(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
複数のプロペラを有し三次元移動可能なドローン(「マルチコプター」とも呼ばれる。)は、ホバリングや微妙な飛行ができるため、空撮、測量、農業、物流、中継基地、インフラ点検・整備などでの利用が広がっている。
【0003】
図9(a)に示した橋梁点検車70や、
図9(b)に示した高所作業車71を用いて、橋梁72の下面やトンネル73の内壁面など高所で危険なため人が近づくのが困難な場所を点検する場合がある。しかし、橋梁点検車70や高所作業車71では届く範囲に制限があり、点検個所の移動に時間を要する。さらに、機械が高価であり、人が直接点検するので危険も伴う。そこで、ドローンを用いて、広範囲、迅速、安価、かつ安全に点検を行うことが検討されている。
【0004】
橋梁の下面やトンネルの内壁面などのインフラを点検する際には、点検対象面とドローンとの近接した距離を一定に保って広範囲に移動する必要がある。そこで、回転自在の2つのリングを取り付けたドローン(特許文献1)を利用し、そのリングを点検対象面に沿って回転させながら一定の距離を保ってドローンが飛行することが考えられる。
【0005】
また、逆さまにした小型の車両とドローンとを組合せ、ドローンのプロペラの回転による揚力で小型の車両の車輪を点検対象面に押し付けた状態で、車両を走行させ移動する方法も考えられる。
【0006】
ところで、メカナムホイールを用いた無人搬送台車が提案されている(特許文献2)。メカナムホイールは、車軸に対して45度傾けた樽形状の副輪(バレル)によって主輪の表面(円周上)が覆われる構成となっている。4つの主輪それぞれに取り付けられた駆動部のモーターの回転方向と速度を微妙に制御することで、主輪の回転と円周上の副輪による動きとのコンビネーションにより無人搬送台車の全方向移動を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
図1に第1の実施の形態に係るドローン1を示す。ドローン1は、4つのプロペラ2を備えたクアッドコプターである。上方から見たドローン1は、コントローラ、送受信機、バッテリー等を搭載する中央部3を備える。中央部3を中心としてX型フレーム4が配置されている。X型フレーム4の放射状に延びるフレーム材5の中間部にはモーター6及びプロペラ2が配置されている。
【0018】
フレーム材5の先端部7の上部にはモーター8により駆動されるメカナムホイール9が配置されている。
図1に示されるように、X型フレーム4を形成する4つのフレーム材5に対する、モーター8及びメカナムホイール9の配置位置は全て同じとなっている。そして、モーター8及びメカナムホイール9は、中央部3を通る中心線10を対称軸として左右対称に配置されている。
【0019】
このように、X型フレーム4のフレーム材5の先端部7に4つのメカナムホイール9が配置されるので、メカナムホイール9取り付けのための特別な部材を必要とせず、フレーム材5を延長するだけでよい。また、ドローン1の4つのプロペラ2の外側にメカナムホイール9が配置されるのでメカナムホイール9相互間での十分な距離を有する。そのため、構造物に対してドローンが安定して接触することができる。
【0020】
なお、飛行時のドローン1全体の回転力発生を打ち消すため、プロペラ2の回転方向は右回りと左回りがあり、それに合わせてプロペラ2のピッチ方向が逆となっている。X型フレーム4の対角線上に同じピッチ方向のプロペラ2が配置される。
【0021】
図2に
図1のA矢視詳細図であって、メカナムホイール9の取り付け詳細図を示す。フレーム材5の先端部7の上部には、サスペンション装置11が配置されている。サスペンション装置11の内部には、バネ要素12とダンパー要素13が内蔵されている。サスペンション装置11の上部には、センサー14が配置されている。具体的には、センサー14としてロードセルが使用される。センサー14は、メカナムホイール9が構造物に接触した際の構造物との接触力を検出する検出手段として機能する。センサー14は、後述するコントローラと信号線16によって連絡されている。センサー14の上部には、メカナムホイール9を駆動するためのモーター8が配置されている。モーター8は、後述するコントローラと給電線17によって連絡されている。
【0022】
なお、この第1の実施の形態では、
図2に示すようにサスペンション装置11とセンサー14とをフレーム材5に重ねて配置する構成としたが、サスペンション装置11とセンサー14とをフレーム材5に内蔵する構成としてもよい。その場合は、モーター6とプロペラ2が配置されたフレーム材5の中間部から先端部7までの部分にサスペンション装置11とセンサー14の機能を持たせるようにすれば良い。
【0023】
図2に示すように、メカナムホイール9は、車軸21に対して45度傾けた複数の樽形状の副輪22(バレル)によって主輪20の表面(円周上)が覆われる構成である。副輪22は、主輪20に対して回転可能となっている。メカナムホイール9は、モーター8によって正逆回転駆動される。
図1に示した4つのメカナムホイール9のそれぞれのモーター8の回転方向と速度制御を微妙に調整することで、主輪20の回転と副輪22による動きとのコンビネーションを生み出し、ドローン1の全方向移動が実現される。
【0024】
図3は4つのメカナムホイール9の回転方向とドローン1の移動方向との関係をまとめた図である。例えば前進を説明する枠25の中に示した、メカナムホイール9の近くに示した矢印23は、メカナムホイール9の回転方向を示している。なお、ドローン1は上方から見ておりメカナムホイール9上部が点検対象面と接触して走行するので、地上を走行する場合とは回転方向が反対となる。メカナムホイールがドローン1の上に示した矢印24は、ドローン1の移動方向を示している。
【0025】
このように、4つのメカナムホイール9の回転を制御することでドローン1の平面上における全方位移動を制御できるという特性は、ドローン1が4つのプロペラ2の回転を制御することで三次元移動を実現するというドローン本来の特性に非常に近似する。したがって、メカナムホイール9の制御は、ドローン本来の制御との相性が良く、操作系及び制御系の共通化を図り易いというメリットを生じる。
【0026】
図4は
図1に示したドローン1の内部ブロック図である。
図4の右半分はプロペラ駆動部分のブロック図であって、従来からドローンに備えられている構成である。
図4の左半分はメカナムホイール駆動部分のブロック図であって、実施の形態に係るドローン1に追加される構成である。
【0027】
図4に示されたドローン1の4つのプロペラ2を駆動する4つのモーター6は、以下のように駆動制御される。送受信機31は、図示しない無線操縦装置(プロポ)からの操作電波を受信する。プロペラ用コントローラ32は、送受信機31からの操作信号を処理し、それぞれのモーター6に対するモーター出力指令値を出力する。エレクトリックスピードコントローラ(ESC)33は、プロペラ用コントローラ32からのモーター出力指令値を読み取って、その通りの電流値をバッテリー34からモーター6に供給する。
【0028】
さらに、
図1に示されたドローン1の4つのメカナムホイール9を駆動する4つのモーター8は、以下のように駆動制御される。送受信機31は、図示しない無線操縦装置(プロポ)からのメカナムホイール9の操作電波を受信する。メカナムホイール用コントローラ35は、送受信機31からの操作信号を処理し、それぞれのモーター8に対するモーター出力指令値を出力する。エレクトリックスピードコントローラ(ESC)37は、メカナムホイール用コントローラ35からのモーター出力指令値を読み取って、その通りの電流値をバッテリー34からモーター8に供給する。また、プロペラ用コントローラ32とメカナムホイール用コントローラ35とは、相互に信号の授受を行っている。
【0029】
通常の飛行によりドローン1がインフラ点検個所に到着し4つのメカナムホイール9が点検対象面に接触すると、プロペラ用コントローラ32は飛行制御モードから点検制御モードに切換る。すなわち、4つのモーター6を独立した速度制御する飛行制御モードから4つのモーター6を共通した速度制御する点検制御モードに切換る。点検制御モードでは、メカナムホイール9で走行移動するために必要最小限の接触力が生じるよう、プロペラ2による揚力発生のためのモーター6の速度制御が行われる。
【0030】
メカナムホイール9による走行中は、接触面からメカナムホイール9が受ける荷重を検出するセンサー14(
図2参照)からの検出信号は、信号線16を経由してプロペラ用コントローラ32に送られる。メカナムホイール9が受ける荷重が所定範囲となるよう演算し、プロペラ用コントローラ32は個々のモーター6へのモーター出力指令値を出力する。このように、個々のメカナムホイール9の接触面との接触力が所定値の範囲に自動制御され、空転等が生じないので、メカナムホイール9は確実に全方向移動(
図3参照)を実現できる。
【0031】
図5は
図1に示したドローン1を用いたトンネルの内壁面62の点検作業の説明図である。パイロット60が無線操縦装置(プロポ)61を用いてドローン1を操縦している。ドローン1は、プロペラ2の揚力によって全てのメカナムホイール9がトンネルの内壁面62に接触している。一般に、ドローン1はものに近寄ると流体力学的に吸い寄る力が働きバランスを崩しやすい(コアンダ効果)が、本発明ではメカナムホイール9で内壁面62に接触するようにしたので、内壁面62に吸着する力に抗うのでなく吸着力を逆に有効利用することができる。
【0032】
メカナムホイール9によってドローン1と内壁面62とは一定の距離を保っており、この状態でドローン1に搭載したカメラで内壁面62の状態の写真を撮影する。また、ドローン1に搭載した各種の検査器具で内壁面62の損傷状態を検査し、そのデータを取得する。
【0033】
さらに、
図5に示した状態で、ドローン1はメカナムホイール9を用いてトンネルの内壁面62に沿って移動する。このとき、ドローン1の4つのプロペラ2は内壁面62へのメカナムホイール9の押し付け力を発生するだけで良いので、ドローン1の三次元飛行中の複雑な制御は必要無くなる。なお、ドローン1の内部ブロック図(
図4参照)で説明したように、メカナムホイール9での移動中は常時センサー14の検出値により押し付け力が所定範囲となるようプロペラ2の回転はフィードバック制御されているので、メカナムホイール9による安定した全方向移動が可能である。また、全てのメカナムホイール9には、サスペンション装置11が設けられているので(
図2参照)、内壁面62に凹凸があっても、その凹凸をサスペンション装置11が吸収するので、ドローン1は安定して内壁面62に沿った全方向移動が可能である。
【0034】
第1の実施の形態に係るドローン1は、プロペラ2の揚力によって構造物にメカナムホイール9が接触した状態で、メカナムホイール9の推進力によって移動可能な構成としたので、メカナムホイール9の回転方向と速度を微妙に制御することで、構造物に沿ったドローン1の迅速な全方向移動を実現することができる。このように、高所作業車等の大型の機械装置を用いることなく、ドローン1を用いて、広範囲、迅速、安価、かつ安全にインフラ点検を行うことができる。
【0035】
図6は
図1に示したドローン1に対して有線給電しながらトンネルの内壁面62を点検する場合の説明図である。ドローン1と地上の有線給電装置80の電源部とは有線給電ケーブル81によって連絡されている。少ない電流を高電圧で送電することにより有線給電ケーブルは細く軽量とされており、かつ十分な強度を持つよう設定されている。
図6に示すドローン1は有線給電されるので、長時間連続してトンネルの内壁面62を移動しつつ広範囲にわたって点検することができる。
【0036】
以上、第1の実施の形態に係るドローン1を用いてトンネルの内壁面62を点検する場合を説明したが、他にも多くの産業や社会生活の基盤となる施設を点検対象とすることができる。例えば、河川に架けられた橋梁、高速道路の高架橋、各種の建築物、工場建屋、タワーなど、その適用範囲は極めて広い。
【0037】
(第2の実施の形態)
図7は第2の実施の形態に係るドローン40の図である。ドローン40は、4つのプロペラ2を備えたクアッドコプターである。上方から見たドローン40は、コントローラ、送受信機、バッテリー等を搭載する中央部41を備える。中央部41を中心としてH型フレーム42が配置されている。H型フレーム42の左右に延びるフレーム材43の中間部にはモーター6及びプロペラ2が配置されている。
【0038】
フレーム材43の先端部44の上部にはモーター8により駆動されるメカナムホイール9が配置されている。
図7に示されるように、H型フレーム42を形成するフレーム材43に対する、モーター8及びメカナムホイール9の配置位置は全て同じとなっている。そして、モーター8及びメカナムホイール9は、中央部41通る中心線45を対称軸として左右対称に配置されている。
【0039】
このように、H型フレーム42のフレーム材43の先端部44に4つのメカナムホイール9が配置されるので、メカナムホイール9取り付けのための特別な部材を必要とせず、フレーム材43を延長するだけでよい。また、ドローン40の4つのプロペラ2の外側にそれぞれメカナムホイール9が配置されることで、メカナムホイール9同士が十分な間隔を有した状態で構造物に接触することができる。なお、第2の実施の形態に係るドローン40の他の構成及びその機能と効果は、
図1に示したドローン1と共通するので、その他の詳細な説明は省略する。
【0040】
(第3の実施の形態)
図8は第3の実施の形態に係るドローン50の図である。ドローン50は、4つのプロペラ2を備えたクアッドコプターである。上方から見たドローン50は、コントローラ、送受信機、バッテリー等を搭載する中央部51を備える。中央部51を中心としてX型フレーム52が配置されている。X型フレーム52の放射状に延びるフレーム材53の中間部にはモーター6及びプロペラ2が配置されている。
【0041】
フレーム材53の先端部54には、プロペラガード55が配置されている。
図8に示すように、プロペラガード55は4つのプロペラ2を全て取り囲んだ略正方形の形状となっている。そして、フレーム材53の先端部54は、プロペラガード55の角部56に連結されている。
【0042】
プロペラガード55の4つの角部56の上部にはモーター8により駆動されるメカナムホイール9が配置されている。
図8に示されるように、モーター8及びメカナムホイール9は、中央部51通る中心線57を対称軸として左右対称に配置されている。
【0043】
このように、プロペラガード55の4つの角部56の上部に4つのメカナムホイール9が配置されるので、メカナムホイール9取り付けのための特別な部材を必要としない。また、ドローン50の4つのプロペラ2の外側にそれぞれメカナムホイール9が配置されることでメカナムホイール9同士の十分な間隔が取れるので、構造物に対してドローン50が安定して接触することができる。第3の実施の形態に係るドローン50のその他の構成及びその機能と効果は、
図1示したドローン1及び
図7に示したドローン40と共通するので、その他の詳細な説明は省略する。
【0044】
以上説明した実施の形態1〜3では、全て4つのプロペラ2を備えたドローン(クアッドコプター)を例に説明したが、その他の形式のドローン(マルチコプター)にも本発明が適用できることは勿論である。すなわち、ヘキサコプター(6つのプロペラ)、オクトコプター(8つのプロペラ)等にも本発明の適用可能である。また、4つのメカナムホイール9を配置する例を説明したが、4つ以上のメカナムホイールを用いても同様に実施可能であり、同じ作用と効果を得ることができる。