特許第6446708号(P6446708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446708
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】めっき槽装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20181220BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   C23C18/31 E
   C23C18/52 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-68244(P2015-68244)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188398(P2016-188398A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年1月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 表面技術協会第131回講演大会講演要旨集(2015年2月20日)一般社団法人表面技術協会発行5C−03に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年3月5日関東学院大学において開催された社団法人表面技術協会講演大会第131回で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】515086252
【氏名又は名称】株式会社 コーア
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】椎名 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】三上 憲秀
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】岡山 透
(72)【発明者】
【氏名】角田 世治
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−179976(JP,A)
【文献】 特開昭57−054263(JP,A)
【文献】 特開昭59−161895(JP,A)
【文献】 特開平05−039579(JP,A)
【文献】 実開昭63−085667(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
C25D 1/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁及び側壁を有して容器状に形成されめっき液を収容するめっき槽と、該めっき槽内のめっき液を循環させる循環部と、上記めっき槽に空気を吹き込む空気吹込み部とを備え、上記めっき槽内のめっき液に被めっき物を浸漬してめっきを行なうめっき槽装置において、
上記めっき槽の底壁を、下に凹む谷部を複数連設して形成し、該各谷部の頂点にめっき液の出口を形成し、上記循環部を、めっき液を吸引する吸引口及び吸引しためっき液を吐出する吐出口を有したポンプと、上記谷部の出口と上記ポンプの吸引口との間に接続される吸引側管路と、上記ポンプの吐出口に一端が接続され他端がめっき液を上記めっき槽内に給液する給液口として該めっき槽内に開放する吐出側管路とを備えて構成したことを特徴とするめっき槽装置。
【請求項2】
上記谷部を錘状に形成したことを特徴とする請求項1記載のめっき槽装置。
【請求項3】
上記ポンプ,吸引側管路及び吐出側管路の組を上記各谷部毎に独立して設けたことを特徴とする請求項1または2記載のめっき槽装置。
【請求項4】
上記空気吹込み部を、空気を吸引して吹出口から吹き出すブロワーと、該ブロワーの吹出口に一端が接続され他端が空気を上記めっき槽内に噴出させる噴出口部として構成された噴出管路とを備えて構成したことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載のめっき槽装置。
【請求項5】
上記噴出管路の噴出口部を、該噴出口部から噴出される空気が上記めっき槽内の被めっき物に直接当接しないように噴出可能に上記めっき槽の側壁側に設けたことを特徴とする請求項4記載のめっき槽装置。
【請求項6】
上記噴出口部を、複数設けたことを特徴とする請求項4または5記載のめっき槽装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液が収容され被めっき物に対して無電解めっきあるいは電解めっきを行なうめっき槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のめっき槽装置としては、例えば、特開平6−179976号公報に掲載されたものが知られている。図9に示すように、このめっき槽装置Saは、底壁101及び側壁102を有して容器状に形成されめっき液を収容するめっき槽100と、めっき槽100内のめっき液を循環させる循環部103と、めっき槽100に空気を吹き込む空気吹込み部104とを備え、めっき槽100内のめっき液に被めっき物Wを浸漬してめっきを行なう。めっき槽100の底壁101は左右から下に傾斜しており、この底壁101の頂点にめっき液の出口105が形成され、循環部103は、めっき液を吸引する吸引口及び吸引しためっき液を吐出する吐出口を有したポンプ106と、底壁101の出口とポンプ106の吸引口との間に接続される吸引側管路107と、ポンプ106の吐出口に一端が接続され他端がめっき液をめっき槽100内に給液する給液口109としてめっき槽100内に開放する吐出側管路108とを備えて構成されている。また、空気吹込み部104は、空気を吸引して吹出口から吹き出すブロワー110と、ブロワー110の吹出口に一端が接続され他端が空気をめっき槽100内に噴出させる噴出口部111として構成された噴出管路112とを備えて構成されている。これにより、循環部103によってめっき液が循環させられて撹拌され、また、空気吹込み部104の噴出口部111から噴出される空気によっても撹拌されるので、めっき液が被めっき物Wに均等に接し、めっきムラ等のめっき不良の発生が抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−179976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、デジタルカメラや医療機器等に搭載される摺動部品等の耐久性を向上させるために無電解ニッケルめっき等の表面処理が行なわれているが、近年、硬さや潤滑性を有する無機微粒子を金属と共に共析させる所謂無電解複合ニッケルめっきの技術が開発され、実用化されているものもある。この種の無電解複合めっきの技術において、例えば、無電解めっき液として、ニッケル及びタングステンの金属塩を金属イオン源とし、これに還元剤として次亜リン酸塩、錯化剤としてクエン酸塩類等を含み、更に、無機微粒子として炭化ケイ素(SiC)の微粒子を添加したものを用いている。この無電解複合めっきにおいては、上述した従来のめっき槽装置Saを用いて、めっき槽100に無電解めっき液を入れ、これに被めっき物を浸漬してめっきすることができる。
【0005】
しかしながら、炭化ケイ素の微粒子は、めっき槽100の底壁101に沈殿し、あるいは、めっき槽100内で凝集しやすく、循環部103や空気吹込み部104によってめっき液を撹拌しているとはいっても、必ずしも、十分に撹拌されないことがあり、分散性が悪くなってムラの原因になっているという問題がある。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、共析させる微粒子を混合するめっき液であっても、この微粒子を凝集させることなく被めっき物にムラなく均一に共析させることができるように、微粒子の分散性の向上を図っためっき液槽装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための本発明のめっき槽装置は、底壁及び側壁を有して容器状に形成されめっき液を収容するめっき槽と、該めっき槽内のめっき液を循環させる循環部と、上記めっき槽に空気を吹き込む空気吹込み部とを備え、上記めっき槽内のめっき液に被めっき物を浸漬してめっきを行なうめっき槽装置において、上記めっき槽の底壁を、下に凹む谷部を複数連設して形成し、該各谷部の頂点にめっき液の出口を形成し、上記循環部を、めっき液を吸引する吸引口及び吸引しためっき液を吐出する吐出口を有したポンプと、上記谷部の出口と上記ポンプの吸引口との間に接続される吸引側管路と、上記ポンプの吐出口に一端が接続され他端がめっき液を上記めっき槽内に給液する給液口として該めっき槽内に開放する吐出側管路とを備えて構成している。
【0007】
このめっき槽装置により、例えば、めっき金属の金属イオン源を含むとともに炭化ケイ素等の微粒子を添加した無電解めっき液を用い、被めっき物の表面に無電解めっきによりめっき金属を被覆し微粒子を共析させる場合で説明すると、めっき槽にめっき液を入れ、循環部のポンプを駆動してめっき液を循環させるととともに、空気吹込み部から空気を噴出させ、所要時間この状態を保持する。これにより、被めっき物には、めっき金属が被着するとともに、炭化ケイ素等の微粒子が共析してゆく。この場合、微粒子がめっき槽の底壁に沈殿し、あるいは、めっき槽内で凝集しようとしても、循環部によってめっき液が循環させられて撹拌され、空気吹込み部からの空気によっても撹拌されるので、底部に沈殿したり、凝集が進行することが抑止され、そのため、微粒子が、頻繁に被めっき物に接触して被めっき物に対してムラなく均一に析出していく。
【0008】
特に、めっき槽の底壁は、谷部が複数連設して形成されているので、微粒子が、各谷部毎に吸込まれて循環させられることから、分散性が極めてよくなる。また、谷部は、下に凹んでおり、出口が谷部の頂点に形成されているので、平面にめっき液の出口を設ける場合に比較して、集約性が良く、微粒子の全体を、満遍なく循環させることができ、この点でも、分散性を向上させることができる。そのため、微粒子を、凝集することなく、被めっき物にムラなく均一に共析させることができる。
【0009】
そして、必要に応じ、上記谷部を錘状に形成した構成としている。谷部は錘状の内面を有することから、微粒子がその頂点により一層集約し易くなる。
【0010】
また、必要に応じ、上記ポンプ,吸引側管路及び吐出側管路の組を上記各谷部毎に独立して設けた構成としている。ポンプ,吸引側管路及び吐出側管路の組が、夫々独立して駆動されるので、循環速度などを個別に調整することができ、より一層撹拌性を向上させることができ、分散性が極めて良いものになる。
【0011】
更に、必要に応じ、上記空気吹込み部を、空気を吸引して吹出口から吹き出すブロワーと、該ブロワーの吹出口に一端が接続され他端が空気を上記めっき槽内に噴出させる噴出口部として構成された噴出管路とを備えて構成している。空気を確実に噴出させることができる。
【0012】
更にまた、必要に応じ、上記噴出管路の噴出口部を、該噴出口部から噴出される空気が上記めっき槽内の被めっき物に直接当接しないように噴出可能に上記めっき槽の側壁側に設けた構成としている。微粒子が共析しようとする際、空気が被めっき物に直接当たることにより生じる悪影響を防止することができ、均一に共析を行なわせることができる。これにより、高精度な膜厚制御・薄膜化が可能になる。
【0013】
また、必要に応じ、上記噴出口部を、複数設けた構成としている。空気吹込み部の噴出口部が複数設けられているので、空気による撹拌が満遍なく行なわれ、この点でも、分散効率が向上させられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、めっき槽の底壁は、谷部が複数連設して形成されているので、微粒子が、各谷部毎に吸込まれて循環させられることから、分散性が極めてよくなる。また、谷部は、下に凹む内面を有し、出口が谷部の頂点に形成されているので、平面にめっき液の出口を設ける場合に比較して、集約性が良く、微粒子の全体を、満遍なく循環させることができ、この点でも、分散性を向上させることができる。そのため、微粒子を、凝集することなく、被めっき物にムラなく均一に共析させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置を示す一部断面斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置を示す正面図である。
図3】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置を示す平面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置を示す側面図である。
図5】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置で用いられる無電解めっき液の構成例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置の実験例に係り、これに用いた無電解めっき液の成分を示す表図である。
図7】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置の実験例に係り、これに用いた無電解めっき液の固形分を示す電子顕微鏡写真(100000倍)である。
図8】本発明の実施の形態に係るめっき槽装置の実験例に係り、(a)はめっきした試料の表面を示す電子顕微鏡写真(2000倍)、(b)はめっきした試料の表面を示す電子顕微鏡写真(100000倍)である。
図9】従来のめっき槽装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るめっき槽装置について詳細に説明する。
図1乃至図4に示すように、実施の形態に係るめっき槽装置Sは、底壁2及び側壁3を有して容器状に形成されめっき液を収容するめっき槽1と、めっき槽1内のめっき液を循環させる循環部10と、めっき槽1に空気を吹き込む空気吹込み部20と、めっき槽1内のめっき液を加温する加温部30とを備え、めっき槽1内のめっき液に被めっき物Wを浸漬してめっきを行なう。
【0017】
めっき槽1は、ステンレスの板で形成されており、その底壁2は、下に凹む四角錘状の内面を有した容器状の谷部4が一対連設されて形成されている。即ち、一対の谷部4の開口5の一辺同士が連設され、谷部4が並設された形状に形成されている。側壁3は、一対の谷部4の開口5を形成する外周縁に連設されて立設され、矩形筒状に形成されている。側壁3の下縁には底壁2を形成する一対の谷部4を覆う覆い板6が連設されている。この覆い板6にはめっき槽1を支持する脚部7が設けられている。また、各谷部4の下端の頂点には、めっき液の出口8が形成されている。
【0018】
循環部10は、第1循環部10Aと第2循環部10Bとからなり、夫々、めっき液を吸引する吸引口12及び吸引しためっき液を吐出する吐出口13を有したポンプ11と、谷部4の出口8とポンプ11の吸引口12との間に接続される吸引側管路14と、ポンプ11の吐出口13に一端が接続され他端がめっき液をめっき槽1内に給液する給液口16としてめっき槽1内に開放する吐出側管路15とを備えて構成されている。即ち、第1循環部10A及び第2循環部10Bは、夫々、ポンプ11,吸引側管路14及び吐出側管路15の組からなり、各組が各谷部4毎に独立して設けられていることになる。第2循環部10Bの吐出側管路15は、二方向切換弁18を介して主管15aと従管15bとに分岐しており、従管15bにはフィルター17が介装されている。二方向切換弁18の切換えにより、吐出側管路15の従管15bにめっき液を通し、ゴミ等の比較的大きな異物を除去することができる。
【0019】
空気吹込み部20は、空気を吸引して吹出口22から吹き出すブロワー21と、ブロワー21の吹出口22に一端が接続され他端が空気を上記めっき槽1内に噴出させる噴出口部24として構成された噴出管路23とを備えて構成されている。噴出口部24は複数(実施の形態では4つ)設けられている。即ち、噴出管路23は、4つの枝管(25a,25b,25c,25d)に分岐しており、各枝管(25a,25b,25c,25d)の先端部に夫々噴出口部24が設けられている。この噴出口部24は、これから噴出される空気がめっき槽1内の被めっき物Wに直接当接しないように噴出可能にめっき槽1の側壁3側に設けられている。符号27は、噴出管路23に介装したエアフィルタである。
【0020】
また、枝管(25a,25b,25c,25d)のうち、2つの枝管(25a,25b)は直状に形成され、噴出口部24はこの枝管(25a,25b)の下向きの開放口で構成されている。他の2つの枝管(25c,25d)は直状部分の先端が側壁3に沿って水平方向に突出させられた突出管26を備え、噴出口部24はこの突出管26の先端の下向きの開放口で構成されている。
【0021】
加温部30は、電気ヒータ31で構成され、めっき槽1内に一対設けられている。このヒータ31により、無電解めっき液の温度を、80℃〜90℃に設定する。
【0022】
従って、このめっき槽装置Sを用いて被めっき物Wにめっきを行なうときは、以下のようになる。ここでは、無電解めっき液を用いて、被めっき物Wに無電解めっきを行なう場合で説明する。図5に示すように、無電解めっき液は、被めっき物Wの表面に、めっき金属としてニッケルをめっきするためのものであり、めっき金属の金属イオン源,還元剤,錯化剤,pH調整剤,安定剤を含むとともに、炭化ケイ素とカーボンナノチューブ(CNT)とが添加されている。被めっき物Wとしては、金属,樹脂等どのようなものでも良く、導電性,非導電性は問わない。例えば、鉄,銅,アルミニウムやそれらの合金素材,ステンレス,プラスチック,ガラス,セラミック等を挙げることができる。実施の形態では、鉄板,銅板あるいはステンレス板を用いた。
【0023】
めっき金属の金属イオン源としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル、炭酸ニッケル等を挙げることができる。実施の形態では、硫酸ニッケル六水和物を用いた。
【0024】
還元剤は、金属イオンの酸化還元電位よりも低い酸化還元電位を有し、溶液中では酸化速度が小さいもので、例えば、次亜リン酸塩,ホルムアルデヒド,パラホルムアルデヒド,水酸化ホウ素アンモニウム,ジメチルアミンボラン等を挙げることができる。実施の形態では、次亜リン酸塩である、次亜リン酸ナトリウムを用いた。
【0025】
錯化剤は、例えば、酢酸,乳酸,グリシン,クエン酸,マロン酸,りんご酸,しゅう酸,こはく酸,酒石酸,チオグリコール酸,アンモニア,アラニン,グルタミン酸,エチレンジアミン等を挙げることができる。実施の形態では、グリシンを用いた。
【0026】
pH調整剤としては、アルカリまたは酸であれば特に制限はない。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物溶液を使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等を使用することができる。実施の形態では、水酸化ナトリウムと希硫酸を用いた。
【0027】
安定剤としては、例えば、鉛、ビスマス、タリウム等の硝酸塩や所定のイオウ化合物の中から選択することができる。実施の形態では、硝酸鉛または硝酸ビスマスを用いた。
【0028】
炭化ケイ素は、平均粒径が0.1μm〜10.0μmのものを選択した。
望ましくは、平均粒径が0.25μm〜5.0μm、より望ましくは、0.5μm〜2.0μmのものが良い。
【0029】
カーボンナノチューブは、平均直径が1.0nm〜300nm,最大長さが50μm以下のものを選択した。望ましくは、平均直径が1.0nm〜200nm,最大長さが30μm以下のもの、より望ましくは、平均直径が50nm〜150nm,最大長さが10μm以下のものが良い。
【0030】
また、カーボンナノチューブとしては、シングルウォール型(SWCNT)、マルチウォール型(MWCNT)、カップスタック型(CSCNT)等あるが、実施の形態では、マルチウォール型若しくはカップスタック型のものを選択した。カーボンナノチューブは、絡まりあった状態で凝集し塊状の黒色の粉末として存在するが、優れた特性を発揮するために、一般には、分散液に分散させている。分散溶媒としては、例えば、水,エタノール,メタノール,イソプロピルアルコール,エチルヘキサノール,アセトン,ブタノール,酢酸エチル,酢酸ブチル,トルエン,シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0031】
具体的には、硫酸ニッケル六水和物を、0.05mol/L〜0.2mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.1mol/L〜0.4mol/L、グリシンを0.1mol/L〜0.6mol/L、安定剤を、0.1ppm〜3.0ppm添加した。
望ましくは、硫酸ニッケル六水和物を、0.05mol/L〜0.15mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.15mol/L〜0.25mol/L、グリシンを0.25mol/L〜0.35mol/L、安定剤を、0.2ppm〜2.0ppmとする。安定剤が硝酸ビスマスの場合は、0.5ppm〜1.5ppmである。
より望ましくは、硫酸ニッケル六水和物を、0.075mol/L〜0.125mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.175mol/L〜0.225mol/L、グリシンを0.275mol/L〜0.325mol/L、安定剤を、0.2ppm〜1.5ppmとする。安定剤が硝酸ビスマスの場合は、0.75ppm〜1.25ppmである。
例えば、硫酸ニッケル六水和物を、0.1mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.2mol/L、グリシンを0.3mol/L、硝酸ビスマスを、1.0ppmとする。
【0032】
また、炭化ケイ素を、0.5g/L〜10g/L添加した。望ましくは、1.0g/L〜5.0g/L、より望ましくは、1.5g/L〜2.5g/Lである。
更に、カーボンナノチューブを、10ppm〜3000ppm添加した。望ましくは、2000ppm以下、より望ましくは、50ppm〜1000ppmである。
【0033】
そして、このめっき槽装置Sを用いて被めっき物Wにめっきを行なうときは、めっき槽装置Sのめっき槽1に、先ず、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブ以外のめっき液を入れ、この状態で、二方向切換弁18の切換えにより、吐出側管路15の従管15bを有効にし、第2循環部10Bのポンプ11を駆動してめっき液を循環させ、フィルター17にめっき液を通して、ゴミ等の比較的大きな異物を除去する。次に、二方向切換弁18の切換えにより、吐出側管路15の主管15aを有効にし、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブを添加してめっき液とする。それから、ヒータ31を作動させてめっき液の温度を80℃〜90℃に設定する。そして、めっき槽1内に、空気吹込み部20の噴出口部24からの空気が被めっき物Wに直接当接しないように、被めっき物Wを例えば吊下してめっき槽1の中央に浸漬する。この状態で、第1循環部10Aと第2循環部10Bのポンプ11を駆動してめっき液を循環させるととともに、空気吹込み部20のブロワー21を駆動して噴出口部24から空気を噴出させ、所要時間この状態を保持する。これにより、被めっき物Wには、めっき金属としてのニッケルが析出して被着するとともに、炭化ケイ素とカーボンナノチューブが共析してゆく。
【0034】
この場合、炭化ケイ素やカーボンナノチューブが、めっき槽1の底壁2に沈殿し、あるいは、めっき槽1内で凝集しようとしても、第1循環部10Aと第2循環部10Bによってめっき液が循環させられて撹拌され、空気吹込み部20の噴出口部24から噴出される空気によっても撹拌されるので、底部に沈殿したり、凝集が進行することが抑止され、そのため、炭化ケイ素やカーボンナノチューブの微粒子が、頻繁に被めっき物Wに接触し、ニッケルの被めっき物Wに対する析出とともに共析が促進される。
【0035】
特に、めっき槽1の底壁2は、谷部4が複数連設して形成されているので、炭化ケイ素やカーボンナノチューブの微粒子が、各谷部4毎に吸込まれて循環させられることから、分散性が極めてよくなる。また、谷部4は、下に凹む錘状の内面を有し、出口が谷部4の頂点に形成されているので、平面にめっき液の出口を設ける場合に比較して、集約性が良く、炭化ケイ素やカーボンナノチューブの微粒子の全体を、満遍なく循環させることができ、この点でも、分散性を向上させることができる。更に、第1循環部10A及び第2循環部10Bは、夫々独立して駆動されるので、この点でも、撹拌性が向上させられ、分散性が極めて良いものになる。そのため、炭化ケイ素やカーボンナノチューブの微粒子を、凝集することなく、均一に被めっき物Wに共析させることができる。
【0036】
更にまた、空気吹込み部20の噴出口部24が複数設けられているので、空気による撹拌が満遍なく行なわれ、この点でも、分散効率が向上させられる。この場合、噴出管路23の噴出口部24は、この噴出口部24から噴出される空気が、めっき槽1内の被めっき物Wに直接当接しないようにめっき槽1の側壁3側に配置されているので、空気によって共析しようとする炭化ケイ素やカーボンナノチューブの微粒子に悪影響を与えることが防止され、均一に共析を行なわせることができる。これにより、高精度な膜厚制御・薄膜化が可能になる。
【0037】
所要時間経過したならば、被めっき物Wをめっき槽1から取り出す。この被めっき物Wには、めっき金属としてのニッケルが被覆されているとともに、その表面に炭化ケイ素とカーボンナノチューブとが散在して析出形成される。そのため、得られた製品においては、カーボンナノチューブは高導電体であり、高硬度でしなやかな弾力性や耐腐食性を有することから、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブの相乗作用によって、機能向上を図ることができる。特に、耐摩耗性,摺動性の向上を図ることができる。
【0038】
<実験例>
次に、実験例を示す。図6に示す成分の無電解めっき液を作成した。カーボンナノチューブとしては、平均直径50nm、最大長さ1〜2μmのカップスタック型カーボンナノチューブ(三恵技研工業製)を用いた。この無電解めっき液について、遠心分離を行ない、分離物について、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製SU6600)により、観察した。結果を図7に示す。炭化ケイ素微粒子間にカーボンナノチューブが混在していることが分かる。
【0039】
そして、この無電解めっき液を用いて、上記のめっき槽装置Sによりめっきを行なった。被めっき物W(サンプル)として、ハルセル鉄板(100mm×67mm×0.3mm)を用い、前処理として、アルカリ脱脂を行ない、水洗後、10%硫酸に浸漬し、その後水洗した。そして、温度条件を80℃、pH5.5、処理時間60分でめっきを行なった。めっき条件は、膜厚が8μmになるように定めた。予め、図6に示す無電解めっき液を用い、適正な膜圧について試験を行なった。温度80℃、pH5.5の条件で、処理時間を変え、膜厚が、1μm、3μm、5μm、10μm、20μmのものを作成し、炭化ケイ素の共析状態を見た。その結果、1μmでは共析が見られなかった。よって、膜厚は、3μm以上必要であると考えられた。また、3μmの試料について、各部の膜厚を測定した。膜厚は、試料の表5点、裏5点計10点について膜厚を測定した。各点ともに3μm±0.5μmの範囲に入り、安定的に3μm±0.5μmの均一な膜厚を得る事が確認できた。更に、3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPUS:LEXT OLS4000)にて、本試料の表5点、裏5点計10点について表面粗さを測定した。表面及び裏面の算術平均表面粗さは、0.123μmであった。
【0040】
そして、この無電解めっき液を用いてめっき処理された試料について、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製SU6600)により、その表面状態を観察した。結果を図8に示す。図8(a)の2000倍の電子顕微鏡写真では炭化ケイ素微粒子(白い粒)が見られ、良く分散して析出していることが分かる。この写真ではカーボンナノチューブは認識できないが、図8(b)の100000倍の電子顕微鏡写真では炭化ケイ素微粒子の間にカーボンナノチューブが共析していることが分かる。
【0041】
尚、上記実施の形態において、ポンプ11,吸引側管路14及び吐出側管路15の組を各谷部4毎に独立して設けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、ポンプ11を一台にし、この一台のポンプ11と各谷部4を吸引側管路14で接続し、このポンプ11に吐出側管路15を接続して構成して良く、適宜変更して差支えない。また、上記実施の形態において、谷部4を一対設けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、3以上設けて良く、適宜変更して差支えない。更に、上記実施の形態では、谷部4を錘状に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、断面V字状で頂点が所定長さ連続する形状のものでもよく、適宜変更して差支えない。また、上記実施の形態では、本めっき槽装置Sを、ニッケルの無電解めっきに用いる例で説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の無電解めっきあるいは電解めっきに用いて良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
S めっき槽装置
W 被めっき物
1 めっき槽
2 底壁
3 側壁
4 谷部
8 出口
10 循環部
10A 第1循環部
10B 第2循環部
11 ポンプ
14 吸引側管路
15 吐出側管路
16 給液口
17 フィルター
20 空気吹込み部
21 ブロワー
23 噴出管路
24 噴出口部
30 加温部
31 ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9