また、粒径R1’が1.0Tμm(15.0μm)以上の粒子を除去し、15.0μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Cを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Cを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、1.0T以下のシリカ粒子Cの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子11とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子11を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板49を作製した。
【0155】
また、粒径R1’が1.1Tμm(16.5μm)以上の粒子を除去し、16.5μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Dを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Dを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、1.1T以下のシリカ粒子Dの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子12とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子12を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板50を作製した。
【0156】
また、粒径R1’が1.2Tμm(18.0μm)以上の粒子を除去し、18.0μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Eを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Eを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、1.2T以下のシリカ粒子Eの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子13とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子13を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板51を作製した。
【0157】
また、粒径R1’が1.3Tμm(19.5μm)以上の粒子を除去し、19.5μm以上の粒子を実質的に含まないシリカ粒子Fを別途用意し、97.5体積部のシリカ粒子8に2.5体積部のシリカ粒子Fを混合して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.5体積部と、1.3T以下のシリカ粒子Fの2.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子14とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子14を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板52を作製した。
【0158】
塗装金属板46〜52について、前述した方法で平坦部耐食性を評価した。塗装金属板46〜52の、塗装原板の種類、光沢調整剤の種類、艶消し剤の種類、R1、R2、D197.5、D297.5、カット値、添加したシリカ粒子の主成分の粒径R1’、上塗り塗膜の樹脂の種類、T、光沢調整剤の含有量、艶消し剤の含有量、二種のシリカ粒子の含有比率、および、平坦部耐食性の評価結果、を表6に示す。
【0159】
【表6】
【0160】
[参考実験2]
シリカ粒子13におけるシリカ粒子8とシリカ粒子Eとの含有比率を変更して、0.7T以下のシリカ粒子8の97.0体積部と、1.2T以下のシリカ粒子Eの3.0体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子15とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子15を用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板53を作製した。
【0161】
また、シリカ粒子13におけるシリカ粒子8とシリカ粒子Eとの含有比率を変更して、0.7T以下のシリカ粒子8の96.5体積部と、1.2T以下のシリカ粒子Eの3.5体積部とから構成されるシリカ粒子を得た。これをシリカ粒子16とする。そして、上塗り塗料中の光沢調整剤に、シリカ粒子1に代えてシリカ粒子16用いた以外は、塗装金属板1と同様にして、塗装金属板54を作製した。
【0162】
塗装金属板53、54について、前述した2サイクルの試験方法で平坦部耐食性を評価した。塗装金属板51、53および54の、塗装原板の種類、光沢調整剤の種類、艶消し剤の種類、R1、R2、D197.5、D297.5、カット値、添加したシリカ粒子の主成分の粒径R1’、上塗り塗膜の樹脂の種類、T、光沢調整剤の含有量、艶消し剤の含有量、二種のシリカ粒子の含有比率、および、平坦部耐食性の評価結果、を表7に示す。
【0163】
【表7】
【0164】
[参考実験3]
塗装金属板52の上塗り塗料を、艶消し剤を配合する前にシリカ粒子Fを粉砕する条件でローラーミルによって処理した以外は、塗装金属板52と同様にして、塗装金属板55を作製した。そして、塗装金属板55について、前述した方法で平坦部耐食性を評価したところ、1サイクルおよび2サイクルのいずれの判定もBであった。
【0165】
表1〜表4から明らかなように、塗装金属板1、2、7、10、15、17、20〜22、24、27、29および31〜45は、いずれも、艶消しの光沢の意匠性を有し、十分な加工部密着性および耐傷付き性を有し、かつ10年間の実使用に相当する平坦部耐食性を有している。
【0166】
これに対して、塗装金属板5、6および14は、平坦部耐食性が不十分であった。塗装金属板5、6の平坦部耐食性が不十分であったのは、上塗り塗膜の光劣化によって光沢調整剤が耐久試験中に上塗り塗膜から露出してしまったためであり、塗装金属板14の平坦部耐食性が不十分だったのは、上塗り塗膜の光劣化によって艶消し剤が耐久試験中に上塗り塗膜から露出してしまったため、と考えられる。
【0167】
また、塗装金属板8は、光沢が高すぎ、所期の意匠性(艶消し観)が得られなかった。これは、光沢調整剤の粒径が小さすぎたため、と考えられる。
【0168】
また、塗装金属板4は、上塗り塗膜の塗装時に、ワキが発生し、所期の意匠性が得られなかった。このため、平坦部耐食性の評価試験を行うに値しないと判断し、当該評価試験を実施しなかった。上記の意匠性が得られなかった理由は、上塗り塗膜の膜厚が厚すぎたため、と考えられる。
【0169】
また、塗装金属板13は、上塗り塗膜の塗装時に、スジ引きが発生し、所期の意匠性が得られなかった。そのため、平坦部耐食性の評価試験を行うことができなかった。これは、D297.5/Tが大きすぎたため、と考えられる。
【0170】
また、塗装金属板19は、隠蔽性が不足しており、すなわち上塗り塗膜の下地(中塗り塗膜)が目視で観察され得る程にしか上塗り塗膜の視認性が発現されておらず、所期の意匠性が得られなかった。このため、平坦部耐食性の評価試験を行うに値しないと判断し、当該評価試験を実施しなかった。上記の隠蔽性が不十分であった理由は、上塗り塗膜の膜厚が薄すぎ、かつ光沢調整剤の粒径が小さすぎたため、と考えられる。
【0171】
また、塗装金属板9、12、16、23、26および28は、光沢が高すぎ、所期の意匠性(艶消し観)が得られなかった。塗装金属板9、23の光沢が高すぎたのは、光沢調整剤の含有量が少なすぎて光沢が調整されなかったためであり、塗装金属板16、28の光沢が高すぎたのは、艶消し剤の含有量が少なすぎて光沢が調整されなかったためであり、塗装金属板12、26の光沢が高すぎたのは、D297.5/Tが小さすぎたため、と考えられる。
【0172】
また、塗装金属板11、18、25および30は、加工部密着性が不十分であった。そのため、平坦部耐食性の評価試験を行うことができなかった。塗装金属板11、25の加工部密着性が不十分であったのは、上塗り塗膜における光沢調整剤の含有量が多すぎたためであり、塗装金属板18、30の加工部密着性が不十分であったのは、上塗り塗膜における艶消し剤の含有量が多すぎたためである、と考えられる。
【0173】
また、塗装金属板3、12、16、19、26および28は、耐傷付き性が不十分であった。そのため、平坦部耐食性の評価試験を行うことができなかった。塗装金属板3、19の耐傷付き性が不十分であったのは、上塗り塗膜の膜厚が薄すぎたためであり、塗装金属板12、26の耐傷付き性が不十分であったのは、D297.5/Tが小さすぎたためであり、塗装金属板16、28の耐傷付き性が不十分であったのは、艶消し剤の含有量が少なすぎたため、と考えられる。
【0174】
また、塗装金属板31〜33および41〜43は、いずれも、塗装原板の種類によらず、所期の意匠性(艶消し)を発現するとともに、加工密着性、耐傷付き性および平坦部耐食性を十分に有していた。これは、平坦部耐食性が上塗り塗膜によってもたらされるため、と考えられる。
【0175】
また、塗装金属板34、35のいずれも、上塗り塗膜の樹脂の種類によらず、所期の意匠性(艶消し)を発現するとともに、加工密着性、耐傷付き性および平坦部耐食性を十分に有していた。これは、上塗り塗膜に用いられるのに十分な耐久性を有する樹脂であれば、平坦部耐食性は、上塗り塗膜を構成する樹脂の種類によらずに発現されるため、と考えられる。
【0176】
また、塗装金属板36〜39のいずれも、光沢調整剤の種類によらず、所期の意匠性(艶消し)を発現するとともに、加工密着性、耐傷付き性および平坦部耐食性を十分に有していた。これは、無機粒子または有機粒子の別を問わず、細孔を有する粒子であっても、上塗り塗膜の表面から露出しなければ、十分な平坦部耐食性が発現されるため、と考えられる。
【0177】
また、塗装金属板40、44および45も、艶消し剤の種類によらず、所期の意匠性(艶消し)を発現するとともに、加工密着性、耐傷付き性および平坦部耐食性を十分に有していた。これは、無機粒子または有機粒子の別を問わず、一次粒子であれば、十分な平坦部耐食性が発現されるため、と考えられる。
【0178】
また、表5から明らかなように、塗装金属板34、42および43は、いずれも、塗装金属板1よりも、平坦部耐食性をより長期間維持する。これは、塗装金属板34、42および43における塗装原板4が、下塗り塗膜にクロメート系防錆顔料を含有し、かつめっき鋼板にクロメート防錆処理が施されていることから、塗装金属板1における塗装原板1に比べて高い耐食性を有しているため、と考えられる。
【0179】
また、表6および表7から明らかなように、光沢調整剤が、上塗り塗膜の膜厚の1.2倍(1.2T)までの粒子であれば、0.7Tよりも大きな粒子を、0.7T以下の粒子の少なくとも2.5体積%までであれば含有していても、塗装金属板の平坦部耐食性に実質的な悪影響が及ぼされないことがわかる。これは、上塗り塗膜の膜厚Tに比べてわずかに大きい粒子は、その長径が上塗り塗料の塗布方向に沿う向きに配置されやすく、少量であれば、所期の使用期間、上塗り塗膜の樹脂によって十分に被覆され続けるため、と考えられる。
【0180】
また、光沢調整剤は、その粒度分布から外れた位置に検出されるような大きな粒子(粗大粒子)をわずかであるが含むことがある。このような粗大粒子は、表6から明らかなように、耐久使用中に上塗り塗膜から露出して、塗装金属板の平坦部耐食性を損なう原因となる、と考えられる。しかしながら、上記粗大粒子を含む上塗り塗料に適当な粉砕工程を施すと、十分な平坦部耐食性を有する塗装金属板が得られ得る。これは、上記粗大粒子が、上塗り塗料中で、塗装金属板が所期の平坦部耐食性を示すのに十分な程度まで小さく粉砕されるため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明に係る塗装金属板では、上塗り塗膜からの光沢調整剤の露出、崩壊および脱落、ならびに艶消し剤の露出、割れ、崩壊、および脱落に起因する平坦部での耐食性の低下が防止される。よって、外装の用途で長期にわたって使用されても所期の外観と耐食性を長期にわたって呈する塗装金属板が得られる。したがって、本発明によって、外装用の塗装金属板のさらなる長寿命化および利用のさらなる促進が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8