特許第6447369号(P6447369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447369
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20181220BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20181220BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   H01F17/04 A
   H01F17/00 B
   H01F41/04 C
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-110591(P2015-110591)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-225465(P2016-225465A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】大久保 等
(72)【発明者】
【氏名】荒田 正純
(72)【発明者】
【氏名】太田 学
(72)【発明者】
【氏名】要 優也
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】川原 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】江田 北斗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂樹
【審査官】 竹下 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−032625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−21/12
27/00
27/02
27/06
27/08
27/23
27/26
27/28−27/29
27/30−27/32
27/36
27/42
38/42−41/04
41/08
41/10−41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面上に設けられたコイルであって、前記基板の主面上に配されたシード部と該シード部上にめっき成長させためっき部とを有するコイルと、
前記基板の主面上に設けられ、前記コイルの巻回部が間に延びる複数の樹脂壁を有する樹脂体と、
磁性粉含有樹脂からなり、前記基板の主面の前記コイルと前記樹脂体とを一体的に覆う被覆樹脂と
を備え、
隣り合う一対の前記樹脂壁それぞれと、該一対の樹脂壁の間の前記シード部とは、所定距離だけ離間しており、
前記基板の主面上に複数並んだ樹脂壁のうち、最外に位置する樹脂壁の厚さおよび最内に位置する樹脂壁の厚さが、最外に位置する樹脂壁と最内に位置する樹脂壁との間に位置する樹脂壁の厚さより厚い、コイル部品。
【請求項2】
前記一対の樹脂壁の間の前記シード部は、少なくとも、前記隣り合う一対の前記樹脂壁の中間位置に形成されている、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記隣り合う一対の樹脂壁それぞれと、該一対の樹脂壁の間の前記シード部とは、等距離だけ離間している、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記一対の樹脂壁の間の前記シード部の幅をW1とし、該一対の樹脂壁の間隔をW2としたときに、W1/W2≧1/5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記樹脂体の樹脂壁の断面形状が矩形状である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記樹脂体の樹脂壁のアスペクト比が1より大きく、該樹脂壁が前記基板の主面の法線方向に沿って長く延びている請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記コイルの巻回部の断面形状が矩形状である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記コイルの巻回部の断面はアスペクト比が1より大きく、該巻回部の断面が前記基板の主面の法線方向に沿って長く延びている、請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記樹脂体の樹脂壁の高さが前記コイルの巻回部の高さより高い、請求項1〜8のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項10】
記コイルの巻回部は、前記樹脂体の樹脂壁に接着されていない、請求項1〜9のいずれか一項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面実装型の平面コイル素子等のコイル部品が、民生用機器、産業用機器等の電気製品に幅広く利用されている。中でも小型携帯機器においては、機能の充実化に伴い、各々のデバイスを駆動させるために単一の電源から複数の電圧を得る必要が生じてきている。そこで、このような電源用途等にも表面実装型の平面コイル素子が使用されている。
【0003】
このようなコイル部品は、たとえば、下記特許文献1に開示されている。この文献に開示されたコイル部品は、基板の表裏面にそれぞれ平面渦巻き状の空芯コイルが設けられ、空芯コイルの磁芯部分において基板を貫くように設けられたスルーホール導体により空芯コイル同士が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−210010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した空芯コイルは、基板上に設けられたシードパターンに、Cuなどの導体材料をめっき成長させることで形成されるが、基板の面方向へのめっき成長によりコイルの巻回部の間隔が狭まる。コイルの巻回部の間隔が狭い場合には、コイルの絶縁性低下が懸念されるため、より確実に絶縁する技術が望まれている。
【0006】
そこで、コイルの隣り合う巻回部の間に樹脂壁を設けて確実な絶縁を図る技術の開発が進められている。ただし、コイルの巻回部をめっき成長により形成する際、巻回部が基板に対して傾いて成長し、それにより表面の一部が大きく窪み、厚さが大きく変化する巻回部が得られる。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、巻回部の厚さ変化が抑制されたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るコイル部品は、基板と、基板の主面上に設けられたコイルであって、基板の主面上に配されたシード部と該シード部上にめっき成長させためっき部とを有するコイルと、基板の主面上に設けられ、コイルの巻回部が間に延びる複数の樹脂壁を有する樹脂体と、磁性粉含有樹脂からなり、基板の主面のコイルと樹脂体とを一体的に覆う被覆樹脂とを備え、隣り合う一対の樹脂壁それぞれと、該一対の樹脂壁の間のシード部とは、所定距離だけ離間している。
【0009】
このようなコイル部品においては、隣り合う一対の樹脂壁それぞれと、該一対の樹脂壁の間のシード部とは、所定距離だけ離間しているため、隣り合う一対の樹脂壁の間において、シード部上に成長されるめっき部が均等に成長しやすくなっている。そのため、めっき成長により、表面がなだらかで、厚さ変化が抑制された巻回部が得られる。
【0010】
また、一対の樹脂壁の間のシード部は、少なくとも、隣り合う一対の樹脂壁の中間位置に形成されている態様であってもよい。さらに、隣り合う一対の樹脂壁それぞれと、該一対の樹脂壁の間のシード部とは、等距離だけ離間している態様であってもよい。これらの場合、隣り合う一対の樹脂壁の中間位置に関して対称形状の巻回部が得られ易く、厚さ変化がより一層抑制される。
【0011】
また、一対の樹脂壁の間のシード部の幅をW1とし、該一対の樹脂壁の間隔をW2としたときに、W1/W2≧1/5である態様であってもよい。この場合、シード部が基板に対して十分な結合力を有し、シード部が基板から剥離する事態が抑制される。
【0012】
また、樹脂体の樹脂壁の断面形状が矩形状である態様であってもよい。このとき、樹脂体の樹脂壁のアスペクト比が1より大きく、該樹脂壁が基板の主面の法線方向に沿って長く延びている態様であってもよい。
【0013】
また、コイルの巻回部の断面形状が矩形状である態様であってもよい。このとき、コイルの巻回部の断面はアスペクト比が1より大きく、該巻回部の断面が基板の主面の法線方向に沿って長く延びている態様であってもよい。
【0014】
また、樹脂体の樹脂壁の高さがコイルの巻回部の高さより高い態様であってもよい。この場合、巻回部は、高さ方向にわたって設計寸法どおりの厚さとなり得る。また、巻回部同士が樹脂壁を越えて接する事態が有意に回避される。
【0015】
また、樹脂体は、基板の主面上にコイルがめっき成長される前に設けられ、コイルの巻回部は、樹脂体の樹脂壁に接着されていない態様であってもよい。
【0016】
また、基板の主面上に複数並んだ樹脂壁のうち、最外に位置する樹脂壁の厚さが内側に位置する樹脂壁の厚さより厚い態様であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、巻回部の厚さ変化が抑制されたコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係るコイル部品の概略斜視図である。
図2図2は、図1に示すコイル部品の製造に用いられる基板を示した斜視図である。
図3図3は、図2に示した基板のシードパターンを示した平面図である。
図4図4は、図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
図5図5は、図4のV−V線断面図である。
図6図6は、コイルの巻回部上に設けられる絶縁体を示した断面図である。
図7図7は、図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
図8図8は、図1に示すコイル部品の製造方法の一工程を示した斜視図である。
図9図9は、巻回部のめっき成長の様子を示した図である。
図10図10は、巻回部のめっき成長の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
まず、本発明の実施形態に係るコイル部品の構造について、図1〜4を参照しつつ説明する。説明の便宜上、図示のようにXYZ座標を設定する。すなわち、平面コイル素子の厚さ方向をZ方向、外部端子電極の対面方向をY方向、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向と設定する。
【0021】
コイル部品1は、略直方体形状を呈する本体部10と、本体部10の対向する一対の端面を覆うようにして設けられた一対の外部端子電極30A、30Bとによって構成されている。コイル部品1は、一例として、長辺2.0mm、短辺1.6mm、高さ0.9mmの寸法で設計される。
【0022】
以下では、本体部10を作製する手順を示しつつ、併せて、コイル部品1の構造についても説明する。
【0023】
本体部10は、図2に示す基板11を含んでいる。基板11は、非磁性の絶縁材料で構成された平板矩形状の部材である。基板11の中央部分には、主面11a、11b間を繋ぐように貫通された略円形の開口12が設けられている。基板11としては、ガラスクロスにシアネート樹脂(BT(ビスマレイミド・トリアジン)レジン:登録商標)が含浸された基板で、板厚60μmのものを用いることができる。なお、BTレジンのほか、ポリイミド、アラミド等を用いることもできる。基板11の材料としては、セラミックやガラスを用いることもできる。基板11の材料としては、大量生産されているプリント基板材料が好ましく、特にBTプリント基板、FR4プリント基板、あるいはFR5プリント基板に用いられる樹脂材料が最も好ましい。
【0024】
基板11には、図3に示すように、それぞれの主面11a、11bに、後述するコイル13をめっき成長させるためのシードパターン13Aが形成されている。シードパターン13Aは、基板11の開口12の周りを回る螺旋パターン14Aと、基板11のY方向に関する端部に形成された端部パターン15Aとを有し、これらのパターン14A、15Aが連続的かつ一体的に形成されている。なお、一方の主面11a側に設けられるコイル13と他方の主面11b側に設けられるコイル13とでは電極引き出し方向が逆であり、そのため、一方の主面11a側の端部パターン15Aと他方の主面11b側の端部パターンとは、基板11のY方向に関する互いに異なる端部に形成されている。
【0025】
図2に戻って、基板11の各主面11a、11b上には、樹脂体17が設けられている。樹脂体17は、公知のフォトリソグラフィーによってパターニングされた厚膜レジストである。樹脂体17は、コイル13の巻回部14の成長領域を画定する樹脂壁18と、コイル13の引出電極部15の成長領域を画定する樹脂壁19とを有している。
【0026】
図4は、シードパターン13Aを用いてコイル13をめっき成長させたときの基板11の状態を示している。コイル13のめっき成長には、公知のめっき成長方法を採用することができる。
【0027】
コイル13は、銅で構成されており、シードパターン13Aの螺旋パターン14A上に形成された巻回部14と、シードパターン13Aの端部パターン15A上に形成された引出電極部15とを有している。コイル13は、平面視したときに、シードパターン13A同様、基板11の主面11a、11bに平行に延在する平面渦巻き状の空芯コイルの形状となっている。より詳しくは、基板上面11aの巻回部14は、上面側から見て外側に向かう方向に沿って左回転の渦巻きであり、基板下面11bの巻回部14は、下面側から見て、外側に向かう方向に沿って左回転の渦巻きである。基板上面11aおよび基板下面11bの両コイル13は、たとえば、開口12の近傍に別途設けられた貫通孔を介して端部同士が接続される。両コイル13に一方向に電流を流したときには、両コイル13の電流の流れる回転方向が同一となるため、コイル13で発生する磁束が重畳して強め合う。
【0028】
図5は、図4に示しためっき成長後の基板11の状態を示しており、図4のV−V線断面図である。
【0029】
図5に示すように、基板11上には、基板11の法線方向(Z方向)に沿って長く延びる矩形状断面の樹脂壁18が形成されており、これらの樹脂壁18の間においてコイル13の巻回部14がZ方向に成長する。コイル13の巻回部14は、その成長領域が、めっき成長前に基板11上に形成された樹脂壁18によって予め画定されている。
【0030】
コイル13の巻回部14は、螺旋パターン14Aの一部であるシード部14aと、シード部14a上にめっき成長させためっき部14bとで構成されており、シード部14a周りにめっき部14bが徐々に成長していくことにより形成される。このとき、コイル13の巻回部14は、隣り合う2つの樹脂壁18の間に画成された空間を充たすように成長して、樹脂壁18の間に画成された空間と同一の形状に形成され、その結果、コイル13の巻回部14は基板11の法線方向(Z方向)に沿って長く延びる形状となる。すなわち、樹脂壁18の間に画成される空間の形状を調整することで、コイル13の巻回部14の形状が調整され、設計したとおりの形状にコイル13の巻回部14を形成することができる。
【0031】
また、シード部14aは、左右の樹脂壁18との間にクリアランスCLが設けられており、左右の樹脂壁18それぞれから所定距離だけ離間している。図5に示した例では、シード部14aの中心が、左右の樹脂壁18の中間位置(図の一点鎖線)に位置しており、シード部14aの左右のクリアランスCLは同じ大きさになっている。さらに、シード部14aの幅をW1とし、左右の樹脂壁の間隔をW2としたときに、W1/W2≧1/5となっている。なお、左右の樹脂壁の間隔W2は、上述した巻回部14のめっき部14bの厚さDと等しい。
【0032】
コイル13の巻回部14の断面寸法は、一例として、高さ50〜260μm、幅(厚さ)10〜260μm、アスペクト比1〜20である。コイル13の巻回部14のアスペクト比は2〜10、または10〜20であってもよい。樹脂壁18の断面寸法は、一例として、高さ50〜300μm、幅(厚さ)5〜30μm、アスペクト比5〜30であり、10〜30であってもよい。樹脂壁18の断面寸法は、高さ180〜300μm、幅(厚さ)5〜12μm、アスペクト比15〜30であってもよい。シード部14aの断面寸法は、幅5〜300μm(たとえば、15μm)、高さ2〜80μm(たとえば、10μm)である。また、クリアランスCLの大きさは、1〜40μm(たとえば、20μm)である。
【0033】
コイル13の巻回部14は、隣り合う2つの樹脂壁18の間を成長する際、成長領域を画定する樹脂壁18の内側面に接しながら成長していく。このとき、コイル13の巻回部14と樹脂壁18との間には、機械的結合も化学的結合も生じない。すなわち、コイル13の巻回部14は、樹脂壁18と接着されないままめっき成長し、非接着状態で樹脂壁18の間に介在する。本明細書において「非接着状態」とは、アンカー効果等の機械的結合および共有結合等の化学的結合が生じていない状態をいう。
【0034】
図5に示すとおり、コイル13の巻回部14の高さhは、樹脂壁18の高さHよりも低いこと(h<H)が好ましい。すなわち、コイル13の巻回部14のめっき成長が樹脂壁18の高さHよりも低い位置で止まるように調整することが好ましい。コイル13の巻回部14の高さhが樹脂壁18の高さHよりも低いと、巻回部14は高さ方向にわたって設計寸法どおりの厚さとなる。また、コイル13の巻回部14の高さhが、樹脂壁18の高さHより高いと、隣り合う巻回部14同士が接触したり後述する絶縁体40や接合層41の厚さを十分に確保できなくなったりする事態が生じ、コイル13の耐圧抵抗が低下するためである。
【0035】
また、コイル13の巻回部14の厚さDは、高さ方向にわたって均一になっている。これは、隣り合う樹脂壁18の間隔が高さ方向にわたって均一になっているためである。
【0036】
なお、図5に示した態様では、各樹脂壁18の厚さd1、d2も、コイル13の巻回部14同様、高さ方向にわたって均一となっている。その結果、隣り合うコイル13の巻回部14の間隔が、高さ方向にわたって均一になる。すなわち、コイル13の巻回部14は、高さ方向に関して局所的に薄くなっている箇所(つまり、局所的に耐圧抵抗が低下している箇所)が存在しない、または存在しにくい構造となっている。
【0037】
また、樹脂壁18によって画成された空間は、上端が開放されており、樹脂壁18の上端部が巻回部14の上側を覆うように回り込んでいないため、巻回部14の上側の設計自由度が高い。すなわち、巻回部14の上に任意の層を形成する態様も何の層も形成しない態様も選択し得る。
【0038】
巻回部14の上に層を形成する場合には、各種の層形態や層材料を選択し得る。たとえば、図6に示すように、巻回部14の上に、後述する被覆樹脂21に含まれる金属磁性粉と巻回部14との間の絶縁性を高めるために、絶縁体40を設けることができる。絶縁体40は、絶縁樹脂または絶縁磁性材料で構成することができる。また、絶縁体40は、巻回部14の上面14cに直接的または間接的に接するとともに、巻回部14と樹脂壁18とを一体的に覆っている。なお、絶縁体40は、巻回部14のみを選択的に覆う構成にすることもできる。また、巻回部14と絶縁体40との間の接合性を高めるために、所定の接合層(たとえば、銅めっきの酸化による黒化層)41を設けることができる。
【0039】
さらに、図5に示すとおり、複数の樹脂壁18のうち、最外に位置する樹脂壁18の厚さd1が内側に位置する樹脂壁18の厚さd2より厚いこと(d1>d2)が好ましい。この場合、コイル部品1の作製時や使用時に受けるZ方向の圧力に対して剛性が付与される。厚さが厚い樹脂壁18を最外位置に配置することで、この部分において主に上記圧力を受け止める。剛性の観点からは、両端に位置する樹脂壁18の両方が、内側に位置する樹脂壁18の厚さより厚いことが好ましい。
【0040】
なお、上述したコイル13のめっき成長は、基板11の両主面11a、11bにおいておこなわれる。両主面11a、11bのコイル13同士は、基板11の開口においてそれぞれの端部同士が接続されて導通される。
【0041】
基板11上にコイル13をめっき成長させた後、図7に示すように、基板11は被覆樹脂21で全体的に覆われる。すなわち、被覆樹脂21が、基板11の主面11a、11bのコイル13と樹脂体17とを一体的に覆う。樹脂体17は、被覆樹脂21内に残ったままコイル部品1の一部を構成する。被覆樹脂21は、金属磁性粉含有樹脂からなり、ウエハ状態の基板11の上に形成され、その後、硬化されることにより形成される。
【0042】
被覆樹脂21を構成する金属磁性粉含有樹脂は、金属磁性粉が分散された樹脂で構成されている。金属磁性粉は、たとえば鉄ニッケル合金(パーマロイ合金)、カルボニル鉄、アモルファス、非晶質または結晶質のFeSiCr系合金、センダスト等で構成され得る。金属磁性粉含有樹脂に用いられる樹脂は、たとえば熱硬化性のエポキシ樹脂である。金属磁性粉含有樹脂に含まれる金属磁性粉の含有量は、一例として、90〜99wt%である。
【0043】
さらに、ダイシングしてチップ化することで、図8に示す本体部10が得られる。チップ化した後、必要に応じてバレル研磨等によりエッジの面取りをおこなってもよい。
【0044】
最後に、本体部10の端部パターン15Aが露出した端面(Y方向において対向する端面)に、端部パターン15Aと電気的に接続されるように外部端子電極30A、30Bを設けることで、コイル部品1が完成する。外部端子電極30A、30Bは、コイル部品を搭載する基板の回路に接続するための電極であり、複数層構造とすることができる。たとえば、外部端子電極30A、30Bは、端面に樹脂電極材料を塗布した後、その樹脂電極材料に金属めっきを施すことにより形成することができる。外部端子電極30A、30Bの金属めっきには、Cr、Cu、Ni、Sn、Au、はんだ等を用いることができる。
ここで、図9、10を参照しつつ、巻回部14のめっき成長について説明する。
【0045】
上述したコイル部品1においては、図9に示すように、シード部14aと左右の樹脂壁18との間にクリアランスCLが設けられている。そのため、めっき部14bは、その成長段階(特に、成長初期段階)において、左右の樹脂壁18に阻害されにくい。したがって、めっき部14bは、左右同じような速度で、均等に、上方向(基板11の主面11aの法線方向)に成長していく。その結果、得られる巻回部14の厚さもおおよそ均一であり、基板11の主面11aに対して平行な上面14cを有する巻回部14が得られる。
【0046】
図10には、比較のために、シード部14aと左右の樹脂壁18との間にクリアランスCLが存在しない態様を示している。クリアランスCLが存在しない態様としては、シード部14aが樹脂壁18に接したり、樹脂壁18の内部に入り込んだりする態様があり得る。この場合、めっき部14bは、成長初期段階において、接している樹脂壁18により成長が阻害され、その後、傾いた状態で成長していく。その結果、得られる巻回部14の厚さが左右で大きく異なり、左右の厚さ変化が大きい巻回部14が得られる。図10に示した例では、巻回部14は、シード部14aが樹脂壁18に接する左側の厚さが厚く、右側の厚さが相対的に薄くなっている。このとき、巻回部14の上面14cは基板11の主面11aに対して大きく傾斜する。
【0047】
以上で説明したとおり、上述したコイル部品1によれば、隣り合う一対の樹脂壁18それぞれと、該一対の樹脂壁18の間のシード部14aとは、所定距離だけ離間しているため、隣り合う一対の樹脂壁18の間において、シード部14a上に成長されるめっき部14bが均等に成長しやすくなっている。そのため、めっき成長により、表面がなだらかで、厚さ変化が抑制された巻回部14が得られる。
【0048】
特に、コイル部品1においては、シード部14aが左右の樹脂壁18の中間位置に形成されており、左右のクリアランスCLが同じ大きさであるため、左右の樹脂壁18の中間位置に関して対称形状の巻回部14が得られ易く、厚さ変化がより一層抑制される。
【0049】
一方、隣り合う一対の樹脂壁18それぞれと、該一対の樹脂壁18の間のシード部14aとが離間していない場合、厚さ変化の大きな巻回部14が得られる。特に、図10に示したように、シード部14aが樹脂壁18の内部に入り込んだ場合には、その箇所の樹脂壁18の厚さが薄くなり、樹脂壁18を挟んで隣り合う巻回部14間の耐圧が低くなるという不具合も生じる。
【0050】
コイル部品1においては、シード部14aの幅W1と樹脂壁18の間隔W2とが、W1/W2≧1/5との関係を満たすため、シード部14aが基板11から剥離しない程度に十分な大きさの結合力が得られるように、シード部14aの幅が設計されている。それにより、シード部14aが基板11から剥離する事態の抑制が図られている。
【0051】
さらに、コイル部品1によれば、複数の樹脂壁18の間にコイル13の巻回部14が非接着状態で介在するため、コイル13の巻回部14と樹脂壁18とが互いに対して変位可能である。そのため、コイル部品1の使用環境が高温になったときなどの周辺温度に変化があり、コイル13の巻回部14と樹脂壁18との間の熱膨張係数の差に起因する応力が生じた場合であっても、コイル13の巻回部14と樹脂壁18とが相対移動することでその応力が緩和される。
【0052】
また、コイル部品1の製造方法によれば、樹脂体17の樹脂壁18の間に介在するように、コイル13の巻回部14がめっき成長されている。すなわち、被覆樹脂21でコイル13を覆う前に、コイル13の巻回部14間にはすでに樹脂壁18が介在している。そのため、コイル13の巻回部14間に樹脂を別途に充填する必要はなく、樹脂壁18によりコイル13の巻回部14間の樹脂の寸法精度の安定化が図られる。
【0053】
なお、コイル部品1は、上述した形態に限らず、様々な形態を採用することができる。
【0054】
たとえば、シード部14aの左右のクリアランスCLの大きさは、必ずしも同じである必要はなく、シード部14aと樹脂壁18それぞれとの間にクリアランスCLが設けられていれば、シード部14aは一方の樹脂壁18側に偏って配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…コイル部品、11…基板、13…コイル、14…巻回部、14a…シード部、14b…めっき部、14c…上面、17…樹脂体、18…樹脂壁、21…被覆樹脂、30A、30B…外部端子電極、40…絶縁体。
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9
図10