【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の斜め柱の設置方法は、軸線が鉛直に対して傾斜した状態の斜め柱を天端面が水平面に対して傾斜した基礎上に設置する方法であり、
前記基礎の構築位置の付近において前記斜め柱を保持しながら組み立てる工程と、
この斜め柱の組み立て工程と並行し、前記基礎の構築位置と同一水準の上面上に、この上面から前記斜め柱が前記基礎上に設置されたときの、前記斜め柱の軸方向の中間部が接触し得る高さを有し、前記斜め柱を支持する支持部材を設置する工程と、
完成した前記斜め柱を吊り上げて前記斜め柱の下端を前記基礎の天端上に移動させ、この天端に、前記斜め柱の傾斜方向に回転自在に連結する工程と、
前記斜め柱を吊り支持したまま、前記斜め柱を前記支持部材側へ傾斜させ、前記支持部材に支持させる工程と、
前記斜め柱の下端部を前記基礎に接合する工程を含むことを構成要件とする。
【0010】
斜め柱が組み立てられる「基礎の構築位置の付近」とは、
図1−(a)、(b)に示すように斜め柱1の組み立てが完了した後、例えば斜め柱1の全体を吊り上げたまま、斜め柱1の脚部が基礎2の天端面上に移行するまでの移動を同一の揚重機が行える範囲内の場所を言う。
図1−(a)、(b)では完成直後の斜め柱1と傾斜状態の斜め柱1を二点鎖線で示している。請求項1における「斜め柱を組み立てる」とは、「斜め柱を完成させる」の意味であり、斜め柱1の構成材がない状態から斜め柱1を組み立てる、あるいは製作することと、基礎2の構築位置付近、または工場において予め、後述の下柱1Aと上柱1Bを含む斜め柱構成材を製作し、基礎2の構築位置付近において斜め柱構成材を組み合わせ、斜め柱1を完成させることを含む。
【0011】
斜め柱1が鉛直に対し、傾斜して基礎2上に設置されることは、特許文献1のように例えば架構のスパン方向、もしくは桁行方向に配列する斜め柱1の頂部を同一直線上に配列させながらも、脚部を地盤面、または地盤面を含む下部構造の条件から平面上、頂部と同一位置に配置できないような場合に生じる。
【0012】
斜め柱1は基礎2の構築位置の付近において組み立てられ、全長分が完成させられた後、吊り支持され、基礎2の天端上に移動させられる。斜め柱1は組み立て中と完成後の基礎2上への移動のための吊り上げまで常に、
図1−(a)、(b)に示すように斜め柱1の周囲に仮設で構築される支保工4に転倒等に対して安定的に保持される。支保工4は予め完成する斜め柱1の全長分の高さを有する場合と、斜め柱1の組み立てに伴い、上方へ積み上げられる場合がある。
【0013】
斜め柱1の組み立て作業と並行し、基礎2上に載置された後に傾斜させられた、完成後の斜め柱1を傾斜状態に保持する支持部材3の設置、もしくは構築作業が行われる。「並行して」とは、支持部材3の設置作業が斜め柱1の組み立て作業と同時に行われる場合と、斜め柱1の組み立て作業と前後して行われる場合があることを言う。請求項1における「工程を含む」とは、各工程が請求項1に記載の上位の工程から順次、下位の工程へ向けて独立して遂行される場合と、複数の工程が並行し、相前後して進行する場合があることを意味する。
【0014】
支持部材3が設置される面である「基礎2の構築位置と同一水準」とは、斜め柱1を基礎2に接合するまで、あるいは斜め柱1の頂部に屋根架構7が接合されるまでの間、斜め柱1を支持する支持部材3の設置場所が斜め柱1の脚部が接合される基礎2の構築位置と同等のレベルに位置することを言い、例えば基礎2と支持部材3が共に地盤面10上に、または地盤面10上に構築された底版11上に構築されるようなことを言う。
【0015】
特許文献1では構造物全体を下部構造と上部構造に区分したときの下部構造がレベルの低い底面部と、それより幾らかレベルが高い周辺の法面部とに区分され、柱の脚部が法面部に設置されているが、本発明では斜め柱1を支持する基礎2と支持部材3が共に特許文献1で言う同一水準の下部構造に設置されることに該当する。「同一水準の上面」とは、同一の地盤面10上、もしくは底版11上、または床面上等であり、特許文献1で言えば、下部構造の同一上面上を指す。以下、「基礎2の構築位置と同一水準の上面」を「地盤面10」に代表させ、「上面上」を地盤面10等上と言う。
【0016】
「基礎2の構築位置と同一水準の上面から斜め柱1が設置されたときの、斜め柱1の軸方向の中間部が接触し得る高さを有し」とは、
図3に示すように地盤面10等上から、斜め柱1が鉛直に対して傾斜した状態で基礎2上に設置されたときの軸方向中間部までに亘る高さを支持部材3自身が有することを言う。または支持部材3の頂部に接続され、斜め柱1を直接、保持、あるいは支持する支持部31が支持部材3の、斜め柱1の軸方向中間部が接触し得る高さに接続される場合があることを言う。支持部材3は地盤面10等上から連続して構築されるか、積み上げられて地盤面10等上に設置される。設置は構築を含む。「上面上に支持部材3を設置する」とは、支持部材3が地盤面等10上で完成することを言う。支持部材3は前記のように斜め柱1の基礎2への接合までの間、または斜め柱1の頂部への屋根架構7の接合までの間、傾斜状態の斜め柱1を支持する役目を果たす。
【0017】
斜め柱1は軸方向に一定の長さを持った柱ユニット(斜め柱構成材)を軸方向に連結(接合)し、一体化させることを繰り返すことにより全長が組み立てられることもあるが、斜め柱1を1本の柱として完成させる上では、柱ユニット同士は柱ユニット間で曲げモーメントとせん断力の伝達が可能な状態に接合されている必要があることから、柱ユニットの数が多ければ、斜め柱1の完成までに時間を要することになる。
【0018】
そこで、斜め柱1を組み立てる工程において、斜め柱1の全長を軸方向に下柱1Aと上柱1Bに2分割し、下柱1Aと上柱1Bをそれぞれ予め製作しておけば(請求項2)、斜め柱1の組み立て位置での柱ユニットの連結数を最小の1回に抑えることができるため、斜め柱1の組み立て効率を向上させることが可能になる。この場合、鉛直に保持された下柱1A上に上柱1Bを載置し、下柱1Aに軸方向に接合して斜め柱1として一本化させ、この一本化した斜め柱1を鉛直に支持したまま、基礎2の天端上に吊り込むことが行われる(請求項2)。
【0019】
斜め柱1の完成後、斜め柱1は揚重機により吊り上げられ、
図1−(a)、(b)に示すように組み立て位置から基礎2の天端上へ移動させられ、天端上に載置される。斜め柱1は例えば上端部の一箇所において、または上端部、もしくは上端部以外の部分を含む複数箇所において吊り支持される。
【0020】
斜め柱1は基礎2天端上への載置時に、天端上で最終的な立設状態である傾斜状態に移行できるよう、吊り上げられている鉛直状態のときに、
図4−(a)に示すように傾斜状態へ回転自在な状態に、基礎2の天端に連結される。「鉛直状態のときに傾斜状態へ回転自在な状態」とは、斜め柱1が吊り上げられたまま、斜め柱1の下端が基礎2に連結されたときに、斜め柱1の下端(ベースプレート1a)が基礎2の天端面に沿い、(b)に示すように軸線が傾斜する状態にまで移行できることを言う。
【0021】
斜め柱1の下端の基礎2天端への連結時には、
図4−(a)に示すように傾斜側と反対側である、支持部材3から遠い側の端部を基礎2の天端に水平軸回りに回転自在に連結することが行われる(請求項4)。基礎2天端の「傾斜側(支持部材3に近い側)」は基礎2天端の内、レベルの低い側を指し、「反対側(支持部材3から遠い側)」はレベルの高い側を指す。「水平軸」は斜め柱1が鉛直状態から傾斜状態に移行するときの回転軸である。
【0022】
斜め柱1の下端は例えば斜め柱1の下端に一体化したベースプレート1aの、レベルの高い側の端部が
図5−(a)に示すように基礎2天端上のレベルの高い側に、水平軸の方向に沿って直線状に配列した接合材24に連結されることにより水平軸回りに回転自在に連結される。接合材24は基礎2天端上に定着され、ベースプレート1aを受ける定着プレート21のレベルの高い側に固定されており、ベースプレート1aの、レベルの高い側の端部には接合材24に重なる被接合材1bが固定されている。
【0023】
斜め柱1の下端を基礎2の天端に回転自在に連結した後、斜め柱1は吊り支持されたまま、支持部材3側へ傾斜させられ、支持部材3に支持される。斜め柱1が支持部材3に支持された後、
図3−(b)、
図5に示すように斜め柱1の下端が基礎2の天端に接合される。斜め柱1の下端の基礎2天端への接合によって斜め柱1の設置作業は終了する。
【0024】
斜め柱1下端の基礎2天端への接合によって斜め柱1の設置作業は終了するが、斜め柱1の上端部(頂部)には屋根架構7が直接、もしくは屋根架構7に一体化した梁部材が接合され、斜め柱1の使用状態では屋根架構7の鉛直荷重と水平荷重を斜め柱1が負担するため、斜め柱1の上端部への屋根架構7の接合が完了するまでは、支持部材3は斜め柱1を支持した状態に置かれることが適切である。
【0025】
斜め柱1が基礎2に接合され、斜め柱1の基礎2への設置が完了した状態では、斜め柱1は屋根架構7を支持することから、支持部材3は斜め柱1を介して間接的に屋根架構7を支持するため、斜め柱1の基礎2への接合後の屋根架構7との接合の完了までは、上記のように傾斜した斜め柱1を支持部材3に支持させ続けることができる。すなわち、斜め柱1を基礎2上へ設置した後にも支持部材3に支持させたまま、
図7、
図8に示すように頂部において屋根架構7に接合し、斜め柱1が屋根架構7を支持する状態に移行させることができる。
【0026】
例えば斜め柱1の基礎2への接合後に、支持部材3を斜め柱1から離脱させ、支持部材3による斜め柱1の支持が解除されれば、斜め柱1の脚部は自重による転倒モーメントに抵抗できるだけの構造を持つ必要がある。これに対し、斜め柱1の基礎2への接合後にも斜め柱1を支持部材3に支持させ続けたまま、斜め柱1の頂部が屋根架構7に接合されることで、斜め柱1の自重による転倒しようとする力を屋根架構7に負担させることができるため、斜め柱1の脚部を自重による転倒モーメントに抵抗できるだけの構造にする必要が生じず、斜め柱1を自重に対して安定させた状態で基礎2に接合した状態に保つことができる。
【0027】
斜め柱1は
図8に示すように傾斜した方向に対向する斜め柱1と対になった状態で屋根架構7に接続されることで、屋根架構7の鉛直荷重の内、対向する斜め柱1、1を転倒させようとする水平成分が相殺され、屋根架構7で負担されるため、斜め柱1、1の頂部に屋根架構7が接合された後には、斜め柱1は主に自重と屋根架構7の荷重による軸方向力と曲げモーメントを負担すればよくなる。屋根架構7の接合後に斜め柱1が主に軸方向力と曲げモーメントを負担すればよく、自重による転倒モーメントの負担から解放されることで、屋根架構7の接合後には支持部材3による斜め柱1の支持を解除することができる。斜め柱1、1への屋根架構7の接合前には各斜め柱1には自らを転倒させようとする自重による力が作用するため、斜め柱1は前記のように支持部材3による支持を受けることが適切である。
【0028】
斜め柱1は鉛直に対して傾斜した状態で基礎2上への立設状態になることから、屋根架構7との接合の前後を問わず、斜め柱1が基礎2上に設置された時点から、斜め柱1の軸方向中央部には鉛直方向下向きに斜め柱1の自重が作用するため、支持部材3がなければ、斜め柱1は常に基礎2への接合部回りに転倒する状態にある。従って支持部材3は少なくともこの斜め柱1の自重による斜め柱1を転倒させようとする力に抵抗できる必要がある。
【0029】
ここで、支持部材3が軸線を鉛直方向に向けて立設された状態で斜め柱1を支持するとすれば、斜め柱1の自重の、軸線に垂直な成分が支持部材3を支持部材3の脚部の回りに回転させようとするモーメントを作用させるため、支持部材3の脚部はモーメントに抵抗し得る状態に地盤面10等上に接合されている必要がある。そこで、支持部材3の軸線が斜め柱1の傾斜方向と反対側に傾斜した状態で、支持部材3を地盤面10等上に設置すれば(請求項3)、斜め柱1の自重の、斜め柱1の軸線に垂直な成分の多くを支持部材3の軸方向力として負担させることができるため、支持部材3の脚部を鉛直の場合程、モーメントに抵抗可能な状態に地盤面10等上に接合する必要がなくなる。
【0030】
斜め柱1の自重の、軸線に垂直な成分は斜め柱1の軸線に垂直な方向を向くから、支持部材3の軸線が斜め柱1の軸線に垂直な方向を向く場合が理論上は最も効率的に斜め柱1の自重の、軸線に垂直な成分を軸方向力として負担できるため、脚部に生じるモーメントを小さくできる。但し、支持部材3の軸線と斜め柱1の軸線が共に鉛直状態から互いに逆向きに傾斜した状態にあれば、支持部材3の脚部のモーメントを低減できるため、支持部材3の軸線の水平面に対する傾斜角度は問われない。