【実施例1】
【0010】
鉄道システムにとって、計画ダイヤ通りに列車が運行することが望ましいが、台風や、特別なイベントにより駅構内が非常に混雑する場合、踏切での事故や架線への異物付着などにより、列車の運行に遅延が発生してしまうことがある。遅延が発生してしまった場合、計画ダイヤに対して、前方在線列車とは間隔があいてしまい、後方在線列車とは逆に間隔が詰まってしまうため、通常よりも遅延列車に乗客が集中してしまい、後方在線列車は遅延列車に集中した乗客の分だけ乗客が少なくなり、列車運行の効率が低下し、一方乗客にとっても利便性が低下することになる。本発明では、遅延が発生した場合、前方在線列車と後方在線列車の両
車との関係を考慮して、複数の列車間で遅延時間を分散させることで、輸送効率の低下を防ぐことがポイントである。
【0011】
図1は、本実施例の運行管理装置を含む全体の概要図の例である。本実施例では、自動運転を行う列車を想定し、列車は運行管理装置からの指示により自動的に発車することができる。
【0012】
列車101は、軌道109を走行する車両である。本発明においては、編成数は複数である必要はなく、1両の車両であってもよい。列車101は、軌道109の地理データを持っており、地理データには駅の位置、および駅間走行距離のデータが格納されている。
【0013】
地上子105、地上子106は、駅間の軌道(第三軌条でもよい)上、もしくは近辺に設置され、列車101が通過時に通信を行う。列車101は、図示しない速度発電機などの走行距離を測定する手段を備えており、地上子105や地上子106から得られる絶対位置情報と、速度発電機から得られる地上子からの相対距離情報により、自列車の位置を認識することができる。
【0014】
運行管理装置108は、列車101をはじめとする制御対象とする複数の列車からの列車位置情報を取得する。各列車から位置情報と速度情報を受信して停車した位置を取得し、ダイヤ情報と比較することで、各列車の駅への到着時刻と各列車の遅延を算出することができる。そして、駅に停車しているとき、現在の停車駅(
図1では駅103)と次の停車駅(
図1では駅104)の駅間走行時分を列車101に送信する。さらに、必要に応じ、指定の時間だけ出発を抑止させる抑止時分を対象の列車に送信する。
【0015】
列車101は、駅間走行距離を受信した駅間走行時分で走行するために最適な速度を計算し、その速度にしたがって走行を開始する。例えば、列車101は、現在の停車駅から次の停車駅の間を走行するときの時間と速度の関係を示す走行曲線であって、現在の停車駅から次の停車駅に到着するまでの時間を受信した駅間走行時分とし、この走行曲線の現在の停車駅から次の停車駅に到着するまでの時間の積分が駅間走行距離と等しくなる走行曲線を作成し、これに従って速度を制御する。また、抑止時分を受信したときは、抑止時分だけ出発を抑止する。
図9に、走行曲線の例を示す。
【0016】
無線機102、及び無線機107は、列車、及び地上側に備えられる無線手段であり、列車の位置情報や、駅間走行時分などを列車101と運行管理装置108間で通信することができる。ただし、本発明は当該手段に限定されるものではなく、軌道回路や地上子を介して情報のやりとりを行ってもよい。例えば、駅に到着したことを検知するのは、車上側で行っても良いし、駅付近に軌道回路や地上子を設置し、駅に列車が侵入したことを検知して地上装置に送信してもよい。
【0017】
図2は、本実施例の運行管理装置108の構成の例である。
【0018】
ダイヤ情報203は、停車駅の位置情報、および、予め計画されている計画ダイヤを保管するデータベースである。
【0019】
列車位置情報取得部202は、ダイヤ情報203から取得する停車駅の位置情報と、無線機107を介して得られる各列車の位置情報と速度情報に基づき、各列車の到着した駅、及び到着時刻を検出する。
【0020】
遅延算出部204は、各列車について、到着した駅及び実際の到着時刻を列車位置情報取得部202から取得し、ダイヤ情報203より取得する計画ダイヤから、列車が到着した駅に計画ダイヤ上到着する計画上の到着時刻を取得し、実際の到着時刻と計画上の到着時刻の差分を求め、これを各列車の遅延時分として算出する。また、列車間の相対遅延時分を算出する。
仮抑止時分出力部206は、遅延算出部204より取得する列車間の相対遅延時分を制御対象の列車の暫定抑止時分として出力する。
【0021】
列車抑止指示部205は、暫定抑止時分を抑止時分とし、駅間走行時分、抑止時分をI/O部201に転送し、制御対象列車に送信させる。
【0022】
I/O部201は、無線機107を介して、各列車の位置情報、および、速度情報を受信し、列車位置情報取得部202に出力し、また、駅間走行時分、抑止時分を無線機107を介して制御対象列車に送信する。
【0023】
図3は、本実施例の運行管理装置108が制御対象列車(以下、自列車)より位置情報、および、速度情報を受信したときの処理のフローを示す図である。
【0024】
S301では、列車位置情報取得部202は、自列車から受信した速度情報に含まれる自列車の速度を調べる。自列車の速度が0であり停車を示すとき、S302へ移る。それ以外のときはS304へ移る。
【0025】
S302では、列車位置情報取得部202は、自列車から受信した位置情報を元に、自列車が停車した位置が、ダイヤ情報203から取得するいずれかの停車駅の位置情報の範囲内にあるか調べる。自列車の停車位置がいずれかの停車駅の位置情報の範囲内にある場合は、S303へ移り、それ以外のときはS304へ移る。
【0026】
S303では、運行管理装置108は、制御情報算出処理を実行し、その後、S304へ移る。
【0027】
S304では、遅延算出部204は、自列車の位置情報を記憶し、S305へ移る。
【0028】
S305では、運行管理装置108は、本処理を終了する。
【0029】
図4は、本実施例の制御情報算出処理のフローを示す図である。
【0030】
本処理では、駅停車時分と許容遅れ時分とを予め決めておく。例えば、駅停車時分は90秒、許容遅れ時分はダイヤ上の列車の時間間隔で最短のものとする。
【0031】
S401では、遅延算出部204は、自列車のダイヤ情報203から、現在の停車駅と次の停車駅の間の駅間走行時分を求める。求めた駅間走行時分と規定の駅停車時分を現在の停車駅への実際の到着時刻に加えて、通常の次駅着時刻を算出し、S402へ移る。
【0032】
S402では、遅延算出部204は、現在の停車駅への実際の到着時刻と、ダイヤ情報による計画上の到着時刻の差を自列車の遅延時分として算出して記憶し、S403へ移る。
【0033】
S403では、遅延算出部204は、自列車の遅延時分が規定の許容遅れ時分未満ならばS404へ移る。自列車の遅延時分が範囲外ならばS406へ移る。
【0034】
S404では、遅延算出部204は、記憶している他の列車の位置情報があれば、その中で、自列車の前方で最も近くに在線している列車(以下、前方在線列車)と、自列車の後方で最も近くに在線している列車(以下、後方在線列車)を探す。前方在線列車が存在し、その遅延時分を記憶していれば、その遅延時分を前方在線列車の遅延時分とし、記憶していなければ前方在線列車の遅延時分を0とする。前方在線列車が存在していなければ、前方在線列車の遅延時分を0とする。後方在線列車が存在し、その遅延時分を記憶していれば、その遅延時分を後方在線列車の遅延時分とし、記憶していなければ後方在線列車の遅延時分を0とする。後方在線列車が存在していなければ、後方在線列車の遅延時分を0とする。
【0035】
さらに、遅延算出部204は、自列車の遅延時分と前方在線列車の遅延時分と後方在線列車の遅延時分から、自列車の相対遅延時分を算出する。まず、前方在線列車の遅延時分と後方在線列車の遅延時分の内、大きい方を選択し、他列車の遅延時分とする。同じであるときは前方在線列車の遅延時分を他列車の遅延時分とする。自列車の相対遅延時分は、自列車の遅延時分より他列車の遅延時分が大きいときはこれらの遅延時分の差、それ以外は0とする。その後、S405へ移る。
【0036】
S405では、仮抑止時分出力部206は、遅延算出部204から取得した自列車の相対遅延時分を暫定抑止時分として出力し、S406へ移る。
【0037】
S406では、列車抑止指示部205は、抑止時分が確定していない場合は、抑止時分を0とする。さらに、遅延算出部204から現在の停車駅と次の停車駅の間の駅間走行時分を取得する。その後、駅間走行時分、本処理により求めた抑止時分をI/O部201へ転送し、I/O部201はこれらを列車へ通知し、S407へ移る。
【0038】
S407では、制御情報算出処理を終了する。
図5は、
図4で説明した抑止時分の算出方法を具体的に説明する図であり、本発明のポイントとなる部分である。
【0039】
図5の上部は、駅と列車を模式的に示したものである。ある区間内において、駅511〜515の5つの駅があり、当該区間内を列車501〜504が運行中の場合を示す。
【0040】
図5の中部は、各列車の遅延状況を示すものであり、列車501は遅延なし(
図5の下部の表のA列1行)、列車502は4分の遅延(
図5の下部の表のB列1行)、列車503は3分の遅延(
図5の下部の表のC列1行)、列車504は1分の遅延(
図5の下部の表のD列1行)であるものとする。また、許容遅れ時分を5分と予め定め、当該許容遅れ時分より超えないように制御することが望まれるものとする。
【0041】
列車501は、前方在線列車不在のため、前方在線列車の遅延を0分とする(
図5の下部の表のA列2行)。後方在線列車は列車502であるため、後方在線列車の遅延は列車502の遅延4分とする(
図5の下部の表のA列3行)。これらの前方在線列車の遅延と後方在線列車の遅延の内、大きいのは後方在線列車の遅延であり、自列車の遅延より大きいため、後方在線列車の遅延と自列車の遅延の差4分を相対遅延時分とする(
図5の下部の表のA列4行)。
【0042】
列車501から列車504についても同様に相対遅延時分を求める(
図5の下部の表のB列4行からD列4行)。これらの相対遅延時分を抑止時分とする。
【0043】
以上のように各列車に抑止時分を設定し相対遅延時分を分散させることにより、遅延により列車が密集している先頭の列車のみに乗客が集中するのを防ぎ、列車運行全体としての輸送効率の低下を低減させることができる。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、実施例1における相対遅延時分の算出方法を変更する。それ以外は実施例1と同じである。
【0045】
実施例1では、
図4のS404において、遅延算出部204が自列車の相対遅延時分を算出するとき、前方在線列車の遅延時分と後方在線列車の遅延時分の内、大きい方を選択し、他列車の遅延時分とした。それに対し、実施例2では、
図4のS404において、遅延算出部204が自列車の相対遅延時分を算出するとき、前方在線列車の遅延時分と後方在線列車の遅延時分の平均を他列車の遅延時分とする。
図6は、本実施例における抑止時分の算出方法を具体的に説明する図であり、本発明のポイントとなる部分である。駅の位置、列車の位置、各列車の遅延状況は
図5と同じとする。
【0046】
列車501は、前方在線列車不在のため、前方在線列車の遅延を0分とする(
図6の下部の表のA列2行)。後方在線列車は列車502であるため、後方在線列車の遅延は列車502の遅延4分とする(
図6の下部の表のA列3行)。この前方在線列車の遅延と後方在線列車の遅延の平均である2分と自列車の遅延0分の差である2分を列車501の相対遅延時分とする(
図6の下部の表のA列4行)。
【0047】
列車501から列車504についても同様に相対遅延時分を求める(
図6の下部の表のB列4行からD列4行)。これらの相対遅延時分を抑止時分とする。
【0048】
以上のように各列車に抑止時分を設定し相対遅延時分を分散させることにより、遅延により列車が密集している先頭の列車のみに乗客が集中するのを防ぎ、列車運行全体としての輸送効率の低下を低減させることができ、かつ、実施例1に比べ列車の遅延を抑制することができる。
【実施例3】
【0049】
実施例3では、実施例1における抑止時分の算出方法を変更する。それ以外は実施例1と同じである。
【0050】
図7は、本実施例の制御情報算出処理のフローを示す図である。以下この図を用いて説明する。
図7のS400、S401、S402、S403、S406、S407は
図4のものと同じである。
【0051】
本処理では、抑止率を予め決めておく。例えば、抑止率は50%とする。
【0052】
S405では、仮抑止時分出力部206は、遅延算出部204から取得した自列車の相対遅延時分に抑止率を乗じて、暫定抑止時分を算出し、S408へ移る。
【0053】
S408では、列車抑止指示部205は、遅延算出部204から取得した通常の次駅着時刻にS405で算出した暫定抑止時分を加えた時刻と、ダイヤ情報による計画上の次駅への到着時刻の差を、自列車の次駅予想着遅れ時分とし、S409へ移る。
【0054】
S409では、列車抑止指示部205は、S408で求めた次駅予想着遅れ時分が許容遅れ時分未満ならばS410へ移る。それ以外の場合はS411へ移る。
【0055】
S410では、列車抑止指示部205は、S405で求めた暫定抑止時分を、自列車に対する抑止時分として確定し、S406へ移る。
【0056】
S411では、列車抑止指示部205は、遅延算出部204から自列車の遅延時分を取得し、許容遅れ時分から自列車の遅延時分を引いた値を、自列車に対する抑止時分として確定し、S406へ移る。
図8は、本実施例における抑止時分の算出方法を具体的に説明する図であり、本発明のポイントとなる部分である。駅の位置、列車の位置、各列車の遅延状況は
図5と同じとする。
【0057】
列車501は、前方在線列車不在のため、前方在線列車の遅延を0分とする(
図8の下部の表のA列2行)。後方在線列車は列車502であるため、後方在線列車の遅延は列車502の遅延4分とする(
図8の下部の表のA列3行)。これらの前方在線列車の遅延と後方在線列車の遅延の内、大きいのは後方在線列車の遅延であり、自列車の遅延より大きいため、後方在線列車車の遅延と自列車の遅延の差4分を相対遅延時分とする(
図8の下部の表のA列4行)。この相対遅延時分に抑止率50%を乗じた2分を暫定抑止時分とする(
図8の下部の表のA列5行)。
【0058】
通常の次駅着時刻は、駅間走行時分と規定の駅停車時分を現在の停車駅への実際の到着時刻に加えたものであり、ダイヤ情報による計画上の次駅への到着時刻に自列車の遅延を加えた時刻に等しい。次駅予想着遅れ時分は、通常の次駅着時刻に暫定抑止時分を加えた時刻と、ダイヤ情報による計画上の次駅への到着時刻の差であり、ダイヤ情報による計画上の次駅への到着時刻に自列車の遅延と暫定抑止時分を加えた時刻から、ダイヤ情報による計画上の次駅への到着時刻を引いたものに等しく、自列車の遅延と暫定抑止時分の和になる。
図8の列車501においては、自列車の遅延は0分であり、暫定抑止時分は2分であるので、次駅予想着遅れ時分は2分となり、許容遅れ時分の5分未満となるので、抑止時分は暫定抑止時分と同じ2分になる。
【0059】
列車502、列車503、列車504のいずれも、自列車の遅延と暫定抑止時分の和は許容遅れ時分未満となるので、暫定抑止時分がそのまま抑止時分になる(
図8の下部の表のB列5行〜D列5行)。
【0060】
以上のように各列車に抑止時分を設定し相対遅延時分を分散させることにより、遅延により列車が密集している先頭の列車のみに乗客が集中するのを防ぎ、列車運行全体としての輸送効率の低下を低減させることができ、かつ、実施例1に比べ列車の遅延を抑制することができる。
【0061】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明する為に詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置換することも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。例えば、1両の車両や、複数の車両から成る編成列車のいずれに適用可能であり、またモノレール等軌道上を走行し、無線で制御を行う移動体システムに適用しても本発明の効果は得られる。また、各構成を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。