(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態の概要)
本明細書に記載された技術は、蓄電要素と、軸線方向に沿って延びる有底円筒形状をなすと共に内部に前記蓄電要素が収容されるケースと、を備えた蓄電素子であって、前記ケースは、上方から見て円盤状をなす底壁と、前記底壁の側縁から立ち上がる側壁と、を備え、前記底壁は、上方から見て前記底壁と同心円形状をなす第1領域と、前記第1領域よりも前記底壁の径方向の外方に位置して前記底壁と同心の環状をなす第2領域と、前記第2領域よりも前記底壁の径方向の外方に位置して前記底壁と同心の環状をなす第3領域と、を備え、前記第2領域は前記第3領域よりも前記軸線方向について前記ケースの外方に突出しており、前記第1領域は前記第2領域よりも前記軸線方向について前記ケースの内方に突出しており、前記第1領域の内面と、前記第3領域の外面とは、前記軸線方向について同じ高さ位置とされているか、又は、前記第1領域の内面は、前記第3領域の外面よりも、前記軸線方向について前記ケースの内方に位置している。
【0010】
蓄電素子の充電及び放電を繰り返すと、ケース内でガスが発生し、ケースが変形することが懸念される。ケースの底壁においては、底壁がケースの軸線方向の外方に変形することが懸念される。
【0011】
本明細書に記載された技術によれば、第2領域は第3領域よりも軸線方向についてケースの外方に突出している。これにより、底壁が補強されるので、ケースの内圧が高くなった場合でも、底壁が軸線方向についてケースの外方に変形することが抑制される。
【0012】
また、第1領域は、第2領域よりもケースの軸線方向についてケースの内方に突出している。これにより、底壁がケースの軸線方向の外方に変形した場合でも、少なくとも第1領域は第2領域よりも軸線方向についてケースの内方に位置するようになっている。この結果、全体として、ケースの変形を抑制することができる。
【0013】
上記のように第1領域は第2領域よりもケースの軸線方向についてケースの内方に突出させると、ケースの容積が減少するので、電池の高容量化の観点からは好ましくない。一方、ケースの変形を抑制するためには、第1領域を軸線方向についてケースの内方に突出させる必要がある。そこで、本明細書に記載された技術においては、第1領域の内面と、第3領域の内面とは、軸線方向について同じ高さ位置とされているか、又は、第1領域の内面は、第3領域の外面よりも、軸線方向についてケースの内方に位置している構成とした。これにより、ケースの容積を過度に減少させることなく、ケースの変形を抑制することができる。
【0014】
前記第1領域の直径の、前記第2領域の直径に対する比は、0.20〜0.95である。
【0015】
上記の態様によれば、底壁の外面における底壁の中心部分位置を、第2領域の外面における第2領域の第1領域寄りの端部の位置よりも、軸線方向についてケースの内方の位置とすることができる。これにより、全体として、ケースの変形を抑制することができる。
【0016】
前記側壁の外面には、前記底壁寄りの位置に、外方に突出する肉厚部が形成されており、前記肉厚部の厚さ寸法は、前記側壁のうち前記肉厚部と異なる部分の厚さ寸法よりも大きく設定されている。
【0017】
側壁のうち底壁寄りの領域は、ケース内の内圧が上昇したときに、応力が集中しやすくなっている。そこで、上記の態様においては、側壁のうち底壁寄りの位置に肉厚部が形成されている。これにより、ケース内の内圧が上昇した場合でも、ケースの側壁が変形することを抑制することができる。
【0018】
前記底壁の周縁部には、前記底壁と前記側壁とが連結される隅部連結部が形成されており、前記隅部連結部の内面及び外面の双方又は一方には隅部曲面が形成されており、前記隅部曲面の曲率半径の、前記底壁の厚さ寸法に対する比の少なくとも一つは、1.33〜4.67である。
【0019】
隅部連結部は、底壁の周縁部であって、底壁と側壁との境界に形成されている。このため、隅部連結部には、ケース内の内圧が上昇したときに応力が集中しやすくなっている。そこで、上記の態様においては、隅部連結部の内面及び外面の双方又は一方には隅部曲面を形成する構成とした、これにより、ケース内の内圧が上昇した場合でも、隅部連結部に応力が集中することが抑制されるので、ケースが変形することが抑制される。
【0020】
更に、隅部曲面の曲率半径の、底壁の厚さ寸法に対する比の少なくとも一つは、1.33〜4.67とされている。この結果、隅部連結部に応力が集中することを一層抑制することができるので、ケースが変形することを更に抑制することができる。
【0021】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を、
図1ないし
図4を参照しつつ説明する。本実施形態に係る電池10(蓄電素子の一例)は、ニッケル水素蓄電池、ニッケルカドミウム蓄電池等のアルカリ蓄電池である。以下の説明では、
図1における紙面手前側を電池10の前側とし、紙面右側を電池10の右側とし、紙面上側を電池10の上側とする。
【0022】
(電池10)
図1に示すように、電池10は、蓄電要素11と、蓄電要素11が収容される金属製のケース12と、を備える。ケース12は、上方に開口する開口部13を有すると共に内部に蓄電要素11が収容される収容空間14を有する。ケース12の開口部13は、ケース12の開口部13に対応する形状をなした蓋部15によって、上方から塞がれている。
【0023】
(ケース12)
ケース12は、表面にニッケルめっき層が形成された金属板からなる。ケース12を構成する金属としては、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択することができる。また、金属板の表面に形成されるめっき層を構成する金属としては、ニッケル、亜鉛等、必要に応じて任意の金属を適宜に選択することができる。
【0024】
ケース12は、後述する負極板16が電気的に接続されることで電池10の負極端子として機能する。ケース12は、上下方向に細長く延びた形状をなしており、長手方向(上下方向)における一端(本実施形態では上端)が開口し、他端(本実施形態では下端)が閉塞されている。ケース12は有底円筒形状をなしている。
【0025】
ケース12は、例えば、1枚のニッケルめっき鋼板をプレス加工することにより形成される。本実施形態に係るケース12は、このプレス加工の後に、更に縮径加工する工程を実行することにより形成される。なお、縮径加工は省略してもよい。
【0026】
ケース12は、円盤状をなす底壁17と、底壁17の側縁から上方に立ち上がる側壁18と、を備える。底壁17は、上方から見て円形状をなしている。ケース12は軸線方向Aに細長く延びた形状をなしている。本実施形態においては、軸線方向Aは上下方向に平行となっている。
【0027】
(底壁17)
図2に示すように、底壁17には、この底壁17と同心円状をなすと共に、ケース12の外方(
図1における下方)に突出する第1領域21を有する。第1領域21は、上方から見て円形状をなしている。
【0028】
底壁17には、第1領域21よりも底壁17の径方向の外方の位置に、底壁17と同心の環状をなす第2領域22が形成されている。第1領域21は第2領域22よりも軸線方向Aについてケース12の内方(上方)に突出している。
【0029】
底壁17には、第2領域22よりも底壁17の径方向の外方に位置して底壁17と同心の環状をなす第3領域23が形成されている。第2領域22は第3領域23よりも軸線方向Aについてケース12の外方(下方)に突出している。
【0030】
図3に示すように、本実施形態においては、第1領域21の内面(上面)は、第3領域23の外面(下面)よりも軸線方向Aについてケース12の内方(上方)に位置している。また、第1領域21の内面は、第3領域23の内面(上面)よりも軸線方向Aについてケース12の外方(下方)に位置している。すなわち、第1領域21の内面は、上下方向における第3領域23の厚さ寸法Nの範囲内に形成されている。
【0031】
上記の構成により、底壁17には、底壁17の中心から順に、第1領域21、第2領域22、及び第3領域23が形成されている。第1領域21の直径F1、第2領域22の外径F2、及び底壁17の直径F3は、以下の大きさの順に形成されている。
第1領域21の直径F1 < 第2領域22の外径F2 < 底壁17の直径F3
【0032】
第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比は、下記の式で表される。
(第1領域の直径)/(第2領域の外径)
【0033】
上記した、第1領域21の直径F1、第2領域22の外径に対する比は、0.20〜0.95が好ましい。これにより、ケース12の底壁17が変形することを抑制することができるようになっている。第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比が、0.20よりも小さい場合には、底壁17の変形を十分に抑制することができないので好ましくない。また、第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比が0.95よりも大きい場合には、第2領域22の外径F2と第1領域21の直径F1とがほとんど等しくなってしまい、第1領域21を形成することが困難になるので好ましくない。
【0034】
第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比が、0.59〜0.92である場合には、後述する第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cが軸線方向Aについて、後述する基準面Pから下方に突出する寸法が減少しているとともに、さらに端部Cの軸線方向Aでの変位が小さいで、より好ましい。また、第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比が、0.59〜0.88である場合には、特に好ましい。
【0035】
(側壁18)
側壁18は円筒形状をなしており、側壁18の断面形状は円形状をなしている。側壁18の厚さ寸法Tは、底壁17の厚さ寸法Kよりも小さく設定されている。
【0036】
側壁18のうち第1領域21寄りの位置(本実施形態では下端部寄りの位置)には、側壁18の肉厚方向について外方に突出する肉厚部24が形成されている。換言すると、肉厚部24は、側壁18から、断面が円形状をなす側壁18の径方向外方に突出している。この肉厚部24の厚さ寸法は、側壁18のうち、肉厚部24と異なる部分の厚さ寸法Tよりも大きく設定されている。肉厚部24は、側壁18の全周に亘って形成されている。
【0037】
側壁18の内面のうち、肉厚部24に対応する領域と、肉厚部24と異なる部分に対応する領域とは、面一に形成されている。また、側壁18の外面のうち、肉厚部24に対応する領域においては、肉厚部24のうち上側の部分の傾斜は、肉厚部24のうち下側の部分の傾斜よりも緩やかに形成されている。
【0038】
(隅部連結部25)
底壁17の周縁部には、底壁17と側壁18との境界部分に隅部連結部25が形成されている。本実施形態においては、隅部連結部25は、底壁17に形成された第3領域23と連結されている。隅部連結部25の外面には外側隅部曲面26(隅部曲面の一例)が形成されており、隅部連結部25の内面には内側隅部曲面27(隅部曲面の一例)が形成されている。外側隅部曲面26により、側壁18の外面と、底壁17の外面とは滑らかに連続している。また、内側隅部曲面27により、側壁18の内面と、底壁17の内面とは、滑らかに連続している。
【0039】
(蓋部15)
図1に示すように、蓋部15は、後述する正極板28と、弾性を有する接続端子29を介して電気的に接続されており、電池10の正極端子として機能する。蓋部15は全体として円盤状の形状を有し、ケース12の開口部13を塞いでいる。具体的には、蓋部15の周縁部分が、絶縁性の合成樹脂等で形成されたガスケット30を介して、ケース12の開口部13の先端部に嵌められ、その先端部にかしめられている。これにより、蓋部15とケース12との絶縁性を保ちつつ、ケース12が密閉されている。なお、蓋部15には、安全弁31が設けられており、この安全弁31により、ケース12の内圧が所定値以上になったときに、ケース12内のガスを外部に排出することができる。
【0040】
(蓄電要素11)
図1に示すように、蓄電要素11は、ケース12の収容空間14に収容されている。蓄電要素11は、正極板28、負極板16、及び、それらの間に配置されるセパレータ32が、例えばケース12の長手方向(本実施形態における上下方向)に沿った巻き軸を中心に渦巻き状に巻回された構成である。
【0041】
正極板28は、例えば、発泡ニッケル等の正極金属板に、水酸化ニッケル等の正極活物質、及びコバルト化合物等の導電剤等の混合物を塗布したものである。負極板16は、例えばニッケルめっきを施した平板状の穿孔鋼板等の負極金属板に、カドミウム粉末や水素吸蔵合金の粉末等の負極活物質を塗布したものである。セパレータ32は、例えばポリオレフィン製の不織布からなる。セパレータ32には、水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウムを主成分とする電解液が含浸されている。
【0042】
(製造工程)
続いて、本実施形態に係る電池10の製造工程の一例を説明する。なお、本実施形態の製造工程は以下の記述に限定されない。
【0043】
ニッケルめっき鋼板を所定の形状にプレス加工することにより、ケース12を作成する。このケース12内に、蓄電要素11を収容する。次いで、ケース12内に電解液を注入し、蓄電要素11に含浸させる。
【0044】
ケース12の開口部13にガスケット30を介して蓋部15を重ね、ケース12の側壁18の先端部を蓋部15にかしめつける。これによりケース12を蓋部15により封口する。
【0045】
続いて、ケース12に対して縮径工程を実行する。これにより、ケース12を電池10の規格の幅寸法に縮径する。
【0046】
(サンプル1〜10)
本実施形態に係る電池10において、第2領域22の外径F2、及び底壁17の直径F3を一定にして、第1領域21の直径F1を異ならせたサンプル1〜10につき、一般的なCAE(Computer Aided Engineering)解析手法を行い、第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比と、第1領域21の中心部分Bの基準面Pに対する位置と、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの基準面Pに対する位置と、の関係を算出した。結果を
図4に示す。また、計算結果を表1にまとめた。
【0047】
サンプル1〜10に係る電池10の各部の寸法を、以下に示す。底壁17の直径F3は、7.05mmとした。底壁17の厚さ寸法Kは、0.30mmとした。側壁18の厚さ寸法Tは0.13mmとした。本実施形態においては、第1領域21の厚さ寸法L、第2領域22の厚さ寸法M、及び第3領域23の厚さ寸法Nは、全て、底壁17の厚さ寸法Kと同じ寸法になっている。
【0048】
第1領域21の中心部分Bの、第3領域23の外面(下面)からの外方(下方)への突出寸法は、底壁17の厚さ寸法と同じの、0.30mmとした。
【0049】
サンプル1〜10においては、内側隅部曲面27の曲率半径Q2は0.70mmとした。一方、外側隅部曲面26は、複数(本解析例では2つ)の曲率半径を有する曲面が滑らかに連続して形成されている。第3領域23の近傍の領域の外側隅部曲面26の曲率半径Q11は、0.80mmとした。また、側壁18の近傍の領域の外側隅部曲面26の曲率半径Q12は、0.60mmとした。
【0050】
底壁17の厚さ寸法は0.30mmなので、内部隅部曲面27の曲率半径Q2の、底壁17の厚さ寸法に対する比は、2.33とされる。また、第3領域23の近傍の領域の外側隅部曲面26の曲率半径Q11の、底壁17の厚さ寸法に対する比は、2.67とされる。また、側壁18の近傍の領域の外側隅部曲面26の曲率半径Q12の、底壁17の厚さ寸法に対する比は、2.00とされる。なお、比の値は、小数点以下3桁目を四捨五入した。
【0051】
なお、曲率半径の、底壁の厚さ寸法に対する比は、下記の式で表される。
(曲率半径)/(底壁の厚さ寸法)
【0052】
ケース12を構成するニッケルめっき鋼板の、ヤング率を1.72×10
11Pa、ポアソン比を0.23、降伏応力を1.95×10
8Pa、接線係数を5.99×10
9Paとした。
【0053】
解析は、以下のようにして行った。まず、初期状態として、電池10の温度を25℃とし、電池10の内圧を0Paとした。その後、電池10の内圧を2MPaとし、この圧力で1秒間保持させた。その後、電池10の内圧を0Paに減じて除荷した。除荷後、底壁17が復帰変形した状態における底壁17の中心部分Bの位置、及び、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの位置を算出した。
【0054】
表1に記載された、第1領域21の中心部分Bの基準面Pに対する位置について以下に説明する。
図3に示すように、底壁17の中心部分Bの位置は、後述する仮想な基準面Pと底壁17の中心部分Bとの距離(mm)に、軸線方向Aについてケース12の内方(上方)を負方向とし、軸線方向Aについてケース12の外方(下方)を正方向として、正負の符号を付すことにより表した。
【0055】
基準面Pは、電池10の初期状態において、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cを含み、且つ、軸線方向Aに垂直である、仮想的な平面とされる。
【0056】
底壁17の中心部分Bの基準面Pからの距離は、底壁17の中心部分Bから基準面Pに延ばした垂線の長さ寸法とされる。上記したように、基準面Pと軸線方向Aとは垂直なので、上記した垂線は軸線方向Aと平行に延びている。
【0057】
電池10の初期状態においては、底壁17の中心部分Bの位置は、基準面Pから軸線方向Aについて0.1mm上方の位置に配されている。すなわち、電池10の初期状態においては、底壁17の中心部分Bの位置は、「−0.100mm」とされる。
【0058】
サンプル2〜10については、電池10の内圧を上昇させた後に除荷した後における、底壁17の中心部分Bと基準面Pと間の距離を計算した。更に、軸線方向Aの上方を負方向とし、軸線方向Aの下方を正方向とし、除荷後における底壁17の中心部分Bの位置が、基準面Pよりも軸線方向Aについて上方に位置する場合には負符号を付し、基準面Pよりも軸線方向Aについて下方に位置する場合には正符号を付した。これらの符号付きの数値を「第1領域の中心部分の基準面に対する位置/mm」としてまとめた。
【0059】
表1に記載された、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの基準面Pに対する位置について以下に説明する。
図3に示すように、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの位置は、上記した基準面Pと第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cとの距離(mm)につき、軸線方向Aについてケース12の外方(下方)を正方向として表した。
【0060】
第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cからの距離は、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cから基準面Pに延ばした垂線の長さ寸法とされる。上記したように、基準面Pと軸線方向Aとは垂直なので、上記した垂線は軸線方向Aと平行に延びている。
【0061】
電池10の初期状態においては、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの位置は、軸線方向Aについて基準面Pと同じ高さ位置になっている。すなわち、電池10の初期状態においては、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの位置は、「0.000mm」とされる。
【0062】
サンプル2〜10については、電池10の内圧を上昇させた後に除荷した後における、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cと基準面Pと間の距離を計算した。この数値を「第2領域のうち第1領域寄りの端部の基準面に対する位置/mm」としてまとめた。
【0064】
(作用、効果)
続いて、サンプル1〜10の作用、効果について説明する。なお、本実施形態においては、サンプル1は比較例とされ、サンプル2〜10は実施例とされる。
【0065】
(サンプル2〜10)
まず、底壁17の中心部分Bの基準面Pからの位置について説明する。表1に記載された「第1領域の直径/第2領域の外径」が小さくなるということは、第2領域22に対して相対的に第1領域21が小さくなるということを意味する。反対に、「第1領域の直径/第2領域の外径」が大きくなるということは、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなるということを意味する。
【0066】
一方、「底壁の中心部分の基準面からの位置」が、0.00よりも小さな負の値であることは、底壁17の中心部分Bの位置が、基準面Pよりも軸線方向Aについて上方に位置することを意味する。電池10の初期状態においては、底壁17の中心部分Bは、軸線方向Aについて基準面Pから上方0.100mmの位置に配されている。サンプル2〜サンプル4においては、「第1領域の直径/第2領域の外径」が大きくなる(すなわち、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなる)につれて、底壁17の中心部分Bは、軸線方向Aについて基準面Pから上方0.100mmの位置から、軸線方向Aについて下方(正の方向)に変化している。
【0067】
しかしながら、サンプル2〜4においては、電池10の初期状態においては、底壁17の中心部分Bが、軸線方向Aについて基準面Pから上方0.100mmの位置に配されているので、「第1領域の直径/第2領域の外径」が0.39になっても(サンプル4参照)、底壁17の中心部分Bは、軸線方向Aについて基準面Pから上方0.010mmの位置に位置するようになっている。
【0068】
このように、第1領域21を設けることにより、電池10の内圧が上昇した場合でも、底壁17の中心部分Bが第2領域22のうち第1領域21よりの端部よりも軸線方向Aについて下方に突出することを抑制することができる。
【0069】
また、サンプル5〜10においては、「第1領域の直径/第2領域の外径」が大きくなる(すなわち、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなる)につれて、底壁17の中心部分Bの位置は、基準面Pよりも軸線方向Aについて下方に突出するようになる。しかし、この場合でも、第1領域21を設けない場合に比べて、底壁17の中心部分Bの位置は、軸線方向Aについて上方に位置するようになっている。これは、サンプル5〜10について、「第2領域のうち第1領域寄りの端部の基準面からの距離」が、「底壁の中心部分の基準面からの位置」よりも大きいことから理解される。
【0070】
すなわち、「第2領域のうち第1領域寄りの端部の基準面からの距離」が、「底壁の中心部分の基準面からの位置」よりも大きいということは、「第2領域のうち第1領域寄りの端部の基準面からの距離」が、「底壁の中心部分の基準面からの位置」よりも軸線方向Aについて下方に突出していることを意味しているからである。
【0071】
続いて、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの基準面Pからの位置について説明する。「第1領域の直径/第2領域の外径」が0.20〜0.49であるサンプル2〜5においては、「第1領域の直径/第2領域の外径」が大きくなっても(すなわち、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなっても)、「第2領域のうち第1領域寄りの端部の基準面からの距離」はほとんど変化しない。サンプル2〜5における「第1領域の直径/第2領域の外径」の範囲においては、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cは、軸線方向Aについて基準面Pから下方0.071mm〜0.073mmの位置に位置するようになっている。
【0072】
そして、「第1領域の直径/第2領域の外径」が0.59〜0.92であるサンプル6〜10においては、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの基準面Pからの位置は、0.070mm(サンプル6)から、0.050mm(サンプル10)へと単調に変化している。これは、サンプル6〜10においては、「第1領域の直径/第2領域の外径」が大きくなる(すなわち、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなる)につれて、第2領域22の第1領域21寄りの端部Cが軸線方向Aについて基準面Pから下方に突出する寸法が減少していることを意味する。
【0073】
上記のように、サンプル2〜10においては、「第1領域の直径/第2領域の外径」が増加するに従って(すなわち、第2領域22に対して相対的に第1領域21が大きくなるに従って)、底壁17の中心部分Bの軸線方向Aについて下方への突出位置は軸線方向Aについて単調増加し、一方、第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cの軸線方向Aについて下方への突出位置は「第1領域の直径/第2領域の外径」が0.20〜0.49まではほとんど変化せず、0.59〜0.92においては、単調に減少する。この結果、「第1領域の直径/第2領域の外径」が、0.59〜0.92であると、端部Cが軸線方向Aについて基準面Pから下方に突出する寸法が減少しているとともに,さらに端部Cの軸線方向Aでの変位が小さいので、より好ましい。
【0074】
更に、「第1領域の直径/第2領域の外径」は、0.59〜0.88であると、特に好ましい。
【0075】
(サンプル1)
サンプル1については、「第1領域の直径/第2領域の外径」は0.00となっている。すなわち、サンプル1に係る電池10の底壁17は、第2領域22と第3領域23とを備えているが、第1領域21を有しない。
【0076】
サンプル1においては、除荷後の底壁17の中心部分Bは、第2領域22の端部Cと一致することになり、基準面Pから軸線方向Aについて下方の位置に、0.068mm突出しているので、好ましくない。
【0077】
このように、サンプル2〜10に係る蓄電素子は、蓄電要素11と、軸線方向Aに沿って延びる有底円筒形状をなすと共に内部に蓄電要素11が収容されるケース12と、を備えた蓄電素子であって、ケース12は、上方から見て円盤状をなす底壁17と、底壁17の側縁から立ち上がる側壁18と、を備え、底壁17は、上方から見て底壁17と同心円形状をなす第1領域21と、第1領域21よりも底壁17の径方向の外方に位置して底壁17と同心の環状をなす第2領域22と、第2領域22よりも底壁17の径方向の外方に位置して底壁17と同心の環状をなす第3領域23と、を備え、第2領域22は第3領域23よりも軸線方向Aについてケース12の外方に突出しており、第1領域21は第2領域22よりも軸線方向Aについてケース12の内方に突出しており、第1領域21の内面は、第3領域23の外面よりも、軸線方向Aについてケース12の内方に位置している。
【0078】
電池10の充電及び放電を繰り返すと、ケース12内でガスが発生し、ケース12が変形することが懸念される。ケース12の底壁17においては、底壁17がケース12の軸線方向Aの外方に変形することが懸念される。
【0079】
本実施形態によれば、第2領域22は第3領域23よりも軸線方向Aについてケース12の外方に突出している。これにより、底壁17が補強されるので、ケース12の内圧が高くなった場合でも、底壁17が軸線方向Aについてケース12の外方に変形することが抑制される。
【0080】
また、第1領域21は、第2領域22よりもケース12の軸線方向Aについてケース12の内方に突出している。これにより、底壁17がケース12の軸線方向Aの外方に変形した場合でも、少なくとも第1領域21は第2領域22よりも軸線方向Aについてケース12の内方に位置するようになっている。この結果、全体として、ケース12の変形を抑制することができる。
【0081】
上記のように第1領域21は第2領域22よりもケース12の軸線方向Aについてケース12の内方に突出させると、ケース12の容積が減少するので、電池10の高容量化の観点からは好ましくない。一方、ケース12の変形を抑制するためには、第1領域21を軸線方向Aについてケース12の内方に突出させる必要がある。そこで、本実施形態においては、第1領域21の内面は、第3領域23の外面よりも、軸線方向Aについてケース12の内方に位置する構成とした。これにより、ケース12の容積を過度に減少させることなく、ケース12の変形を抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態によれば第1領域21の直径F1の、第2領域22の外径F2に対する比は、0.20〜0.95である。これにより、ケース12の内圧が高くなった場合でも、底壁17の中心部分B、及び第2領域22のうち第1領域21寄りの端部Cが、軸線方向Aについて下方に突出することを抑制することができる。これにより、全体として、ケース12の変形を抑制することができる。
【0083】
「第1領域の直径/第2領域の外径」が、0.59〜0.92であると、端部Cが軸線方向Aについて基準面Pから下方に突出する寸法が減少しているとともに,さらに端部Cの軸線方向Aでの変位が小さいので、より好ましい。
【0084】
更に、「第1領域の直径/第2領域の外径」は、0.59〜0.88であると、特に好ましい。
【0085】
また、本実施形態によれば、側壁18の厚さ寸法Tは底壁17の厚さ寸法Kよりも小さく設定されている。これにより、側壁18の厚さ寸法Tと、底壁17の厚さ寸法Kとを同じに設定した場合に比べて、ケース12の容積を大きくすることができるので、電池10を高容量化することができる。
【0086】
また、本実施形態によれば、側壁18の外面には、底壁17寄りの位置に、外方に突出する肉厚部24が形成されており、肉厚部24の厚さ寸法は、側壁18のうち肉厚部24と異なる部分の厚さ寸法Tよりも大きく設定されている。側壁18のうち底壁17寄りの領域は、ケース12内の内圧が上昇したときに、応力が集中しやすくなっている。そこで、サンプル1〜23においては、側壁18のうち底壁17寄りの位置に肉厚部24が形成されている。これにより、ケース12内の内圧が上昇した場合でも、ケース12の側壁18が変形することを抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、底壁17の周縁部には、底壁17と側壁18とが連結される隅部連結部25が形成されており、隅部連結部25の内面及び外面の双方又は一方には隅部曲面が形成されており、隅部曲面の曲率半径の、底壁17の厚さ寸法に対する比の少なくとも一つは、1.33〜4.67である。
【0088】
隅部連結部25は、底壁17の周縁部であって、底壁17と側壁18との境界に形成されている。このため、隅部連結部25には、ケース12内の内圧が上昇したときに応力が集中しやすくなっている。そこで、上記の構成においては、隅部連結部25の内面に内側隅部曲面27を形成し、隅部連結部25の外面に外側隅部曲面26を形成する構成とした、これにより、ケース12内の内圧が上昇した場合でも、隅部連結部25に応力が集中することが抑制されるので、ケース12が変形することが抑制される。
【0089】
更に、外側隅部曲面26の曲率半径Q11、Q11、及び内側隅部曲面27の曲率半径Q2は、0.40mm〜1.40mmとされている。そして、本実施形態においては、底壁17の厚さ寸法は0.30mmとされている。これにより、曲率半径Q11、Q11、Q2の、底壁17の厚さ寸法に対する比は、1.33〜4.67とされる。この結果、隅部連結部25に応力が集中することを一層抑制することができるので、ケース12が変形することを更に抑制することができる。
【0090】
<他の実施形態>
本明細書に記載された技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような態様も含まれる。
【0091】
本実施形態においては、蓄電素子はアルカリ蓄電池としたが、これに限られず、蓄電素子はキャパシタ、コンデンサでもよい。また、蓄電素子は、例えば、鉛蓄電池、リチウムイオン電池等、アルカリ蓄電池と異なる二次電池であってもよい。
【0092】
本実施形態においては、側壁18の厚さ寸法Tは、底壁17の厚さ寸法Kよりも小さく設定されていたが、これに限られず、側壁18の厚さ寸法Tは、底壁17の厚さ寸法Kと同じか、又は、大きく設定されていてもよい。
【0093】
本実施形態においては、側壁18の外面には肉厚部24が形成される構成としたが、肉厚部24を設けない構成としてもよい。
【0094】
本実施形態においては、隅部連結部25の内面に内側隅部曲面27が形成されて、且つ、隅部連結部25の外面に外側隅部曲面26が形成される構成としたが、これに限られず、隅部連結部25の内面のみに内側隅部曲面27が形成される構成としてもよく、また、隅部連結部25の外面のみに外側隅部曲面26が形成される構成としてもよい。
【0095】
本実施形態においては、第2領域22の外径F2は一定としたが、これに限られず、第2領域22の外径F2は、任意の値に設定することができる。
【0096】
本実施形態においては、第1領域21の内面は、第3領域23の外面よりも、軸線方向Aについてケース12の内方に位置する構成とした。また、第1領域21の内面と、第3領域23の内面とは、軸線方向Aについて同じ高さ位置とされる構成としてもよい。
【0097】
第2領域22の直径F2の、第3領域23の外径F3に対する比は、0.20〜0.95としてもよい。これにより、ケース12の内圧が高くなった場合でも、底壁17の第2領域22が、軸線方向Aについて下方に突出することを抑制することができる。これにより、全体として、ケース12の変形を抑制することができる。