(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446888
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】丸棒材の超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
G01N29/04
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-150357(P2014-150357)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-24142(P2016-24142A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 たける
(72)【発明者】
【氏名】樹神 啓司
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−225887(JP,A)
【文献】
特開昭58−135450(JP,A)
【文献】
特開平01−248053(JP,A)
【文献】
特開昭58−213248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N G01N29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波受発振器の圧電振動子に、互いに近接する一対の矩形波パルス電圧を印加して、前記超音波受発振器の圧電振動子から出力される超音波を、丸棒材の外周面から所定の屈折角でその内部へ入射させ、反射波の疵検出波形に位相の反転が無い場合に前記丸棒材に表面疵があるものと判定し、反射波の疵検出波形に位相の反転が有る場合には前記丸棒材に表層疵があるものと判定することを特徴とする丸棒材の超音波探傷方法。
【請求項2】
前記超音波受発振器を前記丸棒材に対し一定間隔を保ちつつ同心状に相対旋回移動させる請求項1に記載の丸棒材の超音波探傷方法。
【請求項3】
前記所定の屈折角を30°〜70°とした請求項1又は2に記載の丸棒材の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は丸棒材の超音波探傷方法に関し、特に丸棒材の表面疵と表面近くの表層疵を良好に識別して検出することができる超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
丸棒材の外周表面に生じる表面疵と丸棒材の表面直下の内部に生じる表層疵を明確に識別できれば、表面疵は切削等で簡易に除去することにより丸棒材を良品化できることから製造歩留りが向上する。そこで、特許文献1では、サークル形状のアレイ型超音波探触子を使用して超音波ビームの振り角を調整し、丸棒材の内部に超音波を入射させることで表層疵の探傷を行うとともに、表面疵の探傷は丸棒材の表面に表面波を生起させることによって行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−126952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の探傷方法では、表面疵の検出に表面波を利用しているために、丸棒材の表面粗さによって疵検出の精度が左右されるという問題があるとともに、丸棒材を支持する部分では疵検出ができないという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、丸棒材の表面粗さや支持部の有無に影響されることなく、表面疵と表層疵を区別して正確に検出することができる丸棒材の超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本第1発明では、
超音波受発振器(1)の圧電振動子(12)に、互いに近接する一対の矩形波パルス電圧(2a,2b)を印加して、前記超音波受発振器(1)の圧電振動子(12)から出力される超音波を、丸棒材(4)の外周面から所定の屈折角(θ)でその内部へ入射させ、反射波の疵検出波形(3cd)に位相の反転が無い場合に前記丸棒材(4)に表面疵(41)があるものと判定し、反射波の疵検出波形(3cd)に位相の反転が有る場合には前記丸棒材(4)に表層疵(42)があるものと判定することを特徴とする。
【0007】
本第1発明においては、超音波反射波の疵検出波形における位相の反転の有無によって、丸棒材に生じた表面疵と表層疵を確実に区別して検出することができる。
【0008】
本第2発明では、
前記超音波受発振器(1)を前記丸棒材(4)に対し一定間隔を保ちつつ同心状に相対旋回移動させる。
【0009】
本第3発明では、前記所定の屈折角を30°〜70°とする。
【0010】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の丸棒材の超音波探傷方法によれば、表面粗さや支持部の有無に影響されることなく、表面疵と表層疵を区別して正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】超音波受発振器の圧電振動子の入出力波形を示す図である。
【
図3】超音波受発振器の出力超音波の波形を示す図である。
【
図4】丸棒材内での超音波経路を示す断面図である。
【
図5】丸棒材内での超音波経路を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0014】
図1には本発明方法で使用する、パルス持続時間が短い広帯域の超音波を出力する超音波受発振器の一例を示す。
図1において、超音波受発振器1は一端が開放する筒状のハウジング11を有し、その開口を閉鎖するように板状の圧電振動子12が配設されている。圧電振動子12の前面には金属製の前板13が接合されている。圧電振動子12の背後のハウジング11内には超音波減衰特性に優れた樹脂材等よりなるダンパ層14が設けられており、ダンパ層14の中心穴141内に圧電振動子12へ至る給電線15が挿通してある。
【0015】
圧電振動子12に
図2(1)に示すような近接する一対の矩形波パルス電圧2a,2bを印加する。これら一対のパルス電圧2a,2bは、それぞれ例えば7MHzの高周波の1/2波長分持続し、かつ両者の間隔を1/2波長分離す。このようにすると、最初のパルス電圧2aの印加で
図2(2)に示すように、次第に減衰する(図中鎖線で示す)7MHzの超音波3aが発生し、続くパルス電圧2bの印加で
図2(3)に示すように、一波長遅れた、同様に減衰する(図中鎖線で示す)7MHzの超音波3bが発生する。
【0016】
この結果、圧電振動子12からは
図2(4)に示すような、上記超音波3a,3bが合成された超音波3cが出力される。合成された出力超音波3cは山波が重畳されて1.5波目くらいが他に比して強くなる(振幅が大きくなった)とともに、波数は十分少ないものとなる。
【0017】
出力超音波3cの実際の波形の一例を
図3に示す。
図3より明らかなように、相対的に振幅(強度)の小さい前後一対の正の波形の間に、相対的に振幅(強度)の大きい負の波形が存在し正負の強度差が大きく、0.5μsの間に3.5波が存在する十分に波数の少ない広帯域のものである。
【0018】
超音波受発振器1の圧電振動子12から出力される上記超音波3cを丸棒材4の外周面から、
図4、
図5に示すように所定の屈折角θで内部へ入射させる。ここで、θは30°
〜70°の範囲にすることが多い。この状態で超音波受発振器1を丸棒材4に対し一定間隔を保ちつつ同心状に相対旋回移動させた場合、
図4に示すように丸棒材4の外周面に開放する表面疵41が生じていると、当該表面疵41部分に至った超音波3cのうちの一部は、表面疵41で反射させられて丸棒材の表面に向かう。この際、空気の音響インピーダンスは丸棒材を構成する金属材の音響インピーダンスに比して非常に(5桁程度)小さいため、金属材中からこれと空気との境界へ入射することになる超音波は表面疵41での反射でその位相が反転する。そして、同様の条件となる丸棒材4の表面での反射の際にさらに位相が反転して、その反射波3cr1は結局、入射超音波3cの位相と同一で、あたかも位相の反転が生じなかったような波形で超音波受発振器1に戻る。
【0019】
これに対して、
図5に示すように丸棒材4の表面直下に表層疵42が生じていると、入射超音波3cのうちの一部は表層疵42の表面で直接反射し、これは金属材中からこれと空気との境界へ入射することになるため位相が反転した反射波3cr2となって超音波受発振器1に戻る。これら反射波3cr1,3cr2が超音波受発振器1に戻るまでの時間は同程度になることから、この時間範囲に反射波検出ウィンドウを設定して疵検出波形を捉えることにより、当該疵検出波形の位相反転の有無によって、丸棒材4に表面疵41を生じているか表層疵42を生じているかを確実に判定することができる。
【0020】
ここで、φ38mmの白皮丸棒鋼に、R0.3mmの丸溝を表面疵として形成し、また表層直下1mmの位置にφ0.6mmの横穴を表層疵として形成して、屈折角(θ)44°で
図3に示す出力超音波3cを丸棒鋼内に入射させて得られた反射波の一例を
図6、
図7に示す。
図6に示す反射波における疵検出波形3cdは、相対的に振幅(強度)の小さい前後一対の正の波形の間に、相対的に振幅(強度)の大きい負の波形が存在する、出力超音波3cと同相のものとなっており、位相の反転が無いことから、丸棒鋼に表面疵があると判定できる。
【0021】
一方、
図7に示す反射波における疵検出波形3cdは、相対的に振幅(強度)の小さい前後一対の負の波形の間に、相対的に振幅(強度)の大きい正の波形が存在する、出力超音波3cとは逆相のものとなっており、位相の反転が有ることから、丸棒鋼に表層疵があると判定できる。
【符号の説明】
【0022】
1…超音波受発振器、3c…超音波、3cd…疵検出波形、4…丸棒材、41…表面疵、42…表層疵。