(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主緊締部は、帯状に形成され、前記帯状の近位側の短手方向は、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界から上腕二頭筋の近位付着部に対応する位置に設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の肘部を覆う着用物品。
【背景技術】
【0002】
ランニング、ウォーキング、ゴルフなどのスポーツにおいて、腕振りの重要性が知られている。例えばランニングにおいて、肘を後方に引くことで、骨盤が回旋し、前方への推進力につながる。
【0003】
効率的に腕振りをする際、脇が開き、肘が身体から離れた状態で腕振りをすると、左右方向へ腕振りすることになり、上肢が大きくぶれ、エネルギーロスが生じる。これに対し、脇を閉めて腕振りすることにより、前後方向へ腕振りすることになり、前方への推進力が高まる。
【0004】
そこで、肩関節の外旋を誘導することで、効率的な腕振りを実現するアンダーシャツやサポーターなどの着用物品がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1に記載のアンダーシャツは、首部近傍から肩部を経由して肘部近傍までの間に、スパイラル状に裁断され、強い伸度を有する裁断片を、腕部外側から内側に向けて斜め下方向に捲回して設ける。また特許文献1に記載のアンダーシャツの前腕において、裁断片が何周かで周回しながら捲かれる。
【0005】
特許文献2に記載のサポーターは、過度の内旋や外反を防止するために、肘頭を囲うサポート部を有する。サポート部は、上腕の中央近辺に配置され体肢を緊締するアンカー部に接続する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0016】
本発明の実施の形態において、「肘部を覆う着用物品」は、肘部を覆うサポーター、スポーツ用アンダーシャツなどの上半身衣類を示す。また、本発明の実施の形態において、着用物品に関する位置を、骨や筋肉の位置に対応づけて説明する場合もあるが、これは、「骨または筋肉の近傍の位置」を意味する。
【0017】
(実施の形態)
図1ないし
図6を参照して、本発明の実施の形態に係るサポーター1を説明する。サポーター1は、肘部を覆う着用物品であって、着用者の動きやすさと、肩関節の外旋運動の誘導による腕振りの効率化との両立を、可能とする。本発明の実施の形態に係るサポーター1は、主に右肘を覆う右用を説明するが、左肘を覆う左用は、右用の左右対称に形成される。
【0018】
サポーター1は、
図1および
図2に示すように、本体部2、主緊締部3および副緊締部4を備える。着用者は、
図3に示すように、右用のサポーター1と、左用のサポーター1aの両方を着用しても良いし、右用のサポーター1および左用のサポーター1aのうちのいずれかのみを着用しても良い。
【0019】
本発明の実施の形態に係るサポーター1は、シート状に形成された生地を縫い合わせて筒状を形成するため、縫い目が設けられる場合を説明するが、これに限られない。サポーター1は、例えば、筒状に編んで形成されても良いし、シート状に形成された生地を面ファスナーなどによって筒状に形成されても良い。
【0020】
本体部2は、肘部を覆う筒状部材であって、着用者の肘の屈曲および伸長の動きや、肩関節の動きに追従してフィットする伸縮性を有する素材で形成される。本体部2は、
図3に示すように、上腕の中程から手首までを覆うが、これに限るものではない。具体的には、前腕部分を覆わず上腕中程から肘近傍を覆っても良いし、手首からさらに遠位に伸長して、手または指まで覆っても良い。
【0021】
本体部2は、例えば、ツーウェイトリコット、ツーウェイラッセル、ダブルラッセル、丸編み、レース材等を用いた編地、ベア天竺などで形成される。ツーウェイトリコットは、例えば、ポリエステル混糸率82.9%およびポリウレタン混糸率17.1%で構成されるが、この構成に限るものではない。本体部2は、生地の経方向の伸長回復性が、40cNから90cN程度で、生地の緯方向の伸長回復性が、30cNから60cN程度の素材が好ましい。伸長回復性は、試験片を定速伸長形引張試験機に取り付け、300mm/分程度の速度で伸長回復を複数回繰り返し、30%伸長した際の伸長力(cN)と、30%回復した際の回復力(cN)の平均により算出される。ここで試験片は、160mm×25mmであって、試験片は、上部つかみ25mm、下部つかみ35mmおよびつかみ間隔100mmで、定速伸長形引張試験機に取り付けられる。
【0022】
主緊締部3は、本体部2よりも強い緊締力を有する。主緊締部3は、肘を後ろに引いたときに、生地が引っ張られ、引っ張られた生地が縮み元に戻る力により、肩関節を外旋方向に誘導する。このように、常に強いパワーをかけるのではなく、肘を後方に引いたときに肩関節の外旋を誘導することができるので、主緊締部3は、動きの妨げにならず、効率的に外旋を誘導する機能を発揮することができる。
【0023】
本発明の実施の形態において主緊締部3は、パワーネットやトリコットなどの伸縮性のある帯状の素材を、本体部2に重ねて固着する場合を説明するが、これに限らない。主緊締部3は、本体部2の編み構造を変化させたり、樹脂プリントを施したりすることによって、所望の緊締力を実現しても良い。また、本体部2に主緊締部3の生地を重ねるのではなく、主緊締部3の生地と本体部2を縫い合わせることにより、主緊締部3が、本体部2を介することなく、着用者に緊締力を与えるように形成されても良い。
【0024】
本発明の実施の形態で用いる主緊締部3のパワーネットは、生地の経方向の伸長回復性が、60cNから150cN程度で、生地の緯方向の伸長回復性が、50cNから120cN程度の素材が好ましい。
【0025】
主緊締部3のパワーネットは、水平方向(上腕の周方向)に伸縮しにくく、垂直方向(上腕の長手方向)に伸縮しやすい方向に裁断されて、本体部2に固着されることが好ましい。これにより、サポーター1の上腕部分の長手方向において、生地が伸縮しやすく、肩関節を外旋方向に誘導するパワーを与えることを可能とする。
【0026】
主緊締部3は、
図4および
図5に示すように、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1から、上腕骨外側上顆P2まで、設けられる。肘を後ろに引いたときに、主緊締部3の生地が引っ張られる。主緊締部3は、引っ張られた生地が縮み元に戻る力で、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1を支点として、上腕骨外側上顆P2を身体方向に寄せ、肩関節を外旋方向に誘導することを可能とする。これにより、脇が閉まった状態となるので、効率的に、前後方向に大きく腕を振ることを可能とする。本発明の実施の形態に係るサポーター1は、肩関節近傍に緊締を加えることなく、主緊締部3が境界P1と上腕骨外側上顆P2とを接続することにより、効率的に肩関節の外旋運動を誘導する。従って、サポーター1は、肩関節の動きを妨げることなく、少ないパワーで肩関節の十分な外旋を誘導することができる。
【0027】
ここで、主緊締部3の支点を設ける上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1は、筋の付着部であるため、筋の移動がない。主緊締部3の支点を上腕二頭筋または上腕三頭筋の直上に設けると、腕運動で筋が移動することにより、支点がぶれ、肩関節を外旋方向に誘導するパワーにロスが生じてしまう。そこで本発明の実施の形態において、筋の移動がない境界P1に主緊締部3の支点を設けることにより、支点のぶれを抑制して、効率的に肩関節を外旋方向に誘導することを可能とする。
【0028】
また主緊締部3が接続する上腕骨外側上顆P2は、骨が隆起し、肘部外側に位置する。従って、境界P1から上腕骨外側上顆P2にかけて主緊締部3が設けられることにより、上腕骨外側上顆P2に主緊締部3のパワーを集めることが可能になるので、少ないパワーで、効率的に肩関節を外旋方向に誘導することを可能とする。
【0029】
主緊締部3は、さらに、上腕骨外側上顆P2から、肘頭P4より遠位側を通って、手首の尺側P3まで、前腕を周回することなく設けられる。主緊締部3が手首側まで延伸することにより、上腕骨外側上顆P2を身体に寄せるパワーをさらに与えることができるので、上腕における外旋運動をさらに誘導することができる。また主緊締部3が手首側まで延伸することにより、肘関節の動きに伴う着くずれによって上腕骨外側上顆P2が適切に緊締されない状態を回避し、上腕骨外側上顆P2を緊締することを可能にする。また肘頭P4を避けて、主緊締部3が配設されることにより、主緊締部3の緊締力によって、肘頭P4が動きづらく、肘の曲げ伸ばしがしづらくなる状態を回避することができる。
【0030】
また、主緊締部3が設けられる手首の尺側P3、すなわち小指下近傍は、手首の回内および回外の支点となるため、動きが少ない。従って、主緊締部3を手首の尺側P3に設けることにより、腕や手首の動きによる着くずれが少なく、前腕の動きによる着くずれも防ぐことができる。
【0031】
主緊締部3は、帯状に形成され、腕の周方向に帯状の短手方向が配設され、腕の長手方向に、帯状の長手方向が配設される。主緊締部3の帯状の近位側の短手方向は、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1から上腕二頭筋の近位付着部に対応する位置に設けられる。ここで主緊締部3の上端は、上腕二頭筋および上腕三頭筋に跨るように配設されるのではなく、上端の角が境界P1に対応するように配設されることが好ましい。これにより、境界P1における支点のぶれを抑制することができる。
図4に示す例において、主緊締部3の上端は、境界P1から、上腕二頭筋にかけて設けられる。本発明の実施の形態において主緊締部3の上端は、平置き時において、5〜10センチ程度の長さを有するように配設されるが、この範囲に限らず、主緊締部3を形成する素材や、求められる緊締力により、適宜調整される。
【0032】
また主緊締部3の帯状の遠位側の短手方向は、手首の尺側P3から掌側に対応する位置に設けられる。手首の掌側に、主緊締部3を設けることにより、手首の掌屈および背屈による皮膚の動きの影響を受けづらく、主緊締部3の着くずれを防止することができる。本発明の実施の形態において主緊締部3の下端は、平置き時において、3〜5センチ程度の長さを有するように配設されるが、この範囲に限らず、主緊締部3を形成する素材や、求められる緊締力により、適宜調整される。
【0033】
主緊締部3は、上腕に設けられる部分は、前腕に設けられる部分よりも、強い緊締力を有するように形成される。ここで、前腕における緊締を強くすると、肩関節の外旋を制限するとともに、手首の回内および回外を制限することになる。従って、前腕における緊締を弱くすることにより、手関節の動きを妨げることなく、肩関節の外旋を妨げないように作用することができる。
【0034】
本発明の実施の形態に係る主緊締部3は、主緊締部3を形成する帯状部材の幅(短手方向の長さまたは周方向の長さ)によって、緊締力の強弱を調整している。すなわち、主緊締部3は、上腕において太く、前腕において細くなるように形成される。この他、主緊締部3の上腕および前腕位置で編み地を変えたり、樹脂プリントの量、密度、素材等を変えたりすることで、緊締力の強弱を調整しても良い。
【0035】
ここで、主緊締部3は上腕を周回することなく設けられるとともに、前腕を周回することなく設けられ、サポーター1の全体で上腕ないし前腕を緩やかに約1周するように、設けられる。
図3等に示すように、本発明の実施の形態に係るサポーター1の主緊締部3(濃いハッチ部分)は、前腕内側から肘頭P4の遠位側を通って、手首の掌側まで、緩やかに腕を約1周回るように、形成される。このように、主緊締部3は、腕周りも何周も周回しないように形成されるので、動きやすさを阻害することなく、自然な腕振りを実現することを可能とする。
【0036】
副緊締部4は、本体部2よりも強い緊締力を有し、主緊締部3よりも弱い緊締力を有する。副緊締部4は、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1から、肘頭P4より近位側を通って、前腕で主緊締部3に接続して設けられる。副緊締部4は、主緊締部3による外旋の誘導をサポートする。具体的には、主緊締部3および副緊締部4は、
図6に示すように、肘頭P4を避けて、肘頭P4を挟み込むように配設されるので、着用者は、主緊締部3および副緊締部4による緊締力の影響を受けずに、肘を曲げることができる。また、主緊締部3および副緊締部4は、肘頭P4を挟み込むように形成されるので、肘頭P4の隆起により、主緊締部3および副緊締部4の位置のずれを回避することができる。従って、副緊締部4は、主緊締部3による緊締力を与える位置をずれにくくすることができ、主緊締部3が、境界P1および上腕骨外側上顆P2を適切に緊締することができる。
【0037】
副緊締部4は、上腕内側から肘頭の近位方向を通って、前腕中程で主緊締部3に接続し、緩やかに腕を1周弱回るように、形成される。このように、副緊締部4は、主緊締部3と同様に、動きやすさを阻害することなく、自然な腕振りを実現することを可能とする。
【0038】
図7および
図8を参照して、肘の開きおよび肘の引きの効果を説明する。肘の開きは、
図7(a)に示すように、着用者を背面から見た状態で、首の付け根を通る垂直の線と、首の付け根と肘頭P4とを結ぶ線の角度で表す。肘の引きは、
図7(b)に示すように、着用者を側面から見た状態で、肩峰を通る垂直の線と、肩峰と肘頭P4とを結ぶ線の角度で表す。
【0039】
図8(a)は、比較品と本発明の実施の形態に係るサポーター1の肘の開きを比較した図であって、
図8(b)は、肘の引きを比較した図である。ここで、比較品は、主緊締部3および副緊締部4を有さない本体部2のみのサポーターである。
図8(a)に示すように、本発明の実施の形態に係るサポーター1の肘の開きは、比較品と比べて約2%減少し、より肘を身体側に寄せて脇を閉める効果があることが判る。
図8(b)に示すように、本発明の実施の形態に係るサポーター1の肘の引きは、比較品と比べて約10%増加し、より肘を後方に大きく引ける効果があることが判る。
【0040】
図8から、本発明の実施の形態に係るサポーター1は、脇を締めて肘を後方に引くように誘導することができるので、効果的な腕振りを支援し、前方への推進力を向上させる効果があることがわかる。
【0041】
このような本発明の実施の形態に係るサポーター1は、伸縮性を有する本体部2に、上腕二頭筋の近位付着部と上腕三頭筋の近位付着部の境界P1と、上腕骨外側上顆P2に緊締力を与える主緊締部3を配設する。これによりサポーター1は、肘を後方に引いたときに、主緊締部3が伸長し、主緊締部3の戻る力により引張力を発生させ、肩関節の外旋を誘導することができる。このように、常に強いパワーをかけるのではなく、肘を後方に引いたときに肩関節の外旋を誘導することができるので、動きの妨げにならず、効率的に肩関節の外旋を誘導することができる。
【0042】
(変形例)
図9を参照して、本発明の実施の形態に係る着用物品の変形例を説明する。
【0043】
図9に示すシャツ1bは、本発明の実施の形態に係るサポーター1の主緊締部3および副緊締部4を、シャツに適用したものである。シャツ1bは、伸縮性を有する素材で形成される本体部2bに、主緊締部3bおよび副緊締部4bを備える。
図9に示す主緊締部3bおよび副緊締部4bは、サポーター1の主緊締部3および副緊締部4に対応し、主緊締部3bおよび副緊締部4bは、左右対称に設けられる。
【0044】
変形例に係るシャツ1bは、腕部分に本発明の実施の形態に係るサポーターの機能を備え、肩関節近辺には何ら緊締を与えないので、サポーター1と同様に、動きやすさや、肩関節の外旋方向への誘導を両立することができる。
【0045】
なお
図9に示すシャツ1bは、左右両腕に、本発明の実施の形態に係る主緊締部3および副緊締部4を適用する場合を説明したが、これに限られない。例えば着用者の症状によって、左腕のみに設けても良いし、右腕のみに設けても良い。
【0046】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態とその変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0047】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。