(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願が開示する無線通信装置、通信制御方法及び通信制御プログラムの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す無線通信装置100は、バッテリー110、電源管理部120、入出力デバイス130、メモリ140、アプリプロセッサ150、プロセッサ160及びRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)170を有する。
【0016】
バッテリー110は、無線通信装置100の各部に電力を供給する電源である。バッテリー110から供給される電力によって、無線通信装置100の各部が動作する。
【0017】
電源管理部120は、バッテリー110から無線通信装置100の各部への電力供給を制御する。具体的には、電源管理部120は、例えばアプリプロセッサ150、プロセッサ160及びRFIC170へ供給される電力を制御する。
【0018】
入出力デバイス130は、例えばタッチパネル、ディスプレイ、キー及びスピーカなどを備え、ユーザによる操作を受け付けたり、ユーザへ情報を出力したりする。
【0019】
メモリ140は、例えばRAM(Random Access Memory)などを備え、アプリプロセッサ150及びプロセッサ160による処理に用いられるデータを記憶する。具体的には、メモリ140は、例えばアプリプロセッサ150がアプリケーションを実行する際に用いられるデータなどを記憶する。
【0020】
アプリプロセッサ150は、例えばCPU(Central Processing Unit)などを備え、メモリ140を使用しながら様々なアプリケーションを実行する。このとき、アプリプロセッサ150は、入出力デバイス130によって受け付けられたユーザの操作に応じた処理を実行し、処理の結果得られた情報を入出力デバイス130へ出力する。
【0021】
プロセッサ160は、例えばCPUなどを備え、メモリ140を使用しながら無線通信装置100全体の処理を制御する。具体的には、プロセッサ160は、例えばベースバンド周波数の送信信号を生成し、誤り訂正符号化などを施した上で、RFIC170から送信させる。また、プロセッサ160は、キャリアアグリゲーション(CA)を適用して信号を送信する際、CAに用いられるコンポーネントキャリア(CC)の周波数情報をRFIC170へ通知する。
【0022】
RFIC170は、データの周波数をベースバンド周波数と無線周波数との間で変換し、無線周波数の送信信号をアンテナを介して送信したり、アンテナを介して受信する受信データの周波数をベースバンド周波数に変換したりする。また、RFIC170は、CAを適用して信号を送信する際、パワーアンプにおいて発生する相互変調歪みのレベルが所定の規制値未満であるか否かを判定する。そして、RFIC170は、相互変調歪みのレベルが所定の規制値以上である場合に、送信信号の電力を許容される範囲で低下させる。さらに、RFIC170は、送信信号の電力を低下させても相互変調歪みのレベルが所定の規制値以上のままである場合に、パワーアンプへ印加される電圧を上昇させるように電源管理部120へ指示する。なお、RFIC170の構成及び動作については、後に詳述する。
【0023】
図2は、実施の形態1に係る無線通信装置100のデータ送信に係る送信部の構成を示すブロック図である。
図2においては、データ受信に係る構成を省略している。
図2に示すように、RFIC170とアンテナの間には、パワーアンプ180及びカプラ190が設けられる。また、RFIC170は、モデム171、D/A(Digital/Analogue)変換部172a、172b、直交変調部173a、173b及び検波部174を有する。なお、パワーアンプ180は、増幅部の一例である。
【0024】
モデム171は、プロセッサ160から出力される送信信号を変調し、複数のCCの周波数に応じた送信信号を出力する。
図2においては、2つのCCを用いて送信信号を送信するため、モデム171は、それぞれのCCに対応する送信信号をD/A変換部172a、172bへ出力する。また、モデム171は、パワーアンプ180において発生する相互変調歪みのレベルが所定の規制値以上であるか否かを判定し、所定の規制値以上である場合には、送信信号の電力を低下させる。また、モデム171は、送信信号の電力を低下させても相互変調歪みのレベルが所定の規制値以上のままである場合に、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させるように電源管理部120に指示する。なお、モデム171の機能については、後に
図3を参照して詳述する。また、モデム171は、規制値以上であるか否かを判定することに代えて、規制値未満であるか否かを判定しても良いことはいうまでもない。
【0025】
D/A変換部172a、172bは、モデム171から出力されるデジタルの送信信号をアナログ信号に変換する。
【0026】
直交変調部173a、173bは、それぞれD/A変換部172a、172bから出力されるアナログ信号を直交変調して、無線周波数の送信信号を得る。直交変調部173a、173bから出力される送信信号は、それぞれ異なるCCの周波数を有しており、これらの送信信号が合成された上でパワーアンプ180へ出力される。
【0027】
検波部174は、パワーアンプ180によって増幅された後の送信信号に含まれる相互変調歪みのレベルを測定する。そして、検波部174は、相互変調歪みのレベルの測定結果をモデム171へ通知する。なお、検波部174の構成については、後に
図4を参照して詳述する。
【0028】
パワーアンプ180は、電源管理部120から印加される電圧によって動作し、RFIC170から出力される送信信号を増幅する。パワーアンプ180は、入力される送信信号の電力が比較的小さければ、入力信号を線形に増幅する一方、入力される送信信号の電力が比較的大きくなると、入力信号を非線形に増幅する。このため、パワーアンプ180は、入力される送信信号の電力が大きくなるにつれて、大きな相互変調歪みを発生させる。
【0029】
カプラ190は、パワーアンプ180によって増幅された送信信号を分岐し、分岐して得られた一方の信号をアンテナから送信するとともに、他方の信号をRFIC170の検波部174へフィードバックする。
【0030】
図3は、実施の形態1に係るモデム171の機能を示すブロック図である。
図3に示すように、モデム171は、相互変調歪み周波数算出部(以下「IM周波数算出部」と略記する)201、ローカル信号設定部202、フィルタ帯域設定部203、規制値保持部204、比較部205、送信レベル制御部206及び電圧制御部207を有する。なお、比較部205は判定部の一例であり、送信レベル制御部206は制御部の一例である。
【0031】
IM周波数算出部201は、送信信号が重畳される複数のCCの周波数に関する周波数情報をプロセッサ160から取得し、取得された周波数情報に基づいてパワーアンプ180において発生する相互変調歪みの周波数を算出する。すなわち、CCの周波数近傍の相互変調歪みは、これらのCCの周波数の整数倍の差周波数において発生するため、IM周波数算出部201は、各CCの周波数を整数倍して差を算出することにより、相互変調歪みの周波数を算出する。このとき、IM周波数算出部201は、CCに近い周波数を有する相互変調歪みの周波数を算出すれば良く、例えば3次、5次及び7次の相互変調歪みの周波数を算出すれば良い。
【0032】
ローカル信号設定部202は、IM周波数算出部201によって算出された相互変調歪みの周波数に対応するローカル周波数を検波部174へ通知する。すなわち、ローカル信号設定部202は、カプラ190からフィードバックされる信号から相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数を検波部174へ通知する。
【0033】
フィルタ帯域設定部203は、相互変調歪みの周波数をローカル信号設定部202から取得し、相互変調歪みの各周波数成分を通過させるためのフィルタ帯域を順次検波部174へ通知する。すなわち、フィルタ帯域設定部203は、例えば最初に3次変調歪みの周波数成分を通過させるためのフィルタ帯域を検波部174へ通知し、次に5次変調歪みの周波数成分を通過させるためのフィルタ帯域を検波部174へ通知し、次に7次変調歪みの周波数成分を通過させるためのフィルタ帯域を検波部174へ通知する。
【0034】
規制値保持部204は、通信システム及び周波数バンドごとの相互変調歪みのレベルの規制値を保持する。そして、規制値保持部204は、フィルタ帯域設定部203によってフィルタ帯域が設定されると、設定されたフィルタ帯域に対応する規制値を比較部205へ出力する。すなわち、規制値保持部204は、例えば3次変調歪みの周波数成分を通過させるためのフィルタ帯域が設定されると、3次変調歪みの周波数を含む周波数バンドにおける規制値を比較部205へ出力する。
【0035】
ここで、相互変調歪みの規制値には、法律又は条例などによって定められた公的規制値と、通信事業者などが自主的に定めた自主規制値とがある。
図4は、公的規制値及び自主規制値の関係の具体例を示す図である。
【0036】
図4においては、周波数f
a以上の周波数バンドを利用する通信システムで発生する相互変調歪みが他の通信システムが利用する周波数f
a未満の周波数バンドに現れている。すなわち、周波数f
a以上の2つのCC401を用いて信号が送信されると、これらのCC401によって発生する3次変調歪み402のうち、下側の3次変調歪み402の周波数が周波数f
a未満となっている。そして、周波数f
a未満の周波数バンドを利用する通信システムに関しては、公的規制値R
Lが定められるとともに、通信事業者によって自主規制値R
Sが定められている。
図4に示すように、通常、自主規制値R
Sは、公的規制値R
Lよりも小さく、厳しい規制を課している。規制値保持部204は、公的規制値R
L及び自主規制値R
Sの双方を保持していても良く、より厳しい規制を課す一方のみを保持していても良い。
【0037】
図3に戻って、比較部205は、規制値保持部204から出力される規制値と検波部174から出力される周波数成分のレベルの測定値とを比較する。そして、比較部205は、測定値が規制値未満であるか否かを示す比較結果を送信レベル制御部206へ通知する。ここで、測定値が規制値未満であれば、相互変調歪みのレベルが規制を満たすこととなる一方、測定値が規制値以上であれば、相互変調歪みのレベルが規制を満たさないこととなる。
【0038】
送信レベル制御部206は、比較部205による比較の結果、相互変調歪みのレベルが規制を満たさない場合には、規制値と相互変調歪みのレベルの測定値との差分に基づいて、規制を満たすための送信レベルの上限を算出する。そして、送信レベル制御部206は、算出した送信レベルの上限を超えないように、送信信号の電力を制御する。すなわち、送信レベル制御部206は、相互変調歪みのレベルの測定値が規制値を超えないように送信レベルを調整し、パワーアンプ180へ入力される送信信号の電力を低下させる。
【0039】
このとき、送信レベル制御部206は、複数のCCに対応する送信信号の電力を均等に低下させても良いが、測定値が規制値を超える周波数成分に応じてCCを重み付けし、いずれかのCCに対応する送信信号の電力を優先して低下させても良い。すなわち、例えば
図4に示したように、下側の3次変調歪み402のレベルが規制値を超える場合には、この下側の3次変調歪み402への寄与度が高い一方のCC401に対応する送信信号の電力を優先して低下させても良い。こうすることにより、効率的に相互変調歪みを抑圧することができる。
【0040】
具体的には、
図4において2つのCC401の周波数をそれぞれf0、f1(f0<f1)とすると、下側の3次変調歪み402の周波数は(2f0−f1)であり、上側の3次変調歪み402の周波数は(2f1−f0)である。したがって、下側の3次変調歪み402のレベルは、周波数f0のCC401のレベルを例えば1dB変化させると2dB変化するのに対し、周波数f1のCC401のレベルを例えば1dB変化させると1dB変化する。このように、下側の3次変調歪み402に対しては、低い周波数f0のCC401の寄与度が高いため、送信レベル制御部206は、このCC401に対応する送信信号の電力を優先して低下させても良い。
【0041】
さらに具体的に、規制値と下側の3次変調歪み402のレベルの測定値との差分が例えば6dBである場合を考える。このとき、送信レベル制御部206は、2つのCC401の信号のレベルを2dBずつ低下させることにより、相互変調歪みのレベルを6dB(=2×2dB+2dB)低下させることができる。ただし、このように各CC401の信号のレベルを均等に低下させると、送信信号の全体のレベルが約0.63倍に低下する。一方、送信レベル制御部206は、下側の3次変調歪み402に対する寄与度が高い周波数f0のCC401の信号のレベルを3dB低下させることにより、相互変調歪みのレベルを6dB(=2×3dB+0dB)低下させることもできる。このように、下側の3次変調歪みに対する寄与度が高いCCの信号のレベルを優先して低下させた場合には、送信信号の全体のレベルが約0.75倍に低下するだけで済む。
【0042】
ここで、送信電力は、例えば無線通信装置100の通信相手となる基地局装置が実施する送信電力制御によって、基地局装置から指定されることがある。このため、送信レベル制御部206は、送信電力制御によって許容される範囲内で送信レベルの上限を設定し、送信信号の電力を制御する。したがって、送信レベル制御部206は、規制値と測定値の差分から算出される送信レベルの上限が送信電力制御によって許容される範囲を超える場合には、送信電力制御によって許容される限界の値を送信レベルの上限に設定する。そして、送信レベル制御部206は、送信信号の電力を低下させるだけでは十分に相互変調歪みが抑圧されないことを電圧制御部207へ通知する。
【0043】
電圧制御部207は、送信レベル低下のみでは十分に相互変調歪みが抑圧されないことが送信レベル制御部206から通知されると、電源管理部120に対して、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させるように指示する。このとき、電圧制御部207は、例えば所定のステップ幅だけパワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させるように指示する。なお、電圧制御部207は、比較部205による比較の結果、相互変調歪みのレベルが規制を満たす場合には、規制を満たす範囲でパワーアンプ180へ印加される電圧を減少させるように指示しても良い。こうすることにより、無線通信装置100における消費電力を低減することができる。
【0044】
図5は、実施の形態1に係る検波部174の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、検波部174は、増幅部301、ローカル信号発生部302、直交復調部303、ローパスフィルタ304、A/D(Analogue/Digital)変換部305及び測定部306を有する。
【0045】
増幅部301は、カプラ190によって送信信号が分岐されて得られたフィードバック信号を増幅する。
【0046】
ローカル信号発生部302は、モデム171のローカル信号設定部202から通知されたローカル周波数を有するローカル信号を発生させ、直交復調部303へ出力する。すなわち、ローカル信号発生部302は、フィードバック信号から相互変調歪みを抽出するためのローカル信号を発生させて直交復調部303へ出力する。
【0047】
直交復調部303は、ローカル信号発生部302から出力されるローカル信号を用いて、増幅部301から出力されるフィードバック信号を直交復調する。直交復調部303は、相互変調歪みを抽出するためのローカル信号を用いて直交復調を行うため、フィードバック信号からCC成分が除去された相互変調歪みを出力する。
【0048】
ローパスフィルタ304は、モデム171のフィルタ帯域設定部203から通知されたフィルタ帯域を順次設定し、相互変調歪みのうち、設定されたフィルタ帯域の周波数成分を出力する。すなわち、ローパスフィルタ304は、例えば最初に3次変調歪みの周波数成分を出力し、次に5次変調歪みの周波数成分を出力し、次に7次変調歪みの周波数成分を出力する。
【0049】
A/D変換部305は、ローパスフィルタ304から出力される周波数成分をデジタル信号に変換する。すなわち、A/D変換部305は、例えば3次、5次及び7次の相互変調歪みに対応する周波数成分を順次デジタル信号に変換する。
【0050】
測定部306は、A/D変換部305から出力されるデジタル信号のレベルを測定する。すなわち、測定部306は、例えば3次、5次及び7次の相互変調歪みに対応する周波数成分のレベルを順次測定する。そして、測定部306は、各周波数成分のレベルの測定値をモデム171の比較部205へ出力する。
【0051】
次いで、上記のように構成された無線通信装置100における歪み抑圧処理について、
図6に示すフロー図を参照しながら説明する。
【0052】
送信信号が重畳される複数のCCの周波数情報がプロセッサ160からIM周波数算出部201へ入力されると、IM周波数算出部201によって、パワーアンプ180において発生する相互変調歪みの周波数が算出される(ステップS101)。すなわち、各CCの周波数の整数倍の差周波数が相互変調歪みの周波数として算出される。具体的には、例えば2つのCCの周波数がf0とf1である場合、これらの2つのCCに重畳された送信信号が合成されてパワーアンプ180へ入力されると、周波数(2f1−f0)、(2f0−f1)において3次相互変調歪みが発生する。また、周波数(3f1−2f0)、(3f0−2f1)において5次相互変調歪みが発生する。
【0053】
こうして算出された相互変調歪みの周波数は、ローカル信号設定部202へ通知され、ローカル信号設定部202によって、検波部174におけるローカル周波数が設定される(ステップS102)。すなわち、ローカル信号設定部202によって、パワーアンプ180によって増幅された信号からCC成分を除去して相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数が検波部174のローカル信号発生部302へ通知される。このとき、CCの周波数の近傍における相互変調歪みのレベルが大きいことから、CCの周波数の近傍に現れる相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数がローカル信号発生部302へ通知される。具体的には、例えば3次、5次及び7次の相互変調歪みに対応する周波数成分を抽出するためのローカル周波数がローカル信号発生部302へ通知される。
【0054】
そして、ローカル信号発生部302によって、通知されたローカル周波数のローカル信号が生成され、直交復調部303へ出力される。これにより、カプラ190からフィードバックされるフィードバック信号は、増幅部301によって増幅された後、直交復調部303によって直交復調され、フィードバック信号に含まれる相互変調歪みがローパスフィルタ304へ出力される。
【0055】
相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数が設定されると同時に、フィルタ帯域設定部203によって、相互変調歪みの特定の周波数成分がローパスフィルタ304を通過するようにフィルタ帯域の設定が行われる(ステップS103)。具体的には、例えば3次変調歪みに対応する周波数成分がローパスフィルタ304を通過するようにフィルタ帯域の設定が行われる。この設定により、ローパスフィルタ304によって、フィードバック信号に含まれる相互変調歪みのうち、3次変調歪みに対応する周波数成分がA/D変換部305へ出力される。
【0056】
フィルタ帯域設定部203によってローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定されると、設定されたフィルタ帯域に対応する規制値が規制値保持部204から比較部205へ出力される(ステップS104)。具体的には、例えば3次変調歪みに対応する周波数成分がローパスフィルタ304を通過するように設定された場合には、規制値保持部204によって、この周波数成分が属する周波数バンドにおける規制値が比較部205へ出力される。
【0057】
そして、検波部174の測定部306によって、ローパスフィルタ304から出力されA/D変換部305によってA/D変換された周波数成分のレベルが測定される(ステップS105)。ここでは、例えば3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが測定され、得られた測定値がモデム171の比較部205へ出力される。
【0058】
そして、比較部205によって、規制値と周波数成分のレベルの測定値とが大小比較される(ステップS106)。この比較の結果、測定値が規制値未満であれば(ステップS106Yes)、例えば3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが規制値より小さく、規制が満たされていることになる。そこで、フィルタ帯域設定部203によって、フィードバック信号から抽出された相互変調歪みに含まれるすべての周波数成分について、規制値との比較が完了したか否かが判定される(ステップS107)。この判定の結果、すべての周波数成分について完了していれば(ステップS107Yes)、歪み抑圧処理は完了する。また、まだ規制値との比較が完了していない周波数成分がある場合には(ステップS107No)、これらの周波数成分のうちのいずれかを通過させるようにローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定される(ステップS103)。すなわち、例えば5次変調歪みに対応する周波数成分がローパスフィルタ304を通過するようにフィルタ帯域の設定が行われる。以下、上記と同様に、5次変調歪みに対応する周波数成分についても規制値との大小比較が行われる。
【0059】
一方、ステップS106における比較の結果、測定値が規制値以上であれば(ステップS106No)、例えば3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが規制値以上であり、規制が満たされていないことになる。そこで、この比較結果が比較部205から送信レベル制御部206へ通知され、送信レベル制御部206によって、規制値と測定値との差分に基づいて、規制を満たすための送信レベルの上限が算出される(ステップS108)。すなわち、規制値と測定部306による測定値との差分が0になるような送信レベルが送信レベルの上限として算出される。
【0060】
ここで、送信レベルが低下してパワーアンプ180へ入力される送信信号の電力が小さくなれば、相互変調歪みの発生が抑圧され、測定部306による測定によって得られる周波数成分のレベルも低下する。このため、送信レベル制御部206によって算出された送信レベルの上限を超えないように送信信号の電力が制御されれば、送信信号に含まれる例えば3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが規制値未満となり、相互変調歪みに関する規制が満たされるようになる。
【0061】
しかし、無線通信装置100の送信電力は、例えば基地局装置による送信電力制御によっても指定されているため、送信レベル制御部206が無制限に送信レベルの上限を低下させることは許容されない。そこで、送信レベル制御部206によって、算出された送信レベルの上限が送信電力制御における許容範囲内にあるか否かが判断される(ステップS109)。この判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲内であれば(ステップS109Yes)、送信レベル制御部206における送信レベルの上限が算出された値に設定される(ステップS110)。これにより、以後の送信レベルの制御においては、設定された上限を超えないように送信信号の電力が制御される。そして、この制御の下で3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが再度測定され(ステップS105)、測定値と規制値とが比較される(ステップS106)。ここでは、送信レベル制御部206における送信レベルの制御の結果、測定値が規制値未満となり、上述したステップS107以降の処理が実行されることになる。
【0062】
一方、ステップS109の判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲を超えていれば(ステップS109No)、送信レベル制御部206における送信レベルの上限が許容される限界の値に設定される(ステップS111)。すなわち、送信レベルの上限を低下させる場合でも、送信電力制御によって指定される送信電力の下限を下回ることは許容されないため、送信レベル制御部206によって、送信電力制御によって許容される限界の上限が送信レベルの上限に設定される。
【0063】
この場合には、設定された送信レベルの上限を超えないように送信信号の電力が制御されても、引き続き、測定部306によって取得される測定値が規制値以上となる可能性がある。そこで、送信レベル制御部206によって、送信信号の電力を低下させるだけでは十分に相互変調歪みが抑圧されないことが電圧制御部207へ通知される。
【0064】
送信レベル制御部206からの通知を受け、電圧制御部207によって、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させる旨の指示が電源管理部120に対して出される(ステップS112)。すなわち、送信レベルを低下させるだけでは相互変調歪みが十分に抑圧されないため、さらに相互変調歪みを抑圧するために、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させる指示が出される。このとき、例えば所定のステップ幅だけパワーアンプ180への印加電圧を上昇させるように指示される。そして、このような送信レベル制御及び電圧制御の下で3次変調歪みに対応する周波数成分のレベルが再度測定され(ステップS105)、測定値と規制値とが比較される(ステップS106)。
【0065】
ここでは、送信レベル制御部206による送信レベル制御とパワーアンプ180への印加電圧上昇との結果、測定値が規制値未満となることもあるし、依然として測定値が規制値以上となることもある。測定値が規制値未満となった場合には、上述したステップS107以降の処理が実行されることになる。一方、依然として測定値が規制値以上となった場合には、電圧制御部207によって、再度、所定のステップ幅だけパワーアンプ180への印加電圧を上昇させるように電源管理部120に対して指示される。このように、測定値が規制値未満となるまでは、送信電力制御によって許容される限界の値にまで送信レベルの上限を低下させつつ、パワーアンプ180へ印加される電圧を所定のステップ幅ずつ上昇させる。結果として、パワーアンプ180において送信信号に発生する相互変調歪みが十分に抑圧され、相互変調歪みに関する規制を満たすことができる。
【0066】
図7は、実施の形態1に係る歪み抑圧処理によって相互変調歪みが抑圧されることを説明する図である。
図7の上図、中図及び下図は、いずれもパワーアンプ180の入出力特性の具体例を示している。すなわち、
図7の上図に示すように、CCに関する入出力特性411は、入力電力が比較的小さい領域では線形増幅されることを示しており、入力電力が大きくなると非線形増幅されることを示している。また、相互変調歪みに関する入出力特性412は、CCに関する入出力特性411よりも大きな傾きを有しており、例えば3次変調歪みであればCCに関する入出力特性411の3倍の傾きを有する。そして、CCに関する入出力特性411の線形領域の線分の延長線と相互変調歪みに関する入出力特性412との交点413は、インターセプトポイントと呼ばれ、パワーアンプ180で発生する相互変調歪みの指標として用いられる。
【0067】
本実施の形態においては、相互変調歪みのレベルが規制値以上となっている場合には、送信レベル制御部206によって、送信レベルの上限を低下させることとした。送信レベルの上限が低下すれば、パワーアンプ180へ入力される送信信号の電力が低下する。そして、
図7の中図に示すように、入力電力P1のときに発生する相互変調歪みの電力がD1であるのに対し、パワーアンプ180への入力電力を低下させ、入力電力P2になると相互変調歪みが発生しない。このように、送信レベル制御部206によって送信レベルを低下させることにより、パワーアンプ180において発生する相互変調歪みを抑圧することができる。
【0068】
また、本実施の形態においては、送信レベルを許容される限界まで低下させても十分に相互変調歪みが抑圧されない場合には、電圧制御部207によって指示が出され、パワーアンプ180への印加電圧を上昇させることとした。パワーアンプ180への印加電圧が上昇すると、発生する相互変調歪みは小さくなる。すなわち、
図7の下図に示すように、入力電力P1に対して発生する相互変調歪みの電力がD1である場合に、パワーアンプ180への印加電圧を上昇させると、相互変調歪みに関する入出力特性が直線412から直線412aとなる。また、これに伴って、インターセプトポイントが点413から点413aとなる。このため、印加電圧が上昇した後は、入力電力P1に対して発生する相互変調歪みの電力がD2に低下する。このように、パワーアンプ180への印加電圧を上昇させることにより、パワーアンプ180において発生する相互変調歪みを抑圧することができる。
【0069】
以上のように、本実施の形態によれば、無線通信装置は、複数のCCの周波数情報に基づいてフィードバック信号から相互変調歪みを抽出し、相互変調歪みのレベルが規制値以上の場合には、送信信号の電力を許容範囲内で低下させる。また、送信信号の電力を許容範囲内で低下させても十分に相互変調歪みのレベルが低下しない場合は、パワーアンプへの印加電圧を上昇させる。このため、複数のコンポーネントキャリアの信号を共通のパワーアンプで増幅する場合でも、相互変調歪みを抑圧することができる。
【0070】
なお、上記実施の形態1においては、規制値がレベルの絶対値で定められていることとしたが、規制値は、CCの信号のレベルと相互変調歪みのレベルとの相対比で定められることがある。この場合には、モデム171のローカル信号設定部202がフィードバック信号からCC成分を抽出するためのローカル周波数を検波部174のローカル信号発生部302へ通知し、CC成分のレベルが測定部306によって測定されるようにすれば良い。CC成分のレベルが測定されることにより、CC成分のレベルと相互変調歪みの各周波数成分のレベルとの相対比を求めることが可能となる。
【0071】
(実施の形態2)
実施の形態2の特徴は、相互変調歪みに関する規制が厳しいCCの周波数の条件をあらかじめ記憶しておき、送信信号のCCの周波数が記憶された条件に合致する場合に、規制が満たされるように相互変調歪みを抑圧することである。
【0072】
実施の形態2に係る無線通信装置の構成は、実施の形態1(
図1、
図2、
図5)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態2においては、モデム171の機能が実施の形態1とは異なる。
【0073】
図8は、実施の形態2に係るモデム171の機能を示すブロック図である。
図8においては、
図3と同じ部分に同じ符号を付し、その説明を省略する。
図8に示すように、実施の形態2に係るモデム171は、実施の形態1に係るモデム171(
図3)のIM周波数算出部201に代えて条件判定部501を有する。
【0074】
条件判定部501は、相互変調歪みに関する規制が厳しいCCの周波数の条件をあらかじめ記憶している。すなわち、条件判定部501は、例えば相互変調歪みのレベルの規制値が最も小さい周波数バンドに属する相互変調歪みを発生させるCCの周波数の組み合わせを記憶している。そして、条件判定部501は、送信信号が重畳される複数のCCの周波数に関する周波数情報をプロセッサ160から取得すると、これらのCCの周波数が記憶した条件に合致するか否かを判定する。
【0075】
条件判定部501は、送信信号が重畳される複数のCCの周波数があらかじめ記憶された条件に合致する場合は、これらのCCの組み合わせによって発生する相互変調歪みの周波数をローカル信号設定部202へ通知する。したがって、ローカル信号設定部202は、条件判定部501から通知された相互変調歪みの周波数に対応するローカル周波数を検波部174のローカル信号発生部302へ通知する。
【0076】
なお、条件判定部501は、CCの周波数に関する条件のみではなく、送信信号の送信に用いられるチャネル帯域幅及びリソースブロックに関する条件や送信レベルに関する条件についての判定を行っても良い。すなわち、条件判定部501は、相互変調歪みに関する規制が厳しい種々の送信条件を記憶しており、実際に送信される送信信号の送信条件が記憶された送信条件に合致するか否かを判定しても良い。このとき、条件判定部501は、実際の送信信号の送信条件をプロセッサ160から取得する。また、条件判定部501は、最も厳しい送信条件のみではなく複数の送信条件を記憶しており、いずれかの送信条件が満たされる場合に、この送信条件に対応する相互変調歪みの周波数をローカル信号設定部202へ通知しても良い。
【0077】
次いで、上記のように構成された無線通信装置100における歪み抑圧処理について、
図9に示すフロー図を参照しながら説明する。
図9において、
図6と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0078】
送信信号が重畳される複数のCCの周波数情報がプロセッサ160から条件判定部501へ入力されると(ステップS201)、条件判定部501によって、複数のCCの周波数があらかじめ記憶された条件に合致するか否かが判定される(ステップS202)。すなわち、送信信号の送信に用いられるCCの周波数が、規制が厳しい周波数バンド内に相互変調歪みを発生させるか否かが判定される。
【0079】
この判定の結果、送信に用いられる複数のCCの周波数が条件に合致しない場合は(ステップS202No)、歪み抑圧処理が実行されることなく、条件判定部501によって、次の送信信号に関する周波数情報が取得される。このように、送信に用いられる複数のCCの周波数が条件に合致しない場合は歪み抑圧処理が実行されないため、例えば測定部306や比較部205などにおける消費電力を低減することができる。
【0080】
一方、送信に用いられる複数のCCの周波数が条件に合致する場合は(ステップS202Yes)、これらのCCから発生する相互変調歪みの周波数がローカル信号設定部202へ通知される。そして、実施の形態1と同様に、歪み抑圧処理が実行される。実施の形態2においては、送信に用いられる複数のCCの周波数が、規制が厳しい周波数バンド内に相互変調歪みを発生させる場合に歪み抑圧処理が実行されるため、厳しい規制が満たされるようになる。結果として、規制がより緩い周波数バンド内に相互変調歪みを発生させるCCの組み合わせに関しては、当然規制が満たされる。
【0081】
相互変調歪みの周波数がローカル信号設定部202へ通知されると、ローカル信号設定部202によって、検波部174におけるローカル周波数が設定される(ステップS102)。すなわち、ローカル信号設定部202によって、パワーアンプ180によって増幅された信号からCC成分を除去して相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数が検波部174のローカル信号発生部302へ通知される。
【0082】
そして、ローカル信号発生部302によって、通知されたローカル周波数のローカル信号が生成され、カプラ190からフィードバックされるフィードバック信号が直交復調部303によって直交復調される。同時に、フィルタ帯域設定部203によって、相互変調歪みの特定の周波数成分がローパスフィルタ304を通過するようにフィルタ帯域の設定が行われる(ステップS103)。
【0083】
フィルタ帯域設定部203によってローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定されると、設定されたフィルタ帯域に対応する規制値が規制値保持部204から比較部205へ出力される(ステップS104)。そして、検波部174の測定部306によって、ローパスフィルタ304を通過する周波数成分のレベルが測定される(ステップS105)。
【0084】
そして、比較部205によって、規制値と周波数成分のレベルの測定値とが大小比較される(ステップS106)。この比較の結果、測定値が規制値未満であれば(ステップS106Yes)、規制が満たされていることになる。そこで、フィルタ帯域設定部203によって、フィードバック信号から抽出された相互変調歪みに含まれるすべての周波数成分について、規制値との比較が完了したか否かが判定される(ステップS107)。この判定の結果、すべての周波数成分について完了していれば(ステップS107Yes)、歪み抑圧処理は完了する。また、まだ規制値との比較が完了していない周波数成分がある場合には(ステップS107No)、これらの周波数成分のうちのいずれかを通過させるようにローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定される(ステップS103)。以下、上記と同様に、新たにローパスフィルタ304を通過する周波数成分についても規制値との大小比較が行われる。
【0085】
一方、ステップS106における比較の結果、測定値が規制値以上であれば(ステップS106No)、規制が満たされていないことになる。そこで、この比較結果が比較部205から送信レベル制御部206へ通知され、送信レベル制御部206によって、規制値と測定値との差分に基づいて、規制を満たすための送信レベルの上限が算出される(ステップS108)。また、送信レベル制御部206によって、算出された送信レベルの上限が送信電力制御における許容範囲内にあるか否かが判断される(ステップS109)。この判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲内であれば(ステップS109Yes)、送信レベル制御部206における送信レベルの上限が算出された値に設定される(ステップS110)。これにより、以後の送信レベルの制御においては、設定された上限を超えないように送信信号の電力が制御される。
【0086】
一方、ステップS109の判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲を超えていれば(ステップS109No)、送信レベル制御部206における送信レベルの上限が許容される限界の値に設定される(ステップS111)。そして、送信レベル制御部206によって、送信信号の電力を低下させるだけでは十分に相互変調歪みが抑圧されないことが電圧制御部207へ通知される。
【0087】
送信レベル制御部206からの通知を受け、電圧制御部207によって、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させる旨の指示が電源管理部120に対して出される(ステップS112)。このとき、例えば所定のステップ幅だけパワーアンプ180への印加電圧を上昇させるように指示される。
【0088】
以上のように、本実施の形態によれば、無線通信装置は、実際の送信に用いられるCCが、規制が厳しい周波数バンド内に相互変調歪みを発生させる送信条件に合致するか否かを判定する。そして、送信条件に合致する場合は、歪み抑圧処理を実行し、送信条件に合致しない場合は、歪み抑圧処理を省略する。このため、相互変調歪みに関する最も厳しい規制を満たしつつ、規制が緩い周波数バンド内に相互変調歪みを発生させるCCが送信に用いられる場合は、歪み抑圧処理における消費電力を削減することができる。
【0089】
(実施の形態3)
実施の形態3の特徴は、アンテナから信号が送信されないテストモード中にテスト信号を用いて送信レベルを調整し、アンテナから信号が送信される稼働モード中は調整済みの送信レベルを設定して信号を送信することである。
【0090】
実施の形態3に係る無線通信装置の全体の構成は、実施の形態1(
図1)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態3においては、送信部の構成及びモデム171の機能が実施の形態1とは異なる。
【0091】
図10は、実施の形態3に係る送信部の構成を示すブロック図である。
図10においては、
図2と同じ部分に同じ符号を付し、その説明を省略する。また、
図10においては、データ受信に係る構成とRFIC170内部の詳細な構成とを省略している。
図10に示すように、RFIC170とアンテナの間には、パワーアンプ180、カプラ190及び終端スイッチ195が設けられる。
【0092】
終端スイッチ195は、モデム171によるモードの切り替えに従い、テストモード中はカプラ190から出力される信号を終端させアンテナへ出力しない。また、終端スイッチ195は、稼働モード中はカプラ190から出力される信号をアンテナへ出力し、アンテナから送信させる。
【0093】
図11は、実施の形態3に係るモデム171の機能を示すブロック図である。
図11においては、
図3と同じ部分に同じ符号を付し、その説明を省略する。
図11に示すように、実施の形態3に係るモデム171は、実施の形態1に係るモデム171(
図3)のIM周波数算出部201及び送信レベル制御部206に代えてモード制御部601及び送信レベル制御部602を有する。
【0094】
モード制御部601は、例えば無線通信装置100の起動時など、プロセッサ160から送信信号が入力されない所定のタイミングにおいて、モデム171及び検波部174の各部をテストモードに切り替え、テスト信号を生成して歪み抑圧処理を実行させる。すなわち、モード制御部601は、テストモード中にテスト信号を生成して送信レベル制御部602へ出力するとともに、テスト信号からパワーアンプ180において発生する相互変調歪みの周波数をローカル信号設定部202へ通知する。また、モード制御部601は、テストモードに切り替える際は、スイッチ制御情報を終端スイッチ195へ通知し、カプラ190から出力される信号を終端させるように制御する。
【0095】
さらに、モード制御部601は、プロセッサ160から送信信号が入力される稼働モード中においては、歪み抑圧処理に用いられる測定部306や比較部205などの機能を停止する。そして、モード制御部601は、稼働モード中に送信信号の周波数情報を取得し、送信信号が重畳される複数のCCの周波数を送信レベル制御部602へ通知する。また、モード制御部601は、稼働モードに切り替える際は、スイッチ制御情報を終端スイッチ195へ通知し、カプラ190から出力される信号をアンテナから送信させるように制御する。
【0096】
送信レベル制御部602は、モード制御部601によってテストモードに切り替えられると、モード制御部601によって生成されるテスト信号の電力を制御する。そして、送信レベル制御部602は、比較部205による比較の結果、パワーアンプ180においてテスト信号に発生する相互変調歪みのレベルが規制を満たさない場合には、規制を満たすための送信レベルの上限を算出する。また、実施の形態1と同様に、送信レベル制御部602は、送信電力制御によって許容される範囲内で送信レベルの上限を設定し、送信信号の電力を制御する。したがって、送信レベル制御部602は、規制を満たすための送信レベルの上限が送信電力制御によって許容される範囲を超える場合には、送信電力制御によって許容される限界の値を送信レベルの上限に設定する。そして、送信レベル制御部602は、設定した送信レベルの上限をテスト信号が重畳される複数のCCの周波数と対応付けて記憶する。
【0097】
また、送信レベル制御部602は、モード制御部601によって稼働モードに切り替えられると、送信信号が重畳される複数のCCの周波数に対応付けて記憶された送信レベルの上限を設定する。
【0098】
次いで、上記のように構成された無線通信装置100における歪み抑圧処理について、
図12に示すフロー図を参照しながら説明する。
図12において、
図6と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0099】
まず、モード制御部601によって、テストモード中であるか否かが判定される(ステップS301)。テストモード中であるか否かは、プロセッサ160から通知されるようにしても良いし、無線通信装置100の起動時や送信信号の非入力時にテストモードであるとモード制御部601が自律的に判断しても良い。テストモード中であるか否かの判定の結果、テストモード中ではなく稼働モード中である場合は(ステップS301No)、モード制御部601によって、終端スイッチ195へスイッチ制御情報が出力され、カプラ190から出力される信号をアンテナから送信させるように設定される(ステップS304)。
【0100】
また、稼働モード中は、モード制御部601によって送信信号に関する周波数情報に基づいて、送信信号が重畳される複数のCCの周波数が送信レベル制御部602へ通知される。そして、送信レベル制御部602によって、テストモード中に記憶された送信レベルの上限のうち、モード制御部601から通知された複数のCCの周波数に対応付けて記憶された送信レベルの上限が設定される(ステップS305)。これにより、送信レベル制御部602によって、送信信号の電力が送信レベルの上限を超えないように制御される。ここで、テストモード中に複数のCCの周波数に対応付けて記憶される送信レベルの上限は、テスト信号に対する歪み抑圧処理において、相互変調歪みに関する規制を満たすと判定された上限である。したがって、稼働モード中は、実際に送信される複数のCCの周波数に対応付けて記憶された送信レベルの上限を設定することにより、相互変調歪みに関する規制を満たした送信信号をアンテナから送信することができる。
【0101】
一方、ステップS301における判定の結果、テストモード中である場合は(ステップS301Yes)、モード制御部601によって、終端スイッチ195へスイッチ制御情報が出力され、カプラ190から出力される信号をアンテナへ出力せずに終端させるように設定される(ステップS302)。そして、モード制御部601によって、テスト信号が生成され(ステップS303)、送信レベル制御部602へ出力される。ここで生成されるテスト信号の周波数は、例えば相互変調歪みに関する規制が厳しいCCの周波数に対応する。すなわち、モード制御部601によって、相互変調歪みレベルの規制値が比較的小さい周波数バンド内に相互変調歪みを発生させる複数のCCに対応するテスト信号が生成される。そして、これらの複数のCCによって発生する相互変調歪みの周波数が、ローカル信号設定部202へ通知される。
【0102】
相互変調歪みの周波数がローカル信号設定部202へ通知されると、ローカル信号設定部202によって、検波部174におけるローカル周波数が設定される(ステップS102)。すなわち、ローカル信号設定部202によって、パワーアンプ180によって増幅されたテスト信号からCC成分を除去して相互変調歪みを抽出するためのローカル周波数が検波部174のローカル信号発生部302へ通知される。
【0103】
そして、ローカル信号発生部302によって、通知されたローカル周波数のローカル信号が生成され、カプラ190からフィードバックされるフィードバック信号が直交復調部303によって直交復調される。同時に、フィルタ帯域設定部203によって、相互変調歪みの特定の周波数成分がローパスフィルタ304を通過するようにフィルタ帯域の設定が行われる(ステップS103)。
【0104】
フィルタ帯域設定部203によってローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定されると、設定されたフィルタ帯域に対応する規制値が規制値保持部204から比較部205へ出力される(ステップS104)。そして、検波部174の測定部306によって、ローパスフィルタ304を通過する周波数成分のレベルが測定される(ステップS105)。
【0105】
そして、比較部205によって、規制値と周波数成分のレベルの測定値とが大小比較される(ステップS106)。この比較の結果、測定値が規制値未満であれば(ステップS106Yes)、規制が満たされていることになる。そこで、フィルタ帯域設定部203によって、フィードバック信号から抽出された相互変調歪みに含まれるすべての周波数成分について、規制値との比較が完了したか否かが判定される(ステップS107)。この判定の結果、すべての周波数成分について完了していれば(ステップS107Yes)、歪み抑圧処理は完了する。また、まだ規制値との比較が完了していない周波数成分がある場合には(ステップS107No)、これらの周波数成分のうちのいずれかを通過させるようにローパスフィルタ304のフィルタ帯域が設定される(ステップS103)。以下、上記と同様に、新たにローパスフィルタ304を通過する周波数成分についても規制値との大小比較が行われる。
【0106】
一方、ステップS106における比較の結果、測定値が規制値以上であれば(ステップS106No)、規制が満たされていないことになる。そこで、この比較結果が比較部205から送信レベル制御部602へ通知され、送信レベル制御部602によって、規制値と測定値との差分に基づいて、規制を満たすための送信レベルの上限が算出される(ステップS108)。また、送信レベル制御部602によって、算出された送信レベルの上限が送信電力制御における許容範囲内にあるか否かが判断される(ステップS109)。この判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲内であれば(ステップS109Yes)、送信レベル制御部602における送信レベルの上限が算出された値に設定される(ステップS110)。これにより、以後の送信レベルの制御においては、設定された上限を超えないように送信信号の電力が制御される。
【0107】
一方、ステップS109の判断の結果、送信レベルの上限が許容範囲を超えていれば(ステップS109No)、送信レベル制御部602における送信レベルの上限が許容される限界の値に設定される(ステップS111)。そして、送信レベル制御部602によって、送信信号の電力を低下させるだけでは十分に相互変調歪みが抑圧されないことが電圧制御部207へ通知される。
【0108】
送信レベル制御部602からの通知を受け、電圧制御部207によって、パワーアンプ180へ印加される電圧を上昇させる旨の指示が電源管理部120に対して出される(ステップS112)。このとき、例えば所定のステップ幅だけパワーアンプ180への印加電圧を上昇させるように指示される。
【0109】
なお、本実施の形態においては、テスト信号に対する歪み抑圧処理によって、相互変調歪みに関する規制が満たされるようになると、そのときのテスト信号に対応する複数のCCの周波数と送信レベルの上限とが送信レベル制御部602によって記憶される。そして、稼働モード中には、送信レベル制御部602によって、実際の送信信号が重畳される複数のCCの周波数と対応付けて記憶された送信レベルの上限が設定されることになる。
【0110】
以上のように、本実施の形態によれば、無線通信装置は、アンテナから信号が送信されないテストモード中に、規制が厳しいテスト信号を生成して歪み抑圧処理を実行し、テスト信号に対応する複数のCCの周波数と送信レベルの上限とを対応付けて記憶しておく。そして、無線通信装置は、アンテナから信号が送信される稼働モード中に、実際の送信に用いられるCCの周波数に対応付けて記憶された送信レベルの上限を設定して送信電力を制御する。このため、稼働モード中には歪み抑圧処理が不要となり、歪み抑圧処理による消費電力を削減することができる。また、稼働モード中に、規制値を超えるレベルの相互変調歪みを含む信号がアンテナから送信されることを回避することができる。
【0111】
なお、上記各実施の形態において説明した無線通信装置100の歪み抑圧処理をコンピュータが実行可能な通信制御プログラムとして記述することも可能である。この場合、この通信制御プログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納し、コンピュータに導入することも可能である。コンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、例えばCD−ROM、DVDディスク、USBメモリなどの可搬型記録媒体や、例えばフラッシュメモリなどの半導体メモリが挙げられる。