特許第6447981号(P6447981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447981
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】光学観察装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/12 20060101AFI20181220BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20181220BHJP
   G01J 5/48 20060101ALI20181220BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   G02B23/12
   H04N5/225 400
   G01J5/48 A
   H04N5/225 450
   H04N5/232 290
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-19212(P2017-19212)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-128484(P2018-128484A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年3月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000156396
【氏名又は名称】鎌倉光機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 邦郎
(72)【発明者】
【氏名】宮地 和也
【審査官】 小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−350619(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/171190(WO,A1)
【文献】 特開平05−188306(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0098972(US,A1)
【文献】 特開2000−028928(JP,A)
【文献】 特開2004−354794(JP,A)
【文献】 特開2003−222803(JP,A)
【文献】 実開昭56−110561(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 23/12
G01J 5/48
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な二本の光軸の一方の光軸上に配置され可視光像を結像する可視光対物光学系と、正立プリズムと、前記可視光対物光学系によって結像された可視光像を観察する観察用接眼光学系と、から成る可視光望遠鏡装置と
他方の光軸上に配置され赤外光像を結像する赤外光結像光学系と、前記赤外光像の結像位置に配置された赤外光センサーと、前記赤外光センサーで検出された信号の一部分を前記可視光望遠鏡装置の観察対象物の指標として抽出して画像信号化する信号処理装置と、前記信号処理装置によって画像信号化された抽出画像を表示する画像表示装置と、前記画像表示装置の位置に焦点を持つ探索用接眼光学系と、から成る赤外光映像装置と
前記抽出画像を消去する外部操作可能な操作部材と、
により構成され、
前記赤外光映像装置は前記可視光望遠鏡装置の観察視野の周囲を完全に包含する探索視野を有し、
前記抽出画像は設定された温度範囲に対応する赤外光像部分のみを目視観察で視認し易い色で表示された画像であり、
前記抽出画像を指標として、観察対象物が前記可視光望遠鏡装置の視野の中央付近に捕捉されるように誘導することが可能であり、
前記抽出画像を消去することで前記可視光望遠鏡装置の視野内で観察対象物のみの観察が可能であることを特徴とする光学観察装置。
【請求項2】
前記正立プリズムは、入射光軸と射出光軸が略45°傾いていることを特徴とする請求項1記載の光学観察装置。
【請求項3】
前期抽出画像の大きさを縮小して前記観察用接眼光学系で観察する可視光像の観察視野の大きさとほぼ一致させたことを特徴とする請求項1ないし2記載の光学観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィールドスコープ等の可視光望遠鏡において、観察目的とする対象物の発見を容易にする赤外線映像手段を備えた光学観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バードウォッチングのように遠方の小さな観察対象物を観察する場合は、フィールドスコープや双眼鏡のような高倍率の光学観察装置が用いられている。
【0003】
また、上記の光学観察装置は遠方の小物体を観察するために例えば50倍といった高倍率に構成されているために固定した観察範囲(視野)は数度といったように狭くなり、また視野内に野鳥のような小さい観察物を見つけるのは困難であり、実際の観察にはある程度の経験や勘が必要であった。
【0004】
赤外光領域の赤外光像は、可視光領域の可視光像では得られない観察対象物の情報が得られるので、これまでにも、特許文献1、特許文献2のような赤外画像と可視画像を併用(合成)する種々の提案がなされている。また特許文献2で開示されているように可視画像観察装置に赤外画像を併用することで目標検出を容易にする技術が提案されているが、いずれも可視領域の電子画像と赤外線領域の電子画像を電子的手段で合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭51−4886号公報
【特許文献2】特公平6−17829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高倍率の光学観察装置による観察対象物の検出・観察能力を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の光学観察装置は光軸が平行な観察用の可視光望遠鏡装置と探索用の赤外光映像装置より構成され、可視光対物光学系によって結像された観察視野の可視光像と赤外光映像装置によって得られた探索視野の抽出画像を同時に、もしくは交互に観察することが出来ることを主要な特徴とするものである。
【0008】
観察視野内に捕捉出来なかった野鳥のような観察対象を赤外光映像装置の探索視野内に捕捉し、観察装置の光軸を探索視野内で観察対象の方向へ誘導することによって観察対象を観察視野内へと誘導することが出来る。観察対象を観察視野内の中央付近で捕捉したら、画像消去手段により抽出画像を消去することができ、観察用接眼光学系を通して観察視野内の観察対象物を明瞭に観察することができる。
【0009】
この光学観察装置は、平行な二本の光軸の一方の光軸上に配置された、可視光像を結像する可視光対物光学系と、前記可視光対物光学系によって結像された可視光像を観察する観察用接眼光学系と、他方の光軸上に配置された、赤外光像を結像する赤外光結像光学系と、前記赤外光像の結像位置に配置された赤外光センサーと、前記赤外光センサーで検出された信号の一部分を抽出して画像信号化する信号処理装置と、前記信号処理装置によって画像信号化された抽出画像を表示する画像表示装置と、前記画像表示装置の位置に焦点を持つ探索用接眼光学系とにより構成されていることを特徴とする。
【0010】
さらに、この光学観察装置は、前記観察用接眼光学系と前記探索用接眼光学系は、互いに平行な二本の接眼光軸上に配置され、前記二本の接眼光軸の間の距離は60mmから70mmの範囲を含む範囲を調整可能である構成とすることもできる。その場合、光学観察装置の使用者は左右の目でそれぞれ観察用接眼光学系と探索用接眼光学系を覗きこむことが可能となり、観察視野の可視光像と探索視野の抽出画像を同時に観察することが出来る。
【0011】
画像表示装置に表示される抽出画像は信号処理装置において観察対象物の放射温度もしくは放射温度範囲(例えば鳥類の場合38℃〜42℃)に応じて設定出来、また変更可能な構成をとることができる。
【0012】
画像消去手段は画像表示装置の機能を無効化する外部操作可能な操作部材により構成できる。
【0013】
このような画像消去手段は、探索後に抽出画像を探索視野から消去できるので抽出画像が観察視野に影響を及ぼす事がない。
【0014】
抽出画像の画角は可視光像の視野角よりも広いことが望ましく、またその画角は変更可能であることがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学観察装置は、従来の望遠鏡類では発見しづらい木々の茂みの中の野鳥のような観察対象物や薄暗い状況下での観察対象物は探索用の抽出画像を観察視野像と同時に、もしくは交互に観察できるので、観察対象物が探索視野内で容易に発見・捕捉できるとともに捕捉された観察対象物を観察視野の中心付近に位置するように光学観察装置を誘導できるので野外観察が非常に容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は光学観察装置の一実施例の概略構成を示した構成図である。(実施例1)
図2図2(A)は可視光望遠鏡装置の視野である前方の観察領域の木立の葉の茂みの中に観察対象物として野鳥がいる場合の観察領域の光景の一例を示す説明図である。図2(B)は図2(A)の可視光望遠鏡装置の視野角と同一の視野角を有する赤外光映像装置の視野画像の一例を示す説明図であり、図2(A)と同一の視野のサーモ画像を示している。図2(C)は図2(A)の観察視野の可視光像と図2(B)の探索視野のサーモ画像を重ね合わせて示した説明図である。図2(D)は図2(B)の赤外光映像装置のサーモ画像から識別的に抽出して画像表示するための設定抽出温度を特定の温度範囲(例えば多くの野鳥類の体温を含む放射温度範囲である38℃〜42℃)に設定した場合の抽出画像の説明図である。図2(E)は図2(A)の観察視野像と図2(D)の抽出画像を重ね合わせた説明図である。
図3図3(A)は本発明の光学観察装置の観察用可視光望遠鏡装置の視野角のほぼ2倍の視野角に内包された探索領域としての前方の光景とその探索領域内の観察用可視光望遠鏡装置の視野像を示す説明図である。図3(B)は光学観察装置で実際に観察される観察視野像を示す説明図である。図3(C)は探索視野内の抽出画像を基準に光学観察装置の光軸を移動して観察対象物の野鳥を観察視野の中央付近で捕捉する様子を示す説明図である。図3(D)は観察対象物の野鳥を探索視野の中央付近で捕捉した様子を示す説明図である。図3(E)は観察対象物の野鳥を視野の中央付近で捕捉した時の光学観察装置の観察視野像と探索領域としての前方の光景との空間的相対位置を示す説明図である。図3(F)は観察対象物の野鳥を視野の中央付近で捕捉した時の光学観察装置の観察視野像を示す。
図4図4は本発明の光学観察装置の第二の実施例の概略構成を示した構成図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般にバードウォッチング等ではフィールドスコープと呼ばれる望遠鏡や双眼鏡が用いられている。フィールドスコープは単眼の地上望遠鏡で三脚に取付けて使うことが多く、接眼レンズを交換することで簡単に倍率を変えることができるので野鳥等の野外観察に適している。
【0018】
日中のように明るい状況下での野外観察では、見通しの良い前方光景中の野鳥や水辺の野鳥等を観察する場合には、観察対象物である野鳥を観察装置の視野内に捕捉することは比較的容易でその詳細部分まで観察できるが、木々の葉の茂みの中の野鳥や夕方のような薄暮の野外の野鳥などはその探索や捕捉には苦労することが多く、経験や勘が要求されることも多いのが現状である。
【0019】
動物においては哺乳類と鳥類だけが恒温動物で体温が一定に保たれており、それ以外の多くの動物は変温動物である。鳥類の体温あるいは熱放射温度はおおよそ38〜42℃の範囲内にあり、その中でも小型の野鳥は大型のものに比べてより体温が高いので、赤外線を使用し温度分布画像で表示した赤外線画像(サーモ画像)で見ると、比較的容易に見つけ出すことが可能になる。
【0020】
また、恒温動物でも犬や猫等の体温は鳥類の体温範囲よりも低く略39℃以下であることが多い。そのため赤外線画像を温度分布画像で表示する場合、観察対象物の温度または温度範囲に合わせて特定の温度または温度範囲を設定すれば犬や猫等のみを画像として抽出することが出来るので、観察対象物の探索・発見を容易に行うことが可能となる。
【0021】
一方、近年非冷却型の赤外センサーが比較的入手可能となっている。非冷却赤外センサーを用いて得られるサーモ画像は、フィールドスコープで得られる光学像や可視光センサーを用いて得られる画像に比べて画素数が少なく、そのため画質は著しく劣るが、赤外センサーを用いて得られるサーモ画像は観察対象物の温度分布を画像化できるので観察対象物の識別能力が高い。
【0022】
このように、フィールドスコープのような光学的な観察装置に比べ、観察対象物の識別能力の高いサーモ画像が得られる赤外サンサーを併用することでバードウォッチング等の野外観測に適した光学観察装置を提供する事が可能になる。具体的には、赤外光映像装置で得られるサーモ画像を探索用接眼光学系で観察し、可視光望遠鏡装置で得られた可視光像を観察接眼光学系で観察することで、左右の目で同時に観察する構造を備えることによって実現することができる。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例である光学観察装置1の概略構成図である。図中10はフィールドスコープのような可視光望遠鏡装置、20は赤外光映像装置であってそれぞれの光軸10x及び20xは互いに平行に配置されており、光学観察装置1はさらに、抽出画像を赤外光映像装置20の視野から消去するための、操作部材27を備えている。これらの可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20は、中心軸30で連結された構造で光学観察装置1が構成されている。操作部材27は光学観察装置1の筐体外部に設けられている。
【0024】
可視光望遠鏡装置10は可視光対物光学系11、正立プリズム12及び観察用接眼光学系13がこの順序で光路上に配列されて構成されている。また、赤外光映像装置20は赤外光像を結像する赤外光結像光学系21、この赤外光結像光学系21の結像位置に配置された非冷却赤外イメージセンサー等の赤外光センサー23、この赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出して画像信号化するための信号処理装置25、信号処理装置によって画像信号化された抽出画像を表示する液晶表示装置やEL(エレクトロルミネッセンス)表示装置などのような画像表示装置24と、探索用接眼光学系26から構成されている。
【0025】
観察用接眼光学系13は、その焦点位置が可視光対物光学系11の焦点面14と一致するように配置されている。その為、可視光対物光学系11で結像された可視光像は、観察用接眼光学系13を通して拡大して観察することができる。また探索用接眼光学系26は、その焦点位置が画像表示装置24の位置と一致するように配置されている。その為、画像表示装置24に表示された抽出画像は、探索用接眼光学系26を通して拡大して観察することができる。また可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20は、中心軸30を中心に回転可能な構造で連結されている。その為、観察用接眼光学系13の接眼光軸10yと探索用接眼光学系の接眼光軸20yの間の距離31は、任意に調整が可能となる。一般的に、人間の左右の目の間隔は60mmから70mm程度と言われている。二本の接眼光軸10yと20yの間の距離31が60mmから70mmの範囲を含む範囲に調整可能な構造とすることで、一般的な使用者は観察用接眼光学系13と探索用接眼光学系26を左右の目で覗き込むことができる。その結果、可視光対物光学系で結像された可視光像と、画像表示装置24に表示された抽出画像を、同時に拡大して観察することが出来る。
【0026】
また、赤外光映像装置20の信号処理装置25は必要に応じてサーモ画像の一部を部分表示する機能や、抽出画像を非表示にする機能を持ち、光学観察装置1の筐体外部に設けられた操作部材27を操作することよってその機能を選択できる。その結果、探索用接眼光学系26の視野からは抽出画像が消去され、観察視野の可視光像だけが可視光望遠鏡装置10の観察用接眼光学系13を通して観察することができる。
【0027】
また赤外光映像装置20の赤外光結像光学系21と赤外光センサー23の間に着脱可能なシャッター22を設けることで、赤外光センサー23の画素ごとの感度ばらつきを補正することができる。
【0028】
赤外光映像装置20の画像表示装置24は赤外光結像光学系21で赤外光センサー23上に形成された赤外光像を信号処理装置25によって画像信号化して抽出画像として表示する。赤外光映像装置20の信号処理装置25は前記赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出して画像信号化する機能を有する。本発明では、赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出する画像抽出は、信号処理装置25に予め設定された温度もしくは温度範囲に対応する赤外光像部分のみを抽出画像として画像信号化するように構成されている。例えば、赤外光映像装置20の視野内の対象物を、特定の放射温度を有する対象物だけに制限して画像表示装置24に表示させるための抽出温度もしくは抽出温度範囲を不図示の温度設定手段を操作することによって設定することが出来るように構成されている。
【0029】
バードウォッチングのように野外において鳥類を観察する場合、抽出温度範囲を鳥類の体温範囲である例えば38℃〜42℃に設定すれば、視野内の光景内に野鳥が存在する場合、野鳥だけ(野鳥を含む抽出温度範囲内の対象物)が画像表示装置24に表示されることになる。また、信号処理装置25と画像表示装置24は設定温度範囲に包含される視野内の物体の画像に所定の色、例えば赤色、を付して画像表示装置24上で表示出来るように構成されている。信号処理装置25は設定放射温度の範囲外の放射温度を持つ対象物の赤外光像は画像信号化されないので画像表示装置24には表示されない。すなわち、画像表示装置24には設定された抽出温度もしくは抽出温度範囲の放射温度を有する対象物のみが抽出表示されることになる。勿論、バードウォッチングに特化した光学観察装置であれば、この抽出温度範囲を固定して鳥類のだけを抽出表示するように構成すれば装置の価格低減に資することが出来る。
【0030】
図2(A)は観察者の前方の光景(被観察視野)である木立の繁る葉の茂みである前景41に存在する観察対象物である野鳥42を、例えば図1の光学観察装置1の可視光望遠鏡装置10と同様な周知の可視光望遠鏡装置で観察している場合の観察視野40内の画像を模式的に描写したものである。
【0031】
また、図2(B)は図2(A)と同一の光景(被観察視野)41を例えば図1の光学観察装置1の赤外光映像装置20と同様な赤外光映像装置で探索している場合の探索視野40Rのサーモ画像41Rを模式的に描写したものである。このサーモ画像は温度分布画像として視認されるが、赤外光センサーは概して画素数も少ないので画像自体の分解度(解像度)は低く、その結果野鳥のサーモ画像42Rはその形状や輪郭等の細部が不明確で画質の悪い画像となってしまう。
【0032】
図2(C)は図2(A)の可視光望遠鏡装置の観察視野40の像と図2(B)の赤外光映像装置の探索視野40Rのサーモ画像41Rを単純に合成(重ね合わせ)した状態の画像を模式的に示すものである。この場合、探索視野40Rの質が悪いサーモ画像41Rが観察視野40の光景41の可視光像に重畳されるので,質の悪いサーモ画像の方が視覚的に優位となってしまい、実際の観察はほとんど不可能になってしまうのが現状である。
【0033】
ところで、赤外光映像装置20のように抽出温度範囲が設定可能に構成された本発明の光学観察装置1では、抽出温度範囲を観察対象物の熱放射温度、例えば観察対象物のである野鳥の体温38℃〜42℃、に設定するとともに、抽出温度範囲によって抽出された探索視野内の設定放射温度を有する観察対象物、例えば野鳥、を特定の目視観察で視認し易い色、例えば赤色、で画像表示装置24に表示するように信号処理を行ってサーモ画像の一部分として画像信号処理すると、図2(D)に示すように観察対象物である野鳥の赤色サーモ画像42Rだけが抽出され画像表示装置24に表示される。従って、可視光望遠鏡装置10の観察視野像とこの赤外光映像装置20の探索視野画像を両目で同時に観察すると、図2(E)のように前景の明瞭な像の中に観察対象物である特徴のある色で表示された野鳥が容易にそして明確に視認することができる。ここで抽出画像を消去すると図2(A)の光学像が観察できる。
【0034】
可視光望遠鏡装置の観察視野と赤外光映像装置の探索視野が同じであって、観察対象物が観察視野内に存在する場合について図2(A)〜(E)に基づいて説明したが、可視光望遠鏡装置の観察視野内に観察対象物が存在していない場合、観察対象物を探索・発見すること自体が難しい。
【0035】
本発明の光学観察装置1は、可視光望遠鏡装置10の観察視野内に観察対象物が存在していない場合であっても赤外光映像装置20によって観察対象物を容易に探索・発見することが出来て観察が行えるものであり、以下にその作用を説明する。
【0036】
図3(A)は前方の木立の繁る葉の茂みである前景41中の観察を意図した仮想観察領域45の内側ではあるが可視光望遠鏡装置10の視野(観察視野)40の外側に観察対象としての野鳥42が存在している場合であって、この仮想観察領域45は可視光望遠鏡装置10の視野の2倍程度の広さに設定されそのほぼ中央領域に光学観察装置1の可視光望遠鏡装置10の視野40を向けた様子を示している。図3(A)において可視光望遠鏡装置10の視野40を実線で示し、可視光望遠鏡装置10の視野の2倍程度の広さの仮想観察領域45を点線で示している。可視光望遠鏡装置10の観察視野40は観察領域45のほぼ中央に重なっている。この場合、図3(B)に示すように光学観察装置1の観察視野即ち可視光望遠鏡装置10の観察視野40内には観察対象物であるの野鳥42の姿を捕捉することが出来ない。
【0037】
そこで、赤外光映像装置20の視野(探索視野)40Rを可視光望遠鏡装置10の視野(観察視野)40の2倍程度の大きさを有するものとし、即ち図3(A)の仮想観察領域45にほぼ一致させると、この赤外光映像装置20はその探索視野40R内に観察対象物の野鳥42を捕捉することができる。前述したように、赤外光映像装置20の赤外光結像光学系21で赤外センサー23上に形成された探索視野40Rの赤外光像を画像表示装置24の信号処理装置25によって設定抽出温度範囲内の熱放射温度を有する観察対象物である野鳥42を抽出してサーモ画像信号に変換した上で特定の視認し易い色、例えば赤色、で画像表示装置24に表示するように信号処理を行ってサーモ画像の一部分として抽出画像信号処理すると、サーモ画像信号に変換し特定の色に着色された抽出画像として赤い野鳥のサーモ画像42Rが画像表示装置24上に表示されると、図3(C)に実線で示された探索視野40Rの抽出画像が得られ、観察領域45内から抽出された野鳥の抽出画像42Rが赤色の画像として画像表示装置24上に表示される。なお、図3(C)中の十字線46は赤外光映像装置20の視野枠内に設けられており、その交点は光軸20xを表している。
【0038】
ここで、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20が一体となった光学観察装置1を、赤外光映像装置20の光軸20x(即ち十字線46)を探索対象物である野鳥のサーモ画像42Rの方向(矢印47)へ移動させると、赤外光映像装置20の視野が同じ方向へ移動するので、野鳥42と赤外光映像装置20の光軸20xが相対的に接近する。赤外光映像装置20の視野40R内においては十字線46が野鳥の抽出画像42Rに接近する。さらに継続して移動し、探索視野40Rを点線で描かれた位置(観察領域45)まで移動すれば、野鳥の抽出画像42Rは赤外光映像装置20の視野の中央付近へ移動する。
【0039】
この時、赤外光映像装置20と一体となった可視光望遠鏡装置10も赤外光映像装置20と一体的に同じ方向へ実線位置から点線位置へと移動するので、図3(E)に示すように被観察対象物である野鳥42を観察視野40の中央付近で捕捉することが出来る。図3(E)は光学観察装置1を移動し被観察対象物である野鳥42を観察視野40の中央付近で捕捉した状態の時の光学観察装置1と可視光望遠鏡装置10の観察視野40の相対位置を示しており、図3(F)は中央付近で被観察対象物である野鳥42を捕捉した時の光学観察装置1による実際の観察視野40の状態を示している。
【0040】
赤外光映像装置20の探索視野40R中央付近で被観察対象物である抽出画像で表示された野鳥42Rを捕捉したら、赤外光映像装置20の操作部材27を外部から手動的に操作して信号処理装置25の信号化機能を無効化して、抽出画像42Rを光学観察装置の探索視野から消去する。その結果、可視光望遠鏡装置10の観察視野40の可視光像だけが観察用接眼光学系13を介して観察することができる。
【0041】
以上の実施例では両装置の視野を基準にして説明をしているが、本発明の光学観察装置は、抽出画像を可視光望遠鏡装置の視野枠に寸法的に同じにしても良く、赤外光映像装置20の視野が可視光望遠鏡装置10の視野の2倍である場合には、赤外光映像装置20の抽出画像(図3(C))は1/2の大きさに縮小して図3(D)に示す可視光望遠鏡装置10の観察視野とほぼ一致させても良い。抽出画像の画角は、観察用接眼光学系で観察する可視光像の視野角よりも広いことが望ましく、抽出画像の画角を変更可能とすることも可能であり、こうすることによって本発明の光学観察装置の利用範囲を広くすることが出来る。
【0042】
また、赤外イメージセンサーは画素数が少なく、観察対象物である野鳥等の抽出画像は形状や輪郭がはっきりしない赤い点像の集合体で探索視野内に表示されるので、可視光望遠鏡装置の中心部に十字等のレチクルを設けておけば、可視光望遠鏡装置の視野より広い赤外光映像装置の視野を重ね合わせ、抽出画像の赤い点像をレチクル十字線と重なるように光学観察装置を移動させ、抽出画像の赤い点像がレチクル十字線と重なったら赤外光映像装置の機能を停止させて画像非表示の状態にすると野鳥等の被観察物の探索及び観察が容易になる。
【0043】
上記の実施例では、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20が中心軸30を中心に回転可能な構造として例示したが、可視光望遠鏡装置10と赤外線映像装置20が図示しない連結機構で平行移動する構造とする場合も本発明に属する。また上記の実施例では、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20を使用者が左右両方の目で同時に観察する場合で説明したが、観察用接眼光学系13と探索用接眼光学系26が、一般的な使用者の左右の目で覗きやすい位置関係となっていなくても、片方の目で交互に観察することで同様の効果をもたらすことは言うまでもない。
【実施例2】
【0044】
図4は本発明の第2の実施例の光学観察装置1Bを示し、図1に示した第1の実施例に係わる光学観察装置1と同様な構成を有している(同一の参照符号は同一の構成要素を示している)。即ち、本第2実施例の光学観察装置1Bは、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20より構成される。可視光望遠鏡装置10は可視光対物光学系11、正立プリズム12B及び観察用接眼光学系13がこの順序で光路上に配列されて構成されている。また、赤外光映像装置20は赤外光像を結像する赤外光結像光学系21、この赤外光結像光学系21の結像位置に配置された非冷却赤外イメージセンサー等の赤外光センサー23、この赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出して画像信号化するための信号処理装置25、信号処理装置によって画像信号化された抽出画像を表示する画像表示装置24と探索用接眼光学系26から構成されている。正立プリズム12Bは、その入射光軸と射出光軸が45°傾いた性質を持っている。この正立プリズムの性質を除くと、この第2の実施例の光学観察装置1Bは、第1の実施例の光学観察装置1と全く同じ構成となっている。
【0045】
この第2の実施例の光学観察装置1Bによれば、赤外光映像装置20の探索用接眼光学系26を通して観察対象物を探索後、可視光望遠鏡装置10の観察用接眼光学系13を通して観察対象物を拡大して観察することができる。探索用接眼光学系26と観察用接眼光学系13を交互に観察することで、第1の実施例の光学観察装置1と全く同等の作用・効果を得る事が出来る。
【符号の説明】
【0046】
1、1B 光学観察装置
11 可視光対物光学系
13 観察用接眼光学系
21 赤外光結像光学系
23 赤外光センサー
24 画像表示装置
25 信号処理装置
26 探索用接眼光学系
27 操作部材
図1
図2
図3
図4