(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明法で得られる異形微粒子は、
図1に示されるように、表面に不均一かつ微細な凹凸を多数有する微粒子である。本明細書では、粒子表面に微細な凹凸があることを「異形」と表現する。
【0014】
このような異形微粒子が懸濁重合で製造される理由は、多官能モノマーとマクロモノマーを必須モノマーとして使用するためであると考えられる。すなわち、マクロモノマーの導入によって、懸濁粒子内部では相分離が起こり、マクロモノマーが島となる海島構造が形成されるが、このとき、多官能モノマーによる架橋が少ないと、モノマー(ポリマー)の粒子内部での移動が容易となり、モノマー(ポリマー)と水との界面エネルギーを最小化するようにモノマー(ポリマー)が移動して、真球状で、表面が滑らかな粒子が生成するところ、本発明では、比較的多量の多官能モノマーを用いており、多官能モノマーによる架橋がモノマー(ポリマー)を粒子内部で移動できないように拘束するため、重合開始による懸濁粒子内部の粘度上昇も相俟って、海島構造に由来する凹凸が粒子表面近傍にそのまま残存し、異形微粒子が生成するのではないかと推測される。以下、本発明を詳細に説明するが、まず、異形微粒子の原料モノマーについて説明する。
【0015】
本発明の異形微粒子は、単官能モノマー、多官能モノマー、マクロモノマーを必須成分として含むモノマー混合物から合成される。
単官能モノマーとしては、ラジカル重合可能な二重結合を1分子中に1個のみ有するモノマーであれば特に限定されないが、有用性を考慮すると、(メタ)アクリル系モノマー、スチレン系モノマーが好ましく、2種以上の単官能モノマーを併用しても構わない。特に、表面に凹凸のある粒子が得られやすいことから、(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。
【0016】
[(メタ)アクリル系モノマー]
(メタ)アクリル系モノマーには(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれ、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。中でも、ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレート(MMA)が特に好ましい。
【0017】
[スチレン系モノマー]
スチレン系モノマーとしては、スチレン、o−、m−またはp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−、m−またはp−クロロスチレン等が挙げられ、これらの2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
単官能モノマーは、モノマー混合物100質量%中、50質量%以上であることが好ましい。50質量%より少ないと、得られる異形微粒子に単官能モノマー由来の特性を充分付与できないおそれがある。より好ましくは60質量%以上である。また、単官能モノマーは80質量%以下とすることが好ましい。単官能モノマーを、80質量%を超えて使用すると、相対的に多官能モノマーとマクロモノマーの使用量が少なくなって、微粒子表面に凹凸が形成されにくく、表面の滑らかな粒子となってしまうおそれがあるからである。
【0019】
また、単官能モノマーとして(メタ)アクリル系モノマーと他の単官能モノマーとを併用する場合には、モノマー混合物100質量%中、10質量%以上の(メタ)アクリル系モノマーを使用することが好ましい。(メタ)アクリル系モノマーの使用量が10質量%未満であると、マクロモノマーを溶解することができないおそれがある。(メタ)アクリル系モノマーの使用量は、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0020】
[多官能モノマー]
多官能モノマーは、1分子中に2個以上のラジカル重合可能な二重結合を有する化合物である。多官能モノマーは、重合中の懸濁粒子の海島構造を拘束する作用を有するのではないかと考えられる。具体的な多官能モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の多官能スチレン系モノマー;(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコンタヘクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。中でも、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、ジビニルベンゼン(DVB)が好ましい。
【0021】
多官能モノマーは、モノマー混合物100質量%中、15質量%以上が好ましい。15質量%より少ないと、表面の滑らかな粒子となりやすく、異形微粒子が得られないおそれがある。より好ましくは20質量%以上である。また、多官能モノマーは、モノマー混合物100質量%中、45質量%以下とすることが好ましい。45質量%を超えて多官能モノマーを使用すると、コストが高くなり、また、得られる異形微粒子が硬く脆くなって、多種の用途に使いづらくなるおそれがある。より好ましくは30質量%以下である。
【0022】
[マクロモノマー]
マクロモノマーは、懸濁粒子中で相分離(海島)構造を発現させるための必須モノマーである。マクロモノマーは、東亞合成株式会社から市販されており、セグメントがポリメチルメタクリレート系のAA−6(Mn6000)、セグメントがブチルアクリレート系のAB−6(Mn6000)、セグメントがスチレン75質量%/アクリロニトリル25質量%のAN−6Sがあり、いずれも使用可能である。理由は定かではないが、セグメントがスチレンであるAS−6では、ポリスチレンはポリメチルメタクリレートやポリブチルアクリレートよりも凝集力が弱いために相分離を起こさず、表面に多数の凹凸を有する異形微粒子は得られなかった。AN−6Sを用いた場合に、表面に凹凸を有する異形微粒子が得られる理由としては、極性が他のモノマーよりも高いアクリロニトリルのセグメントがあるため、相分離を起こしやすいと考えられる。
【0023】
マクロモノマーは、モノマー混合物100質量%中、5〜35質量%であることが好ましい。より好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。5質量%より少ないと本発明の異形微粒子を得ることができないおそれがあり、35質量%より多く入れても効果が飽和し、コストデメリットになるだけである。
【0024】
[その他のモノマー]
モノマー混合物中には、その他のモノマーを含めてもよく、このようなその他のモノマーとしては、上記した(メタ)アクリル系モノマーと共重合が可能なビニル系モノマーであれば特に限定されない。例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマーが挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。これらのその他のモノマーは、モノマー混合物100質量%中、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0025】
[懸濁重合法]
本発明の製造方法は、上記した必須モノマー(単官能モノマー、多官能モノマーおよびマクロモノマー)を含むモノマー混合物を、反応容器に一括で仕込み、懸濁重合を行うものである。以下、懸濁重合に用いる各成分について説明する。
【0026】
[水]
水は、懸濁重合の場を提供する媒体として用いる。安価かつ安全であり、油溶性モノマーの懸濁重合には最適である。重合熱の除去にも適している。
【0027】
懸濁液を重合させる際には、懸濁液をそのまま加熱して重合する場合と、懸濁液にさらに水を添加してから加熱する場合があり、いずれも採用可能である。懸濁液をそのまま加熱する場合には、懸濁液100質量部中、水は60〜80質量部程度が好ましい。懸濁液に水を加える場合は、希釈前の懸濁液100質量部中、水は40〜60質量部程度が好ましく、水添加後においては、重合反応液100質量部中、水は60〜90質量部程度が好ましい。適切な水量、適切な濃度で懸濁液の強制撹拌を行うことで懸濁液の安定性が高まり、適切な水量、適切な濃度で懸濁重合を行うことで、重合時に釜(反応容器)に付着する成分を抑制できる等、重合の安定性が向上する。
【0028】
[油溶性重合開始剤]
油溶性重合開始剤としては、従来公知の油溶性の過酸化物やアゾ系化合物が使用できる。例えば、過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド(LPO)、オクタノイルパーオキサイド、オルソクロロベンゾイルパーオキサイド、オルソメトキシベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬社製)等が挙げられる。
【0029】
重合開始剤は、モノマー混合物100質量部に対し、0.1〜5質量部の範囲で使用するのが好ましい。より好ましくは1〜5質量部である。
【0030】
[界面活性剤]
懸濁液中の油滴を安定化させるためには、少量の界面活性剤を使用することが好ましい。なお、ポリビニルアルコール等の高分子安定剤は使用しないことが好ましい。高分子安定剤は異形微粒子の表面に残留して、粒子の表面特性を変性させてしまうことがあるからである。また、界面活性剤が多すぎても加熱乾燥時の着色の原因となるので、界面活性剤は、モノマー混合物100質量部に対し、0.1〜5質量部の範囲で使用することが好ましい。0.1質量部より少ないと、懸濁液の安定性を保つことが難しくなるおそれがある。5質量部を超えると着色の要因となるおそれがある。より好ましい範囲は、0.1〜2質量部である。
【0031】
界面活性剤としては、特に限定はされないが、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、これらの1種のみを使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステルエステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0033】
カチオン性界面活性剤としては、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアルキルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩等がある。
【0034】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0035】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0036】
なお、懸濁重合中に、乳化重合が起こってしまうのを抑制するため、チオサリチル酸等の乳化重合防止剤を、モノマー混合物100質量部に対し0.5〜3質量部程度添加してもよい。
【0037】
[具体的な懸濁重合方法]
懸濁重合方法に際しては、懸濁液を作るために、水、界面活性剤、モノマー混合物および油溶性重合開始剤を容器へ添加する。このときの各成分の添加順序は特に限定されない。一例を挙げれば、次の通りである。まず、容器に水と界面活性剤を仕込む。界面活性剤は水に溶解させてから仕込んでもよいし、容器の中でよく撹拌して溶解させてもよい。次に、この容器に、すべてのモノマーを混合したモノマー混合物を油溶性重合開始剤とともに容器に一括添加する。もちろんこの順序は逆でもよく、強制撹拌の前にこれらの原料が容器の中に仕込まれていればよい。また、予め、モノマー混合物に油溶性重合開始剤を溶解させておくことが好ましい。
【0038】
次に、強制撹拌を行う。強制撹拌は、公知の乳化分散装置を用いて行うことができる。乳化分散装置としては、例えばT.K.ホモミクサー(プライミクス社(旧社名:特殊機化工業)製)等の高速剪断タービン型分散機;ピストン型高圧式均質化機(ゴーリン社製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディックス社製)等の高圧ジェットホモジナイザー;超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製)等の超音波式乳化分散機;アトライター(三井鉱山社製)等の媒体撹拌型分散機;コロイドミル(日本精機製作所製)等の強制間隙通過型分散機等を用いることができる。連続生産の際は、エバラマイルダー(荏原製作所製)を用いることができる。なお、上記の強制撹拌の前に、通常のパドル翼等で予備撹拌しておいてもよい。
【0039】
撹拌速度は、懸濁液中の油滴の粒子径に影響を及ぼす。撹拌速度を速くして大きな剪断力を与えると、小さな油滴が形成され、得られる異形微粒子の粒子径が小さくなる。従って、撹拌速度は、所望の異形微粒子の粒子径に応じて適宜変更すればよい。例えば、上記T.K.ホモミクサー(懸垂型)を用いて1リットル容器で撹拌する場合は、5000rpm以上が好ましい。撹拌時間も油滴の粒子径に影響を及ぼすため、所望の粒子径に応じて適宜変更すればよい。
【0040】
撹拌が終了したら、必要に応じて、懸濁液を重合に適した反応容器へと移し、もしくは水を添加して所望の濃度に調整した後に重合に適した反応容器へと移し、窒素等の不活性ガスで容器内を置換しながら加熱して、反応溶液を昇温させる。なお、懸濁液を重合に適した反応容器内で製造し、そのまま重合しても構わない。
【0041】
重合温度は、40〜100℃程度が好ましく、50〜90℃がより好ましい。懸濁重合においては、重合は、重合反応液の温度(容器内温度)の上昇と共に進行する。このとき、用いる重合開始剤の種類によって温浴の設定温度は適宜変更する必要がある。例えば、ラウリルパーオキサイドの場合、開始剤の分解温度の目安となる10時間半減期温度は約62℃である。この場合、温浴の設定温度は10時間半減期温度より若干高い65℃に設定するのがもっとも効率的であり、安全である。例えば、10時間半減期温度よりも低い温度に浴温を設定した場合、開始剤の分解に時間がかかり、重合時間が長くなる。また、10時間半減期温度よりも高い温度に設定した場合、開始剤の分解は速やかに起こるが、重合温度がピークに達したときの温度も高くなり、反応が暴走するおそれがある。このため、使用する開始剤の10時間半減期温度を目安にして温浴の設定温度を適宜変更することが好ましい。また、重合時間は、5〜600分が好ましく、10〜300分がより好ましい。重合温度が低かったり、重合時間が短いと重合度が充分に上がらず、粒子の機械的特性が劣るものとなることがある。
【0042】
懸濁重合の際、あるいは懸濁重合の後に、本発明法の目的を損なわない範囲で、公知の添加物を加えても構わない。
【0043】
重合が終了したら、適宜、濾過、遠心分離、乾燥、解砕等を行う。乾燥は、着色を誘発しないように100℃以下で行うことが好ましい。乾燥後に、乾燥粉体に含まれる2次凝集物を1次粒子に解砕するため、ラボ・ジェットミル等で解砕(粉砕)することが好ましい。
【0044】
[異形微粒子の諸特性]
本発明の製造方法で得られる異形微粒子は、SPM(走査型プローブ顕微鏡)から得られる算術平均粗さ(Ra)が5nm以上であることが好ましい。より好ましくは10nm以上である。Raが5nmより小さいと、表面に微細な凹凸が多数形成されておらず、樹脂との密着性が悪くなるおそれがある。
【0045】
本発明の製造方法で得られる異形微粒子は、窒素吸着によるBET法で求めた比表面積(mm
2/g)と体積平均径(μm)の積が7以上であることが好ましく、より好ましくは8以上50以下である。
図2に示すように、異形微粒子の断面をTEM観察したときに内部に空孔は観察されず、比表面積の値からも細孔は持っていないと考えられる。粒子の表面形状が等しいとした場合、比表面積は粒子径に反比例する。このことから、粒子径の異なる粒子の表面形状を表すパラメータとして比表面積と粒子径の積を採用した。ここでの粒子径は体積平均径を表す。異形微粒子の体積平均径は1〜30μm程度が好ましい。この範囲であれば、樹脂フィルム用添加剤等の用途に有用である。
【0046】
本発明の製造方法で得られる異形微粒子は、表面に微細な凹凸が多数形成されており、フィルム等に添加した際に、異形微粒子と樹脂との接触面積が大きいことから、フィルムから脱落しにくい。また、粒子内部に空孔を有していないことから粒子の強度が高く、粉体化後の一次粒子への解砕工程や樹脂への分散工程において、高い剪断力を加えても割れや欠けの発生が抑制される。また、架橋度が高く、細孔を持たないことから、耐溶剤性が高く、溶剤や樹脂へ膨潤しにくいという特性を有する。さらに、表面に微細な凹凸が多数形成されているので、光を散乱させることができ、各種光拡散体としても利用できる。
【0047】
[異形微粒子の用途]
本発明の製造方法で得られる異形微粒子は、光拡散体として様々な用途、例えば、LCD等に用いられる光拡散シートや導光板、あるいは、PDF、ELディスプレイおよびタッチパネル等に用いられる光学用樹脂に含有させる光拡散剤やアンチブロッキング剤等の添加剤として有用である。また、各種フィルム用のアンチブロッキング剤、滑剤等としても好適に用いられる。
【0048】
本発明の異形微粒子を各種用途の添加剤として用いる場合には、本発明の異形微粒子をバインダー樹脂等、他の構成成分と混合した樹脂組成物として使用するのが好ましい。樹脂組成物中の異形微粒子量は、樹脂組成物の用途や所望の特性に応じて適宜決定すればよいが、通常、光拡散板などの光学用途に用いる場合であれば(下記(I)の態様)、バインダー樹脂100質量部に対して0.01質量部以上、20質量部以下とするのが好ましい。より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは10質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0049】
また、フィルム等の基材上に上記樹脂組成物を含む塗布液を塗工して得られる光拡散シートとして用いる場合であれば(下記(II)の態様)、バインダー樹脂100質量部に対して5質量部以上、600質量部以下とするのが好ましい。より好ましくは10質量部以上、500質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以上、400質量部以下である。異形微粒子の含有量が多すぎる場合には、この樹脂組成物を使用して得られる成形体の強度が低下する場合があり、一方、少なすぎる場合には、異形微粒子の使用により得られる効果(光拡散性等)が得られ難い場合がある。
【0050】
上記樹脂組成物中に含まれる透明のバインダー樹脂は、特に限定されず、当該分野においてバインダー樹脂として使用されるものはいずれも用いることができる。例えば、(I)上記樹脂組成物を用いて形成される部材が、樹脂組成物そのものを、板状、シート状等の形状に成形したものである場合(バインダー樹脂を、板状、シート状成形体の基材樹脂とする場合)であれば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、(メタ)アクリロニトリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、非晶質ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等が挙げられる。
【0051】
また、(II)成形される部材が、予め準備された板状やシート状等の基材表面に、上記樹脂組成物を積層(コーティング、ラミネート等)して一体化させたものである場合、バインダー樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0052】
樹脂組成物は、上記異形微粒子および透明のバインダー樹脂以外にも、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、耐光性や耐UV性等の物性を高めるための紫外線吸収剤の他、架橋剤、蛍光増白剤、難燃剤等の各種添加剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の異形微粒子を含む成形体は、透明のバインダー(または基材)樹脂中に異形微粒子が、分散、固定された成形体であるため、微粒子の熱変色に基づく着色が抑制されて、無色性、透明性、光拡散性に優れ、高い輝度および高い透過性等優れた光学特性を発現することもできる。したがって、画像表示装置内において、光源からの光を画像表示面に均一に拡散させる光拡散シート(フィルム)や光拡散板等の光学用部材にも好適に用いられる。なお、成形体の形状はシート状(フィルム状)や板状に限られず、柱体、錐体、球等の成形体であってもよい。
【0054】
例えば、本発明の異形微粒子を含む樹脂組成物から得られる成形体が、光拡散シート(フィルム)のようなシート(フィルム)状の成形体である場合、その形態としては、面状部分を有し、バインダー樹脂により、異形微粒子が固定されてなる構成を少なくとも一部に有している形態が挙げられる。例えば、(i)樹脂組成物そのものを、板状、または、シート状に成形した形態(光拡散板)、(ii)予め準備した板状やシート状の基材表面の一部または全体に、上記樹脂組成物から成る層を積層し、一体化させた形態(光拡散シート)等が挙げられる。上記(i)、(ii)のいずれの形態の場合にも、透明バインダー樹脂中に本発明の異形微粒子が分散固定されているため、優れた光学特性を発揮することができる。なお、上記「面状部分を有する」とは、一般的には、光学部材の形状が板状、シート状あるいはフィルム状のように、一定の面積の広がりを持った実質的に平らな表面部分がその形状の主たる構成要素となっていることをいうが、本発明では、このような態様には限られず、主たる構成要素ではなくても、その形状の少なくとも一部に実質的に平らな表面部分を有していればよい。
【0055】
上記(i)の形態の成形体を製造する方法としては、上述の樹脂組成物を公知の押出機により溶融混練しながら押し出して板状(厚さ:1mm以上)、シート状(厚さ:200μm〜1mm未満)およびフィルム状(厚さ:1μm〜200μm未満)に成形する方法が挙げられる。また、フィルム状に成形された成形体を、従来公知の延伸装置を使用して一軸または二軸方向に延伸して、薄膜状の延伸フィルム(厚さ:5μm〜100μm)に成形することもできる。このとき、必要に応じて、耐光性や耐UV性等の物性を高めるため、上記樹脂組成物に各種添加剤や安定剤および難燃剤等の添加物を加えて成形してもよい。光学特性の均一な成形体を得るためには、上記樹脂組成物は、予め、バインダー樹脂中に本発明の異形微粒子を混合し、分散させておくことが好ましい。また同様に、上記添加物も樹脂組成物と混合しておいてもよい。
【0056】
上記(ii)の形態の成形体を得る方法としては、予め準備した基材表面に、上記樹脂組成物からなる層を積層する方法が挙げられる。積層方法は特に限定されず、上記樹脂組成物を有機溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類等)に分散、溶解させて、これを基材(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;トリアセチルセルロース;シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート樹脂系ポリマー;ポリスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂等)上に塗布すればよい(コーティング法、キャスト法等)。具体的な塗布方法としては、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、およびスプレーコート法等の公知の積層方法が挙げられる。
【0057】
また、基材表面に上記樹脂組成物を積層した後、従来公知の延伸装置により、樹脂組成物が積層された基材を、一軸、または二軸方向に延伸させて延伸フィルムとしてもよい。この際、樹脂組成物の塗布のタイミングは特に限定されず、フィルムの製造工程のいずれかの段階で、上記樹脂組成物層を形成する方法(インライン方式)を採用し得る。また、上記基材を延伸して延伸フィルムを得た後、当該フィルム上に樹脂組成物からなる層を形成する方法(オフライン方式)も採用できる。
【0058】
上記樹脂組成物から得られる成形体としては、上述のように、光拡散板、光拡散シート、光拡散フィルム等の光学用部材、包装資材に用いられるアンチブロッキングフィルム等が挙げられる。なお、上記成形体が光拡散シートならびに光拡散フィルムである場合は、その膜厚が300μm以下であるのが好ましく、光拡散板である場合は、その厚みが8mm以下であるのが好ましく、アンチブロッキングフィルムである場合は、その厚みが0.5mm以下であるのが好ましい。
【0059】
光拡散板は、上記(i)の形態の成形体の製造方法に従って製造すればよい。すなわち、上記樹脂組成物を公知の押出機により溶融混錬しながら押し出して、所望の厚み、形状に成形すればよい。光拡散板を製造する場合には、上述のバインダー樹脂の中でも、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル−スチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等を使用するのが好ましい。
【0060】
なお、樹脂組成物を溶融押出する際には、予め、上記異形微粒子を一部のバインダー樹脂と溶融混錬してマスターバッチとしてから用いてもよく、また、押出機に供給する際に、上述のバインダー樹脂と上記異形微粒子とを混合して用いてもよい。成形体における異形微粒子の偏析を防止する観点からは、マスターバッチとして用いるのが好ましい。
【0061】
光拡散フィルムは、上記(ii)の形態の成形体の製造方法に従って製造すればよい。すなわち、予め用意した基材上に、上記樹脂組成物を用いて調製した塗布液(必要に応じて有機溶媒を含む)を塗布して、樹脂組成物層を形成すればよい。光拡散フィルムを製造する場合には、上述のバインダー樹脂の中でも、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂を使用するのが好ましい。なお、光拡散フィルムは、上記(i)の形態の製造方法に従って製造することもできる。また、必要に応じて得られた成形体を、一軸あるいは二軸方向に延伸してもよい。
【0062】
アンチブロッキングフィルムは、上記(i),(ii)いずれの形態の製造方法に従っても製造することができる。(i)の形態の製造方法に従って製造する場合、具体的には、フィルムの基材樹脂と、本発明の異形微粒子(アンチブロッキング剤として用いる)とを混合した樹脂組成物を熱溶融させてフィルムに成形すればよい。上記基材樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル等が挙げられる。本発明の異形微粒子をアンチブロッキング剤として用いるときの異形微粒子の配合量は、例えば、熱可塑性樹脂に対して0.001〜5質量%とするのが好ましい。より好ましくは0.005〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜2質量%である。通常、このような少量を配合することは難しいので、予め、所定量の異形微粒子を配合したマスターバッチを製造し、熱可塑性樹脂に当該マスターバッチを配合してフィルム用熱可塑性樹脂を製造し、その後、上記フィルム用熱可塑性樹脂組成物を熱溶融させてフィルムに成形すればよい。フィルムの延伸が必要であれば、従来公知の延伸装置を用いて延伸処理を行えばよい。このとき、延伸装置としては、従来公知の延伸装置が使用可能であり、また、溶融温度、延伸倍率等の条件も、使用する基材樹脂やフィルムの用途に応じて適宜決定すればよい。アンチブロッキングフィルムは、上記(ii)の形態の成形体の製造方法に従って製造することもできる。すなわち、予め用意した基材上に、樹脂組成物を含む塗布液を塗布して、樹脂組成物層を形成すればよい。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」と記すことがある。また、「質量%」を「%」と記すことがある。まず、本発明の実施例において記載する測定方法について以下に示す。
【0064】
[粒子径の測定]
下記例で得られた粒子0.03gを、1%界面活性剤水溶液(「ハイテノール(登録商標)N−08」;第一工業製薬社製)5mlに分散させた後、精密粒度分布測定装置(「コールターマルチサイザー3」;ベックマン・コールター社製)を用いて、体積平均径の測定を行った。アパーチャーは50μmとした。
【0065】
[SEM観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率10,000倍以上で樹脂粒子を撮影して、表面の凹凸を観察した。
【0066】
[TEM観察]
走査透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10,000倍〜30,000倍で樹脂粒子の断面を撮影した。
【0067】
[走査型プローブ顕微鏡(SPM)]
粒子の表面をレーザー顕微鏡一体型SPM(SFT−3500;島津製作所製)で分析し、一辺が500nmの正方形領域における算術平均粗さRaを求めた。
【0068】
[粒子脱落性]
ポリプロピレン樹脂を2枚のガラス板で挟みながら190℃で10分間加熱し、膜厚0.5mmのフィルムを作製した。フィルムの上に粒子を適量散布し、190℃で5分加熱した。室温まで冷却した後、フィルム同士を手でこすり合わせて、フィルム表面をSEMで観察して、粒子の脱落の有無を以下の基準で判断した。
○:粒子が脱落した痕跡なし
△:粒子が脱落した痕跡が少しあり
×:粒子が脱落した痕跡多数あり
【0069】
実施例1
フラスコに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(「ハイテノール(登録商標)NF−08」;第一工業製薬社製)2部を溶解させておいた脱イオン水溶液100部を仕込んだ。メチルメタクリレート(MMA)60部、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)30部、マクロモノマーAA−6(東亞合成社製)10部、ラウリルパーオキサイド(LPO)2部をよく撹拌しておき、この混合物を上記フラスコに加えた。T.K.ホモミクサー(懸垂型;プライミクス社製)を用いて、5000rpmで3分間撹拌して、均一な懸濁液とした。この懸濁液を、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに移し入れ、脱イオン水450部をさらに加えた。次いで、窒素ガスを吹き込みながら、フラスコ内の液温が75℃になるまで加熱して、フラスコを75℃で保温した。このとき、自己発熱により液温が上昇した後、75℃に戻った時点を重合開始とし、2時間撹拌を続けた後、冷却した。重合が終了した後の粒子の体積平均径は4.89μm、体積基準の変動係数CV値は30.2%であった。
【0070】
得られた懸濁液を固液分離し、固液分離後のケーキを、イオン交換水と、メタノールでそれぞれ洗浄し、窒素雰囲気下、120℃で2時間乾燥した。得られた粒子のBET法による比表面積は、2.894mm
2/gであった。粒子の表面をFE−SEMで撮影した写真を
図1に示した。表面に微細な凹凸が多数形成された異形微粒子であった。また、粒子の断面をTEMで撮影した写真を
図2に示す。相分離構造が粒子内部まで発現していることがわかる。走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて表面を測定したところ、算術平均粗さRaは13.8nmであった。
【0071】
実施例2〜4および参考例1
重合に用いた成分の組成や量を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、粒子を作製した。特性評価結果を併せて表1に示す。なお、TMPTMAは、トリメチロールプロパントリメタクリレートであり、DVB810はジビニルベンゼン80%とエチルベンゼン20%の混合物で新日鐵住金化学社製であり、BAはブチルアクリレート、Stはスチレン、AN−6Sはスチレン75質量%/アクリロニトリル25質量%からなるスチレン−アクリロニトリル系マクロモノマー、AB−6はブチルアクリレート系マクロモノマー、V−601は和光純薬社製の重合開始剤であり、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)である。なお、実施例4と参考例1で得られた各粒子のFE−SEM写真を
図3および
図4に示した。参考例1では多官能モノマーの量が少なかったため、異形微粒子にはならなかった。
【0072】
実施例5〜10および参考例2
重合に用いた成分の組成や量を表1に示したように変更し、ホモミクサーの回転数を6000rpmにした以外は実施例1と同様にして、粒子を作製した。特性評価結果を併せて表1に示す。参考例2も、参考例1と同様に、多官能モノマーの量が少なかったため、異形微粒子にはならなかった。
【0073】
実施例11
重合に用いた成分の組成や量を表1に示したように変更し、ホモミクサーの回転数を8000rpmにした以外は実施例1と同様にして、粒子を作製した。特性評価結果を併せて表1に示す。
【0074】
実施例12
重合に用いた成分の組成や量を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、粒子を作製した。特性評価結果を併せて表1に示す。
【0075】
【表1】