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特許6446700ニューレグリン−1(Neuregulin−1)部分ペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446700
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】ニューレグリン−1(Neuregulin−1)部分ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20181220BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20181220BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20181220BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20181220BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20181220BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20181220BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20181220BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20181220BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20181220BHJP
【FI】
   C07K16/18ZNA
   C07K14/47
   C12Q1/37
   G01N33/573 A
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   !C12N15/12
   !A61P25/28
   !A61K38/17
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-31111(P2017-31111)
(22)【出願日】2017年2月22日
(62)【分割の表示】特願2012-129444(P2012-129444)の分割
【原出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-141229(P2017-141229A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-259056(P2011-259056)
(32)【優先日】2011年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(72)【発明者】
【氏名】塩坂 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 英紀
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−519400(JP,A)
【文献】 特開2005−253436(JP,A)
【文献】 Neuregulin1 (NRG1) signaling through Fyn modulates NMDA receptor phosphorylation: differential synaptic Function in NRG+/-Knock-Outs Compare with Wild-Type Mice,Journal of Neuroscience,2007年,27(17),4519-4529
【文献】 Eissa A. et al.,Kallikrein-related peptidase-8 (KLK8) is an active serine protease in human epidermis and sweat and Is Involved in a Skin Barrier Proteolytic Cascade,J. Biol. Chem.,2011年 1月 7日,Vol. 286, No. 1,p. 687-706
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/18
C07K 14/47
C12Q 1/37
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)に記載のペプチドに結合する抗体であって、該ペプチドのN末端アミノ酸残基を特異的に認識する抗体または、以下の(a)または(b)に記載のペプチドに結合し、該ペプチドのN末端アミノ酸残基を特異的に認識する抗体断片、ここで、該ペプチドのアミノ酸配列のN末端の3残基は、GSG、FKWまたはINKである;
(a)配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列と同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、ErbB4受容体に結合するペプチド。
【請求項2】
GSG、FKWまたはINKをエピトープとして認識する、請求項1に記載の抗体または抗体断片。
【請求項3】
全長ニューレグリン−1タンパク質に結合しない、請求項1または2に記載の抗体または抗体断片。
【請求項4】
ニューレグリン−1部分ペプチドを含む、ニューロプシン活性測定用の蛍光基質、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである。
【請求項5】
Ac-SLR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCAまたはAc-ELR-MCAである請求項4に記載の蛍光基質。
【請求項6】
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性を測定する方法、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである。
【請求項7】
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質を被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性測定方法、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである。
【請求項8】
抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
被験物質を添加すること;
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質を添加すること、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである;及び
蛍光を測定することを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性を測定する方法。
【請求項9】
抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
被験物質を添加すること;
リジルエンドペプチダーゼを添加すること;
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を添加すること、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである;及び
蛍光または吸光度を測定すること含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性を測定する方法。
【請求項10】
該被験物質が、ニューロプシンを含むヒト由来の試料である、請求項6−9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
該蛍光基質または発色基質が、MCA、pNA、AFCまたはRh100で標識されたニューレグリン−1部分ペプチドである、請求項7−10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
該蛍光基質または発色基質が、Ac-SLR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCAまたはAc-ELR-MCAである、請求項7−11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項6−12のいずれかの方法により、ヒト由来のサンプル中のニューロプシンの活性を測定することを含む、腫瘍細胞の浸潤性を判定する方法。
【請求項14】
ニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質、ニューロプシン及び被験物質を接触させることを含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである。
【請求項15】
活性調節剤が阻害剤または活性化剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
抗ニューロプシン抗体;及び
ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を含む、腫瘍細胞の浸潤性の判定用キット、ここで、ニューレグリン−1部分ペプチドは、SLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるペプチド、または、C末端の3残基がSLR、KDR、KER、QKR、KKKおよびELRから選択されるニューレグリン−1の部分ペプチドである。
【請求項17】
該蛍光基質が、Ac-SLR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCAまたはAc-ELR-MCAである、請求項16に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューレグリン−1部分ペプチド、そのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、ニューレグリン−1部分ペプチドに対する抗体、ニューレグリン−1部分ペプチドの認知機能障害の治療のための使用、ニューロプシン(Neuropsin; 別名 Kalikrein-related peptidase8, KLK8)の活性測定方法、それを利用した疾患の判定方法及びニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法、ニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質、それを含むキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
発達、成長、老化及び認知機能における神経系プロテアーゼの重要性を示唆する証拠が蓄積されてきた。このようなプロテアーゼの一つがニューロプシンである。ニューロプシンはセリンプロテアーゼの1種であり、神経系に加え、重層扁平上皮、肺、胸腺、下垂体及び子宮を含む組織で広く発現する。酵素学的に活性なニューロプシンは、LTP(long-term potentiation)の初期段階の確立に必要であると報告されている(非特許文献1)。また、癌細胞の浸潤との関連性も報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sadao Shiosaka et al., Journal of Chemical Neuroanatomy 2011;42:24-29
【非特許文献2】Yuh-Pyng Sher, et al., Cancer Res 2006;66:(24):11763-11770
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、統合失調症脆弱因子であるニューレグリン−1が、ニューロプシンによりタンパク質分解(proteolysis)されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、一つの側面(aspect)において、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるペプチドを提供する。好ましくは、本発明は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0005】
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0006】
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるペプチドに結合する抗体であって、該ペプチドのN末端アミノ酸残基を特異的に結合する抗体またはその抗体断片を提供する。好ましくは、本発明は、配列番号1−3のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドに結合し、そのN末端をエピトープとして認識する抗体またはその抗体断片を提供する。さらに好ましくは、本発明は、配列番号1−3のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドに結合し、そのN末端をエピトープとして結合する抗体であって、ニューレグリン−1に結合しない抗体またはその抗体断片を提供する。
【0007】
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるペプチドを含む、認知機能障害の治療剤を提供する。
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を提供する。
【0008】
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性を測定する方法を提供する。
【0009】
本発明は、一つの側面において、抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;被験物質を添加すること;ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を添加することを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性を測定する方法を提供する。
【0010】
本発明は、一つの側面において、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌を判定する方法を提供する。
【0011】
本発明は、一つの側面において、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチド、ニューロプシン及び被験物質を接触させることを含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
【0012】
本発明は、一つの側面において、抗ニューロプシン抗体;及びニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を含む、腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌の判定用キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒトタイプ1及び2プレプロニューロプシンのドメイン構造を示す。H118、D165、S257は酵素活性に必要なアミノ酸残基を示す。Sはシグナル配列、ser-proteaseはセリンプロテアーゼドメイン、SS1−6は、ジスルフィド結合1−6、T1はタイプ1特異的ドメイン(GHSRA:配列番号4)、T2はタイプ2特異的ドメイン(CGSLDLLTKLYAENLPCVHLNPQWPSQPSHCPRGWRSNPLPPAAGHSRA:配列番号5)、Qは活性マスキングペプチド(QEDK:配列番号6)を示す。
図2】野生型ニューロプシンと変異型ニューロプシンの細胞外での局在を示す。
図3】ニューロプシンによるニューレグリン−1の分解を示す。電気泳動後CBB染色することにより、ニューロプシンによって分解されたニューレグリン−1の部分ペプチド(34、32、28及び19kDa)が認められた(図3A)。ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断部位のアミノ酸配列を示す(図3B)。図3A中、Controlは、ニューロプシン非添加で溶媒のみを、+neuropsinはニューロプシン添加を示す。図3B中、HBはヘパリン結合ドメイン、Igは免疫グロブリンドメイン、EGFはEGFドメインを示す。
図4】ErbB受容体(p185)のリン酸化を示す。
図5】ニューロプシン活性とErbB受容体(p185)のリン酸化の関係(左図)及びニューロプシンの作用時間とErbB受容体(p185)のリン酸化の関係(右図)を示す。
図6】マウス海馬における高頻度刺激によるLTP誘導後のニューロプシンの活性を示す。
図7】ニューロプシン遺伝子欠損動物のY迷路試験の結果を示す。
図8】LTPを検出するためのin vivo実験の模式図を示す。双極電極でSchaffer−collateralを刺激し、誘発されたシナプス後電位をCA1領域で記録した。
図9】麻酔下で、野生型マウスとニューロプシン欠損マウスのLTPの相違を示す。
図10】海馬スライスにニューレグリン−1のNRG−1177−246(EGFドメイン)を投与することで、ニューロプシン欠損動物におけるLTPの障害が改善されることを示す。
図11】様々な蛍光合成基質に対するニューロプシンの活性および酵素反応速度パラメーターを示す。
図12】被験物質中の活性型ニューロプシンの活性を測定するための試験系の一例を示す。
図13】被験物質中の全ニューロプシン蛋白質量を測定するための試験系の一例を示す。
図14】ニューロプシンによってヘパリン結合ドメインが切除されたニューレグリン−1フラグメントの海馬内投与の実験手順を示す。ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断を抗ビオチン抗体および抗N末端ニューレグリン−1抗体を用いたウエスタンブロット法により調べた(図14A)。ニューレグリン−1フラグメント(NRG−1ΔHB)をマウス海馬にシリンジポンプを用いて投与した(図14B、上図)。CHICAGO SKY Blue 6Bを用いて、投与部位および海馬内での溶液の拡散を確認した(図14B、下図、白色矢印)。
図15】ErbB4の海馬における局在を示す。
図16】NRG−1ΔHBの海馬投与後の局在を示す。
図17】GABA伝達を測定するための実験模式図を示す。
図18】野生型およびニューロプシン欠損マウス海馬スライスにおけるPaired−Pulse−Inhibition(PPI)の相違およびNRG−1177−246(EGFドメイン)のPPIへの効果を示す。
図19】野生型およびニューロプシン遺伝子欠損マウスの抑制性伝達機構の模式図を示す。
図20】NRG−1177−246によるLTP障害の回復は、ErbB4受容体を介することを示す。
図21】NRG−1177−246によるLTP障害の回復は、GABA受容体を介することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ニューレグリン−1の部分ペプチド
本発明は、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドを提供する。
ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドは、塩または溶媒和物として提供されてもよい。
本明細書において、ニューレグリン−1は特に限定されず、いずれの起源のニューレグリン−1(例えば、ヒトニューレグリン、マウスニューレグリン、ラットニューレグリン等)を使用してもよい。本発明に使用されるニューレグリン−1は、好ましくはヒト由来のニューレグリン−1である。ニューレグリン−1には、アイソフォームが含まれる。アイソフォームの例には、ヒト由来のニューレグリン−1β1、ヒト由来のニューレグリン−1α2が挙げられる。本発明に使用する好ましいヒトニューレグリン−1は、配列番号7のアミノ酸配列からなる。
【0015】
本明細書において、ニューロプシンは特に限定されず、いずれの起源のニューロプシン(例えば、ヒトニューロプシン、マウスニューロプシン、ラットニューロプシン等)を使用してもよい。本発明に使用されるニューロプシンは、好ましくはヒト由来のニューロプシンである。ヒトニューロプシンはプレプロニューロプシンとして発現し、ヒトプレプロニューロプシンにはタイプ1とタイプ2がある。ヒトプレプロニューロプシンは、シグナル配列、タイプ1特異的ドメイン(GHSRA:配列番号4)またはタイプ2特異的ドメイン(CGSLDLLTKLYAENLPCVHLNPQWPSQPSHCPRGWRSNPLPPAAGHSRA:配列番号5)及び活性マスキングペプチド(QEDK:配列番号6)が切り離されて活性型ニューロプシンとなる(図1参照)。本発明で使用するニューロプシンは、タイプ1ヒトプレプロニューロプシン、タイプ2ヒトプレプロニューロプシン、または活性型ヒトニューロプシンであり得る。本発明に使用する好ましい活性型ヒトニューロプシンは、配列番号8のアミノ酸配列からなる。
【0016】
本明細書において、ニューレグリン−1の部分ペプチドとは、ニューレグリン−1の全長のアミノ酸配列の一部分のアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。
ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドの例には、ヒトニューレグリン−1を活性型ヒトニューロプシンで分解することにより調製されるペプチド、及び配列番号7のアミノ酸配列からなるヒトニューレグリン−1を配列番号8のアミノ酸配列からなる活性型ヒトニューロプシンで分解することにより調製されるペプチドが挙げられる。好ましくは、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドは、ニューレグリン−1の受容体に結合できる。より好ましくは、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドは、ニューレグリン−1の受容体のアゴニストである。
ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドは、ニューレグリン−1のEGFドメイン(例えば、配列番号9)を含み得る。
また、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドには、EGFドメイン(例えば、配列番号9)を含まないペプチドも含み得る。
【0017】
本明細書において、ニューレグリン−1の受容体は、ErbB3受容体またはErbB4受容体であり得、起源は限定されないが、好ましくはヒト由来のニューレグリン−1の受容体である。
ニューレグリン−1の受容体のアゴニストは、ErbB3受容体またはErbB4受容体をリン酸化することができる。例えば、ヒトニューレグリン−1は、ヒトErbB4受容体のチロシン残基をリン酸化することができる。また、ニューレグリン−1の受容体のアゴニストはfocal adhesion kinaseのチロシンのリン酸化レベルを増加させることができる。
ニューレグリン−1のEGFドメインは、ニューレグリン−1の起源、アイソフォームによって、適宜決定される。例えば、配列番号7のアミノ酸配列からなるヒトニューレグリン−1では、アミノ酸残基177−241がEGFドメインである。
【0018】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。これらペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列からなるヒトニューレグリン−1を配列番号8のアミノ酸配列からなる活性型ヒトニューロプシンで分解することにより調製され得る。配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、塩または溶媒和物として提供されてもよい。
【0019】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。これらペプチドは、配列番号7のアミノ酸配列からなるヒトニューレグリン−1を配列番号8のアミノ酸配列からなる活性型ヒトニューロプシンで分解することにより調製され得る。配列番号10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、塩または溶媒和物として提供されてもよい。
【0020】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体を提供する。類縁体は、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドに基づいて作製できるものであれば、特に限定はされない。配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体の例には、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列と同一性が60、70、80、90または95%以上のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列において1、2、3、4または5個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0021】
配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体の他の例には、タグが付加された配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。本明細書においてタグとは、ポリペプチドの精製、検出等のためポリペプチドに付加される部分を意味し、ヒスチジン(His)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、myc、FLAGタグなどが例示される。タグが付加されたポリペプチドは、例えば、pET30a(Novagen社製)(Hisタグ用)、pGEX(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)(GSTタグ用)などの発現ベクターを用いて、適当な宿主細胞で発現させることで得られる。
【0022】
配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドの類縁体のさらなる例には、ペプチド合成の分野で通常使用される置換基や保護基またはペプチドを安定化させる置換基や保護基がN末端やC末端に結合した配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。このような置換基や保護基の例としては、限定はされないが、アミド基、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基またはZ基)、Boc及びFmocが挙げられる。
【0023】
好ましくは、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列の類縁体は、ニューレグリン−1の受容体に結合し、より好ましくは、ヒトErbB4受容体のチロシン残基をリン酸化することができる。
本発明が提供するポリペプチドは、単離されたポリペプチドであり得る。
【0024】
本発明が提供するニューレグリン−1の部分ペプチド及びその類縁体は、通常の遺伝子工学的方法またはペプチド合成において用いられる方法によって製造することができる。例えば、以下の方法により、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを製造できる:
配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を挿入した発現ベクターを用いて、大腸菌または細胞等で本発明が提供するペプチドまたはその類縁体を発現させる;
Fmoc法またはBoc法を用いて配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを固相合成する;または
Boc−アミノ酸やZ−アミノ酸を液相合成法で逐次縮合させて配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを製造する(Fmocは9-フルオレニルメトキシカルボニル基、Bocはt-ブトキシカルボニル基、Zはベンジルオキシカルボニル基をそれぞれ表す)。
【0025】
2.ポリヌクレオチド
本発明は、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0026】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。
一つの実施態様において、本発明は、配列番号13−18のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0027】
また、一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと同一性が60、70、80、90または95%以上の塩基配列からなるポリヌクレオチド、配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドにおいて1、2、3、4または5個の塩基が欠失、置換または付加された核酸配列からなるポリヌクレオチドを提供する。
【0028】
本発明が提供するポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドであり得る。
本発明が提供するポリヌクレオチドは、適宜、ベクターに導入され、宿主細胞で発現させることができる。
よって、一つの実施態様において、本発明は、本発明が提供するポリヌクレオチド含むベクター及び本発明が提供するポリヌクレオチドが導入された宿主細胞を提供する。
また、一つの実施態様において、本発明は、本発明が提供するポリペプチドを発現するトランスジェニック動物を提供する。トランスジェニック動物の例としては、トランスジェニックマウスが挙げられる。
トランスジェニックマウスの作製方法としては、適切なプロモーターの制御下に本発明が提供するポリヌクレオチドを配置した組換えDNA断片をマイクロインジェクション法等により導入し、生き残った受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、生まれた仔マウスから上記組換えDNAを有する仔マウスを選択することによって得ることができる。目的とする組換えDNAを有する仔マウスは、例えば、マウスの尾より抽出したゲノムDNAを鋳型とし、本発明が提供するポリヌクレオチドの塩基配列の一部を有するプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションにて、確認することができる。
【0029】
3.抗体
本発明は、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドに結合する抗体および抗体の断片を提供する。
【0030】
一つの実施態様において、本発明は、調製されたニューレグリン−1の部分ペプチドのN末端を認識し、ニューレグリン−1の部分ペプチドに結合するが、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体を提供する。また、一つの実施態様において、本発明は、調製されたニューレグリン−1の部分ペプチドのC末端を認識し、ニューレグリン−1の部分ペプチドに結合するが、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体を提供する。
【0031】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体を提供する。好ましくは、本発明が提供する抗体は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない。配列番号1−3のアミノ酸配列からなるペプチドのN末端の10アミノ酸残基は、それぞれ、GSGKKPESAA(配列番号19)、FKWFKNGNEL(配列番号20)、INKASLADSG(配列番号21)である。本発明が提供する好ましい抗体の例には、GSGKKPESAA、FKWFKNGNELまたはINKASLADSGのN末アミノ酸残基のα位のアミノ基を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。他の例としては、GSGKKPESAA、FKWFKNGNELまたはINKASLADSGのN末端の+電荷と、それらペプチドのN末から1、2、3、4、5、6、7、8、9または10残基のアミノ酸配列を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。更なる例としては、N末アミノ酸残基のα位のアミノ基を含むGSG、FKWまたはINKをエピトープとして認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。
【0032】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体を提供する。好ましい配列番号10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗体の例には、配列番号10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドのC末端を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。配列番号10−12のアミノ酸配列からなるペプチドのC末端の10アミノ酸残基は、それぞれ、GKGKGKKKER(配列番号22)、ETSSEYSSLR(配列番号23)、QKKPGKSELR(配列番号24)である。本発明が提供する好ましい抗体の例には、GKGKGKKKER、ETSSEYSSLRまたはQKKPGKSELRのC末アミノ酸残基のα位のカルボキシル基を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。他の例としては、GKGKGKKKER、ETSSEYSSLRまたはQKKPGKSELRのC末端の−電荷と、それらペプチドのC末から1、2、3、4、5、6、7、8、9または10残基のアミノ酸配列を認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。更なる例としては、C末アミノ酸残基のα位のカルボキシル基を含むKER、SLRまたはELRをエピトープとして認識し、全長ニューレグリン−1タンパク質には結合しない抗体が挙げられる。
【0033】
一つの実施態様において、本発明は、ニューロプシンにより認識されるニューレグリン−1の部分ペプチドに結合する抗体を提供する。そのような抗体の例には、KER、SLR、ELRをエピトープとして認識し、当該ペプチドに結合する抗体が挙げられる。また、他の例としては、KER、SLR、ELRまたはそれらを含むニューレグリン−1部分ペプチド(例えば、KERGSG(配列番号25)、SLRFKW(配列番号26)、ELRINK(配列番号27))を抗原として得られる抗体が挙げられる。KER、SLR、ELRを含むニューレグリン−1部分ペプチドは、当業者が適宜設定できる。例えば、KER、SLR、ELRを含む4,5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20残基からなるニューレグリン−1部分ペプチドを抗原として抗体を調製してもよい。
【0034】
本発明はまた、一つの実施態様において、本発明が提供するポリペプチドを特異的に認識する抗体の断片を提供する。
【0035】
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。
本明細書において、モノクローナル抗体には、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型モノクローナル抗体、例えば、キメラモノクローナル抗体、ヒト型化モノクローナル抗体や、ヒトモノクローナル抗体が含まれる。
抗体の断片は、抗原と特異的に結合する抗体の一部である。抗体の断片には、Fab (fragment of antigen binding)、F(ab')2、Fab'、一本鎖抗体 (single chain Fv; 以下、scFvと表記する)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv; 以下、dsFvと表記する)、2量化体V領域断片 (以下、Diabodyと表記する)、CDRを含むペプチド等を挙げることができる(エキスパート・オピニオン・オン・テラピューティック・パテンツ、第6巻、第5号、第441〜456頁、1996年)。抗体および抗体の断片は、当業界にて周知の方法により調製可能である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988、http://www.gene.mie-u.ac.jp/Protocol/Original/Antibody.html、米国特許第6331415号、米国特許第5693761号、米国特許第5225539号、米国特許第5981175号、米国特許第5612205号、米国特許第5814318号、米国特許第5545806号、米国特許第7145056号、米国特許第6492160号、米国特許第5871907号、米国特許第5733743号などを参照)。ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドのN末端またはC末端を特異的に認識する抗体は、当業界にて周知の方法により調製可能である(例えば、大海 忍、辻村邦夫、稲垣昌樹 著 細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ 新版抗ペプチド抗体実験プロトコール 秀潤社などを参照)。例えば、ニューレグリン−1の部分ペプチドのN末端またはC末端から10残基のペプチドを合成し、BSA等のキャリアタンパク質にMBSを用いて結合し、これをウサギへ免疫し、ニューレグリン−1の部分ペプチドのN末端またはC末端に結合し、全長ニューレグリン−1に結合しない抗体を、ドットブロット法を用いて単離することにより、調製してもよい。
【0036】
一つの実施態様において、本発明が提供する抗体は、ヒト体内、例えばヒト脳内に存在する配列番号1−3および10−12のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを認識し、当該ペプチドの分布、機能等を解析するツールとなり得る。また、1つの実施態様として、本発明が提供する抗体は、ヒト体内、例えばヒト脳内に存在するニューロプシンに切断される部位を有するニューレグリン−1の分布等を解析するツールとなり得る。
【0037】
一つの実施態様において、本発明が提供する抗体は、標識物質が結合されていてもよい。標識物質の例には、酵素、蛍光物質、放射性同位元素、ビオチン等が挙げられる。
酵素の例としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ等が挙げられる。
蛍光物質の例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、GFP、ルシフェリン等が挙げられる。
放射性同位元素の例としては、125I、14C、32P等が挙げられる。
【0038】
3.認知機能障害の治療剤
本発明は、ニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドを含む、認知機能障害の治療剤を提供する。
【0039】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む、認知機能障害の治療剤を提供する。
【0040】
本発明が提供するニューレグリン−1をニューロプシンで分解することにより調製されるニューレグリン−1の部分ペプチドは、好ましくは、LTPの障害を改善する。
【0041】
LTPとは、高頻度刺激を与えることによって、神経伝達効率が増強されるようになる現象であり、学習と記憶の根底にある主要な細胞学的メカニズムの1つであると広く考えられている現象である。
【0042】
本明細書において、認知機能障害は、何らかの原因により記憶が困難になった状態であり得る。認知機能障害の例としては、ニューロプシンの活性が低下することにより惹起される認知機能障害、ニューレグリン−1の受容体への結合が抑制されることにより惹起される認知機能障害、ニューレグリン−1の受容体へのアゴニスト作用が抑制されることにより惹起される認知機能障害が挙げられるが、これに限定はされない。
【0043】
本発明が提供する認知機能障害の治療剤は、本発明が提供するペプチドを使用して、適宜製剤化される。例えば、本発明が提供する認知機能障害の治療剤は、医薬品として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬品として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記認知機能障害の治療剤の投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態によって、当業者により適宜選択され得る。例えば、上記認知機能障害の治療剤は静脈内投与され得る。
投与対象は、認知機能障害の治療を必要とする動物であれば特に限定されないが、例えば、ヒトである。
【0044】
上記認知機能障害の治療剤に含まれる本発明が提供するポリペプチドの量は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されるものではない。例えば、ヒト体重1kg当たり0.03〜300 mg、1〜100 mgまたは1〜10 mgを1回の投与量とし点滴静注とすることができる。投与方法および投与頻度も当業者が適宜設定できる。
【0045】
一つの実施態様において、本発明は、認知機能障害の治療における配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドの使用を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、配列番号1−3のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるペプチドを投与することを含む、認知機能障害の治療方法を提供する。
【0046】
4.蛍光基質または発色基質
本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、ニューロプシンの酵素活性を測定するために有用なニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を提供する。
蛍光基質または発色基質の作製には、MCA(4-Methyl-Coumaryl-7-amide)、pNA(p-nitroanilide)、AFC(7-amino-4- trifluoromethyl coumarin)及びRh110(ローダミン110: 3,6-ジアミノ-9-(2-カルボキシフェニル)キサンチリウム)等を使用することができる。例えば、MCA、pNA、AFCまたはRh110を、ニューロプシンが認識するニューレグリン−1の部分ペプチドのC末端に、ニューロプシンにより、AMC(7-amino-4-methyl-coumarin)、pNA、AFCまたはRh110が当該ペプチドから遊離されるように結合させて、蛍光基質または発色基質を作製してもよい。
蛍光基質または発色基質の作製に使用するニューレグリン−1の部分ペプチドのアミノ酸残基数は、特に限定はされないが、2、3、4、5、6、7、8、9または10残基であり得る。MCA、pNA、AFCまたはRh110を含む蛍光基質または発色基質の例としては、P1-P2、P1-P3、P1-P4、P1-P5またはP1-P6に相当するアミノ酸残基から構成されるペプチドのP1部位に相当するアミノ酸のC末端にMCA、pNA、AFCまたはRh110を結合させて作製された蛍光基質または発色基質が挙げられる。
蛍光基質または発色基質の作製に使用するニューレグリン−1の部分ペプチドは、ペプチド合成の分野で通常使用される置換基や保護基またはペプチドを安定化させる置換基や保護基をN末端やC末端に結合させてもよい。このような置換基や保護基の例としては、限定はされないが、アミド基、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基、Z基)、Boc及びFmocが挙げられる。
【0047】
MCAを用いた、本発明が提供する蛍光基質の例としては、Ac-SLR-MCA、Boc-VPR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCA、Ac-ELR-MCA、Ac-DVR-MCA及びAc-YGR-MCA等が挙げられる。これら蛍光基質において、MCAをpNA、AFCまたはRh110に置換してもよい。
【0048】
また、本発明が提供する蛍光基質の他の例には、蛍光エネルギー移動を用いた蛍光基質が挙げられる。例えば、N末端側に、蛍光性のMOCAc((7-methoxycoumarin-4-yl)acetyl)基を、C末端側にこの蛍光を消す2,4-dinitrophenyl(Dnp)基を導入した蛍光基質を作製することができる。MOCAcとDnpの組み合わせの他に、Nma(N-methylanthranilic acid)とDnpの組み合わせ、DabsylとEDANSの組み合わせが使用できる。
【0049】
本発明が提供する蛍光基質または発色基質は、一つの実施態様において、ニューロプシンの酵素活性を測定できる。
本明細書において、ニューロプシンの酵素活性は、プロテアーゼ活性、ペプチダーゼ活性またはタンパク質分解活性であり得る。
【0050】
5.ニューロプシンの活性測定方法
本発明は、ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定する方法を提供する。
【0051】
一つの実施態様において、本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定する方法を提供する。
本明細書において、被験物質は、特に限定されず、例えば、生体由来の試料、細胞培養上清、細胞溶解液、化合物、タンパク質、多糖類、植物抽出液、微生物抽出液、微生物培養液等であり得る。生体由来の試料は、ヒト由来の試料であり得、限定はされないが、例えば、ヒト由来の血液、血清、血漿、組織由来の細胞溶解液、腹水等であり得る。
被験物質にニューロプシンが存在すれば、そのプロテアーゼ活性によりニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドはタンパク質分解を受ける。その結果生じたペプチドを定量することにより、被験物質にニューロプシンが存在するか否か、存在していれば、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定することができる。
被験物質に存在するニューロプシンのタンパク質分解によって、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドから生じたペプチドの量は、例えば、電気泳動、HPLC、当該ペプチドと特異的に結合する抗体を用いたELISAまたはウエスタンブロッティング等により定量することができる。
【0052】
一つの実施態様において、本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を被験物質と接触させることを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定する方法を提供する。
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質については、上記のとおりである。ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質の例としては、Ac-SLR-MCA、Boc-VPR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCA、Ac-ELR-MCA、Ac-DVR-MCA及びAc-YGR-MCA等が挙げられる。これら蛍光基質において、MCAをpNA、AFCまたはRh110に置換してもよい。
例えば、ニューロプシンにより基質が切断されて、AMC、pNA、AFCまたはRh110が遊離されれば、AMC、pNA、AFCまたはRh110の量をマイクロプレートリーダーを用いて測定することで、ニューロプシンの活性を測定することができる。AMC、pNA、AFC及びRh110の吸光波長または励起波長及び蛍光波長は、例えば以下のとおりである:pNA; 吸光波長400nmまたは405nm、AMC; 励起波長380nm/蛍光波長460nm、AFC; 励起波長400nm/蛍光波長505nm、Rh110;励起波長496nm/蛍光波長520nm。
【0053】
一つの実施態様において、本発明は、抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
被験物質を添加すること;及び
ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を添加することを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定する方法を提供する。
【0054】
抗ニューロプシン抗体は、ニューロプシンに特異的に結合する抗体であればよく、特に限定されない。抗ニューロプシン抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。好ましくは、本発明で使用する抗ニューロプシン抗体は、活性マスキングペプチド(QEDK:配列番号6)が切り離された活性型ニューロプシンに結合する抗体である。より好ましくは、本発明で使用する抗ニューロプシン抗体は、配列番号8のアミノ酸配列からなる活性型ヒトニューロプシンに特異的に結合する抗体である。
【0055】
支持体は、抗体をコーティングできる固体であればよく、特に限定されない。支持体の例としては、マイクロタイタープレート、試験管、ビーズ、ナノ粒子等が挙げられる。
【0056】
この実施態様において、蛍光基質または発色基質ではないニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを用いた場合、被験物質に存在するニューロプシンのタンパク質分解によってニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドから生じたペプチドの量は、例えば、電気泳動、HPLC、当該ペプチドと特異的に結合する抗体を用いたELISAまたはウエスタンブロッティング等により定量することができる。
【0057】
この実施態様において、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を用いた場合、被験物質に存在するニューロプシンのタンパク質分解によってニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドから生じたペプチドの量は、例えば、蛍光または吸光度を適切な装置により測定することにより定量できる。適切な装置の例には、マイクロプレートリーダーが挙げられる。
【0058】
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質として、SLR−MCAを用いた場合の実施態様の一例の模式図を図12に示す。96穴マイクロタイタープレート(例えば、96穴ポリスチレンプレート)上に、抗ニューロプシン抗体をコーティングし、そこに活性型ニューロプシンを含む被験物質を添加し、さらに、蛍光基質:SLR−MCAを添加し、活性型ニューロプシンのプロテアーゼ活性を生じたAMCの蛍光強度を定量することにより、活性型ニューロプシンの酵素活性及び酵素量を測定することができる(図12参照)。
【0059】
一つの実施態様において、本発明は、抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
被験物質を添加すること;
リジルエンドペプチダーゼを添加すること;及び
ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を添加することを含む、被験物質に存在するニューロプシンの活性及び/または量を測定する方法を提供する。
【0060】
リジルエンドペプチダーゼは、前駆体ニューロプシンを活性型ニューロプシンに変換する活性を有していれば特に限定されない。
本明細書において、前駆体ニューロプシンとは、活性マスキングペプチド(QEDK:配列番号6)を含んだニューロプシンであり得、例えば、ヒトタイプ1またはヒトタイプ2プレプロニューロプシンから、シグナル配列、タイプ1特異的ドメイン(GHSRA:配列番号4)またはT2はタイプ2特異的ドメイン(CGSLDLLTKLYAENLPCVHLNPQWPSQPSHCPRGWRSNPLPPAAGHSRA:配列番号5)が切り離されたヒトプロニューロプシン(図1の「Type 1 proneuropsin」に相当する)であり得る。前駆体ニューロプシンは、活性型ニューロプシンに比較し、プロテアーゼ活性が抑制されている。
【0061】
この実施態様において、蛍光基質または発色基質ではないニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを用いた場合、被験物質に存在するニューロプシンのタンパク質分解によってニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドから生じたペプチドの量は、例えば、電気泳動、HPLC、当該ペプチドと特異的に結合する抗体を用いたELISAまたはウエスタンブロッティング等により定量することができる。
【0062】
この実施態様において、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を用いた場合、被験物質に存在するニューロプシンのタンパク質分解によってニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドから生じたペプチドの量は、例えば、蛍光または吸光度を適切な装置により測定することにより定量できる。適切な装置の例には、マイクロプレートリーダーが挙げられる。
被験物質に前駆体ニューロプシンのみが含まれる場合は、リジルエンドペプチダーゼを添加して活性型ニューロプシンに変換すれば、ニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を用いて前駆体ニューロプシンの量を測定することができる。
この実施態様において、被験物質に前駆体ニューロプシンと活性型ニューロプシンの両方が含まれる場合は、リジルエンドペプチダーゼを添加して前駆体ニューロプシンを活性型ニューロプシンに変換した場合とリジルエンドペプチダーゼを添加せずに前駆体ニューロプシンを活性型ニューロプシンに変換しない場合の両方の場合のニューロプシン活性を定量することにより、被験物質中の前駆体ニューロプシンと活性型ニューロプシンの量を測定することができる。
【0063】
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質として、SLR−MCAを用いた場合の実施態様の一例の模式図を図13に示す。96穴マイクロタイタープレート(例えば、96穴ポリスチレンプレート)上に、抗ニューロプシン抗体をコーティングし、そこに活性型ニューロプシン及び前駆体ニューロプシンの両方を含む被験物質を添加し、さらに、蛍光基質:SLR−MCAを添加し、活性型ニューロプシンのプロテアーゼ活性を生じたAMCの蛍光強度を定量することにより、被験物質に存在した活性型ニューロプシン及び被験物質に存在した前駆体ニューロプシンから変換された活性型ニューロプシンの両方を合わせたニューロプシンの活性及び/または量を測定することができる(図13参照)。
【0064】
6.腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌を判定する方法
本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌を判定する方法を提供する。
ヒトにおいて、ニューロプシンの活性は、腫瘍細胞の浸潤(invasiveness)を抑制することに重要な役割を果たしている(Yuh-Pyng Sher, et al., Cancer Res., 2006;66:(24):11769頁左欄1−2行参照)。
よって、腫瘍細胞でのニューロプシン活性を測定すれば、腫瘍細胞の浸潤性を判定することができる。
【0065】
一つの実施態様において、本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、腫瘍細胞の浸潤性を判定する方法を提供する。
【0066】
この実施態様において、ヒト由来の試料は、癌患者由来の試料、正常人由来の試料であり得、例えば、癌患者から摘出した腫瘍組織由来の細胞溶解液、正常人の組織由来の細胞溶解液、癌患者由来の体液、正常人由来の体液等が挙げられる。
この実施態様において、腫瘍細胞の例としては、限定はされないが、乳癌細胞(breast cancer cells)、結腸癌細胞(colon cancer cells)、卵巣癌細胞(ovarian cancer cells)、膀胱癌細胞(bladder cancer cells)または肺癌細胞(lung cancer cells)が挙げられる。
この実施態様において、癌患者の例としては、限定はされないが、乳癌(breast cancer)、結腸癌(colon cancer)、卵巣癌(ovarian cancer)、膀胱癌(bladder cancer)または肺癌(lung cancer)が挙げられる。肺癌の例としては、非小細胞肺癌が挙げられる。
この実施態様において、癌患者由来の試料に存在するニューロプシンの酵素活性が、正常人由来の試料に存在するニューロプシンの酵素活性より高い場合は、腫瘍細胞の浸潤性が低いと判定することができる。
【0067】
一つの実施態様において、本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、肺癌の予後を判定する方法を提供する。
この実施態様において、ヒト由来の試料は、癌患者由来の試料、正常人由来の試料であり得、例えば、癌患者から摘出した腫瘍組織由来の細胞溶解液、正常人の組織由来の細胞溶解液、癌患者由来の体液、正常人由来の体液等が挙げられる。
この実施態様において、肺癌の例としては、非小細胞肺癌が挙げられ、International System for Staging of Lung Cancerの規準に基づいて、ステージIの非小細胞肺癌、ステージIIの非小細胞肺癌、ステージI及びIIの非小細胞肺癌またはステージIIIの非小細胞肺癌であり得る。
この実施態様において、肺癌組織におけるニューロプシンの酵素活性が高い場合は、肺癌再発の危険性が低いと判定できる。例えば、ステージI及びIIの非小細胞肺癌を有する患者が肺癌摘出手術を受け、その摘出組織でのニューロプシンの酵素活性が高い場合は、手術30ヶ月後における肺癌再発の危険性が低いと判定できる。
【0068】
一つの実施態様において、本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、卵巣癌の予後を判定する方法を提供する。
この実施態様において、ヒト由来の試料は、癌患者由来の試料、正常人由来の試料であり得、例えば、癌患者から摘出した腫瘍組織由来の細胞溶解液、正常人の組織由来の細胞溶解液、癌患者由来の体液、正常人由来の体液等が挙げられる。体液の例としては、限定はされないが、血清、腹水が挙げられる。
この実施態様において、卵巣癌組織または腹水におけるニューロプシンの酵素活性が高い場合は、卵巣癌再発の危険性が低いと判定される。例えば、卵巣癌を有する患者が卵巣癌摘出手術を受け、その摘出組織または腹水でのニューロプシンの酵素活性が高い場合は、手術42ヶ月後における卵巣癌再発の危険性が低いと判定できる。また、例えば、卵巣癌を有する患者が卵巣癌摘出手術を受け、その摘出組織でのニューロプシンの酵素活性が高い場合は、手術42ヶ月後における生存率が高いと判定できる。
【0069】
一つの実施態様において、本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、皮膚の角化、扁平上皮癌または子宮頸癌を判定する方法を提供する。
この実施態様において、ヒト由来の試料は、皮膚疾患を有する患者由来の試料、癌患者由来の試料、正常人由来の試料であり得、例えば、皮膚疾患を有する患者の皮膚の細胞溶解液、癌患者から摘出した腫瘍組織由来の細胞溶解液、正常人の組織由来の細胞溶解液、癌患者由来の体液、正常人由来の体液等が挙げられる。
この実施態様において、皮膚の角化の例としては、限定はされないが、脂漏性角化症、尋常性乾癬、扁平苔癬、褥瘡性潰瘍等が挙げられる。
この実施態様において、組織におけるニューロプシンの酵素活性が高い場合は、皮膚の角化、扁平上皮癌または子宮頸癌に罹患している危険性があると判定できる。
【0070】
一つの実施態様において、本発明は、上記ニューロプシンの活性を測定する方法により、ヒト由来の試料中のニューロプシンの活性を測定することを含む、卵巣癌を判定する方法を提供する。
この実施態様において、ヒト由来の試料は、癌患者由来の試料、正常人由来の試料であり得、例えば、癌患者から摘出した腫瘍組織由来の細胞溶解液、正常人の組織由来の細胞溶解液、癌患者の血液由来の試料、正常人の血液由来の試料、癌患者の腹水等が挙げられる。血液由来の試料の例としては、血清、血漿等が挙げられる。
この実施態様において、組織または血清におけるニューロプシンの酵素活性が正常人の組織または血清より高い場合は卵巣癌に罹患している危険性が高いと判定できる。
また、腹水におけるニューロプシンの酵素活性が高い場合は、卵巣癌に罹患している可能性があると判定できる。
【0071】
7.ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法
本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1の部分ペプチド、ニューロプシン及び被験物質を接触させることを含む、ニューロプシンの活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
ニューロプシンの活性調節剤の例としては、限定はされないが、ニューロプシンの酵素活性を阻害する物質または、ニューロプシンの酵素活性を活性化する物質が挙げられる。
一つの実施態様において、本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチド、ニューロプシン及び被験物質を接触させることを含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質、ニューロプシン及び被験物質を接触させることを含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
ニューロプシンを含む試料を添加すること;
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を添加すること;
被験物質を添加すること;及び
蛍光または吸光度を測定することを含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、抗ニューロプシン抗体を支持体にコーティングすること;
ニューロプシンを含む試料を添加すること;
リジルエンドペプチダーゼを添加すること;
ニューレグリン−1またはニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を添加すること;
被験物質を添加すること;及び
蛍光または吸光度を測定すること含む、ニューロプシン活性調節剤のスクリーニング方法を提供する。
【0072】
上記実施態様において、ニューロプシンを含む試料の例としては、限定はされないが、ニューロプシンを発現させた細胞の培養上清、ニューロプシンを発現させた細胞の細胞溶解液等が挙げられる。
【0073】
当業者は、上述した「ニューロプシンの活性測定方法」の開示を参考にして、上記実施態様に係る発明を実施することができる。
【0074】
8.疾患判定用キット
本発明は、抗ニューロプシン抗体;及びニューレグリン−1、ニューレグリン−1部分ペプチドまたはそれらを含む蛍光基質または発色基質を含む、腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌の判定用キットを提供する。
一つの実施態様において、本発明は、ニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質または発色基質を含む、腫瘍細胞の浸潤性、肺癌または卵巣癌の予後、皮膚の角化、扁平上皮癌、子宮頸癌または卵巣癌の判定用キットを提供する。
ニューレグリン−1部分ペプチドを含む蛍光基質の例としては、限定はされないが、Ac-SLR-MCA、Boc-VPR-MCA、Ac-KDR-MCA、Ac-KER-MCA、Ac-QKR-MCA、Ac-KKK-MCA、Ac-ELR-MCA、Ac-DVR-MCA及びAc-YGR-MCA等が挙げられる。
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
実施例1:変異型ニューロプシンは細胞外でタンパク質複合体を形成する
(1)目的 ニューロプシンの確実なターゲット基質を同定するために、変異体ニューロプシンと結合する蛋白質を探索した。
(2)方法 酵素-基質結合時に分解・解離せず、複合体を維持する変異体マウスニューロプシン(PreneuropsinC208S:配列番号28のDNA配列を有する)を発現するプラスミドを構築した。分泌後、速やかに基質に到達できるように活性マスキングに対する配列(Q29GSK:配列番号29)は除去した。このプラスミドを海馬初代培養細胞に導入した。遺伝子導入1日後、抗ニューロプシン抗体(1:1,000)を培養上清に投与し、4℃で1時間反応させた。結合していない抗体を除去した後、4%PFA/4%スクロース溶液で15分間固定後、二次抗体を1.5時間室温で反応させ、スライドガラスに張り付け、封入した。
(3)結果 変異体ニューロプシンが導入された海馬培養細胞で、細胞体や突起の周囲で、点状のニューロプシン陽性反応が観察された(図2)。しかしながら、野生型ニューロプシンでは、陽性反応は確認できなかった(図2)。
【0077】
実施例2:ニューロプシンはニューレグリン−1のヘパリン結合ドメインとEGFドメインの間を切断する
(1)目的 ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断サイトを同定した。
(2)方法 組換えヒトニューロプシン(R&D Systemsより入手)と組換えヒトニューレグリン−1(R&D Systemsより入手)を37℃で1時間反応させた後、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。ゲルをPVDF膜に転写した後、CBB染色を行った。切断されたニューレグリン−1フラグメントのバンドを切り出し、Pricise 492 cLC シーケンサーを用いて、Edman法によりアミノ酸配列を決定した。
(3)結果 切断フラグメントのN末端配列はそれぞれ32-kDa(G19SGKKP:配列番号30)、28-kDa(F68KWFKN:配列番号31)、19-kDa(I99NKASL:配列番号32)であった。これら切断サイトの1つは、免疫グロブリンドメインとヘパリン結合ドメインの間に、他2つは、免疫グロブリンドメイン内であった(図3)。
【0078】
実施例3:ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断はErbB受容体のリン酸化を誘導する
(1)目的 ニューレグリン−1のヘパリン結合ドメインは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンと結合することが知られており、この状態では、ErbB受容体のリガンドとして機能できない。ニューロプシンによるヘパリン結合ドメインの除去が、ErbB受容体を活性化するかどうかを調べた。
(2)方法 ヘパリンに結合しているニューレグリン−1はErbB受容体をリン酸化することができないので、ErbB受容体を含むp185のチロシンリン酸化は、ニューレグリン−1が遊離したことを示す。COS−7細胞にマウスニューレグリン−1遺伝子(配列番号33)を導入し、20時間後、培地に組換えニューロプシンを添加した。その培地をMCF−7細胞に添加し、20分間37℃でインキュベートした。培地を除去した後、MCF−7細胞を可溶化し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、ニトロセルロース膜に転写した。抗チロシンリン酸化抗体で(ErbB受容体を含む)p185のリン酸化を検出した。
(3)結果 ニューロプシンの酵素活性レベル依存的にp185のリン酸化が増大した(図4図5)。また反応時間0−60分の間では、p185のリン酸化レベルが直線的に増大した。これらp185リン酸化の増加パターンは、ニューロプシンによって切断されたニューレグリン−1の32-kDa切断フラグメントの出現変化と一致していた。
【0079】
実施例4:神経活動依存的にニューロプシンは活性化する
(1)目的 ニューロプシンは不活性型で分泌されるので、ニューロプシンのプロテアーゼ活性が神経活動依存的に増大するかを調べた。
(2)方法 麻酔下マウスの海馬で、シータバースト刺激を与えLTPを誘発する。その後、様々なタイムコースでマウスを断頭後、海馬を取り出し、ホモジナイズする。これに抗ニューロプシン抗体を加え、4℃で12時間攪拌後、PGSを加え、4℃でさらに4時間攪拌した。この免疫沈降サンプルに対して、合成基質PFR-MCAを用いて、50mMTris−HCl(pH8.0)反応液中でニューロプシンの酵素活性を測定した。
(3)結果 シータバースト刺激後、5−6分後に速やかにニューロプシンの酵素活性が上昇し、7分後には減弱したが、その後、弱い活性レベルが少なくとも60分間持続した(図6)。
【0080】
実施例5:ニューロプシン遺伝子欠損動物はワーキングメモリーが障害されている
(1)目的 ニューロプシンが海馬依存的な学習に関与しているかを調べるために、ニューロプシン遺伝子欠損マウスのY迷路の学習レベルを評価した。
(2)方法 3つのアームからなるY迷路にマウスを8分間自由に行動させる。その間、マウスの後肢が完全にアームに侵入した回数を調べた。自発的交替行動は、アームに侵入したトータル数から2を引いた値に対するAlternationの数の割合として算出した。Alternationは異なる3つのアームに連続して進入する数として定義した。
(3)結果 野生型マウスは有意な自発的交替行動を示したが、ニューロプシン遺伝子欠損マウスおよびヘテロマウスの自発的交替行動は、ほぼチャンスレベルであり、新規のアームを優先的に選ばなかった(図7)。
【0081】
実施例6:ニューロプシン遺伝子欠損動物はLTPが障害されている
(1)目的 ニューロプシンのシナプスでの効果を調べるために、ニューロプシン遺伝子欠損マウスにおける海馬LTPを評価した。
(2)方法 麻酔下のマウス海馬CA1領域において、双極ステンレス電極でSchaffer-collateralを刺激し、誘発されるシナプス後電位を単極のタングステン電極で記録した。単一のテタヌス刺激を与え、初期LTPを誘発し、その後のLTPレベルを評価した。
(3)結果 野生型マウスでは、テタヌス刺激後、少なくとも60分間は安定な初期LTPが確認されたが、ニューロプシン遺伝子欠損マウスでは、テタヌス刺激数分後に速やかにシナプス後電位がベースラインまで戻った。このようにニューロプシン遺伝子欠損マウスでは、初期LTPが障害されていた(図9)。
【0082】
実施例7:ニューロプシンによって切断されたニューレグリン−1ペプチドの投与は、LTP障害を回復させる
(1)目的 ニューロプシン遺伝子欠損マウスは初期LTPが障害されており、これは組換えニューロプシンを短時間投与するだけで救済することができる。初期LTPのこのニューロプシンの効果がニューロプシンによるニューレグリン−1の切断によって遊離した(EGF機能ドメインを含む)切断フラグメントであるならば、ニューレグリン−1の切断フラグメントはニューロプシン遺伝子欠損マウスの初期LTPを回復させるはずである。そこで、ニューロプシン遺伝子欠損マウスの初期LTP障害が組換えニューレグリン−1の切断フラグメントの投与によって救済できるかどうかを調べた。
(2)方法 ニューロプシン遺伝子欠損マウスの海馬スライスを作製し、双極ステンレス電極でSchaffer-collateralを刺激し、誘発されるシナプス後電位をガラス電極で記録した。安定なベースラインを獲得後、0.5nMの組換えニューレグリン−1の切断フラグメントをテタヌス刺激の前後35分間投与した。コントロールとして溶媒を投与した。
(3)結果 ニューロプシン遺伝子欠損マウスの初期LTPは野生型に比べて有意に減弱したが、組換えニューレグリン−1の切断フラグメントを投与した遺伝子欠損マウスでは、野生型レベルまで初期LTPが回復した(図10)。
【0083】
実施例8:ニューロプシン活性測定用合成ペプチドの作製と酵素反応パラメーターの測定
(1)目的 ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断サイトに対応する合成ペプチドを用いて、ニューロプシンに対する酵素キネティックスを明らかとする。
(2)方法 組換えマウスニューロプシンの酵素活性とキネティックスパラメーターはMCA合成基質を用いて、50mMTris−HCl(pH8.0)反応液中で30℃で決定した。AMCの遊離は、マイクロプレートリーダー(Mitras LB940;ex355nm, em460nm)によって測定した。酵素濃度に依存したニューロプシンの反応速度は、Hanes-Woolf plotによって決定したが、Ac-KER-MCAとAc-DVR-MCAに対してはV=VmaxEh/(Eh+Kmh)関数を用いてシグモイド曲線をフィットした。Vmaxは、最大反応速度、Kmは、反応速度がVmaxの半分になるときの基質濃度、hは、ヒル係数を示す。
(3)結果 組換えマウスニューロプシンと反応後最初に現れた32-kDaフラグメントに一致する切断サイトであるKER-MCA(ヒト)またはKDR-MCA(マウス)は効果的に切断された。ニューレグリン−1の免疫グロブリンドメイン内の切断サイトであるSLR-MCAは、ポジティブコントロールとして用いたα-トロンビンに対する合成基質であるVPR-MCAよりも効率良く切断された。高濃度のニューロプシンと反応させたときに現れた19-kDaフラグメントに一致するELR-MCAは組換えニューロプシンに対して低い酵素活性を示した。このように、ニューロプシンが求核攻撃を行うアミノ酸配列は、ニューレグリン−1のSLR、KER、ELRの3つのサイトにおいて確認された。しかしながら、Attwood(2011)やShimizu(1998)らによって推定されたニューロプシンによるフィブロネクチンやEphB2の切断サイトであるDVR-MCAやYGR-MCAに対しては、ニューロプシンの切断活性はほとんど観察されなかった(図11)。
【0084】
実施例9:ニューロプシンによる切断によって産生されたニューレグリン−1フラグメントはパルブアルブミン陽性細胞に局在しているErbB4受容体に結合する
(1)目的 ニューロプシンによるニューレグリン−1の切断がどのような機能を発揮するのかを明らかとするために、ニューロプシンによる切断によって産生されたニューレグリン−1フラグメントの局在を調べた。
(2)方法 ニューロプシンとビオチン標識したニューレグリン−1を37℃で20分間反応させた。ニューレグリン−1の切断は、抗ビオチン抗体(1:10,000希釈)および抗N末端ニューレグリン−1抗体(1:400希釈)を用いたウエスタンブロット法により確認した。32kDaにバンドが認められたことから(図3)、これはニューレグリン−1のヘパリン結合ドメインが除去されたフラグメント(NRG−1ΔHB)であると考えられる(図14A)。マウスを麻酔後、ビオチン化NRG−1ΔHBを右海馬CA1領域(AP=2.06mm、ML=1.5mm、DV=1.5mm)へシリンジポンプによって駆動するハミルトンシリンジを用いて、0.05μl/minの速度で15分間投与した。投与部位は1.5% のCHICAGO SKY Blue 6Bを用いて確認した(図14B)。NRG−1ΔHB投与1時間後に海馬を摘出し、ビオチン、ErbB4、パルブアルブミン、リン酸化チロシンに対する抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。
(3)結果 多くのErbB4はパルブアルブミン陽性細胞と共局在した(図15、白矢印)。NRG−1ΔHBは、パルブアルブミン陽性細胞上のErbB4と共局在した(図16、上図)。またNRG−1ΔHB結合細胞は、チロシンリン酸化を誘導した(図16、下図)。
【0085】
実施例10:ニューロプシン遺伝子欠損動物は抑制性伝達が障害されている
(1)目的 ニューロプシンが抑制性伝達に関与しているかを調べるために、ニューロプシン遺伝子欠損マウスにおけるPaired−Pulse−Inhibition(PPI)を評価した。
(2)方法 双極ステンレス電極で、10ミリ秒間隔で2回連続した刺激を海馬Schaffer−collateralに与え、誘発される集合スパイクをガラス電極によって海馬錐体細胞から記録した(図17)。またニューロプシン遺伝子欠損マウスに0.5nMのNRG−1177−246を20分間投与した。
(3)結果 野生型マウスでは、GABA伝達の結果として、2番目のスパイクが強く抑制されたPPIが観察されたが、ニューロプシン遺伝子欠損マウスでは、PPIの効果が野生型と比べて有意に低かった。またこのPPIの障害は、NRG−1177−246によって完全に回復した(図18)。このようにニューロプシン−ニューレグリン−1システムの破綻は抑制性伝達の障害を引き起こす(図19)。
【0086】
実施例11:ニューロプシンによって切断されたニューレグリン−1ペプチドによるLTPの回復は、Erb4およびGABA受容体を介する
(1)目的 組換えニューレグリン−1の切断フラグメントの投与によるLTP障害の回復がどのようなメカニズムによるものかを調べた。
(2)方法 ニューロプシン遺伝子欠損マウスの海馬スライスを作製し、0.5nMのNRG−1177−246とErbB4受容体阻害剤(AG1478)またはGABA阻害剤(Bicuculline)を投与し、双極ステンレス電極で、Schaffer−collateralを高頻度に刺激し、LTPを誘発した。
(3)結果 ニューロプシン遺伝子欠損マウスで見られるNRG−1177−246によるLTPの回復効果がAG1478で阻害された(図20)。またBicuculline存在下では、野生型およびニューロプシン遺伝子欠損マウス海馬のLTPに有意な差は見られず、NRG−1177−246はLTPにほとんど影響を与えなかった(図21)。
図1
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図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]