特許第6447983号(P6447983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許64479833D印刷デバイス用の焼結可能な供給原料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6447983
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】3D印刷デバイス用の焼結可能な供給原料
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20181220BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20181220BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20181220BHJP
   B33Y 70/00 20150101ALI20181220BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20181220BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20181220BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20181220BHJP
   B22F 5/12 20060101ALN20181220BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/02 M
   B29C64/118
   B33Y70/00
   B33Y80/00
   B33Y10/00
   B28B1/30
   !B22F5/12
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-501222(P2017-501222)
(86)(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公表番号】特表2017-528593(P2017-528593A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】EP2014064646
(87)【国際公開番号】WO2016004985
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】509339049
【氏名又は名称】エメリー オレオケミカルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ダウテ, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ジャッケル, マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルドマン, ユルゲン
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−215907(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0130434(US,A1)
【文献】 米国特許第05738817(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F3/105
B22F3/16
B28B1/30
B29C64/00−64/40
B33Y10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷デバイスフィラメントであって、
(a)金属及び/又はセラミック粉末と、
(b)熱可塑性ポリマー及び少なくとも1種の可塑剤を含む、熱可塑性結合剤と、
(c)前記フィラメントの全重量を基準として0〜10重量%の間の添加剤と、
を含又はこれらからなり、
DIN ISO 7619−1規格に従い20℃で測定した、前記熱可塑性結合剤のショアA硬度値が85〜95である、フィラメント。
【請求項2】
前記金属及び/又はセラミック粉末が焼結可能である、請求項1に記載のフィラメント。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリオレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のフィラメント。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーが、コポリアミド、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリエーテル−ブロックアミド、及びこれらの混合物からなる群から選択されるポリアミドである、請求項3に記載のフィラメント。
【請求項5】
前記可塑剤が、有機溶媒を使用して、少なくとも20℃の温度で抽出することによって、前記フィラメントから少なくとも部分的に除去可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項6】
前記少なくとも1種の可塑剤が、置換若しくは非置換の芳香族若しくは複素芳香族カルボン酸エステル、又はこれらの混合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項7】
前記少なくとも1種の可塑剤が、ヒドロキシ安息香酸エステルの混合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項8】
前記ヒドロキシ安息香酸エステルが、ヒドロキシ安息香酸と、分枝鎖状又は直鎖状アルコールとのエステルであり、
前記アルコールが、分枝鎖状又は直鎖状C8〜C22アルコール及びこれらの混合物からなる群から選択され、
2−プロピルヘプチルアルコール、イソデシルアルコール、1−ドコサノール、1−オクタデカノール、1−ドデカノール、2−エチルヘキシルアルコール、及びこれらの混合物から好ましくは選択される、請求項7に記載のフィラメント。
【請求項9】
前記ヒドロキシ安息香酸エステルが、p−ヒドロキシ安息香酸エステルである、請求項7又は8に記載のフィラメント。
【請求項10】
前記少なくとも1種の可塑剤がエステルの混合物であり、
前記エステルの混合物が、20℃で固体のエステルと20℃で液体のエステルとを含む、又は
20℃で固体のエステルのみ含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項11】
前記熱可塑性結合剤が、前記結合剤の全重量を基準として40重量%〜70重量%の間の可塑剤を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項12】
前記熱可塑性結合剤が、100℃〜190℃の間の融解温度を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項13】
前記フィラメントが、弾性を有し、0.5mm〜5mmの間の直径及び少なくとも10cmの長さを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項14】
化合物(a)、(b)、及び(c)の量が、下記の表で実施形態(A)から(F)のいずれか1つに示された通りであり、但し示される重量パーセンテージは、前記フィラメントの全重量を基準とするものであって、
(a)前記金属及び/又はセラミック粉末と、
(b)前記熱可塑性ポリマー及び可塑剤を含む前記熱可塑性結合剤と、
(c)前記添加剤と、
に関して合計100重量%になる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のフィラメント。
【表1】
【請求項15】
成形体の製造方法であって、
(i)請求項1〜14のいずれか一項に記載のフィラメント、及び3D印刷デバイスを使用して、成形グリーン体をプリントするステップと、
(ii)前記成形グリーン体から前記可塑剤の少なくとも一部を除去するステップと、
(iii)ステップ(ii)から得られた前記成形グリーン体を焼結して、前記成形体を得るステップと、
を含む方法。
【請求項16】
ステップ(ii)において、前記可塑剤は、前記グリーン体と、前記可塑剤を抽出することが可能な有機溶媒とを接触させることによって抽出され、前記抽出は、前記成形グリーン体の形状を変化させない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のフィラメントの、3D印刷デバイスでの使用。
【請求項18】
フィラメントを用いて3Dプリントすることにより得られるグリーン体であって、
請求項1〜14のいずれか一項に定義された金属及び/又はセラミック粉末と、請求項1〜14のいずれか一項に定義された熱可塑性結合剤とを含む、グリーン体。
【請求項19】
3D印刷デバイス用フィラメントを製造するための、請求項1〜14のいずれか一項に定義された結合剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、3D印刷デバイスで使用するのに適切なフィラメントであって、金属及び/又はセラミック粉末と、熱可塑性結合剤と、添加剤とを含むフィラメントに関する。本発明は、成形体の製造方法であって、本発明によるフィラメントを使用して成形グリーン体をプリントするステップを含む方法にも関する。本発明によるフィラメントの、3D印刷デバイスでの使用、並びに金属及び/又はセラミック粉末と熱可塑性結合剤とを混合することによって製造可能なグリーン体も提供される。本発明は、3D印刷デバイス用フィラメントを製造するための、本発明の結合剤の使用にも関する。
【0002】
[発明の背景]
1980年代後半、金属射出成型(MIM:metal injection molding)及びセラミック射出成型(CIM:ceramic injection molding)を含む粉末射出成型プロセスが、確立された。これらのプロセスでは、微粉化された金属又はセラミック材料を、測定された量の結合剤材料と混合して、射出成型による形成として公知のプロセスを経てプラスチック加工設備により取り扱うことが可能な「供給原料」を形成する。成型プロセスは、単一操作で且つ高体積で、複雑な部品を成形することが可能である。そのようなプロセスの最終製造物は、一般に、様々な工業及び用途で使用される構成要素品目である。
【0003】
これらのプロセスにおいて、成型ステップでは射出成型機が使用され、その結果、いわゆるグリーン体が形成される。このグリーン体にはさらなるステップが行われ、このステップでは、金属又はセラミック成分が焼結される温度にこのグリーン体が加熱される前に、結合剤を典型的には少なくとも部分的に除去する。
【0004】
供給原料は、3Dプリンタなど、プロトタイプを形成するための、より最新のプロセスにも必要である。しかしいくつかの態様では、3D印刷デバイス用の供給原料は、以下に説明するように異なる性質を必要とすることが見出された。
【0005】
3D印刷デバイス用の供給原料の創出は、調節すべき多数のパラメータがあるので、容易な仕事ではない。最終的な供給原料製品は、首尾良くなされる3Dプリントに必要な柔軟性、剛性、粘着性、及び粘性を特に満たさなければならない。
【0006】
3Dプリントの分野では、消費財を製造するために熱溶解積層法(FDM:fused deposition modelling)プロセスが益々使用されつつあり、3Dプリントされた物体の産出物の品質改善を保証している。
【0007】
熱溶解積層法は、モデリング、プロトタイピング、及び製造の用途で一般に使用される、付加製造技術である。FDMは、高速プロトタイピング技法であり、供給原料の材料の押出プロセスが行われる機械的製造技術のうちの1つである。一般に、FDMは、層状に材料を重ねることによって機能する。
【0008】
体積流量のエラーは、プリントされた製品の品質を損なうことが知られている。熱可塑性フィラメントそのものは、FDM押出機の流れのばらつきに著しい効果を発揮する。言い換えれば、その材料に応じて、供給原料のフィラメントは体積流量のエラーに関与する。
【0009】
さらに、理論に拘泥するものではないが、機械的設計の観点から、フィラメントの直径のサイズ及び許容差は、押出し機の流れ特性を決定するのに非常に顕著な役割を果たすことがわかる。
【0010】
体積流量のエラーを低減させるため、使用されるフィラメントの直径を最小限に抑えることができ且つフィラメントをより厳密な直径許容差で製造できることが、理想的である。
【0011】
また、新しい供給原料の開発では、適度に良好な機械的及び熱的性質、並びに結合剤と混合し表面結合(surface bonding)させることが可能な性質を持つ、複合材料を選択する必要がある。
【0012】
上記に鑑み、一定の直径のフィラメントに形成することができ、且つ十分な硬度、適切な粘性、良好な押出特性、並びにプリントされた塊状ストランドの互いの良好な接着などのさらなる材料の要件も満たす、3D印刷デバイス用の新しい供給原料が求められている。
【0013】
粘着性は、3D印刷デバイスに適切な供給原料を、粉末射出成型(PIM:powder injection molding)又は粉末押出成型(PEM:powder extrusion molding)プロセスで一般に使用される供給原料とは異ならせる、少なくとも1つの性質である。3Dプリントに適切な供給原料は、高解像及び良好な再現性を有する3D構造を製造するために、個々の塊状ストランドの間での互いの良好な結合能力を必要とする。しかし供給原料のこの性質は、粉末射出成型(PIM)又は粉末押出成型(PEM)では有益ではなく、特にこれらの用途で平滑化カレンダ、スリットダイ、又は類似の手段が用いられる場合に有益ではない。事実、PIM又はPEMの用途では、そのような粘着性は非常に望ましくなく、この性質を持たない特定の供給原料を調製することによって、例えば接着防止添加剤を含むことによって、粘着性は一般に回避される。
【0014】
本発明の目的は、上記概説した基準を満たす、3D印刷デバイスに適切な新規な供給原料の材料を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例の試験結果を示す図である。
図2】実施例の試験結果を示す図である。
【0016】
[発明の概要]
前述の課題を解決するために、本発明は、3D印刷デバイスで使用するのに適切なフィラメントであって、
(a)金属(例えば、アルミニウム又は鋼)及び/又はセラミック粉末と;
(b)熱可塑性ポリマー及び少なくとも1種の可塑剤を含む、熱可塑性結合剤と;
(c)フィラメントの全重量を基準として0〜10重量%の間の添加剤と;
を含む又はこれらからなるフィラメントを提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、成形体の製造方法であって:
(i)本発明によるフィラメント、及び3D印刷デバイスを使用して、成形グリーン体をプリントするステップと;
(ii)成形グリーン体から可塑剤の少なくとも一部を除去するステップと;
(iii)ステップ(ii)から得られた成形グリーン体を焼結して、上記成形体を得るステップと;
を含む方法に関する。
【0018】
本発明によるフィラメントの、3D印刷デバイスでの使用も提供される。
【0019】
別の態様では、本発明は、本発明による金属及び/又はセラミック粉末と、本発明による熱可塑性結合剤とを混合することによって製造可能なグリーン体にも関する。
【0020】
さらなる態様として、3D印刷デバイス用フィラメントを製造するための、本発明で定義された結合剤の使用も提供される。
【0021】
[発明の詳細な記述]
本発明について以下に詳細に記述する前に、本発明は、本明細書に記述される特定の方法、プロトコル、及び試薬に限定されないことを理解されたい。その理由は、これらは変動し得るからである。本明細書で使用される用語は、単に特定の実施形態について記述する目的のものであり、添付される特許請求の範囲によってのみ限定されることになる本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0022】
下記の文節では、本発明の異なる態様について、より詳細に定義する。そのように定義された各態様は、これに反することが明示されない限り、任意のその他の1つ又は複数の態様と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であるとして示される任意の特徴は、好ましい又は有利であるとして示される任意のその他の1つ又は複数の特徴と組み合わせてもよい。
【0023】
いくつかの文献が、本明細書の文章全体を通して引用されている。本明細書に引用される文献(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、取扱説明書、DIN規格などを含む)のそれぞれは、上記でも下記でも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書では、従来の発明によって、本発明がそのような開示に先立つとされる権利がないと認められるよう解釈されるものはない。
【0024】
下記に、いくつかの化学用語の下記の定義を提示する。これらの用語は、本明細書の残りの部分で使用されるそれぞれの場合において、それぞれ定義された意味及び好ましい意味を有することになる。
【0025】
「アルキル」という用語は、飽和直線状又は分枝状炭素鎖を指す。本明細書で使用されるアルキルは、C〜C22アルキルであることが好ましく、C〜C10アルキルであることがより好ましく、即ち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の炭素原子を有するもの、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチル、イソ−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、又はヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシルから選択されたものである。アルキル基は任意選択で置換される。
【0026】
「アルコール」という用語は、1つ又は複数のヒドロキシル基を有する化合物を指す。例えば、C〜C36アルキルアルコールは、1つ又は複数のヒドロキシル基で置換されたC〜C36アルキルである。本明細書で使用される脂肪アルコールは、直鎖状脂肪族第1級アルコールを指す。
【0027】
本発明は、熱溶解積層法デバイスなどの3D印刷デバイスで使用するのに適切な、新規なフィラメントを提供する。フィラメントは、粘性及び硬度特性並びにプリントされたときの十分な接着性の、理想的な組合せを示すことを予期せず見出した。
【0028】
したがって、本発明の第1の態様は、3D印刷デバイスで使用するのに適切なフィラメントであって、
(a)金属(例えば、アルミニウム又は鋼)及び/又はセラミック粉末と;
(b)熱可塑性ポリマー及び少なくとも1種の可塑剤を含む、熱可塑性結合剤と;
(c)フィラメントの全重量を基準として0〜10重量%の間の添加剤と;
を含む又はこれらからなるフィラメントを提供する。
【0029】
本発明のフィラメントは、フィラメントの全重量を基準として、添加剤を最大で8、6、4、2、又は最大で1重量%含むことが好ましい。本発明のフィラメントの成分の好ましい量を以下の表に列挙するが、この表で、列挙された成分の合計は、フィラメントの全重量を基準として100重量%である:
【表1】
【0030】
用途に応じて、粘度調整剤又は潤滑剤を、添加剤として含むことが有益と考えられる。粘度調整剤が含まれる場合、スチレン−ブタジエンの水素化コポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレンポリマー、水素化イソプレンポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、ポリオレフィン、エステル、官能化ポリオレフィン、マレイン酸無水物及びアミンの反応生成物で官能化されたエチレン−プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、アミンと反応したスチレン−マレイン酸無水物コポリマー、ポリメタクリレートポリマー、エステル化ポリマー、ビニル芳香族モノマーと不飽和カルボン酸とのエステル化ポリマー又はその誘導体、オレフィンコポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリイソブチレン、又はこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。添加剤として潤滑剤を含む場合、この目的でステアリン酸を使用することができる。
【0031】
その他の用途では、添加剤を必要としない。このように、本発明のフィラメントは添加剤を含まないことが最も好ましい。このことは、フィラメントに含まれる金属及び/又はセラミック粉末の量を最大限にすることになり、焼結後のプリントされたプロトタイプの体積変化を低減させることになるので望ましい。フィラメントが添加剤を含まない場合、フィラメントはそれにも関わらず、本発明の金属若しくはセラミック粉末に又は熱可塑性結合剤に典型的に見出される不純物を含んでもよいことが好ましい。そのような不純物の量は、本発明のフィラメントの全質量の0.8重量%を超えないことが最も好ましい。本発明のフィラメントは、いかなる接着防止添加剤も含まないことが好ましい。
【0032】
一実施形態では、フィラメントは、フィラメントの全重量を基準として結合剤を5〜25重量%の間で含むことが好ましい。
【0033】
フィラメントは、20℃で少なくとも85のショアA硬度を有することが好ましい。
【0034】
本発明によるフィラメントでは、金属及び/又はセラミック粉末が焼結可能であることが好ましい。これは、プリントされた形状に含まれる金属又はセラミック粉末が、融解することなく、加熱後に凝集塊を形成することになることを意味する。
【0035】
本発明のフィラメントは、上記熱可塑性ポリマーが、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリオレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択されたものであることが好ましい。上記熱可塑性ポリマーは、コポリアミド、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリエーテル−ブロックアミド、及びこれらの混合物からなる群から選択されたポリアミドであることが好ましい。一実施形態でアルコールに可溶にすることができるコポリアミドは、C4〜C8ラクタム及びC10〜C18ラクタムから好ましくは製造される。上記コポリアミドは、カプロラクタム及びラウリンラクタムから製造されることが最も好ましい。
【0036】
上記可塑剤は、有機溶媒を使用して、少なくとも20℃の温度、好ましくは20°〜80℃の間の温度で抽出することによって、少なくとも部分的にはフィラメントから除去可能であることも好ましい。
【0037】
少なくとも1種の可塑剤は、置換若しくは非置換の芳香族若しくは複素芳香族カルボン酸エステル、又はこれらの混合物とすることができることが好ましい。上記少なくとも1種の可塑剤は、ヒドロキシ安息香酸エステルの混合物であることが好ましい。ヒドロキシ安息香酸エステルの混合物が、可塑剤としてフィラメントに使用される場合、ヒドロキシ安息香酸エステルは、ヒドロキシ安息香酸と分枝鎖状又は直鎖状アルコールとのエステルであることが好ましく、アルコールは、分枝鎖状又は直鎖状C8〜C22アルコールとこれらの混合物からなる群から選択され、アルコールは、2−プロピルヘプチルアルコール、イソデシルアルコール、1−ドコサノール、1−オクタデカノール、1−ドデカノール、2−エチルヘキシルアルコール、及びこれらの混合物から選択されることが好ましい。他の好ましい実施形態では、可塑剤は、ヒドロキシ安息香酸と、直鎖状の第1級C8〜C22アルコールとのエステルを含む。
【0038】
本発明のフィラメントの、さらなる好ましい実施形態では、ヒドロキシ安息香酸エステルは、好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸エステルである。フィラメントのより好ましい実施形態では、上記少なくとも1種の可塑剤は、p−ヒドロキシ安息香酸とアルコールの混合物とから製造されたエステル混合物であり、アルコール混合物は、2−プロピルヘプチルアルコール、イソデシルアルコール、1−ドコサノール、1−オクタデカノール、1−ドデカノール、及び/又は2−エチルヘキシルアルコールを好ましくは含む。
【0039】
本発明のフィラメントの好ましい実施形態では、上記少なくとも1種の可塑剤がエステルの混合物であり、エステルの混合物は、20℃で固体のエステルと20℃で液体のエステルとを含む、又は20℃で固体のエステルのみ含む。可塑剤がそのような混合物を含むことにより、本発明のフィラメント、特にセラミック粉末をベースにしたフィラメントをより長い期間にわたり弾性を有する状態を継続することが可能であり、一方、それと同時に、プリント後に十分な結合能力をもたらすることを、予期せず見出した(以下の実施例3も参照)。
【0040】
フィラメントの、さらなる好ましい実施形態では、熱可塑性結合剤が、結合剤の全重量を基準として可塑剤を40重量%〜70重量%の間で含む。上記熱可塑性結合剤は、100℃〜190℃の間の融解温度を有することが好ましい。
【0041】
本発明のフィラメントは、一実施形態において、弾性を有し、0.5mm〜5mmの間、より好ましくは1mm〜3mmの間の直径を有することも好ましい。フィラメントは、スプールに巻き上げることができるように十分な弾性を有することが好ましい。本発明のリフィラメントの好ましい実施形態では、フィラメントはスプールに巻き取られ、スプールは400mmの直径を有する。本発明のフィラメントは、少なくとも1メートルの長さを有することが好ましく、少なくとも10cmの長さがより好ましい。別の好ましい実施形態では、本発明のフィラメントは線状であり、ディスペンサマガジンに貯蔵するのに適切である。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、成形体の製造方法であって:
(i)本発明によるフィラメント、及び3D印刷デバイスを使用して、成形グリーン体をプリントするステップと;
(ii)成形グリーン体から可塑剤の少なくとも一部を除去するステップと;
(iii)ステップ(ii)から得られた成形グリーン体を焼結して、上記成形体を得るステップと;
を含む方法を提供する。
【0043】
本発明による方法のステップ(ii)において、可塑剤は、グリーン体と、可塑剤を抽出することが可能な有機溶媒とを接触させることによって抽出され、上記抽出は、成形グリーン体の形状を変化させないものであることが好ましい。例えばアセトンを含め、異なる有機溶媒をステップ(ii)で使用することができる。
【0044】
さらなる態様では、本発明は、本発明のいずれかによるフィラメントの、3D印刷デバイスでの使用、即ちそのような印刷デバイスを使用して3D形状をプリントすることを提供する。
【0045】
本発明の、さらなる態様は、本明細書で定義される本発明による金属及び/又はセラミック粉末と、本明細書で定義される熱可塑性結合剤とを混合することによって、製造可能なグリーン体である。1つの好ましい実施形態では、上記グリーン体は、焼結後に歯科用修復材で使用される、インプラント、充填材、歯冠、及び歯のブリッジからなる群から選択される。3D印刷デバイス用フィラメントを製造するための、本明細書で定義される本発明による結合剤の使用も提供される。
【0046】
本発明の様々な修正例及び変形例は、本発明の範囲から逸脱することなく当業者に明らかにされよう。本発明について、特定の好ましい実施形態と併せて述べてきたが、特許請求の範囲に記載される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないと、理解されるべきである。
【0047】
以下の実施例は、本発明の単なる例示であり、いかなるようにも、添付される特許請求の範囲によって示される本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:鋼をベースにしたフィラメントの製造
約15マイクロメートルの平均粒度を有する、噴霧化されたステンレス鋼粉末を、混練機で下記の結合剤成分と130℃で混合し、1時間均質化して、プラスチック状態の組成物を得た:
【表2】
【0049】
上記表に概説した組成物を、さらに粉砕して、約1〜3mmの顆粒を有する顆粒形態にした。
【0050】
一軸押出機を使用して、顆粒を、シリンダ温度120℃及び一定ノズル温度80℃を使用して2.5mmの直径を有するストリングに押し出した。次いでフィラメントを、直径400mmのスプールに巻き取った。
【0051】
実施例2:アルミニウムをベースにしたフィラメントの製造
約1マイクロメートルの平均粒度を有する酸化アルミニウム粉末を、混練機で下記の結合剤成分と130℃で混合し、1時間均質化して、プラスチック状態の組成物を得た:
【表3】
【0052】
上記表に概説した組成物を、さらに粉砕して、約1〜3mmの顆粒を有する顆粒形態にした。
【0053】
一軸押出機を使用して、顆粒を、シリンダ温度130℃及び一定ノズル温度75℃を使用して2.5mmの直径を有するストリングに押し出した。次いでフィラメントを、直径400mmのスプールに巻き取った。
【0054】
実施例3:接着特性の測定
フィラメントの互いの結合力を試験するために、押し出されたフィラメントを互いに対して層状化した。120℃の温度で、フィラメントは融解し、いかなる圧力も加える必要なしに互いに対して表面的に接着した。このように調製したサンプルを、40℃のアセトン中に12時間抽出し、乾燥し、適切な条件下で焼結した(鋼をベースにした材料は、水素雰囲気中1360℃で、及び酸化アルミニウムをベースにした材料は、空気中1620℃で)。焼結密度は、理論上達成可能な値の95%よりも大きかった。
【0055】
120℃から170℃の温度では、フィラメントの接着特性は、互いに最適な粘着性を示して、フィラメントを結合させ、結合したフィラメントの構造安定性を損なうことなく、その後に可塑剤を除去することが可能になった。したがって、本発明のフィラメントでは、本発明の熱可塑性結合剤の融解温度が120℃〜170℃の間であることが好ましい。
【0056】
実施例4:ショアA硬度の決定
フィラメント内の結合剤が柔らか過ぎる場合、典型的な3Dプリンタの輸送デバイスは、十分な電力で印刷ヘッドにフィラメントを効果的に輸送することができなくなる。逆に、結合剤が硬過ぎる場合、フィラメント、特にセラミックをベースにしたフィラメントであって非常に微細なセラミック粒子を有するものは、非常に脆弱になり、これは取扱いに不便であり、プリント中のフィラメントの破壊をもたらす可能性もある。
【0057】
したがって特許請求の範囲に記載されているフィラメントの組成は、そのショアA硬度に関しても最適化された。この文脈において、実施例1及び2の下で、上記にて示された表に概説された本発明の結合剤組成物のショアA硬度を、HPE II硬度試験機を使用して、DIN ISO 7619−1規格に従い測定した。
【0058】
20℃で実施された測定は、実施例1に示された結合剤についてはショアA硬度値94.5を与え、実施例2に示された結合剤についてはショアA硬度値89.7を与えた。このように、本発明のフィラメントに含まれる結合剤に好ましいショアA硬度値は、85〜95の間である。ショアA硬度がこの範囲内にあるよう選択することによって、最終的なフィラメントが柔らかさと弾性との間で最適なバランスをとることは、予期しなかった。
【0059】
この範囲外にあるショアA硬度を有するフィラメント組成物は、フィラメントが脆弱であり又は十分稠密ではないことから焼結後の収縮の問題を引き起こすようになるという点で、劣ることになる。
【0060】
実施例5:フィラメントのメルトフローインデックス(MFI)値の決定
メルトフローインデックス(MFI)は、熱可塑性材料の融解物の流れ易さの尺度である。これは、所定の選択的温度に対し、所定の選択的測定荷重により加えられた圧力によって、特定の直径及び長さの毛管内を10分で流れる材料の質量(単位:グラム)と定義される。
【0061】
実施例1及び実施例2により調製されたフィラメントのMFI値は、MFlow試験デバイスを使用して、規格ISO 1133に従い決定した。
【0062】
結果を、以下の図1及び2に示す。決定されたフロー値は、本発明のフィラメントが3D印刷デバイスに特に適切であることを示した。
【0063】
実施例6:結果
実施例1及び2の下で、上記にて概説した新しい複合材料は、熱溶解積層法高速プロトタイピング法でフィラメント供給原料を使用するために、首尾良く開発された。本発明の柔軟なフィラメントは、首尾良く製造された。フィラメントをスピンドルに巻き付け、適切な温度、例えば120℃で非常にうまく結合させることができた。新規なフィラメントの材料の特徴付けが、実施された。供給原料の材料の機械的試験値及びMFI値の解析は、FDMシステムなどの3D印刷システムで使用される供給原料の適切性を示す。さらに、この材料は、層同士の間で優れた結合を示し、したがって良好な構築プラットフォーム接着特性(build platform adhesion property)も有することになる。
図1
図2