特許第6447140号(P6447140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447140
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】マイクロホールアレイ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/02 20060101AFI20181220BHJP
   G02B 6/36 20060101ALI20181220BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20181220BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20181220BHJP
   B23K 26/50 20140101ALI20181220BHJP
【FI】
   C03B33/02
   G02B6/36
   G02B6/26
   B23K26/382
   B23K26/50
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-865(P2015-865)
(22)【出願日】2015年1月6日
(65)【公開番号】特開2016-124764(P2016-124764A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】平尾 徹
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500600(JP,A)
【文献】 特開2009−155159(JP,A)
【文献】 特開2003−201147(JP,A)
【文献】 特開2004−054118(JP,A)
【文献】 特開2001−113381(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/075207(WO,A1)
【文献】 特開2002−224878(JP,A)
【文献】 特開2003−245791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C03B 23/00−35/26;40/00−40/04
B23K 26/00−26/70
G02B 6/26
G02B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面及び第2の主面を有するガラス板に、前記第1の主面と前記第2の主面間を貫通する貫通孔を、レーザー照射によって複数形成するマイクロホールアレイの製造方法であって、
前記第1の主面に、前記レーザーに対して透明である液体を接触させる工程と、
前記レーザーとして、10ピコ秒以下のパルスレーザーを用い、前記液体と接触する前記第1の主面側の部分に集光させて、前記レーザーを前記第2の主面側から照射し、前記貫通孔を形成する工程とを備え
前記液体が、少なくとも一部の水素をフッ素で置換した石油系溶剤である、マイクロホールアレイの製造方法。
【請求項2】
前記レーザーの波長が、1000nm以上である、請求項に記載のマイクロホールアレイの製造方法。
【請求項3】
前記レーザーが、フェムト秒レーザーである、請求項またはに記載のマイクロホールアレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホールアレイ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバー等の光学部品を、高精度に整列させて保持するための部材として、マイクロホールアレイが知られている。特許文献1では、光ファイバー等を保持するための孔を備えた筒状部を樹脂から形成し、該筒状部の外周面をセラミックスなどからなる本体基材で保持したマイクロホールアレイが開示されている。
【0003】
一方、特許文献2は、マイクロ流路ビーズアレイにおいて、ビーズを固定するための微細構造パターンを、レーザー誘起背面湿式加工法(Laser―Induced Backside Wet Etching 法:LIBWE法)で形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−107283号公報
【特許文献2】特開2007−17155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、光ファイバー等を保持するための筒状部を樹脂から形成しているので、筒状部の形状精度を高めることができない。このため、筒状部内で光ファイバー等を精度良く保持することができず、光ファイバー等の位置精度を高めることができないという問題がある。
【0006】
LIBWE法は、レーザー光を吸収する液体を加工対象に接触させた状態で、レーザー光を液体に照射し、液体の気泡の膨張・収縮によって生じる衝撃波で切削加工する方法である。LIBWE法でマイクロホールを形成しようとする場合、切削加工によって生じた切り屑がマイクロホールの壁面に固着しやすく、マイクロホールを高い形状精度で形成することができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、光ファイバー等を保持する場合、光ファイバー等を精度良く保持することが可能なマイクロホールアレイ、及び高い形状精度を有するマイクロホールを形成することができるマイクロホールアレイの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、厚み0.5mm以上5mm以下のガラス板に、1cmあたり30個以上の貫通孔が形成されたマイクロホールアレイであって、貫通孔は、円筒度が貫通孔の孔径の5%以下である円筒部分を有することを特徴としている。
【0009】
本発明において、孔径は、ガラス板の厚みの50%以下であることが好ましい。
【0010】
貫通孔は、ガラス板の厚み方向に延びるように形成されていることが好ましい。
【0011】
ガラス板は、石英ガラス板であることが好ましい。
【0012】
貫通孔は、例えば、光ファイバーを挿入し保持するための貫通孔である。
【0013】
本発明の製造方法は、第1の主面及び第2の主面を有するガラス板に、第1の主面と第2の主面間を貫通する貫通孔を、レーザー照射によって複数形成するマイクロホールアレイの製造方法であって、第1の主面に、レーザーに対して透明である液体を接触させる工程と、レーザーとして、10ピコ秒以下のパルスレーザーを用い、液体と接触する第1の主面側の部分に集光させて、レーザーを第2の主面側から照射し、貫通孔を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
レーザーの波長は、1000nm以上であることが好ましい。
【0015】
レーザーは、フェムト秒レーザーであることが好ましい。
【0016】
液体は、例えば、少なくとも一部の水素をフッ素で置換した石油系溶剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマイクロホールアレイを、光ファイバー等を保持するマイクロホールアレイとして用いる場合、光ファイバー等を精度良く保持することができる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、高い形状精度を有するマイクロホールを、効率良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態のマイクロホールアレイを示す模式的平面図である。
図2】本発明の実施形態のマイクロホールアレイにおけるマイクロホールを示す模式的断面図である。
図3】円筒度を説明するための模式的斜視図である。
図4】本発明の実施形態のマイクロホールアレイの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0021】
図1は、本発明の実施形態のマイクロホールアレイを示す模式的平面図である。本実施形態のマイクロホールアレイ1は、ガラス板2に多数の貫通孔3を形成することにより構成されている。本実施形態において、ガラス板2の縦方向の長さLは、20mmであり、横方向の長さLは、20mmである。貫通孔3は、横方向に11個配列されており、縦方向に16個配列されている。したがって、本実施形態において、貫通孔3はガラス板2に176個形成されており、ガラス板2に1cmあたり44個形成されている。したがって、貫通孔3は、ガラス板2に1cmあたり30個以上形成されている。貫通孔3の個数の上限値は、特に限定されるものではないが、一般には1000個以下である。
【0022】
図2は、本発明の実施形態のマイクロホールアレイにおけるマイクロホールを示す模式的断面図である。図2に示すように、貫通孔3は、ガラス板2の第1の主面2aと第2の主面2b間を貫通するように形成されている。本実施形態において、貫通孔3は、ガラス板2の厚みt方向に延びるように形成されている。本発明は、これに限定されるものではなく、ガラス板2の厚み方向tに対し傾斜する方向に貫通孔3が形成されていてもよい。
【0023】
本実施形態において、ガラス板2の厚みtは、1mmである。本実施形態において、貫通孔3の孔径dは、125μmである。したがって、本実施形態において、貫通孔3の孔径dは、ガラス板2の厚みtの50%以下である。
【0024】
本発明において、貫通孔3の孔径dは、ガラス板2の厚みtの50%以下であることが好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。これらの範囲内にすることにより、貫通孔3に光ファイバー等を挿入して保持させた場合に、位置ずれを生じさせることなく、精度良く光ファイバー等を保持することができる。下限値は特に限定されるものではないが、一般に貫通孔3の孔径dは、ガラス板2の厚みtの1%以上であることが好ましい。
【0025】
本実施形態のマイクロホールアレイにおけるマイクロホールは、ガラス板2に形成された貫通孔3から構成されている。このため、マイクロホールが樹脂から形成される場合に比べ、高い形状精度でマイクロホールを形成することができる。
【0026】
本実施形態では、第1の主面2a側に、テーパー部4が形成されている。テーパー部4は、第1の主面2a側から貫通孔3に光ファイバー等を挿入する際、光ファイバー等を挿入しやすくするため形成されている。テーパー部4の最大径dは、300μmである。また、テーパー部4の厚みtは、80μmである。第2の主面2bからテーパー部4までの間には、孔径dを有する円筒部分5が形成されている。貫通孔3の孔径dは、円筒部分5の孔径である。本実施形態において、円筒部分5の円筒度は、貫通孔3の孔径dの5%以下である。
【0027】
図3は、円筒度を説明するための模式的斜視図である。図3に示すように、円筒度は、円筒部分5の最小外接円筒5aの直径と最大内接円筒5bの直径との差Tであると定義される。このような円筒度は、例えば、真円度・円筒形状測定機などで測定することができる。
【0028】
本発明において、円筒部分5の円筒度は、貫通孔3の孔径dの5%以下である。このような範囲に設定することにより、貫通孔3に光ファイバー等を挿入した際、貫通孔3内において光ファイバー等が傾いて位置ずれするのを防止することができる。したがって、光ファイバー等を精度良く保持することができる。円筒度は、2%以下であることがさらに好ましい。円筒度の下限値は、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明において、ガラス板2の厚みtは、0.5mm以上、5mm以下である。このような範囲内にすることにより、貫通孔3に光ファイバー等の挿入が容易に行え、しかも、貫通孔3の孔開け加工の際に発生する切屑の排出を容易に行え貫通孔3が閉塞することを防止できる。ガラス板2の厚みtは、4mm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
図4は、本発明の実施形態のマイクロホールアレイの製造方法を説明するための模式的断面図である。本実施形態の製造方法では、第1の主面2a及び第2の主面2bを有するガラス板2に、第1の主面2aと第2の主面2b間を貫通する貫通孔3を、レーザー照射によって形成する。
【0031】
図4に示すように、ガラス板2の第1の主面2aに透明液体11を接触させる。透明液体11は、レーザー光10に対して透明な液体である。ここで、「透明」とは、レーザー光10に対する液体の吸収率が小さいことを意味している。具体的には、レーザー光10に対する液体の吸収率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0032】
レーザー光10に対する吸収率が小さい液体を用いている点において、本発明の製造方法は、LIBWE法と異なっている。上述のように、LIBWE法は、レーザー光に対し不透明な液体を用い、レーザー光の照射により液体の気泡を膨張・収縮させ、これによって生じる衝撃波で切削加工する方法である。このため、LIBWE法では、切削加工によって生じた切り屑が、衝撃波で勢いよくマイクロホールの壁面に衝突し、切り屑がマイクロホールの壁面に固着しやすい。これに対し、本発明では、レーザー光10に対する吸収率が小さい液体を用いているので、液体による衝撃波は生じない。そのため、貫通孔3の形成により生じるガラス屑を効率良く貫通孔3から透明液体11へ排出させることができる。
【0033】
透明液体11の具体例としては、水や、少なくとも一部の水素をフッ素で置換した石油系溶剤等があげられる。石油系溶剤の具体例としては、少なくとも一部の水素をフッ素で置換したメチルエチルケトン及びアセトンなどが挙げられる。
【0034】
レーザー光10の波長は、ガラス板2での吸収が小さい波長であることが好ましい。このような観点から、レーザー光10の波長は、1000nm以上であることが好ましく、1300mm以上であることがより好ましく、1500mm以上であることがさらに好ましい。レーザー光10の波長の上限値は、特に限定されるものではないが、レーザー光10の波長は、2000nm以下であることが一般的である。なお、本実施形態において、ガラス板2としては、石英ガラス板を用いている。なお、ガラス板2が石英ガラスであれば、2000nm以下の波長域で光の吸収が小さく、レーザー光10による加工が容易となる。
【0035】
本実施形態において、レーザー光10は、10ピコ秒以下のパルスレーザーである。レーザー光10は、より好ましくは、1ピコ秒以下の超短パルスレーザーであり、特に好ましくは、フェムト秒レーザーである。このようなパルス幅の小さいレーザーを用いることにより、多光子吸収現象を生じさせ、周辺部分に熱を拡散させることなくアブレーション加工することができる。
【0036】
本実施形態では、図4に示すように、第2の主面2b側からレーザー光10を照射し、透明液体11と接する第1の主面2a側の部分に、レーザー光10を集光させて、レーザー光10を第2の主面2b側へ走査させながら移動させることにより、貫通孔3を形成している。したがって、レーザー光10を裏面側から照射している。
【0037】
なお、第2の主面2b側からレーザー光10を照射し、第2の主面2b側の表面に、レーザー光10を集光させて、レーザー光10を第2の主面2a側へ走査させながら移動させることによって貫通孔3を形成する場合、レーザー光10の集光部上部に位置する径の大きなレーザー光10が、形成した貫通孔3の壁面(第2の主面2b側)に長時間照射されることなり、貫通孔3の孔の径が広がり、高い形状精度で貫通孔3を形成することができない。これに対し、図4に示すように、レーザー光10を第1の主面2a側の部分に集光させるように、第2の主面2b側から照射し、第2の主面2b側へ走査させながら移動させる場合、形成した貫通孔3の壁面(第2の主面2b側)にレーザー光10が長時間照射されることはないため、高い形状精度で貫通孔3を形成することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、レーザー光10を第2の主面2b側から照射し、透明液体11と接する第1の主面2a側の部分に、レーザー光10を集光させて、高い形状精度で貫通孔3を形成することができる。また、毛細管現象により、加工部分に透明液体11が浸入するため、加工により生じたガラス屑を透明液体11によって効率良く除去することができる。このため、加工により生じたガラス屑が貫通孔3の壁面に付着するのを防止することができ、さらに高い形状精度で貫通孔3を形成することができる。レーザー光10の焦点を、例えば、渦巻き状に走査させながら移動させていくことにより、貫通孔3を高い形状精度で形成することができる。
【0039】
したがって、本発明の製造方法によれば、円筒度が貫通孔3の孔径の5%以下である円筒部分を有する本発明のマイクロホールアレイを、効率良く製造することができる。
【0040】
なお、図4では、図2に示すテーパー部4を図示していないが、テーパー部4も、上記貫通孔3を形成する際に、テーパー部4を形成するようにレーザー光10の焦点を走査させながら移動させて形成することができる。
【0041】
上記説明においては、本発明のマイクロホールアレイの貫通孔、すなわちマイクロホールに、光ファイバー等を挿入して固定する用途について説明しているが、本発明のマイクロホールアレイは、このような用途に限定されるものではない。例えば、特許文献2に開示されたような、マイクロホールを流路として用いるような用途にも使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1……マイクロホールアレイ
2……ガラス板
2a……第1の主面
2b……第2の主面
3……貫通孔
4……テーパー部
5……円筒部分
5a……最小外接円筒
5b……最大外接円筒
10……レーザー光
11……透明液体
……貫通孔の孔径
……テーパー部の最大径
……ガラス板の厚み
……テーパー部の厚み
T……円筒度
図1
図2
図3
図4