【文献】
Chuanying Shen,Dielectric,Elastic and Piezoelectric Properties of Melilite-type SrGdGa3O7 Single Crystals at Elevated Temperature,IEEE Xplore Digital Library,米国,2014年 5月12日,p.1-4
【文献】
Manabu Hagiwara,Growth and Characterization of Ca2Al2SiO7 Piezoelectric Single Crystals for High-Temperature Sensor Applications,Japanese Journal of Applied Physics,米国,2013年 9月25日,Vo.52, No.9,p.09KD03-1-09KD03-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲーレナイトを含むメリライトなどの、−42m対称性を持つ結晶を、特許文献1に開示されているように(XYt)45°カットすると、応力作用面と直交する面より電荷を取り出さざるを得ない。なお、上記「−42m」について説明すると、結晶学上では負の指数は数字の上にバー「−」で表記することになっているが、本明細書中では数字の前に負の符号をつけることで、負の指数を表記する。そのため、素子の側面電極にリード線を取り付けるなど、素子の形成に困難を要し、さらに、当該素子を利用したセンサの構造も複雑になりがちである。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は−42m対称性を持つ圧電性結晶材料において、応力作用面より電荷の取り出しを可能とする圧電素子ならびにそれを用いたセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0008】
(1)結晶軸座標系O−xyzに関し、圧電テンソル{d
iJ}が
【数1】
となる圧電材料において、オイラー角(φ、θ、ψ)により回転した座標系O−x´y´z´におけるz´軸を法線とする表面を有する圧電素子。
ここで、
(φ=45°±20°、θ=54.7°±15°、ψ=任意)
である。
【0009】
(2)(1)に記載の圧電素子であって、前記圧電材料がメリライトであることを特徴とする圧電素子。
【0010】
(3)(2)に記載の圧電素子であって、前記圧電材料がゲーレナイトまたはゲーレナイトのうちの原子の一部を他の原子に置換した材料であることを特徴とする圧電素子。
【0011】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の圧電素子であって、x´軸およびy´軸方向の寸法よりz´軸方向の寸法が小さいことを特徴とする圧電素子。
【0012】
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の圧電素子であって、前記圧電素子の平面形状が円形であることを特徴とする圧電素子。
【0013】
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の圧電素子において、前記圧電テンソル{d
iJ}を前記オイラー角(φ、θ、ψ)により回転した、座標系O−x´y´z´における圧電テンソル{d´
iJ}
【数2】
について、
【数3】
のときのd´
33の絶対値を|d´
33max|とおいた場合に、
前記φ及び前記θの値は、
【数4】
となるように選択される圧電素子。
【0014】
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の圧電素子を、軸応力の作用方向が前記z´軸の方向となるように配置し、かつ、一対の前記表面のそれぞれに接触する電極を有する圧力センサ。
【0015】
(8)(7)に記載の圧力センサであって、前記電極の一方は固定面に設けられ、前記電極の他方はダイアフラム面に設けられる、ことを特徴とする圧力センサ。
【発明の効果】
【0016】
上記(1)の側面によれば、圧力の作用する面を電荷取り出し面とする圧電素子が得られる。
【0017】
上記(2)または(3)の側面によれば、更に高圧耐性の高い圧電素子が得られる。
【0018】
上記(4)の側面によれば、材料コストが低く、割れにくい圧電素子が得られる。
【0019】
上記(5)の側面によれば、略円形のセンサヘッドに設ける際に、取り出せる電荷量の多い圧電素子が得られる。
【0020】
上記(6)の側面によれば、感度の高い圧電素子が得られる。
【0021】
上記(7)及び(8)の側面によれば、簡略な構造の圧力センサが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る圧電素子1を示す概略斜視図である。圧電素子1は、圧電材料により形成される圧電体10を有している。なお、本実施形態では、
図1に示した方向にx´y´z´で示す直交座標軸をとるものとする。なお、ここで示したO−x´y´z´座標系は、圧電素子1の説明のため便宜上設定したものであり、その各軸は、圧電体10についての結晶軸(いわゆるabc軸)とは必ずしも一致しない。また、x´軸、y´軸、z´軸の各軸を法線とする表面をそれぞれx´面、y´面、z´面とする。
【0024】
本実施形態における圧電体10は直方体であり、例えばチョクラルスキー法により作成した単結晶インゴットを、所望の結晶方位が得られる角度でカットすることにより得られる。
【0025】
本実施形態における圧電素子1の圧電体10を構成する圧電材料は−42m対称性を有する。−42m対称性を有する材料は、結晶軸a、b、cをそれぞれx、y、z軸とする直交座標系である、結晶軸座標系O−xyzを考えると、圧電体10の圧電テンソル{d
iJ}は次の形で表される。
【0027】
この圧電体10をカットする面を定めるにあたり、オイラー角(φ、θ、ψ)により、結晶軸座標系O−xyzを回転させることを考える。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係る圧電素子のカット角を説明する図である。同図には回転前の結晶軸座標系O−xyzと、回転後の結晶軸座標系O−x´y´z´との関係が示されている。図示の通り、ここで用いるオイラー角(φ、θ、ψ)は一般的なz−x−z系のものである。
【0029】
ここで、結晶軸座標系O−xyzについての圧電テンソル{d
iJ}をオイラー角(φ、θ、ψ)により回転させた、座標系O−x´y´z´についての圧電テンソル{d´
iJ}は、以下に示す数式2により求められる。
【0031】
ここで、圧電素子1に生じる電荷を考える。
図1に示すとおり、x´面、y´面、z´面に作用する垂直応力をそれぞれT
1、T
2、T
3とおき、y´面に対するz´方向のせん断応力をT
4とし、z´面に対するx´方向のせん断応力をT
5とし、x´面に対するy´方向のせん断応力をT
6とおくとともに、x´面、y´面、z´面に生じる電荷をそれぞれD
1、D
2、D
3とすると、電荷D
1、D
2、D
3は次の数式5により求められる。
【0033】
ここで、圧電素子1はz´軸を法線とする一対の表面10a、10bを有するようにカットされ、当該表面10a、10bに垂直応力T
3が作用するものと仮定すると、電荷D
1、D
2、D
3は次の数式6により求められる。
【0035】
この数式6から、応力作用面である表面10a、10bに現れる電荷D
3は、次の数式7で示される。
【0037】
このことはすなわち、d´
33が0でないような適切なオイラー角(φ、θ、ψ)を選べば、表面10a、10bに対する垂直応力T
3に対して、当該表面10a、10b上で電荷D
3が取り出されることを意味している。
【0038】
すなわち、圧電素子1として、z´軸を法線とする表面10a、10bが圧力の印加される面となるようにカットされたものを用いることで、かかる表面10a、10b、すなわち、圧力が印加される面より電荷を取り出せるものが得られるのである。
【0039】
なお、圧電素子1の表面10a、10bのそれぞれに、より確実に電荷を取り出せるよう、導電性の膜を設けてもよい。かかる膜の材質は、耐熱性に優れるものが望ましく、白金やインコネルを用いてもよい。
【0040】
そこでさらに、数式7を詳細に検討すると、圧電テンソル{d´
iJ}は、圧電テンソル{d
iJ}をオイラー角(φ、θ、ψ)により回転させたものであるから、{d´
iJ}中の要素d´
33は、圧電テンソル{d
iJ}の要素を用いて、次の数式8で示される。
【0042】
さらに、数式7は、次の数式9のように書き換えられる。
【0044】
ここで、数式7より、係数d´
33の絶対値(|d´
33|)が大きいほど、同じ垂直応力T
3に対して取り出せる電荷D
3の絶対値は大きくなり、より感度の高い圧電素子1が得られることがわかる。
【0045】
図3は、圧電素子1のφ、及びθに対する|d´
33|の値を示す図である。|d´
33|の値は、数式8より明らかなように、φ及びθのそれぞれに対し90°毎に対称性を示すため、同図では第1象限のみを示す。
【0046】
数式8より、|d´
33|は、φ=45°、θ≒54.7°において最大の絶対値|d´
33max|を示す。同図には、|d´
33max|の位置を×印で示すとともに、|d´
33max|に対する|d´
33|の値の比を等値線により示した。
【0047】
圧電素子1として感度が高く実用的な範囲は、d´
33の絶対値(|d´
33|)がd´
33maxの絶対値(|d´
33max|)の80%以上の範囲で良く、この条件は、次の数式4で示される。
【0049】
図3においては、|d´
33max|の80%の値となる|d´
33|を結んだ線を等値線C1で示し、|d´
33max|の60%の値となる線をC2、40%の値となる線をC3、20%の値となる線をC4とする。なお、|d´
33|が|d´
33max|の80%以上となる範囲、すなわち、等値線C1の内側の領域となるφとθの値を、判りやすく大まかに表現するならば、同図より、以下の数式10で示すことができる。
【0051】
また、数式8より、d´
33の値はψに依存しない。したがって、ψの値は任意で良いことがわかる。
【0052】
本実施形態の圧電素子1の材料としては、−42m対称性を持つ結晶構造を有する結晶を用いることができ、このような結晶としてはメリライトを挙げることができる。
メリライトとして、特にゲーレナイト(Ca
2Al(AlSi)O
7)を用いた場合には、高温、高圧に対する高い耐性を有する圧電素子が得られる。
【0053】
さらに、圧電体10を構成する圧電材料は、ゲーレナイトのうちの原子の一部を他の原子に置換した材料であってもよい。当該「ゲーレナイトのうちの原子」としては、例えば、Ca、Al、Si等があげられる。このうち、Ca原子が置換される他の原子としては例えばSr、Ba、Eu,Dy,Sm及びMnなど、原子価が二価でかつ8配位をとるものが挙げられる。ゲーレナイトのCa原子の一部が他の原子に置換されることによりゲーレナイトの(001)面のへき開強度が高まるため、圧電素子1の高圧耐性が増大する。
【0054】
また、特筆すべき点として、圧電素子1の材料としてゲーレナイトを選択した場合のd´
33maxの絶対値(|d´
33max|)は、ゲーレナイトを(XYt)45°カットした時の応力作用面と直交する面に現れる電荷の応力に対する係数であるd
14/2の絶対値(|d
14/2|)より大きくなる。これを式で示すと、次の数式11で示される。
【0056】
このことから、ゲーレナイトを用いた本実施形態に係る圧電素子1は、前述の特許文献1に記載された圧電素子よりも感度の高いものが得られるということになる。
【0057】
ここで、圧電素子1において、圧力を検出するのに十分な電荷を得るためには、圧電素子1の表面から電荷を取り出す電極の面積を一定程度以上確保する必要がある。
【0058】
この点、本実施形態における圧電素子1は、垂直応力T
3の作用する面に電極を配置することができるため、z´軸方向の寸法(z´軸方向の幅L
3)をx´軸およびy´軸方向の寸法(x´軸方向の幅L
1、y´軸方向の幅L
2)よりも小さくすることができ、薄板形状を採ることが可能である。例えば、具体的寸法として、L
1=L
2=5mm、L
3=1mmとしてよい。
【0059】
このように、垂直応力T
3の作用する方向であるz´軸方向の寸法をx´軸およびy´軸方向の寸法よりも小さくすることにより、z´軸方向の軸応力により生じる45°方向のせん断応力が作用する面が小さくなり、へき開による破損が生じにくくなるため、高圧耐性が向上する。
【0060】
また、圧電素子1により取り出せる電荷の量は、電荷取り出し面の面積に比例するところ、本実施形態に係る圧電素子1は、軸応力の作用方向であるz´軸を法線とする表面10a、10bにより電荷を取り出せるため、z´軸方向の寸法L
3を小さくしても、取り出せる電荷の量に変化はない。すなわち、圧電素子1を薄板形状とすることで、性能を変えることなく使用する材料の量を削減でき、材料コストを低減できるのである。
【0061】
さらに、本発明の圧電素子は、垂直応力の作用する面に電極を配置することができるため、その他の面を所定の方向でカットする必要がなく、その平面形状を任意のものとすることができる。そこで以下、円形の圧電素子を変形例として説明する。なお、上述の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0062】
図4は、本発明の実施形態の変形例に係る圧電素子101を示す概略斜視図である。圧電素子101の平面形状は円形であり、圧電体110もまた、その平面形状は円形である。
【0063】
ここで、圧電体110の円形の表面110a、110bは、z´軸を法線とする面(z´面)であり、先の実施形態における表面10a、10bに相当する面である。表面110a、110bは円形の平面視形状を有している。ここで、「平面視形状」とは、表面110aの法線に沿って表面110aを見た形状である。
【0064】
D´
3はz´面(表面110a、110b)に対する垂直応力T´
3が加えられたときにz´面(表面110a、110b)上に発生する電荷であり、先の実施形態における電荷D
3に相当する。
【0065】
変形例に係る圧電素子101においても、先の実施形態と同様に、より確実に電荷を取り出せるよう、表面110aと、表面110bとに導電性の膜を設けることができる。かかる膜の材質についても先の実施形態同様、耐熱性に優れる白金やインコネル等を用いて良い。
【0066】
このように、本変形例では圧電素子101の平面視形状を円形とすることができるため、圧電素子1を配置しようとするスペースの平面視形状が円形である場合に、当該スペースを最大限有効に活用することにより、無駄がなく、検出精度の高いものとすることができる。
【0067】
次いで、本実施形態にかかる圧電素子1を用いた圧力センサの例を、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る圧力センサ100を示す概略断面図である。圧力センサ100は、圧力センサ100に作用する圧力Pが、圧電素子1のz´軸方向に作用する軸応力となるように配置した例である。圧力センサ100は、図示したように、ハウジング201の先端に、圧電素子1を収容した構造を有している。
【0068】
ハウジング201は全体として中空筒状の形状を有しており、図中上側(z´軸方向)の先端部分に圧電素子1を収容する収容空間202と、収容空間202を構成するダイアフラム204と、支持体206と、固定部223と、を有している。
【0069】
セラミック等の絶縁材料からなる筒状の支持体206の両端は、ダイアフラム204と固定部223に封鎖され、その内部に収容空間202を形成している。ダイアフラム204は金属等の導電材料からなり、その端部とハウジング201は、支持体206の表面に部分的に設けられた導電膜208を介して電気的に接続している。一方、固定部223は支持体206によりハウジング201と絶縁され、その収容空間202と反対側の面にはリード線221が接続されている。圧電素子1に生じた電荷は、ハウジング201とリード線221間の電位差として外部の機器により検知される。
【0070】
ハウジング201の側面には雄ネジ203が設けられており、圧力を測定したい空間の側面に設けた雌ネジ穴に気密に取り付け可能となっている。このため、圧力センサ100に作用し、測定対象となる圧力Pは、ダイアフラム204の面を通じ、圧電素子1の表面10aに垂直に作用する。
【0071】
一方、圧電素子1の他の面はハウジング201に囲まれており、測定対象となる圧力Pは作用しない。このため、圧電素子1には、図示するように圧縮応力である垂直応力T
3が、圧力Pの作用する方向に作用することとなる。
【0072】
ダイアフラム204は弾性を有する薄膜であり、圧力Pにより変形して圧電素子1の先端側の表面10aに電気的に接触するとともに押圧し、圧力Pをz´軸の方向に作用させる。固定部223は圧力Pの作用した圧電素子1の反対側の面10bと電気的に接触するとともに圧電素子1を支持する部分であり、その上面である固定面223aには圧電素子1が配置される。
【0073】
ダイアフラム204の収容空間202側の接触面204aと、接触面204aの対面にある固定部223の固定面223aは、圧電素子1の一対の表面10a、10bのそれぞれに接触し、当該表面より生じた電気を取り出す電極として作用する。
【0074】
これにより、圧電素子1に生じた電荷D
3は、ハウジング201とリード線221を通じて取り出すことができ、例えば、ハウジング201を接地した場合のリード線221の電圧として、それを外部の機器により検出することができる。
【0075】
圧力センサ100を構成する部材の材料は特に限定されないが、高温環境下の使用を考慮すると、高温耐性を有するものが良い。具体的には、1000℃以上の耐熱性を有する材料が望ましく、例えば、導電性を要するダイアフラム204、固定部223、ハウジング201、導電膜208、及びリード線221等の部材は、白金やインコネル等のニッケル含有合金であってよく、絶縁性を要する支持体206は適宜のセラミック製としてよい。
【0076】
また、本実施形態における圧力センサ100は、圧電素子1を圧力センサ用圧電素子として用いることにより、圧電体10の側面に別途電極を設ける必要がなく、かかる電極から電荷を取り出すための特別の構造が不要で、固定面223aとダイアフラム204の接触面204aを電極として使用することができる。このため圧力センサの構成を簡略化し、製造コストを低減することができるとともに、その耐久性にも優れている。
【0077】
また、本実施形態における圧力センサ100は、圧電素子1を圧力センサ用の圧電素子として用いることにより、高温の環境下で使用することができる。また、z´軸方向の寸法がx´軸およびy´軸方向の寸法よりも小さい圧電体10を圧電素子1として用いることで、従来の圧力センサと比べ、高圧耐性が高く、コンパクトである。
【0078】
なお、ここで示した圧力センサ100の構造は一例であり、圧電素子1の表面10a、10bより電荷を取り出し得る構造であれば、いかなる構造を採用しても差し支えない。
【0079】
以上説明した実施形態に示した具体的な構成は例示として示したものであり、本明細書にて開示される発明をこれら具体例の構成そのものに限定するものではない。当業者はこれら開示された実施形態に種々の変形、例えば、各部材あるいはその部分の形状や数、配置等を適宜変更したり、例示された実施形態を互いに組み合わせたりしてもよい。本明細書にて開示される発明の技術的範囲は、そのようになされた変形をも含むものと理解すべきである。