(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6446575
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ナット装置
(51)【国際特許分類】
F16B 37/10 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
F16B37/10
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-11548(P2018-11548)
(22)【出願日】2018年1月26日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108708
【氏名又は名称】タキゲン製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和之
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
実開平2−40113(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトを挿通させるテーパ孔を有するケーシングと、前記テーパ孔内に軸周り回転自在・軸方向進退自在に挿入されるナットホルダと、周方向に複数に分割されそれぞれ内周に前記ボルトに螺合する雌ねじ部を有し外周が前記テーパ孔の内周に摺接するように前記ナットホルダに保持されるナットセグメントと、前記各ナットセグメントを前記ナットホルダと一体にテーパ孔の小径側へ付勢するように前記テーパ孔内に保持されるばねとを具備し、
前記ナットホルダは、前記テーパ孔内に挿入される一端側の円筒部と、回転用工具を掛けられるように前記テーパ孔から突出する他端側の角筒部とを具備し、
前記円筒部は、前記ナットセグメントを前記テーパ孔の半径方向に相対移動自在、周方向及び軸方向に相対移動不能に保持する保持開口を具備し、
前記ばねを圧縮しつつ前記ナットホルダを前記ナットセグメントと共に前記テーパ孔の大径側へ引き上げ可能に構成されることを特徴とするナット装置。
【請求項2】
前記ケーシングは、前記テーパ孔の小径側端に前記ナットホルダを抜け止めする内側フランジ部を具備し、
前記ナットセグメントは、前記ナットホルダの保持開口を前記テーパ孔の半径方向に貫通して前記円筒部の外周側へ突出する突出部を具備し、
前記ばねは、前記円筒部の外周に嵌め込まれ、一端が前記ナットセグメントの前記突出部に係止され他端が前記ケーシングのテーパ孔の大径側の端に固着された止め輪に係止されることを特徴とする請求項1に記載のナット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトに対する締め、緩めの操作を短時間で容易に行うことができるナット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトに対する締め込みの操作を短時間で容易に行うことができるナットとして、例えば特許文献1に記載されてものが知られている。このナットは、ボルトに対し、回転させることなく被締結部材に当接するまで挿入し、そこから若干回転させることにより完締めすることができる。このナットは、テーパ孔を有するケーシングと、このケーシングのテーパ孔内に、周方向に複数に分割されてそれぞれ軸方向に摺動可能に配置されたナットセグメンと、各ナットセグメントをテーパ孔の小径側へ付勢するようにテーパ孔内に保持されたばねとを具備する。各ナットセグメントが、ばねを圧縮してテーパ孔の大径側へ移動することにより、これらナットセグメント間に形成されるねじ孔が拡径し、ボルトとの螺号が解ける。ナットセグメントがばね力でテーパ孔の小径側へ移動することによりねじ孔が縮径し、ボルトと螺号する。
被締結部材に挿通されたボルトに対してナットを圧入すると、ボルトのねじ山との接触抵抗により各ナットセグメントが、ばねの付勢力に抗してテーパ孔の大径側へ移動する。これにより、ナットセグメント間に形成されるねじ孔が拡径するから、ナットを回転させることなく、ナットが被締結部材に当接するまで、迅速にボルトへ挿入できる。ナットが被締結部材に当接すると、ばねの付勢力により各ナットセグメントがテーパ孔の小径側へ押し込まれてねじ孔が縮径し、それの雌ねじ部がボルトの雄ねじ部に噛み合うので、その後、ナットを締め付け方向へわずかに回転させるだけでナットの完締めができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭55−48171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のナットは、締め付け時のボルトへの装着を迅速に行えるが、ボルトからの抜去操作は、通常のナットと同様、緩め方向へ多数回にわたって回転させることによらざるを得ない。
したがって、本発明は、ボルトへの締め付け作業のみならず、それの抜去作業も、回転操作によらずに迅速に行うことができるナットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明のナット装置1は、ケーシング2と、ナットホルダ3と、ナットセグメント4と、ばね5とを具備する。ケーシング2は、ボルトBを挿通させるテーパ孔2aを有する。ナットホルダ3は、テーパ孔2a内に軸周り回転自在、軸方向進退自在に挿入される。ナットセグメント4は、ナットが周方向に複数に分割されたもので、それぞれ内周にボルトBに螺合する雌ねじ部4aを有する。ナットセグメント4は、外周がテーパ孔2aの内周に摺接するようにナットホルダ3に保持される。ばね5は、各ナットセグメント4をナットホルダ3と一体にテーパ孔2aの小径側へ付勢するようにテーパ孔2a内に保持される。ナットホルダ3は、一端側の円筒部3aと、他端側の角筒部3bとを具備する。円筒部3aがテーパ孔2a内に挿入され、角筒部3bは、回転用工具を掛けられるようにテーパ孔2aから突出する。円筒部3aは、ナットセグメント4を保持する保持開口3cを具備する。ナットセグメント4は、ナットホルダ3に対し、テーパ孔2aの半径方向に相対移動自在、周方向及び軸方向には相対移動不能である。ばね5が圧縮され、ナットホルダ3がナットセグメント4と共にテーパ孔2aの大径側へ移動すると、ナットセグメント4間のねじ孔6が拡径し、ボルトとの螺号が外れる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のナット装置1は、ボルトBに圧入すると、ボルトBのねじ山との接触抵抗により各ナットセグメント4が、ナットホルダ3と共に、ばね5の付勢力に抗してテーパ孔2aの大径側へ移動する。これにより、ナットセグメント4間に形成されるねじ孔6が拡径するから、ナットホルダ3を回転させることなく、ケーシング2が被締結部材A1に当接するまで、迅速にナット装置1をボルトBへ挿入できる。ナット装置1が被締結部材A1に当接すると、ばね5の付勢力により各ナットセグメント4がテーパ孔2aの小径側へ押し込まれてねじ孔6が縮径し、それの雌ねじ部4aがボルトBの雄ねじ部に噛み合うので、その後、ナットホルダ3を締め付け方向へわずかに回転させるだけでナット装置1の完締めができる。
ナット装置1をボルトBから抜去する場合には、ナットホルダ3を緩め方向へ数回転させ、ケーシング2と被締結部材A1との間に隙間を作り、ケーシング2に対してナットホルダ3を引き上げるように操作すると、ナットセグメント4が、テーパ孔2aの大径側へ移動する。そのままナット装置1を引き上げれば、ナットセグメント4がボルトのねじ山の斜面を摺動して半径方向外側へ移動し、ねじ孔6を拡径させ、ボルトBとの螺合が外れるから、ナットホルダ3を回転させることなくナット装置1をボルトBから抜去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るナット装置の分解斜視図である。
【
図4】
図1のナット装置をボルトに圧入する状態の断面図である。
【
図5】
図1のナット装置をボルトの締め付け位置に配置した状態の断面図である。
【
図6】
図1のナット装置を緩めた状態の断面図である。
【
図7】
図1のナット装置をボルトから引き抜く状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1ないし
図3において、ナット装置1は、ケーシング2と、ナットホルダ3と、ナットセグメント4と、ばね5とを具備する。
【0009】
ケーシング2は、ボルトBを挿通させるための、
図2において下方へ縮径したテーパ孔2aを有する。テーパ孔2aの下端部に内側フランジ2bが形成される。
【0010】
ナットホルダ3は、円筒部3aと、この円筒部3aの上端の六角筒部3bとを具備する。円筒部3aが、ケーシング2のテーパ孔2a内に軸周り回転自在、軸方向進退自在に挿入され、内側フランジ2bにより下方へ抜け止めされ、止め輪2cにより上方へ抜け止めされる。円筒部3aには、それの半径方向内外に貫通する対向一対の保持開口3cが形成される。
【0011】
一対のナットセグメント4が、保持開口3c内に保持される。ナットセグメント4は、保持開口3cに対してテーパ孔2aの半径方向に相対移動自在であり、周方向及び軸方向には相対移動不能である。ナットセグメント4は、円錐筒形のナットをそれの周方向に4分割したうちの2つに対応する形状のもので、ボルトBに螺合する雌ねじ部4aを内周に有する。したがって、両ナットセグメント4間に、雌ねじ部4aに囲まれた実質的なねじ孔6が形成される。ナットセグメント4は、保持開口3cを貫通して円筒部3aの外側へ突出する突出部4bを具備する。突出部4の外周はテーパ面4cで、テーパ孔2aの内周に摺動自在に接している。
【0012】
ばね5は、円筒部3aの外周に嵌め込まれ、下端がナットセグメント4の突出部4bに係止され、上端がテーパ孔2aの上端に固着された止め輪2cに係止される。ばね5により、ナットセグメント4が、ナットホルダ3と一体に、テーパ孔2aの小径側(下方)へ付勢される。
【0013】
ナットホルダ3は、ケーシング2に対して、ばね5を圧縮しつつ、ナットセグメント4と共に、テーパ孔の大径側(上方)へ引き上げ可能である。
【0014】
ボルトBとナット装置1により被締結部材A1,A2を締め付ける操作を説明する。
図4に示すように、被締結部材A1,A2にボルトBを挿通し、軸部B1を被締結部材A1,A2から突出させた状態で、軸部B1へナット装置1を圧入すると、ボルトBのねじ山との接触抵抗により各ナットセグメント4が、ナットホルダ3と共に、ばね5を圧縮してテーパ孔2aの大径側である上方へ押し上げられる。これにより、ナットセグメント4間に形成されるねじ孔6が拡径するから、ナットホルダ3を回転させることなく、ケーシング2が被締結部材A1に当接する
図5に示す位置まで、ナット装置1を迅速にボルトBへ挿入できる。ケーシング2が被締結部材A1に当接すると、ばね5の付勢力により、ナットホルダ3がナットセグメント4と共にテーパ孔2aの小径側である下方へ押し下げられ、ねじ孔6が縮径し、雌ねじ部4aがボルトBの雄ねじ部に噛み合う。その後、ナットホルダ3に締め付け工具を掛けて締め付け方向へわずかに回転させるだけでナット装置1の完締めができる。
【0015】
ナット装置1をボルトBから抜去する場合には、
図6に示すように、ナットホルダ3を工具で緩め方向へ数回転させ、ケーシング2と被締結部材A1との間に隙間G1を形成する。この状態で、
図7に示すように、ばね5を圧縮しつつ、ナットホルダ3の角筒部3bとケーシング2の上端との間に指を差し入れて、相対的にケーシング2を押し下げ、ナットホルダ3を引き上げると、ナットセグメント4がテーパ孔2aの大径側へ移動するから、ナットセグメント4とテーパ孔2aとの間に隙間G2ができる。この状態で、ナット装置1全体を引き上げると、ナットセグメント4がボルトBのねじ山の斜面を摺動して半径方向外側へ移動し、ねじ孔6を拡径させるから、ナットホルダ3を回転させることなく、ナット装置1をボルトBから抜去することができる
【符号の説明】
【0016】
1 ナット装置
2 ケーシング
2a テーパ孔
2b 内側フランジ
3 ナットホルダ
3a 円筒部
3b 角筒部
3c 保持開口
4 ナットセグメンと
4a 雌ねじ部
4b 突出部
5 ばね
6 ねじ孔
A1,A2 被締結部材
B ボルト
【要約】
【課題】ボルトへの締め付け、抜去作業を回転操作によらずに迅速に行うことができるナット装置を提供する。
【解決手段】ナット装置1は、ケーシング2、ナットホルダ3、ナットセグメント4、ばね5を具備する。ナットホルダ3は、ケーシング2のテーパ孔2a内で軸周り回転、軸方向進退自在である。ナットセグメント4は、ナットホルダ3に保持される。ばね5は、ナットセグメント4をナットホルダ3と一体にテーパ孔2aの小径側へ付勢する。ナットホルダ3は、円筒部3aがテーパ孔2a内に挿入され、角筒部3bが工具を掛けられるようにテーパ孔2aから突出する。ナットセグメント4は、円筒部3aの保持開口3cに、テーパ孔2aの半径方向に相対移動自在、周方向及び軸方向に相対移動不能に保持される。
【選択図】
図2