特許第6446960号(P6446960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6446960
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】カップ部付き衣類
(51)【国際特許分類】
   A41C 3/12 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   A41C3/12 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-201394(P2014-201394)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69763(P2016-69763A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】306033379
【氏名又は名称】株式会社ワコール
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 勝
(72)【発明者】
【氏名】立入 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】勝原 洋二
(72)【発明者】
【氏名】石井 圭子
【審査官】 姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−218206(JP,A)
【文献】 実開平03−074606(JP,U)
【文献】 米国特許第06102774(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C 3/12
A41C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側布及び肌側布によって構成されるカップ部と、
前記カップ部の下縁側を支持する土台部と、
前記土台部の脇側から延びるバック部と、
前記表側布と前記バック部とを連結するストラップ部と、を備え、
前記肌側布は、保形性及び弾力性を有する素材によって形成され、
前記土台部は、前記カップ部の下縁形状に対応して湾曲する上辺部を有し、
前記上辺部における前中心側の縁部及び脇側の縁部の少なくとも一方には、前記肌側布の下縁部よりも張り出す張出部分が設けられ、
前記表側布の下縁部及び前記肌側布の下縁部が前記上辺部に縫着される一方で、前記肌側布の上縁部が前記表側布に対して非縫着となっているカップ部付き衣類。
【請求項2】
前記張出部分は、前記上辺部における前記前中心側の縁部及び前記脇側の縁部の双方に設けられている請求項1記載のカップ部付き衣類。
【請求項3】
前記肌側布の上縁部の脇側部分と前記表側布の脇縁部とが、連結部材によって連結されている請求項1又は2記載のカップ部付き衣類。
【請求項4】
前記肌側布の上縁部よりも前記表側布の上縁部が張り出している請求項1〜3のいずれか一項のカップ部付き衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ部付き衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラジャーに代表されるカップ部付き衣類は、例えばバストを覆うためのカップ部、カップ部の下縁部を支持する土台部、土台部から背面側に延びるバック部、及びカップ部に連結されるストラップ部などを備えて構成されている。このようなカップ部付き衣類の主たる機能の一つとしては、バストの造形性が挙げられる。例えば特許文献1に記載のブラジャーでは、カップ本体と、カップ本体の表面を覆うカバーとによってカップ部を構成し、厚手の生地片同士を縦方向の縫い目によって縫い合わせてカップ形状を形成すると共に、カバーの下側縁をカップ本体の下縁に縫着している。
【0003】
一方で、カップ部付き衣類の着け心地に対するニーズも非常に高いものとなっている。出願人が16歳〜64歳までの消費者500人に対して使用頻度の高いブラジャーについて調査を行ったところ、着け心地の良さを重視すると回答した消費者の割合が6割近くに達するという結果が得られている。体へのフィット感や快適性など、着け心地の良さと関連した項目を重視すると回答した消費者も多く、バストの造形性のみならず、着け心地が重視されている傾向が読み取れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−220705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7は、カップ部付き衣類の既存商品の着用感の強さと造形性の関係を示す図である。同図では、横軸を着用感の強さ、縦軸を造形性(カップ圧)とし、既存商品A〜Iにおける着用感の強さと造形性の関係をプロットしたものである。この図7に示すように、既存商品A〜Iでは、着用感の強さと造形性とは概ね比例関係にある。すなわち、造形性の高いカップ部付き衣類は着用感が強く、造形性の低いカップ部付き衣類は着用感が弱い、という傾向がある。バストの造形性と着け心地とを両立させるには、図7におけるX領域に属するカップ部付き衣類を開発していく必要がある。
【0006】
バストの造形性と着け心地とを両立させるため、出願人は、鋭意研究を行う過程で、カップ部付き衣類の既存商品の着圧分析を実施した。この着圧分析では、図8(a)に示すように、ダミー人形のバスト部分において、バージスライン中心部分(点A)、バスト下部(点B〜点D)、バスト中央部の両脇(点E,点F)、バスト上部(点G,点H)の計8点につき、着圧の測定を行った。
【0007】
図8(b)は、着圧分析の結果を示す図である。同図に示すように、バスト上部(点G,点H)の着圧の平均が約0.35kPaであったのに対し、バスト下部(点B〜点D)の着圧の平均は約1.3kPaとなっている。この結果から、カップ部付き衣類の下カップ部からバスト下部にかかる着圧は、上カップ部からバスト上部にかかる着圧の4倍近くに達していることが分かる。そこで、出願人は、下カップ部からバスト下部にかかる着圧を抑え、バストにかかる着圧の総量を効果的に低減することができれば、バストの造形性と着け心地とを両立できるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、バストの造形性と着け心地とを両立できるカップ部付き衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決のため、本発明の一側面に係るカップ部付き衣類は、表側布及び肌側布によって構成されるカップ部と、カップ部の下縁側を支持する土台部と、土台部の脇側から延びるバック部と、表側布とバック部とを連結するストラップ部と、を備え、土台部は、カップ部の下縁形状に対応して湾曲する上辺部を有し、上辺部における前中心側の縁部及び脇側の縁部の少なくとも一方には、肌側布の下縁部よりも張り出す張出部分が設けられ、表側布の下縁部及び肌側布の下縁部が上辺部に縫着される一方で、肌側布の上縁部が表側布に対して非縫着となっている。
【0010】
このカップ部付き衣類では、着用状態において、ストラップ部からかかる引っ張り力が表側布の下縁部側から肌側布に伝わり、肌側布にはストラップ部からの引っ張り力が直接かからないため、肌側布が着用者のバストを過不足のない力で持ち上げることによってバストの造形がなされる。このとき、カップ部付き衣類では、張出部分の形成により、バストの造形に必要な肌側布の全体の面積を確保しつつ、カップ部の下縁側における肌側布の面積が抑えられている。これにより、着用者のバスト下部にかかる着圧が抑えられ、着用者のバストにかかる着圧の総量が効果的に低減されるので、着け心地が良好なものとなる。また、カップ部付き衣類では、肌側布の上縁部が表側布に対して非縫着となっており、着用時においてストラップ部からの引っ張り力が表側布に作用した場合に、表側布によって肌側布の全体が柔らかく包まれる。これにより、肌側布が着用者のバストに喰い込むことを抑制しつつ、肌側布によるバストの造形性が維持される。また、着用者がバストを見たときに視認可能なバストの面積が大きくなるため、視覚的な造形効果も奏される。
【0011】
また、張出部分は、上辺部における前中心側の縁部及び脇側の縁部の双方に設けられていてもよい。この場合、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧をより確実に抑えられるので、着け心地が一層良好なものとなる。
【0012】
また、肌側布の上縁部の脇側部分と表側布の脇縁部とが、連結部材によって連結されていてもよい。この場合、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧を抑えつつ、バストの安定性を確保できる。また、連結部材自体に大きな張力が作用しないように連結部材を用いることで、表側布に対する肌側布の非縫着状態が阻害されることもない。
【0013】
また、肌側布の上縁部よりも表側布の上縁部が張り出していてもよい。この場合、ストラップ部からの引っ張り力が作用したときに、表側布によって肌側布の全体が一層柔らかに包まれる。これにより、肌側布がバストに喰い込むことを抑制しつつ、肌側布によるバストの造形性がより効果的に維持される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るカップ部付き衣類によれば、造形性と着け心地とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るカップ部付き衣類の一実施形態を示す正面図である。
図2図1に示したカップ部付き衣類の要部を拡大して示す正面図である。
図3図1に示したカップ部付き衣類の要部を拡大して示す背面図である。
図4図1に示したカップ部付き衣類のバストの造形性を示す図であり、(a)は比較例、(b)は実施例である。
図5図1に示したカップ部付き衣類によって造形されたバストの状態を示す図である。
図6】本発明に係るカップ部付き衣類の変形例の要部を拡大して示す背面図である。
図7】カップ部付き衣類の既存商品における着用感の強さと造形性との関係を示す図である。
図8】カップ部付き衣類の既存商品における着圧分析を示す図であり、(a)は着圧の測定位置、(b)は分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るカップ部付き衣類の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るカップ部付き衣類の一実施形態を示す正面図である。同図に示すように、カップ部付き衣類1は、例えば女性用のブラジャーとして構成されている。このカップ部付き衣類1は、左右一対のカップ部2と、カップ部2の下縁側を支持する土台部3と、土台部3の両脇からそれぞれ延びて背面側に至るバック部4と、カップ部2とバック部4とをつなぐストラップ部5とによって構成されている。
【0018】
カップ部2は、人体のバストの形状に対応させた椀形状となっている。左右のカップ部2は、土台部3を介して前中心A側で互いに結合されている。カップ部2の表側には、例えば合成繊維や天然繊維の織物・編物といった素材からなる表側布11が配置されている。表側布11の素材としては、例えばレース生地や一定の厚さのダブルラッセルなどが挙げられる。カップ部2の肌側には、不織布や発泡ポリウレタンといった一定の保形性及び弾力性を有する素材によって形成された肌側布12が配置されている。
【0019】
カップ部2の上縁部2aは、例えばバストの上部に沿うように略中央部分で上向きに凸となるように湾曲している。また、カップ部2の脇縁部2bは、腕の動きを阻害することが無いように中心側に向かって緩やかな凹状に湾曲しており、カップ部2の下縁部2cは、バストのバージスラインに合うように下向きに凸となるように湾曲している。
【0020】
また、カップ部2の下縁部2cには、ワイヤー部6が設けられている。ワイヤー部6は、例えば芯材となるワイヤー部材と、ワイヤー部材を封入するワイヤーループとによって構成されている。ワイヤー部材には、金属やプラスチック等が用いられ、ワイヤーループには、織物や編物などの柔らかい素材が用いられる。
【0021】
土台部3は、例えばベア天竺等の伸縮性(特に左右方向の伸縮性)を有する織物や編物等の素材で形成された表布にマーキゼット等の非(難)伸縮性の素材を裏打することにより、全体として非(難)伸縮性を有している。土台部3の上辺部3aは、カップ部2の下縁部2cに沿うように凹状に湾曲しており、カップ部2の下縁部2cに縫着されている。土台部3の下辺部3bには、伸縮性及び復元性を高める目的で、長手方向に特に伸縮性の高い素材からなる始末部を設けてもよい。始末部に用いる素材としては、例えばストレッチテープなどが挙げられる。
【0022】
バック部4は、例えばパワーネットなどの伸縮性を有する素材によって形成されている。バック部4の基端側は、土台部3の脇部から連続し、背面側に向かって帯状に延びている。バック部4における背側の端部には、ホック7が設けられている。このホック7により、左右のバック部4が互いに係脱自在となっている。
【0023】
ストラップ部5は、例えば織物のような布地を紐状に成形、縫製して形成されている。ストラップ部5に用いられる織物等の素材は、長手方向に伸縮性を有していることが好適である。ストラップ部5は、カップ部2とバック部4との間に掛け渡され、いわゆる肩紐を構成している。ストラップ部5の一端は、カップ部2の脇側上縁に連結され、ストラップ部5の他端は、バック部4の上縁部に連結されている。
【0024】
続いて、カップ部2の構成について更に詳細に説明する。
【0025】
図2は、カップ部付き衣類の要部を拡大して示す正面図である。また、図3は、その背面図である。図2及び図3に示すように、カップ部2は、上述したように、表側布11と、肌側布12とによって構成されている。表側布11は、図2に示すように、カップ部2自体の形状と同形状をなしている。すなわち、表側布11の上縁部11aは、上向きに凸となるように湾曲しており、表側布11の脇縁部11bは、カップ部2の中心側に向かって緩やかな凹状に湾曲している。また、表側布11の下縁部11cは、土台部3の上辺部3aと同等の長さを有し、上辺部3aにおける前中心A側の縁部13aから脇側の縁部13bにかけて下向きに凸となるように湾曲している。
【0026】
肌側布12は、図3に示すように、表側布11に対して一回り小さく形成されている。肌側布12の上縁部12aは、着用状態においてバストトップを覆うことができる程度に表側布11の上縁部11aよりも下方に位置すると共に、上向きに凸となるように湾曲している。また、肌側布12の下縁部12bは、表側布11の下縁部11cに対応する形状で下向きに凸となるように湾曲する一方で、土台部3の上辺部3a及び表側布11の下縁部11cよりも短い長さとなっている。下縁部12bにおける前中心A側の縁部14aは、上辺部3aにおける前中心A側の縁部13aよりも中央側に位置し、下縁部12bにおける脇側の縁部14bは、上辺部3aにおける脇側の縁部13bよりも中央側に位置している。
【0027】
このような表側布11及び肌側布12は、下縁部11cと下縁部12bとを揃えた状態で土台部3の上辺部3aに縫着されている。これにより、上辺部3aにおける前中心A側の縁部13aは、肌側布12の前中心A側の縁部14aよりも前中心A側に張り出す張出部分16aとなっており、上辺部3aにおける脇側の縁部13bは、肌側布12の脇側の縁部14bよりも脇側に張り出す張出部分16bとなっている。張出部分16a,16bの張り出し長さは、肌側布12によるバストの造形性を損なわない範囲で任意に設定可能である。
【0028】
上辺部3aにおいて張出部分16a及び張出部分16bが設けられている結果、カップ部2の上縁部2aにおいて、肌側布12の上縁部12aよりも表側布11の上縁部11aが上方に張り出した状態となっている。また、カップ部2の脇側においても、肌側布12の上縁部12aよりも表側布11の脇縁部11bが上方に張り出した状態となっている。
【0029】
一方、肌側布12の上縁部12aは、表側布11に対して非縫着となっており、表側布11と肌側布12とは、下縁部11cと下縁部12bとの縫着部分を除いて互いにフリーな状態となっている。つまり、表側布11の脇縁部11bは、肌側布12の上縁部12aよりも脇側に張り出し、かつ肌側布12に対してフリーな状態となっており、ストラップ部5は、カップ部2の脇側上縁において表側布11の脇縁部11bの上端部分に連結されている。
【0030】
なお、本実施形態では、図3に示すように、肌側布12の上縁部12aの脇側部分と表側布11の脇縁部11bとは、連結部材17によって連結されている。連結部材17は、例えばパワーネットなどの非伸縮性又は難伸縮性を有する素材によって形成されている。連結部材17は、肌側布12の上縁部12aから脇側に張り出している表側布11の張出部分の下側の形状に対応する形状をなしている。連結部材17は、当該張出部分において表側布11の肌側に配置され、肌側布12の上縁部12aの脇側部分の下端側と表側布11の脇縁部11bの下端側とに縫着されている。
【0031】
以上のような構成を有するカップ部付き衣類1では、着用状態において、ストラップ部5からかかる引っ張り力が表側布11の上縁部11a及び脇縁部11bに作用する。この引っ張り力は、表側布11の下縁部11c側から肌側布12に伝わり、肌側布12にはストラップ部5からの引っ張り力が直接かからないため、肌側布12が着用者のバストを脇側下方から前中心側上方に向かって過不足のない力で持ち上げることによってバストの造形がなされる。
【0032】
このとき、カップ部付き衣類1では、土台部3の上辺部3aに張出部分16a,16bを形成することにより、バストの造形に必要な肌側布12の全体の面積を確保しつつ、カップ部2の下縁側(下カップ部)における肌側布12の面積が抑えられている。これにより、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧が抑えられ、着用者のバストにかかる着圧の総量が効果的に低減されるので、着け心地が良好なものとなる。
【0033】
また、カップ部付き衣類1では、肌側布12の上縁部12aが表側布11に対して非縫着となっており、着用時においてストラップ部5からの引っ張り力が表側布11に作用した場合に、表側布11によって肌側布12の全体が柔らかく包まれる。これにより、肌側布12が着用者のバストに喰い込むことを抑制しつつ、肌側布12によるバストの造形性が維持される。
【0034】
図4は、カップ部付き衣類1によるバストの造形性を示す図である。同図は、比較例に係るサンプル及び実施例に係るサンプルについて、それぞれ着用者のバストの形状を等高線で示したものである。図4(a)は、比較例の場合のバストの形状を示している。比較例に係るカップ部付き衣類のサンプルでは、土台部の上辺部に張出部分は設けられておらず、表側布と肌側布とが全縁にわたって互いに縫着されている。この比較例では、バストトップ付近を中心とする環状の等高線が例えば左側のバストの上部(図4(a)中の破線領域R)で歪んでおり、バストの上部へのカップ部の上縁部の喰い込みが生じていることが分かる。
【0035】
図4(b)は、実施例の場合のバストの形状を示している。比較例に係るカップ部付き衣類のサンプルでは、図1に示したカップ部付き衣類と同様に、土台部の上辺部に張出部分を設けると共に、肌側布の上縁部が表側布に対して非縫着となっている。この実施例では、バストトップ付近を中心とする環状の等高線の真円度が比較例に比べて高くなっており、左側のバストの上部(図4(b)中の破線領域R)における等高線の歪みも殆どない。したがって、バストの上部へのカップ部の上縁部の喰い込みは生じておらず、バストの造形性が良好に維持されていることが確認できる。
【0036】
また、カップ部付き衣類1では、肌側布12の面積が抑えられていることで、着用者がバストを見たときに視認可能なバストの面積が大きくなるため、視覚的な造形効果も奏される。カップ部付き衣類1では、上辺部3aにおける前中心A側の縁部13aに張出部分16aが設けられ、肌側布12の面積が前中心A側で抑えられているため、図5に示すように、特にバスト上部の前中心側(図5中の破線領域V)で視認可能なバストの面積が大きくなっており、視覚的な造形効果が高められている。
【0037】
このカップ部付き衣類1では、土台部3の上辺部3aにおける前中心A側の縁部13a及び脇側の縁部13bの双方に張出部分16a,16bが設けられている。これにより、肌側布12の面積が十分に抑えられ、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧をより確実に抑えられるので、着け心地の一層の向上が図られている。
【0038】
また、カップ部付き衣類1では、肌側布12の上縁部12aの脇側部分と表側布11の脇縁部11bとが、非伸縮性又は難伸縮性を有する連結部材17によって連結されている。この連結部材17により、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧を抑えつつ、バストの安定性を確保できる。非伸縮性又は難伸縮性を有する連結部材17を用いることで、表側布11に対する肌側布12の非縫着状態(フリーな状態)が阻害されることもない。
【0039】
また、カップ部付き衣類1では、肌側布12の上縁部12aよりも表側布11の上縁部11aが上方に張り出している。このため、ストラップ部5からの引っ張り力が作用したときに、表側布11によって肌側布12の全体が一層柔らかに包まれることとなる。これにより、肌側布12がバストに喰い込むことを一層抑制でき、肌側布12によるバストの造形性が更に効果的に維持される。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、土台部3の上辺部3aにおける前中心A側の縁部13a及び脇側の縁部13bの双方に張出部分16a,16bが設けられているが、張出部分16a,16bのいずれか一方のみを設けてもよい。
【0041】
例えば図6に示す例では、肌側布12の下縁部12bの脇側の縁部が、土台部3の上辺部3aの脇側の縁部13bまで延びており、土台部3の上辺部3aにおける前中心A側の縁部13aにのみ張出部分16aが設けられている。肌側布12には、下縁部12bの脇側の縁部と上縁部12aの脇側の縁部とをつなぐように、表側布11の脇縁部11bの下端側に対応する脇縁部12cが形成されている。この脇縁部12cは、表側布11の脇縁部11bの下端側に縫着されている。このような形態においても、下カップ部から着用者のバスト下部にかかる着圧を抑えられるので、着け心地の一層の向上が図られる。また、肌側布12の脇縁部12cを表側布11の脇縁部11bの下端側に縫着することで、バストの安定性の向上が図られる。
【0042】
また、上記実施形態では、表側布11と肌側布12とを連結する連結部材17及びカップ部2における下縁部2cのワイヤー部6を設けた構成を例示したが、連結部材17は必ずしも設ける必要はなく、ワイヤー部6を設けないノンワイヤー型のカップ部付き衣類としてもよい。肌側布12の上縁部12aは、着用状態においてバストトップを覆うことができる程度に表側布11の上縁部11aよりも下方に位置しているが、バストの造形機能の観点からは、肌側布12がバストトップを覆わない形状となっていてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、表側布11と肌側布12とが下縁部11cと下縁部12bとの縫着部分を除いて互いにフリーな状態となっているが、このフリーな状態を阻害しない範囲で、肌側布12の上縁部12aを表側布11に対して1点留めなどで固定してもよい。また、連結部材17は、伸縮性を有する素材によって形成されていてもよい。
【0044】
上記実施形態では、カップ部付き衣類としてブラジャーを例示したが、本発明を適用するカップ部付き衣類としては、ブラジャーの他に、ブラスリップ、ブラキャミソール、ボディスーツなどのファンデーション衣類、水着、レオタードなどが挙げられる。また、本発明の特徴は、フルカップブラジャー、3/4カップブラジャー、及び1/2カップブラジャーといった全てのタイプのブラジャーに適用可能である。カップ部の縫製は、1ダーツ接ぎ、2ダーツ接ぎ、2枚接ぎ、3枚接ぎ、ギャザーのみ、無縫製(成形カップ)など、種々の形態を採り得る。また、肌側布をカップ部に内蔵させたタイプのカップ部付き衣類としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…カップ部付き衣類、2…カップ部、3…土台部、3a…上辺部、4…バック部、5…ストラップ部、11…表側布、11a…上縁部、11b…脇縁部、11c…下縁部、12…肌側布、12a…上縁部、12b…下縁部、13a…前中心側の縁部、13b…脇側の縁部、16a,16b…張出部分、17…連結部材、A…前中心。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8