特許第6446427号(P6446427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446427
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】反応器を停止する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/04 20060101AFI20181217BHJP
   B01J 23/26 20060101ALI20181217BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20181217BHJP
   B01J 8/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B01J38/04 Z
   B01J23/26 Z
   B01J37/16
   B01J8/02 B
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-501411(P2016-501411)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2016-518962(P2016-518962A)
(43)【公表日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】US2014024075
(87)【国際公開番号】WO2014159543
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】61/781,531
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505241038
【氏名又は名称】クラリアント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】フリードマン,ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】パンディトラオ,スニル エス
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−510534(JP,A)
【文献】 特表2010−517752(JP,A)
【文献】 特表2007−528786(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0043142(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01J 8/00− 8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水素反応器を停止する方法であって、脱水素反応器は、クロム含有触媒を含む触媒床を収容し、該触媒床は、標準的な脱水素条件下において500℃〜800℃の範囲にある第1の上昇温度で作動し、前記方法は、
(a)前記触媒床を、水素含有ガスを含まない第1の冷却ガスによって、前記第1の上昇温度から、前記第1の上昇温度よりも低い300℃〜500℃の範囲にある第2の上昇温度に冷却することと、
(b)前記第2の上昇温度付近で前記触媒床を維持しながら、蒸気、窒素及びこれらの混合物から選択されたガスをパージ媒体として使用することにより、又は減圧により、前記触媒床から前記第1の冷却ガスを除去することと、
(c)前記触媒中のクロムの少なくとも一部を化学的還元させ酸化が還元された状態にするのに十分な時間、還元ガスによって前記触媒床を処理することと、
(d)前記触媒床を、第2の冷却ガスによって、前記第2の上昇温度から、前記第2の上昇温度よりも低い155℃〜320℃の範囲にある第3の上昇温度に冷却することと、
(e)蒸気、窒素及びこれらの混合物並びに他の非反応性媒体から選択されるガスをパージ媒体として使用することにより、前記触媒床から前記還元ガスを除去することと、
(f)前記触媒床を、第3の冷却ガスによって、前記第3の上昇温度から、前記第3の上昇温度よりも低い50℃〜150℃の範囲にある第4の上昇温度に冷却することと、
(g)前記触媒床を、第4の冷却ガスによって、前記第4の上昇温度から周囲温度に冷却すること
とを含み、前記反応器が停止すると、前記触媒中のクロムの少なくとも一部が、酸化が還元された状態にある前記方法。
【請求項2】
前記第1の上昇温度から前記第2の上昇温度への前記触媒床の冷却速度が、毎時50℃以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の冷却ガスが加熱空気である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の上昇温度が、550℃〜700℃の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の冷却ガスの除去が、前記反応器を0.5atm以下の圧力に減圧することによって遂行される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の上昇温度が、350℃〜450℃の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記還元ガスが、イソブタン、プロパン、n−ブタン、プロピレン、天然ガス一酸化炭素、及びこれらのうちのいずれかの混合物から選択されるガスを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記還元ガスが、前記触媒床の温度を、前記第2の上昇温度から前記第3の上昇温度に低下させるように、第2の冷却ガスとしても機能する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第3の冷却ガスが、前記触媒床を前記第4の上昇温度に冷却し、かつ前記触媒床から前記還元ガスをパージするように機能する請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の冷却ガスが、前記触媒床が所望の酸化状態に達した後、導入され、前記触媒床から前記還元ガスをパージするように機能する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の冷却ガスが化学的に不活性である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第3の上昇温度が、280℃から320℃の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第4の冷却ガスが空気である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
空気が前記反応器内に導入される場合、前記反応器の前記第4の上昇温度が、前記触媒中のクロムが酸化されない程度に十分低い請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2013年3月14日に出願された米国仮特許出願第61/781,531号に関する優先権を主張し、この仮特許出願は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本出願は、クロム含有触媒を含む触媒床を有する脱水素反応器を停止する方法に関する。具体的には、本出願は、クロム含有触媒を含む触媒床を有する脱水素反応器を停止する方法であって、停止後、クロムの少なくとも一部、好ましくはクロムの大部分が、酸化が還元された状態(reduced oxidation state)にある方法に関する。
【背景技術】
【0003】
不飽和炭化水素、例えばオレフィンは、アルカンの接触脱水素によって誘導され、反応物よりも有用で価値のある生成物を生成することができる。オレフィンは、重合によって価値のある生成物を生成していく多くの工程の原料である。アルカンの接触脱水素は、アルケンを製造する選択的な方法であり、1930年代に商業化された。
【0004】
かかる接触脱水素工程の一つは、アルカンから、例えば、イソブタン、プロパン及びイソペンタンから、アルケン、例えば、イソブチレン、プロピレン及びアミレンをそれぞれ生成するCATOFIN(登録商標)工程である。CATOFIN(登録商標)工程は、ポリプロピレンへの前駆体物質であるプロペンの製造に利用される最も普及している接触脱水素工程である。別の脱水素工程は、同じ炭素数のジオレフィン、すなわちジエンを生成するC及びCの接触脱水素を生じるCATADIENE(登録商標)工程である。CATOFIN(登録商標)工程及びCATADIENE(登録商標)工程は、脱水素期間と再生期間とを迅速に交互に生じさせる循環動作により、一連の断熱固定床反応器内の担持クロム触媒を利用する。担持クロム触媒を利用する他の接触脱水素工程は、当該技術分野において公知である。かかる工程は、通常、頻繁に高温再生サイクルを利用する。
【0005】
軽質炭化水素の脱水素に用いられる触媒は、通常、酸化アルミニウム担体の表面に担持された酸化クロム、すなわち、クロム‐アルミナ触媒を含む。クロム‐アルミナ触媒(Cr/Al)などの担持クロム触媒を利用する工程は、周知であり、技術文献とともに多くの特許にも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脱水素触媒は、複数の脱水素サイクルと再生サイクルとを交互にすることによって長時間使用した後に消費されるようになる。反応器から使用済み触媒を取り出し、新しい触媒と交換する必要がある。反応器から使用済み触媒が取り出される場合、使用済み触媒中のクロムの少なくとも一部、好ましくはこのクロムの大部分が、酸化が還元された状態にあることが好ましい。本出願人は、驚くべきことに、脱水素反応器を停止する方法であって、使用済み触媒中のクロムの少なくとも一部、好ましくはこのクロムの大部分が、酸化が還元された状態になる方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の上昇温度Tで作動し、クロム含有触媒を備えた触媒床を有する脱水素反応器の停止方法は、触媒床を、第1の冷却ガスによって、Tよりも低い第2の上昇温度Tに冷却することと、触媒床から第1の冷却ガスを除去することと、還元ガスによって触媒床を処理し、触媒中のクロムを酸化が還元された状態にすることと、触媒床を、第2の冷却ガスによって、第2の上昇温度Tから、Tよりも低い第3の上昇温度Tに冷却することと、触媒床から還元ガスを除去することと、触媒床を、第3の冷却ガスによって、第3の上昇温度Tから、Tよりも低い第4の上昇温度Tに冷却することと、触媒床を周囲温度Tambに冷却することと、を含み、これによって、脱水素反応器が停止し、使用済み触媒を取り出すことができる。本出願による方法の終了時に、クロム含有触媒中のクロムの少なくとも一部、好ましくはこのクロムの大部分が、酸化が還元された状態にあることが有利である。
【0008】
触媒を、第1の上昇温度Tから第2の上昇温度Tにさせた後に、還元ガスを導入し、触媒を、所望の酸化が還元された状態にすることが好ましい。一実施形態において、還元ガスと第2の冷却ガスは、同一のガスである。別の実施形態において、還元ガスと第2の冷却ガスは、異なるガスである。
【0009】
触媒が所望の酸化状態に達した後、還元ガスは、触媒床からパージされることが好ましい。第2の冷却ガスが還元ガスと異なる場合、第2の冷却ガスは、還元ガスパージ媒体として機能し得る。他の場合、第3の冷却ガスは、還元ガスパージ媒体として機能し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願は、概して、軽質アルカンから軽質オレフィン及びジオレフィンを製造するのに用いられる脱水素反応器の停止方法であって、反応器が、クロム含有触媒を含む触媒床を有し、これによって、本出願による停止方法の終了時に、触媒床中のクロムの少なくとも一部、好ましくはこのクロムの大部分が、酸化が還元された状態にある方法に関する。
【0011】
クロム含有触媒を含む触媒床を収容する脱水素反応器のかかる停止方法であって、触媒床が、標準的な脱水素条件下において第1の上昇温度で作動する方法の一例示的実施形態は、
(a)触媒床を、第1の冷却ガスによって、第1の上昇温度から、この第1の上昇温度よりも低い第2の上昇温度に冷却することと、
(b)前述した第2の上昇温度付近で触媒床を維持しながら、触媒床から第1の冷却ガスを除去することと、
(c)触媒中のクロムの少なくとも一部を化学的還元させ酸化が還元された状態にするのに十分な時間、還元ガスによって触媒床を処理することと、
(d)触媒床を、第2の冷却ガスによって、第2の上昇温度から、この第2の上昇温度よりも低い第3の上昇温度に冷却することと、
(e)触媒床から還元ガスを除去することと、
(f)触媒床を、第3の冷却ガスによって、第3の上昇温度から、この第3の上昇温度よりも低い第4の上昇温度に冷却することと、
(g)触媒床を、第4の冷却ガスによって、第4の上昇温度から周囲温度に冷却することと、を含み、反応器が停止すると、触媒中のクロムの少なくとも一部が、酸化が還元された状態にある。
【0012】
一実施形態において、この停止方法の終了時に、50%を超えるクロムが、酸化が還元された状態にある。好適な実施形態において、この停止方法の終了時に、少なくとも75%のクロムが、酸化が還元された状態にある。より好適な実施形態において、この停止方法の終了時に、少なくとも90%のクロムが、酸化が還元された状態にある。最も好適な実施形態において、この停止方法の終了時に、少なくとも99%のクロムが、酸化が還元された状態にある。
【0013】
脱水素反応器システムには、概して、炭化水素原料、空気及び還元ガスを受け入れる反応器入口を有する脱水素反応容器と、反応器排出物を排出する2つの反応器出口であって、その一方が炭化水素及び還元ガスを排出し、他方が空気を排出する2つの反応器出口と、が含まれている。脱水素反応容器は、脱水素反応帯を画定し、脱水素触媒ペレットであって、通常、不活性なα‐アルミナと混合され、互いに充填され、脱水素触媒床を形成する脱水素触媒ペレットを含有し得る。
【0014】
作動時に、脱水素原料は、第1の上昇温度において脱水素触媒との脱水素反応条件下で作動する脱水素反応器内に導入される。作動時に、脱水素反応器は循環モードにより作動し、サイクルの脱水素部分の後に、触媒表面から炭化水素をパージするのに十分な時間、蒸気パージが続く。次いで、触媒は、空気、続いて触媒床の除去、そして、還元ガスを用いた触媒の還元によって再生される。以上の段階はすべて、第1の上昇温度で行われる。還元が終了すると、新しい脱水素サイクルを開始することができる。
【0015】
当該技術分野において知られているように、脱水素反応器システムは、複数の並列反応器を備えていてもよい。システムの規模及び生産速度に応じて、通常、3〜10個の反応器は循環モードで作動し、これによって、同時に、一部の反応器は、還元、除去又は蒸気パージなどのサイクルの中間段階において作動し、他の反応器はサイクルの脱水素段階において作動し、さらに、他の反応器は再生される。
【0016】
炭化水素脱水素反応器の動作において、触媒、例えばAl‐Crは、数年持続させることができる。触媒性能が低下するので、使用済み触媒を取り出し、新しい触媒材料と交換する必要がある。反応器システムの停止には、通常、使用済み触媒を、その取出し前に冷却する手順が必要である。
【0017】
本出願によれば、クロム含有触媒を備えた触媒床を有する脱水素反応器の停止方法は、ここに説明するように、段階1においては、反応器は第1の上昇温度Tで作動し、本方法は、(a)触媒床を、第1の冷却ガスによって、触媒床が第2の上昇温度Tにある段階2まで冷却する段階と、(b)前述した第2の上昇温度付近で触媒床を維持しながら、触媒床から第1の冷却ガスを除去する段階と、(c)触媒中のクロムの少なくとも一部を化学的還元させ酸化が還元された状態にするのに十分な時間、還元ガスによって触媒床を処理する段階と、(d)触媒床を、第2の冷却ガスによって、第2の上昇温度Tから、触媒床が第3の上昇温度Tにある段階3に冷却する段階と、(e)触媒床から還元ガスを除去することと、(f)触媒床を、第3の冷却ガスによって、第3の上昇温度Tから、触媒床が第4の上昇温度Tにある段階4に冷却する段階と、(g)触媒床を、触媒床が周囲温度Tambにある最終段階に冷却する段階と、を含み、脱水素反応器が停止し、使用済み触媒を取り出すことができる。この停止方法の終了時に、触媒床中のクロムの少なくとも一部、好ましくはこのクロムの大部分が、酸化が還元された状態にあることが有益である。
【0018】
一例示的実施形態において、1つ以上の冷却段階では、冷却速度は、触媒床の触媒の温度変化速度が、毎時約50℃以下、好ましくは毎時約20℃以下、より好ましくは毎時約10℃以下であるように制御される。好適な実施形態において、それぞれの冷却段階では、触媒床の触媒の温度変化速度は、毎時約50℃以下、好ましくは毎時約20℃以下、より好ましくは毎時約10℃以下である。
【0019】
一例示的実施形態において、触媒床が段階1にあり、第2の上昇温度Tへの触媒床の第1の冷却よりも前の段階にある場合、第1の上昇温度Tの脱水素反応器への脱水素原料導入を終了し、第1の上昇温度Tの触媒は、上述したもののような標準的な脱水素‐再生操作手順に供される。脱水素‐再生操作処理が終了すると、脱水素触媒は、脱水素原料の終了及び最後の再生直前では既存の反応器温度条件に近似する第1の上昇温度Tにあり、触媒中のクロムの実質的な割合は、酸化が還元された状態にある。
【0020】
脱水素触媒床の第1の上昇温度Tは、500℃〜約800℃、好ましくは525℃〜750℃、最も好ましくは550℃〜700℃の範囲とすることができる。
【0021】
本出願によれば、第1の上昇温度Tの脱水素触媒は、第1の冷却ガスによって、第2の上昇温度Tを特徴とする段階2まで冷却される。第2の上昇温度Tは、上述した脱水素触媒床の第1の上昇温度Tよりも低く、約300℃から第1の上昇温度よりもわずかに低い温度の範囲、好ましくは約325℃〜約500℃、最も好ましくは約350℃〜約450℃の範囲とすることができる。
【0022】
第1の上昇温度Tから第2の上昇温度Tへの触媒床の冷却は、入口を介し所望の温度で第1の冷却ガスを導入することによって遂行することができる。一実施形態において、第1の冷却ガスは、入口を介し反応帯に流入する前に、空気加熱器を通過する空気である。脱水素反応器内の第1の冷却ガスの圧力は、大気圧未満から40psia以上の範囲とすることができる。空気加熱器の温度は、触媒床の触媒の温度変化速度が、毎時約50℃以下、好ましくは毎時約20℃以下、より好ましくは毎時約10℃以下であるように、所定の割合で徐々に低下させることができる。この遅い変化速度によって、脱水素反応器及び空気予熱器の熱衝撃を回避しながら、反応器内の脱水素触媒床が徐々に冷却される。反応器出口における冷却ガスの温度によって測定されるように、触媒床は、上述した所望の第2の上昇温度に達するまで、この冷却は継続する。本出願の一部の実施形態では、反応器の規模に応じて、この第1の冷却段階は、数時間から数日かかり得る。所望の第2の上昇温度Tに達すると、第1の冷却ガスの流入は終了する。
【0023】
第1の冷却ガスの流入が終了し、第2の段階に達した後、残留する第1の冷却ガスの大部分は反応器から除去される。この除去は、種々の方法によって遂行することができる。一実施形態において、第1の冷却ガスは、好ましくは0.5気圧以下の排出圧力により、排出によって除去される。別の実施形態において、第1の冷却ガスは、約10秒から最大数分継続され得るような第1の冷却ガスを除去するのに十分な時間、空気以外のパージ媒体によりパージすることによって反応器から除去される。第1の冷却ガスの除去は、触媒細孔から、及び脱水素反応器内のいずれかの空隙から、微量の第1の冷却ガスを除去するのに十分であることが好ましい。パージ媒体の温度は、パージ時に第2の上昇温度で触媒床を維持するように、第2の上昇温度Tの範囲に維持される。パージ媒体は、それぞれの反応器部位におけるかかる媒体の有用性、並びにかかる媒体と反応器及び触媒の適合性などの要因に応じて選択することができる。蒸気及び窒素はそれぞれ、通常脱水素設備で用いられる許容可能なパージ媒体であり、このため、容易に利用可能なパージ媒体である。パージが終了すると、パージ媒体の導入は終了する。
【0024】
第1のパージの後、触媒床は、触媒床中のクロムの少なくとも一部を還元させ高い酸化状態から低い酸化状態にするのに十分な時間、還元ガスによって処理される。この処理の開始時に、触媒床は、第2の上昇温度Tにあり、この温度は、還元ガスと触媒中のクロムとの反応を生じさせるのに十分高い温度である。還元ガスは、反応器部位におけるガスの有用性、並びに還元ガスと反応器及び触媒の適合性に応じて選択される。適切な還元ガスとしては、脱水素炭化水素、例えば、イソブタン、プロパン、n‐ブタン、プロピレン、天然ガス、C‐C炭化水素と混合した水素、一酸化炭素、及び前述したいずれかの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。触媒床中のクロムの所望の還元レベルが達成されるまで、還元ガスによる触媒床の処理は継続する。
【0025】
一例示的実施形態において、還元ガスは、還元ガス処理時に、触媒床の温度を、段階2の第2の上昇温度Tから、段階3の第3の上昇温度Tに低下させることができるように、第2の冷却ガスとしても機能し得る熱容量を有する。還元ガスが触媒床を冷却する熱容量を有していない場合、触媒床を、段階2の第2の上昇温度Tから、段階3の第3の上昇温度Tにするのに、別の第2の冷却ガスが用いられる。一実施形態において、第3の上昇温度Tは、約155℃〜320℃の範囲にある。好適な実施形態において、第3の上昇温度Tは、約230℃〜320℃の範囲にある。より好適な実施形態において、第3の上昇温度Tは、約280℃〜320℃の範囲にある。
【0026】
クロムの還元が所望の完全性レベルに達し、反応器ガスの流出により測定されたときに触媒床が第3の上昇温度Tに達した後、還元ガスの導入は終了する。還元ガスが第2の冷却ガスとして機能していない場合、クロムの還元が所望の完全性レベルに達すると、還元ガスの導入は終了し、その後、反応器ガスの流出によって測定されたときに触媒床が第3の上昇温度Tに達するまで、別の第2の冷却ガスが導入される。
【0027】
還元ガスが第2の冷却ガスとして機能していない場合、第2の冷却ガスは、N、CO又はプロピレン若しくはイソブチレンから選択することができ、これらのそれぞれは、現場において液体状態で有利に保存し、反応器への導入時にガス状態に変換することができる。
【0028】
次に、還元ガスは、反応器からパージされる。第2の冷却ガスが還元ガスとは異なる場合、第2の冷却ガスは、パージ媒体として機能し得る。還元ガスと第2の冷却ガスが同一のガスである場合、還元ガスを除去するのに、異なるパージ媒体を用いることができる。パージ媒体は、化学的に不活性であることが好ましく、それぞれの反応器部位におけるかかる媒体の有用性、及び媒体と触媒の適合性に応じて、蒸気、窒素又は他の非反応性媒体とすることができる。また、還元ガスパージ段階のためのパージ媒体は、触媒を、段階3の第3の上昇温度Tから、第3の上昇温度よりも低く、好ましくは約50℃〜150℃の範囲にある段階4の第4の上昇温度Tに冷却する、第3の冷却ガスとして有益に機能し得る。このパージ及び冷却に必要な時間は、第3の上昇温度と第4の上昇温度の差の大きさによって異なる。排出ガスの温度によって示されるような所望の第4の上昇温度Tに達すると、パージ媒体/第3の冷却ガスの流入は終了する。第4の上昇温度Tは、反応器内にその後導入される酸素が触媒と反応し、触媒中の還元クロムを再酸化し、高酸化状態に戻らない程度に十分に低い。
【0029】
還元ガスが除去され、触媒床が第4の上昇温度Tに冷却された後、触媒床は、周囲温度Tambの最終段階まで、又は反応器から触媒を安全に除去できる温度に冷却される。この冷却は、空気又は他のいずれかの適切な冷却媒体であり得る、第4の冷却媒体によって遂行することができる。
【0030】
本出願の方法に従って作動する脱水素反応器システムの脱水素触媒は、炭化水素の脱水素に用いることが可能な公知のアルミナ‐クロム触媒とすることができる。かかる脱水素触媒には、酸化クロムとアルミナ酸化物とを含むこれらの触媒が含まれる。脱水素触媒の酸化クロムはいずれの形態であってもよく、いずれかの供給源から、又は、クロムアルミニウム触媒における使用に適した酸化クロム材料を提供するいずれかの方法によって得ることができる。脱水素触媒のアルミナ酸化物はいずれの形態であってもよく、いずれかの供給源から、又は、γ、θ、η、κ及びα‐アルミナ相によって表すことができる酸化アルミニウムを含むクロムアルミニウム触媒における使用に適した酸化アルミニウム材料を提供するいずれかの方法によって得ることができる。
【0031】
一般的なアルミナ‐クロム触媒は、Crと表される酸化クロム10%〜40%と、Alと表されるアルミナ酸化物55%〜90%と、を含む。さらに、一般的なAl‐Cr触媒は、Na、Li、K、Cs、Mg、Sr、Ca、Ba及びこれらの組合せからなる群より選択されるアルカリ又はアルカリ土類金属を0.3%〜5%含む。アルミナ‐クロム脱水素触媒は、通常酸化物の形態である1つ以上の助触媒を更に含んでいてもよい。これらの助触媒金属は、Sc、La、Mo、W、Zr、Sn、Mn、Cu及びこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0032】
本発明による方法の種々の段階における温度は、触媒床の温度として本明細書に表されている。ただし、当業者であれば、断熱反応器内で行われる商業的脱水素工程において、脱水素触媒床の温度を、触媒床の上部と触媒床の下部との間で、150℃も、通常10℃〜120℃変化させることができると認識する。本明細書に用いられる触媒の温度は、冷却媒体、還元ガス又は他の排出物であるかを問わず、排出ガスの温度によって示される。
【実施例】
【0033】
試験規模の反応器内で、CATOFIN STD触媒30gを、空気中で600℃に加熱した。触媒を、大気圧の気流によって、350℃の温度に冷却した。空気を0.5 atmに減圧した。触媒を30分間プロパンガスによって処理し、次いで、低圧蒸気によって反応器からパージし、触媒を150℃に冷却した。Nを用いて反応器を5分間パージし、次いで、空気中で周囲温度に冷却した。4つの触媒試料を同様に処理した。処理の終了時に、触媒中の99%を超えるクロムが、酸化が還元された状態であると判断した。
【0034】
本開示及び添付した特許請求の範囲の範囲内で、本発明の範囲から逸脱することなく、合理的な変形、変更及び適応を行うことができる。