(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の多発性硬化症の治療剤又は予防剤は、下記の一般式(I)で示されるシクロヘキサン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴としている。
【化6】
[式中、Aは、下記一般式(IIa)又は(IIb)で表される置換基であり、
【化7】
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、炭素数1〜3のハロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はシアノ基であり、R
3は、水素原子又は塩素原子であり、R
4は、フッ素原子、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基であり、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のハロアルキル基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシル基又は炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基であるか、一緒になってオキソ基を形成してもよく、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素原子又はフッ素原子であり、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、窒素原子又はメチン基である。]
【0019】
また本発明の多発性硬化症の治療剤又は予防剤は、下記の一般式(I)で示されるシクロヘキサン誘導体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴としている。
【化8】
[式中、Aは、一般式(IIc)又は(IId)で表される置換基であり、
【化9】
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、炭素数1〜3のハロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R
3は、水素原子又は塩素原子であり、R
4は、フッ素原子、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基であり、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のハロアルキル基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシル基又は炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基であるか、一緒になってオキソ基を形成してもよく、Yは、酸素原子又は硫黄原子であり、Zは、窒素原子又はメチン基である。]
【0020】
「炭素数1〜4のアルキル基」とは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基が挙げられる。
【0021】
「炭素数1〜4のアルコキシ基」とは、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル−オキシ基を表し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基又はtert−ブトキシ基が挙げられる。
【0022】
「炭素数1〜3のハロアルキル基」とは、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基上の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子(ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す)で置換されている基を表し、例えば、モノクロロメチル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基又はペンタフルオロエチル基が挙げられる。
【0023】
「炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基」としては、例えば、アセチルオキシ基、エタノイルオキシ基、プロパノイルオキシ基、イソプロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、イソブタノイルオキシ基又はピバロイルオキシ基が挙げられる。
【0024】
上記の一般式(I)において、Aとしては、一般式(IIa)が好ましく、Yとしては、酸素原子が好ましく、Zとしては、メチン基が好ましい。
【0025】
上記の一般式(I)において、R
1としては、水素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基又はイソプロピルオキシ基が好ましく、トリフルオロメチル基、メチル基又はメトキシ基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0026】
上記の一般式(I)において、R
2としては、水素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基又はイソプロピルオキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0027】
上記の一般式(I)において、R
3としては、水素原子が好ましく、R
4としては、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシル基が好ましく、ヒドロキシル基がより好ましい。
【0028】
上記の一般式(I)において、R
5としては、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ヒドロキシル基、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基又はイソブタノイルオキシ基が好ましく、水素原子、ヒドロキシル基又はカルボキシル基がより好ましく、ヒドロキシル基がさらに好ましい。
【0029】
上記の一般式(I)において、R
6としては、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ヒドロキシル基、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基又はイソブタノイルオキシ基が好ましく、水素原子又はヒドロキシル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。また、R
5とR
6とが一緒になって、オキソ基を形成してもよい。
【0030】
また、上記の一般式(I)において、R
7及びR
8としては、水素原子が好ましい。
【0031】
上記の一般式(I)で示されるシクロヘキサン誘導体(以下、シクロヘキサン誘導体(I))のうち、好ましい具体例を表1−1〜表1−4に示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0036】
なお、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩に不斉炭素が存在する場合には、全ての鏡像異性体及びそれらの混合物が、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩に含まれる。
【0037】
さらに、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩に立体異性体が存在する場合には、全ての立体異性体及びそれらの混合物が、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩に含まれる。
【0038】
「薬理学的に許容される塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩若しくは臭化水素酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩若しくはケイ皮酸塩等の有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩基塩又はメチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジニウム塩、トリエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩若しくはグアニジン塩等の有機塩基塩が挙げられる。さらに、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、水和物又は溶媒和物を形成してもよく、結晶多形もこれに含まれる。
【0039】
シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、例えば、公知文献(国際公開第2010/050577号)に記載の方法に従って合成することができる。
【0040】
シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が多発性硬化症の治療又は予防に有効であることは、病態モデルを用いて評価できる。病態モデルとしては、例えば、実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル(Journal of Neuroscience Research、2006年、第84巻、p.1225−1234、International Immunology、1997年、第9巻、p.1243−1251)が挙げられる。実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルは、実験動物をミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(以下、MOG)又はプロテオリピド蛋白質(以下、PLP)若しくはそれらの部分ペプチドで免疫することにより、中枢神経系の脱髄による後肢麻痺等の神経障害が惹起される動物モデルである。その症状及び病理所見のヒトへの類似性から、多発性硬化症の治療剤又は予防剤の薬効検討に広く用いられている。多発性硬化症の治療又は予防に対する有効性は、上記の実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルを用いて、例えば、多発性硬化症の特徴的指標である神経症状スコアの低下を指標に評価することができる。
【0041】
トロンビン活性に対するシクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の作用は、in vitro試験を用いて評価できる。in vitro試験としては、例えば、トロンビンのプロテアーゼ活性を測定する方法が挙げられる。トロンビンのプロテアーゼ活性を評価する方法としては、例えば、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して、トロンビンによる基質の切断を測定する方法が挙げられる(Advanced Functional Materials、第20巻、第18号、2010年、p.3175−3182)。
【0042】
上記の多発性硬化症の治療剤又は予防剤は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル又はヒト)に対する優れた多発性硬化症の治療及び予防に有用な医薬品として用いることができる。
【0043】
上記の多発性硬化症の治療剤又は予防剤の投与形態としては、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を、そのまま又は医薬として許容される担体を配合して、経口的又は非経口的に投与することができる。
【0044】
シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を含有する製剤を経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤が挙げられ、また、非経口投与する場合の剤形としては、例えば、注射剤、注入剤、点滴剤又は坐剤が挙げられる。また、適当な基剤(例えば、酪酸の重合体、グリコール酸の重合体、酪酸−グリコール酸の共重合体、酪酸の重合体とグリコール酸の重合体との混合物又はポリグリセロール脂肪酸エステル)と組み合わせて、徐放性製剤とすることも有効である。
【0045】
シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を含有する上記の剤形の製剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができる。この場合、必要に応じて、製剤分野において一般的に用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0046】
シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を含有する錠剤の調製は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を含有させて行うことができ、丸剤及び顆粒剤の調製は、賦形剤、結合剤、崩壊剤等を含有させて行うことができる。また、散剤及びカプセル剤の調製は賦形剤等を、シロップ剤の調製は甘味剤等を、乳剤又は懸濁剤の調製は、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を含有させて行うことができる。
【0047】
上記の賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、デンプン、ショ糖、微結晶セルロース、カンゾウ末、マンニトール、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム又は硫酸カルシウムが挙げられる。
【0048】
上記の結合剤としては、例えば、デンプンのり液、アラビアゴム液、ゼラチン液、トラガント液、カルボキシメチルセルロース液、アルギン酸ナトリウム液又はグリセリンが挙げられる。
【0049】
上記の崩壊剤としては、例えば、デンプン又は炭酸カルシウムが挙げられる。
【0050】
上記の滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム又は精製タルクが挙げられる。
【0051】
上記の甘味剤としては、例えば、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン又は単シロップが挙げられる。
【0052】
上記の界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル又はステアリン酸ポリオキシル40が挙げられる。
【0053】
上記の懸濁化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース又はベントナイトが挙げられる。
【0054】
上記の乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン又はポリソルベート80が挙げられる。
【0055】
さらに、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩を含有する製剤を上記の剤形に調製する場合には、製剤分野において一般的に用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤、粘稠剤等を添加することができる。
【0056】
上記の製剤の1日あたりの投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、経口投与する場合には成人(体重約60kg)であれば1mg〜1000mgの範囲で、1〜3回に分けて投与することが好ましく、非経口投与する場合には、注射剤であれば体重1kgあたり0.01〜100mgの範囲で静脈注射により投与することが好ましい。
【0057】
上記の多発性硬化症の治療剤又は予防剤は、他の多発性硬化症の治療剤若しくは予防剤、又は、多発性硬化症患者の痙攣、痙縮等の症状に対する治療剤若しくは予防剤と組み合わせて用いても良い。
【0058】
他の多発性硬化症の治療剤若しくは予防剤としては、例えば、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン等)、免疫抑制剤(フィンゴリモド、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロフォスファミド、シクロスポリンA、タクロリムス、ミゾリビン、レフルノミド等)、インターフェロン製剤(インターフェロンα、インターフェロンβ−1b、インターフェロンβ−1a等)、コポリマーI、免疫グロブリン、ミトキサントロン、酢酸グラチラマー、T細胞レセプターワクチン、接着分子阻害剤、鎮痛剤(インドメタシン、ジクロフェナック等)又は筋弛緩剤(チザニジン、エペリゾン、アフロクァロン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンナトリウム等)が挙げられる。
【0059】
多発性硬化症患者の痙攣、痙縮等の症状に対する治療剤又は予防剤としては、例えば、抗痙攣剤(カルバマゼピン、フェニトイン、クロナゼパム、アミトリプチン等)が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(MOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおけるシクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の30mg/kgでの評価)
MOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルの神経症状スコアの上昇に対する、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の作用を評価した。マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルは、Journal of Neuroscience Research、2006年、84巻、p.1225−1234に記載の方法を一部改変して作製した。
【0062】
4mg/mLの濃度に調製したMOGの部分合成ペプチド(MOG35−55;CS Bio社)を含むPBS溶液とFreundの完全アジュバントとを等量混合したMOG35−55投与液を、C57BL/6J系マウス(雄、7週齢)(日本チャールス・リバー株式会社)の側腹部両側の皮内に計0.1mL(片側0.05mL)接種した。さらに、MOG35−55投与液の接種当日及び2日後に、1μg/mLの濃度に調製した百日咳毒素(Sigma社)をマウス腹腔内に200μL投与した。
【0063】
被験化合物としては、下記の化学式で示される、1−(1−(4−メトキシフェニル)−5−(p−トリル)−1H−ピラゾール−3−イル)シクロヘキサン−シス−1,4−ジオール(以下、化合物3)を用い、公知文献(国際公開第2010/050577号)に記載の方法に従って合成した。
【化10】
【0064】
また、下記の化学式で示される比較対照化合物1は、公知文献(国際公開第2008/105383号)に記載の参考例99(N−Boc保護体)を、トリフルオロ酢酸等を用いて脱Boc化することによって合成し、下記の化学式で示される比較対照化合物2は、公知文献(国際公開第2010/050577号)に記載の比較例2の合成方法に基づいて合成した。
【化11】
【化12】
【0065】
MOG35−55投与液の接種3日前から16日間連日、マウスに化合物3を30mg/kgの用量で1日2回経口投与した。なお、化合物3は、0.5%メチルセルロース溶液に懸濁して用いた。マウスに化合物3を投与した群を、化合物3投与群とした。溶媒投与群には、0.5%メチルセルロース溶液を同様に投与した。
【0066】
MOG35−55投与液の接種13日後に神経症状スコアをスコアリング(0:正常、1:尻尾弛緩又は後肢衰弱、2:尻尾弛緩及び後肢衰弱、3:後肢部分麻痺、4:後肢完全麻痺、5:瀕死状態)した。スコアリング方法は、Current Protocols in Immunology(John Wiley & Sons.Inc、2000年、p.15.1.1−15.1.20)に記載された方法を用いた。
【0067】
結果を
図1に示す。縦軸は神経症状スコア(平均値±標準誤差、n=10)を示す。横軸の「溶媒」は、MOG35−55投与液を接種したマウスに0.5%メチルセルロース溶液を経口投与した群(溶媒投与群)を示し、「化合物3」は、MOG35−55投与液を接種したマウスに化合物3を30mg/kgの用量で1日2回経口投与した群(化合物3投与群)を示す。
【0068】
MOG35−55投与液の接種により、溶媒投与群の神経症状スコアは2.8まで上昇した。これに対し、化合物3投与群は神経症状スコアの上昇を著しく抑制した。化合物3による神経症状悪化の抑制率は85.7%であった。
【0069】
また、比較対照化合物1及び比較対照化合物2についても同様に評価した。すなわち、MOG35−55投与液の接種3日前から16日間連日、マウスに0.5%メチルセルロース溶液に懸濁した比較対照化合物1又は比較対照化合物2を30mg/kgの用量で1日2回経口投与し、MOG35−55投与液の接種13日後に神経症状スコアをスコアリングした。比較対照化合物1及び比較対照化合物2による神経症状悪化の抑制率は、それぞれ3.3%及び6.5%であった。
【0070】
この結果から、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、多発性硬化症に対して著しい神経症状抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0071】
(MOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおけるシクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の3mg/kg及び10mg/kgでの評価)
MOG誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルの神経症状スコアの上昇に対する、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の作用を評価した。
【0072】
4mg/mLの濃度に調製したMOGの部分合成ペプチド(MOG35−55;CS Bio社)を含むPBS溶液とFreundの完全アジュバントとを等量混合したMOG35−55投与液を、C57BL/6J系マウス(雄、10週齢)(日本チャールス・リバー株式会社)の側腹部両側の皮内に計0.1mL(片側0.05mL)接種した。さらに、MOG35−55投与液の接種当日及び2日後に、1μg/mLの濃度に調製した百日咳毒素(Sigma社)をマウス腹腔内に200μL投与した。被験化合物としては、化合物3を用いた。
【0073】
MOG35−55投与液の接種2日後から12日間連日、マウスに化合物3を、それぞれ3mg/kg及び10mg/kgの用量で1日2回経口投与した。なお、化合物3は、0.5%メチルセルロース溶液に懸濁して用いた。マウスに化合物3を投与した群を、化合物3投与群とした。溶媒投与群には、0.5%メチルセルロース溶液を同様に投与した。
【0074】
MOG35−55投与液の接種14日後に神経症状スコアをスコアリング(0:正常、1:尻尾弛緩又は後肢衰弱、2:尻尾弛緩及び後肢衰弱、3:後肢部分麻痺、4:後肢完全麻痺、5:瀕死状態)した。スコアリング方法は、Current Protocols in Immunology(John Wiley & Sons.Inc、2000年、p.15.1.1−15.1.20)に記載された方法を用いた。
【0075】
結果を
図2に示す。縦軸は神経症状スコア(平均値±標準誤差、n=8)を示す。横軸の「溶媒」は、MOG35−55投与液を接種したマウスに0.5%メチルセルロース溶液を経口投与した群(溶媒投与群)を示し、「化合物3」は、MOG35−55投与液を接種したマウスに化合物3を3mg/kg及び10mg/kgの用量で1日2回経口投与した群(化合物3投与群)を示す。
【0076】
MOG35−55投与液の接種により、溶媒投与群の神経症状スコアは1.3まで上昇した。これに対し、化合物3の3mg/kg及び10mg/kgの投与により神経症状スコアの上昇は著しく抑制され、神経症状悪化の抑制率は、それぞれ53.8%及び61.5%であった。
【0077】
この結果から、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、3mg/kgの用量から、多発性硬化症に対して著しい神経症状抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0078】
(PLP誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルにおけるシクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の評価)
PLP誘発マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルの神経症状スコアの上昇に対する、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の作用を評価した。マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルは、International Immunology、1997年、第9巻、p.1243−1251に記載の方法を一部改変して作製した。
【0079】
2mg/mLの濃度に調製したPLPの部分合成ペプチド(PLP139−151;国産化学社)を含むPBS溶液とFreundの完全アジュバントとを等量混合したPLP139−151投与液を、SJL系マウス(雌、6週齢)(日本チャールス・リバー株式会社)の側腹部両側の皮内に計0.1mL(片側0.05mL)接種した。さらに、PLP139−151投与液の接種当日及び2日後に、1μg/mLの濃度に調製した百日咳毒素(Sigma社)をマウス腹腔内に200μL投与した。被験化合物としては、化合物3を用いた。
【0080】
PLP139−151投与液の接種2日後から7日間連日、マウスに化合物3を10mg/kgの用量で1日2回経口投与した。なお、化合物3は、0.5%メチルセルロース溶液に懸濁して用いた。マウスに化合物3を投与した群を、化合物3投与群とした。溶媒投与群には、0.5%メチルセルロース溶液を同様に投与した。
【0081】
PLP139−151投与液の接種9日後に神経症状スコアをスコアリング(0:正常、1:尻尾弛緩又は後肢衰弱、2:尻尾弛緩及び後肢衰弱、3:後肢部分麻痺、4:後肢完全麻痺、5:瀕死状態)した。スコアリング方法は、Current Protocols in Immunology(John Wiley & Sons.Inc、2000年、p.15.1.1−15.1.20)に記載された方法を用いた。
【0082】
結果を
図3に示す。縦軸は神経症状スコア(平均値±標準誤差、n=8)を示す。横軸の「溶媒」は、PLP139−151投与液を接種したマウスに0.5%メチルセルロース溶液を経口投与した群(溶媒投与群)を示し、「化合物3」は、PLP139−151投与液を接種したマウスに化合物3を10mg/kgの用量で1日2回経口投与した群(化合物3投与群)を示す。
【0083】
PLP139−151投与液の接種により、溶媒投与群の神経症状スコアは1.1まで上昇した。これに対し、化合物3投与群は神経症状スコアの上昇を著しく抑制した。化合物3による神経症状悪化の抑制率は66.4%であった。
【0084】
この結果から、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩は、多発性硬化症に対して著しい神経症状抑制効果を示すことが明らかとなった。
【0085】
(トロンビン活性に対する効果)
トロンビン活性に対する、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩の作用を、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用したAnaspec社のSensoLyte(登録商標) 520トロンビン活性アッセイキットを用いて評価した。
【0086】
被験化合物はジメチルスルホキシド(以下、DMSO)に溶解した後、キット添付のアッセイバッファーでDMSO最終濃度が0.5〜1%となるように希釈して使用した。384ウェル黒色プレート(Corning社)の各ウェルに、被験化合物(最終濃度0.1nmol/L〜30μmol/L)、及び、アッセイバッファーで希釈したトロンビン(最終濃度300ng/mL)を添加し、室温で10分間インキュベーションした。なお、トロンビン非添加かつ被験化合物非添加、及び、トロンビン添加かつ被験化合物非添加のウェルを設けた。さらに、アッセイバッファーで希釈した5−FAM/QXL 520トロンビン基質(最終濃度300nmol/L)を添加して、室温で2時間インキュベーションした後、485nmで励起したときの520nmの蛍光値を測定した。
【0087】
被験化合物としては、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩に含まれる化合物3を用いた。また、陽性対照として選択的トロンビン阻害剤であるArgatrobanを用いた。
【0088】
トロンビン活性阻害率(%)を下式1から算出し、シグモイド曲線(可変勾配)に回帰して、被験化合物のトロンビン活性阻害のIC50値を算出した。
トロンビン活性阻害率(%)=(1−((トロンビン添加かつ被験化合物添加時の蛍光値)−(トロンビン非添加時かつ被験化合物非添加の蛍光値))/((トロンビン添加かつ被験化合物非添加時の蛍光値)−(トロンビン非添加時かつ被験化合物非添加の蛍光値)))×100 ・・・式1
【0089】
結果を
図4に示す。縦軸はトロンビン活性阻害率(%)(平均値±標準誤差、n=4)を示す。横軸は被験化合物濃度(nmol/L)を示す。
【0090】
その結果、ArgatrobanのIC50値が3.0nmol/Lであるのに対し、化合物3の最大濃度である30μmol/Lにおけるトロンビン活性阻害率は17.2%であった。
【0091】
この結果から、シクロヘキサン誘導体(I)又はその薬理学的に許容される塩が、トロンビン活性を阻害しないことが明らかとなった。