(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数回のガラス微粒子の堆積工程において、最初の一回の前記堆積から定常値に達するまで、前記原料ガスの流量を連続的に増加させる、請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
前記堆積工程の後、前記焼結工程の前に、塩素原子を含むガスの雰囲気下で前記多孔質母材を加熱する、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の光ファイバ母材の製造方法について、工程ごとに詳しく説明する。
(コア母材作製工程)
コア母材の作製方法は、VAD法などのスート法を利用する方法が好ましい。例えば石英ガラス微粒子を、脱水剤(例えば、ハロゲン系ガス、特に塩素系ガス)雰囲気下で石英ガラス微粒子の形態を維持できる温度(例えば、1100〜1300℃程度)で加熱して脱水(無水化)処理し、次いで、この脱水処理された石英ガラス微粒子を、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)雰囲気下で加熱(例えば、1400〜1600℃)して焼結処理し、透明ガラス化する方法が好ましい。
コア母材は、ゲルマニウムを実質的に含まないシリカガラスからなる。
コア母材は、長手方向に延伸されてもよい。
【0011】
(エッチング工程)
図1は、実施形態の光ファイバ用ガラス母材の製造方法におけるエッチング工程を説明するための模式図である。
図1に示すように、コア母材10は、両端部にダミー母材9が同軸状に接続され、ダミー母材9は、一対の回転チャック8,8で把持される。コア母材10は、矢印Aで示すように軸回りに回転可能とされ、反応容器7(チャンバ)内に設置されている。
【0012】
コア母材10の表面をプラズマ火炎でエッチング処理する。
エッチング処理は、例えば、プラズマトーチ6(プラズマ火炎生成手段)を用いて生成されたプラズマ火炎で行うことができる。プラズマ火炎の生成方法は、取扱性、安全性、熱源の種類等を考慮して適宜選択すればよいが、プラズマ源となるガスに電圧を加えて、スパークさせることでプラズマ火炎を発生させる方法が好ましい。
プラズマ源となるガスとしては、アルゴン(Ar)ガスが例示できる。プラズマ火炎の生成時に加える電圧は、高周波電圧であることが好ましく、電圧の周波数は2MHz〜2.45GHzであることが好ましい。
【0013】
プラズマ火炎に添加するエッチングガスは、フッ素含有ガスであることが好ましい。フッ素含有ガスは、化学構造中にフッ素原子を含有するガスであればよく、エッチング能力およびコストの面から好ましいものとしては、六フッ化硫黄(SF
6)、六フッ化エタン(C
2F
6)、四フッ化ケイ素(SiF
4)、四フッ化メタン(CF
4)が例示できる。フッ素含有ガスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0014】
プラズマ火炎には、エッチングガスの種類に応じて、さらに支燃性ガスとして酸素(O
2)ガスを添加することにより、エッチングガスの分解を促進してもよい。例えば、エッチングガスとしてC
2F
6ガスを用いる場合には、酸素ガスを併用することが好ましい。
【0015】
エッチング処理は、コア母材10に対して、その長手方向に沿ってプラズマトーチ6を相対移動させることで行うことができる。「コア母材10に対してプラズマトーチ6を相対移動させる」とは、(I)コア母材10を固定してプラズマトーチを移動させる、(II)プラズマトーチを固定してコア母材10を移動させる、(III)コア母材10およびプラズマトーチを共に移動させる(ただし、移動速度の絶対値と移動方向が共に同じである場合を除く)、のいずれかを意味する。
【0016】
コア母材10およびプラズマトーチ6は、いずれもコア母材10の長手方向(中心軸方向)に沿って移動させる。このときの移動方向は二方向あるが、いずれの方向であってもよい。例えば、前記(III)の場合、コア母材10およびプラズマトーチ6は、同一方向に移動させてもよいし、反対方向に移動させてもよい。そして、エッチング処理を複数回繰り返して行う場合に、前記移動方向は、すべての回で同一方向であってもよいし、すべての回で異なる方向であっても(一方向ずつ二回行っても)よく、一部の回のみ異なる方向であってもよい。
【0017】
エッチング処理の開始から終了までの間において、プラズマトーチ6の前記相対移動の速度の絶対値は、一定としてもよいし、変動させてもよいが、一定とすることが好ましい。一定とすることで、コア母材10の長手方向におけるエッチング量の変動を抑制する効果が高くなる。
【0018】
エッチング処理によるエッチング量(コア母材10の表面からの深さ方向のエッチング距離)は、好ましくは0.25mm以上、より好ましくは0.3mm以上とする(すなわち、エッチング処理により、コア母材10の外径を好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.6mm以上小さくする)ことが好ましい。
これによって、コア母材10の表面の異物、不純物等が除去し、この表面を清浄とすることができる。また、コア母材10の表面の傷を少なくできる。そのため、コア母材10の表面が清浄、かつ傷がない状態で石英ガラス微粒子の堆積が可能である。コア母材10は、光ファイバにおいて光信号の大部分が通るコアとなるため、コア母材10が清浄な状態を維持することによって、伝送損失(例えば波長1.55μmにおける伝送損失)の増加を効果的に抑制できる。また、コア母材10が清浄な状態を維持できるため、紡糸工程において断線の頻度を低くすることもできる。
コア母材10の外径は、例えば、レーザ外径測定機等を用いる公知の方法で測定できる。
【0019】
例えば、
図1において、コア母材10を矢印A方向に回転させ、コア母材10をその長手方向においては固定し、その長手方向に沿って、プラズマトーチ6を矢印B方向(左側)に移動させることで、エッチング処理を行うことができる。符号4はプラズマ火炎である。
【0020】
反応容器7の片側は排気ダクト(図示略)に接続されており、排気ダクト内は通常、20〜300Pa程度の陰圧とされ、反応容器7の外部からクリーンエアを供給することで、反応容器7が置かれたブース(図示略)内が、3〜30Pa程度の陽圧となるように調整される。
【0021】
エッチング処理により、コア母材10の表面にある傷、異物、不純物等が除去される。例えば、ダミー母材9の溶着、コア母材10の延伸等の際に行う火炎研磨などにより生成した水酸基等が除去される。プラズマ火炎は、酸水素火炎とは異なり生成時に水素ガスを用いる必要がないため、エッチング処理時に水が発生せず、コア母材10のエッチング処理面における水酸基の残存が抑制される。
【0022】
(予熱工程)
エッチング処理後は、このエッチング処理とは別途にプラズマ火炎を用いて、コア母材10のエッチング処理面を予熱処理してもよい。予熱処理には、プラズマトーチ6によるプラズマ火炎を用いることができる。予熱処理により、コア母材10のエッチング処理面における水酸基の残存が抑制される。プラズマ火炎を用いる場合、前工程(エッチング工程)で用いるプラズマトーチ6をそのまま使用できるため、コア母材10を効率よく加熱することができる。
【0023】
石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、コア母材10のエッチング処理面の温度は、後述の理由により、50℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましい。コア母材10のエッチング処理面の温度は、後述の理由により、400℃以下とすることが好ましく、350℃以下とすることがより好ましい。
【0024】
プラズマ源となるガスとしては、アルゴン(Ar)ガスが例示できる。アルゴンガスに、支燃性ガスとして酸素(O
2)ガスを添加することもできる。前記ガスは、フッ素、水素を含まないことが好ましく、例えばアルゴンガスのみ、またはアルゴン酸素(O
2)混合ガスが使用できる。
フッ素、水素が含まれないガスを使用することによって、コア母材10の過剰エッチングおよび水酸基生成を抑制することができる。
【0025】
(堆積工程)
図2は、実施形態の光ファイバ用ガラス母材の製造方法における堆積工程を説明するための模式図である。
本工程では、コア母材10を反応容器7に入れた状態のまま、コア母材10のエッチング処理面に、例えば石英ガラス微粒子を堆積させてスート堆積層(外付け層)を形成することにより光ファイバ用石英多孔質母材を得る。
【0026】
コア母材10を反応容器7に入れた状態のままスート堆積層を形成するため、コア母材10を、異物、不純物等が除去されて清浄となった状態のままで石英ガラス微粒子の堆積を開始できる。そのため、再現性よく伝送損失の増加を抑制できる。コア母材10は、光ファイバにおいて光信号の大部分が通るコアとなるため、コア母材10が清浄な状態を維持することによって、伝送損失の増加を効果的に抑制できる。また、コア母材10が清浄な状態を維持できるため、紡糸工程において断線の頻度を低くすることもできる。
【0027】
コア母材10を反応容器7に入れた状態のままスート堆積層を形成することによって、前工程(エッチング工程)における加熱によりコア母材10が高温となった状態のまま、石英ガラス微粒子の堆積を開始できる。そのため、コア母材10との界面付近のスート堆積層のスートかさ密度が高くなりやすく(すなわち硬くなりやすく)、焼結時にコア母材10からスート堆積層が剥離することを防ぐことができる。
【0028】
石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、コア母材10のエッチング処理面の温度は50℃以上とされる。コア母材10のエッチング処理面の温度は60℃以上とすることがより好ましい。このようにすることで、光ファイバ用ガラス母材において、コア母材10とスート堆積層との間で剥離およびずれを抑制する効果がより高くなる。
石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、コア母材10のエッチング処理面の温度は、400℃以下とすることが好ましく、350℃以下とすることがより好ましい。このようにすることで、光ファイバ用ガラス母材について、その特性に影響を与えることなく、水酸基の量を低減する効果がより高くなる。通常は、エッチング処理面の温度が低いほど、水はエッチング処理面と結合(反応)し難くなり、容易に脱離可能となるので、多孔質母材の脱水および焼結処理時における脱水効果が高くなる。
エッチング処理面の温度は、例えば、サーモトレーサや非接触式のレーザ放射温度計を用いる公知の方法により、簡便に測定できる。
【0029】
堆積させる石英ガラス微粒子は、石英ガラス原料ガス、水素(H
2)ガス、酸素ガスおよび不活性ガスを用いて、酸水素火炎中で生成させることが好ましい。
前記石英ガラス原料ガスとしては、四塩化ケイ素(SiCl
4)ガスの他に、OMCTSガス、HMDSOガスのような有機シリコン系のガス等が例示できる。
前記不活性ガスとしては、アルゴンガス、窒素ガスが例示できる。
【0030】
石英ガラス微粒子の堆積温度(デポジション温度)は、600〜1250℃であることが好ましく、700〜1200℃であることがより好ましい。
【0031】
石英ガラス微粒子の堆積は、コア母材10に対して、その長手方向に沿って、石英ガラス微粒子を生成する石英ガラスバーナ5を相対移動させることで行うのが好ましい。ここで、「コア母材10に対して石英ガラスバーナ5を相対移動させる」とは、プラズマトーチ6の場合と同様であり、(i)コア母材10を固定して石英ガラスバーナ5を移動させる、(ii)石英ガラスバーナ5を固定してコア母材10を移動させる、(iii)コア母材10および石英ガラスバーナ5を共に移動させる(ただし、移動速度の絶対値と移動方向が共に同じである場合を除く)、のいずれかを意味する。
【0032】
コア母材10および石英ガラスバーナ5は、いずれもコア母材10の長手方向(中心軸方向)に沿って移動させる。このときの移動方向は、二方向のうちいずれの方向であってもよい。例えば、前記(iii)の場合、コア母材10および石英ガラスバーナ5は、同一方向に移動させてもよいし、反対方向に移動させてもよい。
石英ガラス微粒子の堆積を複数回繰り返して行う場合に、前記移動方向は、すべての回で同一方向であってもよいし、すべての回で異なる方向であっても(一方向ずつ二回行っても)よく、一部の回のみ異なる方向であってもよい。
図2のように1つのユニットにバーナが2本設置されている場合は、1回の移動で2本分のバーナで石英ガラス微粒子を堆積できるので、2回の堆積と数える。3本以上(n本:nは3以上の整数)の場合は、1回の移動で当該数nのバーナで石英ガラス微粒子を堆積できるので、その数(n回)の堆積と数える。
【0033】
石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了までの間において、石英ガラスバーナ5の前記相対移動の速度の絶対値は、一定としてもよいし、変動させてもよいが、一定とすることが好ましい。一定とすることで、石英ガラス微粒子のスート堆積層の厚さが、コア母材10の長手方向においてより均一となる。
【0034】
排気ダクト内と、反応容器7が置かれたブース内の圧力は、エッチング工程の場合と同様である。
コア母材10は、同じ軸回りに矢印A方向に対して反対方向に回転させてもよく、石英ガラスバーナ5は、矢印B方向に対して反対方向(右側)に移動させてもよい。コア母材10の前記回転の回転数は、エッチング工程の場合と同様である。
【0035】
石英ガラス微粒子の堆積は、二回以上(すなわち複数回)繰り返して行う。繰り返し数は、目的とする光ファイバ用ガラス母材の大きさに応じて適宜調節すればよく、例えば、数百回程度とすることができる。
【0036】
石英ガラス原料ガスの流量は、前記堆積のうち少なくとも最初の一回が、石英ガラス原料ガスの流量が定常値に対して50%以下(例えば5〜50%)とされる。
石英ガラス原料ガスの流量は、最初の一回から定常値に達するまで連続的に増加するのが好ましい。
石英ガラス原料ガスの流量は、複数回の石英ガラス微粒子の堆積の全堆積回数のうち、開始から20%までの範囲の少なくともいずれかの前記堆積で定常値に達することが好ましい。これによって、生産性の低下を抑えることができる。
石英ガラス原料ガスの流量は、複数回の石英ガラス微粒子の堆積の全堆積回数のうち、開始から21%までの範囲の少なくともいずれかの前記堆積で定常値に達してもよい。
石英ガラス原料ガスの流量は、前記定常値に達するまでの少なくとも一回の堆積で、定常値に対して5〜50%となってもよい。
【0037】
図3は、石英ガラス微粒子の堆積の回数(横軸)と石英ガラス原料ガスの流量(縦軸)との関係を示す図である。
この図に示す例では、全堆積回数のうち開始から20%に相当する回において、石英ガラス原料ガスの流量は定常値S1に達している。定常値S1は、石英ガラス原料ガスの最大流量M1に対して90%以上(例えば90〜100%)の値であればよい。この例では、最大流量M1は、石英ガラス微粒子の堆積の最終の回における石英ガラス原料ガスの流量であるが、最大流量は、堆積の最終の回における流量でなくてもよい。
この例では、最初の回の堆積における石英ガラス原料ガスの流量F1は、定常値S1に対して50%以下(詳しくは5〜50%の範囲)である。
【0038】
この製造方法では、前記堆積のうち少なくとも最初の一回は、石英ガラス原料ガスの流量F1が定常値S1に対して50%以下とされるため、スート堆積層の形成の初期において、薄くかつ硬い堆積層を形成することができる。堆積層が硬いため、コア母材10に対するスート堆積層のズレおよび剥離が起こりにくくなる。また、堆積層が薄いため、フッ素原子が拡散しやすくなる。よって、スート堆積層におけるフッ素拡散と、スート堆積層のズレ・剥離の防止とを両立できる。
【0039】
堆積工程において最初の一回の堆積から定常値S1に達するまで、石英ガラス原料ガスの流量を連続的に増加させることによって、定常値S1に達するまでの原料ガスの流量の変動を抑えることができる。よって、薄くかつ硬い堆積層を形成することができる。
【0040】
スート堆積層のかさ密度は、平均で0.17g/cm
3〜0.33g/cm
3が好ましい。
スート堆積層のかさ密度は、高すぎればドーパントとしてのフッ素の拡散が困難になるためクラッドの屈折率が低くならず、かさ密度が低すぎればスート堆積層が割れを起こしやすいが、スート堆積層のかさ密度が前記範囲であると、ドーパントとしてのフッ素が拡散しやすく、かつスート堆積層の割れが起こりにくくなる。
【0041】
(塩素添加工程)
塩素原子を含むガスの雰囲気下で、多孔質母材を加熱処理することによって、スート堆積層を脱水処理すると同時にスート堆積層に塩素を添加することができる。
塩素原子を含むガスは、例えば塩素系ガス(例えばSOCl
2、Cl
2など)を含む不活性ガス(例えばAr、He)である。
加熱処理の温度は、1000〜1300℃が好ましい。
塩素の添加によって、伝送損失を低減することが可能である。特に、スート堆積層が内側クラッド12(コア11に隣接する層。
図4参照)である場合には、伝送損失を低減する効果が高い。なお、塩素は、外側クラッド13となるスート堆積層に添加してもよい。
【0042】
(フッ素添加工程)
フッ素原子を含むガスの雰囲気下で、多孔質母材を加熱処理することによって、焼結工程前に予めスート堆積層にフッ素を添加することができる。
フッ素原子を含むガスは、例えばフッ素系ガスを含む不活性ガス(例えばAr、He)である。このときのフッ素含有ガスとしては、前記エッチング処理においてエッチングガスとして用いるフッ素含有ガスと同じもの(SF
6、C
2F
6、SiF
4、CF
4)が例示できる。フッ素含有ガスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
加熱処理の温度は、1000〜1300℃が好ましい。
焼結工程前にフッ素添加工程を設けることによって、母材に均一にフッ素を添加することが可能である。
フッ素添加工程は、外側クラッド13の形成時にも実施してもよく、フッ素添加工程無しでも均一にフッ素が添加できる場合は省略してもよい。また、前述の塩素原子を含むガスとフッ素原子を含むガスを同時に流すことで、塩素添加工程とフッ素添加工程を同時に実施することも可能である。
【0043】
(焼結工程)
コア母材10のエッチング処理面に石英ガラス微粒子を堆積させた後は、得られた光ファイバ用石英多孔質母材を透明ガラス化する。透明ガラス化は、光ファイバ用石英多孔質母材を焼結処理することで行うことができる。
【0044】
焼結処理は、フッ素含有ガスの存在下で行うことにより、フッ素添加を行い、透明ガラス化した層(外付け層)の屈折率を低下させることができる。このときのフッ素含有ガスとしては、前記エッチング処理においてエッチングガスとして用いるフッ素含有ガスと同じもの(SF
6、C
2F
6、SiF
4、CF
4)が例示できる。フッ素含有ガスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。フッ素添加工程を実施する場合は、フッ素添加工程で用いたフッ素含有ガスと同じものを用いることが好ましい。
前記焼結処理は、ヘリウムガス等の不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。
【0045】
透明ガラス化した後は、形成した透明ガラス化層(外付け層)の外側に、さらに外付け層を追加形成して光ファイバ用ガラス母材とすることができる。
追加形成する外付け層は、公知の方法で形成してもよいし、上記の透明ガラス化で得られたものをコア母材10に代えて用い、上記の製造方法を適用して形成してもよい。
追加形成する外付け層の数および種類は、目的とする光ファイバ用ガラス母材の構造に応じて、任意に設定できる。
【0046】
焼結工程後のスート堆積層の外径は、コア母材10の外径(エッチング工程後の外径)の5倍以下であることが好ましい。これによって、スート堆積層の割れを起こりにくくできるため、生産性を高めることができる。また、スート堆積層の外径がコア母材10の長手方向で変動するのを防ぐことができる。また、スート堆積層の外径を前記範囲とすることによって、フッ素原子が拡散しやすくなる。
【0047】
図4は、実施形態の製造方法により得られた光ファイバ用ガラス母材の例の断面と、各層の屈折率とを示す概略図である。
図4に示す光ファイバ用ガラス母材1は、コア11、内側クラッド12および外側クラッド13がこの順に設けられている。
コア11は、シリカガラスからなる。コア11は、ゲルマニウムを実質的に含まないシリカガラスからなることが好ましい。
内側クラッド12および外側クラッド13は、目的とする屈折率を得るために、フッ素等のドーパントが添加されている。
光ファイバ用ガラス母材1は、内側クラッド12および外側クラッド13の形成時に、それぞれ前記製造方法を適用することで製造できる。
【0048】
図5は、実施形態の製造方法により得られた光ファイバ用ガラス母材の他の例の断面と、各層の屈折率とを示す概略図である。
図5に示す光ファイバ用ガラス母材2は、コア11A、内側クラッド12A、および外側クラッド13Aがこの順に設けられている。
内側クラッド12A、および外側クラッド13Aは、目的とする屈折率を得るために、フッ素等のドーパントが添加されている。
光ファイバ用ガラス母材2は、内側クラッド12A、および外側クラッド13Aの形成時に、それぞれ前記製造方法を適用することで製造できる。
【0049】
図6は、実施形態の製造方法により得られた光ファイバ用ガラス母材の他の例の断面と、各層の屈折率とを示す概略図である。
図6に示す光ファイバ用ガラス母材3は、コア11B、内側クラッド12B、トレンチ層14および外側クラッド13Bがこの順に設けられている。
内側クラッド12B、トレンチ層14および外側クラッド13Bは、目的とする屈折率を得るために、フッ素等のドーパントが添加されている。
光ファイバ用ガラス母材3は、内側クラッド12B、トレンチ層14および外側クラッド13Bの形成時に、それぞれ前記製造方法を適用することで製造できる。
なお、コアの外側に設けられる層の数は、2層(
図4、
図5参照)、3層(
図6参照)に限らず、1層または4層以上でもよい。
【0050】
プラズマエッチングによるエッチング工程は、コア11に隣接する内側クラッド12(外付け層)を形成する際には必須であるが、2層目以降の層(例えば外側クラッド13、トレンチ層14)については、水酸基の影響による波長1.55μmにおける損失増が小さければ、なくてもよい。プラズマエッチングを行わない場合には、これに代えて、酸水素火炎などによる火炎研磨を行うことができる。
【0051】
実施形態の製造方法によれば、スート堆積層の厚さに制限がないため、コア母材10の外径が大きくても厚いスート堆積層を形成することができる。よって、光ファイバ母材の大型化が容易である。
また、多数のコア母材とパイプを用意しておく必要がある前述の製造方法とは異なり、コア母材10の外径や屈折率に応じてスート堆積層の厚さや屈折率を調整できるため、製造が容易であってコスト低減が可能であり、特性も安定しやすい。また、パイプの作製やコラプス工程に起因する問題(パイプ作製時の穴開けや洗浄中に不純物が入りやすく伝送損失が大きくなりやすいなど)も生じない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されない。
【0053】
[試験例1]
<光ファイバ用ガラス母材の製造>
図1および
図2を参照して説明した方法により光ファイバ用ガラス母材を製造した。具体的には、以下の通りである。
【0054】
(エッチング工程)
VAD法で作製した母材を延伸して得られたコア母材10(外径20.0mm)の両端部にダミー母材9を同軸状に接続し、反応容器7内でこれを回転チャック8,8で把持した。コア母材10の長手方向に沿ってプラズマトーチ6を移動させることで、コア母材10の表面をプラズマ火炎でエッチング処理した。エッチング処理後のコア母材10の外径は19.4mmであったため、コア母材10の外径は0.6mm小さくなった。
【0055】
(堆積工程)
次いで、コア母材10を反応容器7に入れた状態のまま、エッチング処理後時間を空けることなく、コア母材10の長手方向に沿って石英ガラスバーナ5を移動させつつ、コア母材10に石英ガラス微粒子を堆積させた。石英ガラス微粒子が堆積する直前のコア母材表面の温度は330℃であった。石英ガラス微粒子の堆積は、ガラスロッドの一端から他端に向けて石英ガラスバーナ5を一方向に一回移動させることで行った。一回目と同方向に石英ガラスバーナ5のみを複数回繰り返して移動させることにより、石英ガラス微粒子の堆積を302回行った。
石英ガラス微粒子は、石英ガラス原料ガス、水素ガスおよび酸素ガスを用い、さらに不活性ガスとしてアルゴンガスおよび窒素ガスを用いて、酸水素火炎中で生成させることで堆積させた。
これにより、光ファイバ用石英多孔質母材を作製した。
石英ガラス原料ガスの流量は、1回目の堆積において1.5SLMとし、32回目(全堆積回数のうち開始から10.6%)で5SLM(定常値)に達し、以後、最後の302回目の堆積まで5SLMを維持した。1回目の堆積における石英ガラス原料ガスの流量1.5SLMは、定常値(5SLM)に対して30%である。石英ガラス原料ガスの流量は、1回目の堆積から32回目の堆積まで連続的に増加させた。
【0056】
(塩素添加工程)
前記光ファイバ用石英多孔質母材を焼結炉に入れ、塩素ガスと不活性ガスを含むガス雰囲気下で1100度に加熱した。
【0057】
(焼結工程)
前記焼結炉内で、前記光ファイバ用石英多孔質母材に対して、SiF
4とヘリウムの混合ガス中で焼結処理およびフッ素添加を行った。
これにより、
図4に示す光ファイバ用ガラス母材1のうち、コア11および内側クラッド12の部分(以下、中間母材という)を作製した。
【0058】
前記中間母材に対し、内側クラッド12の作製と同様に、エッチング工程、堆積工程、塩素添加工程、焼結工程を行うことによって、外側クラッド13を形成した。
これにより、
図4に示す光ファイバ用ガラス母材1を得た。
【0059】
<光ファイバの製造>
得られた光ファイバ用ガラス母材1を、従来法により素線化して、外側クラッドの外径が125μmの光ファイバを製造した。そして、得られた光ファイバの損失(1.55μm損失)を測定した。また、紡糸中の断線回数を記録した。また、中間母材においてのコア11と内側クラッド12との間に生じるズレおよび剥離の有無を調べた。測定結果を表1に示す。
【0060】
[試験例2]
エッチング工程の後1時間経過して十分母材が冷却された後に、プラズマ火炎により加熱する予熱工程を行い、その直後から堆積工程を行った。堆積工程直前の母材表面温度は310℃であった。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0061】
[試験例3]
エッチング工程を行わないこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。石英ガラス微粒子が堆積する直前のコア母材表面の温度は21℃であった。測定結果を表1に示す。
【0062】
[試験例4]
エッチング工程に代えて、酸水素火炎の火炎研磨を行ったこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。石英ガラス微粒子が堆積する直前のコア母材表面の温度は540℃であった。測定結果を表1に示す。
【0063】
[試験例5]
エッチング工程後、コア母材10を反応容器7から取り出して放置した後、再び反応容器7に入れてプラズマ火炎により加熱する予熱工程を行い、堆積工程を行ったこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。堆積工程直前の母材表面温度は315℃であった。
【0064】
[試験例6]
堆積工程において、石英ガラス原料ガスの流量を、1回目の堆積から最後の296回目の堆積に至るまで5SLMとしたこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0065】
[試験例7]
エッチング工程の後1時間経過して十分母材が冷却された後に、プラズマ火炎により加熱する予熱工程を行わずに堆積工程を行った。堆積工程直前の母材表面温度は22℃であった。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0066】
[試験例8]
エッチング工程を行わずにプラズマ火炎により加熱する予熱工程を行い、その直後から堆積工程を行った。堆積工程直前の母材表面温度は310℃であった。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0067】
[試験例9]
堆積工程において、石英ガラス原料ガスの流量を、1回目の堆積において0.25SLMとし、32回目(全堆積回数のうち開始から10.7%)で5SLM(定常値)に達し、以後、最後の299回目の堆積まで5SLMを維持した。1回目の堆積における石英ガラス原料ガスの流量0.25SLMは、定常値(5SLM)に対して5%である。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0068】
[試験例10]
堆積工程において、石英ガラス原料ガスの流量を、1回目の堆積において2.5SLMとし、32回目(全堆積回数のうち開始から10.3%)で5SLM(定常値)に達し、以後、最後の312回目の堆積まで5SLMを維持した。1回目の堆積における石英ガラス原料ガスの流量2.5SLMは、定常値(5SLM)に対して50%である。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0069】
[試験例11]
堆積工程において、石英ガラス原料ガスの流量を、1回目の堆積において3.5SLMとし、32回目(全堆積回数のうち開始から10.5%)で5SLM(定常値)に達し、以後、最後の304回目の堆積まで5SLMを維持した。1回目の堆積における石英ガラス原料ガスの流量3.5SLMは、定常値(5SLM)に対して70%である。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0070】
[試験例12]
堆積工程において、石英ガラス原料ガスの流量を、1回目の堆積において2.5SLMとし、64回目(全堆積回数のうち開始から20.9%)で5SLM(定常値)に達し、以後、最後の306回目の堆積まで5SLMを維持した。1回目の堆積における石英ガラス原料ガスの流量2.5SLMは、定常値(5SLM)に対して50%である。
これらのこと以外は試験例1と同様にして光ファイバ用ガラス母材1および光ファイバを製造した。測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、試験例1,2,9,10,12では、スート堆積層のズレまたは剥離が起こらず、損失も小さく、紡糸中の断線も起こらなかった。
これに対し、エッチング工程を行わなかった試験例3では、スート堆積層のずれが生じた。また、損失が大きく、断線も生じた。試験例3では、エッチングによって母材が加熱することなくスートが堆積されたことで、界面付近のスート堆積層のスートかさ密度が低くなりスート堆積層のズレが生じた可能性がある。さらに、エッチングによってガラス表面の水酸基が取り除かれなかったためにOH損失が増大したと推測される。また、コア母材10の表面の清浄化が不十分であったことは、断線の原因となったと推測できる。
試験例4では、酸水素火炎の火炎研磨により、コア母材10の表面に水酸基が残存したことがOH損失の増大を招いた可能性がある。
試験例5では、エッチング工程後、コア母材10を反応容器7から取り出したため、コア母材10の表面の清浄性が損なわれたことが断線の増加の原因となったと推測できる。
試験例6,11では、石英ガラス原料ガスの流量が最初から高いため、スート堆積層の形成の初期において、コア母材10からの剥離が起こりやすい堆積層が形成された可能性がある。
試験例7では、プラズマ火炎により加熱する予熱工程を行わなかったために、界面付近のスート堆積層のスートかさ密度が低くなり、スート堆積層にズレが生じた可能性がある。
試験例8では、エッチングによってガラス表面の水酸基を取り除かれなかったためにOH損失が増大したと推測される。また、コア母材10の表面の清浄化が不十分であったことは、断線の原因となったと推測できる。
【0073】
実施形態の製造方法は、コア母材作製工程、エッチング工程、予熱工程、堆積工程、塩素添加工程、焼結工程を有するが、これらのうち、予熱工程、塩素添加工程の一方または両方は状況によって省略することも可能である。
また、コア母材の作製方法としては、プラズマ法、MCVD法などの酸化法も例示できるが、VAD法などのスート法が好ましい。
光ファイバ母材は、コアと、その外側に設けられたクラッドからなる構成も可能である。その場合には、前述の製造方法において、コア母材の外面に外付け層を形成したものが光ファイバ母材となる。