(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ステアリングホイールの構造は、上述したように、エアバッグ装置50に加えられた力が、キャップ部材55を介してスライダ53に直接伝達される構造である。そのため、ホーン装置60の作動のためにエアバッグ装置50が押下げられた場合、キャップ部材55によって押圧されたスライダ53がばね54を圧縮させながら前方へスライドさせられる。そのため、エアバッグ装置50を押下げ操作したとき、操作量に応じて操作荷重が増加していき、操作フィーリングが良好なものとなる。
【0008】
ところが、上記ステアリングホイールの構造は、スライダ53の後端部がエアバッグ装置50の重量を受けた状態でキャップ部材55に対し常に擦れる構造である。そのため、ステアリングホイールの振動をエアバッグ装置50(ダンパマス)及び弾性部材51(ばね)によって抑制(制振)しようとする際、擦れ方により共振周波数が安定しない。また、乗物(車両)側から入力される振動の大小により、共振周波数が変動しやすい。例えば、入力される振動が小さいと、スライダ53のキャップ部材55に対する摺動抵抗が共振周波数に対し支配的となり、共振周波数が相対的に高くなる傾向にある。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグ装置を押下げ操作するときの操作フィーリングを良好にしつつ、安定した共振周波数で振動を抑制することのできるステアリングホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するステアリングホイールは、エアバッグ装置を備えるステアリングホイールであって、前記エアバッグ装置のバッグホルダに挿通された支持部材と、前記支持部材の外側に前後方向へスライド可能に配置され、かつ付勢部材により後方へ付勢された筒状のスライダと、前記スライダの一部を覆う環状のダンパホルダと、前記スライダ及び前記ダンパホルダの間に介装された環状の弾性部材と、前記ダンパホルダの内周部に設けられた伝達部と、前記伝達部の直前に位置するように前記スライダの外周部に設けられ、前記ダンパホルダの前方への動きが前記伝達部を通じて伝達される被伝達部とを備え、前記エアバッグ装置は、前記支持部材によるスナップフィット構造により取付けられており、前記エアバッグ装置をダイナミックダンパのダンパマスとして機能させ、かつ前記弾性部材をダイナミックダンパのばねとして機能させるように構成されている。
【0011】
上記の構成によれば、エアバッグ装置の荷重は、主として、ダンパホルダ及び弾性部材を介してスライダに伝わる。
そのため、ステアリングホイールが振動すると、エアバッグ装置がダイナミックダンパのダンパマスとして機能し、弾性部材がダイナミックダンパのばねとして機能する。弾性部材は、ステアリングホイールの振動の周波数と同一又は近い共振周波数で弾性変形しながら、エアバッグ装置を伴って振動し、ステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0012】
上記ステアリングホイールにおいて、前記スライダの後端部から後方へ離間した状態で、前記支持部材及び前記スライダの少なくとも各後端部を後方から覆うコンタクトホルダを備え、前記エアバッグ装置の押下げ時には、その押下げに伴い前記コンタクトホルダを前方へ移動させることで、前記付勢部材に抗して前記スライダを前方へスライドさせるように構成されていることが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、スライダの後端部はコンタクトホルダから前方へ離間していることから、同コンタクトホルダに対し擦れない。スライダの後端部とコンタクトホルダとの間で摺動抵抗が発生しない。そのため、摺動抵抗が共振周波数に及ぼす影響が排除され、共振周波数が安定する。また、乗物側から入力される振動が変化しても、狙いとするダイナミックダンパの共振周波数が変動しにくい。
【0014】
上記ステアリングホイールにおいて、前記支持部材の後方に配置され、前記スライダと連動して前後方向へ移動可能な可動側接点部を備え、前記エアバッグ装置の押下げ時には、その押下げに伴い前記付勢部材に抗して前記スライダを前方へスライドさせ、そのスライドの過程で、前記可動側接点部を前記支持部材の後端部に接触させてホーン装置を作動させるように構成されていることが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、ホーン装置の作動のためにエアバッグ装置が押下げられると、そのエアバッグ装置に加えられた力が、可動側接点部及びダンパホルダに伝達される。この力の伝達により、ダンパホルダが伝達部と一緒に前方へ移動させられ、その伝達部の動きが被伝達部を介してスライダに伝達される。スライダが付勢部材に抗して前方へスライドさせられる。また、可動側接点部が前方へ移動し、支持部材の後端部に接触して導通すると、ホーン装置が作動する。上記エアバッグ装置の押下げ操作時には、操作量に応じ操作荷重が増加していくため、操作フィーリングが良好なものとなる。
【0016】
上記ステアリングホイールにおいて、前記可動側接点部は、前記ダンパホルダの径方向に延びる本体部と、前記本体部の端部から前方へ延びる側部とを備え、前記側部の前部と前記バッグホルダとが接触して導通されていることが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決するステアリングホイールは、エアバッグ装置を備えるステアリングホイールであって、前記エアバッグ装置のバッグホルダに挿通された支持部材と、前記支持部材の外側に前後方向へスライド可能に配置され、かつ付勢部材により後方へ付勢された筒状のスライダと、前記支持部材の後方に配置され、前記スライダと連動して前後方向へ移動可能な可動側接点部と、前記スライダの一部を覆う環状のダンパホルダと、前記スライダ及び前記ダンパホルダの間に介装された環状の弾性部材と、前記ダンパホルダの内周部に設けられた伝達部と、前記伝達部の直前に位置するように前記スライダの外周部に設けられ、前記ダンパホルダの前方への動きが前記伝達部を通じて伝達される被伝達部とを備え、前記エアバッグ装置の非押下げ時には、同エアバッグ装置をダイナミックダンパのダンパマスとして機能させ、かつ前記弾性部材をダイナミックダンパのばねとして機能させ、前記エアバッグ装置の押下げ時には、その押下げに伴い前記付勢部材に抗して前記スライダを前方へスライドさせ、そのスライドの過程で、前記可動側接点部を前記支持部材の後端部に接触させてホーン装置を作動させるように構成されている。
【0018】
上記の構成によれば、エアバッグ装置が押下げられないときには、エアバッグ装置の荷重は、主として、ダンパホルダ及び弾性部材を介してスライダに伝わる。
そのため、ステアリングホイールが振動すると、エアバッグ装置がダイナミックダンパのダンパマスとして機能し、弾性部材がダイナミックダンパのばねとして機能する。弾性部材は、ステアリングホイールの振動の周波数と同一又は近い共振周波数で弾性変形しながら、エアバッグ装置を伴って振動し、ステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0019】
これに対し、ホーン装置の作動のためにエアバッグ装置が押下げられると、そのエアバッグ装置に加えられた力が、可動側接点部及びダンパホルダに伝達される。この力の伝達により、ダンパホルダが伝達部と一緒に前方へ移動させられ、その伝達部の動きが被伝達部を介してスライダに伝達される。スライダが付勢部材に抗して前方へスライドさせられる。また、可動側接点部が前方へ移動し、支持部材の後端部に接触して導通すると、ホーン装置が作動する。上記エアバッグ装置の押下げ操作時には、操作量に応じ操作荷重が増加していくため、操作フィーリングが良好なものとなる。
【0020】
上記ステアリングホイールにおいて、前記可動側接点部は、前記ダンパホルダの径方向に延びる本体部と、前記本体部の端部から前方へ延びる側部とを備え、前記側部の前部と前記バッグホルダとが接触して導通されていることが好ましい。
【0021】
上記ステアリングホイールにおいて、前記スライダの後端部から後方へ離間した状態で、前記支持部材及び前記スライダの少なくとも各後端部を後方から覆うコンタクトホルダを備え、前記可動側接点部は、前記コンタクトホルダ内に取付けられており、前記エアバッグ装置の押下げ時には、その押下げに伴い前記コンタクトホルダを前方へ移動させることで、前記付勢部材に抗して前記スライダを前方へスライドさせるように構成されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、スライダの後端部はコンタクトホルダから前方へ離間していることから、同コンタクトホルダに対し擦れない。スライダの後端部とコンタクトホルダとの間で摺動抵抗が発生しない。そのため、摺動抵抗が共振周波数に及ぼす影響が排除され、共振周波数が安定する。また、乗物側から入力される振動が変化しても、狙いとするダイナミックダンパの共振周波数が変動しにくい。
【0023】
上記ステアリングホイールにおいて、前記伝達部は、前記被伝達部に対し直接、又は前記弾性部材の前端外周部に形成された弾性板状部を介して間接に接触されていることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、ホーン装置の作動のためにエアバッグ装置が押下げられると、コンタクトホルダが押圧されて、ダンパホルダが前方へ移動させられる。これに伴い伝達部が前方へ移動するが、その動きは、伝達部の直前に位置する被伝達部に直接伝達されるか、又は弾性部材の前端外周部に形成された弾性板状部を介して被伝達部に間接に伝達される。この伝達により、スライダが付勢部材に抗して前方へスライドさせられる。
【0025】
なお、弾性板状部が伝達部と被伝達部との間に介在される場合には、ダンパホルダが前方へ移動させられる際に弾性板状部が伝達部により押圧されて弾性変形させられる。しかし、弾性板状部の厚みが小さいことから、同弾性板状部の弾性変形量はわずかである。そのため、弾性板状部の弾性変形が、エアバッグ装置を押下げ操作するときの操作フィーリングに及ぼす影響はわずかである。
【0026】
また、多少なりとも弾性を有している弾性板状部が伝達部と被伝達部との間に介在されることで、硬質の伝達部と硬質の被伝達部とが直接接触して打音を発生することが抑制される。
【0027】
上記ステアリングホイールにおいて、前記スライダの外周部には前記付勢部材の後ろ向きの付勢力を受ける受け部が設けられており、前記受け部により前記被伝達部が構成されていることが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、付勢部材の後ろ向きの付勢力を受け止めるためにスライダの外周部に設けられた受け部は、被伝達部としても機能し、ダンパホルダの伝達部を通じて伝達される前方へ向かう力を受ける。そのため、受け部とは別に被伝達部を形成しなくてもよく、同被伝達部が形成される場合に比べ、スライダが簡単な形状となる。
【0029】
上記ステアリングホイールにおいて、前記支持部材は、前記エアバッグ装置の押下げ方向に延びる軸部と、前記軸部の後端外周部に形成された鍔部とを備え、前記スライダの主要部は、前記軸部にスライド可能に被せられる筒状部により構成されており、前記筒状部の後端部は前記スライダの後端部を構成していることが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、支持部材の軸部にスライド可能に被せられた筒状部の後端部は、スライダの後端部を構成する。この筒状部の後端部は、支持部材の鍔部よりも前方に位置する。このことは、筒状部の後端部よりも後方には、スライダの構成部分が存在しないことを意味する。従って、鍔部よりも後方はもちろんのこと、鍔部の周りにスライダの構成部分が存在しない。その結果、スライダが、鍔部を取り囲む部分を自身の後部に有している場合には、悪路等の走行時に、この部分がコンタクトホルダの周壁部と接触するおそれがあるが、そうした接触が起こりにくい。
【0031】
上記ステアリングホイールにおいて、前記弾性部材の少なくとも後部は、ダイナミックダンパのばねとして機能する環状の弾性本体部により構成されており、前記弾性本体部と前記鍔部との間には空隙部が形成され、前記弾性本体部の後面の一部には、後方へ突出して前記鍔部の前面の一部に接触するリブが設けられていることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、弾性本体部と鍔部との間に空隙部が形成されることにより、弾性本体部はこの空隙部でも弾性変形することが可能となる。弾性本体部は、空隙部の形成されていないものに比べ、弾性変形しやすくなる。従って、狙いとする共振周波数で弾性本体部を弾性変形させながらエアバッグ装置を伴って振動させることが容易となる。
【0033】
一方で、弾性本体部の後面全面が鍔部から離間していると、両者が接触した場合に、多少なりとも打音が発生する。しかし、上記の構成によるように、弾性本体部の後面の一部から後方へ突出したリブが、鍔部の前面の一部に常に接触しているため、リブが弾性変形することで、鍔部と弾性本体部とが接近するときの勢いが弱められ、上記打音の発生が抑制される。
【0034】
上記ステアリングホイールにおいて、前記弾性部材は、前記弾性本体部から前方へ延びる弾性筒状部を備えており、前記弾性筒状部と前記伝達部との間には空隙部が形成されていることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、弾性筒状部と伝達部との間に空隙部が形成されることにより、弾性筒状部はこの空隙部でも弾性変形することが可能となる。弾性筒状部は、空隙部の形成されていないものに比べ、弾性変形しやすくなる。その結果、弾性筒状部が弾性本体部による共振周波数に及ぼす影響が小さくなる。
【発明の効果】
【0036】
上記ステアリングホイールによれば、エアバッグ装置を押下げ操作するときの操作フィーリングを良好にしつつ、安定した共振周波数で振動を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、車両用のステアリングホイールに具体化した一実施形態について、
図1〜
図9を参照して説明する。
図1(a)に示すように、車両には、軸線L1に沿って同車両の略前後方向に延び、かつ同軸線L1を中心として回転するステアリングシャフト(操舵軸)14が、後側ほど高くなるように傾斜した状態で配設されている。ステアリングシャフト14の後端部には、ステアリングホイール10が取付けられている。
【0039】
本実施形態では、ステアリングホイール10の各部について説明する際には、ステアリングシャフト14の軸線L1を基準とする。この軸線L1に沿う方向をステアリングホイール10の「前後方向」といい、軸線L1に直交する面に沿う方向のうち、ステアリングホイール10の起立する方向を「上下方向」というものとする。従って、ステアリングホイール10の前後方向及び上下方向は、車両の前後方向(水平方向)及び上下方向(鉛直方向)に対し若干傾いていることとなる。
【0040】
なお、
図2〜
図9では、便宜上、ステアリングホイール10の前後方向が水平方向に合致し、同ステアリングホイール10の上下方向が鉛直方向に合致した状態で図示されている。従来技術を示す
図10についても同様である。
【0041】
図1(b)に示すように、ステアリングホイール10は、中央部分にエアバッグ装置(エアバッグモジュール)20を備えている。
図4に示すように、ステアリングホイール10の骨格部分は芯金12によって構成されている。芯金12は、鉄、アルミニウム、マグネシウム又はそれらの合金等によって形成されている。芯金12は、その中心部分に位置するボス部12aにおいてステアリングシャフト14に取付けられており、同ステアリングシャフト14と一体となって回転する。
【0042】
芯金12において、ボス部12aの周囲の複数箇所には、それぞれ貫通孔12cを有する保持部12bが設けられている。各貫通孔12cの内壁面は、後側ほど拡径するテーパ状をなしている。
【0043】
図7に示すように、各保持部12bの前側には、クリップ13が配置されている。クリップ13は、導電性を有するばね綱等の金属からなる線材を所定形状に屈曲させることによって形成されており、その一部において芯金12に接触している。各クリップ13の一部は、貫通孔12cの前方近傍に位置している。
【0044】
車両にはホーン装置40が設けられており、このホーン装置40を作動させるための複数のホーンスイッチ機構30(
図2、
図5参照)が、各保持部12bにおいて、スナップフィット構造にて芯金12に装着されている。各ホーンスイッチ機構30は互いに同一の構成を有している。そして、これらのホーンスイッチ機構30を介してエアバッグ装置20が芯金12に支持されている。このように、各ホーンスイッチ機構30は、エアバッグ装置20を支持する機能とホーン装置40のスイッチ機能とを兼ねている。
【0045】
さらに、本実施形態では、エアバッグ装置20におけるバッグホルダ21と各ホーンスイッチ機構30との間に弾性部材41及びダンパホルダ42が介在されている。そして、芯金12、エアバッグ装置20、ホーンスイッチ機構30、弾性部材41、ダンパホルダ42等によって、ステアリングホイール10の振動を抑制、すなわち、制振するための制振構造が構成されている。次に、上記制振構造を構成する各部について説明する。
【0046】
<エアバッグ装置20>
図3〜
図5に示すように、エアバッグ装置20は、パッド部24、リングリテーナ25、エアバッグ(図示略)及びインフレータ23を、バッグホルダ21に組付けることによって構成されている。
【0047】
パッド部24は、表面(後面)が意匠面をなす外皮部24aと、その外皮部24aの裏面側(前側)に立設された略四角環状の収容壁部24bとを有している。外皮部24aと収容壁部24bとバッグホルダ21とによって囲まれる空間は、主としてエアバッグ(図示略)を収容するためのバッグ収容空間xを構成している。外皮部24aのバッグ収容空間xを形成する部位には、エアバッグが展開及び膨張するときに押し破られる薄肉部24cが形成されている。
【0048】
収容壁部24bの前端部には、それぞれ矩形板状をなす複数の係止爪24dが一体に形成されている。各係止爪24dの前端部には、外側(バッグ収容空間xから遠ざかる側)へ突出する係止突起24eが形成されている。
【0049】
パッド部24の複数箇所には、ホーンスイッチ機構30を支持するためのスイッチ支持部24fがそれぞれ形成されている。各スイッチ支持部24fは、パッド部24の外皮部24aから裏面側(前側)へ延びるように、収容壁部24bと一体に形成されている。
【0050】
図3、
図5及び
図6に示すように、バッグホルダ21は、導電性を有する金属板をプレス加工することにより形成されている。これに代えて、バッグホルダ21は、導電性を有する金属材料を用い、ダイカスト成形等を行なうことにより形成されてもよい。バッグホルダ21の周縁部は、パッド部24を固定するための略四角環状の周縁固定部21aとして構成されている。
【0051】
周縁固定部21aにおいて、上記各係止爪24dの前方となる箇所には、それぞれスリット状の爪係止孔21bが形成されており、ここに各係止爪24dの前端部が挿通されて係止されている。
【0052】
上記周縁固定部21aの内側部分は台座部21cを構成している。台座部21cの中心部には、円形状の開口部21dが形成されている。台座部21cであって、開口部21dの周縁部近傍の複数箇所には、それぞれねじ挿通孔21eが形成されている。台座部21cには、インフレータ23の一部が開口部21dに挿通された状態で取付けられている。
【0053】
より詳しくは、インフレータ23は低円柱状の本体23aを有しており、その本体23aの外周面にはフランジ部23bが形成されている。フランジ部23bには、複数の取付片23cが本体23aの径方向外方へ延出されている。各取付片23cにおいて、バッグホルダ21の上記ねじ挿通孔21eの前方となる箇所には、それぞれねじ挿通孔23dが形成されている。インフレータ23において、フランジ部23bよりも後方側となる部分は、膨張用ガスを噴出するガス噴出部23eとして構成されている。そして、インフレータ23のガス噴出部23eがバッグ収容空間x側に突出するように、前側からバッグホルダ21の開口部21dに挿通されている。さらに、フランジ部23bが開口部21dの周縁部に接触させられ、この状態で、インフレータ23はリングリテーナ25とともにバッグホルダ21に取付けられている。
【0054】
より詳しくは、リングリテーナ25は、バッグホルダ21の開口部21dと同等の円形状の開口部25aを有している。また、リングリテーナ25は、バッグホルダ21の各ねじ挿通孔21eの後方となる複数箇所に取付ねじ25bを有している。リングリテーナ25とバッグホルダ21との間には、展開及び膨張可能に折り畳まれた状態のエアバッグ(図示略)の開口部が配置されている。リングリテーナ25の複数の取付ねじ25bは、エアバッグの開口部の周縁部分に設けられたねじ挿通孔(図示略)と、バッグホルダ21及びインフレータ23の各ねじ挿通孔21e,23dとに対し、後側から挿通されている。さらに、挿通後の各取付ねじ25bに前側からナット26が締付けられることにより、エアバッグがリングリテーナ25を介してバッグホルダ21に固定されるとともに、インフレータ23がバッグホルダ21に固定されている。
【0055】
バッグホルダ21の周縁固定部21aの複数箇所には、ホーンスイッチ機構30を取付けるための取付部21fが、円形の開口部21dの径方向外方へそれぞれ突出形成されている。各取付部21fは、上述したパッド部24のスイッチ支持部24fの前方となる箇所に位置している。各取付部21fには取付孔21gが形成されている。バッグホルダ21における各取付孔21gの周辺部には、それぞれ後方へ延びる複数の挟持部21iが一体に形成されている。本実施形態では、バッグホルダ21において各取付孔21gを挟んで相対向する箇所を後方へ折り曲げることにより、各挟持部21iが形成されている。各挟持部21iの上記折り曲げ形成により、バッグホルダ21において各挟持部21iの外側、すなわち、各挟持部21iを挟んで取付孔21gとは反対側には孔21j(
図7参照)が形成されている。
【0056】
<ホーンスイッチ機構30>
図2、
図6及び
図7に示すように、各ホーンスイッチ機構30は、支持部材としてのスナップピン31、スライダとしてのピンホルダ32、キャップ部材としてのコンタクトホルダ33、可動側接点部としての接点端子34、ばね受け35、及び付勢部材としてのコイルばね36を備えている。次に、ホーンスイッチ機構30の各構成部材について説明する。
【0057】
<スナップピン31(支持部材)>
スナップピン31は、導電性を有する金属材料によって形成されている。このスナップピン31の芯金12に対する支持構造については、後述する。スナップピン31の主要部は、上記ステアリングシャフトの軸線L1に対し平行の関係にある軸線L2に沿って前後方向に延び、かつバッグホルダ21の取付孔21gの内径よりも小径の長尺状の軸部31fによって構成されている。軸部31fの後端部は、固定側接点部として機能する。軸部31fの前端部には、環状の係止溝31bが形成されている。軸部31fの後端外周部には、同軸部31fの他の部分よりも大径状をなす鍔部31aが形成されている。鍔部31aの外径は、バッグホルダ21の取付孔21gの内径よりも大きく設定されている。
【0058】
<ピンホルダ32(スライダ)>
図7〜
図9に示すように、ピンホルダ32は、絶縁性を有する樹脂材料によって形成されている。ピンホルダ32の主要部は、前後両端が開放された筒状部32aによって構成されている。筒状部32aは、スナップピン31の軸部31fの外側に被せられている。ピンホルダ32は、ホーンスイッチ機構30の作動に際し、軸部31fに沿ってスライドするスライダとして用いられている。筒状部32aの後端部は、ピンホルダ32の後端部を構成している。
【0059】
筒状部32aの外周部には、同筒状部32aの径方向外方へ突出する円環状の受け部32cが形成されている。受け部32cは、コイルばね36の後端部を受け止める機能を有している。また、受け部32cは、筒状部32aの外周部であって、後述する伝達部42eの直前となる箇所に形成されている。さらに、受け部32cの外径は、単に、コイルばね36の後端部を受け止めるために必要な寸法よりも大きく設定されている。受け部32cのこうした形成位置及び外径に関する設定により、受け部32cは、ダンパホルダ42の前方への動きが伝達部42eを通じて伝達される被伝達部も兼ねている。
【0060】
<コンタクトホルダ33(キャップ部材)>
図6〜
図8に示すように、コンタクトホルダ33は、絶縁性を有する樹脂材料により形成されている。コンタクトホルダ33は、略円板状をなす天板部33aと、その天板部33aの外周縁から前方に延びる略円筒状の周壁部33bとを備えている。コンタクトホルダ33は、ピンホルダ32における筒状部32aの後端部から後方へ離間した状態で、スナップピン31の少なくとも鍔部31aと、ピンホルダ32の筒状部32aの少なくとも後端部とを後方から覆っている。周壁部33bの周方向に互いに離間した複数箇所には、フック部33cが径方向へ弾性変形可能に形成されている。
【0061】
周壁部33bの前後方向の中間部であって、周方向に互いに離間した複数箇所には、爪係合孔33d(
図6及び
図8参照)が形成されている。また、周壁部33bの前端部であって、互いに周方向に離間した複数箇所には円弧状の切欠き33e(
図2参照)が形成されている。
【0062】
<接点端子34(可動側接点部)>
接点端子34は、導電性を有する帯状の金属板をプレス加工することにより形成されている。接点端子34は、コンタクトホルダ33の径方向に延びる本体部34aと、同本体部34aの両端から前方へ延びる一対の側部34bとを備えている。
【0063】
本体部34aの長さ方向についての複数箇所には、前側へ突出する複数の接触突部34cがそれぞれ形成されている。本体部34aの後面であって、接触突部34cを除く部分の多くは、コンタクトホルダ33の天板部33aの前面に接触している。
【0064】
各側部34bは、コンタクトホルダ33の周壁部33bの内壁面に対し、係合した状態で接触している。この係合により、接点端子34はコンタクトホルダ33に位置決めされた状態で装着されている。
【0065】
<ばね受け35>
図2及び
図7に示すように、ばね受け35は、絶縁性を有する樹脂材料によって形成されている。ばね受け35の一部は、円環板状をなす受け部35bによって構成されている。受け部35bの外径は、コイルばね36の外径、及び貫通孔12cの内壁面における後端部の外径、すなわち、テーパ状の内壁面における最大径と同程度に設定されている。
【0066】
受け部35bの内周部であって周方向に互いに離間した複数箇所からは、前方へ向けて係止片35cがそれぞれ延びている。各係止片35cの前端部には、爪部35dが径方向内方へ突設されている。また、受け部35bにおいて、周方向に隣り合う係止片35c間からは、前方へ向けて複数の係合片35eが延びている。各係合片35eの外側面は、後側ほど拡径するテーパ面の一部を構成している。
【0067】
受け部35bからは、一対の装着部35fが後方へ向けて延びている。各装着部35fは、スナップピン31の軸部31fの外形形状に対応して、受け部35bの径方向外方へ膨らむように湾曲形成されている。
【0068】
ばね受け35は、受け部35b及び両装着部35fにおいてスナップピン31の軸部31fに嵌合され、かつ各爪部35dが係止溝31bに入り込むことにより、同スナップピン31に脱落不能に装着されている。上記のように、ばね受け35では、複数の係合片35eの外側面が複数の係止片35cを挟んで、周方向に間欠的に配置されている。こうした構成により、ばね受け35は、全体として、後側ほど拡径するテーパ状の外側面を有するものと同様な形態を有している。
【0069】
<コイルばね36(付勢部材)>
コイルばね36は、スナップピン31の軸部31f、ピンホルダ32の筒状部32a、ばね受け35の両装着部35fのそれぞれの周りに巻回されている。コイルばね36は、ピンホルダ32の受け部32cとばね受け35の受け部35bとの間に、圧縮させられた状態で配置されている。
【0070】
このようにして、複数の単体部品、すなわち、スナップピン31、ピンホルダ32、コンタクトホルダ33、接点端子34、コイルばね36及びばね受け35がユニット化されて、アセンブリとされたホーンスイッチ機構30が構成されている。そのため、ホーンスイッチ機構30の取付けや交換の際に、ユニット化されたホーンスイッチ機構30を1つの集合体として扱うことが可能である。
【0071】
<弾性部材41>
図6、
図7及び
図9に示すように、弾性部材41は、ゴム(例えば、EPDM、シリコンゴム等)、エラストマー等の弾性材料によって形成されている。
【0072】
弾性部材41の後部の主要部は、円環状の弾性本体部41aによって構成され、同弾性部材41の前部は、弾性筒状部41b及び弾性板状部41cによって構成されている。
弾性本体部41aと鍔部31aとの間には、空隙部G1が形成されている。弾性本体部41aの後面の一部には、後方へ突出して鍔部31aの前面の一部に接触するリブ41eが設けられている。本実施形態では、リブ41eは、スナップピン31の上記軸線L2を中心とする円上の複数箇所において、その円に沿った形状である円弧状に形成されている(
図6参照)。これらのリブ41eは、鍔部31aに安定した状態で接触させる観点からは、上記円上の3箇所以上に設けられることが望ましい。
【0073】
弾性本体部41aの内周面の後部は、後側ほど拡径するテーパ面41dによって構成されている。弾性本体部41aのテーパ面41dとピンホルダ32の筒状部32aとの間には、空隙部G2が上記空隙部G1に繋がった状態で形成されている。
【0074】
また、弾性本体部41aの後端外周部には、径方向外方へ突出する環状突部41fが設けられている。環状突部41fは、コンタクトホルダ33の周壁部33bから径方向内方へ離間している。
【0075】
弾性筒状部41bは、厚みの小さな円筒状をなしており、弾性本体部41aの内周部から前方へ延びている。
弾性板状部41cは、弾性筒状部41bの前端外周部から径方向外方へ突出しており、厚みの小さな円環板状をなしている。弾性板状部41cの外径は、上記受け部32c(被伝達部)の外径と同程度に設定されている。
【0076】
スナップピン31の軸線L2に沿う方向(前後方向)の寸法は、上記弾性筒状部41b及び弾性板状部41cと、弾性本体部41aとで同程度となるように設定されている。
上記弾性部材41(主として弾性本体部41a)は、上述したエアバッグ装置20とともにダイナミックダンパを構成している。本実施形態では、弾性部材41(主として弾性本体部41a)をダイナミックダンパのばねとして機能させ、エアバッグ装置20をダンパマスとして機能させるようにしている。
【0077】
ここで、弾性部材41(弾性本体部41a)の大きさ(径方向及び前後方向の各寸法等)をチューニングすることで、ダイナミックダンパの上下方向や左右方向についての共振周波数が、ステアリングホイール10の上下方向や左右方向の振動について、狙いとする制振の周波数、換言すると制振したい周波数に設定されている。
【0078】
<ダンパホルダ42>
ダンパホルダ42は、絶縁性を有する樹脂材料によって形成されている。ダンパホルダ42は、弾性部材41とバッグホルダ21における挟持部21iとの間であり、かつ同バッグホルダ21における取付部21fの後側に配置されている。
【0079】
図6及び
図9に示すように、ダンパホルダ42の主要部は、周壁部42aと、同周壁部42aの前端内周部に形成された底壁部42bとによって構成されている。
周壁部42aの後面は、弾性部材41の環状突部41fの前面に接触している。
図6及び
図8に示すように、周壁部42aの互いに周方向に離間した複数箇所には、係合爪42cが形成されている。これらの係合爪42cが、コンタクトホルダ33の対応する爪係合孔33dに内側から係合されることで、ダンパホルダ42がコンタクトホルダ33に取付けられている。
【0080】
周壁部42aの前端外周部であって、互いに周方向に離間し、かつ上記係合爪42cから周方向に離間した複数箇所にはストッパ42dが形成されている。これらのストッパ42dがコンタクトホルダ33の対応する切欠き33eに係合されることで、ダンパホルダ42のコンタクトホルダ33に対する前後方向の位置決めがなされている。
【0081】
図6及び
図9に示すように、底壁部42bは円環板状をなしており、その内周部は、上述した受け部32cの後方に位置している。底壁部42bは、弾性部材41の弾性本体部41aから前方へ離間した箇所に配置されている。こうした配置により、底壁部42bと弾性本体部41aとの間には、円環状の空隙部G3が形成されている。
【0082】
底壁部42bの内周部からは前方へ向けて、円環状の伝達部42eが突出している。この伝達部42eは、バッグホルダ21の取付孔21gに挿通され、ピンホルダ32の上記受け部32cの直後において、弾性部材41の上記弾性板状部41cに接触されている。表現を変えると、伝達部42eは、弾性板状部41cを介して受け部32cに間接に接触されている。
【0083】
伝達部42eは、上記弾性部材41の弾性筒状部41bから径方向外方へ離間した箇所に配置されている。こうした配置により、弾性筒状部41bと伝達部42eとの間には、環状の空隙部G4が、上記空隙部G3に繋がった状態で形成されている。
【0084】
各ホーンスイッチ機構30が、上記のように、弾性部材41及びダンパホルダ42を介してバッグホルダ21に取付けられた状態では、ピンホルダ32が、スナップピン31とバッグホルダ21との接触を防ぎつつ、すなわち絶縁状態にしつつ、バッグホルダ21をスナップピン31に対し前後動可能に支持する。また、ピンホルダ32が、コイルばね36の後ろ向きの付勢力をスナップピン31の鍔部31aに伝達する。
【0085】
また、一対の挟持部21iが、ダンパホルダ42と接点端子34の側部34bとの間に入り込んでいる。また、コンタクトホルダ33の各フック部33cにより、上記側部34bが挟持部21iの外面に接触させられている。この接触により、バッグホルダ21と接点端子34とが導通された状態となっている。
【0086】
さらに、フック部33cによって付勢された側部34bの前端部が、挟持部21iに係止されている。この側部34bにより、コンタクトホルダ33、ひいてはホーンスイッチ機構30がバッグホルダ21から後方へ移動することが規制されている。
【0087】
次に、上記複数のホーンスイッチ機構30を介してエアバッグ装置20を芯金12に組付ける作業について説明する。
この作業に際しては、ホーンスイッチ機構30毎のスナップピン31が芯金12において対応する保持部12bの貫通孔12cに後方から挿入される。この挿入に伴い、ばね受け35の受け部35bが保持部12bに接近し、係合片35eが貫通孔12cの内壁面に接近する。また、スナップピン31における軸部31fの前端31cがクリップ13に接触する。さらに、クリップ13の付勢力に抗してスナップピン31等が前方へ移動されると、クリップ13がスナップピン31の径方向外方へ弾性変形させられる。そして、係止溝31bがクリップ13に対向する箇所までスナップピン31が移動されると、クリップ13が自身の弾性復元力により係止溝31bに入り込もうとする。
【0088】
一方、係止溝31b内には、コイルばね36によって前方へ付勢されたばね受け35の爪部35dが入り込んでいる。そのため、クリップ13は、係止溝31b内に入り込む過程で、コイルばね36を後方へ圧縮させながら、爪部35dと係止溝31b内の前壁面31dとの間に入り込む。この入り込みにより、係止溝31b内では、爪部35dがクリップ13の後側に位置する。クリップ13において、貫通孔12cの前方に位置する部分は、コイルばね36によって前方へ付勢された爪部35dと係止溝31bの前壁面31dとによって前後から挟み込まれ、動きを規制される。一方、スナップピン31は、係止溝31b内に入り込んだクリップ13によって、前後方向の動きを規制される。このようにして、スナップピン31がクリップ13によって芯金12に係止されることで、各ホーンスイッチ機構30の芯金12に対する締結と、エアバッグ装置20の芯金12に対する装着とが行なわれる。スナップピン31が、貫通孔12cへの挿通に伴いクリップ13の弾性によって芯金12に係止される構造は、スナップフィット構造とも呼ばれる。
【0089】
上記スナップフィット構造による組付け状態では、各係合片35eの外側面が貫通孔12cの内壁面に接触する。また、爪部35dが係止溝31b内の後壁面31eから前方へ僅かに離隔する。このようにして、ばね受け35が貫通孔12cの内壁面とスナップピン31との間に介在させられる。
【0090】
また、上記組付け状態では、芯金12に係止されたホーンスイッチ機構30毎のスナップピン31は、ピンホルダ32を介してエアバッグ装置20のバッグホルダ21を芯金12に対して進退可能に、すなわち、芯金12に対して近付いたり離間したりすることが可能となるように、支持する。
【0091】
次に、上記のようにして構成された本実施形態のステアリングホイール10の作用について説明する。
車両に対し、前面衝突(前突)等による前方からの衝撃が加わらない通常時には、エアバッグ装置20では、インフレータ23のガス噴出部23eからガスが噴出されず、エアバッグが折り畳まれた状態に維持される。
【0092】
上記通常時において、エアバッグ装置20が押下げられない場合には、
図7及び
図8に示すように、接点端子34の接触突部34cが、スナップピン31の後端部(固定側接点部)から後方へ離間する。接点端子34及びスナップピン31が導通を遮断された状態となり、ホーン装置40が作動しない。このときには、クリップ13により芯金12に係止されたスナップピン31の鍔部31aに対し、コイルばね36の後ろ向きの付勢力がピンホルダ32を介して加わる。
【0093】
また、コイルばね36の前向きの付勢力が、受け部35bを通じてばね受け35に加わり、同ばね受け35においてスナップピン31の係止溝31b内に入り込んだ爪部35dが、同係止溝31b内のクリップ13を前方へ押圧する。この押圧により、クリップ13は、係止溝31b内の前壁面31dと爪部35dとによって前後から挟み込まれ、動きを規制される。
【0094】
さらに、ピンホルダ32は、スナップピン31の軸部31fと接点端子34の側部34bとの間に介在して、それら軸部31f及び側部34bを絶縁状態にする。
このとき、エアバッグ装置20の荷重は、主としてコンタクトホルダ33、ダンパホルダ42及び弾性部材41を介してピンホルダ32に伝わる。
【0095】
ここで、ピンホルダ32における筒状部32aの後端部が、コンタクトホルダ33の天板部33aから前方へ離間している。このことから、エアバッグ装置20の荷重がコンタクトホルダ33を介して直接ピンホルダ32に伝わることはない。
【0096】
そのため、上記通常時であって、車両の高速走行中や車載エンジンのアイドリング中に、ステアリングホイール10に対し、上下方向や左右方向の振動が伝わると、この振動は、芯金12及び各ホーンスイッチ機構30を介してエアバッグ装置20に伝わる。
【0097】
上記のように振動がステアリングホイール10に伝わると、その振動に応じて、エアバッグ装置20がダイナミックダンパのダンパマスとして機能し、弾性部材41がダイナミックダンパのばねとして機能する。弾性部材41は、ステアリングホイール10の振動の周波数と同一又は近い共振周波数で弾性変形しながら、エアバッグ装置20を伴って上下方向、左右方向等へ振動(共振)し、ステアリングホイール10の振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイール10の上下方向及び左右方向の各振動が抑制(制振)される。
【0098】
このときには、ピンホルダ32における筒状部32aの後端部が、コンタクトホルダ33の天板部33aに対し擦れず、それらの筒状部32a及び天板部33aの間で摺動抵抗が発生しない。そのため、摺動抵抗が共振周波数に及ぼす影響が排除され、共振周波数が安定する。また、車両側から入力される振動が変化しても、狙いとするダイナミックダンパの共振周波数が変動しにくくなる。特に、入力される振動が小さくても、摺動抵抗が共振周波数に対し支配的とならず、共振周波数が高くなることが起こりにくい。
【0099】
また、スナップピン31の軸部31fにスライド可能に被せられた筒状部32aの後端部がピンホルダ32の後端部を構成するところ、この筒状部32aの後端部は、スナップピン31の鍔部31aよりも前方に位置する。このことは、筒状部32aの後端部よりも後方に、ピンホルダ32の構成部分が存在しないことを意味する。従って、スナップピン31の後端部の鍔部31aよりも後方はもちろんのこと、同鍔部31aの周りにピンホルダ32の構成部分が存在しない。その結果、仮にピンホルダ32が、鍔部31aを取り囲む部分を自身の後部に有している場合には、悪路等の走行時に、この部分がコンタクトホルダ33の周壁部33bと接触するおそれがあるが、本実施形態ではそうした接触が起こりにくい。
【0100】
また、弾性本体部41aの前後に空隙部G1,G3が形成されていることから、弾性本体部41aはこれらの空隙部G1,G3でもスナップピン31の軸線L2に沿う方向(前後方向)へ弾性変形することが可能となる。弾性本体部41aは、空隙部G1,G3の形成されていないものに比べ、スナップピン31の軸線L2に沿う方向へ弾性変形しやすくなる。従って、狙いとする共振周波数で弾性本体部41aを弾性変形させながらエアバッグ装置20を伴って振動させることが容易となる。
【0101】
一方で、弾性本体部41aの後面全面が鍔部31aから離間していると、それら弾性本体部41a及び鍔部31aが接触した場合に、多少なりとも打音が発生する。しかし、弾性本体部41aの後面の一部から後方へ突出したリブ41eが、鍔部31aの前面の一部に常に接触している。そのため、リブ41eが弾性変形することで、鍔部31aと弾性本体部41aとが接近するときの勢いが弱められ、接触に伴う打音の発生が抑制される。
【0102】
また、弾性本体部41aのテーパ面41dとピンホルダ32の筒状部32aとの間に空隙部G2が形成されていることから、弾性部材41はこの空隙部G2でも弾性変形することが可能となり、空隙部G2が形成されていないものに比べ、径方向等へ弾性変形しやすい。
【0103】
さらに、弾性筒状部41bと伝達部42eとの間に空隙部G4が形成されていることにより、弾性筒状部41bはこの空隙部G4でも径方向へ弾性変形することが可能となる。弾性筒状部41bは、空隙部G4の形成されていないものに比べ、径方向へ弾性変形しやすい。
【0104】
また、弾性本体部41aがスナップピン31の軸線L2に沿う方向へ変形した場合に、周壁部42aが鍔部31aと接触して打音を発生することは、環状突部41fによって抑制される。
【0105】
なお、弾性部材41における弾性板状部41cは、厚みが小さいとはいえ、多少なりとも弾性を有している。そのため、弾性板状部41cが伝達部42eと受け部32cとの間に介在されることで、硬質の伝達部42eと硬質の受け部32cとが直接接触することが抑制され、硬いもの同士の接触による打音の発生が抑制される。
【0106】
一方、上記通常時において、ホーン装置40の作動のためにエアバッグ装置20が押下げられると、同エアバッグ装置20に加わる力が、少なくとも1つのホーンスイッチ機構30におけるコンタクトホルダ33を介して接点端子34及びダンパホルダ42に伝達される。ダンパホルダ42が前方へ押圧され、そのダンパホルダ42の動きが、伝達部42e及び受け部32cを介してピンホルダ32に伝達される。すなわち、ダンパホルダ42と一緒に伝達部42eが前方へ移動するが、その動きは、伝達部42eの直前に位置する受け部32cに対し、弾性部材41の弾性板状部41cを介して間接に伝達される。受け部32cは、コイルばね36の後ろ向きの付勢力を受ける機能に加え、被伝達部としても機能し、ダンパホルダ42(伝達部42e)から伝達される前方へ向かう力を受ける。
【0107】
この力の伝達により、ピンホルダ32がコイルばね36に抗して、スナップピン31の軸部31fに沿って前方へスライドさせられる。また、コンタクトホルダ33と一緒に接点端子34が前方へ移動する。
【0108】
このときには、エアバッグ装置20が押下げられるに従いコイルばね36が圧縮されて反発力が増加するため、操作荷重が増加していき、操作フィーリングが良好なものとなる。
【0109】
なお、上記のように、弾性部材41の前端外周部に形成された弾性板状部41cが伝達部42eと受け部32cとの間に介在される場合には、ダンパホルダ42が前方へ移動させられる際に弾性板状部41cが弾性変形させられる。この際、仮に弾性部材41が多く弾性変形すると、エアバッグ装置20を押下げたにも拘らず操作荷重が思ったほど増加せず、操作フィーリングが損なわれる。
【0110】
しかし、本実施形態では、弾性板状部41cの厚みが小さいことから、同弾性板状部41cの弾性変形量はわずかである。そのため、弾性板状部41cの弾性変形が、エアバッグ装置を押下げ操作したときの操作フィーリングに及ぼす影響はわずかである。
【0111】
そして、接点端子34の複数の接触突部34cの少なくとも1つが、スナップピン31の後端面に接触すると、グランドGND(車体アース)に接続された芯金12とバッグホルダ21とが、クリップ13、スナップピン31及び接点端子34を介して導通される。この導通により、ホーンスイッチ機構30が閉成し、バッグホルダ21に電気的に接続されたホーン装置40が作動する。
【0112】
ところで、前突等により車両に対し前方から衝撃が加わると、慣性により運転者が前傾しようとする。一方、エアバッグ装置20では、前記衝撃に応じインフレータ23が作動させられ、ガス噴出部23eからガスが噴出される。このガスがエアバッグに供給されることで、同エアバッグが展開及び膨張する。このエアバッグにより、パッド部24の外皮部24aに加わる押圧力が増大していくと、同外皮部24aが薄肉部24cにおいて破断される。破断により生じた開口を通じてエアバッグが後方へ向けて引き続き展開及び膨張する。前突の衝撃により前傾しようとする運転者の前方に、展開及び膨張したエアバッグが介在し、運転者の前傾を拘束し、運転者を衝撃から保護する。
【0113】
上記エアバッグの後方への膨張に際しては、バッグホルダ21に対し後方へ向かう力が加わる。この点、本実施形態では、ホーンスイッチ機構30毎のスナップピン31が芯金12(保持部12b)に支持されている。各スナップピン31の後端部に形成された鍔部31aはバッグホルダ21の取付孔21gよりも後方に位置している。しかも、鍔部31aは、取付孔21gの内径よりも大きな外径を有している。そのため、この鍔部31aは、バッグホルダ21が後方へ動いた場合には、そのバッグホルダ21において取付孔21gの周辺部分に接触することでストッパとして機能する。そのため、バッグホルダ21ひいてはエアバッグ装置20が過度に後方へ動くことが、スナップピン31の鍔部31aによって規制される。
【0114】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)スナップピン31(支持部材)の軸部31fの外側にスライド可能に配置されたピンホルダ32(スライダ)と、コンタクトホルダ33(キャップ部材)内に取付けられたダンパホルダ42との間に弾性部材41を介装する。ダンパホルダ42の内周部に伝達部42eを設ける。ピンホルダ32の外周部であって伝達部42eの直前となる箇所に、被伝達部として受け部32cを設ける。そして、エアバッグ装置20の押下げに伴うダンパホルダ42の前方への動きを、伝達部42e及び受け部32cによってピンホルダ32に伝達するようにしている(
図7、
図8)。
【0115】
そのため、コンタクトホルダ33の天板部33aを、ピンホルダ32の後端部から後方へ離間させているものの、各ホーンスイッチ機構30に、エアバッグ装置20を支持する機能とホーン装置40のスイッチ機能とを発揮させることができる。
【0116】
また、上記のように天板部33aをピンホルダ32の後端部から離間させたことにより、エアバッグ装置20が押下げられないときには、ピンホルダ32を天板部33aに対し擦れないようにし、摺動抵抗が共振周波数に及ぼす影響を排除し、共振周波数を安定させることができる。また、車両側から入力される振動が変化しても、共振周波数を変動しにくくすることができる。結果として、ステアリングホイール10の振動を、安定した共振周波数で抑制することができる。
【0117】
さらに、ホーン装置40の作動のためにエアバッグ装置20が押下げられた場合、そのエアバッグ装置20に加わる力をコンタクトホルダ33(キャップ部材)及びダンパホルダ42を介してピンホルダ32(スライダ)に伝達することで、ピンホルダ32をコイルばね36(付勢部材)に抗して前方へスライドさせることができる。その結果、エアバッグ装置20の押下げ操作量に応じ操作荷重を増加させることができ、操作フィーリングを良好なものとすることができる。
【0118】
(2)伝達部42eを、被伝達部(受け部32c)に対し、弾性部材41の前端外周部に形成された弾性板状部41cを介して間接に接触させている(
図9)。
そのため、エアバッグ装置20が押下げられた場合、ダンパホルダ42の前方への移動に伴う伝達部42eの前方への動きを、被伝達部(受け部32c)に対し弾性板状部41cを介して間接に伝達することができる。ピンホルダ32(スライダ)をコイルばね36に抗して前方へスライドさせることができる。その結果、上記(1)の効果を好適に得ることができる。
【0119】
(3)コイルばね36の後ろ向きの付勢力を受ける箇所としてピンホルダ32(スライダ)の外周部に設けられた受け部32cを、被伝達部として機能させるようにしている(
図9)。
【0120】
そのため、受け部32cとは別に被伝達部を形成しなくてもすみ、同被伝達部が別途形成される場合に比べ、ピンホルダ32を簡単な形状にすることができる。
(4)ピンホルダ32(スライダ)の主要部を、スナップピン31(支持部材)の軸部31fにスライド可能に被せられる筒状部32aにより構成し、その筒状部32aの後端部によりピンホルダ32(スライダ)の後端部を構成している(
図7、
図8)。
【0121】
そのため、ピンホルダ32が、鍔部31aを取り囲む部分を自身の後部に有している場合とは異なり、悪路等の走行時に、ピンホルダ32の後端部がコンタクトホルダ33の周壁部33bと接触しないようにすることができる。
【0122】
(5)弾性部材41の後部を、ダイナミックダンパのばねとして機能する環状の弾性本体部41aによって構成する。弾性本体部41aとスナップピン31の鍔部31aとの間に空隙部G1を形成する。弾性本体部41aの後面の一部に、後方へ突出して鍔部31aの前面の一部に接触するリブ41eを設けている(
図6、
図9)。
【0123】
そのため、空隙部G1の形成されていないものに比べ、弾性本体部41aをスナップピン31の軸線L2に沿う方向(前後方向)へ弾性変形しやすくし、狙いとする共振周波数で弾性本体部41aを弾性変形させやすくすることができる。
【0124】
また、弾性本体部41aの後面全面が鍔部31aから離間している場合とは異なり、それら弾性本体部41a及び鍔部31aの接触に伴う打音の発生をリブ41eによって抑制することができる。
【0125】
(6)弾性部材41の前部の一部を、弾性本体部41aから前方へ延びる弾性筒状部41bによって構成する。この弾性筒状部41bと伝達部42eとの間に空隙部G4を形成している(
図9)。
【0126】
そのため、空隙部G4の形成されていないものに比べ、弾性筒状部41bを径方向へ弾性変形しやすくし、同弾性筒状部41bが弾性本体部41aによる共振周波数に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0127】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<ピンホルダ32(スライダ)について>
・ピンホルダ32の筒状部32aにおける被伝達部は、受け部32cとは別の箇所に設けられてもよい。
【0128】
・被伝達部は、筒状部32aに一体に形成されてもよいが、別体で形成されてもよい。
<コンタクトホルダ33(キャップ部材)について>
・コンタクトホルダ33は、スナップピン31及びピンホルダ32の各後端部に加え、それよりも前側の部分を後方から覆うものであってもよい。
【0129】
<付勢部材について>
・付勢部材としては、ピンホルダ32(スライダ)を後方へ付勢するものであることを条件として、コイルばねとは異なる種類のばねや、ばねとは異なる弾性部材が用いられてもよい。
【0130】
<弾性部材41について>
・弾性部材41として、上記実施形態とは異なる形状を有するものが用いられてもよい。これに伴い、ピンホルダ32及びダンパホルダ42の各形状が変更されてもよい。
【0131】
・空隙部G1,G3,G4の少なくとも1つが省略されてもよい。
・弾性部材41は、ピンホルダ32の筒状部32aに対し一体に形成されてもよい。これは、例えば、ピンホルダ32をインサート部材として金型内に配置し、そのピンホルダ32の筒状部32aの外側に弾性材料を注入する、いわゆるインサート成形が行なわれることによって可能である。
【0132】
・弾性板状部41cは必ずしも円環状をなさなくてもよい。
・弾性部材41から弾性板状部41cが省略されてもよい。この場合には、ダンパホルダ42の伝達部42eはピンホルダ32の受け部32c(被伝達部)に直接接触される。
【0133】
・リブ41eが省略されてもよい。この場合、弾性本体部41aと鍔部31aとの間の空隙部G1は形成されてもよいし、形成されなくてもよい。
・弾性部材41の形状が変更されることにより、テーパ面41dと筒状部32aとの間の空隙部G2の大きさが変更されてもよい。この変更により、狙いとする制振の周波数を変更することが可能である。例えば、空隙部G2を大きくすることにより、制振の周波数を下げることが可能である。
【0134】
<ダンパホルダ42について>
・伝達部42eは、必ずしも円環状をなしていなくてもよく、スナップピン31の軸線L2を中心とする円上の複数箇所において、その円に沿った円弧状に形成されてもよい。
【0135】
<その他>
・上記ステアリングホイールは、車両以外の乗物、例えば、航空機、船舶等における操舵装置のステアリングホイールに適用することもできる。