【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例である光学観察装置1の概略構成図である。図中10はフィールドスコープのような可視光望遠鏡装置、20は赤外光映像装置であってそれぞれの光軸10x及び20xは互いに平行に配置されており、光学観察装置1はさらに、抽出画像を赤外光映像装置20の視野から消去するための、操作部材27を備えている。これらの可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20は、中心軸30で連結された構造で光学観察装置1が構成されている。操作部材27は光学観察装置1の筐体外部に設けられている。
【0024】
可視光望遠鏡装置10は可視光対物光学系11、正立プリズム12及び観察用接眼光学系13がこの順序で光路上に配列されて構成されている。また、赤外光映像装置20は赤外光像を結像する赤外光結像光学系21、この赤外光結像光学系21の結像位置に配置された非冷却赤外イメージセンサー等の赤外光センサー23、この赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出して画像信号化するための信号処理装置25、信号処理装置によって画像信号化された抽出画像を表示する液晶表示装置やEL(エレクトロルミネッセンス)表示装置などのような画像表示装置24と、探索用接眼光学系26から構成されている。
【0025】
観察用接眼光学系13は、その焦点位置が可視光対物光学系11の焦点面14と一致するように配置されている。その為、可視光対物光学系11で結像された可視光像は、観察用接眼光学系13を通して拡大して観察することができる。また探索用接眼光学系26は、その焦点位置が画像表示装置24の位置と一致するように配置されている。その為、画像表示装置24に表示された抽出画像は、探索用接眼光学系26を通して拡大して観察することができる。また可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20は、中心軸30を中心に回転可能な構造で連結されている。その為、観察用接眼光学系13の接眼光軸10yと探索用接眼光学系の接眼光軸20yの間の距離31は、任意に調整が可能となる。一般的に、人間の左右の目の間隔は60mmから70mm程度と言われている。二本の接眼光軸10yと20yの間の距離31が60mmから70mmの範囲を含む範囲に調整可能な構造とすることで、一般的な使用者は観察用接眼光学系13と探索用接眼光学系26を左右の目で覗き込むことができる。その結果、可視光対物光学系で結像された可視光像と、画像表示装置24に表示された抽出画像を、同時に拡大して観察することが出来る。
【0026】
また、赤外光映像装置20の信号処理装置25は必要に応じてサーモ画像の一部を部分表示する機能や、抽出画像を非表示にする機能を持ち、光学観察装置1の筐体外部に設けられた操作部材27を操作することよってその機能を選択できる。その結果、探索用接眼光学系26の視野からは抽出画像が消去され、観察視野の可視光像だけが可視光望遠鏡装置10の観察用接眼光学系13を通して観察することができる。
【0027】
また赤外光映像装置20の赤外光結像光学系21と赤外光センサー23の間に着脱可能なシャッター22を設けることで、赤外光センサー23の画素ごとの感度ばらつきを補正することができる。
【0028】
赤外光映像装置20の画像表示装置24は赤外光結像光学系21で赤外光センサー23上に形成された赤外光像を信号処理装置25によって画像信号化して抽出画像として表示する。赤外光映像装置20の信号処理装置25は前記赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出して画像信号化する機能を有する。本発明では、赤外光センサー23で検出された信号の一部分を抽出する画像抽出は、信号処理装置25に予め設定された温度もしくは温度範囲に対応する赤外光像部分のみを抽出画像として画像信号化するように構成されている。例えば、赤外光映像装置20の視野内の対象物を、特定の放射温度を有する対象物だけに制限して画像表示装置24に表示させるための抽出温度もしくは抽出温度範囲を不図示の温度設定手段を操作することによって設定することが出来るように構成されている。
【0029】
バードウォッチングのように野外において鳥類を観察する場合、抽出温度範囲を鳥類の体温範囲である例えば38℃〜42℃に設定すれば、視野内の光景内に野鳥が存在する場合、野鳥だけ(野鳥を含む抽出温度範囲内の対象物)が画像表示装置24に表示されることになる。また、信号処理装置25と画像表示装置24は設定温度範囲に包含される視野内の物体の画像に所定の色、例えば赤色、を付して画像表示装置24上で表示出来るように構成されている。信号処理装置25は設定放射温度の範囲外の放射温度を持つ対象物の赤外光像は画像信号化されないので画像表示装置24には表示されない。すなわち、画像表示装置24には設定された抽出温度もしくは抽出温度範囲の放射温度を有する対象物のみが抽出表示されることになる。勿論、バードウォッチングに特化した光学観察装置であれば、この抽出温度範囲を固定して鳥類のだけを抽出表示するように構成すれば装置の価格低減に資することが出来る。
【0030】
図2(A)は観察者の前方の光景(被観察視野)である木立の繁る葉の茂みである前景41に存在する観察対象物である野鳥42を、例えば
図1の光学観察装置1の可視光望遠鏡装置10と同様な周知の可視光望遠鏡装置で観察している場合の観察視野40内の画像を模式的に描写したものである。
【0031】
また、
図2(B)は
図2(A)と同一の光景(被観察視野)41を例えば
図1の光学観察装置1の赤外光映像装置20と同様な赤外光映像装置で探索している場合の探索視野40Rのサーモ画像41Rを模式的に描写したものである。このサーモ画像は温度分布画像として視認されるが、赤外光センサーは概して画素数も少ないので画像自体の分解度(解像度)は低く、その結果野鳥のサーモ画像42Rはその形状や輪郭等の細部が不明確で画質の悪い画像となってしまう。
【0032】
図2(C)は
図2(A)の可視光望遠鏡装置の観察視野40の像と
図2(B)の赤外光映像装置の探索視野40Rのサーモ画像41Rを単純に合成(重ね合わせ)した状態の画像を模式的に示すものである。この場合、探索視野40Rの質が悪いサーモ画像41Rが観察視野40の光景41の可視光像に重畳されるので,質の悪いサーモ画像の方が視覚的に優位となってしまい、実際の観察はほとんど不可能になってしまうのが現状である。
【0033】
ところで、赤外光映像装置20のように抽出温度範囲が設定可能に構成された本発明の光学観察装置1では、抽出温度範囲を観察対象物の熱放射温度、例えば観察対象物のである野鳥の体温38℃〜42℃、に設定するとともに、抽出温度範囲によって抽出された探索視野内の設定放射温度を有する観察対象物、例えば野鳥、を特定の目視観察で視認し易い色、例えば赤色、で画像表示装置24に表示するように信号処理を行ってサーモ画像の一部分として画像信号処理すると、
図2(D)に示すように観察対象物である野鳥の赤色サーモ画像42Rだけが抽出され画像表示装置24に表示される。従って、可視光望遠鏡装置10の観察視野像とこの赤外光映像装置20の探索視野画像を両目で同時に観察すると、
図2(E)のように前景の明瞭な像の中に観察対象物である特徴のある色で表示された野鳥が容易にそして明確に視認することができる。ここで抽出画像を消去すると
図2(A)の光学像が観察できる。
【0034】
可視光望遠鏡装置の観察視野と赤外光映像装置の探索視野が同じであって、観察対象物が観察視野内に存在する場合について
図2(A)〜(E)に基づいて説明したが、可視光望遠鏡装置の観察視野内に観察対象物が存在していない場合、観察対象物を探索・発見すること自体が難しい。
【0035】
本発明の光学観察装置1は、可視光望遠鏡装置10の観察視野内に観察対象物が存在していない場合であっても赤外光映像装置20によって観察対象物を容易に探索・発見することが出来て観察が行えるものであり、以下にその作用を説明する。
【0036】
図3(A)は前方の木立の繁る葉の茂みである前景41中の観察を意図した仮想観察領域45の内側ではあるが可視光望遠鏡装置10の視野(観察視野)40の外側に観察対象としての野鳥42が存在している場合であって、この仮想観察領域45は可視光望遠鏡装置10の視野の2倍程度の広さに設定されそのほぼ中央領域に光学観察装置1の可視光望遠鏡装置10の視野40を向けた様子を示している。
図3(A)において可視光望遠鏡装置10の視野40を実線で示し、可視光望遠鏡装置10の視野の2倍程度の広さの仮想観察領域45を点線で示している。可視光望遠鏡装置10の観察視野40は観察領域45のほぼ中央に重なっている。この場合、
図3(B)に示すように光学観察装置1の観察視野即ち可視光望遠鏡装置10の観察視野40内には観察対象物であるの野鳥42の姿を捕捉することが出来ない。
【0037】
そこで、赤外光映像装置20の視野(探索視野)40Rを可視光望遠鏡装置10の視野(観察視野)40の2倍程度の大きさを有するものとし、即ち
図3(A)の仮想観察領域45にほぼ一致させると、この赤外光映像装置20はその探索視野40R内に観察対象物の野鳥42を捕捉することができる。前述したように、赤外光映像装置20の赤外光結像光学系21で赤外センサー23上に形成された探索視野40Rの赤外光像を画像表示装置24の信号処理装置25によって設定抽出温度範囲内の熱放射温度を有する観察対象物である野鳥42を抽出してサーモ画像信号に変換した上で特定の視認し易い色、例えば赤色、で画像表示装置24に表示するように信号処理を行ってサーモ画像の一部分として抽出画像信号処理すると、サーモ画像信号に変換し特定の色に着色された抽出画像として赤い野鳥のサーモ画像42Rが画像表示装置24上に表示されると、
図3(C)に実線で示された探索視野40Rの抽出画像が得られ、観察領域45内から抽出された野鳥の抽出画像42Rが赤色の画像として画像表示装置24上に表示される。なお、
図3(C)中の十字線46は赤外光映像装置20の視野枠内に設けられており、その交点は光軸20xを表している。
【0038】
ここで、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20が一体となった光学観察装置1を、赤外光映像装置20の光軸20x(即ち十字線46)を探索対象物である野鳥のサーモ画像42Rの方向(矢印47)へ移動させると、赤外光映像装置20の視野が同じ方向へ移動するので、野鳥42と赤外光映像装置20の光軸20xが相対的に接近する。赤外光映像装置20の視野40R内においては十字線46が野鳥の抽出画像42Rに接近する。さらに継続して移動し、探索視野40Rを点線で描かれた位置(観察領域45)まで移動すれば、野鳥の抽出画像42Rは赤外光映像装置20の視野の中央付近へ移動する。
【0039】
この時、赤外光映像装置20と一体となった可視光望遠鏡装置10も赤外光映像装置20と一体的に同じ方向へ実線位置から点線位置へと移動するので、
図3(E)に示すように被観察対象物である野鳥42を観察視野40の中央付近で捕捉することが出来る。
図3(E)は光学観察装置1を移動し被観察対象物である野鳥42を観察視野40の中央付近で捕捉した状態の時の光学観察装置1と可視光望遠鏡装置10の観察視野40の相対位置を示しており、
図3(F)は中央付近で被観察対象物である野鳥42を捕捉した時の光学観察装置1による実際の観察視野40の状態を示している。
【0040】
赤外光映像装置20の探索視野40R中央付近で被観察対象物である抽出画像で表示された野鳥42Rを捕捉したら、赤外光映像装置20の操作部材27を外部から手動的に操作して信号処理装置25の信号化機能を無効化して、抽出画像42Rを光学観察装置の探索視野から消去する。その結果、可視光望遠鏡装置10の観察視野40の可視光像だけが観察用接眼光学系13を介して観察することができる。
【0041】
以上の実施例では両装置の視野を基準にして説明をしているが、本発明の光学観察装置は、抽出画像を可視光望遠鏡装置の視野枠に寸法的に同じにしても良く、赤外光映像装置20の視野が可視光望遠鏡装置10の視野の2倍である場合には、赤外光映像装置20の抽出画像(
図3(C))は1/2の大きさに縮小して
図3(D)に示す可視光望遠鏡装置10の観察視野とほぼ一致させても良い。抽出画像の画角は、観察用接眼光学系で観察する可視光像の視野角よりも広いことが望ましく、抽出画像の画角を変更可能とすることも可能であり、こうすることによって本発明の光学観察装置の利用範囲を広くすることが出来る。
【0042】
また、赤外イメージセンサーは画素数が少なく、観察対象物である野鳥等の抽出画像は形状や輪郭がはっきりしない赤い点像の集合体で探索視野内に表示されるので、可視光望遠鏡装置の中心部に十字等のレチクルを設けておけば、可視光望遠鏡装置の視野より広い赤外光映像装置の視野を重ね合わせ、抽出画像の赤い点像をレチクル十字線と重なるように光学観察装置を移動させ、抽出画像の赤い点像がレチクル十字線と重なったら赤外光映像装置の機能を停止させて画像非表示の状態にすると野鳥等の被観察物の探索及び観察が容易になる。
【0043】
上記の実施例では、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20が中心軸30を中心に回転可能な構造として例示したが、可視光望遠鏡装置10と赤外線映像装置20が図示しない連結機構で平行移動する構造とする場合も本発明に属する。また上記の実施例では、可視光望遠鏡装置10と赤外光映像装置20を使用者が左右両方の目で同時に観察する場合で説明したが、観察用接眼光学系13と探索用接眼光学系26が、一般的な使用者の左右の目で覗きやすい位置関係となっていなくても、片方の目で交互に観察することで同様の効果をもたらすことは言うまでもない。