(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446823
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20181220BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20181220BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B15/08 D
B29C45/14
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-91328(P2014-91328)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-211110(P2015-211110A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年2月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】小郷 正勝
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達也
(72)【発明者】
【氏名】楠本 孝明
【審査官】
白石 圭吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−171826(JP,A)
【文献】
特開平06−314895(JP,A)
【文献】
特開平09−164552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 15/08
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムにアルミニウムが蒸着されたアルミ蒸着フィルムと、樹脂フィルムにニッケルが蒸着されたニッケル蒸着フィルムと、を準備する工程と、
一対の金型のうち一方の金型の内面に、前記アルミ蒸着フィルムを前記樹脂フィルムが内側になるようにして配置し、他方の金型の内面に、前記ニッケル蒸着フィルムを前記樹脂フィルムが内側になるようにして配置する工程と、
前記一対の金型を閉じた後、前記一対の金型の間に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出する工程と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波遮蔽体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IT(情報技術)の発達によって、パーソナル・コンピュータを始めとするIT機器・OA機器が急速に普及し、通常の家庭環境や職場環境においても、これらのIT機器・OA機器から放射される電磁波が人体にもたらす影響等が問題にされるようになってきた。特に、携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン等に代表される携帯用電子機器の普及は目覚ましく、これらの電子機器の筐体(ハウジング)には、電子機器内部で発生する電磁波の外部への漏洩を防止するために、電磁波遮蔽性(電磁波シールド性)が要求される。
【0003】
また、自動車等の車両にも、エンジン制御系、操舵系、駆動系、空調系等の電子制御ユニット(ECU)や、各種センサ、アクチュエータ等の電子機器が多数搭載されるようになっており、これらの車載用電子機器の筐体についても、電磁波シールド性が必要とされる。特に、ハイブリッドカー(HEV)や電気自動車(EV)に搭載されるパワーコントロールユニット(PCU)には大電流が流れるため、PCU等の筐体には高い電磁波シールド性が要求される。
【0004】
特許文献1には、インストルメントパネル内に配設され金属材料からなるシェル構造とされたインパネリインフォースと、該インパネリインフォースの前記インストルメントパネル側の面に形成された電装機器配設部と、前記インパネリインフォースに形成され、前記電装機器配設部に配設された電装機器をシールドするシールド部と、を有することを特徴とする車両の電磁波シールド構造が開示されている。
【0005】
特許文献2には、合成樹脂と、導電性材料と、前記導電性材料同士の接触を増加させる非導電性粒子または気泡とを含有することを特徴とする電磁波シールド材が開示されている。
【0006】
特許文献3には、プラスチックフィルムの両面に、蒸着層厚さが0.2μm以上の金属および/または金属酸化物からなる蒸着層を有する積層体により構成される電磁波シールドフィルムが開示されている。
【0007】
特許文献4には、電気自動車に設置されたバッテリーモジュール群をカバーする車両用電磁波シールドカバーであって、樹脂製のカバー本体の一方の面に、導電金属層を1対の樹脂層で挟んだノイズ遮断シートを敷設した車両用電磁波シールドカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−268653号公報
【特許文献2】特開2011−192714号公報
【特許文献3】特開2005−277262号公報
【特許文献4】特開2013−71702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より成形しやすく、より少ない工程で安価に製造することのできる電磁波遮蔽体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
樹脂フィルムに金属が蒸着された金属蒸着フィルムを準備する工程と、
一対の金型のうち少なくとも一方の金型の内面に、前記金属蒸着フィルムを前記樹脂フィルムが内側になるようにして配置する工程と、
前記一対の金型を閉じた後、前記一対の金型の間に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出する工程と、
を備えることを特徴とする電磁波遮蔽体の製造方法。
【0011】
前記一対の金型の両方の内面に前記金属蒸着フィルムをそれぞれ配置することが好ましい。
【0012】
両方の金型の内面にそれぞれ配置される金属蒸着フィルムに蒸着されている金属の種類が互いに異なってもよい。
【0013】
一方の金型の内面に配置される金属蒸着フィルムに蒸着されている金属がアルミニウムであり、他方の金型の内面に配置される金属蒸着フィルムに蒸着されている金属がニッケルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より成形しやすく、より少ない工程で安価に製造することのできる電磁波遮蔽体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】一対の金型の両方の内面に金属蒸着フィルムをそれぞれ配置した状態を示している。
【
図4】一対の金型の間に形成されたキャビティ内に溶融樹脂を射出した後の状態を示している。
【
図5】一対の金型を開くことで取り出された電磁波遮蔽体の断面図である。
【
図6】電磁波シールド効果の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の電磁波遮蔽体の製造方法は、樹脂フィルムに金属が蒸着された金属蒸着フィルムを準備する工程(金属蒸着フィルム準備工程)と、一対の金型のうち少なくとも一方の金型の内面に、前記金属蒸着フィルムを前記樹脂フィルムが内側になるようにして配置する工程(金属蒸着フィルム配置工程)と、前記一対の金型を閉じた後、前記一対の金型の間に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出する工程(溶融樹脂射出工程)と、を備えている。
【0017】
(金属蒸着フィルム準備工程)
図1は、金属蒸着フィルムの断面図である。
図1に示すように、金属蒸着フィルム10は、樹脂フィルム12と、樹脂フィルム12の片面に蒸着された金属蒸着層14とを備えている。
【0018】
樹脂フィルム12の材料は特に制限するものではなく、例えば、ポリエステル、ポリオレフイン、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリスチレン等を用いることができる。樹脂フィルム12は、未延伸フィルム、1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0019】
樹脂フィルム12の片面に蒸着させる金属の種類は特に制限するものではなく、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル等を用いることができる。樹脂フィルム12の片面に蒸着させる金属は、アルミニウムが特に好ましい。アルミニウムは軽量でかつ電磁波シールド性の高い金属だからである。一方、金属蒸着層14に耐蝕性や耐候性を持たせるためには、樹脂フィルム12の片面に蒸着させる金属はニッケルであることが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム12の厚みは、1μm〜100μmが好ましく、10μm〜70μmがより好ましく、20μm〜50μmがさらに好ましい。
【0021】
金属蒸着層14の厚みは、100Å〜2000Åが好ましく、200Å〜1500Åがより好ましく、300Å〜1000Åがさらに好ましい。
【0022】
樹脂フィルム12の片面に金属を蒸着させる方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることが可能である。
【0023】
(金属蒸着フィルム配置工程)
本実施形態の電磁波遮蔽体の製造方法は、金属蒸着フィルム10を準備した後、一対の金型のうち少なくとも一方の金型の内面に、金属蒸着フィルム10を樹脂フィルム12が内側になるようにして配置する工程を有している。
【0024】
図2は、一対の金型の両方の内面に金属蒸着フィルム10をそれぞれ配置した状態を示している。
図2に示すように、本実施形態の電磁波遮蔽体の製造方法では、一対の金型20a、20bを用いる。一対の金型20a、20bのうち一方の金型20aの内面は凹状になっており、その凹状の内面に金属蒸着フィルム10が配置されている。また、一対の金型20a、20bのうち他方の金型20bの内面は平らになっており、その平らな内面にも金属蒸着フィルム10が配置されている。
図2において左側の金型20aの内面に配置された金属蒸着フィルム10は、樹脂フィルム12が内側(
図2において右側)となるように配置されている。
図2において右側の金型20bの内面に配置された金属蒸着フィルム10は、樹脂フィルム12が内側(
図2において左側)となるように配置されている。ここでいう「内側」とは、一対の金型20a、20bが閉じられることでキャビティが形成される側のことを指している。
【0025】
金型20aには、溶融樹脂をキャビティ内に射出するための通路となるスプルー22が設けられている。また、金型20aには、溶融樹脂の通路となるランナー、ゲート等(図示せず)が設けられている。
【0026】
一対の金型20a、20bの外側には、一対の金型20a、20bの間に形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出するための射出ユニット(図示せず)が設けられている。
【0027】
(溶融樹脂射出工程)
本実施形態の電磁波遮蔽体の製造方法は、一対の金型20a、20bを閉じた後、一対の金型20a、20bの間に形成されるキャビティ24内に溶融樹脂を射出する工程(溶融樹脂射出工程)を有している。
【0028】
図3は、一対の金型20a、20bを閉じた後の状態を示している。一対の金型20a、20bの間には、溶融樹脂が射出される空間であるキャビティ24が形成されている。
【0029】
図4は、一対の金型20a、20bの間に形成されたキャビティ24内に溶融樹脂を射出した後の状態を示している。キャビティ24内に射出される樹脂の種類は特に制限するものではなく、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ABS、ナイロン6等のポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等を使用することができる。
【0030】
キャビティ24内に溶融樹脂が射出された後、キャビティ24内に射出された溶融樹脂と、キャビティ24側に面するように配置されていた樹脂フィルム12とが溶融一体化する。その後、溶融樹脂が冷却されて固化する。これにより、樹脂成形体32の両面に金属蒸着フィルム10が一体化した電磁波遮蔽体30が得られる。
【0031】
図5は、一対の金型20a、20bを開くことで取り出された電磁波遮蔽体30の断面図である。
図5に示すように、本発明の製造方法によって製造された電磁波遮蔽体30は、樹脂成形体32の両面に金属蒸着フィルム10が一体化した構造を有している。樹脂成形体32の厚みは特に制限するものではなく、電磁波遮蔽体30に必要とされる強度や用途等に応じて適宜設定することができる。
【0032】
金属蒸着フィルム10としては、アルミ蒸着フィルムを用いることが好ましい。アルミは軽量でかつ電磁波シールド性の高い金属だからである。
【0033】
他方、金属蒸着フィルム10としては、ニッケル蒸着フィルムを用いることも好ましい。ニッケルは耐蝕性の高い金属であることから、電磁波遮蔽体30の耐蝕性、耐候性を高めることができるからである。
【0034】
例えば、屋外やエンジンルーム内に設置される電子部品の筐体として電磁波遮蔽体30が用いられる場合、筐体の外面側に位置する金属蒸着フィルム10としてニッケル蒸着フィルムを用い、筐体の内面側に位置する金属蒸着フィルム10としてアルミ蒸着フィルムを用いるのが好ましい。このように外面側と内面側とで異なる金属蒸着フィルム10を用いることによって、耐蝕性や耐候性が高く、かつ、電磁波遮蔽性の高い電子部品の筐体を実現することができる。
【0035】
上記実施形態では、一対の金型20a、20bの両方の内面に金属蒸着フィルム10をそれぞれ配置する例について説明したが、一対の金型20a、20bのうち一方の金型のみに金属蒸着フィルムを配置してもよい。
【0036】
一方の金型20aの内面にアルミ蒸着フィルムを配置し、他方の金型20bの内面にニッケル蒸着フィルムを配置してもよい。一対の金型20a、20bの両方の内面にアルミ蒸着フィルムを配置してもよい。一対の金型20a、20bの両方の内面にニッケル蒸着フィルムを配置してもよい。一対の金型20a、20bの内面に配置される金属蒸着フィルム10は、金属の種類が互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0037】
本実施形態の電磁波遮蔽体の製造方法によれば、金属蒸着フィルム10を樹脂フィルム12が内側になるようにして金型の内面に配置するため、キャビティ24内に射出された溶融樹脂と金属蒸着フィルム10とが容易に一体化する。このため、より少ない工程で効率的に電磁波遮蔽体30を製造することができる。
【0038】
このようにして得られた電磁波遮蔽体30は、電磁波遮蔽性が高く、軽量であり、かつ成形や加工が容易である。
【0039】
本発明の製造方法によって製造された電磁波遮蔽体30は、例えば、自動車等の車両に用いられる電子部品の筐体として用いることができる。また、ハイブリッドカーや電気自動車のパワーコントロールユニット(PCU)の筐体として用いることができる。さらに、本発明の製造方法によって製造された電磁波遮蔽体30は、パソコン、携帯電話、スマートフォン等の電磁波シールド性が求められる他の用途に用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下の表1に示す3つのケースで電磁波シールド性を評価した。
【0041】
【表1】
【0042】
電磁波シールド性の評価は、KEC法(社団法人関西電子工業振興センター標準測定方法)で測定した。周波数10〜1000MHzの範囲で、電磁波シールド効果の測定を行った。測定結果を
図6に示す。
【0043】
図6に示す通り、樹脂の片面にアルミ蒸着フィルム1000Åを配置した場合(CASE1)、樹脂の片面にアルミ蒸着フィルム500Åを配置した場合(CASE2)よりも、電磁波遮蔽性が若干高いことが確認された。
【0044】
図6に示す通り、樹脂の両面にアルミ蒸着フィルムを配置した場合(CASE3)、樹脂の片面にアルミ蒸着フィルムを配置した場合(CASE1、CASE2)よりも、電磁波遮蔽性が飛躍的に高くなることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 金属蒸着フィルム
12 樹脂フィルム
14 金属蒸着層
20a 金型
20b 金型
22 スプルー
24 キャビティ
30 電磁波遮蔽体
32 樹脂成形体