特許第6446481号(P6446481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446481
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両のブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/26 20060101AFI20181217BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20181217BHJP
   B62L 3/08 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   B60T8/26 K
   B60T8/17 B
   B62L3/08
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-6604(P2017-6604)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-114832(P2018-114832A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】澤野 功明
(72)【発明者】
【氏名】倉田 周
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳志
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/115089(WO,A1)
【文献】 実開平04−026193(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/26
B60T 8/17
B62L 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪ブレーキ(22)を作動させる後輪ブレーキ用操作子(21)と、前記後輪ブレーキ用操作子(21)の操作に応じて油圧を発生するマスターシリンダ(152)と、前記後輪ブレーキ用操作子(21)の操作に応じた油圧を検出する第1検出部(157)と、前輪ブレーキ(12)と、を備える鞍乗型車両のブレーキ制御装置において、
前記マスターシリンダ(152)と前記前輪ブレーキ(12)とをつなぐ流路(170)と、
前記流路(170)を介して前記前輪ブレーキ(12)に作用する油圧を検出する第2検出部として機能する制御部(200)とを備え、
前記制御部(200)は、前記第1検出部及び当該制御部(157、200)が検出した前記油圧の差を、前記鞍乗型車両の車速に応じた目標値に制御することを特徴とする鞍乗型車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部(200)は、前記車速が高いほど前記目標値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部(200)は、前記目標値として、前記後輪ブレーキ用操作子(21)が操作された当初の車速に応じた値を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗型車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記流路(170)の開度を調整する開度調整弁(171)を有し、
前記制御部(200)は、前記油圧の差が前記目標値となるように前記開度調整弁(171)の開度を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鞍乗型車両のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部(200)は、前記第1検出部(157)が検出した油圧と、前記開度調整弁(171)の開度とに基づいて、前記流路(170)を介して前記前輪ブレーキ(12)に作用する油圧を特定することを特徴とする請求項4に記載の鞍乗型車両のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車には、連動ブレーキシステム(コンバインドブレーキシステムとも称する)を備えたものがある。連動ブレーキシステムでは、後輪にのみブレーキ操作が行われた場合でも、後輪ブレーキと前輪ブレーキの両方を作動させる。この種の自動二輪車には、圧力センサによって検出された後輪に対するブレーキ操作力と、目標ブレーキ力情報とに基づいて、後輪側込め弁の開度を制御するものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−89699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構成は、目標ブレーキ力情報は後輪ブレーキの制御だけに使用され、前輪ブレーキの制御には使用されない。このため、後輪ブレーキの制御とは独立して前輪ブレーキの制御が行われ、ブレーキフィーリングの改善の余地がある。また、従来の構成は、ABS(Antilock Brake System)の早期作動を抑制するための制御であり、ブレーキフィーリングの改善を目的とした技術ではない。
そこで、本発明は、連動ブレーキのブレーキフィーリングを向上可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、後輪ブレーキ(22)を作動させる後輪ブレーキ用操作子(21)と、前記後輪ブレーキ用操作子(21)の操作に応じて油圧を発生するマスターシリンダ(152)と、前記後輪ブレーキ用操作子(21)の操作に応じた油圧を検出する第1検出部(157)と、前輪ブレーキ(12)と、を備える鞍乗型車両のブレーキ制御装置において、前記マスターシリンダ(152)と前記前輪ブレーキ(12)とをつなぐ流路(170)と、前記流路(170)を介して前記前輪ブレーキ(12)に作用する油圧を検出する第2検出部として機能する制御部(200)とを備え、前記制御部(200)は、前記第1検出部及び当該制御部(157、200)が検出した前記油圧の差を、前記鞍乗型車両の車速に応じた目標値に制御することを特徴とする。
【0006】
上記構成において、前記制御部(200)は、前記車速が高いほど前記目標値を小さくしてもよい。
また、上記構成において、前記制御部(200)は、前記目標値として、前記後輪ブレーキ用操作子(21)が操作された当初の車速に応じた値を設定してもよい。
【0007】
また、上記構成において、前記流路(170)の開度を調整する開度調整弁(171)を有し、前記制御部(200)は、前記油圧の差が前記目標値となるように前記開度調整弁(171)の開度を制御してもよい。
【0008】
また、上記構成において、前記制御部(200)は、前記第1検出部(157)が検出した油圧と、前記開度調整弁(171)の開度とに基づいて、前記流路(170)を介して前記前輪ブレーキ(12)に作用する油圧を特定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、制御部が、後輪ブレーキ用操作子の操作に応じた油圧と、マスターシリンダと前輪ブレーキとをつなぐ流路を介して前記前輪ブレーキに作用する油圧の差を、鞍乗型車両の車速に応じた目標値に制御する。これにより、後輪ブレーキ用操作子の操作時に、車速に合わせた制動力で前輪を精密に制動でき、連動ブレーキのブレーキフィーリングが向上する。
また、前記制御部は、前記車速が高いほど前記目標値を小さくするので、車速が高いほど効率良く制動可能なブレーキ制御となり、車速が低いほど車体のピッチングの抑制に有利なブレーキ制御となる。
【0010】
また、前記制御部は、前記目標値として、前記後輪ブレーキ用操作子が操作された当初の車速に応じた値を設定するので、連動ブレーキ作動中に目標値の変化が抑制され、安定したブレーキフィーリングが得られる。
また、前記制御部は、前記目標値を、前記後輪ブレーキ用操作子が操作されてからの経過時間に応じて可変するので、車速及び時間に応じて連動ブレーキの制御を可変でき、より精密に制動させることができる。これにより、ブレーキフィーリングを更に向上させ易くなる。
【0011】
また、前記流路の開度を調整する開度調整弁を有し、前記制御部は、前記油圧の差が前記目標値となるように前記開度調整弁の開度を制御するので、簡易な構成でブレーキフィーリングが向上する。
また、前記制御部は、前記第1検出部が検出した油圧と、前記開度調整弁の開度とに基づいて、前記流路を介して前記前輪ブレーキに作用する油圧を特定するので、前輪ブレーキに作用する油圧を検出する圧力センサが不要であり、部品点数の削減に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車のブレーキシステムの液圧回路を示す図である。
図2】制御ユニットを周辺構成と共に示すブロック図である。
図3】第2ブレーキ制御のフローチャートである。
図4】後輪に対するブレーキ操作力と、前輪ブレーキに作用するブレーキ力(FR CBS出力)との関係の一例を示す図である。
図5】高速の場合の目標値を零にした場合のブレーキ力(FR CBS出力)と目標値とのそれぞれの時間変化の一例を示す図であり、図5(A)はブレーキ力(FR CBS出力)の時間変化を示し、図5(B)は低速での目標値の時間変化を示し、図5(C)は中速での目標値の時間変化を示し、図5(D)は高速での目標値の時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る自動二輪車のブレーキシステムの液圧回路100を示す図である。
このブレーキシステム10は、大型ツアラーなどに分類される大型の自動二輪車に搭載され、本発明のブレーキ制御装置として機能する。このブレーキシステム10は、液圧回路(油圧回路とも称する)100と、液圧回路100を制御する制御部として機能する制御ユニット200(後述する図2)とを備える。
液圧回路100は、前輪ブレーキ用操作子であるブレーキレバー11の操作によって前輪ブレーキ12を作動させる第1液圧回路111と、後輪ブレーキ用操作子であるブレーキペダル21の操作によって後輪ブレーキ22及び前輪ブレーキ12を作動させる第2液圧回路151とによって構成される。
【0014】
前輪ブレーキ12は、油圧式ディスクブレーキ装置で構成され、前輪と一体に回転する前ブレーキディスク14と、前ブレーキディスク14に摩擦材を押し付けて制動する前輪用キャリパ15とを備える。
前輪用キャリパ15は、第1液圧回路111からの油圧(ブレーキ液の液圧に相当)によって摩擦材を押し付ける第1ピストン部15Aと、第2液圧回路151からの油圧によって摩擦材を押し付ける第2ピストン部15Bとを備える。
【0015】
後輪ブレーキ22は、前輪ブレーキ12と同様に油圧式のディスクブレーキ装置で構成され、後輪と一体に回転する後ブレーキディスク24と、後ブレーキディスク24に摩擦材を押し付けて制動する後輪用キャリパ25とを備える。後輪用キャリパ25は、第2液圧回路151からの油圧によって摩擦材を押し付けるピストン部25Aを有する。
【0016】
第1液圧回路111は、ブレーキレバー11の操作に応じた油圧を発生する前輪側マスターシリンダ112と、前輪側マスターシリンダ112に接続されてブレーキ液の一部を貯留する前輪側リザーブタンク113と、前輪側マスターシリンダ112と管路114を介して接続される前輪側切替弁115と、前輪側マスターシリンダ112と管路114を介して接続される前輪側高圧吸入弁116とを備える。管路114と前輪側切替弁115との接続部、及び管路114と前輪側高圧吸入弁116との接続部には、それぞれフィルタが設けられる。
【0017】
管路114及び後述する各管路はブレーキ液の流路として機能する。管路114には、管路114内の油圧を検出する圧力センサ117が設けられる。圧力センサ117は、前輪側マスターシリンダ112と前輪側切替弁115及び前輪側高圧吸入弁116との間の油圧を検出することにより、ブレーキレバー11の操作に応じた油圧を検出する。つまり、圧力センサ117は、前輪に対するブレーキ操作力を検出する検出部として機能する。圧力センサ117の検出結果は制御ユニット200に出力される。
【0018】
前輪側切替弁115には、管路118を介して前輪側込め弁119が接続される。前輪側切替弁115と管路118の接続部、及び管路118と前輪側込め弁119との接続部にも、それぞれフィルタが設けられる。
前輪側込め弁119は、管路120を介して前輪用キャリパ15のピストン部15Aと接続される。これによって、前輪側マスターシリンダ112によって発生した油圧は、前輪側切替弁115及び前輪側込め弁119介して前輪用キャリパ15のピストン部15Aに作用し、前輪ブレーキ12を作動させる。
【0019】
また、管路118には、絞りを介して前輪側液圧ポンプ122の吐出側が接続される。この前輪側液圧ポンプ122は、モータ(例えばDCモータ)130によって駆動される。前輪側液圧ポンプ122の吸込側は、フィルタを介して管路123の一端に接続される。管路123の他端は、前輪側高圧吸入弁116の一端と接続される。また、管路123は、前輪側逆止弁124、前輪側リザーバ(アキュムレータ)125、前輪側弛め弁126を介して管路120と接続される。前輪側逆止弁124によって、管路123から前輪側リザーバ125側への逆流が防止される。また、前輪側リザーバ125と前輪側逆止弁124との接続部にはフィルタが設けられる。
【0020】
管路120には、管路120内の油圧を検出する圧力センサ127が設けられる。圧力センサ127は、管路120を介して前輪用キャリパ15の第1ピストン部15Aに作用する油圧を検出する。つまり、圧力センサ127は、前輪用キャリパ15の第1ピストン部15Aに実際に作用する圧力を検出する検出部として機能する。圧力センサ127の検出結果は制御ユニット200に出力される。
【0021】
第2液圧回路151は、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧を発生する後輪側マスターシリンダ152と、後輪側マスターシリンダ152に接続されてブレーキ液の一部を貯留する後輪側リザーブタンク153とを備える。さらに、第2液圧回路151は、後輪側マスターシリンダ152と管路154を介して接続される後輪側高圧吸入弁155と、後輪側マスターシリンダ152と管路154を介して接続される後輪側切替弁156とを備える。また、管路154と後輪側高圧吸入弁155との接続部、及び管路154と後輪側切替弁156との接続部には、それぞれフィルタが設けられる。
【0022】
さらに、管路154には、管路154内の油圧を検出する圧力センサ157が設けられる。圧力センサ157は、後輪側マスターシリンダ152と後輪側高圧吸入弁155及び後輪側切替弁156との間の油圧を検出することにより、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧を検出する。つまり、圧力センサ157は、後輪に対するブレーキ操作力を検出する検出部として機能する。圧力センサ157の検出結果は制御ユニット200に出力される。
【0023】
また、後輪側高圧吸入弁155には、管路158を介して後輪側込め弁159が接続される。後輪側高圧吸入弁155と管路158の接続部、及び管路158と後輪側込め弁159との接続部にも、それぞれフィルタが設けられる。
後輪側込め弁159は、管路160を介して後輪用キャリパ25のピストン部25Aと接続される。これによって、後輪側マスターシリンダ152によって発生した油圧は、後輪側高圧吸入弁155及び後輪側込め弁159を介して後輪用キャリパ25のピストン部25Aに作用し、後輪ブレーキ22を作動させる。
ここで、後輪側込め弁159は、全閉、全開、及び全閉と全開との間の中間開度に制御可能なバルブであり、ピストン部25Aに至る管路160の開度を多段階で変化させる開度調整弁として機能する。
【0024】
また、管路158には、絞りを介して後輪側液圧ポンプ162の吐出側が接続される。この後輪側液圧ポンプ162は、モータ130によって駆動される。後輪側液圧ポンプ162の吸込側は、フィルタを介して管路163の一端に接続される。管路163の他端は、後輪側切替弁156の一端と接続される。また、管路163は、後輪側逆止弁164、後輪側リザーバ(アキュムレータ)165、後輪側第1弛め弁166を介して管路120と接続される。後輪側逆止弁164によって、管路163から後輪側リザーバ165側への逆流が防止される。また、後輪側リザーバ165と後輪側逆止弁124との接続部にはフィルタが設けられる。
【0025】
また、管路160には、管路160内の油圧(ブレーキ液の圧力)を検出する圧力センサ167が設けられる。圧力センサ167は、管路160を介して後輪用キャリパ25のピストン部25Aに作用する油圧を検出する。つまり、圧力センサ167は、後輪ブレーキ22に実際に作用する圧力を検出する検出部として機能する。圧力センサ167の検出結果は制御ユニット200に出力される。
【0026】
本実施形態では、後輪側マスターシリンダ152と前輪用キャリパ15の第2ピストン部15Bとを接続する流路として機能する管路170が設けられる。
この管路170の途中には、圧力センサ157が設けられる。前輪側連結弁171は、全閉、全開、及び全閉と全開との間の中間開度に制御可能なバルブであり、第2ピストン部15Bに至る管路170の開度を多段階で変化させる開度調整弁として機能する。
なお、管路170と後輪側リザーバ165との間には、管路168が設けられ、この管路168には前連動輪弛め弁169が設けられる。これによって、管路170内の加圧されたブレーキ液の一部を、前連動輪弛め弁169を介して後輪側リザーバ165側へ逃がすことができる。
【0027】
図2は制御ユニット200を周辺構成と共に示すブロック図である。
制御ユニット200には、ブレーキレバー11の作動を検出するブレーキレバースイッチ201と、圧力センサ117、127、157、167と、前輪回転速度を検出する前輪速度センサ202とが接続される。さらに、制御ユニット200には、ブレーキペダル21の作動を検出するブレーキペダルスイッチ203と、後輪回転速度を検出する後輪速度センサ204と、車速(自動二輪車の走行速度)を検出する車速センサ205とが接続される。
ブレーキレバースイッチ201はブレーキレバー11の作動を示す操作信号を制御ユニット200に出力する。圧力センサ117、127、157及び167は、各管路114、120、154、160内の各圧力を示す圧力信号を、それぞれ制御ユニット200に出力する。
【0028】
前輪速度センサ202は、前輪回転速度を示す回転速度信号を制御ユニット200に出力する。ブレーキペダルスイッチ203はブレーキペダル21の作動を示す操作信号を制御ユニット200に出力する。後輪速度センサ204は、前輪回転速度を示す回転速度信号を制御ユニット200に出力する。車速センサ205は、車速を示す車速信号を制御ユニット200に出力する。また、制御ユニット200には、自動二輪車の仕様などに応じて、勾配センサ207、加速度センサ、レーダーセンサなどが接続される。
【0029】
制御ユニット200は、操作信号、圧力信号、回転速度信号及び車速信号に基づき、所定の条件に従って、液圧回路100の各部を制御する。つまり、制御ユニット200は、モータ130と、第1液圧回路111の各部(前輪側切替弁115、前輪側高圧吸入弁116、前輪側込め弁119及び前輪側弛め弁126)と、第2液圧回路151の各部(後輪側高圧吸入弁155、後輪側切替弁156、後輪側込め弁159、前連動輪弛め弁169、前連動輪込め弁171)との各々を制御する。
【0030】
また、この制御ユニット200は、ブレーキング時に、前輪速度センサ202及び後輪速度センサ204からの回転速度信号に基づき前輪又は後輪のいずれかのロックを検知した場合に、液圧回路100の各部を制御して前輪又は後輪のロックを防止するアンチロック制御を行う。このアンチロック制御には、公知の制御を広く適用可能である。
【0031】
このブレーキシステム10は、後輪にのみブレーキ操作が行われた場合に、後輪ブレーキ22と前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bを作動させる連動ブレーキシステム(コンバインドブレーキシステム)として機能する。
このブレーキシステム10では、連動ブレーキ制御として、後輪へのブレーキ操作が行われた場合、前輪用キャリパ15の第2ピストン部15Bに供給する油圧を定める所定の目標値を、車速に応じた目標値DTに設定する。これにより、連動ブレーキの際に、車速に合わせた制動力で前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bを作動可能になる。
【0032】
ブレーキペダル21が操作され、ブレーキレバー11が操作されない場合の連動ブレーキ制御について説明する。ブレーキペダル21が踏まれると、後輪側マスターシリンダ153の油圧が上昇して、この油圧が、順に、管路154、開状態の後輪側高圧吸入弁155、管路158、開状態の後輪側込め弁159、管路160を介して、後輪用キャリパ25に作用する。これにより、後輪用キャリパ25のピストン部25Aが作動して後輪が制動される。
【0033】
ここで、制御ユニット200は、圧力センサ157の信号に基づき後輪ブレーキ22への油圧の上昇を検出すると、連動ブレーキ制御モードの動作状態に切り替わり、連動ブレーキ制御を開始する。
連動ブレーキ制御として、制御ユニット200は、第1液圧回路111に対するブレーキ制御と、第2液圧回路151に対するブレーキ制御とを行う。以下、説明の便宜上、第1液圧回路111に対するブレーキ制御を「第1ブレーキ制御」と表記し、第2液圧回路151に対するブレーキ制御を「第2ブレーキ制御」と表記する。
【0034】
制御ユニット200は、第1ブレーキ制御として、第1液圧回路111にアクティブ増圧を行って前輪側でブレーキングを行う制御を行う。
具体的には、制御ユニット200は、前輪側切替弁115を閉鎖し、前輪側高圧吸入弁116を開放する一方、前輪側込め弁119の開放状態を維持し、モータ130により前輪側液圧ポンプ122を作動する。前輪側液圧ポンプ122の作動により、前輪側リザーブタンク113からのブレーキ液が、管路114、前輪側高圧吸入弁116及び管路123を通って、前輪側液圧ポンプ122の吸込ポートに吸い込まれる。そして、ブレーキ液は前輪側液圧ポンプ122の吐出ポートから吐き出されて、管路118内の油圧を上昇させる。管路118内の油圧の上昇により、前輪側込め弁119、管路120を介して、前輪用キャリパ15の第1ピストン部15Aが作動し、前輪が制動される。
【0035】
ここで、本構成では、第2ブレーキ制御によっても前輪ブレーキ制御を行うので、第1ブレーキ制御による前輪ブレーキ力は、第2ブレーキ制御を行わない場合の前輪ブレーキ力と比べて低いブレーキ力に設定される。なお、第1ブレーキ制御による前輪ブレーキ力の目標値は、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧(圧力センサ157の検出値)に比例する値にすることで、後輪に対するブレーキ操作力が高いほど高い前輪ブレーキ力に制御することができる。
【0036】
第2ブレーキ制御について説明する。
図3は第2ブレーキ制御のフローチャートである。
制御ユニット200は、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧の上昇を検出すると、より具体的には、圧力センサ157によって検出される管路154内の油圧P1の上昇を検出すると、ブレーキペダル21が操作されたと判定し、車速センサ205により、その時点の車速VCを取得する(ステップS1)。これにより、制御ユニット200は、後輪ブレーキ用操作子であるブレーキペダル21が操作された当初(例えば操作開始時点(後述の図5に示す時間t0のタイミング))の車速VCを取得する。
【0037】
次に、制御ユニット200は、車速VCに基づいて目標値DTを設定する(ステップS2)。ここで、目標値DTは、車速VCが大きいほど小さい値に設定される。
この目標値DTの設定方法は、例えば、車速VCと油圧P1と目標値DTとを対応づけたテーブルデータ、或いは、車速VCと油圧P1とを変数として目標値DTを算出する算出式のデータなどに基づいて設定する方法を適用すればよい。
【0038】
次いで、制御ユニット200は、ブレーキペダル21の操作に応じて発生する油圧P1と、前輪用キャリパ15の第2ピストン部15Bに作用する油圧P2との差圧PXの取得を開始する(ステップS3)。
ここで、油圧P1は、圧力センサ157によって検出される管路154内の油圧であり、直接取得することが可能である。
【0039】
これに対し、本実施形態の液圧回路100は、油圧P2を直接検出する圧力センサを備えていない。この油圧P2は、後輪側リザーブタンク153と前輪用キャリパ15の第2ピストン部15Bとを接続する管路170に入力する油圧(油圧P1に相当)と、管路170の開度(前連動輪込め弁171の開度)によって定まる液圧である。
そこで、本実施形態では、制御ユニット200が、圧力センサ157によって検出された油圧P1と、前連動輪込め弁171の開度とに基づいて油圧P2を推定する処理を行う。そして、油圧P2の推定値を取得すると、制御ユニット200は、油圧P1と油圧P2との差分を算出することにより、差圧PXを取得する。この差圧PX(P1−P2に相当)を取得する処理は、ブレーキペダル21が操作される間、継続して実施される。これにより、制御ユニット200は、ブレーキペダル21操作中の差圧PXをリアルタイムに取得する。
【0040】
続いて、制御ユニット200は、差圧PXを、車速VCに応じた目標値DTに制御する処理を行う(ステップS4)。具体的には、制御ユニット200は、差圧PXが目標値DTになるように前連動輪込め弁171の開度を制御するための電流値を演算し、演算した電流値に基づいて前連動輪込め弁171の開度を制御する。この制御により差圧PXが目標値DTに制御される。なお、この制御にフィードバック制御を適用してもよい。
この場合、目標値DTを小さくするほど、差圧PXが小さくなるので、前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bに作用するブレーキ力が、後輪ブレーキ22のピストン部25Aに作用するブレーキ力に近づく。逆に、目標値DTを大きくするほど、差圧PXが大きくなるので、前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bに作用するブレーキ力が、後輪ブレーキ22のピストン部25Aに作用するブレーキ力に対し、相対的に小さくなる。
【0041】
図4はブレーキペダル21(後輪ブレーキ用操作子)の操作に応じた油圧P1と、前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bに作用するブレーキ力(図4中、「FR CBS出力」であり、油圧P2に相当)との関係の一例を示す図である。
図4の例では、車速VCを、低速、中速及び高速の3つの速度帯域に分類している。そして、それぞれの速度帯域に対応づけた目標値DTに設定することで、前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bに作用するブレーキ力を、車速VCが高いほど大きくし、車速VCが低いほど小さくしている。
【0042】
これにより、高車速では、後輪ブレーキ22に対する前輪ブレーキ12へのブレーキ力配分比率が大きくなり、効率良く制動可能なブレーキ制御となる。
一方、低車速では、後輪ブレーキ22に対する前輪ブレーキ12へのブレーキ力配分比率が小さくなり、低速時に前輪が急減速した際に車体がピッチングする動き(いわゆるピッチングモーション)を抑制可能なブレーキ制御となる。これらにより、車速に合わせて適切なブレーキ制御を行うことが可能になる。
なお、差圧PXが目標値DTになるまでは、前連動輪込め弁171は閉状態に維持される。このため、ブレーキペダル21の操作に応じて発生する油圧P1が少なくとも目標値DTに達するまでは、第2ピストン部15Bに作用する油圧P2は上昇しない。
【0043】
図5は高速の場合の目標値DTを零にした場合のブレーキ力(FR CBS出力)と目標値DTとのそれぞれの時間変化の一例を示す図である。図5(A)はブレーキ力(FR CBS出力)の時間変化を示し、図5(B)は低速での目標値DTの時間変化を示し、図5(C)は中速での目標値DTの時間変化を示し、図5(D)は高速での目標値DTの時間変化を示す。なお、図5中、横軸は経過時間tを示し、時間t0はブレーキペダル21の操作開始時点を示し、時間t1はブレーキペダル21の操作終了時点を示している。また、時間txは、油圧P1が中速で設定される目標値DTに達した時点であり、時間tyは、油圧P1が低速で設定される目標値DTに達した時点である。
本構成では、ブレーキペダル21が操作された当初(操作開始時点)の車速VCに基づいて目標値DTを設定するので、図5(B)、図5(C)及び図5(D)に示すように、目標値DTを設定した後、目標値DTは一定の値に保持される。これにより、ブレーキ作動中に目標値DTの変化が抑制され、安定したブレーキフィーリングを得ることができる。
【0044】
この場合も、図4と同様に、車速VCが高いほど目標値DTを小さく設定する。これにより、図5(A)に示すように、高車速では、後輪ブレーキ22に対する前輪ブレーキ12へのブレーキ力配分比率が大きくなり、効率良く制動可能なブレーキ制御となる。また、低車速では、後輪ブレーキ22に対する前輪ブレーキ12へのブレーキ力配分比率が小さくなり、ピッチングモーションの抑制に有利なブレーキ制御となる。
【0045】
より具体的には、低速の場合、図5(B)に示すように、目標値DTを低速時目標値KBに設定し、中速の場合、図5(C)に示すように、目標値DTを中速時目標値KCに設定する。低速時目標値KBは零よりも大きい値であって、差圧PXを、油圧P2が油圧P1よりも十分に小さい所定値にする値である。これにより、図5(A)に示すように、低速の場合のブレーキ力(FR CBS出力)は、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧P1よりも十分に小さい油圧から得たブレーキ力となる(図5(A)中、P2<<P1で示す状態)。
中速時目標値KCは、低速時目標値KBよりも小さく、零よりも大きい値であり、差圧PXを、油圧P2を油圧P1よりも小さい所定値にする値である。これにより、図5(A)に示すように、低速の場合のブレーキ力(FR CBS出力)は、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧P1よりも小さい油圧から得たブレーキ力となる(図5(A)中、P2<P1で示す状態)。
なお、上記目標値KB、KCは自動二輪車の要求仕様に応じて適宜に設定すればよい。
【0046】
図5(D)に示すように、高速の場合、目標値DTを零(DT=0)に設定することにより、差圧PXが零(PX=0)に制御される。これにより、図5(A)に示すように、高速の場合のブレーキ力(FR CBS出力(油圧P2に相当))が、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧P1から得たブレーキ力となる(図5(A)中、P2=P1で示す状態)。高速の場合、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧P1が、前輪ブレーキ12のピストン部15Bに直接作用するので、前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bによるブレーキ力を最大にすることができる。従って、高車速で効率良く制動可能になる。
なお、目標値DTはブレーキペダル21の操作終了時点(時間t1)にリセットされ、次にブレーキペダル21が操作された場合に新たに設定される。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態では、後輪ブレーキ用操作子であるブレーキペダル21の操作に応じた油圧P1を検出する第1検出部として機能する圧力センサ157と、前輪側マスターシリンダ152と前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bとを接続する流路として機能する管路170と、管路170を介して第2ピストン部15Bに作用する油圧P2を検出する第2検出部として機能する制御ユニット200とを備える。さらに、制御ユニット200は、油圧P1、P2の差圧PXを、車速VCに応じた目標値DTに制御する。
これにより、ブレーキペダル21の操作時に、車速VCに合わせた制動力で前輪を精密に制動できる。従って、前後ブレーキ12、22(連動ブレーキ)のブレーキフィーリングが向上する。
【0048】
また、制御ユニット200は、車速VCが高いほど目標値DTを小さくするので、車速VCが高いほど効率良く制動可能なブレーキ制御となり、車速VCが低いほど車体のピッチングの抑制に有利なブレーキ制御となる。これにより、制動力と制動時の車体安定化とがバランスした制御ができ、ブレーキフィーリングが向上する。
【0049】
さらに、制御ユニット200は、目標値DTとして、ブレーキペダル21が操作された当初の車速VCに応じた値を設定するので、ブレーキ作動中に目標値DTの変化が抑制され、安定したブレーキフィーリングが得られる。
また、管路170の開度を調整する開度調整弁として機能する前連動輪込め弁171を有し、制御ユニット200は、油圧P1、P2の差圧PXが目標値DTとなるように前連動輪込め弁171の開度を制御するので、簡易な構成でブレーキフィーリングが向上する。
【0050】
さらに、制御ユニット200は、圧力センサ157が検出した油圧P1と、前連動輪込め弁171の開度とに基づいて、管路170を介して前輪ブレーキ12の第2ピストン部15Bに作用する油圧P2を特定する。これにより、油圧P2を直接検出する圧力センサが不要であり、部品点数の削減に有利となる。
なお、部品点数の増大が可能な場合には、油圧P2を検出する圧力センサを設けてもよい。
【0051】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一実施の態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。
例えば、上述した実施形態では、後輪ブレーキ用操作子がブレーキペダル21の場合を説明したが、ブレーキペダル21に限定されず、公知の自動二輪車が有する後輪ブレーキ用操作子を広く適用可能である。
また、上述した実施形態では、車速VCが高いほど目標値DTを小さくする場合を説明したが、これに限定されない。要は、車速VCに応じた目標値DTを使用する範囲で、目標値DTを適宜に変更してもよい。
【0052】
また、上述した実施形態における前輪ブレーキ12、後輪ブレーキ22及び液圧回路100などの構成はあくまで一例である。公知の様々な前輪ブレーキ及び後輪ブレーキを適用してもよいし、液圧回路100の回路構成も適宜に変更可能である。
また、上述した実施形態では、目標値DTは一定としているが、後輪用ブレーキ操作子の操作に応じた油圧P1に応じて可変としてもよい。
また、上述した実施形態では、圧力センサ157を用いてブレーキペダル21の操作に応じた油圧を検出する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、ブレーキペダル21のストロークを検出することによって、ブレーキペダル21の操作に応じた油圧を検出してもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、後輪にのみブレーキ操作が行われた場合に、第1ブレーキ制御と第2ブレーキ制御とを行う場合を説明したが、第2ブレーキ制御によって前輪の十分な制動力を確保できる場合などに、第1ブレーキ制御を省略してもよい。
また、上述した実施形態では、大型の自動二輪車のブレーキシステム(ブレーキ制御装置)10に本発明を適応する場合を説明したが、これに限定されず、例えば鞍乗型車両などの前後輪を有する車両のブレーキシステム(ブレーキ制御装置)に本発明を適用してもよい。鞍乗型車両は、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)に限定されず、自転車などの他の二輪車、及びATV(不整地走行車両)などの三輪車両や四輪車両を含む車両である。また、車両はエンジン(内燃機関)で駆動するタイプに限定されず、モータで駆動する電動タイプでもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 ブレーキシステム(ブレーキ制御装置)
11 ブレーキレバー(前輪ブレーキ用操作子)
12 前輪ブレーキ
15 前輪用キャリパ
15A 第1ピストン部
15B 第2ピストン部
21 ブレーキペダル(後輪ブレーキ用操作子)
22 後輪ブレーキ
25 後輪用キャリパ
25A ピストン部
100 液圧回路
111 第1液圧回路
151 第2液圧回路
152 後輪側マスターシリンダ
157 圧力センサ(第1検出部)
170 管路(流路)
171 前連動輪込め弁(開度調整弁)
200 制御ユニット(第2検出部)
P1、P2 油圧
PX 差圧
VC 車速
DT、 目標値
KB、DT1、DT2 低速時目標値
KC 中速時目標値
t 経過時間
図1
図2
図3
図4
図5