(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この例では、
図1Bに示すように、吊り具120で外壁パネル110を吊る位置が、同パネル110の前端部110aのみとされていて、つまり、後端部110bでは吊っていない。そのため、横たわる外壁パネル110を吊り上げて立て起こす際に、同パネル110に無理な負荷が作用し易く、その結果、同
図1Bに二点鎖線で示すように、同パネル110が撓んで曲がったり折れる等、変形の恐れがある。特に施工効率の観点から外壁パネル110の大型化が進む昨今では、同パネル110はより変形し易いことから、かかる変形の問題は切実である。
【0006】
また、同
図1Bに示すように、前端部110aのみで同パネル110を吊っているために、吊り上げた外壁パネル110の後端部110bが大きく振れるなど同パネル110の姿勢が不安定になり易く、周囲の各種建材に偶発的にぶつかる等して同パネル110がへこむ等、損傷の恐れもある。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、建物の外側に外壁パネル等の所定部材を取り付けるべく、同部材を鉛直方向に沿うように立てた姿勢にする際に、同部材の変形を抑制するとともに、同部材の姿勢を安定化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
工事中の建物内に水平方向の前後に沿うように横たわって用意された所定部材を、鉛直方向に沿うように立てた姿勢にして前記建物の外側に取り付ける方法であって、
前記建物内に、前後方向に沿って移動可能に案内された第1吊り機構と、前記前後方向に沿って移動可能に案内された第2吊り機構と、を使用可能な状態に準備する準備工程と、
前記建物内に横たわる前記所定部材の前部を前記第1吊り機構の第1索体で吊り上げ可能に準備するとともに、前記所定部材の後部を前記第2吊り機構の第2索体で吊り上げ可能に準備する吊り上げ準備工程と、
前記前部と前記後部との間の前記前後方向の距離が縮小するように、前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構のうちの少なくとも一方の吊り機構を前記前後方向に移動するとともに、前記前部と前記後部との間の前記鉛直方向の距離が拡大するように、前記第1索体及び前記第2索体のうちの少なくとも一方の索体の長さを調整することによって、前記所定部材を前記鉛直方向に沿うように立て起こす立て起こし工程と、
前記鉛直方向に沿うように立て起こされた前記所定部材を前記建物の外側の取り付け対象位置に取り付ける取り付け工程と、を有
し、
前記第1吊り機構は、前記水平方向のうちで前記前後方向と直交する左右方向の両側にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられているとともに、前記第2吊り機構は、前記左右方向の両側にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられており、
前記左右方向の両側にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられた前記第1吊り機構の移動経路と、前記左右方向の両側にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられた前記第2吊り機構の移動経路とは、互いに前記左右方向のずれた位置に設定されていることを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、立て起こし工程において、上述のように第1吊り機構及び第2吊り機構のうちの少なくとも一方の吊り機構を前後方向に移動するとともに第1索体及び第2索体のうちの少なくとも一方の索体の長さを調整する。よって、上記所定部材を鉛直方向に沿うように速やかに立て起こすことができる。
また、かかる発明によれば、上記所定部材を前部と後部とで吊れる。よって、所定部材を立て起こす際に前部及び後部の前後方向の位置や第1索体及び第2索体の長さを適宜調整することで、上記所定部材に無理な負荷がかからないように同部材の姿勢を調整することができる。そして、これにより、同部材の変形を抑制することができる。
更に、第1吊り機構及び第2吊り機構で、それぞれ所定部材の前部及び後部を吊れるので、これら前部及び後部の振れを抑制できて、結果、同部材の姿勢の安定化を図れる。
また、上記所定部材を少なくとも四点で吊って支持することができる。よって、同部材の変形をより確実に抑制できるとともに、同部材の姿勢をより安定化することができる。
また、第1吊り機構の移動経路と第2吊り機構の移動経路とは、互いに左右方向にずれて配置されている。よって、第1吊り機構と第2吊り機構とは、互いに干渉することなく、対応する専用の移動経路を前後方向に自在に移動可能であり、その結果、所定部材の立て起こしを円滑に行うことができる。
また、上述のように移1吊り機構の移動経路と第2吊り機構の移動経路とを互いに左右方向にずらして配置していれば、第1吊り機構と第2吊り機構とを前後方向に関して互いに同位置に位置させることができる。そして、これにより、前部と後部との間の前後方向の距離を零にすることができて、その結果、上記所定部材を、ほぼ完全な鉛直姿勢にすることができる。
【0014】
請求項2に示す発明は、
請求項1に記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記立て起こし工程で前記所定部材を前記鉛直方向に沿って立て起こした状態において、前記前部及び前記後部のうちで上方に位置する方を上方部分とし、下方に位置する方を下方部分とした場合に、
前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構のうちで前記下方部分を吊る吊り機構の方が、前記上方部分を吊る吊り機構よりも前記左右方向の外側に位置していることを特徴とする。
【0015】
上記
請求項2に示す発明によれば、下方部分を吊る吊り機構の索体に、上方部分を吊る吊り機構の索体と上方部分とを連結する連結部材が干渉することを確実に防ぐことができる。
【0016】
請求項3に示す発明は、
請求項1又は2に記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記前後方向の移動を、前記左右方向の両側にそれぞれ設けられた前記第1吊り機構同士で互いに連動して行うとともに、前記前後方向の移動を、前記左右方向の両側にそれぞれ設けられた前記第2吊り機構同士で互いに連動して行い、
前記第1索体の長さの調整を前記第1吊り機構同士で互いに連動して行うとともに、前記第2索体の長さの調整を前記第2吊り機構同士で互いに連動して行うことを特徴とする。
【0017】
上記
請求項3に示す発明によれば、第1吊り機構同士は、互いに連動して前後方向の移動動作及び第1索体の長さの調整を行い、同様に、第2吊り機構同士も、互いに連動して前後方向の移動動作及び第2索体の長さの調整を行う。よって、連動させない場合に起こり得る不具合、例えば上記所定部材をねじってしまう等の不具合を有効に回避することができて、その結果、当該所定部材に無理な負荷が作用することを効果的に抑制することができる。
【0018】
請求項4に示す発明は、
請求項1乃至3の何れかに記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記建物内に用意された前記所定部材が横たわる待機位置よりも前記前後方向の前方の位置に、前記建物は、当該建物の外側に通じる開口部を有し、
前記第1吊り機構の移動経路の前進限及び前記第2吊り機構の移動経路の前進限は、それぞれ、前記開口部よりも前記前後方向の前方に位置しており、
前記所定部材を吊った前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構を、前記前進限へと移動することにより、前記所定部材を、当該開口部を通して前記建物の外側に出すことを特徴とする。
【0019】
上記
請求項4に示す発明によれば、第1吊り機構及び第2吊り機構を各移動経路の前進限へと移動することにより、当該第1及び第2吊り機構で吊った上記所定部材を、上記開口部を通して建物の外側に出す。よって、当該所定部材を、建物の外側の取り付け対象位置に速やかに取り付けることができる。
【0020】
請求項5に示す発明は、
請求項4に記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記建物の外側には、クレーンが配置されており、
前記開口部を通して前記建物の外側に出された前記所定部材を、前記鉛直方向に沿うように立った姿勢のまま、前記第1及び第2吊り機構から前記クレーンに吊り替える吊り替え工程と、
前記クレーンに吊り替えられた前記所定部材を、前記建物の外側における取り付け対象位置へと運搬する運搬工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
上記
請求項5に示す発明によれば、第1及び第2吊り機構から、建物の外側のクレーンに所定部材を吊り替えるとともに、同クレーンにより所定部材は建物の外側における取り付け対象位置へ運搬される。よって、建物の外側における任意の取り付け対象位置に上記所定部材を速やかに取り付けることができる。
【0022】
請求項6に示す発明は、
工事中の建物内に水平方向の前後に沿うように横たわって用意された所定部材を、鉛直方向に沿うように立てた姿勢にして前記建物の外側に取り付ける方法であって、
前記建物内に、前後方向に沿って移動可能に案内された第1吊り機構と、前記前後方向に沿って移動可能に案内された第2吊り機構と、を使用可能な状態に準備する準備工程と、
前記建物内に横たわる前記所定部材の前部を前記第1吊り機構の第1索体で吊り上げ可能に準備するとともに、前記所定部材の後部を前記第2吊り機構の第2索体で吊り上げ可能に準備する吊り上げ準備工程と、
前記前部と前記後部との間の前記前後方向の距離が縮小するように、前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構のうちの少なくとも一方の吊り機構を前記前後方向に移動するとともに、前記前部と前記後部との間の前記鉛直方向の距離が拡大するように、前記第1索体及び前記第2索体のうちの少なくとも一方の索体の長さを調整することによって、前記所定部材を前記鉛直方向に沿うように立て起こす立て起こし工程と、
前記鉛直方向に沿うように立て起こされた前記所定部材を前記建物の外側の取り付け対象位置に取り付ける取り付け工程と、を有し、
前記建物内に用意された前記所定部材が横たわる待機位置よりも前記前後方向の前方の位置に、前記建物は、当該建物の外側に通じる開口部を有し、
前記第1吊り機構の移動経路の前進限及び前記第2吊り機構の移動経路の前進限は、それぞれ、前記開口部よりも前記前後方向の前方に位置しており、
前記所定部材を吊った前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構を、前記前進限へと移動することにより、前記所定部材を、当該開口部を通して前記建物の外側に出し、
前記建物の外側には、クレーンが配置されており、
前記開口部を通して前記建物の外側に出された前記所定部材を、前記鉛直方向に沿うように立った姿勢のまま、前記第1及び第2吊り機構から前記クレーンに吊り替える吊り替え工程と、
前記クレーンに吊り替えられた前記所定部材を、前記建物の外側における取り付け対象位置へと運搬する運搬工程と、を有し、
前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構は、前記建物の地上二階以上の所定階を設置階として設置されており、
前記立て起こし工程では、前記建物の外側の空間のうちで前記設置階よりも下方に位置する空間を前記前部が下降するようにしながら、前記前部と前記後部との間の前記前後方向の距離を縮小するとともに、前記前部よりも上方に位置する前記後部と前記前部との間の前記鉛直方向の距離を拡大することにより、前記所定部材を立て起こすことを特徴とする。
【0023】
上記
請求項6に示す発明によれば、
立て起こし工程において、上述のように第1吊り機構及び第2吊り機構のうちの少なくとも一方の吊り機構を前後方向に移動するとともに第1索体及び第2索体のうちの少なくとも一方の索体の長さを調整する。よって、上記所定部材を鉛直方向に沿うように速やかに立て起こすことができる。
また、かかる発明によれば、上記所定部材を前部と後部とで吊れる。よって、所定部材を立て起こす際に前部及び後部の前後方向の位置や第1索体及び第2索体の長さを適宜調整することで、上記所定部材に無理な負荷がかからないように同部材の姿勢を調整することができる。そして、これにより、同部材の変形を抑制することができる。
更に、第1吊り機構及び第2吊り機構で、それぞれ所定部材の前部及び後部を吊れるので、これら前部及び後部の振れを抑制できて、結果、同部材の姿勢の安定化を図れる。
また、第1吊り機構及び第2吊り機構を各移動経路の前進限へと移動することにより、当該第1及び第2吊り機構で吊った上記所定部材を、上記開口部を通して建物の外側に出す。よって、当該所定部材を、建物の外側の取り付け対象位置に速やかに取り付けることができる。
また、第1及び第2吊り機構から、建物の外側のクレーンに所定部材を吊り替えるとともに、同クレーンにより所定部材は建物の外側における取り付け対象位置へ運搬される。よって、建物の外側における任意の取り付け対象位置に上記所定部材を速やかに取り付けることができる。
また、上記設置階の天井高さが、立て起こされた姿勢の上記所定部材の鉛直方向の寸法より小さい場合でも、天井等との干渉無く速やかに同部材を立て起こすことができる。すなわち、上記設置階は、地上二階以上の階であるので、当該設置階における建物の外側の下方には、所定部材の立て起こしに使用可能な空間が十分な大きさで存在している。よって、当該空間を前部が下降するようにしながら所定部材を立て起こせば、上記設置階の天井等に干渉すること無く所定部材を速やかに立て起こすことができる。
【0024】
請求項7に示す発明は、
請求項6に記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記立て起こし工程では、前記前部の下降に伴って前記後部も下降することを特徴とする。
【0025】
上記
請求項7に示す発明によれば、立て起こし工程では、前部よりも上方に位置する後部も下降させるので、上記設置階の天井等との所定部材の干渉を確実に防ぐことができる。
【0026】
請求項8に示す発明は、
請求項1乃至7の何れかに記載の工事中の建物への所定部材の取り付け方法であって、
前記建物の所定階には、前記所定部材を組み立てる組み立てヤードが設けられており、
前記所定階には、前記第1吊り機構及び前記第2吊り機構が配された立て起こしヤードが設けられていることを特徴とする工事中の建物への所定部材の取り付け方法。
【0027】
上記
請求項8に示す発明によれば、組み立てヤードで組み立てられた上記所定部材を、同ヤードと同じ階の立て起こしヤードに速やかに運搬することができて、これにより、所定部材の組み立てから同部材の建物への取り付けまでの一連の工期の短縮を図れる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、建物の外側に外壁パネル等の所定部材を取り付けるべく、同部材を鉛直方向に沿うように立てた姿勢にする際に、同部材の変形を抑制するとともに、同部材の姿勢を安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
===本実施形態===
図2は、本実施形態の所定部材10の取り付け方法の対象となる工事中の建物1の概略正面図である。
同
図2に示すように、本実施形態の取り付け方法では、工事中の建物1の外側に所定部材10としての外壁パネル10を複数取り付ける。すなわち、工事中の建物1は、例えば略直方体形状の外形の躯体1kを有し、同躯体1kは、複数の柱2,2…と、二階以上の各階に設けられた複数の梁3,3…と、屋上階を含め各階に設けられた複数の床部4,4…と、を備えている。そして、建物1の外形に相当する平面位置の柱2又は梁3に対して、建物1の水平方向の外側から複数の外壁パネル10,10…を取り付けて、これにより、建物1の外壁を形成する。なお、この例では、建物1は、複数階建ての一例として地上四階建てとされているが、建物1の階数は何等これに限らない。また、この例では、柱2に角形鋼管を用い、梁3にH形鋼を用いているが、何等これに限らない。すなわち、柱2や梁3に別の断面形状の鋼材を用いても良いし、或いはRC造やSRC造で柱2や梁3を形成しても良い。更に、この例では、外壁パネル10は、建物1の階高に対応する長さを縦方向に有し、横方向には、建物1の外壁面を水平方向に複数に区分した長さを有している。そのため、複数の外壁パネル10,10…は、各階につき鉛直方向に一段で設けられ、そして、当該一段には、複数の外壁パネル10,10…が水平方向に並んで取り付けられるが、何等これに限らない。
【0031】
図3は、外壁パネル10の概略斜視図である。
同
図3に示すように、外壁パネル10は、上述に基づき、建物1の階高に対応した縦寸と、所定の横寸とを有した矩形パネルとなっている。そして、この例では、建物1が大型物流施設の建屋であることから、同パネル10は、例えば縦寸5〜7m×横寸5〜7mの大判パネルとされており、所謂ユニット化工法により形成される。すなわち、外壁パネル10は、下地材とも言われるフレーム11と、フレーム11に固定された複数の個別パネル材12,12…と、を有する。フレーム11は、角パイプ等の棒状の鋼材を、外壁パネル10の輪郭をなす四辺に対応させて矩形に組んでなる矩形枠部11Fと、この矩形枠部11Fの一対の横材11F1,11F1に縦方向に掛け渡された複数の棒状の補強材11R,11R…と、を有する。なお、補強材11R、11R…は無くても良いが、場合によっては、別途横方向に沿った複数の別の補強材(不図示)を矩形枠部11Fの一対の縦材11F2,11F2に掛け渡しても良い。一方、各個別パネル材12,12…は、横方向に長い帯状の板部材であり、同個別パネル材12,12…が、縦方向に隙間無く並んで配置され、これにより矩形枠部11Fの全面を覆いつつ当該矩形枠部11Fにビスなどで固定されている。この例では、かかる個別パネル材12は、ステンレス鋼板等の一対の金属板同士の間にスタイロフォーム等の断熱板が介挿されてなるサンドイッチ構造体とされているが、何等これに限らない。
【0032】
かかる外壁パネル10の製作は、建物1内に設けられた製作ヤードYmでなされる。
図4は、製作ヤードYmを有する階の概略側面図である。
この例では、同製作ヤードYmは、建物1の二階の一角に設けられているが、何等これに限らない。すなわち、二階よりも上層階の三階や四階に設けても良いし、或いは一階に設けても良い。但し、通常一階は、資材置き場や現地事務所に使用されたり、重機等の工事車両が通行したりするため、好ましくは、二階以上に設けると良い。なお、このことは、製作ヤードYmと同じ階に設けられる後述の立て起こしヤードYsについても言える。
【0033】
製作ヤードYmでは、外壁パネル10の縦方向及び横方向がそれぞれ水平方向を向いた横置き姿勢で、同パネル10を製作する。また、同パネル10は、製作ヤードYmの床部4の上面の複数の位置に配置された複数の台車20,20…の上で製作される。すなわち、各台車20は、それぞれ上面に載置面20aを有し、この載置面20a上で順次外壁パネル10が組み立てられていく。そのため、
図4の如き同パネル10の完成時には、同パネル10は複数の台車20,20…の載置面20a,20a…に掛け渡された状態となっている。よって、これら台車20,20…を一斉に移動すれば、外壁パネル10を、同じ二階に設けられた立て起こしヤードYsへと速やかに運搬可能である。
【0034】
立て起こしヤードYsでは、同
図4にて二点鎖線の軌跡図で示すように、外壁パネル10の縦方向が鉛直方向に沿うように同パネル10を立て起こす。すなわち、同
図4にて実線で示すように、台車20,20…に乗って同ヤードYsに運ばれた外壁パネル10は、縦方向が水平方向の前後に沿い、また、横方向が水平方向の左右(
図4の紙面を貫通する方向)に沿うような横置き姿勢で横たわっている。そのため、同パネル10を建物1の外壁として躯体1kに取り付ける前に、同パネル10の縦方向が水平な前後方向に沿った横置き姿勢から鉛直方向に沿った鉛直姿勢へと、同パネル10を立て起こす必要がある。そして、かかる立て起こし処理には、同ヤードYsの立て起こし装置30が供される。
【0035】
図5A乃至
図5Cは、立て起こし装置30の説明図である。
図5Aは、同装置30の概略斜視図である。また、
図5C及び
図5Dは、それぞれ、
図5B中のC−C矢視の概略平面図及び同D−D矢視の概略平面図である。なお、
図5A及び
図5C中には、それぞれ、立て起こされた外壁パネル10を二点鎖線で示しているともに、
図5B中には、立て起こされる過程で外壁パネル10が描く軌跡を二点鎖線で併記している。
【0036】
図5A乃至
図5Cに示すように、立て起こし装置30は、立て起こしヤードYsの待機位置PWで横置き姿勢となっている外壁パネル10を前後方向の前部10aで吊り上げて前後方向に搬送可能な前部吊り上げ搬送ユニット31と、同パネル10を前後方向の後部10bで吊り上げて前後方向に搬送可能な後部吊り上げ搬送ユニット35と、を備えている。
【0037】
前部吊り上げ搬送ユニット31は、待機位置PWに位置する外壁パネル10の左右方向の両側の各位置にそれぞれ一つずつ設けられた一対のテルハ31t,31tと、一対のテルハ31t,31tに連結されて外壁パネル10の前部10aに下方から当接可能な左右方向に長尺な吊りビーム31bと、を有する。
各テルハ31t,31tは、それぞれ、二階の天井下の梁(不図示)などに固定支持されて前後方向に沿って延びたレール31trと、当該レール31trにより前後方向に案内されて同方向に往復移動可能な第1吊り機構としての電気チェーンブロック31tcと、を有している。そして、
図5Aに示すように、各電気チェーンブロック31tc,31tcから巻き上げ下げ可能に垂下された第1索体としての各チェーン31tcc,31tccは、それぞれ、吊りビーム31bの左右方向の各端部31be,31beに所定の連結構造(
図6A)を介して連結されている。また、各電気チェーンブロック31tc,31tcは、それぞれチェーン31tcc,31tccの巻き上げ下げ用の電動モータ(不図示)を有しており、これら電動モータ同士は、不図示の操作盤の昇降ボタンの操作により、互いに連動して同じ動作をする。よって、昇降ボタンの操作により、吊りビーム31bを鉛直方向に並進的に昇降可能である。また、各電気チェーンブロック31tc,31tcは、それぞれ前後方向の移動用に電動モータ(不図示)を有している。そして、これら電動モータ同士も、操作盤の前進又は後退ボタンの操作によって、互いに連動して同じ動作をする。よって、前進又は後退ボタンの操作により、吊りビーム31bを前後方向に並進的に移動可能である。
【0038】
一方、後部吊り上げ搬送ユニット35も、待機位置PWに位置する外壁パネル10の左右方向の両側の各位置にそれぞれ一つずつ設けられた一対のテルハ35t,35tと、一対のテルハ35t,35tに連結されて外壁パネル10の後部10bに下方から当接可能な左右方向に長尺な吊りビーム35bと、を有している。
そして、上述と同様に、各テルハ35t,35tは、それぞれ、二階の天井下の梁(不図示)などに固定支持されて前後方向に沿って延びたレール35trと、当該レール35trにより前後方向に案内されて同方向に往復移動可能な第2吊り機構としての電気チェーンブロック35tcと、を有する。また、各電気チェーンブロック35tc,35tcから巻き上げ下げ可能に垂下された第2索体としての各チェーン35tcc,35tccは、それぞれ、吊りビーム35bの左右方向の各端部35be,35beに所定の連結構造(
図6A)を介して連結されている。そして、各電気チェーンブロック35tc,35tcは、それぞれチェーン35tcc,35tccの巻き上げ下げ用の電動モータ(不図示)を有しており、これら電動モータ同士は、不図示の操作盤の昇降ボタンの操作により、互いに連動して同じ動作をする。よって、昇降ボタンの操作により、吊りビーム35bを鉛直方向に並進的に昇降可能である。また、各電気チェーンブロック35tcは、それぞれ前後方向の移動用に電動モータ(不図示)を有している。そして、これら電動モータ同士も、操作盤の前進又は後退ボタンの操作によって、互いに連動して同じ動作をする。よって、前進又は後退ボタンの操作により、吊りビーム35bを前後方向に並進的に移動可能である。
【0039】
更に、各吊りビーム31b,35bは、待機位置PWの外壁パネル10の前部10aの下方及び後部10bの下方をそれぞれ左右方向に横断して配置されているとともに、同パネル10は、各吊りビーム31b,35b側に設けられた後述の仮固定構造37によって各吊りビーム31b,35bに移動不能に仮固定される。
【0040】
よって、前述の操作盤で前部吊り上げ搬送ユニット31及び後部吊り上げ搬送ユニット35を操作すれば、各吊りビーム31b,35bに仮固定された外壁パネル10を鉛直方向に並進的に昇降させたり前後方向に並進的に移動させたりできるのは言うまでも無く、更には、同パネル10の姿勢変更も可能である。例えば、
図5B中の外壁パネル10の軌跡図に示すように、水平方向に横置き姿勢の外壁パネル10を鉛直方向に沿うように立て起こすこともできる。
【0041】
より詳しくは、同
図5Bに示すように、外壁パネル10の前部10aと後部10bとの間の前後方向の距離LHが縮小するように、前部吊り上げ搬送ユニット31及び後部吊り上げ搬送ユニット35のうちの少なくとも一方のユニット31(35)の各電気チェーンフロック31tc,31tc(35tc,35tc)を前後方向に移動するとともに、前部10aと後部10bとの間の鉛直方向の距離LVが拡大するように、前部吊り上げ搬送ユニット31及び後部吊り上げ搬送ユニット35のうちの少なくとも一方のユニット31(35)の各チェーン31tcc,31tcc(35tcc,35tcc)の長さを調整すれば、外壁パネル10を鉛直方向に沿うように立て起こすことができる。
【0042】
また、この立て起こし装置30によれば、
図5Aに示すように外壁パネル10を前部10aと後部10bとで吊ることになる。よって、外壁パネル10を立て起こす際に前部10a及び後部10bの前後方向の位置を調整したり、各チェーン31tcc,31tcc, 35tcc,35tccを巻き上げ下げすることで各チェーン31tcc,31tcc, 35tcc,35tccの長さを適宜調整すれば、外壁パネル10に無理な負荷がかからないように同パネル10の姿勢を調整することができる。そして、これにより、同パネル10の変形を抑制することができる。更に、外壁パネル10を前部10aと後部10bとで吊っているので、これら前部10a及び後部10bの振れを抑制できて、結果、同パネル10の姿勢の安定化を図ることもできる。
【0043】
更に、この例では、
図5Aに示すように、前部吊り上げ搬送ユニット31のレール31trと後部吊り上げ搬送ユニット35のレール35trとは、互いに別々に設けられていて、これにより、同一のレールを二つの電気チェーンブロック31tc,35tcが移動しないようになっている。つまり、前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcの移動経路と、後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tcの移動経路とは、互いに左右方向のずれた位置に設定されている。よって、前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcと後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tcとは、互いに干渉することなく、対応する専用の移動経路を前後方向に自在に移動可能であり、その結果、外壁パネル10の立て起こしを円滑に行うことができる。
また、このように前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcの移動経路と後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tcの移動経路とが互いに左右方向にずれていれば、前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcと後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tcとを前後方向に関して互いに同位置に位置させることができる。そして、これにより、外壁パネル10の前部10aと後部10bとの間の前後方向の距離LHを零にすることができて、その結果、外壁パネル10を、ほぼ完全な鉛直姿勢にすることができる。
【0044】
更に、この例では、
図5Aに二点鎖線で示すように完全に立て起こされた鉛直姿勢においては、外壁パネル10の前部10aの方が後部10bよりも鉛直方向の下方に位置している。すなわち、前部10aが、請求項に記載の「下方部分」に相当し、後部10bが、請求項に記載の「上方部分」に相当する。また、この立て起こし装置30では、下方部分を吊る前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tc,31tcの方が、上方部分を吊る後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tc,35tcよりも左右方向の外側に位置している。そして、これに伴って、前部吊り上げ搬送ユニット31の吊りビーム31bの方が、後部吊り上げ搬送ユニット35の吊りビーム35bよりも長くなっていて、つまり、前部吊り上げ搬送ユニット31の吊りビーム31bは、後部吊り上げ搬送ユニット35の吊りビーム35bの左右方向の両側に飛び出している。よって、下方部分たる前部10aを吊る前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcのチェーン31tccに、上方部分たる後部10bを吊る後部吊り上げ搬送ユニット35の吊りビーム35bが干渉することが有効に回避されている。
【0045】
また、この例では、
図5B及び
図5Cに示すように、立て起こしヤードYsは、建物1の外側に通じる開口部1kpを有している。すなわち、この建物1の二階には未だ外壁が設けられていないため、建物1の外形に相当する平面位置には柱2、梁3、及び床部4以外に遮るものが無く、これら柱2、梁3、及び床部4により上記の開口部1kpが区画形成されている。そして、この例では、かかる開口部1kpは、前述の外壁パネル10の待機位置PWよりも前後方向の前方に位置しているが、ここで、前部吊り上げ搬送ユニット31及び後部吊り上げ搬送ユニット35の合計四つの何れのテルハ31t,31t,35t,35tの各レール31tr,31tr,35tr,35trも、上記開口部1kpよりも前方に飛び出していて、これにより、各電気チェーンブロック31tc,31tc,35tc,35tcの移動経路の前進限Pf31,Pf31,Pf35,Pf35は、開口部1kpよりも前方に位置している。
よって、各電気チェーンブロック31tc,35tcをそれぞれ移動経路の前進限Pf31,Pf35へと移動することにより、各チェーンブロック31tc,35tcで吊った外壁パネル10を、上記開口部1kpを通して建物1の外側に出すことができる。そして、これにより、当該外壁パネル10を建物1の外側の取り付け対象位置に速やかに運搬することができる。
【0046】
図6A及び
図6Bは、吊りビーム31b(35b)の各端部31be(35be)に、対応するチェーン31tcc(35tcc)を連結するための連結構造の概略斜視図である。なお、吊りビーム31bの連結構造と吊りビーム35bの連結構造とは、互いに類似しているので、ここでは、前者の吊りビーム31bの連結構造についてのみ説明し、後者の吊りビーム35bの連結構造については説明しない。
【0047】
連結構造は、吊りビーム31bの端部31beとチェーン31tccとを鉛直面内に相対回転可能に連結している。そして、これにより、立て起こし装置30が、外壁パネル30を立て起こす際に、吊りビーム31bの端部31beやチェーン31tccに無理な負荷が作用しないようになっている。詳しくは次の通りである。この例では、連結構造は、吊りビーム31bの小口端面31beeに溶接等で一体に固定された鋼板等の板部材36と、同板部材36に90°の角度範囲で円弧状に形成された長孔36hと、チェーン31tccの先端に設けられたフック31tcf及びシャックル31tcsと、を有し、そして、円弧状の長孔36hにシャックル31tcsが係合することで、吊りビーム31bの端部31beとチェーン31tccとが連結されている。
そして、かかる連結構造によれば、
図6Aの横向き姿勢から
図6Bの鉛直姿勢へと外壁パネル10が立て起こされる際には、円弧状の長孔36hの一端から他端へとシャックル31tcsが速やかに移動して、これにより、吊りビーム31bの端部31be及びチェーン31tccの両者へと無理な負荷が作用しないようになっている。但し、連結構造は、何等これに限るものではない。すなわち、吊りビーム31bの端部31beとチェーン31tccとを、鉛直面内に相対回転可能に連結可能であれば、他の連結構造を採用しても良く、例えば、ユニバーサルジョイントや球座などを用いて良い。
【0048】
以上、立て起こし装置30について説明したが、ここで、
図5A乃至
図5Dを参照しつつ、同装置30による外壁パネル10の立て起こし処理について詳しく説明する。
先ず、立て起こしヤードYsの立て起こし装置30の電源を入れるなどして、同装置30を使用可能な状態に準備する(準備工程)。
【0049】
次に、
図5Bに示すように、立て起こしヤードYsの待機位置PWまで台車20,20…で外壁パネル10を運搬する。なお、このときには、外壁パネル10は、同パネル10の縦方向が水平方向の前後を向き、同パネル10の横方向が水平方向の左右を向いた横置き姿勢にある。また、同パネル10が台車20,20…に載置された状態において台車20,20…が無い平面位置では、外壁パネル10と立て起こしヤードYsの床部4との間には隙間GYsが存在している。よって、当該隙間GYsに左右方向の側方から各吊りビーム31b,35bを差し込む。そして、
図5Dに示すように、各吊りビーム31b,35bの左右方向の各端部31be,31be,35be,35beが外壁パネル10から左右方向の外側に突出した状態に同吊りビーム31b,35bを位置決めしたら、当該位置決め状態で外壁パネル10を各吊りビーム31b,35bに仮固定する。
【0050】
仮固定は、各吊りビーム31b,35b側に設けられた仮固定構造37を用いてなされる。仮固定構造37の一例としては、外壁パネル10の矩形枠部11Fの一対の縦材11F2,11F2及び各補強材11R,11R…に対応する左右方向の各位置にそれぞれ設けられた左右一対の鉛直プレート37p,37pと、各鉛直プレート37p,37pの貫通孔(不図示)に左右方向に挿通可能な通しボルト37bと、を有した構造が挙げられる。そして、この仮固定構造37によれば、一対の鉛直プレート37p,37p同士の間に外壁パネル10の上記縦材11F2又は補強材11Rを収めた状態で、縦材11F2及び補強材11Rの各貫通孔(不図示)と一対の鉛直プレート37p,37pの各貫通孔とに通しボルト37bを左右方向に串刺し状に通してから同ボルト37bにナット(不図示)を螺着することで、当該仮固定がなされる。
【0051】
次に、
図5Dに示すように、前部吊り上げ搬送ユニット31の各テルハ31t,31tの各チェーン31tcc,31tccを、それぞれ前側の吊りビーム31bの左右方向の各端部31be,31beに連結し、同様に、後部吊り上げ搬送ユニット35の各テルハ35t,35tの各チェーン35tcc,35tccを、それぞれ後側の吊りビーム35bの左右方向の各端部35be,35beに連結する。そして、これにより、立て起こし装置30は、
図5Bに実線で示すように、外壁パネル10を四点で吊り上げ可能な状態となる(吊り上げ準備工程)。
【0052】
そうしたら、操作盤の各昇降ボタンを操作することにより、前部吊り上げ搬送ユニット31の各チェーン31tcc,31tcc及び後部吊り上げ搬送ユニット35の各チェーン35tcc,35tccを互いに概ね同量だけ巻き上げて、これにより、同
図5Bに示すように、概ね横置き姿勢のまま外壁パネル10を鉛直方向に並進的に吊り上げる。
【0053】
そして、次に操作盤の各前進ボタンを操作することにより、この吊り上げた高さを維持しながら、前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tc,31tc及び後部吊り上げ搬送ユニット35の各電気チェーンブロック35tc,35tcを互いに同じ移動速度(m/分)で前方へ移動して、これにより、横置き姿勢のまま外壁パネル10を並進的に前方へ移動する。そして、前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tcが建物1の開口部1kpよりも前方の位置に到達し、これにより、前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tc,31tcが建物1の外側に出たら、この出た状態を維持しながら、外壁パネル10を鉛直に立て起こしていく。
すなわち、同
図5Bに示すように、外壁パネル10の前部10aと後部10bとの間の前後方向の距離LHが縮小するように、主に後部吊り上げ搬送ユニット35の各電気チェーンブロック35tc,35tcを前方に移動するとともに、この前方への移動に連動させて、同パネル10の前部10aと後部10bとの間の鉛直方向の距離LVが拡大するように、主に前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tc,31tcのチェーン31tcc,31tccを巻き下げる。そして、これにより、横置き姿勢の外壁パネル10が徐々に鉛直に立て起こされていく。
【0054】
そして、最終的に、
図5Aに示すように、後部吊り上げ搬送ユニット35の各電気チェーンブロック35tc,35tcが、前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tc,31tcの位置まで前進したら、外壁パネル10は概ね完全に立て起こされた鉛直姿勢となる(立て起こし工程)。
【0055】
なお、かかる立て起こしの最中には、当該立て起こしに大きく影響しない範囲であれば、前部吊り上げ搬送ユニット31の各電気チェーンブロック31tc,31tcの移動を完全に停止せずに、前後方向に多少移動しても良い。また、後部吊り上げ搬送ユニット35のチェーン35tcc,35tccの巻き上げ下げについては、場合によっては、巻き下げても良い。つまり、立て起こしの最中に、外壁パネル10の後部10bを下降させても良く、これについては後述する。
【0056】
また、この例では、
図4を参照して既述のように立て起こし装置30を地上二階に設置している。よって、同装置30の設置階の下方には一階が位置していて、これにより、当該設置階における建物1の外側の下方には、外壁パネル10の立て起こしに使用可能な空間SP1Fが十分な大きさで存在している。そのため、同設置階よりも下方に位置する空間SP1Fを外壁パネル10の前部10aが下降するようにしながら、外壁パネル10を立て起こすことができる。そして、このようにすれば、上記地上二階の天井等に外壁パネル10の後部10bが干渉すること有効に回避しつつ同パネル10を速やかに立て起こすことができる。また、このようにすれば、上記設置階たる地上二階の天井高さが、立て起こされた姿勢の外壁パネル10の鉛直方向の寸法より小さい場合でも、上記設置階の天井等との干渉無く速やかに同パネル10を立て起こすことができる。
【0057】
ちなみに、この干渉を確実に防ぐには、
図7中に二点鎖線で示すように、外壁パネル10の前部10aの下降に伴って後部10bも下降させると良い。なお、後部10bの下降は、後部吊り上げ搬送ユニット35の各チェーン35tcc,35tccを巻き下げることにより実現される。
【0058】
そして、このようにして外壁パネル10の立て起こしが終了したら、この立て起こされた外壁パネル10を、立て起こし装置30から、建物1の外側に配された不図示のクレーンに吊り替える(吊り替え工程)。この例では、同クレーンとして、自走可能なトラッククレーンが使用されているが、何等これに限らない。また、吊り替えは、例えば次のようにしてなされる。
先ず、
図8に示すように、外壁パネル10の矩形枠部11Fの上面における複数の位置にアイボルト55を植設し、同アイボルト55に、クレーンのブームから垂下するケーブル51cを連結して同クレーンに外壁パネル10の自重を預ける。
【0059】
次に、立て起こし装置30の各吊りビーム31b,35bと外壁パネル10との仮固定を解除する。すなわち、各吊りビーム31b,35bが具備する既述の仮固定構造37(
図8では不図示であり、適宜
図5Dを参照)の通しボルト37bを、それぞれ外壁パネル10の縦材11F2の貫通孔及び補強材11Rの貫通孔から抜き取り、これにより、立て起こし装置30の各吊りビーム31b,35bと外壁パネル10とを縁切りする。
【0060】
そうしたら、クレーンに吊り替えられた外壁パネル10は、縦方向を鉛直方向に沿わせた姿勢で、クレーンの自走により建物1の外側の各取り付け対象位置へと運搬されて(運搬工程)、同位置で、建物1の躯体1kをなす梁3又は柱2に適宜な固定方法により固定される(取り付け工程)。
図9は、この固定方法の一例を側方視で示す概略断面図である。この例では、梁3から建物1の外側へ突出して複数のアングル材等の支持用鋼材3spが、チャンネル材等の中継鋼材3mpを介して設けられている。そして、この支持用鋼材3spに、外壁パネル10の矩形枠部11Fの上側の横材11F1を載せて同パネル10の自重を梁3に支持させるとともに、同横材11F1と支持用鋼材3spとを溶接やボルト止めなどで固定されている。但し、固定方法は、何等これに限らない。
【0061】
ちなみに、取り付け対象位置が、前述の開口部1kpの真下の階(
図4の例では、一階)である場合には、上記の屋外のクレーンを用いずに、当該真下の階に外壁パネル10を取り付けることができる。すなわち、立て起こし装置30で立て起されて開口部1kpの外側に位置する外壁パネル10を、そのまま同装置30の各チェーン31tcc,31tcc,35tcc,35tccの巻き下げ操作で下降させれば、同パネル10を上記開口部1kpの真下の階たる一階に移動することができる。よって、このような位置であれば、上記クレーンを用いずに外壁パネル10を取り付けることができる。
【0062】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0063】
上述の実施形態では、
図5Aに示すように、各レール31tr,35trによって電気チェーンブロック31tc,35tcを前後方向に往復移動させていたが、何等これに限らない。例えば、電気チェーンブロック31tc,35tcに代えて電気ホイスト(不図示)を前後方向に往復移動させても良い。なお、電気ホイストは、電動モータを駆動源とするウインチを有し、そして、同ウインチにより、チェーン31tcc,35tccに代えてワイヤー(第1索体又は第2索体に相当)を巻き上げ下げする。また、電気ホイストは、前後方向の移動用に別途電動モータも有している。そして、これらの電動モータを駆動源として、巻き上げ下げや前後方向の移動を行うが、これについては、前述の電気チェーンブロック31tc,35tcの場合と同じである。
【0064】
上述の実施形態では、建物1の外側に取り付けるべき所定部材の一例として外壁パネル10を例示したが、何等これに限らない。例えば、外壁パネル10以外の外装材でも良いし、或いは、建物1の外側に取り付けられるダクト等の設備材であっても良い。
【0065】
上述の実施形態では、
図5Bに示すように、外壁パネル10の前部10aが後部10bよりも下に位置するようにして同パネル10を立て起こしていたが、何等これに限らない。例えば、逆にしてもよい。すなわち、外壁パネル10の前部10aが後部10bよりも上に位置するようにして同パネル10を立て起こしても良い。なお、この立て起こしの手順については、前述したことから、当業者であれば自明と考えられるので、これについては説明しない。
【0066】
上述の実施形態では、
図5Aに示すように、前部吊り上げ搬送ユニット31は、第1吊り機構としての電気チェーンブロック31tc,31tcを二つ有し、同様に、後部吊り上げ搬送ユニット35も、第2吊り機構としての電気チェーンブロック35tc,35tcを二つ有していたが、何等これに限らない。すなわち、外壁パネル10の前部10aと後部10bとを互いに別の電気チェーンブロック31tcで吊ることが可能であれば、前部吊り上げ搬送ユニット31の電気チェーンブロック31tcは一つでも良く、同様に、後部吊り上げ搬送ユニット35の電気チェーンブロック35tcは一つでも良い。
更に言えば、前部吊り上げ搬送ユニット31と後部吊り上げ搬送ユニット35との間に、更に類似構成の吊り上げ搬送ユニットを追設して、当該吊り下げ搬送ユニットに外壁パネル10の前後方向の中央部を吊らせるようにし、これにより、外壁パネル10を6点支持しても良い。
【0067】
上述の実施形態では、
図5Bに示すように、立て起こし工程の前に、鉛直方向に並進的に外壁パネル10を吊り上げるとともに、同パネル10を前方へ水平移動していたが、何等これに限らない。例えば、鉛直方向に並進的に同パネル10を吊り上げずに、台車20上において外壁パネル10を立て起こして、しかる後に、同パネル10を前方へ水平移動しても良い。また、場合によっては、立て起こしを行いながら、同パネル10を前方へ水平移動して同パネル120を建物10の外側に出しても良い。
更には、外壁パネル10の組み立てを組み立てヤードYmで行わずに、立て起こしヤードYsで行っても良い。そして、その場合には、そのまま、同立て起こしヤードYsにおいて、立て起こし装置30bで外壁パネル10を立て起こすことができて、これにより、台車20での運搬作業を省略可能となる。