特許第6446471号(P6446471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446471
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】体内人工器官およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/848 20130101AFI20181217BHJP
【FI】
   A61F2/848
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-559632(P2016-559632)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公表番号】特表2017-510358(P2017-510358A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】US2015022436
(87)【国際公開番号】WO2015153220
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年9月28日
(31)【優先権主張番号】61/974,069
(32)【優先日】2014年4月2日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ギュレル、イスマイル
(72)【発明者】
【氏名】シュロス、アラン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】モケルケ、エリック エイ.
(72)【発明者】
【氏名】グローべンダー、アダム デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】グローバー、ジョエル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ルーベッシュ、ティモシー ローレンス
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0268063(US,A1)
【文献】 特開2011−156083(JP,A)
【文献】 特開2005−253982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/848
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を画定する内側表面、外側表面、第1の端部、第2の端部、および該内側表面と該外側表面との間に画定された厚さを有するステントであって、該厚さを貫通して延在する複数の開口部を有する前記ステントと、
該ステントの該外側表面上のポリマー・カバーであって、ベース、および微細パターンに配置された複数の付着要素からなり、該ベースが該ステントの少なくとも一部分を覆うポリマー・カバーと、
を備え、
各付着要素は、該ポリマー・カバーの該ベースの外側表面におけるベース端部から該外側表面と反対側の先端部に向かって外方に延びる切頭円錐であり、前記先端部は、前記ベース端部から前記先端部までの高さが全体にわたって一様な環状縁を具備する凹状表面を画定しており、各付着要素は、該ベース端部において第1の幅を有し、該先端部において第2の幅を有し、前記第2の幅は、前記第1の幅よりも広く、各付着要素の外側壁は、該ベース端部から該先端部に向かい、該ベースに対して斜角をなして外方に延びており、前記切頭円錐と前記環状縁を具備する前記凹状表面とが複合した構造は、体内人工器官を内腔壁に対して付着するために当該付着要素と内腔壁との間に部分真空を生じさせるように構成され、体内人工器官。
【請求項2】
前記体内人工器官が、血管壁によって画定された内腔内で拡張したときに、該付着要素の微細パターンが、該血管壁と前記体内人工器官との間に所望のかみ合いを生じさせる力を加える、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項3】
前記第2の幅は、50μmから500μmであり該ベース端部から該先端部までの高さは、第2の幅の20%から50%であり、および、前記凹状表面は、第2の幅の10%から20%である深さを有し、かつ、前記斜角は、30度から75度である、請求項に記載の体内人工器官。
【請求項4】
前記ポリマー・カバーの前記ベースの前記外側表面から内方に延在する追加の付着要素をさらに備える、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項5】
前記ポリマー・カバーの前記ベースの前記外側表面から内方に延在する前記追加の付着要素が、クレータおよび細孔からなる群から選択される、請求項に記載の体内人工器官。
【請求項6】
前記微細パターンが、格子パターン、矩形アレイ、nを3以上の自然数とする正n角形アレイ、螺旋形、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項7】
前記ポリマー・カバーがシリコーンからなる、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項8】
前記複数の付着要素の間隔が一様である、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項9】
前記ポリマー・カバーが、前記ステントの前記外側表面のまわりに螺旋状に巻き付けられるストリップである、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項10】
前記ポリマー・カバーが、前記ステントの長手方向長さに等しい長手方向長さを有する管状のものである、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項11】
遠位端部に回収要素をさらに含む、請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項12】
前記ポリマー・カバーが、前記ステントの該外側表面に接着されている請求項1に記載の体内人工器官。
【請求項13】
体内人工器官を製造する方法であって、
ポリマー・カバーを形成する工程であって、前記ポリマー・カバーは、ベースおよび微細パターンに配置された複数の付着要素を備え、前記付着要素は、該ポリマー・カバーの該ベースの外側表面におけるベース端部から該外側表面と反対側の先端部に向かって外方に延びる切頭円錐であり、前記先端部は、前記ベース端部から前記先端部までの高さが全体にわたって一様な環状縁を具備する凹状表面を画定しており、各付着要素は、該ベース端部において第1の幅を有し、該先端部において第2の幅を有し、前記第2の幅は、前記第1の幅よりも広く、各付着要素の外側壁は、該ベース端部から該先端部に向かい、該ベースに対して斜角をなして外方に延びており、前記切頭円錐と前記環状縁を具備する前記凹状表面とが複合した構造は、体内人工器官を内腔壁に対して付着するために当該付着要素と内腔壁との間に部分真空を生じさせるように構成されているものである、前記ポリマー・カバーを形成する工程と、
内腔を画定する内側表面、および外側表面を有するステントを用意する工程と、
該ポリマー・カバーの該ベースを該ステントの該外側表面に接着する工程と、
からなる方法。
【請求項14】
前記ポリマー・カバーが、前記微細パターンを反転したものを有する型を使用し、該型にポリマー材料を注入して形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ベースの表面および前記ステントの前記外側表面のうちの少なくとも1つに接着層が取り付けられる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記付着要素が、内方延在付着要素をさらに備える、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体内管腔内に導入される体内人工器官およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは体内管腔内に導入される医療装置であり、当技術分野ではよく知られている。ステントは、非拡張状態で体内管腔内の所望の部位に送達され、次いで自己拡張するかまたは内部の径方向の力によって拡張され得る。以下でまとめてステントと呼ばれるステント、グラフト、ステント−グラフト、大動脈フィルタ、拡張可能な骨組み、および類似の植込み型医療装置は、半径方向に拡張するまたは拡張可能な体内人工器官に含まれ、そのような体内人工器官は、経腔的に植込み可能な管腔内インプラントとして用いられている。
【0003】
消化管ステントは、様々な範囲の悪性疾患および非悪性疾患を患っている患者を治療するために使用されてきた。例えば、食道ステントが、食道癌の治療に関連付けられてきた。食道ステントはまた、食道を詰まらせるように成長する非食道腫瘍からもたらされる症状を軽減するため、ならびに、難治性狭窄症、瘻孔、および穿孔を含むがこれらに限定されない良性の食道疾患を治療するために、使用されてきた。これらの症例のいずれにおいても、食道ステントは、食道壁に対する機械的な支持を提供することができ、また、内腔の開存性を維持することができる。食道の構造、および蠕動などの条件により、食道ステントはステント移動(stent migration)を起こす傾向がある。
【0004】
ステント移動のリスクを低下させる1つの方法は、ステントの地金部分を組織に対して露出させることであった。ステントの開放した編組構造は、ステント内への組織内殖を促進する足場を提供することができる。この組織内殖は、所定の位置へのステントの固定に役立つことができ、また、移動のリスクを低下させることができる。しかし、場合によっては、組織内殖は、内腔の再閉塞をもたらすことが知られている。加えて、組織内殖によって固定されたステントは、侵襲的処置なしでは、移動または除去することができない。組織内殖を抑えるために、ステントは、内腔と組織壁との間に物理的な障壁を作り出す被覆(例えば、ポリマー等で作成される)で覆われてきた。しかし、状況によっては、そのようなステントは、地金の相当物と比較して、許容できない移動発現度を有し得る。
【0005】
ステント移動のリスクを低下させる別の方法は、フレア状ステント(flared stent)を使用することであった。しかし、フレア部を有するステントは、許容できない移動発現度を有し得る。
【0006】
例えば向上された移動抵抗性、向上されたステント付着性、および/または向上された除去可能性を有する、改良されたステントが望まれている。従来のステントは、ステント自体に組み込まれた隆起または他の表面特徴を組み込んでいる(例えば、その全体を本願明細書に援用する特許文献1および特許文献2で論じられたものなど)。別のステントは、ステントの外側表面上に複数の表面突起を提供する(例えば、その全体を本願明細書に援用する、共有の特許文献3に記載されている)。
【0007】
本開示の範囲を限定することなく、特許請求される実施形態のうちのいくつかの概要を以下に記載する。本開示の要約した実施形態および/または本開示の追加的な実施形態のさらなる詳細は、以下の発明を実施するための形態において見いだされ得る。本明細書における技術的な開示の簡単な要約書も提供する。要約書は、特許請求の範囲を解釈するために使用されることを意図したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開第2006/0069425号明細書
【特許文献2】米国特許公開第2009/0062927号明細書
【特許文献3】米国特許公開第2012/0035715号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、好ましくはポリマーによるカバーが、微細パターンに配置された複数の付着要素を有する、体内人工器官を提供する。本明細書で使用される場合、微細パターンは、規則的なまたは不規則な付着要素のアレイを含み得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
少なくとも1つの実施形態では、拡張状態および収縮状態を有する体内人工器官が、その外側表面にポリマー・カバーを有したステントを含む。ステントは、内腔を画定する内側表面を有する。少なくとも1つの実施形態では、ステントはフレア状ステントである。ポリマー・カバーは、ベース、および付着要素を含む。いくつかの実施形態では、付着要素は、ベースの外側表面から外方に延在する(外方延在付着要素)。他の実施形態では、付着要素は、ベースの外側表面から内方に延在する(内方延在付着要素)。少なくとも1つの実施形態では、付着要素は、微細パターンに配置される。血管壁によって画定された内腔内で体内人工器官が拡張状態に拡張すると、付着要素は、血管壁と体内人工器官との間のかみ合いを生じさせる。
【0011】
微細パターンは、格子パターン、矩形アレイ、正n角形アレイ、螺旋形、およびそれらの組み合わせであり得る。微細パターンは、特定の植込み部位のために特別に設計されてもよい。例えば、付着要素の幅d、数、および間隔sは、所望の装置固定の水準を達成するように選択することができる。少なくとも1つの実施形態では、微細パターンは、体内人工器官の少なくとも部分に沿って存在する。少なくとも1つの実施形態では、微細パターンの付着要素は一様であり、または、微細パターンは、外方延在付着要素および内方延在付着要素で形成され得る。
【0012】
少なくとも1つの実施形態では、体内人工器官は、例えば体内人工器官の遠位端部にある回収ループにより、回収可能である。いくつかの実施形態では、体内人工器官は、体内人工器官の近位端部にある回収ループおよび遠位端部にある回収ループにより、回収可能である。
【0013】
体内人工器官の1実施形態を製造するいくつかの方法が提供される。1つの製造方法は、ベースおよび付着要素を含むポリマー・カバーを形成する工程と、内腔を画定する内側表面、および外側表面を有するステントを用意する工程と、ポリマー・カバーのベースをステントの外側表面に接着、固着、または接続する工程と、からなる。少なくとも1つの実施形態では、付着要素は、微細パターンに配置される。付着要素は、内方延在付着要素、外方延在付着要素、およびそれらの組み合わせであり得る。付着要素を有するポリマー・カバーは、微細パターンを反転したものを有する型を使用し、その型にポリマー材料を注入して形成され、また場合によっては、ポリマー材料が硬化する前に型に熱または圧力を加えるか、ソフト・リソグラフィ技法を使用するか、またはポリマー材料の層からポリマー・カバーをエッチングすることによって形成され得る。少なくとも1つの実施形態では、ベースの表面およびステントの外側表面のうちの少なくとも1つに接着層が取り付けられる。少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバーは、管状構造として形成される。1つまたは複数の実施形態では、ポリマー・カバーは、ステントの外側表面のまわりに巻き付く(例えば、螺旋状に巻き付けられる、円周方向に巻き付けられる、不規則に巻き付けられる、等)ストリップに形成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の体内人工器官実施形態の平面図。
図2図1に示された体内人工器官の断面図。
図3】外方延在付着要素を含むポリマー・カバーの拡大図。
図4】内方延在付着要素を含むポリマー・カバーの拡大図。
図5A】付着要素の側面図。
図5B図5Aの付着要素の上面図。
図6A】例示的な微細パターンの図。
図6B】例示的な微細パターンの図。
図6C】例示的な微細パターンの図。
図6D】例示的な微細パターンの図。
図6E】例示的な微細パターンの図。
図7】体内人工器官の1つの製造方法中のステントおよびポリマー・カバーの図。
図8】体内人工器官の1つの製造方法中のステントおよびポリマー・カバーの図。
図9A(1)】付着要素を有するカバーの1実施形態を含むステントの法線方向力を示す図。
図9A(2)】付着要素を有するカバーの1実施形態を含むステントの法線方向力を示す図。
図9B】付着要素を有するカバーの1実施形態を含むステントの剪断力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の主題は多くの異なる形態で具体化され得るが、本明細書では、本開示の特定の好ましい実施形態が詳細に説明される。この説明は、本開示の原理を例示するものであり、示された特定の実施形態に本開示を限定するように意図されたものではない。
【0016】
本開示の目的のため、各図面中の同様の参照番号は、別段の指示がない限り、同様の特徴を意味する。
本開示は、医療装置に使用するための微細パターン付きポリマー・カバーに関する。いくつかの実施形態では、微細パターン付きポリマー・カバーは、特に、気管ステント、食道ステント、胆管ステント、および結腸ステントを含むがこれらに限定されない胃腸系または肺系で使用されるステントのような植込み型医療装置とともに利用されて、ステント移動を軽減するかまたは防止する。本出願で説明される体内人工器官は、心臓血管系、および身体の他の部分(例えば、任意の体内管腔)内でも使用され得る。
【0017】
図1および2は、近位端部22および遠位端部24を含む体内人工器官20を示す。体内人工器官20は、拡張ステント40、および拡張ステント40の外側表面上のポリマー・カバー50を含む。拡張ステント40は、自己拡張型、バルーン拡張型、またはハイブリッド拡張型であってもよい。拡張ステント40の実施形態は、一定の直径、テーパ、フレア、および/または他の直径の変化をその本体および/または一端もしくは両端に有するステントを企図する。拡張ステント40は、内側表面42、外側表面44、近位端部46、および遠位端部48を有する。ポリマー・カバー50は、外側表面44の少なくとも部分の周りに位置決めされる。
【0018】
少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバー50は、実質的に拡張ステント40の外側表面44全体を覆う。他の実施形態では、ポリマー・カバー50は、拡張ステント40の外側表面44の部分を覆う。図2に示されるように、ポリマー・カバー50は、拡張ステント40の外側表面44に直接接続されてもよい。1つまたは複数の実施形態では、ポリマー・カバー50は、接着剤、またはカバーを装置に付着させる他の手段を使用して、拡張ステント40の外側表面44に接続され得る。少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバーは、内側表面42をも少なくとも部分的に覆う。少なくとも1つの実施形態では、部分的な被覆は、周囲および/または長さの部分的な被覆を含み得る。
【0019】
少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバー50は、ベース52、および複数の付着要素54を含む。少なくとも1つの実施形態では、付着要素は、カバーのベースに継ぎ目なく組み込まれる。少なくとも1つの実施形態では、ベース52は、拡張ステント40と境界を共有する。「境界を共有する」が意味するのは、ポリマー・カバー50のベース52および拡張ステント40が、同じ境界を有し、同じ領域を覆い、広がりの程度が同じであるということである。言い換えれば、拡張ステント40およびベース52は、それぞれ、第1の端部および第2の端部を有し、拡張ステント40およびベース52は、それらの第1の端部と第2の端部との間に延在し、拡張ステント40の第1の端部は、ベース52の第1の端部と同じであり、拡張ステント40の第2の端部は、ベース52の第2の端部と同じである。拡張ステント40およびベース52はそれらの第1の端部と第2の端部との間に延在するので、拡張ステント40およびベース52は、同じ境界を有し、同じ領域を覆い、広がりの程度が同じである。したがって、ベース52および拡張ステント40は、境界を共有する。したがって、拡張ステント40およびベース52は、少なくとも1つの実施形態では、境界を共有する。また、ベース52は、少なくとも1つの実施形態では、管状である。
【0020】
上で論じたように、少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバーは、内側表面42をも少なくとも部分的に覆う。それらの実施形態の場合、付着要素54は、ポリマー・カバー50のうちのステントの外側表面を少なくとも部分的に覆う部分のみを形成し、ポリマー・カバーのうちのステントの内側表面を覆う部分は形成しない。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるような体内人工器官は、複数の付着要素を含む外側表面と、付着要素を含まない内側表面とを有するものとして説明され得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、「付着要素」とは、植込み型体内人工器官を内腔壁に対して付着、安定化、固着、または固定するために部分真空を生じさせる構造である。本明細書において使用される場合、「部分真空」は、付着要素外部の圧力に対する付着要素内部の負のゲージ圧力を意味する。付着要素と内腔壁との間の部分真空は、吸着カップによって生じる部分真空に似ている。
【0022】
理論に束縛されるものではないが、体内管腔内に配置された体内人工器官の拡張は、付着要素を内腔壁に係合させる半径方向力を提供し、付着要素と内腔壁との間の領域が減少することにより、部分真空が生じる。内腔壁に対接するステントによって生じる半径方向力の結果として、内腔壁との継続的な係合がもたらされる。植込み型体内人工器官の場合、付着要素が壁から係脱すると、周期的な半径方向蠕動力が付着要素を壁に再係合させ得る。さらに、付着要素と壁との間に蓄積するいかなる液体も、蠕動力により周期的に除去され得る。
【0023】
以下でより詳細に論じられるように、カバー50は、例えば図1〜3に示されるようなベース52から外方に延在する付着要素54(外方延在付着要素)、例えば図4に示されるようなベース52から内方に延在する付着要素54(内方延在付着要素)、および、外方延在付着要素と内方延在付着要素の組み合わせ(図示せず)を含むことができる。
外方延在付着要素
上で論じたように、いくつかの実施形態では、付着要素54は、外方延在付着要素54aである。各外方延在付着要素54aは、ベースの外側表面から半径方向外方に延在する。少なくとも1つの実施形態では、外方延在付着要素は、ベース52の外側表面からある角度で、例えば垂直に延在する(例えば、図3)。
【0024】
例えば図5Aおよび5Bに示されるように、各外方延在付着要素54aは、凹状端部58を含む切頭円錐である。簡潔さのために、図面のうちのいくつかは切頭円錐の端部における凹面を示していないが、この実施形態の各切頭円錐が凹状端部58を有することに留意されたい。理論に束縛されるものではないが、切頭円錐であり凹状端部を有する付着要素は、内腔壁とともに部分真空を生じさせることができる。
【0025】
各外方延在付着要素54aは、ベース52の外側表面と付着要素の端部58との間の最大距離である高さh、および、付着要素の側面59の対向した点などの付着要素の2つの対点間の最大距離である幅dを有する。円形の外方延在付着要素、例えば切頭円錐の場合、幅dは直径である。図5Aに示された外方延在付着要素54aの場合、2つの対点間の最大距離は、端部58における直径(以下、端部直径)であり、付着要素の直径は、端部直径から、ポリマー・カバー50のベース52の外側表面において測定されるベース直径dbまで、テーパが付いている。したがって、ベース直径dbは、端部直径未満であり、外方延在付着要素の幅dは、端部直径に等しい。いくつかの実施形態では、外方延在付着要素の直径は、端部58からポリマー・カバー50のベース52の外側表面まで連続的に減少する。
【0026】
少なくとも1つの実施形態では、外方延在付着要素54aの幅dは、50μmから500μmである。適切な幅dには、50μm、91.5μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、および500μmが含まれる。理論に束縛されるものではないが、より小さい幅dを有する外方延在付着要素がより良好な付着性能を提供することが期待される。
【0027】
少なくとも1つの実施形態では、外方延在付着要素の幅dは、外方延在付着要素の高さhよりも大きい。いくつかの実施形態では、外方延在付着要素54aは、幅dの20〜50%の高さhを有する。50μmから500μmの範囲内の幅dを有する外方延在付着要素54aの場合、外方延在付着要素54aは、10μmから250μmの範囲内の高さhを有する。適切な高さhの非限定的な例は、34.2μmである。外方延在付着要素54aの高さhは体内人工器官の全体形状に影響を及ぼし、全体形状はひいては送達可能性に影響を及ぼし、小さい全体形状の方が大きい全体形状よりも向上された送達可能性を有することに、留意されたい。また、理論に束縛されるものではないが、外方延在付着要素の高さhは、外方延在付着要素の付着に影響を及ぼし得る。
【0028】
外方延在付着要素54aの端部58における凹面は、端部58と凹状表面の底との間の最大距離である深さδを有する。これは、例えば図5Aに示される。凹状表面深さδは、外方延在付着要素54aの幅dの10%から20%の範囲におよび得る。50μmから500μmの範囲内の幅dを有する外方延在付着要素54aの場合、外方延在付着要素は、5μmから100μmの凹状表面深さδを有する。凹状表面深さδはまた、外方延在付着要素54aの高さh未満である。理論に束縛されるものではないが、凹状表面深さは、外方延在付着要素の他の寸法、および外方延在付着要素を形成するために使用される材料の弾性(デュロメータ)の影響を受ける。
【0029】
図5Aに示されるように、切頭円錐の側面59は、ベース52の外側表面から角度θで延在する。少なくとも1つの実施形態では、角度θは、ベース52の外側表面に対して斜角である。本明細書において使用される場合、「斜角」とは、非平行な角度、および非垂直な角度である。少なくとも1つの実施形態では、外方延在付着要素54aは、ポリマー・カバーのベースの外側表面に対して、30度の最小角度θ、および75度の最大角度θを有する。したがって、角度θの範囲は、30〜75度である。
【0030】
少なくとも1つの実施形態では、外方延在付着要素は、50μmから500μmの範囲から選択された幅d、幅dの20〜50%である高さh、幅dの10〜20%である凹状表面深さδ、および30度から75度までの範囲から選択された角度θを有する、切頭円錐である。
【0031】
1つの実施形態では、外方延在付着要素は、91.5μmの幅d、34.2μmの高さh、12.4μmの凹状表面深さδ、およびポリマー・カバーのベースの外側表面に対して63.9°の角度θを有する、切頭円錐である。
内方延在付着要素
上で論じたように、いくつかの実施形態では、付着要素は内方に延在している。これは例えば図4に示され、図4は、2つのタイプの内方延在付着要素の例、すなわち、クレータ54bの例と、細孔54cの例とを示す。1つの実施形態では、内方延在付着要素は、円形の形状を有する。内方延在付着要素54b、54cは、内方延在付着要素の側面59の対向した点などの内方延在付着要素の2つの対点間の最大距離である幅dを有する。例えば図4に示されるような円形の内方延在付着要素の場合、幅dは直径である。内方延在付着要素54b、54cに適した幅dの範囲は、10μmから100μmである。内方延在付着要素の適切な深さの範囲は、内方延在付着要素の幅dの20〜50%である。10μmから100μmの幅dを有する内方延在付着要素の場合、深さδは、2μmから50μmである。
【0032】
いくつかの実施形態では、内方延在付着要素54b、54cは、ベースの外側表面における直径の方がベースの内側表面における直径よりも大きく、この場合、内方延在付着要素は、ベースの外側表面における直径に等しい幅dを有する。他の実施形態では、内方延在付着要素54b、54cは、ベースの外側表面における直径の方がベースの内側表面における直径よりも小さく、この場合、内方延在付着要素は、ベースの内側表面における直径に等しい幅dを有する。
【0033】
1つの実施形態では、内方延在付着要素は、ベース52の厚さ未満の深さδを有するクレータ54bである。クレータ54bの例が、図4に示されている。各クレータ54bは、壁59を有し、壁59は、ポリマー・カバー50のベース52の厚さt未満である深さδを有する凹面を画定する。上で論じたように、深さδは、クレータの幅dの10〜20%であり、10μmから100μmの幅dを有するクレータの場合、深さδは、2μmから50μmになり、ベース52の厚さtは、深さδよりも大きい。各クレータは、ベースの外側表面から凹面の底まで可変の直径を有する。
【0034】
別の実施形態では、内方延在付着要素は、例えば図4に示されるように、ベース52の厚さtに等しい深さを有する細孔54cである。言い換えれば、細孔54cは、ベースの外側表面にある開口部からベースの内側表面にある開口部まで延在する。少なくとも1つの実施形態では、細孔54cの壁59は、ベース52に対して斜角で細孔54cの中心57に向かって延在して、細孔54cの開口凹面を形成する。
【0035】
少なくとも1つの実施形態では、植込み後しばらくすると、内方延在付着要素54b、54c内への組織内殖が生じる。クレータ54bの場合、組織内殖は、体内人工器官の内腔内まで延在しないが、細孔54cの場合、組織内殖は、体内人工器官の内腔内まで延在する。
【0036】
理論に束縛されるものではないが、内腔壁と内方延在付着要素54b、54cとの間の部分真空は、体内人工器官を短期的に安定させるのに役立つが、組織内殖は、体内人工器官の長期的な固着を提供するのに役立つ。組織内殖が生じた場合、固着の機構は、部分真空から組織内殖に変化する。組織内殖の量に応じて、内腔壁と内方延在付着要素との間に部分真空が存在する場合もあればそうでない場合もある。
微細パターンに配置された付着要素
少なくとも1つの実施形態では、図1および図6A〜8に示されるように、複数の付着要素54が、1つまたは複数の微細パターン70に配置され得る。いくつかの実施形態では、カバーの微細パターンは、外方延在付着要素54aによってのみ形成される。1つの実施形態では、外方延在付着要素は、一様なサイズを有する。他の実施形態では、カバーの微細パターンは、内方延在付着要素54b、54cによってのみ形成される。1つの実施形態では、内方延在付着要素は、一様なサイズを有する。なおもさらなる実施形態では、カバーの微細パターンは、外方延在付着要素54aおよび内方延在付着要素54b、54cによって形成される。1つの実施形態では、外方延在付着要素は、一様なサイズを有し、内方延在付着要素は、一様なサイズを有する。例えば、カバーの1つの領域が、第1の微細パターンに配置された外方延在付着要素を有し、カバーの別の領域が、第2の微細パターンに配置された内方延在付着要素(図示せず)を有する。
【0037】
理論に束縛されたくはないが、微細パターンは、体内人工器官と血管壁との間の係合またはかみ合いの強さに影響を及ぼし得る。同様に、微細パターンは、付着要素と組織との間の所望の係合またはかみ合いに依存する。この理由のために、少なくとも1つの実施形態では、特定の用途(例えば、植込み部位、生物組織、所望の組織係合特性、等)に適した微細パターンの幾何形状および寸法を有する、特定の微細構造が選択され得る。考慮すべき要因については、以下でより詳細に論じられる。
【0038】
いくつかの実施形態では、ポリマー・カバーは、1つの微細パターンのみを有する。他の実施形態では、ポリマー・カバーは、複数の微細パターンを有する。したがって、ポリマー・カバーは、体内管腔(例えば、血管等)の固有の構造特徴に合わせることができ、単一の体内人工器官を使用して、所望の係合またはかみ合いを達成することができる。
【0039】
少なくとも1つの実施形態では、微細パターンにおいて隣接する2つの付着要素54が、隣接する2つの付着要素の中心57間で測定された距離sだけ離間される(図3および4に示す)。したがって、間隔sは、付着要素の密集度に関連する。理論に束縛されるものではないが、所与の幅dに対して、微細パターン内での隣接する付着要素間の間隔sが狭くなるほど、法線方向における剥がし力(peel off force)が大きくなる。所与の幅dに対して、隣接する付着要素間の間隔が狭くなるほど、剪断方向における剥がし力が大きくなる。同じく理論に束縛されるものではないが、所与の幅d、および微細パターン内の付着要素の間隔sに対して、法線方向における剥がし力は、剪断方向における剥がし力よりも大きい。少なくとも1つの実施形態では、間隔sは、120μm、130μm、140μm、または150μmである。以下でより詳細に論じられるように、間隔sは、所望される付着の程度に応じて、付着要素の幅d未満であるか、幅dに等しいか、または幅dよりも大きくてもよい。少なくとも1つの実施形態では、間隔sの幅dに対する比率は、約1.2である。
【0040】
少なくとも1つの実施形態では、各付着要素は、微細パターン内で等距離に離間される。この実施形態では、付着要素の間隔sは、一様である。少なくとも1つの実施形態では、付着要素の微細パターン70は、矩形アレイである(例えば、図3図6C)。少なくとも1つの実施形態では、微細パターン70は、格子パターンである(例えば、図6C、7におけるような正方形アレイ)。少なくとも1つの実施形態では、微細パターン70は、正n角形アレイ(例えば、図6D、6Eにおける6角形アレイ)であり、ここで、付着要素が多角形の中心に存在する場合(例えば、図6C図6D、等)もあれば、付着要素が多角形の中心に存在しない場合(例えば、図6E)もある。言い換えれば、付着要素は、微細パターンにおいて横列および縦列に配置され、横列および縦列は、直角に交わる場合もあればそうでない場合もある。例えば、図6Cの微細パターン70は、直角に交わる横列および縦列を含むが、図6Dおよび6Eの微細パターン70は、直角に交わらない横列および縦列を含む。1つまたは複数の実施形態では、各付着要素が長手軸を有し、付着要素は、軸方向(例えば、ステントの長手軸に平行な横列に配置される)および体内人工器官の円周方向(例えば、ステントの長手軸の周りに円周方向に延在する横列に配置される)のうちの少なくとも1つに軸方向に整列される。少なくとも1つの実施形態では、付着要素の微細パターンは、この段落で説明された特徴のうちのいずれかまたは全てを含む。いくつかの実施形態では、図6Aおよび6Bに示された実施形態と同様に、微細パターン70は、ベース52全体ではなく、ベース52の部分のみを覆い得る。言い換えれば、ベースの1つまたは複数の部分72には、付着要素が存在しない。付着要素の微細パターン70は、図6Aに示されるようにベース52上に螺旋状に配置される場合もある。1つまたは複数の実施形態では、図6Bに示されるように、第1の微細パターン70が、ベース52に沿って長手方向に配置され、第2の微細パターン70が、付着要素を有さない部分72を含んで「窓ガラス」様の構造を形成するように、ベースの周りに円周方向に配置され得る。図6Bに示されるように、横列に(例えば、ステントの長手軸に平行に)配置される付着要素は、連続した横列であるか、または、途切れた横列(例えば、間隔sよりも大きい寸法を有する間隙によって分離された、位置合わせされた横列セグメント)であってもよく、その場合、途切れの長さは、任意の長さ(例えば、寸法sの2倍以上)を有し得る。例えば、図6Bに示された実施形態は、途切れの長さが間隔sの5倍である、窓ガラスにわたって延在する途切れた横列(および、円周方向に配向された縦列)を示すが、図6Eに示された実施形態は、途切れの長さが間隔sの2倍である、途切れた横列(および、非垂直に配向された縦列)を示す。したがって、図6Bおよび6Eでは、付着要素の間隔sは、一様ではない。間隔sに関して、横列および/または縦列の途切れは、任意の長さ(例えば、少なくともsの2倍、少なくともsの5倍、少なくともsの10倍、少なくともsの50倍、少なくともsの100倍、少なくともsの500倍、少なくともsの1000倍、等)を有することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、隣接する外方延在付着要素54a同士の間隔sは、体内管の組織が外方延在付着要素間のネガティブ・スペース(例えば、空所)を埋めることができるように、十分な大きさである。これらの実施形態では、体内人工器官は、2つの機構、すなわち、外方延在付着要素と内腔壁との間の部分真空、および隣接する外方延在付着要素間の空間内への組織内殖により、血管壁に固着される。間隔sがあまりにも小さい場合、組織は外方延在付着要素間の空間を埋めることができない可能性がある。そのような場合、体内人工器官は、外方延在付着要素と内腔壁との間の部分真空によってのみ、血管壁に固着される。少なくとも1つの実施形態では、付着要素間の間隔sは、特定のタイプの体内管の組織に依存する(例えば、特定のタイプの体内間の組織に基づいて選択され得る)。
【0042】
いくつかの実施形態では、100〜1000μmの範囲内の外方延在付着要素のための間隔sが、組織内殖を提供する。少なくとも1つの実施形態では、付着要素は、不定の間隔sを有する。例えば、いくつかの実施形態では、体内人工器官の長手方向長さおよび/または周囲に沿った付着要素に対して、100〜1000μmの間隔sの勾配が存在する。理論に束縛されるものではないが、間隔の勾配が組織内殖を促す。
力/移動に対する抵抗
【0043】
体内管腔に植え込まれた体内人工器官は、当初の植込み部位から体内人工器官を移動させ得る力を受ける。上で論じたように、付着要素(外方延在付着要素および内方延在付着要素)は、部分真空によりこの力に抵抗する。図9A(1)および9A(2)は、法線方向力を示す。個々の付着要素54に対する法線方向の力は、以下の式によって表される:
【数1】
式中、AAEは、付着要素によって形成される凹面の面積であり(r=1/2dであるので、πr=πd/4であることに留意されたい)、ΔPは、付着要素と外部圧力との間の圧力差である。
【0044】
いくつかの付着要素54に対する法線方向における合力は、以下の式によって表される:
【数2】
【0045】
図9Bは、剪断力を示す。図からわかるように、剪断方向における力は、法線方向における力に対して垂直である。複数の付着要素54に対する剪断方向における合力は、以下の式によって表される:
【数3】
【0046】
上で論じたように、ステントは、食道内に植え込まれ得る。食道は、以下の式によって特徴付けられる圧力を有する:
【数4】
【0047】
以下の式は、通常吸気中の食道内圧を特徴付ける:
【数5】
【0048】
以下の式は、強制吸気中の食道内圧を特徴付ける:
【数6】
atmospheric=760mmHg=101,325Paであるので、Pintra−esophageal≒10Paである。
【0049】
付着要素の内部の(例えば、付着要素の凹面の内部の)圧力が食道内圧に対して無視できる程度と見なされる場合、ΔP≒10Paである。付着要素の内部の圧力が管内の圧力に対して無視できる程度であるという仮定は、ステント移動に抵抗すると推定される力に上界を提供する。
【0050】
例えば、上記に基づくと、食道に植え込まれ、かつ、100mmの長さと、18mmの直径と、幅dが1.0mmで間隔sが2.0mmの付着要素のアレイとを有する体内人工器官は、以下の式によって特徴付けることができる:
1.体内人工器官の長さに沿った付着要素の数(n):
【数7】
2.体内人工器官の周囲に沿った付着要素の数(n):
【数8】
3.付着要素の総数(n):
【数9】
4.法線方向における合力:
【数10】
5.剪断方向における合力(ステント移動に抵抗する力)
【数11】
【0051】
これらの因子および式は、体内人工器官を体内管腔(例えば、血管等)の固有の構造特徴、および所望の係合またはかみ合いの程度に合わせるために使用することができる。さらに、上で論じたように、組織内殖が、係合またはかみ合いの程度を向上させ得る。したがって、付着要素の幅d、数、および間隔sは、所望の植込み部位において所望の装置固定の水準を得るように選択することができる。
材料;治療剤
ポリマー・カバー50のための材料に関しては、材料は、付着要素が内腔壁とともに部分真空を生成する上で十分に柔軟であり、かつ、ポリマー・カバー50を作成する工程に耐えられることが、重要である。例えば、材料は、付着要素が内腔壁に押し付けられたときに付着要素の凹面と内腔壁との間の空間の体積が減少して部分真空を形成するように、十分に柔軟であることが必要とされる。許容可能な材料の例は、柔軟なシリコーン、ポリウレタン、スチレン−ブロック−イソブチレン−ブロック−スチレン(SIBS:styrene−block−isobutylene−block−styrene)、ヒドロゲル、粘膜付着性基質(mucoadhesive substrate)、感圧接着剤、および、合成ゴムなどの他の適切なエラストマを含むが、これらに限定されない。他の許容可能な材料は、柔軟で生体適合性がありかつ非生物分解性の任意のポリマーを含む。少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバー50は、少なくとも1種の治療剤を含む。他の実施形態では、治療剤を含む被覆がポリマー・カバー50に付けられ得る。治療剤は、薬物、または非遺伝因子、遺伝因子、細胞物質、等のような他の製剤製品であってもよい。適切な非遺伝的治療剤のいくつかの例は、ヘパリン、ヘパリン誘導体、血管細胞成長促進剤、成長因子阻害剤、パクリタキセル、エベロリムス、等のような抗血栓剤を含むが、これらに限定されない。薬剤が遺伝的治療剤を含む場合、そのような遺伝的薬剤は、DNA、RNA、ならびにそれらそれぞれの誘導体および/または成分、ヘッジホッグタンパク質、等を含み得るが、これらに限定されない。治療剤が細胞物質を含む場合、細胞物質は、ヒト由来および/または非ヒト由来の細胞、ならびにそれらそれぞれの成分および/またはその誘導体を含み得るが、これらに限定されない。
【0052】
好ましい実施形態では、外方延在付着要素54およびベース52は、同一の材料から形成される。1つまたは複数の実施形態では、外方延在付着要素54は、1種の材料から形成され、ベース52は、異なる材料から形成される。1つまたは複数の実施形態では、外方延在付着要素54は、材料の層を有して形成され、それらの層は、所望される体内人工器官と血管壁との係合に必要な特性に応じて、同一の材料である場合もあれば異なる材料である場合もある。内方延在付着要素の場合、ベース52は付着要素を形成し、そのためベース52の材料は、付着要素の材料である。
回収要素
体内人工器官20は、患者の内腔に挿入された際の組織壁との係合が向上されているので、体内人工器官の除去は、一部の従来の除去技法ではより困難になり得る。図1に示された少なくとも1つの実施形態では、体内人工器官20は、ステントの一方の端部上に、縫合糸または除去ループ55を備える。少なくとも1つの実施形態では、除去ループ55は、ステントの遠位端部上に設けられる。本明細書において使用される場合「遠位」という用語は本開示の装置を植え込む施術者から離れる方向を意味し、一方で「近位」という用語は本開示の装置を植え込む施術者に向かう方向を意味することが、留意されるべきである。体内人工器官を除去するための縫合糸または除去ループは、当技術分野でよく知られているが、通常、縫合糸または除去ループは、ステントの近位端部に設けられ、言い換えれば、施術者に最も近い端部に設けられる。この実施形態では、縫合糸または除去ループは、体内人工器官の反対側端部(ステントの遠位端部)に適用される。少なくとも1つの実施形態では、施術者は、体内人工器官の中からループをつかみ、そしてループに軸方向力を加えることにより、体内人工器官の遠位端部が、体内人工器官自体の内腔を通して引っ張られる。したがって、体内人工器官を除去するために、付着要素は、血管壁から引き剥がされ、ステントは、裏返しにされる。他の実施形態では、施術者は、体内人工器官の外から、または体内人工器官の1端部においてループをつかみ得る。
【0053】
他の実施形態では、体内人工器官は、ステントの両端部に縫合糸または除去ループを備える。1つの実施形態では、近位ループが近位に引っ張られるときに、遠位ループが遠位に押し込められ、それにより体内人工器官が軸方向に延ばされ、したがって体内人工器官の直径が減少する。直径の減少は、体内人工器官の両端から中心(長さに沿った中間点)に向かって漸進する形で引き起こされ得る。理論に束縛されるものではないが、直径の漸進的な減少は、付着要素を逐次的な形で血管腔から係脱させて、回収力を最小限に抑え、したがって血管壁へのいかなる外傷も最小限に抑える。
付着要素を有するポリマー・カバーの製造
付着要素54を有するカバー50を製造するために、いくつかの方法を用いることができる。ポリマー・カバー50は、ステントとは別に成形されて、次いで体内人工器官の外側表面とポリマー・カバーのベースとの間の接着層60によりステントに接着され得る。ポリマー・カバーを作成するために、微細パターンを反転したものを有する型に、ポリマー材料が注入され得る。また、ポリマー材料は、真空ポンプ・システムを使用して、型を通して引っ張られてもよい。少なくとも1つの実施形態では、ポリマー・カバーは、ソフト・リソグラフィ技法を使用して作成され得る。1つまたは複数の実施形態では、カバーを作成するためにエッチング技法が使用され得るが、この場合、ポリマー・カバー50の微細パターンを作成するために、カバー材料の層から材料が取り除かれる。さらに別の実施形態では、熱エンボス加工と呼ばれる技法が使用される場合があり、この技法は、部分的に硬化したポリマーを所望のポリマー・カバーの形状に圧搾する工程と、次いでそれをステントに取り付ける前に硬化させる工程とを伴う。圧搾は、溶媒の使用を含む場合もあればそうでない場合もある。
【0054】
少なくとも1つの実施形態では、図7に示されるように、カバー50は、カバーのベースによって画定された内腔を含む実質的に管状の構造として成形され得る。ステント、またはカバーのベースの内側表面の少なくとも部分のいずれかに、接着層60が取り付けられ得る。少なくとも1つの実施形態では、接着層60は、カバーのベースの内側表面全体を実質的に覆うことができる。ステント40は、カバー50の内腔に挿入され得る。少なくとも1つの実施形態では、接着層60を介したステント40へのカバー50の適切な接着を確実とするために、熱および/または圧力が加えられ得る。接着層は、シリコーン被覆、他の適切な接着剤、または金属製ステント(または金属製ステント上のステント被覆)へのカバーの接着を可能にする下塗り溶液を含み得る。
【0055】
1つまたは複数の実施形態では、図8に示されるように、カバー50は、管状構造として成形されるのではなく、ステント40の外側表面44に付着されるストリップとして成形され得る。いくつかの実施形態では、ストリップは、ステントの周囲の少なくとも部分の周りに円周方向に付着される周囲ストリップとして適用され得る。いくつかの実施形態では、ストリップは、長手方向においてステントに付着される長手方向ストリップとされ得る。いくつかの実施形態では、カバーは、図8に示されるように、ステントに螺旋状に巻き付けられ得る。いくつかの実施形態では、カバーは、単一のストリップまたは複数のストリップとして適用され得る。カバーが複数のストリップとして適用される場合、直接隣り合う各ストリップは、互いに当接していてもよく、または互いに離間していてもよい。少なくとも1つの実施形態では、ストリップは、ステントの長さに沿って延在するがステントの周囲の部分のみを覆う、部分的に管状の構造であり得る。いくつかの実施形態では、ステント40の部分が露出され得る。ステント、またはカバーのベースの少なくとも部分のいずれかに、接着層60が取り付けられ得る。少なくとも1つの実施形態では、接着層60を介したステント40へのカバー50の適切な接着を確実とするために、熱および/または圧力が加えられ得る。少なくとも1つの実施形態では、別々の付着要素の微細パターンが、ステント40もしくはポリマー・カバー50のどちらかに形成されかつ/またはステント40もしくはポリマー・カバー50のどちらかに直接付着され得る。
【0056】
1つまたは複数の実施形態では、ポリマー・カバー50は、カバー50をステント40に接続するための追加の接着層を必要とせずに、ステント40をカバー材料に浸漬被覆することによって形成され得る。例えば、ステント40は、空洞および管状部材を含む型に挿入され得る。空洞は、所望の微細パターンを反転したものである型の内壁によって画定される。ステント40は、ステントの内側表面が管状部材の周りに配置されるように、管状部材上に位置する。ステント40を含む型は、カバー材料が型を満たしてステント40に付着するように、カバー材料に浸漬され得る。いくつかの実施形態では、カバー材料を硬化させるために、温度変化および/または圧力変化が型に適用され得る。カバー材料が硬化してポリマー・カバー50を形成すれば、体内人工器官20を型から取り出すことができる。あるいは、ポリマー・カバー50は、同様の型を使用して、ステント上に射出成形されてもよい。型がカバー材料に浸漬されるのではなく、カバー材料が型に注入される。

本開示のいくつかの例示的な実施形態に関する説明が、以下の番号付けされた記述に含まれる。
【0057】
記述1. 内腔を画定する内側表面、外側表面、第1の端部、第2の端部、および内側表面と外側表面との間に画定された厚さを有するステントであって、厚さを貫通して延在する複数の開口部を有するステントと、
ステントの外側表面上のポリマー・カバーであって、ベースおよび付着要素からなり、付着要素が微細パターンに配置され、ベースがステントの開口部のうちの少なくともいくつかを覆うポリマー・カバーと、
からなる体内人工器官。
【0058】
記述2. 非拡張状態から拡張状態へと拡張可能である、記述1に記載の体内人工器官。
記述3. 壁を有する体内管腔内で、付着要素の微細パターンが、壁と体内人工器官との間に所望のかみ合いを生じさせる力を印加する、記述1または2に記載の体内人工器官。
【0059】
記述4. 付着要素が外方延在付着要素である、記述1乃至3のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述5. 各外方延在付着要素が、幅および高さを有する、記述4に記載の体内人工器官。
【0060】
記述6. 外方延在付着要素が切頭円錐である、記述1乃至5のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述7. 付着要素の幅が約50μmから約500μmである、記述5または6のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0061】
記述8. 付着要素が500μmの最大幅を有する、記述5または6のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述9. 付着要素が50μmの最小幅を有する、記述5または6のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0062】
記述10. 付着要素の高さが幅の20〜50%である、記述5乃至9のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述11. 外方延在付着要素が凹状端部を有する、記述5乃至10のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0063】
記述12. 凹状端部が凹状表面深さを有する、記述11に記載の体内人工器官。
記述13. 凹状表面深さが幅の10〜20%である、記述12に記載の体内人工器官。
【0064】
記述14. 外方延在付着要素が、ベースから斜角で延在する側面を有する、記述5乃至13のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述15. 斜角が約30度から約75度である、記述14に記載の体内人工器官。
【0065】
記述16. 外方延在付着要素が、50μmから500μmの範囲から選択された幅と、幅の20〜50%である高さと、幅の10〜20%である凹状表面深さと、30度から75度の範囲から選択された角度θとを有する切頭円錐である、記述1乃至4のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0066】
記述17. 外方延在付着要素が、34.2μmの高さと、91.5μmの幅と、12.4μmの凹状表面深さと、63.9°の角度とを有する切頭円錐である、記述1乃至4のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0067】
記述18. 付着要素が内方延在付着要素である、記述1乃至3のいずれかに記載の体内人工器官。
記述19. 内方延在付着要素が、クレータ、細孔、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、記述18に記載の体内人工器官。
【0068】
記述20. 内方延在付着要素が、最大でポリマー・カバーのベースの厚さに等しい深さを有する、記述18に記載の体内人工器官。
記述21. 深さがベースの厚さ未満である、記述20に記載の体内人工器官。
【0069】
記述22. 深さがベースの厚さに等しい、記述20に記載の体内人工器官。
記述23. 内方延在付着要素が、約50μmから500μmの幅を有する、記述19乃至22のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0070】
記述24. ポリマー・カバーがポリマー材料である、記述1乃至23のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述25. ポリマー材料が弾性を有する、記述24に記載の体内人工器官。
【0071】
記述26. ポリマー材料がシリコーンからなる、記述24または25のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述27. 微細パターンが、格子パターン、矩形アレイ、正n角形アレイ、螺旋形、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、記述1乃至26のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0072】
記述28. 付着要素が、横列および縦列に整列される、記述1乃至26のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述29. 横列および縦列が、互いに直角に交わる、記述28に記載の体内人工器官。
【0073】
記述30. 横列および縦列が、互いに対して斜角で位置する、記述28に記載の体内人工器官。
記述31.微細パターン内の付着要素が、120μm、130μm、140μm、および150μmからなる群から選択された間隔を有する、記述1乃至30のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0074】
記述32. 間隔が一様である、記述1乃至31のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述33. 間隔が一様ではない、記述1乃至31のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0075】
記述34. 付着要素の全てが外方延在付着要素である、記述1乃至17のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述35. 付着要素の全てが内方延在付着要素である、記述1乃至3および19乃至33のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0076】
記述36. 付着要素が、外方延在付着要素および内方延在付着要素からなる、記述1乃至35のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述37. その遠位端部に回収要素をさらに含む、記述1乃至36のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0077】
記述38. その近位端部に回収要素をさらに含む、記述37に記載の体内人工器官。
記述39. ポリマー・カバーが、ステントの外側表面上の螺旋状ストリップである、記述1乃至38のいずれか1つに記載の体内人工器官。
【0078】
記述40. ポリマー・カバーが、管状であり、かつ、ステントの長手方向長さに等しい長手方向長さを有する、記述1乃至38のいずれか1つに記載の体内人工器官。
記述41. 体内人工器官を製造する方法であって、
ベースおよび微細パターンに配置された付着要素からなるポリマー・カバーを形成する工程と、
内腔を画定する内側表面、および外側表面を有するステントを用意する工程と、
ポリマー・カバーのベースをステントの外側表面に接着する工程と、
からなる方法。
【0079】
記述42. ポリマー・カバーが、微細パターンを反転したものを有する型を使用し、その型にポリマー材料を注入して形成される、記述41に記載の方法。
記述43. 付着要素が、外方延在付着要素、内方延在付着要素、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、記述41に記載の方法。
【0080】
記述44. ベースの表面およびステントの外側表面のうちの少なくとも1つに接着層が取り付けられる、記述41乃至43のいずれか1つに記載の方法。
記述45. ポリマー・カバーが、ストリップに形成されて、ステントの外側表面に螺旋状に巻き付けられる、記述41乃至44のいずれか1つに記載の方法。
【0081】
記述46. ポリマー・カバーが管状である、記述41乃至44のいずれか1つに記載の方法。
上記の開示は、例示的なものであって網羅的なものではないことが意図されている。この説明は、多くの変形形態および代替形態を当業者に示唆するであろう。全てのそのような代替形態および変形形態は、特許請求の範囲に記載の範囲に含まれることが意図され、特許請求の範囲では、「からなる(comprising)」という用語は、「含むが、それに限定されない(including, but not limited to)」ことを意味する。当業者は、やはり特許請求の範囲に含まれることが意図されている、本明細書で説明された特定の実施形態に対する他の均等物を認識し得る。
【0082】
さらに、従属請求項に提示された特定の特徴は、本開示の範囲内において他の方法で互いに組み合わされてもよく、したがって、本開示は、従属請求項の特徴の任意の他の可能な組み合わせを有する他の実施形態も明確に対象とするものと認識されるべきである。
【0083】
これで、本開示の好ましい実施形態および代替実施形態の説明を終える。当業者は、本明細書に添付された特許請求の範囲に含まれることが意図されている、本明細書で説明された特定の実施形態に対する他の均等物を認識し得る。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9A(1)】
図9A(2)】
図9B