【実施例】
【0027】
以下には、導電性支持部材を具体的に製造した例を実施例として説明する。まず、はじめに、外周部のCu−Zr系材料の特性について検討した内容を実験例として説明する。なお、実験例3−1〜3−3、4−1〜4−3が実施例に相当し、実験例1−1〜1−3、2−1〜2−3は参考例に相当する。
【0028】
[実験例1(1−1〜1−3)]
粉末化として高圧Arガスアトマイズ法で作製したCu−Zr系合金粉末を用いた。この合金粉末は、平均粒径D50が20〜28μmであった。Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量は、1at%、3at%、5at%であり、それぞれ実験例1−1〜1−3の合金粉末とした。合金粉末の粒度は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−3000J)を用いて測定した。この粉末の酸素含有量は0.100質量%であった。焼結工程としてのSPS(放電プラズマ焼結)は、SPSシンテックス(株)製放電プラズマ焼結装置(Model:SPS−210LX)を用いて行った。直径20mm×10mmのキャビティを持つ黒鉛製ダイス内に粉末40gを入れ、3kA〜4kAの直流パルス通電を行い、昇温速度0.4K/s、焼結温度1173K(約0.9Tm;Tmは合金の融点)、保持時間15min、加圧30MPaで実験例1−1〜1−3の銅合金(SPS材)を作製した。なお、この方法で作製したものを「実験例1」と総称する。
【0029】
[実験例2(2−1〜2−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=33μm)、市販のZr粉末(平均粒径D50=8μm)を用い、Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例2−1〜2−3の合金粉末とした。20℃、200MPaの条件でCIP成形を行ったのち、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例2(2−1〜2−3)とした。実験例2では、すべてAr雰囲気中で処理を行った。
【0030】
[実験例3(3−1〜3−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=1μm)と、市販のCu−50質量%Zr合金を用い、Zrボールを用いたボールミルにて24時間混合粉砕を行った。得られた粉末の平均粒径D50は18.7μmであった。Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例3−1〜3−3の合金粉末とした。この粉末を用い、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例3(3−1〜3−3)とした。
図3は、実験例3のSPS条件の説明図である。
【0031】
[実験例4(4−1〜4−3)]
市販のCu粉末(平均粒径D50=1μm)と、市販のZrH
2粉末(平均粒径D50=5μm)を用い、Zrボールを用いたボールミルにて4時間混合粉砕を行った。得られた粉末を用い、Cu−Zr系合金粉末のZrの含有量を1at%、3at%、5at%となるよう配合し、それぞれ実験例4−1〜4−3の合金粉末とした。この粉末を用い、実験例1と同様の工程を経て、得られた銅合金を実験例4(4−1〜4−3)とした。
【0032】
(ミクロ組織の観察)
ミクロ組織の観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)と走査型透過電子顕微鏡(STEM)、およびナノビーム電子線回折法(NBD)を用いて行った。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ製S−5500を用い、加速電圧2.0kVで2次電子像及び反射電子像を撮影した。TEM観察は、日本電子製JEM−2100Fを用い、加速電圧200kVでBF−STEM像やHAADF−STEM像を撮影し、ナノ電子線回折を行った。また、EDX(日本電子製JED−2300T)を用いた元素分析を適宜行った。測定試料は、日本電子製SM−09010クロスセクションポリッシャ(CP)を用い、イオン源をアルゴン、加速電圧5.5kVでイオンミリングすることで調製した。
【0033】
(XRD測定)
化合物相の同定は、Co−Kα線を用いてX線回折法により行った。XRD測定は、リガク製RINT RAPIDIIを用いた。
【0034】
(電気的特性評価)
得られた実験例のSPS材および伸線材の電気的性質は、常温においてプローブ式導電率測定および長さ500mmでの四端子法電気抵抗測定によって調べた。導電率はJISH0505に準じて銅合金の体積抵抗を測定し、焼き鈍した純銅の抵抗値(0.017241μΩm)との比を計算して導電率(%IACS)に換算した。換算には、以下の式を用いた。導電率γ(%IACS)=0.017241÷体積抵抗ρ×100。
【0035】
(Cu−Zr系化合物相の特性評価)
実験例3の銅合金に含まれるCu−Zr系化合物相に対してヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHの測定を行った。測定装置は、Agilent Technologies社製Nano Indenter XP/DCMを用い、インデンターヘッドとしてXP、圧子をダイヤモンド製バーコビッチ型を用いた。また、解析ソフトはAgilent Technologies社のTest Works4を用いた。測定条件は、測定モードをCSM(連続剛性測定)とし、励起振動周波数を45Hz、励起振動振幅を2nm、歪速度を0.05s
-1、押し込み深さを1000nm、測定点数Nを5、測定点間隔を5μm、測定温度を23℃、標準試料をフューズドシリカとした。サンプルをクロスセクションポリッシャ(CP)により断面加工を行い、熱溶融性接着剤を用いて試料台及びサンプルを100℃、30秒加熱してサンプルを試料台に固定し、これを測定装置に装着してCu−Zr系化合物相のヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHを測定した。ここでは、5点測定した平均値をヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHとした。
【0036】
(外周部を構成する材料の考察)
まず、原料について検討した。
図4は、(a)実験例1−3,(b)実験例3−3,(c)実験例4−3の原料粉体のSEM像である。実験例1−3の原料粉体は、球状であり、実験例3−3,4−3の原料粉体は、粗大な涙滴状のCu粉末と微細な球状のCuZr粉末又はZrH
2粉末がそれぞれに混在していた。
図5は、実験例1−3,3−3,4−3の原料粉体のX線回折測定結果である。実験例1−3の原料粉体では、Cu相、Cu
5Zr化合物相と、Unknown相であった。実験例3−3の原料粉体では、Cu相、CuZr化合物相およびCu
5Zr化合物相であった。また、実験例4−3の原料粉体では、Cu相とZrH
2相、およびα−Zr相の複相組織であった。これらの粉末を用いて、以下検討したSPS材を作製した。
【0037】
図6は、実験例1〜4の断面のSEM−BEI像である。実験例1では、CuとCu−Zr系化合物(主としてCu
5Zr)との2相が、共晶相を含むことなく、断面視したときに大きさ10μm以下の結晶が分散した構造を有していた。この実験例1では、断面視したときのCu−Zr系化合物の粒径が小さく、比較的均一な構造を有していた。一方、実験例2〜4では、α−Cu母相内に、比較的大きい第二相が分散する構造を有していた。
図7は、実験例1〜4の銅合金の導電率測定結果である。実験例1〜4の銅合金は、上述した構造の違いはあるが、Zrの含有量と導電率との傾向は、実験例1〜4の銅合金において大きな違いはなかった。これは、銅合金の導電性はCu相に依存しており、Cu相には構造的な違いは無いためであると推察された。また、銅合金の機械的強度はCu−Zr系化合物相に依存すると考えられ、これらを有することから、実験例2〜4についても、機械的強度は比較的高い値を示すものと推察された。
図8は、実験例1−3,3−3,4−3のX線回折測定結果である。
図8に示すように、実験例1、3〜4では、α−Cu相及びCu
5Zr化合物相及びUnknown相が検出され、これらの複合組織を有するものと推察された。これは、粉末の出発原料が異なっていても、SPS材の構造が同じであることを示している。なお、実験例1−1,1−2,3−1,3−2,4−1,4−2のSPS材の構造は、Zr量によってX線回折強度は異なるものであったが、それぞれ
図8に示すSPS材と同じ複相構造であった。
【0038】
次に、実験例3について詳しく検討した。
図9は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像である。撮像したSEM写真から、第二相の平均粒径D50を求めた。第二相の平均粒径は、100倍〜500倍の領域の反射電子像を観察し、その画像に含まれる粒子の内接円の直径を求め、これをこの粒子の直径とした。そして、その視野範囲に存在するすべての粒子の粒径を求めた。これを5視野について行うものとした。得られた粒径から累積分布を求め、そのメディアン径を平均粒径D50とした。
図10のSEM写真に示すように、実験例3の銅合金は、断面視したときに第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲にあることがわかった。また、第二相は、粗大な粒子の最外殻に酸化膜が形成されていると推察された。また、第二相の中心核には、多数のくびれた微粒子と双晶を形成していることがわかった。
図10は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像及びEDX測定結果である。
図11は、実験例3−3の断面のSEM−BEI像、STEM−BF像、EDX分析結果及びNBD図形である。元素分析の結果より、第二相は、外殻にCu
5Zrを含むCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にCuが10at%以下であるZrリッチなZr相を包含していることがわかった。
【0039】
このZr相及びCu−Zr系化合物相に対し、ナノインデンテーション法による硬さHを測定した。ヤング率E及び硬さHは、多点測定を実施し、測定後、SEM観察によりZr相内に押し込まれた測定点を抜粋した。測定結果から、ヤング率E及びナノインデンテーション法による硬さHを求めた。その結果、Zr相のヤング率は、平均値で75.4GPaであり、硬さHは、平均値で3.37GPa(ビッカース硬さ換算値MHv=311)であった。Cu−Zr系化合物相は、ヤング率Eが159.5GPaであり、硬さHが6.3GPa(ビッカース硬さ換算値MHv=585)であり、Zr相と異なることがわかった。この際の換算は、MHv=0.0924×Hを用いた(ISO14577−1 Metallic Materials−Instrumented Indentation Test for Hardness and Materials Parameters − Part 1:Test Method,2002.)。
【0040】
次に、実験例4について詳細に検討した。
図12は、実験例4−3の断面のSEM−BEI像である。撮像したSEM写真から、上述と同様に第二相の平均粒径D50を求めた。
図12のSEM写真に示すように、実験例4の銅合金は、断面視したときに第二相の平均粒径D50が、1μm〜100μmの範囲にあることがわかった。また、第二相は、粗大な粒子の外殻にCu
5Zrを含むCu−Zr系化合物相を有し、中心核部分にZrリッチなZr相を包含していることがわかった。
図13は、実験例4の断面のSEM−BEI像及びEDX法による元素マップである。
図13に示すように、第二相の中心核部分は、Cuが少なく、Zrが極めて多い、ZrリッチなZr相であると推察された。
図14は、(a)実験例4−3の断面のTEM−BF像及び(b)Area1のSAD図形、(c)Area2のSAD図形である。
図14に示すSPS材のCu
5Zr化合物相にも、内部に双晶を持つ微細組織が観察された。
図14(b)は、
図14(a)に示す微細組織内のArea1のSAD(Selected Area Diffraction:制限視野回折)図形であり、
図14(c)は、
図14(a)に示す微細組織内のArea2のSAD図形である。なお、制限視野絞りは200nmであった。これらのAreaの中心部において、EDX分析も行った。その結果、Area1で観察された微細組織は、実験例3のSPS材と同様にCuを5at%含むZrリッチな相であり、測定した3つの格子面間隔は、1.2%以下の差でα−Zr相の格子面間隔と一致した。また、Area2の化合物相は、実験例1,3のSPS材と同様のCu
5Zr化合物相であった。
【0041】
以上のように、実験例3、4では、原料として比較的化学的に安定なCu−Zr母合金を用いるか、ZrH
2を用いるかによって、より簡便な処理で導電性や機械的強度をより高め、耐摩耗性にも優れる実験例1と同等の銅合金を作製することができることがわかった。
【0042】
次に、内周部と外周部とを有する導電性支持部材を作製した例を実施例として説明する。
【0043】
[実施例1]
内径26mm×高さ10mmのキャビティを有する黒鉛製ダイス内に直径10mmの円筒状の仕切りを形成し、その内周側にCu粉末(平均粒径75μm)を14.0g充填し、外周側にCu粉末(平均粒径75μm)及びZrH
2粉末をCu−xZr(x=5.0at%)の合金組成となるように75.2g充填し、仕切りを取り除いた。この黒鉛製ダイスにパンチを挿入し、SPSシンテックス(株)製放電プラズマ焼結装置(Model:SPS−210LX)を用いてSPS焼結を行った。SPS焼結は、3kA〜4kAの直流パルス通電を行い、昇温速度0.4K/s、焼結温度1153K(約0.9Tm;Tmは合金の融点)、保持時間15min、加圧20MPaで行い、得られた複合部材を実施例1とした。
図15は、実施例1の導電性支持部材のSPS条件の説明図である。
【0044】
[実施例2〜4]
外周部の組成をCu粉末(平均粒径75μm)及びZrH
2粉末をCu−xZr(x=8.6at%)の合金組成となるようにした以外は、実施例1と同様の工程を経て、得られた部材を実施例2とした。
図16は、実施例2の導電性支持部材のSPS条件の説明図である。また、外周部の組成をCu粉末(平均粒径75μm)及びZrH
2粉末をCu−xZr(x=15.2at%)の合金組成となるようにし、内周部として純銅の丸棒を用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て、得られた部材を実施例3とした。また、外周部の組成をCu粉末(平均粒径75μm)及びZrH
2粉末をCu−xZr(x=16.7at%)の合金組成となるようにし、内周部として純銅の丸棒を用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て、得られた部材を実施例4とした。
【0045】
[比較例1]
Beを1.90質量%、Coを0.20質量%、残部をCuとするCu−Be−Co系合金を溶解・鋳造後、冷間圧延及び溶体化処理を行い、実施例1と同様の形状に加工したものを比較例1とした。
【0046】
(導電率の測定及び硬さの測定)
内周部と外周部に対して、導電率を測定した。また、上記と同様に、内周部及び外周部のCu−Zr化合物粒子に対して硬さを測定し、ビッカース硬さ換算値を上記実験例と同様に求めた。
【0047】
(結果と考察)
図17は、実施例1の導電性支持部材の写真及び断面のSEM写真である。
図18は、実施例1のXRD測定結果である。
図19は、実施例1の外周部の断面のSEM写真である。
図20は、実施例2の導電性支持部材の写真及び断面のSEM写真である。
図21は、実施例2のXRD測定結果である。
図22は、実施例2の外周部の断面のSEM写真である。
図23は、実施例1〜3の内周部と外周部との境界部分の断面のSEM写真であり、
図23Aが実施例1、
図23Bが実施例2、
図23Cが実施例3、
図23Dが実施例3の粒界の拡大写真である。また、表2に実施例1,2のサンプル詳細と内周部及び外周部の導電率(%IACS)、ビッカース硬さ換算値(MHv)をまとめて示した。また、表3に実施例1〜4
の全体及びZr化合物部分の導電率、ビッカース硬さ、ヤング率と共に、比較例1の導電率、ビッカース硬さ、ヤング率をまとめて示した。
図17、20に示すように、上記工程を経て、内周部と外周部とを有する部材を形成することができた。実施例1、2の内周部の導電率は、どちらも99%IACSであり高導電性を有することがわかった。また、実施例1、2の外周部の導電率は、それぞれ53%IACS、32%IACSであり、導電性を十分有することがわかった。また、ビッカース硬さ換算値は、内周部では、実施例1、2がそれぞれ67MHv、76MHvである一方、外周部のCu−Zr系化合物相ではどちらも670MHv以上と高硬度であった。
【0048】
また、実施例1、2は、
図18、21に示すように、CuとCu−Zr系化合物(Cu
5Zr)のX線回折ピークが得られ、更に、
図19、22に示すように、外周部の構造が上記実験例で検討した内容と同じであり、Cu母相とCu母相内に分散されCu−Zr系化合物を含む第二相とを含むものであった。また、表3に示すように、実施例1〜4では、Zrの含有量の増加に伴い、全体の導電率が低下する傾向を示したが、ビッカース硬さの高いZr化合物の含有量が増加するため、硬さや強度がより高まるものと推察された。また、
図23A〜Cに示すいずれの焼結体も、外周部(左側)がCu母相とCu−Zr化合物(Cu
5Zr)の第二相とを含む相であり、内周部(右側)がCu相である。
図23に示すように、Zrの添加量が増加するにつれて、明るく観察される外周部のCu
5Zr化合物相の量は増加し、不均一な分散状態から不揃いな密接状態へと変化した。その周囲に生成するCu相は、逆に量が減少した。全ての組成において、酸化物と思われる痕跡は確認されたが、気孔は観察されず、緻密化していることが分かった。また、
図23Dに示すように、実施例3においても、外周部には、Cu
5Zr化合物相の中にCu相が点在していた。また、外周部と内周部との間には、結晶構造が異なり電流の流れを遮る反応層のような界面は確認されず、拡散層により密着していた。また、実施例4においても、他の実施例と同様に、外周部がCu母相とCu母相内に分散されCu−Zr系化合物を含む第二相とを含むものであり、内周部がCu相からなる構造であった。このような部材は、例えば、高導電率、高強度が求められる溶接部材のシャンクやチップ電極のソケットなどに用いることが好適であると推察された。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0052】
本出願は、2016年12月1日に出願された日本国特許出願第2016−234067号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。