(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446384
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】原子力プラント及びこれの貴金属注入方法
(51)【国際特許分類】
G21D 1/00 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
G21D1/00 X
G21D1/00 W
【請求項の数】11
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-70292(P2016-70292)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-181351(P2017-181351A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麻由
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
(72)【発明者】
【氏名】太田 信之
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
【審査官】
村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−329895(JP,A)
【文献】
国際公開第01/057879(WO,A1)
【文献】
特開2006−029940(JP,A)
【文献】
特開2003−035797(JP,A)
【文献】
特開2015−161664(JP,A)
【文献】
米国特許第05600691(US,A)
【文献】
特開2001−349983(JP,A)
【文献】
特開2014−130160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉水を保有する原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器を内蔵する原子炉格納容器と、
前記原子炉圧力容器に復水を供給する給水配管と、
前記炉水を浄化する原子炉冷却材浄化装置と、
前記原子炉冷却材浄化装置を有する浄化系配管と、
貴金属を含む液を前記炉水に注入する貴金属注入装置と、
前記浄化系配管に設けられ、浄化される前の炉水を、浄化された後の炉水により冷却する熱交換器を備え、
前記貴金属注入装置は、前記原子炉冷却材浄化装置の出口から前記熱交換器までの間の配管に設けられている、原子力プラント。
【請求項2】
前記給水配管と前記浄化系配管との合流点は、前記原子炉格納容器の外部に設けられている、請求項1記載の原子力プラント。
【請求項3】
前記貴金属は、白金である、請求項1又は2に記載の原子力プラント。
【請求項4】
前記貴金属の注入点における前記炉水の温度は、30〜70℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の原子力プラント。
【請求項5】
前記貴金属の注入点における前記炉水の水素濃度は、0.1ppm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の原子力プラント。
【請求項6】
前記浄化系配管のうち前記原子炉冷却材浄化装置の出口から前記給水配管との合流点までの間は、炭素鋼又はステンレス鋼で構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の原子力プラント。
【請求項7】
原子炉圧力容器に充填された炉水の一部を原子炉格納容器の外部に送り、
その炉水を冷却し、浄化し、
その後、その炉水に貴金属を含む液を注入する方法であって、
前記原子炉格納容器の外部に送られた炉水は、浄化される前に、浄化され前記貴金属を含む液が注入された後の炉水により冷却される、原子力プラントの貴金属注入方法。
【請求項8】
前記貴金属を含む液を注入された前記炉水は、前記原子炉圧力容器に送られる復水に、前記原子炉格納容器の外部にて混合される、請求項7記載の原子力プラントの貴金属注入方法。
【請求項9】
前記貴金属は、白金である、請求項7又は8に記載の原子力プラントの貴金属注入方法。
【請求項10】
前記貴金属の注入をする際の前記炉水の温度は、30〜70℃である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の原子力プラントの貴金属注入方法。
【請求項11】
前記貴金属の注入をする際の前記炉水の水素濃度は、0.1ppm以下である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の原子力プラントの貴金属注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント及びこれの貴金属注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉においては、原子炉に充填されている水(炉水)の放射線分解により酸化種(酸素、過酸化水素)が発生する。この酸化種は、原子炉構造材として使用されているステンレス鋼やニッケル基合金の応力腐食割れを引き起こすことが知られている。
【0003】
この応力腐食割れを抑制する方法としては、貴金属注入が行われている。貴金属注入は、炉水に貴金属を注入して原子炉構造材に貴金属を付着させることにより、上記の酸化種と水素注入によって炉水に混合した水素との再結合反応を促進し、酸化種の濃度を低減させる技術である。
【0004】
また、貴金属注入により白金が付着した炭素鋼配管では、白金付着がない場合と比べて腐食が抑制されるという報告もある。これまで、米国ゼネラル・エレクトリック・カンパニイによって、原子炉運転中に白金を注入する技術が開発され、広く適用されている。
【0005】
特許文献1は、その技術の内容を開示したものであり、この文献には、炉水に注入する貴金属化合物として貴金属のアセチルアセトナート化合物及び貴金属の硝酸化合物が例示されている。
【0006】
原子炉構造材の応力腐食割れを抑制するためには、ステンレス鋼及びニッケル基合金で構成される原子炉圧力容器、ステンレス鋼で構成される再循環系配管、ステンレス鋼で構成される原子炉冷却材浄化系配管等に対して、十分な量の白金を付着させることが必要となる。注入した貴金属は、特に高温部において機器・配管への付着が大きいことから、従来の貴金属注入では、上記構造材(原子炉圧力容器、再循環系配管、原子炉冷却材浄化系配管)への白金付着を最大化するため、原子炉圧力容器に接続される給水配管が白金の注入点として採用されてきた。
【0007】
特許文献2には、浄化装置の出口から浄化系配管と復水の給水配管との合流点までの間に貴金属注入装置が配置された原子力プラントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−311296号公報
【特許文献2】特開2015−114251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
貴金属注入を適用した原子力プラントでは、白金の注入点である給水配管で白金が析出し、注入点の閉塞が生じる可能性がある。これは、給水温度が高いため、白金化合物が熱分解し、白金が析出することが原因であると考えられる。
【0010】
また、給水配管から炉水に注入された白金のうち構造材及び配管に付着しなかったものは、原子炉冷却材浄化系(CUW)で除去されるため、CUWの浄化装置の下流にある配管及び機器には白金が付着しないと想定される。
【0011】
一般に、CUWの浄化装置下流の配管材料の多くは、炭素鋼またはステンレス鋼である。白金が付着しないCUWの浄化装置の下流側では、ステンレス鋼配管の場合は応力腐食割れの抑制効果を得ることができないと考えられる。
【0012】
また、貴金属注入により炉水中の酸化種濃度が大幅に低下するため、CUWの浄化装置の下流側が炭素鋼配管の場合は、配管表面への酸素供給量が不足して安定酸化皮膜の形成が抑制される懸念があり、その結果、流れ加速腐食のリスクが高くなると考えられる。
【0013】
本発明の目的は、原子力プラントにおいて、貴金属の注入点における貴金属の析出及び配管の閉塞リスクを低減するとともに、CUWの浄化装置の下流にある配管の腐食リスクを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の原子力プラントは、炉水を保有する原子炉圧力容器と、原子炉圧力容器を内蔵する原子炉格納容器と、原子炉圧力容器に復水を供給する給水配管と、炉水を浄化する原子炉冷却材浄化装置と、原子炉冷却材浄化装置を有する浄化系配管と、貴金属を含む液を炉水に注入する貴金属注入装置と、浄化系配管に設けられ、浄化される前の炉水を、浄化された後の炉水により冷却される熱交換器を備え、貴金属注入装置は、原子炉冷却材浄化装置の出口から熱交換器までの間の配管に設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原子力プラントにおいて、貴金属の注入点における貴金属の析出及び配管の閉塞リスクを低減するとともに、CUWの浄化装置の下流にある配管の腐食リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例の沸騰水型原子力発電プラントを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の貴金属注入点からの貴金属注入方法並びに原子力発電プラント(「原子力プラント」ともいう。)を説明する。なお、本明細書に記載の「注入点」は、所定の断面積を有する「注入部」を意味する。
【実施例】
【0018】
本実施例の炉水への貴金属注入は、沸騰水型原子力発電所の原子炉圧力容器、給水系配管、再循環系配管及び原子炉冷却材浄化系配管に適用される。本実施例では、貴金属の注入は沸騰水型原子力発電所の運転停止中または運転中に行われる。
【0019】
図1は、炉水への貴金属注入方法を実施する際に用いられる沸騰水型原子力発電所の構成を示したものである。
【0020】
本図に示すように、原子力プラント100(沸騰水型原子力発電プラント)は、原子炉圧力容器1、タービン3、復水器4、給水系、再循環系、原子炉冷却材浄化系等を備えている。
【0021】
給水系は、復水器4と原子炉圧力容器1とを連絡する給水配管13に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、給水ポンプ7及び給水加熱器8をこの順に設置している。
【0022】
原子炉冷却水浄化系は、再循環系配管15と給水配管13とを連絡する浄化系配管12に、熱交換器9、浄化系ポンプ10、原子炉冷却材浄化装置11をこの順に設置している。原子炉冷却材浄化系を流れる冷却材(炉水)は、浄化系配管12に流入し、熱交換器9で冷却された後、原子炉冷却材浄化装置11で浄化される。浄化された冷却材は、熱交換器9で加熱された後、浄化系配管12及び給水配管13を経由して原子炉圧力容器1内に流入する。原子炉圧力容器1は、原子炉格納容器14内に設置されている。
【0023】
貴金属注入装置16は、原子炉冷却材浄化装置11の出口から熱交換器9までの間の浄化系配管に設置されている。原子炉において、貴金属注入装置16の注入点から注入される貴金属は、給水配管13を経由して、原子炉圧力容器1、再循環系配管15及び原子炉冷却材浄化系に移動し、構造材の表面に付着する。
【0024】
貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのいずれかを用いる。貴金属は、貴金属化合物(例えばヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na
2[Pt(OH)
6]・nH
2O))を水に溶解した状態もしくは分散した状態で使用する。
【0025】
貴金属の注入と併用される水素注入装置17は、復水浄化装置6の下流部に設置されている。復水浄化装置6の下流部から注入された水素は、給水系を経て原子炉圧力容器1へ移動し、原子炉圧力容器1内において酸化種との再結合反応に寄与する。未反応の水素のうち大部分は、主蒸気系配管2を通り、タービン4へ到達する一方で、一部は、再循環系配管15を経由して原子炉冷却材浄化系へ移動する。
【0026】
なお、本実施例においては、貴金属注入点の温度は、約50℃であり、従来の注入点の温度(約225℃)よりも低い。よって、熱分解により貴金属が析出するリスクが低下する。また、本実施例においては、貴金属注入点における水素濃度は約0.05ppmであり、これは従来の注入点の濃度(約0.3ppm)よりも低い。よって、水素による貴金属の還元析出のリスクも低減することが可能となる。
【0027】
まとめると、貴金属の注入点における炉水の温度は、30〜70℃であることが望ましく、40〜60℃であることが更に望ましい。
【0028】
貴金属の注入点における炉水の水素濃度は、0.1ppm以下であることが望ましく、0.05ppm以下であることが更に望ましい。
【0029】
さらに、本発明における貴金属注入点から注入された白金等の貴金属は、CUWに設置された浄化装置の下流側にある配管にも付着することが期待できる。よって、浄化装置の下流側にある配管が炭素鋼配管の場合は、流れ加速腐食のリスクが、ステンレス鋼配管の場合は応力腐食割れのリスクが低下すると考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1:原子炉圧力容器、2:主蒸気系配管、3:タービン、4:復水器、5:復水ポンプ、6:復水浄化装置、7:給水ポンプ、8:給水加熱器、9:熱交換器、10:浄化系ポンプ、11:原子炉冷却材浄化装置、12:浄化系配管、13:給水配管、14:原子炉格納容器、15:再循環系配管、16:貴金属注入装置、17:水素注入装置、100:原子力プラント。