(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
交流磁場によって試料に誘導電流を発生させ、前記誘導電流を同期検波によって検出し、同期検波信号を得る電磁誘導測定を、未着磁の磁石材料よりなる評価試料に対して実行する評価試料測定工程と、
前記評価試料と同様に形成された複数の未着磁の標準試料に対して、前記電磁誘導測定を行う標準試料測定工程と、
前記複数の標準試料を着磁し、磁気特性値を測定する磁気特性値測定工程と、
前記複数の標準試料に対し、前記標準試料測定で得られた同期検波信号と、前記磁気特性値測定工程で得られた磁気特性値との間の関係性を見積もる対応工程と、
前記対応工程で見積もられた関係性に基づき、前記評価試料測定工程で前記評価試料に対して得られた同期検波信号から、前記評価試料の磁気特性値を見積もる評価工程と、を有することを特徴とする磁気特性評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、未着磁のまま出荷すべき磁石材料において、抜き取り検査によって着磁および磁気特性の評価を行う場合に、抜き取り検査を受けた個体においては着磁後に所定の磁気特性が得られていたとしても、実際に出荷等された抜き取り検査を受けていない個体において、着磁後に所定の磁気特性を発現しない事態が起こり得る。このように、着磁後に安定して良好な磁気特性を発現する磁石材料を、製造者が未着磁の状態で選別して出荷することは困難である。
【0007】
そこで、抜き取り検査ではなく、出荷する全製品に対して着磁を行い、磁気特性を評価し、良品を選別することが考えらる。この場合には、検査後の製品に対して脱磁を行ったうえで、出荷を行うことになる。このように、全製品に対して着磁、検査、脱磁の各工程を経て出荷を行うことは、多大な時間と労力、費用を要し、現実的ではない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、磁石材料が発現する磁気特性を簡便に評価することができる磁気特性評価方法および磁気特性評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気特性評価方法は、交流磁場によって試料に誘導電流を発生させ、前記誘導電流を同期検波によって検出し、同期検波信号を得る電磁誘導測定を、未着磁の磁石材料よりなる評価試料に対して実行する評価試料測定工程と、前記評価試料と同様に形成された複数の未着磁の標準試料に対して、前記電磁誘導測定を行う標準試料測定工程と、前記複数の標準試料を着磁し、磁気特性値を測定する磁気特性値測定工程と、前記複数の標準試料に対し、前記標準試料測定で得られた同期検波信号と、前記磁気特性値測定工程で得られた磁気特性値との間の関係性を見積もる対応工程と、前記対応工程で見積もられた関係性に基づき、前記評価試料測定工程で前記評価試料に対して得られた同期検波信号から、前記評価試料の磁気特性値を見積もる評価工程と、を有することを要旨とする。前記誘導電流の同期検波による検出は、前記誘導電流により発生する磁束を検出コイル(または前記交流磁場を発生させる励磁コイルと兼用のコイル)の起電力として測定することで、簡便に行うことができる。
【0010】
ここで、前記磁気測定値は、磁束量であることが好ましい。
【0011】
また、前記交流磁場は、励磁コイルに交流電流を流すことで発生され、前記誘導電流は、前記励磁コイルと兼用または別体の検出コイルに電磁誘導によって流れる電流を、前記励磁コイルに流した交流電流を基準として同期検波することで検出され、該同期検波によって検出された信号の実部の値を、前記対応工程および前記評価工程において、前記同期検波信号として用いることが好ましい。
【0012】
そして、前記対応工程において、所定範囲の磁気特性値に対応する同期検波信号の範囲を、良品範囲として設定し、前記評価工程において、前記評価試料の同期検波信号が前記良品範囲にあれば、前記評価試料を良品と評価するとよい。
【0013】
前記磁石材料は、熱間加工磁石の磁石材料であるとよい。
【0014】
本発明にかかる磁気特性評価装置は、交流磁場を発生させ、試料に印加する磁場発生手段と、前記試料において発生した誘導電流を同期検波によって検出する誘導電流検出手段と、を有し、上記のような磁気特性評価方法を実行することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる磁気特性評価方法においては、磁気特性を評価する対象ではない標準試料に対して、着磁を行い、着磁後の磁気特性を測定している。磁気特性を評価する対象である評価試料に対しては、着磁を行わず、未着磁の状態で電磁誘導測定を行うのみである。そして、標準試料を用いて得られた着磁後の磁気特性と未着磁状態での電磁誘導測定における同期検波信号との間の関係性に基づいて、評価試料において得られた同期検波信号から、着磁した後の評価試料の磁気特性を推定する。このように、評価前の着磁や測定後の脱磁を行うことなく、未着磁の磁石材料よりなる評価試料に対して、簡便に着磁後の磁気特性を評価することができる。工場等から出荷する全製品に対しても、大きな費用や長い時間を要さずに評価を行うことができるので、抜き取り検査を行う場合とは異なり、製造条件等のゆらぎがあっても、着磁後に所定の磁気特性を発現する良品を高確度に選別して出荷等に供することができる。
【0016】
ここで、磁気測定値が、磁束量である場合には、磁気特性値が、同期検波信号との間に良い相関性を示すため、評価試料の磁気特性を、精度良く評価することができる。
【0017】
また、交流磁場が、励磁コイルに交流電流を流すことで発生され、誘導電流が、励磁コイルと兼用または別体の検出コイルに電磁誘導によって流れる電流を、励磁コイルに流した交流電流を基準として同期検波することで検出され、該同期検波によって検出された信号の実部の値を、対応工程および評価工程において、同期検波信号として用いる場合には、試料に流れる誘導電流を、簡便に同期検波することができる。そして、そのようにして得られた実部の値は、虚部の値や絶対値に比べて、磁気特性値と良い相関性を示すので、実部の値を指標とすることで、評価試料の磁気特性値を、精度良く評価することができる。
【0018】
そして、対応工程において、所定範囲の磁気特性値に対応する同期検波信号の範囲を、良品範囲として設定し、評価工程において、評価試料の磁気特性値が良品範囲にあれば、評価試料を良品と評価する場合には、多数個体の磁石材料の中から、所望の範囲の磁気特性値を有する良品を簡便に選別し、出荷等に供することができる。
【0019】
磁石材料が、熱間加工磁石の磁石材料である場合には、熱間加工によって、均質な磁石材料が形成されやすいので、磁気特性と電磁誘導測定における同期検波信号との間に、良い相関性が得られる。これにより、評価試料の磁気特性を、精度良く評価することができる。
【0020】
上記発明にかかる磁気特性評価装置を用いれば、上記のような磁気特性評価方法を適用して、磁石材料の磁気特性を未着磁の状態のままで簡便に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態にかかる磁気特性評価方法および磁気特性評価装置について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
[磁気特性評価装置]
本発明の一実施形態にかかる磁気特性評価装置は、未着磁状態の試料Sに対して電磁誘導測定を行う電磁誘導測定装置1を有してなる。
図1および
図2に、本願発明の一実施形態にかかる電磁誘導測定装置1の構成を簡略に示す。
【0024】
本発明の一実施形態にかかる磁気特性評価装置に備えられる電磁誘導測定装置1は、
図1のように、励磁コイル11と検出コイル12の組合体である検査コイル10を有する。励磁コイル11は、中空部に略円筒状の試料Sを貫通させて配置することができる略円筒状のコイルよりなり、磁場発生手段として機能する。検出コイル12は、励磁コイル11の内側に、励磁コイル11と同軸に配置された略円筒状のコイルであり、誘導電流検出手段として機能する。このような励磁コイル11と検出コイル12を同軸に有し、電磁誘導を原理とする検出装置は、渦流探傷装置としても用いられており、従来の渦流探傷装置を電磁誘導測定装置1として転用することもできる。
【0025】
本電磁誘導測定装置1においては、
図2に示すように、発振器21によって励磁コイル11に交流電流を流す。そして、検出コイル12に流れた電流を、増幅器22を用いて増幅してから、検出電流として、同期検波回路23に入力する。同期検波回路23には、参照信号として、発振器21からの出力と、発振器21からの出力を90°の移相器24に通して位相を90°ずらした信号の2つを、参照信号として入力する。
【0026】
同期検波回路23においては、励磁コイル11に流した交流電流を基準として、増幅器22を介して検出コイル12から入力された検出電流を、同期検波(位相検波)する。具体的には、検出電流の波形を、2つの参照信号それぞれの電流波形に乗じて処理することで、検出電流の実部と虚部、つまり励磁に用いた交流電流と同位相の電流成分(抵抗成分)と位相が90°異なる電流成分(リアクタンス成分)とを、分離して、同期検波信号として検出する。さらに、実部と虚部の値から、検出電流の絶対値(振幅)と位相差を算出することができる。なお、増幅器22、同期検波回路23、移相器24としては、ロックインアンプ等として一体になったものを使用してもよい。
【0027】
本電磁誘導測定装置1で電磁誘導測定を行う試料Sは、後述するように、評価試料と標準試料であるが、いずれも未着磁の磁石材料よりなる。励磁コイル11内にこのような試料Sを配置した状態で励磁コイル11に交流を流すと、励磁コイル11の中空部内に交流磁場が発生する。そして、その交流磁場が試料Sに印加されることで、試料Sの表面に誘導電流(渦電流)が発生する。さらに、その誘導電流によって誘導磁場が形成され、その誘導磁場によって、検出コイル12に誘導電流が流れる。この検出コイル12に流れた誘導電流が、検出電流として、同期検波回路23によって同期検波されることになる。
【0028】
図3に、上で簡略に説明した電磁誘導測定装置1の具体的な構造を示す。
図3の電磁誘導測定装置1においては、架台16上に立設された支持部17の先端に、検査コイル10が固定されている。架台16上にはさらに、検査コイル10と同軸になるように、樹脂等の絶縁性材料よりなる位置決め治具13が立設されている。位置決め治具13は、先端に略円筒状の挿入部13aを有している。挿入部13aは、試料Sの円筒形の内径よりもわずかに小さい外径を有している。さらに、位置決め治具13は、挿入部13aの基端側に、試料Sの内径よりも大きい外径を有する抜け止め部13bを有している。抜け止め部13bの先端(挿入部13aと抜け止め部13bの境界)の位置は、検査コイル10の軸方向中央に試料Sを配置した際に、試料Sの下端部が達する位置に略一致している。
【0029】
架台16にはさらに、位置決め治具13の外側に、エアシリンダ等の昇降装置15が固定されている。そして、昇降装置15に磁石突出し治具14が連結されており、昇降装置15によって、磁石突出し治具14が、上下方向(検査コイル10の軸に沿った方向)に昇降運動される。磁石突出し治具14は、位置決め治具13の抜け止め部13bの外径よりもわずかに大きい内径を有する円筒形に形成されている。磁石突出し治具14は、昇降装置15によって下降された状態において、先端の位置が、位置決め治具13の抜け止め部13bの先端の位置と略一致するようになっている。
図3は、この磁石突出し治具14が下降された状態を示している。
【0030】
以上のような構成を有することで、
図3に示すように、挿入部13aの先端を試料Sの円筒部に貫通させるようにして位置決め治具13に試料Sを取り付けておき、位置決め治具13を昇降装置15によって下降させた状態とすると、試料Sは、検査コイル10の中空部内で、検査コイル10の軸方向および軸に垂直な方向の中央の位置において、位置決め治具13の抜け止め部13bおよび磁石突出し治具14の先端面によって安定に支持された状態となる。これにより、測定ごとの試料Sの位置の不一致や測定中の試料位置の経時変動等の影響を低減して、電磁誘導測定を高い精度および再現性で行うことができる。一方、位置決め治具13が昇降装置15によって上昇された状態において、試料Sは、検査コイル10の中空部から抜け、検査コイル10の上方に配置された状態となる。これにより、電磁誘導測定装置1への試料Sの取付けや試料Sの交換を容易に行うことができる。試料Sの取付けや交換を自動化することもできるので、大量生産された磁石材料の各個体に対して、自動的に電磁誘導測定を順次行うことが容易となる。
【0031】
上記のように、本電磁誘導測定装置1は、試料Sに交流磁場を印加し、それによって試料Sに発生した誘導電流を検出するものであり、従来一般の渦流探傷装置の測定部を転用することができる。上記電磁誘導測定装置1と同様の構成に限らず、交流磁場を発生させ、その交流磁場によって試料Sに発生した誘導電流を同期検波できるものであれば、いかなる装置でも適用することができる。
【0032】
例えば、上記電磁誘導測定装置1においては、略円筒型の励磁コイル11と検出コイル12よりなる検査コイル10の中空部に、略円筒形の試料Sを貫通させて測定を行ったが、試料Sが板状の場合に、検査コイル10を扁平な略角筒状とし、その内部に試料Sを貫通させるようにすればよい。このように、試料Sを貫通させる検査コイル10の形状は、試料Sの形状に合わせて、試料S全体において高い均一性をもって磁場の印加および検出を行えるように、任意に選択すればよい。また、それらのように、中空筒状の検査コイル10の内部に貫通させて試料Sを配置する貫通コイル式の電磁誘導測定装置のみならず、
図4に示したように、プローブ式の電磁誘導測定装置1’とすることもできる。つまり、試料Sの表面の一部の領域に、試料Sに接触させないように、検査コイル10を含む検査プローブ10’を配置し、その領域に対して電磁誘導測定を行う形態とすることができる。なお、測定誤差を排除する観点から、貫通コイル式、プローブ式のいずれにおいても、試料Sの端部を避け、中央部近傍で測定を行うことが好ましい。
【0033】
さらに、上記電磁誘導装置1のように、検査コイル10において、検出コイル12を励磁コイル11と別体として設ける必要はなく、単一のコイルを励磁コイル11および検出コイル12として兼用し、励磁と検出の両方を行ってもよい。この場合は、試料Sにおける電磁誘導によってコイルを流れる交流に与えられる変調成分を、同期検波によって検出すればよい。このような単一のコイルを用いる形式は、特にプローブ式の電磁誘導測定装置1’において好適に用いることができる。
【0034】
[磁気特性評価方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる磁気特性評価方法について説明する。本発明者らは、磁石材料に対して未着磁の状態で電磁誘導測定を行って得た同期検波信号と、着磁後の磁気特性値の間に、良い相関性があることを見出した。そして、未着磁の磁石材料に対して電磁誘導測定を行うことで、実際に着磁することなしに、着磁後の磁気特性値を見積もる本磁気特性評価方法を構築した。
【0035】
本評価方法は、未着磁の磁石材料に対する電磁誘導測定を同期検波にて行うことができる電磁誘導測定装置を備えた磁気特性評価装置を用いて実行する。ここでは、上記で説明した電磁誘導測定装置1を備えた磁気特性評価装置を用いて、ある評価試料の着磁後の磁束量(フラックス)を評価する場合について説明する。
【0036】
本評価方法においては、電磁誘導測定を行う試料Sとして、磁気特性を評価すべき対象である評価試料の他に、評価試料の磁気特性を測定するための参照として、複数の標準試料を使用する。評価試料、標準試料とも、着磁することで永久磁石となる磁石材料である。標準試料は、評価試料と同様に形成された磁石材料である。つまり、製造誤差の範囲内で、評価試料と同じ成分組成で、そして同じ製造方法によって製造された、複数の磁石材料である。評価試料、標準試料とも、未着磁の状態で準備しておき、電磁誘導測定を行う。後述するように、着磁後の磁石材料の磁気特性は、磁石材料の製造誤差の範囲内でばらつくが、評価の精度を高める観点から、複数の標準試料は、着磁後の磁気特性ができる限り広い範囲に分布するように選択することが好ましい。
【0037】
本評価方法においては、(1)評価試料測定工程、(2)標準試料測定工程、(3)磁気特性値測定工程、(4)対応工程、(5)評価工程の各工程を実行する。それぞれについて順次説明する。
【0038】
(1)評価試料測定工程
まず、製品として出荷する磁石材料等、磁気特性評価の対象である評価試料を、未着磁の状態で準備し、試料Sとして、電磁誘導測定装置1を用いて同期検波による電磁誘導測定を行う。その結果として、検出コイル12から出力された検出電流の、実部と虚部の値が得られる。ここでは、実部の値を記録しておく。
【0039】
(2)標準試料測定工程
次に、複数の標準試料のそれぞれに対して、未着磁の状態で、試料Sとして、上記工程(1)と同じ電磁誘導測定装置1を用いて、同じ条件にて、電磁誘導測定を行う。そして、それぞれの標準試料について得られた検出電流の実部の値を記録しておく。ここで、電磁誘導測定装置1が、
図3に示したような位置決め治具13を有していることで、評価試料と標準試料の間、そして各標準試料の間で、測定条件が変化するのが防止される。
【0040】
(3)磁気特性値測定工程
次に、磁気特性値測定工程において、複数の標準試料のそれぞれを同じ条件で着磁する。ここで、着磁の条件は、実際の磁石製品となる評価試料が着磁される際に想定される条件と揃えておく。着磁は、静磁場やパルス磁場等を用いて適宜行えばよい。
【0041】
次に、着磁した各標準試料に対して、磁気特性値として、磁束量の測定を行い、記録する。磁束量の測定は、フラックスメータ等、公知の測定装置を用いて行うことができる。この際、評価精度を向上させる観点から、得られた磁束量が、製品となる評価試料を着磁した際に要求される磁束量の範囲の内側と外側の両方に分布しているのを確認しておくことが好ましい。なお、以上の(1)〜(3)の各工程は、任意の順序で実行して構わない。
【0042】
(4)対応工程
次に、対応工程において、標準試料に対して、上記(2)標準試料測定工程の電磁誘導測定で得られた実部の値と、上記(3)磁気特性値測定工程で得られた磁束量の値の関係性を見積もる。つまり、各標準試料個体について計測された実部の値と、磁束量の値を対応させ、未着磁状態の電磁誘導測定において、ある実部の値が得られた時に、着磁後の磁束量がどのような値になるか、という対応関係を見積もる。
【0043】
図5に、上記特許文献1に開示されるのと同様の熱間加工されたNd−Fe−B系磁石材料よりなる複数の標準試料に対して、未着磁の状態の電磁誘導測定で得られた実部の値と、着磁後に得られた磁束量との関係を示す。磁束量は、mWb・Tを単位として示しており、Tは磁束量測定に用いるフラックスメータのサーチコイルの巻き数Tを示している。
図5によると、電磁誘導測定の実部の値が大きくなるほど、磁束量が小さくなっており、未着磁状態の電磁誘導測定の実部の値と、着磁後の磁束量の値の間には、強い線形の相関が存在することが分かる。これは、未着磁状態における電磁誘導測定で得られた実部の値を指標として、着磁後の磁束量を予測し、見積もり可能であることを意味している。
【0044】
このようにして、(4)対応工程において、未着磁の状態で同期検波による電磁誘導測定で得られた実部の値と、着磁後の磁束量との間の関係性を見積もる。ここで、複数の標準試料に対して得られた測定点と測定点の間の領域に相当する実部の値に対しては、線形補間等の補間操作を適宜行って、対応する磁束量の値を算出してもよいし、
図5に実線で示すように、カーブフィッテングを行って、実部の値と磁束量の間の対応式を算出してもよい。
図5では、対応式として一次式を用いているが、測定点の分布に応じて、任意の数学式を用いればよい。
【0045】
さらに、上記で得られた実部の値と磁束量の関係性に基づいて、出荷等する製品となる評価試料を着磁した際に要求される所定の磁束量の範囲に対応する実部の値の範囲を、良品範囲として設定しておくことが好ましい。
図5では、このように規定した良品範囲を、2本の破線の間の領域として示している。
【0046】
(5)評価工程
最後に、評価工程において、(4)対応工程で標準試料に対して見積もられた未着磁状態の電磁誘導測定の実部の値と着磁後の磁束量との関係性に基づき、(1)評価試料測定工程で未着磁の評価試料に対する電磁誘導測定で得られた実部の値から、着磁後の評価試料の磁束量を見積もる。具体的には、着磁後の評価試料の磁束量が所定の許容される範囲に収まっているかどうかを判定するために、(4)対応工程で実部の値と磁束量の関係性に基づいて設定した良品範囲の中に、(1)評価試料測定工程で得られた評価試料の実部の値が入っているかどうかを判定する。評価試料の実部の値が良品範囲に入っている場合には、評価試料が、所定の許容範囲の磁束量を着磁後に獲得する蓋然性が高い良品であると判定することができる。一方、評価試料の実部の値が良品範囲に入っていない場合には、評価試料が、所定の許容範囲の磁束量を着磁後に有さない蓋然性が高い不良品であると判定することができる。さらに、評価試料が良品か不良品かの選別のみならず、着磁後の評価試料の磁束量を数値として予測することが求められる場合には、(1)評価試料測定工程で得られた実部の値を、
図5に実線で示した一次式のような実部の値と磁束量との関係に当てはめ、評価試料を着磁した場合の磁束量を算出すればよい。
【0047】
以上のような各工程を有する本磁気特性評価方法においては、評価試料に対して着磁を行うことなく、着磁しない状態で電磁誘導測定を行うのみで、着磁後の磁束量を見積もっている。このような見積もりの信頼性は、
図5に示すように、未着磁状態における同期検波を用いた電磁誘導測定の結果と着磁後の磁束量との間に強い相関性があることによって、保証される。
【0048】
磁石材料を着磁して得られる磁石が所望の性能を発揮するかどうかは、着磁後の磁石において発現される磁束量をはじめとする磁気特性が所定の範囲内にあるかどうかに大きく依存する。しかし、製造される磁石材料においては、組織中の結晶粒の大きさ等、制御しきれないばらつきが個体ごとに不可避的に存在する。それらの着磁前の磁石材料における不可避的なばらつきは、磁束量をはじめとした着磁後に発現される磁気特性に大きなばらつきを与える可能性がある。出荷する磁石材料が所望の性能を発揮するかどうかを判定するためには、個別の磁石材料を着磁し、その磁気特性を測定することが、最も直接的である。しかし、磁石材料を着磁しない状態で出荷等に供する場合に、全個体に対して一旦着磁して検査を行うならば、着磁したうえで検査し、その後再度脱磁するという工程に、膨大な時間と費用を要し、現実的に実行することは極めて困難である。従来一般に行われているように、全個体のうち一部のみを抜き取って着磁し、検査を行う場合には、検査に要する時間や費用を節減することはできるが、全個体における磁気特性の不可避的なばらつきを検出することが困難となる。これに対し、本製造方法においては、評価試料を着磁することなく着磁後の評価試料の磁気特性を推定するため、着磁および脱磁に要する時間と費用を省略して、全個体に対して検査を行い、磁気特性が所定範囲となる個体を簡便かつ高確度に選別することが可能となる。特に、上記
図3で示したような自動化に適した電磁誘導測定装置1を用いて、評価試料の交換と測定を自動で行えるようにすれば、大量生産される磁石材料に対し、全個体の検査を効率的に実施することができる。
【0049】
未着磁状態の磁石材料における結晶粒の大きさ等、微視的な構造上および組成上のばらつきは、着磁後の磁石材料の磁気特性に大きな影響を与えても、未着磁状態の磁石材料において計測される諸物性には顕著な影響を与えない場合も多く、未着磁の状態でそれらのばらつきを検出することは容易ではない。しかし、本評価方法においては、磁石材料の表面で発生する誘導電流を、微小な変化に敏感な同期検波によって検出しており、上記のような微視的なばらつきに起因する誘導電流への影響を高感度に検知することができる。特に、上記の
図3で示したような、位置決め治具13を用いて再現性よく電磁誘導測定を行うことができる電磁誘導測定装置1を用いることで、磁石材料表面の誘導電流における微小な変化を一層高精度に検出することができる。
【0050】
電磁誘導測定を行う際に、励磁コイル11から磁石材料に磁場が印加されることにはなるが、この磁場は交流磁場であり、しかも着磁に用いる磁場に比べて、無視しうる程度の大きさしか有さないため、電磁誘導測定を経ることで評価試料が磁化されることはない。例えば、上記
図5の例で用いたようなNd−Fe−B系磁石材料の着磁は、30〜50kOe(約2500〜4000kA/m)程度の磁場で行われるのに対し、電磁誘導測定時には、例えばφ50mm、100ターンの励磁コイルに1Aの交流電流を流して測定を行う場合に、試料に印加される交流磁場は、2kA/mあるいはそれよりも小さいと見積もられ、着磁時の磁場の1/1000以下となっている。なお、励磁コイル11に流す交流電流の周波数は、同期検波測定で十分な精度で検出可能な信号を得る観点から、例えば100Hz〜10kHzとされる。
【0051】
上記では、評価対象の磁気特性値として、磁束量を採用しており、
図5のように、着磁後の磁束量が、未着磁状態の電磁誘導測定の結果との間に良い相関性を有することを確認した。しかし、磁束量以外にも、着磁後の磁石材料において発現される種々の磁気特性値を、本磁気特性評価方法によって評価することができる。この場合、(3)磁気特性評価工程において、着磁後の標準試料に対し、磁束量の代わりに、所望の磁気特性値を測定し、以降の工程に用いればよい。磁束量以外の評価可能な磁気特性値としては、透磁率、保磁力、残留磁束密度等を挙げることができる。
【0052】
また、上記では、電磁誘導測定において、励磁コイル11に流される交流電流の波形を基準として検出コイル12に流れる電流を検出した同期検波信号に含まれる情報のうち、実部の値を指標として、着磁後の磁気特性の評価を行っているが、指標として用いる情報は、実部の値(x)に限られない。他に、虚部の値(y)、絶対値(z=(x
2+y
2)
1/2)、位相差(θ)等の情報を用いることができる。下の表1に、単一の電磁誘導測定で得られた実部x、虚部y、絶対値zのそれぞれと磁束量との間の対応関係を線形近似した際に得られる、相関係数Rの二乗値R
2を示す。なお、ここで用いている電磁誘導測定および着磁後の磁束量の測定結果は、
図5に示したのとは別の試料の組を用いて測定したものである。
【0054】
表1によると、実部xや絶対値zを用いる場合に、虚部yを用いる場合よりも、着磁後の磁束量との間に良い相関性が得られていることが分かる。特に、実部xを用いる場合に、良い相関性が得られている。これは、実部に比べて、虚部の方が検査コイル10に対する測定位置の影響等、測定条件のゆらぎの影響を受けやすいことによる。絶対値も、虚部成分を含むことから、測定位置の影響をある程度受けやすい。このように、電磁誘導測定の実部を指標として用いることで、精度よく着磁後の評価試料の磁気特性を見積もることができる。
【0055】
上記のように、本磁気特性評価方法は、磁化することで永久磁石となるいかなる磁石材料に対しても適用することができる。つまり、熱間加工磁石、焼結磁石のいずれの磁石材料に対しても適用することができる。しかし、焼結磁石の場合には、焼結時に表面が酸化等の変質を受ける場合が多く、こうした表面の変質は、同期検波を用いた電磁誘導測定において、検出される信号に大きな変調を与える。よって、着磁後の磁気特性に影響するような結晶粒の大きさのばらつき等に由来する信号を埋もれさせて、検出しにくくしてしまう可能性がある。これに対し、熱間加工磁石の場合には、熱間加工によって、均質な磁石材料が形成されやすく、酸化のような表面の変質も受けにくい。よって、本磁気特性評価方法は、焼結磁石よりも、熱間加工磁石に適用する場合の方が、高精度に着磁後の磁気特性の評価を行うことができる。また、同様に、磁石材料表面の傷等も同期検波を用いた電磁誘導測定の結果に大きな影響を与えるので、磁石材料は、熱間加工以外に、研磨等の機械加工を受けていない方が好ましい。
【0056】
以上のように、本磁気特性評価方法は、着磁後に大きな残留磁束密度を与えるために、着磁せずに検査して出荷することが好ましい熱間加工磁石に対して、着磁後の磁気特性を予測するのに、特に好適に用いることができる。そのような磁気特性に優れた熱間加工磁石として、例えば、上記特許文献1に記載されているような磁石、具体的には、Nd−Fe−B系等、R−T−B系(Rは希土類金属であり、R:28〜30質量%、B:0.85〜1.10質量%、T鉄族遷移金属)の成分組成を有する異方性熱間押出加工磁石を挙げることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。