特許第6446436号(P6446436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テュリポルト エス.アー.エール.エルの特許一覧

<>
  • 特許6446436-イオン液体の合成の方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446436
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】イオン液体の合成の方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/58 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   C07D233/58
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-512330(P2016-512330)
(86)(22)【出願日】2014年5月6日
(65)【公表番号】特表2016-524600(P2016-524600A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】EP2014059150
(87)【国際公開番号】WO2014180802
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】102013007733.8
(32)【優先日】2013年5月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515311165
【氏名又は名称】テュリポルト エス.アー.エール.エル
【氏名又は名称原語表記】TULIPORT S.A.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポンメルスハイム、ライナー
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102008032595(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0251759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D,C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一製造過程において種々のイオン液体を製造することができるイオン液体の合成の方法であって、
溶媒(LM)を用いて出発物質(R1、R2)を反応させることにより炭酸アニオン、又は、酢酸アニオンを有する中間生成物を得て、該中間生成物を含む流れを並列に配置された複数の反応器に分配し、各反応器に対して異なる酸(S1〜S3)をそれぞれ加え、前記複数の反応器においてアニオン交換反応を同時に行うことにより、複数の異なるイオン液体(生成物1〜3)を製造することを特徴とする、イオン液体の合成の方法。
【請求項2】
前記中間生成物を得る工程は、反応器を用いて行われ、
前記反応器が、付属物、または触媒作用も示す充填物を有することを特徴とする、請求項1に記載のイオン液体の合成の方法。
【請求項3】
前記反応器中の前記付属物または前記充填物が、金属、ガラス、炭素または金属酸化物からなる要素、または、化学工業において蒸留塔に使用される要素からなることを特徴とする、請求項に記載のイオン液体の合成の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的方法でイオン液体を製造する方法および工業工程に関する。全般的に、種々のイオン液体をほぼ同時に得ることができるように考案されている。この目的のために、比較的容易に生成できるだけでなく、種々の生成物に容易に変換できる化学中間段階が使用される。ここに記載されている方法は、同一製造工程において、傑出した収率および品質での種々のイオン液体の合成を可能にする。
【背景技術】
【0002】
イオン液体という用語は、イオンのみから作製されている液体として理解される。この場合、これらは、有機化合物の溶融塩、または有機および無機塩の共融混合物である。
【0003】
イオン液体自体、多くの顕著な特性を有する:それらは、不揮発性であり(塩と同様に、無視できる蒸気圧)、かろうじて可燃性であるにすぎず、熱安定性である(選択された液体に依存して、300℃を超えるまで)。ほとんどのイオン液体は非毒性である。
【0004】
高い融点を有し、強腐食性である標準的溶融塩からの境界を設定するために、イオン液体の融点は100℃未満の温度に限定される。大有機カチオンは、イオン液体の構造に一般的であり、より正確に言えば、これらは、この場合、窒素またはリン中心およびアルキル基によって形成されることが多いオニウムイオンである。
【0005】
これらのカチオンは、種々の有機または無機アニオンと組み合わせることができる。そのような液体のモジュール合成は、カチオンおよびアニオンの適切な組合せによって、物理的および化学的特性を標的化方式で広範囲に変化させることを可能にする。主として、イオン液体の安定性および他の基本的物理的特性はカチオンの選択によって影響を受け、一方、アニオンの選択は化学的性質および官能性を決定する。関連する化学的および物理的特性を段階的に適合させ得ることは、特定操作の要件を100%満たす新規イオン液体の開発を可能にする。
【0006】
イオン液体は、化学反応および生体触媒反応における代替溶媒として関心が持たれる特性を示す:その揮発性の欠如は、方法技術において利点をもたらす。さらに、それらの顕著な溶解特性は、化学合成における新たな可能性を開く。イオン液体自体、大抵の場合、使用後に容易に回収し、再使用することができ、これは化学工程の効率をさらに高める。
【0007】
イオン液体のいくつかの大規模工業用途を、例として、以下に列記する。
【0008】
化学工業
BASFは、その新規BASIL(イオン液体を使用する二相酸掃去)法において、イオン液体を世界で初めて工業規模で使用している。この場合、最終生成物を分解する有害な酸が、イオン液体の使用によって工程から除去される。このようにして、該方法の収率が従来法と比較して有意に増加し得る。
【0009】
セルロースは、紙および繊維工業においてだけでなく、中心的役割を果たす原材料である。イオン液体、例えばイミダゾリウムアセテートは、バイオポリマーに関するそれらの顕著な溶解特性により、新規方法および生成物の全く新しい可能性を開く。さらに、その使用によって、毒性溶媒を使用しなくて済む。
【0010】
電気化学工程、例えばアルミニウムめっきにおいて、例えば、イミダゾリウムカチオンおよびクロリドアニオンを含有するイオン液体は、従来物質と比較して、電解質として有意な利点をもたらす。
【0011】
イオン液体、例えば、イミダゾリウムスルフェートは、プラスチック用の帯電防止剤として極めて適している。
【0012】
石油化学
原油における平均硫黄含有量は、最近数十年で有意に増加している。これは、特に、ますます多くの低品質原油鉱床が開拓されていることによる。しかし、現在のディーゼルエンジンおよびガソリンエンジンは、極めて低い硫黄含有量の燃料を必要としている。原油は、製油所において一定の硫黄含有量からは、それ以上処理することができない。従って、硫黄含有量を減少させるために原油調製の間に多大の労力が必要である。これは、複雑な化学的方法段階を必要とし、場合によっては、高環境負荷を与える。多くの国内および国際研究グループの研究により示されているように、イオン液体、例えばメチルイミダゾニウム(MIM)誘導体を使用して、単純洗浄によって、硫黄を原油から除去することができる。
【0013】
電気化学
イオン液体は、それらのイオン性により、バッテリ、キャパシタ等のような電気化学貯蔵器における電解質として大きな可能性を有している。それらのいくつかは、いわゆるリチウムイオンバッテリに何年間も使用されているが、この意図する用途のためのイオン液体の新規化合物および製造方法が、常に、世界的に強く求められている。
【0014】
太陽光発電
いわゆるDSSC太陽光発電モジュールは、非常に有望な新世代の電池である。それらは植物光合成に類似した原理に従って機能し、弱光または散乱光の場合でも、比較的高いエネルギー収量を伝達することもできる。DSSC電池内の荷電交換を可能にするために、非常に特殊な特性を有する特定の電解質が必要とされる。イオン液体はこれらの要件を満たす。従って、DSSC電池の開発は、イオン液体と密接に関係している。
【0015】
こうした背景の下、イオン液体についての、多くの合成の可能性およびますます増加する用途が、近年の文献に記載されていることは驚くに当たらない。これらのいくつかが、以下に例として概説される。
【0016】
例えば、出願公開第DE 10 2005 025 531 A1号において、低粘性および高電気化学安定性の種々のイオン液体が記載されており、それらは主に電気化学用途を意図している。これらの化合物を実験室で生成するためのいくつかの合成経路も開示されている。
【0017】
特許出願第DE 103 19 465 A1号は、アルキルスルフェートまたは官能化アルキルスルフェートをアニオンとして有するイオン液体の実験室規模での生成に関する。これらの化合物は、ハロゲン不含溶媒、抽出剤および熱担体として、工業的に極めて重要である。
【0018】
ハロゲン含有アニオンを有するイオン液体を生成する実験室方法は、特許出願EP 1182196 A1号の主題である。
【0019】
イオン液体のカチオンとしてのアルキルアンモニウム塩、およびその製造法は、出願第GB 2444614 A1号に記載されている。
【0020】
アルキルスルフェートをアニオンとして有するイオン液体、およびその生成の実験室方法は、出願第US 2008 033178 A1号の主題である。
【0021】
イオン液体の大量生産における大きい課題は、反応工程の間の温度制御である。出発物質を反応させるために、先ず、熱を系に供給する必要がある。反応が開始すると、反応は強い発熱性で進み、生じる系の出熱の効率的消散が必要とされる。
【0022】
出願第DE 102008032595 A1号は、これらの課題に広範囲に関係し、必要とされる活性化熱および生じる反応熱の両方を、好適な溶媒の使用によって制御する工業的方法を記載している。
【0023】
これらの引用文献は全て、イオン液体のためのイオン組成物および合成可能性がいかに多種多様であるかを示している。記載されている方法は、実験室規模において現実的であり、個々の場合に、工業生産にも適している。しかし、同一工程において多様な物質を工業規模で製造しようとする場合に、それらの方法は限界に達する。
【0024】
種々のイオン液体を提供しようとする操作は、種々の設備を操作するか、または既存設備を絶えず再装備することを必要とする。これは、面倒であるだけでなく、多くの場合に費用効率的でない。
【発明の概要】
【0025】
こうした現状に鑑み、本発明は、種々のイオン液体を同一製造過程でほぼ同時に製造することができる方法および工業工程を提示するという目的に基づいている。
【0026】
従って、該方法の基本的概念は、連続的方法において、簡単な通常手段を使用して種々の最終生成物、即ちイオン液体に変換することができる中間段階を合成することである。
【0027】
そのような好適な中間段階は、いわゆるイミダゾリウム系カルボキシレートであることができる。その製造法は文献において既知である。即ち、例えば、Green Process Synth(2012):261−267において、N−メチルイミダゾールがジメチルカーボネートでアルキル化される実験室工程が記載されている。Chemical Engineering Journal 163(2010)、29−437に記載されているように、他のアルキル化試薬から開始した場合、例えば、メチルイミダゾールの対応するハロゲニドまたはスルフェートが得られる。
【0028】
次に、そのような中間段階は、酸、例えば酢酸との混合によって、対応するイミダゾリウムアセテートに変換でき、塩酸との反応によってイミダゾリウムクロリドに変換でき、または硝酸との反応によって、対応するニトレートに変換でき、即ち、イミダゾリウムカチオンに基づく種々のイオン液体に変換できる。
【0029】
合成技術において同じかまたは同等の中間段階は、常に出発物質として使用されるので、種々のイオン液体を同じ工業工程において製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明において提示されるイオン液体製造の可能な工業的工程の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明において提示されるイオン液体製造の可能な工業的工程の例が、図1の概略図に基づいて以下に示される。
【0032】
例示的実施形態1
図1の工程において、出発物質R1(例えば、ジメチルカーボネート)およびR2(例えば、メチルイミダゾール)、および溶媒(例えば、メタノール)が、対応する容器に供給され、そこからポンプ[P1、P2およびP3]を経て、混合室[MK]に輸送される。溶媒は、特に、反応温度を狭い範囲に維持する役割を有する。混合物は、混合室からポンプ[P4]を経て、加圧下に(例えば、p=80バール)、連続稼働反応器の上部において送出される。混合物は事前に予熱することができる。その操作は、この場合、好適な装置、例えば個々のノズルまたはノズル列によって、液滴、流動液体の形態で行うことができ、または吹付けによって行うことができる。
【0033】
連続稼働反応器は、反応温度を設定できるように、適切な方法で、例えば、外部から、または内部の要素によって、加熱または冷却される。反応器は、狭い滞留時間分布を可能にする追加付属物を含有することができる。充填物が反応器に配置され、該充填物は、従来の充填材、例えばラシヒリング等からなる。しかし、反応器は、触媒効果を示す物質、例えば金属酸化物を含有することもできる。反応器中の温度は、約200℃であり、圧力は約80バールである。
【0034】
出発物質は、反応器を通過する間に反応する。この場合、未反応出発物質またはイオン液体は、使用されている溶媒に溶解する。得られた中間生成物(例えば、メチルイミダゾリウムカルボキシレート)は、バルブ[V1]を経て反応器から出た後、熱交換器[WT2]において溶媒と一緒に室温に冷却され、分離ユニットに輸送される。そこで減圧が行われ、反応の間に発生する気体(例えば、CO)が除去される。
【0035】
混合物が、分離ユニットから蒸留に供給され、そこで中間生成物(中間段階)が溶媒から分離される。溶媒がポンプ[P6]を経て再循環される。混合物は、熱交換機[WT3]を経て事前に予熱することができる。WT3は、再利用が行われるようにWT2と連結することができる。
【0036】
次に、このようにして得られた中間段階が反応して、所望の最終生成物を形成する。これは1つの反応器において、または図1に示されるように複数の反応器において行われる。これらの容器において、中間段階が好適な酸と混合され、それによってCOおよび所望の最終生成物が中間段階から生じる。種々の酸が、種々の生成物を生じる。従って、例えば、酢酸が添加された場合、メチルイミダゾリウムアセテートが生じ、塩酸の場合は対応するクロリドが生じ、硝酸の場合は対応するニトレートが生じる等である。酸(S1、S2、S3等)は、定量ポンプ[P6]、[P7]、[P8]を経て各反応器に供給される。得られるイオン液体(IL生成物1、IL生成物2、IL生成物3等)は、バルブ[V4]、[V5]および[V6]を経て、後続の処理または精製に供給される。
【0037】
例示的実施形態2
図1の工程は、個々の特定のイオン液体を、直接的に、即ち中間段階を経ずに、生成するために使用することもできる。この目的のために、実施例1と異なる出発物質を使用する必要がある。出発物質R1(例えば、ジエチルスルフェート)およびR2(例えば、メチルイミダゾール)が、ポンプ[P1およびP2]を経て、混合室[MK]に輸送される。混合室は、冷却または加熱装置によって、開始温度にすることができる。適量の溶媒(例えば、トルエン、エチルアセテート等)が、ポンプ[P3]を経て、この混合物に連続的に供給される。溶媒は、反応温度を狭い範囲に維持する役割を有する。この場合、形成されるイオン液体または未反応出発物質は、選択された溶媒に溶解性であるべきである。成分R1、R2および溶媒LMは、ポンプ[P4]を経て、連続稼働反応器の上部において送出される。その操作は、この場合、好適な装置、例えば個々のノズルまたはノズル列によって、液滴、流動液体の形態で行うことができ、または吹付けによって行うことができる。
【0038】
連続稼働反応器は、反応温度を設定できるように、適切な方法で、例えば、外部から、または内部の要素によって、加熱または冷却される。反応器は、狭い滞留時間分布を可能にするかまたは触媒作用を示すことができる追加付属物を含有することができる。必要に応じて、反応器において温度勾配を付加的に設定することができる。
【0039】
出発物質は、反応器を通過する間に反応する。この場合、未反応出発物質またはイオン液体は、使用されている溶媒に溶解する。バルブ[V1]を経て反応器から出た後、得られた液相は分離ユニットにおいて分離される。生成物と共に第二相を形成する溶媒の大部分は、例えば、ガス設備を経て、および取り付けられる追加ポンプを経て、溶媒容器に再循環される。この場合、最終生成物は、すでに、[V3]を経て蒸留に供給され、該蒸留において該最終生成物は溶媒残渣を除去される。このように最終生成物は、すでに、蒸留ユニットの出口で得られる。この実施例の出発物質を使用した場合、該最終生成物はメチルイミダゾリウムジエチルスルフェートである。
図1