特許第6447350号(P6447350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6447350-電線用コネクタ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447350
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】電線用コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/42 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   H01R13/42 B
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-95559(P2015-95559)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-213045(P2016-213045A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】宮村 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】大森 康雄
【審査官】 山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−053043(JP,A)
【文献】 特開2011−238624(JP,A)
【文献】 特開2011−223738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40 − 13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線をこれらの電気接続対象に接続するためのコネクタであって、
前記複数の電線のそれぞれの端末に装着される複数の電線側端子であって互いに同一の形状を有するものと、
これらの電線側端子を保持する絶縁ハウジングと、を備え、当該絶縁ハウジングは、前記各電線側端子の挿入をそれぞれ受け入れる複数の端子収容室を画定するとともに、各端子収容室に挿入される前記電線側端子を係止する複数の端子係止部を有し、
前記各端子係止部は、弾性変形することによって前記端子収容室内への前記電線側端子の挿入を許容する一方、当該電線側端子が当該端子収容室内に完全に挿入された状態で弾性復帰することにより当該電線側端子と係合し、これにより当該電線側端子を前記絶縁ハウジング内に保持し、
前記複数の端子係止部は、当該端子係止部が前記電線側端子を保持する力である保持力について、第1のグループに属する端子係止部と、第2のグループに属する端子係止部と、に分類され、第1のグループに属する端子係止部は、第2のグループに属する端子係止部がそれぞれ有する保持力よりも高い保持力を有し、
前記複数の端子係止部のうち、少なくとも、前記複数の端子収容室のうち最大直径方向の両外側に位置する端子収容室に設けられた端子係止部が、前記第1のグループに属し、少なくとも、当該複数の端子収容室の配列の中心に最も近い端子収容室に設けられた端子係止部が、前記第2のグループに属する、コネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタであって、前記複数の端子収容室が矩形状に配列されており、当該複数の端子収容室は、その矩形の長辺方向の両外側に位置する両外側収容室と、当該長辺方向について当該両外側収容室の内側に位置する内側収容室と、を含み、全ての前記両外側収容室に設けられた端子係止部が前記第1のグループに属する、コネクタ。
【請求項3】
請求項2記載のコネクタであって、前記複数の端子収容室は、最外周に位置する端子収容室と、当該最外周に位置する端子収容室の内側に位置する端子収容室と、を含み、当該最外周に位置する端子収容室に設けられた全ての端子係止部が前記第1のグループに属する、コネクタ。
【請求項4】
請求項3記載のコネクタであって、当該最外周に位置する端子収容室の内側に位置する端子収容室に設けられる全ての端子係止部が前記第2のグループに属する、コネクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のコネクタであって、前記各端子係止部は、前記絶縁ハウジングのハウジング本体につながる基部と、その反対側の先端部と、を有するランスであって、当該先端部が前記電線側端子の軸方向と直交する方向に撓み変位するように弾性変形するものであり、当該ランスは前記先端部の近傍に前記電線側端子と係合してこれを係止する係止部を有し、前記撓み変位することにより前記端子収容室内への前記電線側端子の挿入を許容する一方、当該電線側端子が当該端子収容室内に完全に挿入された状態で弾性復帰することにより当該電線側端子と係合し、これにより当該電線側端子を前記絶縁ハウジング内に保持する、コネクタ。
【請求項6】
請求項5記載のコネクタであって、前記第1グループに属するランスが第2グループに属するランスの曲げ剛性よりも高い曲げ剛性を有する、コネクタ。
【請求項7】
請求項5または6記載のコネクタであって、前記第1グループに属するランスの係止部が第2グループに属するランスの係止部よりも前記端子収容室内に入り込んだ位置にある、コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のワイヤハーネスをはじめとする電線束に含まれる複数の電線の端末に設けられてこれらの電線を他の電線や回路等に電気的に接続するためのコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電線束に含まれる複数の電線の端末に設けられるコネクタは、一般に、当該各電線の端末に装着される複数の電線側端子と、これらの電線側端子を保持する絶縁ハウジングと、を備える。当該絶縁ハウジングは、前記各電線側端子の挿入を受け入れる複数の端子収容室を画定するとともに、当該端子収容室に挿入される当該電線側端子をそれぞれ係止する複数の端子係止部と、を有する。前記端子係止部は、例えば、前記絶縁ハウジングのハウジング本体につながる基部と、その反対側の先端部と、を有するランスからなり、その弾性変形によって前記端子収容室内への前記電線側端子の挿入を許容する一方、当該電線側端子が当該端子収容室内に完全に挿入された状態で弾性復帰することにより当該電線側端子と係合し、これにより、当該電線側端子を前記絶縁ハウジング内に保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−049399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記コネクタでは、前記各端子係止部が前記各電線側端子を保持する力である保持力の設定が難しいという課題がある。具体的に、当該保持力が低いと、前記電線に大きな引張荷重が加えられたときにこれに対抗して電線側端子を絶縁ハウジング内に保持することができず、当該電線側端子の抜けが生じるおそれが高くなる。逆に、当該保持力が高いと、前記電線側端子を前記端子収容室内に挿入する際に発生する抵抗力、いわゆる挿入力、が大きくなり、当該挿入が容易でなくなる。特に近年は、電線の小径化が進められており、当該電線の径が小さくなるほど、当該電線を把持しながらその端末の電線側端子を端子収容室に挿入する際に当該電線の座屈が生じやすく、その分挿入作業が難しくなる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、複数の電線側端子と、これらの電線側端子の挿入を受け入れる複数の端子収容室を画定する絶縁ハウジングと、を備えたコネクタであって、当該絶縁ハウジングによる前記電線側端子の保持力を満足させながら当該電線側端子の前記端子収容室内への挿入作業を容易化することが可能なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題の解決にあたり、前記電線側端子の前記絶縁ハウジングからの抜けが生じる形態に着目した。すなわち、前記電線束に対して単純な引張荷重が作用する場合には、当該引張荷重が複数の電線側端子に対して均等に分散するため、一つの電線側端子に作用する引張荷重は小さくなるが、前記電線束に対してこれを当該電線束の軸方向と直交する方向に曲げる曲げ荷重が作用した場合、その曲げ曲線の外側に位置する電線及びこれに装着される電線側端子に引張荷重が偏るため、前記曲げ曲線の外側に位置する電線側端子が他の電線側端子に先行して抜けやすいという事情が存在する。その一方、同一の形状の電線側端子については同一の保持力が設定されているのが現状である。
【0007】
本発明は、かかる観点からなされたものである。本発明が提供するのは、複数の電線をこれらの電気接続対象に接続するためのコネクタであって、前記複数の電線のそれぞれの端末に装着される複数の電線側端子であって互いに同一の形状を有するものと、これらの電線側端子を保持する絶縁ハウジングと、を備える。当該絶縁ハウジングは、前記各電線側端子の挿入をそれぞれ受け入れる複数の端子収容室を画定するとともに、各端子収容室に挿入される前記電線側端子を係止する複数の端子係止部を有する。各端子係止部は、弾性変形することによって前記端子収容室内への前記電線側端子の挿入を許容する一方、当該電線側端子が当該端子収容室内に完全に挿入された状態で弾性復帰することにより当該電線側端子と係合し、これにより当該電線側端子を前記絶縁ハウジング内に保持する。前記複数の端子係止部は、当該端子係止部が前記電線側端子を保持する力である保持力について、第1のグループに属する端子係止部と、第2のグループに属する端子係止部と、に分類され、第1のグループに属する端子係止部は、第2のグループに属する端子係止部がそれぞれ有する保持力よりも高い保持力を有する。そして、前記複数の端子係止部のうち、少なくとも、前記複数の端子収容室のうち最大直径方向の両外側に位置する端子収容室に設けられた端子係止部が、前記第1のグループに属し、少なくとも、当該複数の端子収容室の配列の中心に最も近い端子収容室に設けられた端子係止部が、前記第2のグループに属する。
【0008】
このように、前記複数の電線側端子が互いに同一の形状を有するにもかかわらず当該電線側端子を保持するための各端子係止部の保持力に差をもたせることが、前記電線束に作用する曲げ荷重に起因する電線側端子の抜けの防止と、端子収容室内への電線側端子の挿入の作業の容易化と、の両立を可能にする。具体的に、前記複数の端子係止部のうち、少なくとも前記電線束の最大直径方向の両外側に位置する電線に装着された電線側端子を保持する端子係止部、すなわち、前記電線束への曲げ荷重の作用によって最も大きな引張荷重が作用する可能性のある電線に対応する端子係止部、は第1のグループに属していて高い保持力を有するため、前記の大きな引張荷重に対抗して前記電線側端子を保持することが可能である。一方、少なくとも前記端子収容室の配列の中心に最も近い端子収容室に設けられた端子係止部であって前記電線束の曲げに起因して作用する引張荷重が小さい電線に対応する端子係止部は前記第2のグループに属していて前記第1のグループに属する端子係止部よりも低い保持力を有するため、当該第2のグループに属する端子係止部に対応する端子収容室への電線側端子の挿入力が低く、その分、その挿入作業は容易になる。
【0009】
なお、「前記複数の端子収容室のうち最大直径方向の両外側に位置する端子収容室」の「最大直径方向」とは、前記端子収容室のうち互いに最も離れた位置にある端子収容室同士を結ぶ方向を意味するものであって、当該端子収容室の配列が円形であることを限定する趣旨ではない。例えば、前記複数の端子収容室が矩形状に(すなわち縦横に)配列されている場合、その矩形の対角線の方向が最大直径方向に相当し、従って、当該矩形の4つの角部にそれぞれ位置する端子収容室が「前記複数の端子収容室のうち最大直径方向の両外側に位置する端子収容室」に相当する。
【0010】
このように、前記複数の端子収容室が矩形状に配列されている場合、その矩形の長辺方向の両外側に位置する両外側収容室と、当該長辺方向について当該両外側収容室の内側に位置する内側収容室のうち、全ての前記両外側収容室に設けられた端子係止部が前記第1のグループに属することが、好ましい。これにより、前記電線束に前記長辺方向の曲げ荷重が作用したときに両外側に位置する電線に装着された各電線側端子の抜けの抑制をより確実にすることができる。
【0011】
さらに、前記複数の端子収容室最外周に位置する端子収容室と当該最外周に位置する端子収容室とを含む場合において、当該最外周に設けられた全ての端子係止部が前記第1のグループに属することにより、前記電線束に対するあらゆる方向の曲げ荷重に対抗して電線側端子を保持することが可能である。さらに、当該最外周に位置する端子収容室の内側に位置する端子収容室に設けられる全ての端子係止部が前記第2のグループに属することにより、電線側端子の挿入作業が容易な端子収容室の数を多くすることができる。
【0012】
前記各端子係止部は、例えば、前記絶縁ハウジングのハウジング本体につながる基部と、その反対側の先端部と、を有するランスであって、当該先端部が前記電線側端子の軸方向と直交する方向に撓み変位するように弾性変形するものであり、当該ランスは前記先端部の近傍に前記電線側端子と係合してこれを係止する係止部を有するものが、好ましい。当該ランスは、前記撓み変位することにより前記端子収容室内への前記電線側端子の挿入を許容する一方、当該電線側端子が当該端子収容室内に完全に挿入された状態で弾性復帰することにより当該電線側端子と係合し、これにより当該電線側端子を前記絶縁ハウジング内に保持する。
【0013】
前記端子係止部がこのようなランスである場合、当該ランスの形状によってその曲げ剛性や前記係止部の高さを異ならせることにより、当該ランスの保持力に差を持たせることが可能である。具体的には、前記第1グループに属するランスが第2グループに属するランスの曲げ剛性よりも高い曲げ剛性を有するものや、前記第1グループに属するランスの係止部が第2グループに属するランスの係止部よりも前記端子収容室内に入り込んだものが、好適である。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、複数の電線側端子と、これらの電線側端子の挿入を受け入れる複数の端子収容室を画定する絶縁ハウジングと、を備えたコネクタであって、当該絶縁ハウジングによる前記電線側端子の保持力を満足させながら当該電線側端子の前記端子収容室内への挿入作業を容易化することが可能なものが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るコネクタの正面図である。
図2】前記コネクタの端子収容室内を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1及び図2は、この実施の形態に係る電線用コネクタを示す。このコネクタは、電線束に含まれる複数の電線10をその電気接続対象に接続するためのものであり、当該電気接続対象は、限定されない。当該電気接続対象には、例えば、他の電線束、回路基板、電線同士を短絡させるためのバスバー、が含まれる。
【0018】
前記コネクタは、複数の電線側端子20と、これらを保持する絶縁ハウジング30と、を備える。
【0019】
前記複数の電線側端子20は、前記複数の電線10の端末にそれぞれ装着される。この実施の形態に係る各電線側端子20は、いわゆる雌型端子であり、電線圧着部22と、電気接触部24と、を有し、これらが単一の金属板により形成されている。
【0020】
前記電線圧着部22は、前記電線10の端末に圧着される部分であり、導体バレル25とインシュレーションバレル26とを有する。導体バレル25は、前記電線10の端末において露出した導体部分を抱き込むように当該導体部分に圧着され、前記インシュレーションバレル26は、当該導体部分が露出する位置の後ろ側で当該導体部分を覆う絶縁被覆を抱き込むように当該絶縁被覆に圧着される。ただし、本発明では電線への電線側端子の具体的な装着形態は限定されない。
【0021】
前記電気接触部24は、前記電気接続対象に含まれる端子と嵌合することにより当該電気接続対象に含まれる当該端子と電気的に接触する、つまり電気的導通を形成するように接触する、部位である。この実施の形態に係る電気接触部24は、雌型のもので、当該電気接触部24への相手方の雄端子の嵌入を受け入れる。本発明に係る電線側端子は、雌型に限らず、雄型であってもよい。
【0022】
前記絶縁ハウジング30は、前記各電線側端子の挿入をそれぞれ受け入れる複数の端子収容室を画定し、当該複数の端子収容室は、全体として矩形状をなすように縦横に配列されている。詳しくは、図1に示す例では、上下3段に亘ってそれぞれ8個(計24個)の端子収容室が配列されており、上から数えて第1段には左から順に端子収容室C11,C12,C13,C14,C15,C16,C17及びC18が配列され、第2段には左から順に端子収容室C21,C22,C23,C24,C25,C26,C27及びC28が配列され、第3段には左から順に端子収容室C31,C32,C33,C34,C35,C36,C37及びC38が配列されている。
【0023】
従って、前記各端子収容室に前記電線側端子20がそれぞれ挿入された状態で、各電線側端子20につながる複数の電線10からなる電線束は全体として前記複数の端子収容室の配列に対応した断面形状、図に示す例では略矩形の断面形状、を有することになる。
【0024】
図2は、前記複数の端子収容室のうちの一つである端子収容室C11を代表的に示す。他の端子収容室は端子収容室C11と同じ形状であり、よって以下の説明は当該他の端子収容室にも適用される。
【0025】
前記絶縁ハウジング30は、各端子収容室を囲む隔壁32を有する。端子収容室C11の軸方向の一端(図では右端)は当該軸方向に開口する端子挿入口33を構成し、当該端子挿入口33を通じて前記端子収容室C11内に前記電線側端子20が挿入される。前記端子挿入口33と反対の側には前記電線側端子20の電気接触部24に嵌入されるべき雄端子の挿通を許容する雄端子挿通口34が形成されている。
【0026】
前記絶縁ハウジング30は、さらに、前記各端子収容室C11(C12,…)において当該各端子収容室に挿入される前記電線側端子20を係止する複数の端子係止部を有する。この実施の形態では、前記各端子係止部は図2に示すようなランス40により構成される。
【0027】
前記各ランス40は、いわゆる片持ち梁状をなし、前記絶縁ハウジング30の隔壁32につながる基部42と、その反対側の端部である先端部44と、前記基部42から前記先端部44に亘り延びるアーム部43と、係止部である係止突起46と、を有する。前記アーム部43は、前記基部42を支点として前記先端部44を下向きに撓み変位させるように弾性変形することが可能である。前記係止突起46は、前記先端部44の近傍で前記アーム部43から上向きに突出する。その一方、前記電線側端子20の底壁の適所には、前記係止突起46が嵌まり込むことが可能な係止用孔28が形成されている。また、前記隔壁32には、前記退避位置に退避するランス40を受け入れるための退避用空間36が形成されている。
【0028】
前記ランス40は、前記先端部44の撓み変位により、図2に実線で示される係止位置から同図二点鎖線に示される退避位置に移動し、これにより、前記電線側端子20が前記係止突起46の上側を通過して前記端子収容室C11内に完全に挿入されることを許容する。このように当該電線側端子20が完全に挿入された状態でランス40はその係止突起46が前記端子収容室C11に挿入された前記電線側端子20の係止用孔28に嵌まり込む係止位置まで弾性復帰することが可能であり、この係止位置において前記電線側端子20を係止する、すなわち当該端子収容室C11内に保持する。
【0029】
前記複数のランス40は、基本的には互いに同一の形状を有するが、一部のランス40は他のランス40に比べて低い保持力及び挿入力を有するように、微妙な形状の相違が与えられている。ここで、前記保持力とは、前記ランス40がその係止突起46と前記電線側端子20との係合によって当該電線側端子20をこれに作用する引張力に抗して保持する力であり、前記挿入力とは、前記ランス40を前記退避位置まで撓ませながら前記電線側端子20を端子収容室内に完全挿入するために要する力である。従って、当該保持力と当該挿入力との間には相関関係があり、ランス40の保持力が高いほど当該ランス40が設けられている端子収容室に対する電線側端子20の挿入力が高い。
【0030】
前記複数のランス40は、前記保持力について、第1のグループに属するランス40と、第2のグループに属するランス40と、に分類され、第1のグループに属するランス40は、第2のグループに属するランス40がそれぞれ有する保持力よりも高い保持力を有する。そして、前記複数のランス40のうち、少なくとも、前記複数の端子収容室のうち最大直径方向の両外側に位置する端子収容室に与えられたランス40が、前記第1のグループ、すなわち保持力の高いランスのグループ、に属し、少なくとも、当該複数の端子収容室の配列の中心Oに最も近い端子収容室に与えられたランス40が、前記第2のグループ、すなわち保持力の低いランスのグループ、に属する。
【0031】
ここで、前記最大直径方向とは、互いに最も離れた端子収容室同士を結ぶ直線の方向をいう。従って、図に示すように複数の端子収容室が全体として矩形状に配列されている場合、その矩形の2本の対角線に沿う方向が「最大直径方向」であり、よって当該最大直径方向の両外側に位置する端子収容室とは、前記矩形の4つの角部に位置する端子収容室C11,C18,C31,C38が相当する。
【0032】
一方、前記複数の端子収容室の配列の中心Oとは、当該複数の端子収容室により特定される図形の図心に相当する。従って、図に示すように複数の端子収容室が全体として矩形状に配列されている場合、前記中心Oはその矩形の2本の対角線の交点に相当し、よって、当該中心Oに最も近い端子収容室には第2段中央の端子収容室C24,C25が相当する。
【0033】
前記第1及び第2グループ間でのランス40の保持力及び挿入力の差は、当該ランス40の曲げ剛性や係止突起46の位置を異ならせることにより、生じさせることができる。例えば、図2に示されるランス40のアーム部43の高さ寸法haを大きくし、あるいは当該アーム部43の電線側端子20の軸方向に沿った長さLを小さくすることにより、当該ランス40の曲げ剛性を大きくして当該ランス40の保持力及びこれに対応する挿入力を大きくすることができる。また、前記ランス40の係止突起46の高さheすなわち隔壁32から当該係止突起46までの距離を大きくする、つまり当該係止突起46を端子収容室の内側により入り込ませることにより、当該ランス40の保持力及びこれに対応する挿入力を大きくすることができる。
【0034】
このように、前記複数の電線側端子20が互いに同一の形状を有するにもかかわらず当該電線側端子20を保持するための端子係止部である各ランス40の保持力に差をもたせることが、前記電線束に作用する曲げ荷重に起因する電線側端子20の抜けの防止と、端子収容室内への電線側端子20の挿入の作業の容易化と、の両立を可能にする。
【0035】
具体的に、前記複数のランス40のうち、少なくとも、前記電線束の最大直径方向の両外側に位置する電線に装着された電線側端子20を保持するランス40、すなわち、前記電線束への曲げ荷重の作用によって最も大きな引張荷重が作用する可能性のあるランス40(図1では4つの角部に位置する端子収容室C11,C18,C31及びC38にそれぞれ設けられたランス40)は、前記第1のグループに属していて高い保持力を有するため、前記最大直径方向への前記電線束の曲げに伴う大きな引張荷重に対抗して前記電線側端子20を保持することが可能である。
【0036】
一方、前記曲げの中心軸に対応する前記中心Oに最も近い端子収容室(図1では中央のランスC24,C25)に設けられたランス40であって当該曲げに伴う引張荷重をほとんど受けないランス40は、前記第2のグループに属していて前記第1のグループに属するランス40よりも低い保持力を有するため、当該第2のグループに属するランス40に対応する端子収容室C24,C25への電線側端子20の挿入力が低く、その分、その挿入作業は容易になる。
【0037】
この効果が得られるコネクタは、図1に示されるように複数の端子収容室が縦横に配列されるものに限定されない。例えば、複数の端子収容室が一列に並ぶコネクタでは、少なくともその列の両外側に位置する端子収容室に設けられたランスが前記第1のグループに属し、少なくとも当該列の中央に位置する端子収容室に設けられたランスが前記第2のグループに属することにより、前記効果を得ることが可能である。
【0038】
本発明において、同じグループに属するランスが必ずしも同じ保持力を有していなくてもよく、少なくとも第1グループに属するランスが第2グループに属する各ランスの保持力よりも高い保持力を有していればよい。また、前記最大直径方向の両外側に位置する端子収容室(図1に示す例では端子収容室C11,C18,C31,C38)及び前記中心Oに最も近い端子収容室(図1に示す例ではC24,C25)を除く端子収容室に設けられるランスは、第1及び第2グループのいずれに属してもよい。
【0039】
一方、例えば図1に示されるように、前記複数の端子収容室が矩形状に配列されている場合、その矩形の長辺方向の両外側(図1では左右両外側)に位置する全ての端子収容室(図1では端子収容室C11,C18,C21,C28,C31及びC38)に設けられたランスが前記第1のグループに属することが、好ましい。これにより、前記電線束に前記長辺方向の曲げ荷重が作用したときに両外側に位置する電線に装着された各電線側端子20の抜けの抑制をより確実にすることができる。
【0040】
さらに、前記複数の端子収容室のうち最外周に位置する端子収容室(図1に示す例では着色された端子収容室C11〜C18,C21,C28及びC31〜C38)に設けられるランス40の全てが前記第1のグループに属することにより、前記電線束に対するあらゆる方向の曲げ荷重に対抗して電線側端子を保持することが可能である。さらに、当該最外周に位置する端子収容室の内側に位置する端子収容室(図1に示す例では端子収容室C22〜C27)に設けられる全てのランスが前記第2のグループに属することにより、電線側端子20の挿入作業が容易な端子収容室の数を多くすることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 電線
20 電線側端子
30 絶縁ハウジング
40 ランス
42 基部
43 アーム部
44 先端部
46 係止突起
C11,C12,… 端子収容室
O 端子収容室の配列の中心
図1
図2