(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繰出部の繰出コアに前記転写テープを巻き回した繰出側パンケーキ外径が大きい転写テープ使用初期から、前記繰出側パンケーキ外径が小さくなる転写テープ使用終期までを通じて、前記繰出部の回転中心Xと前記巻取部の回転中心Yとを結んだ線分を線分XYとして、前記転写テープに作用する張力自体と前記転写テープに作用する張力の線分XYに平行な分力のなす角度が45度以下である、
請求項1から3のいずれかに記載の塗膜転写具。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出部から繰出し、転写押圧部で転写テープを押圧して塗膜を被転写面へ転写した後、基材テープを巻き取る塗膜転写具が使用されている。このような塗膜転写具では、基材テープの巻取り長さが転写テープの繰出し長さより長くなるように、転写テープを繰出す繰出コアと基材テープを巻き取る巻取コアを連動回転させ、転写テープTに適度な張力をかけることによって、転写テープTがたるまないようにしている。繰出コアと巻取コアをベルトで連動回転させるベルト駆動式の塗膜転写具では、ベルトによって巻取コアと繰出コアを連動回転させるとともに、ベルトと巻取コア間に生じるスリップによって、転写テープにかけられる張力を逃がしている。ベルトと巻取コアがスリップするときのトルクを「スリップトルク」と呼ぶ。また、転写テープが使用されておらず、繰出コアの繰出側パンケーキ外径が大きい状態を「使用初期」と呼び、転写テープが使用されて繰出コアの繰出側パンケーキ外径が小さくなった状態を「使用終期」と呼ぶ。
【0003】
「使用初期」の転写テープの張力は、「使用終期」に比べて小さい。転写テープに適度な張力がかけられていると、転写直後の塗膜の切れが良いが、転写テープの張力が小さく転写ヘッド部分において転写テープがたるむと、塗膜の切れが悪くなり、良好な転写が行えない。そのため、塗膜転写具では、「使用初期」においても、転写テープの張力が小さくなりすぎて転写テープがたるむことがないように、スリップトルクを設計する必要がある。
【0004】
一方、「使用終期」では、塗膜転写具の転写テープに大きな張力がかかる。転写テープの張力が大きくなりすぎると、塗膜を被転写面に転写する際、転写ヘッドを被転写面に強く押して転写作業をする必要があり、塗膜の転写不良が発生しやすくなる。そのため、塗膜転写具では、「使用終期」においては、転写テープの張力が大きくなりすぎて転写不良が発生しないように、スリップトルクを設計する必要がある。
【0005】
このように、塗膜転写具のスリップトルクの設定は、「使用初期」と「使用終期」で相反する要求を満足する必要があり、良好な設定範囲が非常に小さく、設定が困難なものとなっていた。また、長尺の転写テープを収納すると、転写テープを巻き付けた繰出側パンケーキ外径の「使用初期」と「使用終期」間での径変化が大きく、「使用初期」と「使用終期」での転写テープの張力変化が大きくなる。従って、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具を提供することは特に困難であった。
【0006】
このような問題を解決するために、転写ヘッドに加えられた押圧力により、繰出コアと巻取コアの軸間距離を短くする塗膜転写具が特許文献1と特許文献2により提案されている。両コアの軸間距離が短くなるとベルトの張力が低下するため、これらの塗膜転写具では、塗膜を転写する際に転写ヘッドを押圧することによって、転写テープの張力を緩和して、従来の塗膜転写具よりも軽い押圧操作で転写することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1と特許文献2の塗膜転写具では、繰出コアと巻取コアの軸間距離を短くするために、繰出コア又は巻取コアが移動するので、次の(ア)、(イ)、及び(ウ)に示すような問題があった。
(ア)コアの移動により、転写テープが走行する繰出コアから巻取コアまでのテープルート長さが変化するため、転写テープがたるんで走行不良を起こすことがあった。
(イ)コアが移動時に傾くことがあり、基材テープが巻取コアで巻き乱れて、走行不良を起こすことがあった。
(ウ)転写ヘッドの押圧によって転写テープの張力を小さくしているので、転写ヘッドを強く押圧し過ぎると、転写テープの張力が小さくなり過ぎて、転写テープが走行不良となることがあった。また、転写ヘッドを被転写面から離すと転写テープの張力は小さい状態で維持されないので、繰出側パンケーキ外径が小さくなるにつれて、転写ヘッドの押圧開始時の転写テープの張力が大きくなる。したがって、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具における「使用初期」と「使用終期」との転写テープの張力変化を小さくするという点では十分なものではなかった。
【0008】
特許文献3では、繰出コアと巻取コアの間に、弾性部材の変形によってベルトの張力を自動的に調整する可動部材を設け、可動部材が転写テープの張力に応じて移動することによって、ベルトにかかる張力を減少させる塗膜転写具が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3の塗膜転写具でも、塗膜を転写しようとするたびに、転写テープの張力によって可動部材を移動させ、ベルトにかかる張力を小さくしているので、転写ヘッドを被転写面から離すと、転写テープの張力は小さい状態で維持されないことがある。したがって、特許文献3の塗膜転写具でも、繰出側パンケーキ外径が小さくなるにつれて、転写ヘッドの押圧開始時の転写テープの張力が大きくなり、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具における「使用初期」と「使用終期」との転写テープの張力変化を小さくするという点では十分なものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、「使用初期」と「使用終期」の転写テープの張力変化が小さく、「使用初期」から「使用終期」を通じて転写テープの張力が小さく操作性のよい塗膜転写具の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第A1観点に係る塗膜転写具は、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出す繰出部と、前記転写テープを押圧して前記塗膜を被転写面に転写する転写押圧部と、前記塗膜転写後の前記基材テープを巻取る巻取部と、前記繰出部と前記巻取部間に掛けまわされ、前記繰出部と前記巻取部とを連動回転させるベルトとを備える。前記繰出部は、前記繰出部と前記巻取部間の距離を近づける方向へ移動可能であり、当該塗膜転写具は、前記移動可能な繰出部が前記繰出部と前記巻取部間の距離を遠ざける方向へ移動するのを防止する逆移動防止機構をさらに備える。
【0013】
第B1観点に係る塗膜転写具は、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出す繰出部、前記転写テープを押圧して塗膜を被転写面に転写する転写押圧部、塗膜転写後の前記基材テープを巻取る巻取部、及び前記繰出部と前記巻取部間に掛けまわされ前記繰出部と前記巻取部を連動回転させるベルトを有し、前記繰出部が前記繰出部と前記巻取部間の距離を近づける方向へ移動可能であり、かつ前記移動可能な繰出部の前記繰出部と前記巻取部間の距離を遠ざける方向への移動を防止する逆移動防止機構を有することを特徴とする塗膜転写具である。
【0014】
第B2観点に係る塗膜転写具は、前記繰出部と前記巻取部間の距離を遠ざける方向へ、前記移動可能な繰出部を付勢する弾性部材をさらに備えることを特徴とする第B1又は第A1観点に記載の塗膜転写具である。
【0015】
第B3観点に係る塗膜転写具は、前記繰出部の回転中心X、前記巻取部の回転中心Y、及び前記転写押圧部の塗膜転写位置Zが、X、Y、Zの順番で、略一直線上に配置されることを特徴とする第B1、第B2又は第A1観点に記載の塗膜転写具である。
【0016】
第B4観点に係る塗膜転写具は、前記繰出部の繰出コアに前記転写テープを巻き回した繰出側パンケーキ外径が大きい転写テープ使用初期から、前記繰出側パンケーキ外径が小さくなる転写テープ使用終期までを通じて、前記繰出部の回転中心Xと前記巻取部の回転中心Yとを結んだ線分を線分XYとして、前記転写テープに作用する張力自体と前記転写テープに作用する張力の線分XYに平行な分力のなす角度が45度以下であることを特徴とする第B1、第B2、第B3又は第A1観点に記載の塗膜転写具である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗膜転写具は、「使用初期」と「使用終期」の転写テープの張力変化が小さいので、「使用初期」から「使用終期」を通じて転写テープの張力が小さく操作性がよい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明の第1実施形態の塗膜転写具Aを示す。
図1(a)はカバー2を取り外した状態の正面図である。
図1(b)はカバー2を取り付けた状態の
図1(a)のQ−Q断面図である。
図1(c)は、
図1(a)の巻取コア5の拡大図である。
図1(d)は塗膜転写具Aのケース1にスライダー7と転写ヘッド4のみを装着した状態を示す図であり、スライダー7は巻取コア5が装着される軸1Eから最も遠い位置に装着された状態を表している。
図1の(e)は
図1(d)のR−R断面図である。
図1(f)は塗膜転写具Aのケース1にスライダー7と転写ヘッド4のみを装着した状態を示す図であり、スライダー7は巻取コア5が装着される軸1Eに最も近い位置に装着された状態を表している。
図1(g)は、
図1(d)のS部の拡大図である。
【0020】
この塗膜転写具Aは、転写テープTの繰出部が基材テープT1の巻取部に近づく方向へ移動可能であり、転写テープTの繰出部が基材テープT1の巻取部から遠ざかる方向への移動を防止する逆移動防止機構を有している点で、ベルトで繰出部と巻取部を連動回転させる従来の塗膜転写具と異なる。
【0021】
塗膜転写具Aは、
図1に示すようにケース1とカバー2からなる筐体、基材テープT1に修正テープ用の塗膜を塗布した転写テープTを繰出コア3に巻きまわした繰出側パンケーキ、塗膜を紙等の被転写面に転写する転写ヘッド4、塗膜転写後の基材テ−プT1を巻取る巻取コア5、繰出コア3の回転を巻取コア5に伝えるOリング6、及びスライダー7から構成される。スライダー7は、繰出コア3を回転可能に軸支し、巻取コア5の方向へ移動可能である。また、スライダー7には、繰出コア3の移動方向を一方向に制限するための機構として、ラチェットツメ7Aが設けられる。ラチェットツメ7Aは、ケース1に設けられた逆移動防止ツメ1Aと噛み合い、スライダー7が巻取部から遠ざかる方向への移動を防止する。
【0022】
しかしながら、本発明に係る塗膜転写具は、これに限定されるものではなく、転写テープの繰出部と、塗膜転写後の基材テープを巻取る巻取部を有し、転写テープが繰出部から繰出され、転写ヘッドで転写テープから塗膜を被転写面に転写し、塗膜転写後の基材テ−プが巻取部で巻取られる形態の様々な塗膜転写具として構成することができる。また、本実施形態の塗膜転写具は、繰出部と巻取部がOリングなどのベルトで連動回転され、繰出部が繰出部と巻取部間の距離を近づける方向へ移動可能であり、かつ前記の移動可能な繰出部が繰出部と巻取部間の距離を遠ざける方向へ移動することを防止する逆移動防止機構を有する。
【0023】
転写ヘッド4で転写テープTを被転写面に押圧した状態で、塗膜転写具Aを被転写面上で移動すると、転写ヘッド4から塗膜が被転写面に転写されるとともに、転写テープTが繰出コア3から繰出され、繰出コア3の回転がOリング6によって、巻取コア5に伝えられ、塗膜転写後の基材テープT1が巻取コア5に巻き取られる。この際、巻取コア5は繰出コア3が繰出した転写テープTよりも、長尺の基材テープT1を巻き取るように設定されているので、その差を解消するためにOリング6と巻取コア5がスリップする。このため、転写テープTと基材テープT1には張力が作用する。
【0024】
塗膜転写具Aでは、繰出コア3の回転中心X、巻取コア5の回転中心Y、及び転写ヘッド4の塗膜転写位置Zが、X、Y、Zの順で略一直線上に設けられている。塗膜転写具Aが使用されて、転写テープTが繰出コア3から繰出されると、繰出コア3には転写テープTの張力により、転写ヘッド4方向に引く力が作用する。
【0025】
塗膜転写具Aでは、繰出コア3を回転可能に軸支するスライダー7が巻取コア5方向へ移動可能となっている。このため、転写テープTに作用する張力により、スライダー7が転写ヘッド4方向へ引かれると、繰出コア3が巻取コア5方向へ移動する。この結果、巻取コア5と繰出コア3の軸間距離が短くなり、Oリング6の張力が小さくなる。
【0026】
Oリング6の張力が小さくなるので、巻取コア5とOリング6とのスリップトルクが小さくなり、転写テープTの張力も小さくなる。この結果、塗膜転写の際に転写ヘッド4を被転写面に押圧する押圧力が小さくても、塗膜転写が可能となる。
【0027】
スライダー7のスライド方向の両側部の2箇所には、弾性変形可能な梁部7Bにラチェットツメ7Aが設けられている。一方、ケース1のスライダー7が装着されるレール部1Bの両側部には逆移動防止ツメ1Aが連続して複数設けられている。スライダー7をケース1に装着すると、両側部のラチェットツメ7Aと逆移動防止ツメ1Aが噛み合う。ラチェットツメ7Aと逆移動防止ツメ1Aの形状は、
図1(g)に示すように、スライダー7が巻取コア5から遠ざかる方向へ移動する場合には、ラチェットツメ7Aと逆移動防止ツメ1Aが強く噛み合い、スライダー7の移動を防止する。一方、スライダー7が巻取コア5へ近づく方向へ移動する場合には、チェットツメ7Aの斜面が逆移動防止ツメ1Aの斜面に沿ってすべりながら、梁部7B全体が変形することによって、ラチェットツメ7Aが逆移動防止ツメ1Aを乗り越えることができるものとなっている。このため、スライダー7はレール部1B上を、巻取コア5方向へは移動可能であるが、巻取コア5から遠ざかる方向へは移動できない。
【0028】
したがって、繰出コア3が巻取コア5方向へ移動すると、巻取コア5と繰出コア3の軸間距離がその状態で維持されて、転写テープTの張力が小さくなった状態で維持される。このため、転写テープTを巻き付けた繰出側パンケーキ外径が小さくなっても、転写ヘッド4を軽い押圧力で押圧するだけで、塗膜を被転写面に転写することができる。
【0029】
スライダー7には、弾性部7Cが設けられている。弾性部7Cはスライダー7に一体に設けられた樹脂バネである。スライダー7をケース1のレール部1Bに装着すると、弾性部7Cは少し弾性変形した状態となり、弾性部7Cの弾性力によって、スライダー7は巻取コア5から遠ざかる方向へ押圧された状態となる。
【0030】
弾性部7Cを設ける主な目的は、転写テープTの張力の調整である。転写テープTの張力は、転写テープTの張力自身と繰出側パンケーキの外径の変化によって変化する。転写テープTの張力によってスライダー7とともに繰出コア3が移動すると、Oリング6の張力が小さくなり、転写テープTの張力が小さくなる。一方、転写テープTが繰出されることによって、繰出側パンケーキの外径が小さくなると、転写テープTの張力は大きくなる。本発明の主な課題は、「使用初期」と「使用終期」との転写テープの張力変化を小さくすることである。したがって、転写テープTの張力によってOリング6の張力が小さくなる効果と、繰出側パンケーキの外径が小さくなる効果が釣り合って、転写テープTの張力が変化しないことが、本発明の理想である。
【0031】
塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力が作用する方向と、繰出コア3から見て巻取コア5のある方向が略一致しているため、転写テープTの張力によって、繰出コア3が移動しやすい。したがって、塗膜転写具Aに弾性部7Cを設けなければ、転写テープTの張力によってOリング6の張力が小さくなる効果の方が、繰出側パンケーキの外径が小さくなる効果よりも大きくなりやすい。このため、塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力によってOリング6の張力が小さくなり過ぎることを防止するために、弾性部7Cが設けられている。
【0032】
弾性部7Cを設ける他の目的としては、衝撃によるスライダー7の巻取コア5方向への移動の防止が挙げられる。塗膜転写具に加えられる衝撃によって、スライダー7が巻取コア5方向に移動すると、繰出側パンケーキの外径が変わっていないにも関わらず、転写テープTの張力が小さくなる。したがって、転写テープTの張力が小さくなり過ぎて、転写テープTがたるむなどの走行不良となるおそれがある。弾性部7Cが設けられていると、常にスライダー7を巻取コア5から遠ざかる方向へ押圧しているので、塗膜転写具に加えられる衝撃によって、スライダー7が巻取コア5方向へ移動することを防止できる。
【0033】
塗膜転写具Aでは、弾性部7Cをスライダー7に一体に設けた樹脂バネとしたが、弾性部を別部材としてもよい。別部材の弾性部としては、金属製のコイルスプリングや板バネが例示される。弾性力を高い精度で設定する必要がある場合には、コイルスプリングを使用することが好ましい。
【0034】
ケース1には、スライダー7の巻取コア5方向への移動を制限するストッパ1Cを設けることが好ましい。ストッパ1Cは、スライダー7が巻取コア5方向へ移動し過ぎて、転写テープTが走行不良となることを防止するために設けられる。ストッパ1Cによって、転写テープTの張力が「使用終期」における適性値を下回るようになる位置にまで、スライダー7が移動しないようになっている。
【0035】
また、本発明の塗膜転写具の巻取部には、巻き取った基材テープT1が逆戻りしてたるまないように、逆転防止機構を設けることが好ましい。ベルト(Oリング6)で繰出部と巻取部を連動している塗膜転写具では、転写テープTの塗膜を、転写ヘッド4を介して被転写面に転写している時は、繰出コア3から転写テープTが引き出されて繰出コア3が回転し、その回転が繰出コア3と巻取コア5間に掛け回されたOリング6を繰出コア3側から巻取コア5側に向けて押し出す。このため、繰出コア3側から巻取コア5側に向かうOリング6は外方向に膨らんでたるむ。一方、逆側の巻取コア5から繰出コア3側に向かうOリング6は、繰出コア3の回転に引っ張られて引き延ばされながら巻取コア5を回転させることになる。この状態で、塗膜転写具を被転写面から離すと、Oリング6は自身の弾性力で元の長さに戻ろうとするので、繰出コア3と巻取コア5を転写テープTが引き出される方向とは逆方向に回転させて、転写テープTを巻取コア5側から繰出コア3側へ引き戻すことになる。そのため、転写ヘッド4で転写し終わった基材テープT1は繰出コア3側に引き戻され、転写ヘッド4の塗膜転写位置には塗膜が無い状態になる。このため、次に塗膜転写具で希望する位置に塗膜を転写しようとしても、塗膜転写位置には塗膜がないので転写できないという問題が生じる。巻取部に逆転防止機構を設けると、Oリング6の弾性力による巻取コア5の逆方向への回転が防止できるので、転写テープTが繰出コア3側に引き戻されることを防止でき、次に塗膜転写具で希望する位置に塗膜を転写しようとした場合に、塗膜転写位置には塗膜がないという問題が解消できる。
【0036】
本発明の塗膜転写具においては、巻取部の逆転防止機構は、次の点でさらに重要な役割を果たしている。本発明の塗膜転写具では、転写テープTの張力を利用して、繰出コア3を移動させることにより、Oリング6の張力を小さくして、転写テープTの張力が大きくなり過ぎないようにしている。Oリング6の弾性力により転写テープTが繰出コア3側に引き戻されると、転写テープTの張力が瞬間的に小さくなり、転写テープTの張力による繰出コア3の移動が不安定になる。転写テープTの張力による繰出コア3の移動が不安定になると、転写テープTの張力が不安定になって、意図した張力にできないことがある。このように、本発明の塗膜転写具では、巻取部の逆転防止機構は、転写テープTの張力を安定させる役割も果たしている。
【0037】
塗膜転写具Aの巻取部の逆転防止機構は、
図1に示すように、ケース1に設けられた逆転防止ツメ1Dと巻取コア5に設けられた変形ツメ5Aで構成されている。巻取コア5をケース1に装着すると、ケース1に設けられた軸1Eに巻取コア5が回転可能に保持される。巻取コア5が軸1Eに装着されると、変形ツメ5Aが接触する部分の全周に亘って、逆転防止ツメ1Dが連続して設けられている。変形ツメ5Aは弾性可能な弾性片5Fの先端に設けられている。巻取コア5をケース1に装着すると、逆転防止ツメ1Dが変形ツメ5Aと噛み合う。逆転防止ツメ1Dと変形ツメ5Aの形状は、
図1に示すように、巻取コア5が基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へ回転する場合には、逆転防止ツメ1Dと変形ツメ5Aが強く噛み合い、巻取コア5の回転を防止する。一方、巻取コア5が基材テープT1を巻き取る方向へ回転する場合には、変形ツメ5Aの斜面が逆転防止ツメ1Dの斜面に沿ってすべりながら、弾性片5Fが変形することによって、変形ツメ5Aが逆転防止ツメ1Dを乗り越えることができるものとなっている。したがって、巻取コア5は基材テープT1を巻取る方向へは回転可能であるが、基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へ回転することができない。
【0038】
塗膜転写具Aでは、繰出コア3の回転中心Xと巻取コア5の回転中心Yと転写ヘッド4の塗膜転写位置Zを、X、Y、Zの順で略一直線上に設けるように配置している。X、Y、Zの順で略一直線上に設けると、繰出コア3の回転中心Xから見た巻取コア5の回転中心Yの方向と転写テープTが張力により繰出コア3を引く方向がおおよそ同方向であり、また、繰出コア3に転写テープTを巻き付けた繰出側パンケーキや巻取コア5を、ケース1内に無駄なスペースを設けずに効率よく収納できる。したがって、X、Y、Zをこの順で略一直線上に設けると、転写テープTの張力により繰出コア3と巻取コア5との軸間距離を確実に短くすることができるとともに、塗膜転写具を小型でコンパクトなものとすることができる。
【0039】
本発明の塗膜転写具は、必ずしもX、Y、Zをこの順で略一直線上に配置する必要はない。例えば、転写テープTの張力で繰出コア3を巻取コア5方向へ移動することによって、「使用初期」から「使用終期」の間の転写テープTの張力の変化を小さくすることができる塗膜転写具において、X,Y及びZを任意の配置とすることができる。例えば、本発明の塗膜転写具は、
図3に示す本発明の第2実施形態である塗膜転写具Cのように、X,Y、Zを配置してもよい。また、X,Z,Yの順に設けるようにしてもよい。
【0040】
図3(a)は塗膜転写具Cの「使用初期」を表している。
図3(a)において、繰出コア3の回転中心Xから見た巻取コア5の回転中心Yの方向と、転写テープTの張力が繰出コア3を引く方向が一致しているが、塗膜転写具Cが使用され繰出側パンケーキの外径が小さくなると、繰出コア3の回転中心Xから見た巻取コア5の回転中心Yの方向と、転写テープTの張力が繰出コア3を引く方向が一致しなくなる。しかしながら、塗膜転写具Cでは、
図3(b)に示す「使用終期」においても、繰出コア3の回転中心Xと巻取コア5の回転中心Yを結んだ線分XYと、転写テープTが成す角度は小さい。言い換えると、塗膜転写具Cの「使用終期」では、転写テープTに作用する張力自体と、転写テープTに作用する張力の線分XYに平行な分力のなす角度(
図3(b)中の角W)は小さい。よって、転写テープTの張力の線分XYに平行な分力は、転写テープTの張力自体と比べて大きな差は無く、この線分XYに平行な分力でも、繰出コア3と巻取コア5との軸間距離を確実に短くすることができる。
【0041】
角度Wが大きくなると、転写テープTの張力の線分XYに平行な分力が小さくなり、繰出コア3と巻取コア5との軸間距離を短くすることが難しくなる。角度Wは「使用初期」から「使用終期」を通じて45度以下が好ましく、30度以下がより好ましい。この角度が45度を超えると、繰出コア3に作用する転写テープTの張力の線分XYに平行な分力が小さくなりすぎて、転写テープTの張力によって巻取コア5と繰出コア3間との軸間距離を短くして、転写テープTの張力を小さくする効果が減少し得、「使用初期」から「使用終期」までの転写テープTの張力の変化を小さくすることができなくなり得る。
【0042】
本発明の塗膜転写具では、Oリングすなわちベルトの張力を小さくするために移動させることができるのは、繰出部に限定される。巻取部を移動することによっても、Oリングの張力を小さくすることはできる。しかしながら、巻取部を移動可能としても、本発明の課題である「使用初期」から「使用終期」の転写テープの張力変化を小さくすることができず、さらには、「使用初期」における転写テープの走行不良の原因となるおそれもある。
【0043】
塗膜転写具では、転写ヘッドによって転写テープを被転写面に押圧して塗膜を転写するので、塗膜を転写する前の転写テープと、塗膜転写後の基材テープとでは張力が分断され、それぞれ別の張力が作用する。転写テープに作用する張力は繰出側パンケーキを回転させるトルクを繰出側パンケーキの半径で割った値であり、塗膜転写後の基材テープに作用する張力はベルトと巻取コアがすべることによって発生するスリップトルクを巻取コアに巻かれた基材テープのパンケーキの半径で割った値である。繰出側パンケーキを回転させるトルクもスリップトルクも、「使用初期」と「使用終期」とで、ほとんど変化しないのに対して、繰出側パンケーキの半径は転写テープが繰出されるに従って小さくなり、巻取コアに巻かれた基材テープのパンケーキは、基材テープが巻き取られるに従って大きくなっていく。したがって、転写テープに作用する張力は「使用初期」から「使用終期」になるにつれて、次第に大きくなり、塗膜を転写後の基材テープに作用する張力は「使用初期」から「使用終期」になるにつれて、次第に小さくなる。
【0044】
繰出部すなわち繰出コア3を移動可能とすると、転写テープTの張力で繰出コア3が移動されるので、転写テープTの張力自身で転写テープTの張力が小さくなる。このため、転写テープTの張力が大きくなればなるほど、転写テープTの張力を小さくする効果が大きくなる。したがって、繰出コア3を移動可能とすると、転写テープTの「使用初期」から「使用終期」までの張力変化を小さくすることが可能である。一方、巻取部すなわち巻取コア5を移動可能とすると、基材テープT1の張力で巻取コア5が移動するので、基材テープT1の張力で転写テープTの張力を小さくすることになる。しかしながら、上記のように転写テープTの張力が大きくなればなるほど、基材テープT1の張力が小さくなるので、巻取コア5を移動可能としても、転写テープTの「使用初期」から「使用終期」までの張力変化を小さくすることはできない。また、転写テープTの張力が小さい「使用初期」において、基材テープT1の張力は最も大きくなるので、転写テープTの張力を小さくする必要のない「使用初期」において、基材テープT1の張力による転写テープTの張力を小さくする効果が最も大きくなる。したがって、巻取コア5を移動可能とすると、「使用初期」において、転写テープTの張力を小さくし過ぎて、転写テープTの走行不良を発生させるおそれもある。
【0045】
上記実施形態に係る塗膜転写具によれば、長尺の転写テープを収納しても「使用初期」と「使用終期」の転写テープの張力変化が小さいので、「使用初期」から「使用終期」を通じて転写テープの張力が小さく操作性がよい。また、塗膜転写後に転写ヘッドを被転写面から離しても、転写テープの張力が変化することがない。よって、塗膜転写再開時における転写ヘッドの押圧力が大きくなることがなく、さらに操作性がよい。
【実施例】
【0046】
幅6mmの両面離型処理をしたPETフィルム上に、長さ10.2mに亘って修正テープ用の塗膜を塗布した転写テープを
図1の繰出コア3に巻き付けて繰出側パンケーキを準備した。この繰出側パンケーキを
図1の塗膜転写具に収納した塗膜転写具A1を準備した。塗膜転写具A1の初期設定として、スライダー7のラチェットツメ7Aは、ケース1の巻取コア5から最も遠い位置の逆移動防止ツメ1Aと噛み合った状態にセットした。スライダー7の弾性部7Cは、バネ定数が0.1N/mmであり、スライダー7を前記初期状態にセットすると、弾性部7Cは1.3Nでスライダー7を巻取コア5の反対方向へ付勢する。
【0047】
実施例2として、実施例1の塗膜転写具A1とスライダー7の弾性部7Cのみが異なる塗膜転写具A2を準備した。塗膜転写具A2のスライダー7の弾性部7Cは、バネ定数が0.1N/mmであり、前記初期状態にセットすると、弾性部7Cは1.7Nでスライダー7を巻取コア5の反対方向へ付勢する。
【0048】
比較例1として、スライダーが無く、前記初期設定の位置に繰出コアが回転可能に軸支され、繰出コア3を軸支する軸がケース内で固定(移動不可能)されている以外は、塗膜転写具A1と同様の塗膜転写具B1を準備した。
【0049】
実施例1、2、比較例1の塗膜転写具を使用し、以下の方法により各々の転写押圧力を評価した。被転写体(PPC用紙)を台座付き電子天秤の台座上に置き、
図4に示す角度で塗膜転写具の転写ヘッドを被転写体(PPC用紙)に押圧し、塗膜が転写できる最小の転写押圧力(電子天秤が示す荷重値)を測定した。この測定における、塗膜転写具の転写スピードは2cm/秒とした。転写押圧力の測定は、繰出側パンケーキに長さ10.2mの修正塗膜が巻かれている初期状態から開始し、修正塗膜を1m消費するたびに測定した。
【0050】
評価結果は表1及び
図2に示すグラフの通りであった。実施例1、2の塗膜転写具は比較例1の塗膜転写具に比べ、転写テープの全長において、転写押圧力の変化が小さく操作性がよかった。
【0051】
【表1】