(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インフルエンザウイルスにさらされている又は感染している対象の肺における、インフルエンザ感染肺胞マクロファージ、インフルエンザ感染好中球及び/又はインフルエンザ感染上皮細胞の蓄積を予防又は低減するのに用いるII型膜貫通セリンプロテアーゼ(TTSP)阻害剤を含んでなる医薬組成物であって、
TTSP阻害剤は、膜貫通プロテアーゼセリンS1部材2(TMPRSS2)阻害剤であり、
TTSP阻害剤は、TMPRSS2を特異的に結合しそしてそのタンパク質分解活性を阻害する完全ヒト抗体又はその抗原結合フラグメントであり、
抗体又はその抗原結合フラグメントは、TMPRSS2のプロテアーゼ活性を阻害するが、いかなるその他のTTSPのプロテアーゼ活性を実質的に阻害しない、上記医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】野生型マウス(「WT、」黒四角)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO、」黒丸)が、750PFUのH1N1インフルエンザウイルスを接種され、そして感染後いくつかの時点で体重変化パーセント(パネルA)及び生存パーセント(パネルB)で評価された、4つの異なる試行(trial)(それぞれ、試行1〜4)の結果を描写する。
【
図2】野生型マウス(「WT、」黒四角)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO、」黒丸)が、750PFUのH1N1インフルエンザウイルスを接種され、そして感染後いくつかの時点で体重変化パーセント(パネルA)及び生存パーセント(パネルB)で評価された、4つの異なる試行(trial)(それぞれ、試行1〜4)の結果を描写する。
【
図3】野生型マウス(「WT、」黒四角)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO、」黒丸)が、750PFUのH1N1インフルエンザウイルスを接種され、そして感染後いくつかの時点で体重変化パーセント(パネルA)及び生存パーセント(パネルB)で評価された、4つの異なる試行(trial)(それぞれ、試行1〜4)の結果を描写する。
【
図4】野生型マウス(「WT、」黒四角)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO、」黒丸)が、750PFUのH1N1インフルエンザウイルスを接種され、そして感染後いくつかの時点で体重変化パーセント(パネルA)及び生存パーセント(パネルB)で評価された、4つの異なる試行(trial)(それぞれ、試行1〜4)の結果を描写する。
【
図5】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT、」白抜き棒(open bar))及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO、」網掛け棒)で観察される、体重変化パーセント(パネルA)及び肺ウイルス負荷(パネルB)を示す。
【
図6】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)で観察される体重変化パーセントを、対応する非感染WT及び非感染KOマウスで観察される体重変化パーセントと併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスの体重変化パーセントを表す。
【
図7】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺におけるCD45
+CD19
+(パネルA)及びCD45
+CD3
+(パネルB)細胞の頻度(frequency)を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺におけるCD45
+CD19
+及びCD45
+CD3
+細胞の頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された(indicated)細胞型の頻度を表す。
【
図8】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺におけるCD45
+CD4
+(パネルA)及びCD45
+CD8
+(パネルB)細胞の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺におけるパーセントCD45
+CD4
+及びCD45
+CD8
+細胞の頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された細胞型の頻度を表す。
【
図9】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における樹状細胞(DC)の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺に観察されるDC頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの肺組織内のDC頻度を表す。
【
図10】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における好中球(パネルA)、肺胞マクロファージ(パネルB)、及び好酸球(パネルC)の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺における好中球、肺胞マクロファージ、及び好酸球の頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された細胞型の頻度を表す。
【
図11】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における肺胞マクロファージ(パネルA)及びインフルエンザ感染肺胞マクロファージ(パネルB)の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺における肺胞マクロファージ及びインフルエンザ感染肺胞マクロファージの頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された細胞型の頻度を表す。
【
図12】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における好中球(パネルA)及びインフルエンザ感染好中球(パネルB)の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺における好中球及びインフルエンザ感染好中球の頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された細胞型の頻度を表す。
【
図13】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における上皮細胞(パネルA)及びインフルエンザ感染上皮細胞(パネルB)の頻度を、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺における上皮細胞及びインフルエンザ感染上皮細胞の頻度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの表示された細胞型の頻度を表す。
【
図14】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の肺における累積病巣スコアを、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの肺における累積病変スコアと併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの肺における累積病変スコアを表す。累積病巣スコアは、5つのパラメータの0から4までの数字ランキング(0=不存在、1=最小、2=軽度、3=中程度、4=著明)である:(1)
炎症(気管支及び細気管支)=炎症細胞(好中球、リンパ球、単球)の存在;腔内細胞片の蓄積を伴う上皮内層(lining)の損失(壊死);(2)
炎症(肺胞)=肺胞内層損失、肺胞細胞II過形成、好中球及び組織球炎症細胞、フィブリン、出血及び/又は細胞片沈着;(3)
浸潤物(血管周囲)=内皮細胞反応性、多局性炎症細胞辺縁趨向及び偶発的最小細胞片と関連する混合細胞浸潤物(リンパ球及び好中球);及び(4)
湿疹(exema)/滲出液=フィブリン沈着及び/又は混合細胞浸潤物と関連する、血管周囲及び肺胞内の;及び(5)
IHC=気管支上皮、肺胞内層上皮及び/又は肺胞マクロファージに観察される。
【
図15】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の血清における種々の走化性サイトカイン(KC/GRO−パネルA;MIP−1α−パネルB;及びMCP−1/CCL−2−パネルC)のレベルを、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの血清におけるサイトカイン濃度と併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの血清中のサイトカイン濃度(pg/mL)を表す。
【
図16】H1N1インフルエンザウイルスを接種後5日目での、野生型マウス(「WT」)及びTMPRSS2ノックアウトマウス(「KO」)の血清におけるインターフェロンγ(IFNγ)レベルを、対応する非感染WT及び非感染KOマウスの血清におけるIFNγレベルと併せて示す。各シンボルは5日目での個々のマウスからの血清中IFNγレベル(pg/mL)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(詳細説明)
本発明が記述される前に、当然のことながら、そのような方法及び条件は変動し得ることから、この発明は記述された特定の方法及び実験条件に限定されるものではない。同様に当然のことながら、本明細書で使用される用語は特定の実施態様を記述する目的のためだけであり、そして本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろうことから、限定することを意図するものではない。
【0011】
特に明示されない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び科学用語は、この発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。特定の列挙数値に関して使用されるとき、本明細書で使用される、用語「約」は値がわずか1%だけ列挙数値から変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される、表現「約100」は99及び100並びにその間のすべての値を含む(例えば、99.1、99.2,99.3、99.4など)。
【0012】
本明細書に記述のものと同様又は等しいいずれの方法及び材料も、本発明の実施に使用することができるが、好ましい方法及び材料はここに記述される。
【0013】
(インフルエンザウイルス感染を処置又は予防する方法)
本発明はインフルエンザウイルス感染を処置又は予防する方法を提供する。本明細書で使用される、表現「インフルエンザウイルス感染を処置すること」は、哺乳類におけるインフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果(biological consequence)を改善、低減、又は軽減し、及び/又はインフルエンザウイルスにさらされた後の哺乳類におけるインフルエンザウイルス力価、負荷、複製又は増殖を低減又は減少することを意味する。表現「インフルエンザウイルス感染を処置すること」はまた、対象がインフルエンザウイルスに感染後、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を示す期間を短縮することを含む。インフルエンザウイルス感染を処置する方法は、本発明によれば、対象がインフルエンザウイルスに感染した後、及び/又は対象がインフルエンザウイルス感染の1つ又はそれ以上の症状又は生物学的結果を示し又はそれと診断された後、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0014】
本明細書で使用される、表現「インフルエンザウイルス感染を予防すること」は、哺乳類におけるインフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を予防すること、及び/又はインフルエンザウイルスが、動物体内/その細胞中に入り込み、広がり及び/又は増殖することができる程度を阻害又は減弱することを意味する。表現「インフルエンザウイルス感染を予防すること」はまた、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果に対する対象の感受性を減少させることを含む。インフルエンザウイルス感染を予防する方法(即ち予防)は、対象がインフルエンザウイルスに感染する前に、及び/又は対象がインフルエンザウイルス感染の1つ又はそれ以上の症状又は生物学的結果を示す前に、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む。インフルエンザウイルス感染を予防する方法は、その年の特定の期間又は季節(例えば、個々のピーク数が通常、インフルエンザウイルス感染を経験すると見られる直前の1〜2か月中)に、又は対象が高頻度でインフルエンザウイルス感染の環境に旅行し又はさらされる前に、及び/又は対象がインフルエンザウイルスに感染している他の対象にさらされる前に、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含んでよい。
【0015】
本明細書で使用される、表現「インフルエンザウイルス感染の症状及び生物学的結果」は、1つ又はそれ以上の鼻づまり、副鼻腔欝血、鼻汁、くしゃみ、体(筋肉)痛、頭痛、悪寒、発熱、咳、咽頭痛、疲労、耳痛、又はインフルエンザウイルス感染の診断指標を含む。インフルエンザウイルス感染の診断指標は、適切な試料(例えば、鼻スワブ、鼻咽頭スワブ、咽頭スワブ、気管内吸引液、痰、気管支洗浄液など)を用いる、例えば、ウイルス培養によるインフルエンザの検出、血球凝集素凝集阻害(HA1)アッセイ、免疫蛍光、又は核酸ベース検出(例えば、RT−PCR)を含む。このように、診断検査によってインフルエンザウイルス感染に対して陽性反応を示す対象は、「インフルエンザウイルス感染の症状及び生物学的結果」を示す対象と考えられる。
【0016】
本明細書に記述の実験は、とりわけ、機能性II型膜貫通セリンプロテアーゼ(例えば、TMPRSS2)を発現しない動物は、インフルエンザウイルス接種後に、肺においてあるインフルエンザ感染細胞型の顕著な増加を呈さないことを示す。特に、インフルエンザウイルスを接種されたTMPRSS2ノックアウトマウスは、肺においてインフルエンザ陽性肺胞マクロファージ、好中球又は上皮細胞の増加を示さなかったが、一方でこれらのインフルエンザ感染細胞タイプの頻度はインフルエンザウイルス接種後に野生型マウスの肺で顕著に増加した。TMPRSS2ノックアウトマウスはまた、インフルエンザウイルス接種後に完全生存(complete survival)及び体重増加/維持特性を示した。したがって、本発明はまた、インフルエンザウイルスにさらされている及び/又は感染している対象の肺における、インフルエンザ感染肺胞マクロファージ、インフルエンザ感染好中球及び/又はインフルエンザ感染上皮細胞の蓄積を予防又は低減する方法を提供し、ここで前記方法は、II型膜貫通セリンプロテアーゼ(TTSP)阻害剤を含んでなる医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0017】
(患者集団)
本発明の方法は、そのような処置又は予防が有益であろういかなる対象におけるインフルエンザウイルス感染を処置又は予防するのに使用することができる。対象はヒト又はヒト以外の動物(ウマ、イヌ、ウシ、ネコ、ヒツジ、ブタ、トリなど)であってよい。処置の方法について、処置される対象は、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を示すいかなる個体も含む(その語句は本明細書に定義されている)。予防の方法について、対象は、インフルエンザウイルスにさらされているリスクにあり得る、又はインフルエンザウイルスに感染されている別の個体と接触する可能性を有するいかなる個体でもあり得る。
【0018】
「処置」又は「予防」の面では、本発明の方法は、高齢対象者、癌患者(例えば、化学療法、放射線又は他の抗癌治療計画を受けている個人)、及び免疫不全又は免疫障害の個人から選択される患者群において、インフルエンザウイルス感染を処置又は予防するのに特に有用であり得る。例えば、インフルエンザワクチン接種又は他の抗ウイルス療法に的確に対応することができない、又は従来の治療法(例えば、インフルエンザワクチン接種を出来なくされている卵アレルギーの個人)に不耐性である対象は、本発明の方法が治療的又は予防的利点をもたらし得る対象である。
【0019】
(TTSP阻害剤)
本発明の方法は、対象にII型膜貫通セリンプロテアーゼ(TTSP)阻害剤を含んでなる医薬組成物を投与することを含む。例示的TTSPとしては、膜貫通プロテアーゼセリンS1部材2(TMPRSS2)、膜貫通プロテアーゼセリンS1部材4(TMPRSS4)、及びヒト気道トリプシン様プロテアーゼ(HAT)が挙げられる。TTSP阻害剤は、小分子プロテアーゼ阻害剤、核酸ベースの阻害剤(例えば、siRNA、リボザイム、アンチセンス構築物など)、抗原結合タンパク質(例えば、抗体又はその抗原結合フラグメント)、又は遮断ペプチド(blocking peptide)/ペプチド阻害剤であり得る。TTSP阻害剤は、血球凝集素前駆体タンパク質(HA0)を、HA1及びHA2サブユニットにタンパク質分解的に切断するTTSPの能力を阻害又は低減することによって機能し得る。
【0020】
ある例示的な実施態様では、TTSP阻害剤は、TMPRSS2を特異的に結合し、そしてTMPRSS2のタンパク質分解活性を阻害する抗体又はその抗原結合フラグメントなどのTMPRSS2阻害剤である。例えば、抗体又はその抗原結合フラグメントは、血球凝集素前駆体タンパク質(HA0)を、HA1及びHA2サブユニットにタンパク質分解的に切断するTMPRSS2の能力を阻害又は低減し得る。抗体は、TTSPと混合したとき、抗体がTTSPのタンパク質分解活性を、同一の又は実質的に同一の実験条件下で試験した非阻害性対照分子に対して、少なくとも25%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%)だけTTSPのタンパク質分解活性を低減する場合、TTSP(例えば、TMPRSS2)のプロテアーゼ活性を阻害するとみなされる。
【0021】
本発明のある実施態様では、TTSP阻害剤は、TMPRSS2のプロテアーゼ活性を阻害するが、いかなるその他のTTSPのプロテアーゼ活性を実質的の阻害しない、抗TMPRSS2抗体又はその抗原結合フラグメントである。本開示の目的のために、抗TMPRSS2抗体は、TMPRSS4又はHATと混合したとき、抗体がTMPRSS4又はHATのタンパク質分解活性に影響がないか、又はTMPRSS4又はHATのタンパク質分解活性を、同一の又は実質的に同一の実験条件下で試験した非阻害性対照分子に対して、わずか25%(例えば、20%、15%、10%、5%又はそれ以下)だけ低減する場合、抗TMPRSS2抗体は「いかなるその他のTTSPのプロテアーゼ活性を実質的に阻害」しない。
【0022】
TTSP阻害剤がTMPRSS2阻害剤であるある実施態様では、TMPRSS2阻害剤は対象に投与される唯一のTTSP阻害剤である。このように、発明のそのような実施態様との関連では、抗TMPRSS2阻害剤以外のいかなるその他のTTSP阻害剤(例えば、TMPRSS4阻害剤又はHAT阻害剤)の投与が、特異的に(specifically)排除される。
【0023】
(抗体及び抗体の抗原結合フラグメント)
上記のように、本発明の方法との関連で使用されるTTSP阻害剤(例えば、TMPRSS2阻害剤)は、抗体又はその抗原結合フラグメント(例えば、TMPRSS2を特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメント)であり得る。本明細書で使用される用語「抗体」は、特定の抗原(例えば、TMPRSS2)に特異的に結合する又は相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んでなるいかなる抗原結合分子又は分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合、並びにその多量体(例えば、IgM)によって相互接続された、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び二つの軽(L)鎖を含んでなる免疫グロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(明細書ではHCVR又はV
Hと略記する)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は3つのドメイン、C
H1、C
H2及びC
H3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(明細書ではLCVR又はV
Lと略記する)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(C
L1)を含む。V
H及びV
L領域は更に、フレームワーク領域(FR)と称する、より保存されている領域に散在されて(interspersed)いる、相補性決定領域(CDR)と称する超可変性の領域に細分することができる。各V
H及びV
Lは、下記の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で、アミノ末端からカルボキシ末端まで配置される、3つのCDR及び4つのFRから構成される。発明の異なる実施態様では、抗TMPRSS2抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系配列と同一であってよい、又は天然型に又は人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は2つ又はそれ以上のCDRの並列解析(side-by-side analysis)に基づいて規定され得る。
【0024】
本明細書で使用される用語「抗体」はまた、完全抗体分子の抗原結合フラグメントを含む。本明細書で使用される用語抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、複合体を形成するために抗原を特異的に結合する、いかなる天然起源の、酵素的に得られる、合成の、又は遺伝子操作のポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、抗体可変及び選択的に定常ドメインをコード化するDNAの操作及び発現にかかわる、タンパク質分解(proteolytic digestion)又は組み換え遺伝子操作技術などのいかなる適切な標準技術を用いて、例えば、完全抗体分子から誘導し得る。そのようなDNAは公知であり、及び/又は例えば、市販供給元、DNAライブラリー(例えば、ファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手でき、又は合成することができる。DNAは、例えば、1つ又はそれ以上の可変及び/又は定常ドメインを適切な立体配置に配置するために、又はコドンを導入し、システイン残基を作り出し、アミノ酸を付加する又は削除するなどのために、配列決定されそして又は分子生物学的技術を用いることによって化学的に操作され得る。
【0025】
抗原結合フラグメントの限定されない例としては:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離相補性決定領域(CDR))、又は拘束FR3−CDR3−FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基から成る最小認識ユニット:が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫医薬品(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインなどの他の改変分子(engineered molecule)も、本明細書で使用される表現「抗原結合フラグメント」内に包含される。
【0026】
抗体の抗原結合フラグメントは、通常少なくとも1つの可変ドメインを含むであろう。可変ドメインはいかなるサイズ又はアミノ酸組成であってもよく、そして一般的に、1つ又はそれ以上のフレームワーク配列を備えたフレームに隣接して又はその中にある少なくとも1つのCDRを含むであろう。V
Lドメインと関連するV
Hドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、V
H及びV
Lドメインは、互いに対していかなる適切な配列にも位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり、そしてV
H−V
H、V
H−V
L又はV
L−V
L二量体を含有してよい。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体のV
H又はV
Lドメインを含有してもよい。
【0027】
ある実施態様では、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した(covalently linked)少なくとも1つの可変ドメインを含有してよい。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見出され得る、可変及び定常ドメインの限定されない、例示的立体配置としては:(i)V
H−C
H1;(ii)V
H−C
H2;(iii)V
H−C
H3;(iv)V
H−C
H1−C
H2;(v)V
H−C
H1−C
H2−C
H3;(vi)V
H−C
H2−C
H3;(vii)V
H−C
L;(viii)V
L−C
H1;(ix)V
L−C
H2;(x)V
L−C
H3;(xi)V
L−C
H1−C
H2;(xii)V
L−C
H1−C
H2−C
H3;(xiii)V
L−C
H2−C
H3;及び(xiv)V
L−C
L:が挙げられる。上記に掲載された例示的立体配置のいずれをも含む、可変及び定常ドメインのいかなる立体配置に
おいても、可変及び定常ドメインは、互いに直接結合(link)され得るか、又は完全若しくは部分ヒンジ若しくはリンカー領域によって結合され得る。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子中の隣接可変及び/又は定常ドメイン間の可撓性又は半可撓性結合をもたらす、少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60又はそれ以上の)アミノ酸から成り得る。その上、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いの及び/又は1つ又はそれ以上の単量体V
H又はV
Lドメインとの非共有会合(例えば、1つ又は複数のジスルフィド結合)において、上記に掲載された可変及び定常ドメイン立体配置のいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含んでよい。
【0028】
完全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性又は多重特異性(例えば、二重特異性)であってよい。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは通常、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み得て、ここで各可変ドメインは別々の抗原に又は同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示の例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む、いずれの多重特異性抗体フォーマットも、当技術分野で利用できるルーチン技術を用いて本発明の抗体の抗原結合フラグメントとの関連で用いるのに適合し得る。
【0029】
本明細書で使用される用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列から生じる可変及び定常領域を有する抗体を含むことを意図している。発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでランダム若しくは部位特異的変異誘発によって、又はインビボで体細胞突然変異によって導入される突然変異)によって、例えばCDRそして特にCDR3においてコード化されないアミノ酸残基を含んでよい。しかしながら、本明細書で使用される用語「ヒト抗体」は、マウスなどの別の哺乳類種の生殖細胞系由来CDR配列が、ヒトフレームワーク配列上へ移植されている抗体を含むことを意図するものではない。
【0030】
本明細書で使用される用語「組換ヒト抗体」は、宿主細胞(更に下記に記述)にトランスフェクトされた組換発現ベクターを用いて発現される抗体、組換コンビナトリアルヒト抗体ライブラリー(更に下記に記述)から単離される抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子(例えば、 Taylor et al. (1992) Nucl. Acids Res. 20:6287-6295参照)に対してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される抗体、又は他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含むいかなるその他の手段によって調製され、発現され、作製され又は単離される抗体などの、組換手段によって調製され、発現され、作製され又は単離されるすべてのヒト抗体を含むことを意図する。そのような組換ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変及び定常領域を有する。ある実施態様では、しかしながら、そのような組換ヒト抗体はインビトロ変異誘発(又は、ヒトIg配列に対してトランスジェニック動物が使用されるときには、インビボ体細胞変異誘発)にかけられ、そしてそれ故に、組換抗体のV
H及びV
L領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系V
H及びV
L配列から由来しそして関連する一方で、インビボではヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然で存在しないかもしれない。
【0031】
ヒト抗体はヒンジ不均一性(hinge heterogeneity)と関連する2つの型(form)で存在することができる。1つの型では、免疫グロブリン分子は、およそ150〜160kDaの安定な4鎖構築物を含んでおり、これは二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一つにまとまっている。第2の型では、二量体は鎖間ジスルフィド結合を介して結合されず、そして約75〜80kDaの分子が共有結合(covalently coupled)の軽鎖及び重鎖から構成されて形成される(半抗体)。これらの型はアフィニティ精製後でも、分離するのが非常に困難となっている。
【0032】
種々の無傷の(intact)IgGアイソタイプ中の第2の型の出現頻度は、限定されるものではないが、抗体のヒンジ領域アイソタイプと関連する構造差に因る。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、第2の型(Angal et al. (1993) Molecular Immunology 30:105)の出現を、ヒトIgG1ヒンジを用いて通常観察されるレベルに顕著に低減することができる。本発明は、所望の抗体型の収量を改善するために、例えば、産生に望ましいと考えられるヒンジ、C
H2又はC
H3領域において1つ又はそれ以上の突然変異を有する抗体を包含する。
【0033】
本明細書で使用される「単離抗体」は、その自然環境の少なくとも1つの成分から同定されそして分離され及び/又は回収されている抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、又は抗体が天然に存在し又は天然に産生される組織又は細胞から、分離され又は除去されている抗体は、本発明の目的の「単離抗体」である。単離抗体はまた、原位置で組換細胞内の抗体を含む。単離抗体は少なくとも1つの精製又は単離工程にかけられている抗体である。ある実施態様によれば、単離抗体は実質的に他の細胞物質及び/又は化学物質フリーであり得る。
【0034】
(医薬組成物及び投与方法)
本発明は、TTSP阻害剤(例えば、抗TMPRSS2抗体)を対象に投与することを含む方法を含み、ここでTTSP阻害剤は医薬組成物内に含有される。発明の医薬組成物は、適切な担体、賦形剤、及び適切な移動、送達、耐性(tolerance)などをもたらす他の薬剤と一緒に製剤化される(formulated)。多数の適切な製剤は、すべての薬剤師に公知の処方集:Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton
PAに見出すことができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン又はアニオン)含有小胞(LIPOFECTIN(商標)など)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型エマルジョン、エマルジョンカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、及びカーボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。同様に、Powell et al. “Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311を参照されたい。
【0035】
種々の送達システム、例えば、リポソームへのカプセル化、微粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することができる組換細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu et al., 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432参照)が公知であり、そして発明の医薬組成物を投与するのに使用することができる。投与方法としては、限定されるものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられる。組成物は、いかなる便利な経路によっても、例えば、注入及びボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)からの吸収によって投与してもよく、そして他の生理活性物質と一緒に投与してもよい。
【0036】
本発明の医薬組成物は、標準的な針及びシリンジを用いて皮下に又は静脈内に送達することができる。また、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスが本発明の医薬組成物を送達するのに容易に使われる。そのようなペン型送達デバイスは再利用可能又は使い捨てであってよい。再利用可能ペン型送達デバイスは一般に、医薬組成物を含有する交換可能カートリッジを利用する。一度カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与されそしてカートリッジが空になると、空のカートリッジは容易に廃棄することができ、そして医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換することができる。ペン型送達デバイスはそのとき再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換可能カートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバに保持された医薬組成物でプレフィルドされるようになる。一度リザーバの医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0037】
ある状況では、医薬組成物は、放出制御システムで送達することができる。1つの実施態様では、ポンプが使用され得る(Langer, supra; Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201参照)。別の実施態様では、高分子材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), 1974, CRC Pres., Boca Raton, Florida参照。尚別の実施態様では、放出制御システムは組成物の標的に近接して置くことができ、それ故全身用量のほんの一部だけを必要とする(例えば、Goodson, 1984, in Medical Applications of Controlled Release, supra, vol. 2, pp. 115-138参照)。他の放出制御システムが、Langer, 1990, Science 249:1527-1533によるレビューで論じられている。
【0038】
注射用製剤は、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射剤、点滴剤などのための剤形を含んでよい。これらの注射用製剤は公知の方法によって調製され得る。例えば、注射用製剤は、例えば、上記の抗体又はその塩を注射用に従来使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に溶解し、懸濁し又は乳化することにより調製され得る。注射剤用水性媒体としては、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO−50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用し得る、例えば、生理食塩水、グルコース又は他の補助剤を含有する等張液などがある。油性媒体としては、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用され得る、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられる。このようにして調製された注射剤は好ましくは適切なアンプル中に充填される。
【0039】
有利なことには、上記の経口又は非経口用の医薬組成物は、有効成分の用量に適合させるのに適した単位用量の剤形に調製される。そのような単位用量での剤形としは、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0040】
(投薬量(dosage))
本発明の方法に従って対象に投与されるTTSP阻害剤(例えば、抗TMPRSS2抗体)の量は、一般的に、治療的有効量である。本明細書で使用される語句「治療的有効量」は、その発現が本明細書に定義されるように、インフルエンザウイルス感染の1つ又はそれ以上の症状又は生物学的結果の検出可能な改善をもたらすTTSP阻害剤の用量を意味する。当業者によって認識されるように、種々の動物モデルは、特定量の候補TTSP阻害剤が治療的に有効量であるかを確立するのに使用することができる。TTSP阻害剤の「治療的有効量」はまた、TTSPのタンパク質分解活性(例えば、HA0をHA1及びHA2サブユニットに切断する能力)を、同一又は実質的に同一の実験条件下で試験された非阻害剤対照分子に対して少なくとも25%低減することができる、TTSP阻害剤(例えば、抗TMPRSS2抗体)の量を含む。
【0041】
抗TMPRSS2抗体の場合、治療的有効量は、抗TMPRSS2抗体の約0.05mgから約600mgまで、例えば約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590 mg、又は約600mg、であってよい。
【0042】
個々の用量内に含有される抗TMPRSS2抗体の量は、患者体重のキログラム当りの抗体のミリグラム(即ち、mg/kg)で表され得る。例えば、抗TMPRSS2抗体は、患者体重の約0.0001〜約10mg/kgの用量で患者に投与され得る。
【0043】
(併用療法)
ある実施態様による、本発明の方法は、第2の治療薬と併用して対象へTTSP阻害剤(例えば、抗TMPRSS2抗体)を含んでなる医薬組成物を投与することを含み得る。語句「第2の治療薬と併用して」は、第2の治療薬が、対象へTTSP阻害剤を含んでなる医薬組成物の投与前に(例えば、約1〜72時間より前に)、後に(例えば、約1〜72時間後に)、又は同時に(例えば、約1時間以内に)対象に投与されることを意味する。
【0044】
第2の治療薬は、それ自体でインフルエンザウイルス感染の処置又は予防に有用ないかなる治療薬であってよい。TTSP阻害剤を含んでなる医薬組成物との併用で投与され得る第2の治療薬の非限定例としては、例えば、アマンタジン、リマンタジン、オセルタミビル、ザナミビル、アプロチニン、ロイペプチン、カチオン性ステロイド抗菌薬(例えば、US2007/0191322参照)、インフルエンザワクチン(例えば、不活化、生、弱毒化全ウイルス又はサブユニットワクチン)、又はインフルエンザウイルスに対する抗体(例えば、抗血球凝集素抗体)が挙げられる。
【0045】
(投与レジメン(administration regimen))
本発明のある実施態様によれば、TTSP阻害剤(例えば、抗TMPRSS2抗体)を含んでなる医薬組成物の複数用量(multiple doses)が、規定された時間経過にわたって対象に投与され得る。発明のこの態様による方法は、TTSP阻害剤の複数用量を対象に逐次投与することを含む。本明細書で使用される、「逐次投与すること」は、TTSP阻害剤の各用量が、異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、時間、日、週又は月)で区切られた異なる日に対象に投与されることを意味する。本発明は、TTSP阻害剤の単一初回用量を患者に逐次投与すること、続いてTTSP阻害剤の1つ又はそれ以上の二次用量を、そして場合により続いてTTSP阻害剤の1つ又はそれ以上の三次用量を投与することを含む方法を含む。
【0046】
用語「初回用量」、「二次用量」、及び「三次用量」は、TTSP阻害剤の投与の時間的順序をいう。したがって、「初回用量」は処置レジメン(treatment regimen)の初めに投与される用量であり(「ベースライン用量」ともいわれる);「二次用量」は初回用量後に投与される用量であり;そして「三次用量」は二次用量後に投与される用量である。初回、二次、三次用量は全て、同じ量のTTSP阻害剤を含有し得るが、一般的には投与頻度に関して互いに異なってよい。しかしながら、ある実施態様では、初回、二次及び/又は三次用量に含有されるTTSP阻害剤の量は、処置の過程で互いに変動し得る(例えば、必要に応じて上に又は下に調整される)。
【0047】
本発明の1つの例示的実施態様では、各二次及び/又は三次用量は、直前の用量後に1〜30(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、又はそれ以上)日に投与される。本明細書で使用される語句「直前の用量」は、一連の複数回投与において、介在用量なしで、順序的に、まさに次の用量の投与に先立って患者に投与される、TTSP阻害剤の用量を意味する。
【0048】
発明のこの態様に記述の方法は、TTSP阻害剤のいくつもの二次及び/又は三次用量を患者に投与することを含んでよい。例えば、ある実施態様では、単回だけの二次用量が患者に投与される。他の実施態様では、2つ又はそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、又はそれ以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、ある実施態様では、単回だけの三次用量が患者に投与される。他の実施態様では、2つ又はそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、又はそれ以上)の三次用量が患者に投与される。
【0049】
複数の二次用量を含む実施態様では、各二次用量は他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前用量後1〜29日患者に投与され得る。同様に、複数回の三次用量を含む実施態様では、各三次用量は他の三次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各三次用量は、直前用量後1〜60日患者に投与され得る。あるいは、二次及び/又は三次用量が患者に投与される頻度は、処置計画の過程にわたって変動することができる。投与頻度はまた、臨床検査後に個々の患者の必要性に応じて医師又は医療提供者により処置過程中に調整され得る。
【0050】
前述の投与レジメンのいずれも、本明細書の別の所で定義されるように、TTSP阻害剤と併用して1つ又はそれ以上の更なる治療薬の投与を含んでよい。
【実施例】
【0051】
下記の実施例は、発明の方法及び組成物をどのように作製しそして使用するかの方法の完全な開示及び説明を当業者に提供するために提示され、そして発明者らがそれらの発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関しては正確性を期す努力がなされているが、幾つかの実験誤差及び偏差は配慮されるべきである。他に明示されないかぎり、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、そして圧力は大気圧又はその近くである。
【0052】
〔実施例1〕TMPRSS2ノックアウトマウスは、インフルエンザウイルスA感染後の野生型マウスと比べて生存及び体重維持の改善を示す
初期実験は、機能性TMPRSS2タンパク質(「TMPRSS2−KO」)を発現することができない改変(engineered)ノックアウトマウスを用いて行った。野生型同腹マウス(“WT”)を対照として使用した。TMPRSS2−KOマウス及びWT対照を10xMLD
50(750PFU)のA/Puerto Rico/8/1934H1N1ウイルスで鼻腔内に感染させた4つの別々の試行(試行1−試行4)を行った。感染後ほぼ毎日マウスの体重を量り、そして生存をモニターした。動物が感染時点(即ち0日)に測定した(determined)初期体重の25%以上減量したとき、感染マウスを安楽死させた。またマウスについて、猫背姿勢、立毛を含む罹患率の他の顕性徴候、及び/又は後肢麻痺などの神経症状をモニターした。試行1〜4の結果はそれぞれ
図1〜4に示す。個々の試行からの生存データを表1に要約する。
【0053】
【表1】
【0054】
図1〜4に示されるように、大部分の感染TMPRSS2−KOマウスは注射後少なくとも21日間、正常な体重増加/維持を示した。大多数の感染WTマウスは、対照的に、マウスの実験インフルエンザ感染に対する表示応答である、感染後早くも3日で劇的な及び急速な体重減少を示した。
【0055】
その上、全4試行において、TMPRSS2−KOマウスは、WTマウスの20〜50%生存と比べて全実験期間を通して100%生存を示した。
【0056】
この実施例は、動物におけるインフルエンザ感染の症状及び結果が機能性TMPRSS2の不存在下で劇的に減少することを実証する。この実施例に示される結果はそれ故に、TMPRSS2活性を阻害することが、ヒト及び非ヒト動物対象においてインフルエンザウイルス感染を処置及び/又は予防する有効な治療戦略になり得ることを示唆する。
【0057】
〔実施例2〕TMPRSS2ノックアウトマウスは、インフルエンザウイルスA感染後の野生型マウスと比べて肺のウイルス負荷減少を示す
第2のセットの実験において、10匹のTMPRSS2−KOマウス及び10匹のWT対照を、750PFUのA/Puerto Rico/8/1934H1N1ウイルスで鼻腔内に感染させた。感染マウスの体重変化パーセント及びウイルス負荷(肺中のPFUで表現)は感染後5日目に測定した。結果は
図5A(体重変化パーセント)及び5B(ウイルス負荷)に示す。
【0058】
このセットの実験は再び、TMPRSS2−KOマウスがインフルエンザウイルス感染後、全体重増加(〜3%増加)を示し、一方で野生型マウスは感染後、顕著な体重減少(〜12%減少)を示すことを示す(
図5A)。その上、インフルエンザウイルス感染後のTMPRSS2−KOマウスの肺のウイルス負荷は、感染野生型マウスの肺に観察されたものよりも顕著に低かった(〜10000倍小さい)。この実施例の結果は、インフルエンザウイルスに感染した動物中のTMPRSS2と拮抗又は阻害する潜在的治療上の利点のさらに追加の実証を提供する。
【0059】
〔実施例3〕インフルエンザウイルスA感染後のTMPRSS2ノックアウトマウスの全肺組織分析及び血清分析
第3のセットの実験において、5匹のTMPRSS2−KOマウス及び5匹のWT対照を、750PFUのA/Puerto Rico/8/1934H1N1ウイルスで鼻腔内に感染させた。5匹の非感染野生型及び5匹の非感染TMPRSS2−KOマウスを、同様に分析に含めた。マウスについて;(1)体重変化、(2)フローサイトメトリーを介しての細胞変化、(3)全肺の免疫組織化学、PAS及びH&E染色、及び(4)血清中のサイトカイン濃度、を解析した。
【0060】
感染後5日目のマウスに観察された体重変化パーセントは
図6に描写される。インフルエンザAウイルス感染した(「KO感染」)TMPRSS2−KOマウスは、開始体重の2.2〜3.4%増加を示したが、これは非感染TMPRSS2−KOマウス(5.9〜6.4%増加)及び非感染WTマウス(4.0〜4.8%増加)で観察された体重増加よりもほんのわずか小さかった。一方、感染WTマウスは感染後5日目で顕著な体重減少を示した(11.0〜11.4%減少)。
【0061】
肺分析については、下記の手順に従った:第1に、全肺を各マウスから採取した(harvest)。左肺を単離してパラホルムアルデヒドで固定し、そして細胞損傷/浸潤に対してPAS/H&E染色にかけた。免疫組織化学染色を、感染細胞を同定するために使用した。右肺を単離して単細胞懸濁液を生成するのに使用した(Liberase(商標)酵素 [Roche Applied Science, Indianapolis, IN]、DNアーゼ及び機械的な力を用いて);RBCを溶解し、細胞を計数しそしてフローサイトメトリー解析のために染色した。このプロセスによって解析された細胞型は、好中球、マクロファージ、樹状細胞、好酸球、B細胞、T細胞、上皮細胞及び感染細胞であった。
【0062】
肺組織及び細胞分析の結果は、以下のように要約される:
(1)異なるサンプル間でB細胞又はT細胞の有意差は認められなかった(
図7A〜7B及び
図8A〜8B);
(2)TMPRSS2−KO非感染マウスと比べてTMPRSS2−KO感染マウスで樹状細胞の頻度に顕著な増加が観察された;しかしながらこの増加は非感染WTマウスと比べて感染WTマウスで観察された増加ほど堅調ではなかった(
図9);
(3)好中球浸潤も肺胞マクロファージレベルも、TMPRSS2−KO非感染マウスと比べてTMPRSS2−KO感染マウスで顕著に増加しなかった、しかしながらWT感染マウスは顕著に高いレベルの好中球を示し、そして非感染WTマウスと比べて顕著に低いレベルの肺胞マクロファージを示した。(
図10A〜10B);感染KOマウスの肺中好酸球レベルはKO非感染マウスの肺中よりも高い傾向であった、しかしこの増加は統計的に有意ではなかった(
図10C);
(4)TMPRSS2−KO非感染マウスと比べてTMPRSS2−KO感染マウスでは、インフルエンザ感染肺胞マクロファージ(
図11B)又はインフルエンザ感染好中球(
図12B)の割合の顕著な増加は観察されなかった;対照的に、インフルエンザ感染肺胞マクロファージ及びインフルエンザ感染好中球の両方の頻度はWT非感染マウスと比べてWT感染マウスの肺で顕著に高かった。
(5)TMPRSS2−KOマウスは上皮細胞のレベルの減少を示さず、そしてTMPRSS2−KO非感染マウスと比べてインフルエンザ陽性上皮細胞の割合に顕著な変化はなかった;対照的にインフルエンザ感染上皮細胞の頻度はWT非感染マウスと比べてWT感染マウスの肺中で顕著に高かった(
図13A〜13B);
(6)野生型感染マウスは非感染マウスと比べて累積病変スコア(炎症、細胞浸潤、浮腫および内層減少の故に)の顕著な増加を示した;一方、KO感染マウスの肺中累積病変スコアはKO非感染マウスの肺中累積病変スコアよりもわずかに中程度に高い傾向であった、しかしこの差は統計的に有意ではなかった(
図14);
(7)初期のサイトカイン濃度については異なるサンプル間で有意差は観察されなかった;
(8)発熱及び好中球及びマクロファージ遊走(例えば、KC/GRO、MIP−1α及びMCP−1/CCL−2)に関与するサイトカインに関して、試験した実験群のいずれにおいてもKC又はMIP−1αレベルの変化は観察されなかった;しかしながら、WT感染マウスにおいてMCP−1の顕著な増加が観察された;しかしながらKO非感染マウスと比べてKO感染マウスにおいてMCP−1レベルに統計的に有意な増加は観察されなかった(
図15);及び
(9)TMPRSS2−KO感染マウスを含む、試験した他の群からのサンプルと比較して、WT感染マウスからのサンプルにおいてはIFNγの顕著に高いレベルが観察された(
図16)。
【0063】
総合すれば、このセットの実験からの結果は、TMPRSS2−KOが実質的にインフルエンザウイルス感染の影響及び結果に耐性があることを確認する。
【0064】
〔実施例4〕抗TMPRSS2抗体によるインビトロでのインフルエンザウイルスA感染の阻害
完全ヒト抗TMPRSS2抗体は公知の方法を用いて得られる。抗体は、細胞表面発現TMPRSS2を結合する能力について試験される。抗体はまた、TMPRSS2の可溶性バージョンを結合する能力についても試験され得る。抗体はまた、標準アッセイフォーマットを用いてTMPRSS2のタンパク質分解活性を阻害する能力について試験される。例えば、血球凝集素タンパク質のTMPRSS2媒介切断を阻害する抗TMPRSS2抗体の能力がアッセイされる。TMPRSS2に対して高親和性結合及びTMPRSS2のタンパク質分解活性を強力に阻害する能力を備えた抗TMPRSS2抗体が、次いで、TMPRSS2(しかしヒト気道トリプシン様プロテアーゼ[HAT]ではない)を発現する、ヒト気管支上皮細胞(Calu−3)を用いたインビトロのインフルエンザ阻害アッセイで試験される。TMPRSS2の触媒機能を妨害する抗体はこのアッセイでウイルス増殖を阻害するであろうことが期待される。
【0065】
〔実施例5〕動物モデルにおける抗TMPRSS2抗体によるインフルエンザウイルス感染の予防及び処置
抗TMPRSS2抗体は、適切な動物モデルを用いてインフルエンザウイルス感染の影響を妨げるそれらの能力について試験される。TMPRSS2のタンパク質分解活性をブロックする抗体は、実験的インフルエンザウイルス感染に先立って動物に投与される。対照動物は感染に先立ってアイソタイプ適合対照抗体で処置される。抗TMPRSS2遮断抗体で処置される動物は、対照処置抗体と比べてインフルエンザウイルス感染のより少ない及び/又はより小さい重い症状、及び/又は生存性改善を示すであろうことが期待される。
【0066】
抗TMPRSS2抗体はまた、インフルエンザウイルスに既に感染している動物を処置するそれらの能力について試験される。TMPRSS2のタンパク質分解活性をブロックする抗体が、実験的インフルエンザウイルス感染後に動物に投与される。対照動物は感染後にアイソタイプ適合対照抗体で処置される。抗TMPRSS2遮断抗体で処置される動物は、対照抗体で処置される動物と比べて、インフルエンザウイルス感染のより少ない及び/又はより小さい重い症状、及び/又は生存性改善を示すであろうことが期待される。
【0067】
本発明は、本明細書に記述の特定の実施態様によって範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に記述のものに加えて方法の種々の改変が、前述の記述及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。そのような改変は特許請求の範囲に入ることが意図されている。