特許第6448440号(P6448440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6448440ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率を測定するための測定装置及び測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6448440
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率を測定するための測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/00 20060101AFI20181220BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   F01N3/00 G
   F01N3/022 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-69790(P2015-69790)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188633(P2016-188633A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】田中 克典
(72)【発明者】
【氏名】森田 幸春
(72)【発明者】
【氏名】福海 裕貴
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−189176(JP,A)
【文献】 特開2007−155708(JP,A)
【文献】 特開2013−202432(JP,A)
【文献】 特開2008−189486(JP,A)
【文献】 特開平11−019521(JP,A)
【文献】 特開2005−172652(JP,A)
【文献】 特開2010−217034(JP,A)
【文献】 特開2011−078899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルパティキュレートフィルタに空気を送り込む送気装置と、
前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれた空気を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタから引き抜き、外部に排出する排気装置と、
前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれる空気中に、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分を模擬した粒子状の模擬固体成分を、一定の周期で断続的に供給する模擬固体成分供給装置とを備えた(但し、エンジンまたはバーナー装置を備えるものを除く)
ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率を測定するための測定装置。
【請求項2】
前記模擬固体成分が、パティキュレートマターを模擬したカーボンブラック及びアッシュを模擬した不燃性粒子からなる群より選択された1種以上の粒子である請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記不燃性粒子が、生石灰粒子である請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記送気装置が、ドライエアー供給装置である請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記排気装置が、インバータータイプのブロワーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記模擬固体成分供給装置が、前記模擬固体成分を収容する、底部に孔が設けられた収容容器と、前記収容容器の下方に配置された、一定方向に回転可能な羽根車とを有し、前記送気装置の上方に配置されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記羽根車は、その回転軸が鉛直方向に直交する方向であり、当該羽根車には、その側面方向から見て、隣接する羽根同士の間に、V字状の空間が形成されている請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の測定装置を用い、一定の時間に亘って、前記模擬固体成分を含む空気を前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込むと同時に、前記空気を前記ディーゼルパティキュレートフィルタから引き抜くことで、前記ディーゼルパティキュレートフィルタに前記模擬固体成分を捕集させ、前記模擬固体成分供給装置によって、前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれた空気中に供給された前記模擬固体成分の質量と、前記ディーゼルパティキュレートフィルタに捕集された前記模擬固体成分の質量とから、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分の捕集効率を測定する、ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分の捕集効率を測定するための測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排ガスには、環境汚染の原因となるような炭素を主成分とするスート(スス)等の粒子状物質(パティキュレートマター(以下、「PM」という場合がある。))が多量に含まれている。このため、通常、ディーゼルエンジンの排気系には、排ガスに含まれるPMを除去(捕集)するためのフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」という場合がある。))が装着される。
【0003】
従来、DPFの性能を評価する手段として、実際にディーゼルエンジンを運転して、PMを含む排ガスを発生させ、その排ガスをDPFに供給して、PMの捕集効率を測定する方法が知られている。また、他の手段として、バーナー装置を使用して、PMを含む排ガスを発生させ、その排ガスをDPFに供給して、PMの捕集効率を測定する方法が知られている。なお、PMを含む排ガスを発生させるためのバーナー装置は、例えば、特許文献1〜4に開示されている。
【0004】
また、ディーゼルエンジンから排出される排ガスには、PM以外の固体成分として、アッシュが含まれており、このアッシュも、PMと同様にDPFに捕集される。アッシュは、スート等のPMとは異なり、燃焼除去ができないため、長期に亘るDPFの使用期間中に蓄積され、捕集効率や圧力損失に大きな影響を与える。従来、このようなアッシュの蓄積による影響を検討するために、実車にDPFを装着して数万〜数十万km走行させる、あるいは長期間エンジンを回すといった方法で、DPFにアッシュを堆積させたり、アッシュの捕集効率を測定したりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−155708号公報
【特許文献2】特開2007−155712号公報
【特許文献3】特開2010−223882号公報
【特許文献4】特許第5548639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、DPFのPMの捕集効率を測定するに際し、実際のディーゼルエンジンやバーナー装置を使用する従来の測定方法では、PMを含む排ガスを発生させるために、可燃燃料を使用することから、十分な安全性を確保する必要があった。また、測定用の装置が大きくなったり、PMを発生させるのに時間を要したりするという問題があった。更に、DPFにアッシュを堆積させたり、アッシュの捕集効率を測定するために、DPFを装着した実車を長距離走行させたり、長期間エンジンを回すといった方法には、多大な時間や費用を要するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の課題とするところは、DPFの固体成分(PMやアッシュ)の捕集効率を、従来よりも迅速かつ簡便に測定することができる測定装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す測定装置及び測定方法が提供される。
【0009】
[1] ディーゼルパティキュレートフィルタに空気を送り込む送気装置と、前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれた空気を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタから引き抜き、外部に排出する排気装置と、前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれる空気中に、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分を模擬した粒子状の模擬固体成分を、一定の周期で断続的に供給する模擬固体成分供給装置とを備えた(但し、エンジンまたはバーナー装置を備えるものを除く)、ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率を測定するための測定装置。
【0010】
[2] 前記模擬固体成分が、パティキュレートマターを模擬したカーボンブラック及びアッシュを模擬した不燃性粒子からなる群より選択された1種以上の粒子である前記[1]に記載の測定装置。
【0011】
[3] 前記不燃性粒子が、生石灰粒子である前記[2]に記載の測定装置。
【0012】
[4] 前記送気装置が、ドライエアー供給装置である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の測定装置。
【0013】
[5] 前記排気装置が、インバータータイプのブロワーである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の測定装置。
【0014】
[6] 前記模擬固体成分供給装置が、前記模擬固体成分を収容する、底部に孔が設けられた収容容器と、前記収容容器の下方に配置された、一定方向に回転可能な羽根車とを有し、前記送気装置の上方に配置されている前記[1]〜[5]のいずれかに記載の測定装置。
[7] 前記羽根車は、その回転軸が鉛直方向に直交する方向であり、当該羽根車には、その側面方向から見て、隣接する羽根同士の間に、V字状の空間が形成されている前記[6]に記載の測定装置。
【0015】
] 前記[1]〜[]のいずれかに記載の測定装置を用い、一定の時間に亘って、前記模擬固体成分を含む空気を前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込むと同時に、前記空気を前記ディーゼルパティキュレートフィルタから引き抜くことで、前記ディーゼルパティキュレートフィルタに前記模擬固体成分を捕集させ、前記模擬固体成分供給装置によって、前記送気装置から前記ディーゼルパティキュレートフィルタに送り込まれた空気中に供給された前記模擬固体成分の質量と、前記ディーゼルパティキュレートフィルタに捕集された前記模擬固体成分の質量とから、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分の捕集効率を測定する、ディーゼルパティキュレートフィルタの固体成分捕集効率の測定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の測定装置によれば、DPFの固体成分の捕集効率を、エンジンやバーナー装置を用いることなく測定できるため、可燃燃料の使用に伴う安全性の確保が不要である。また、装置の構造を簡易化することができる。そして、それによって、装置のサイズを小さくすることも可能となる。更に、ディーゼルエンジンから実際に発生した固体成分(PMやアッシュ)の代わりに、それを模擬した模擬固体成分を用いるため、固体成分の発生や蓄積に長い時間を要しない。このため、測定に要する時間やコストを削減でき、迅速かつ簡便な測定が可能となる。更に、DPFに送り込まれる空気への模擬固体成分の供給が、一定の周期で断続的に行われるため、空気流中での模擬固体成分の拡散の仕方や流量が、実際の排ガス中における固体成分の拡散の仕方や流量に近い状態となる。その結果、精度の良い捕集効率の測定が可能となる。
【0017】
本発明の測定方法は、本発明の測定装置を用いてDPFの固体成分の捕集効率を測定するものである。このため、本発明の測定方法によれば、本発明の測定装置によって得られる上述の効果を享受することができる。また、本発明の測定方法は、模擬固体成分供給装置によって、送気装置からDPFに送り込まれた空気中に供給された模擬固体成分の質量と、DPFに捕集された模擬固体成分の質量とから、DPFの固体成分の捕集効率を求めるものである。このため、スモークメータでは測定できない黒色以外の色の模擬固体成分(例えば、アッシュを模擬した模擬固体成分として使用する生石灰粒子)を用いて捕集効率を測定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の測定装置の一の実施形態を模式的に示す側面図である。
図2】本発明の測定装置の一の実施形態における模擬固体成分供給装置を模式的に示す断面図である。
図3】DPFの構造の一例を模式的に示す斜視図である。
図4】DPFの構造の一例を模式的に示す、DPFの長さ方向に平行な断面の断面図である。
図5】本発明の測定方法により求められたDPFの固体成分の捕集効率と、従来の測定方法により求められたDPFの固体成分の捕集効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
(1)測定装置:
図1は、本発明の測定装置の一の実施形態を模式的に示す側面図である。図2は、本発明の測定装置の一の実施形態における模擬固体成分供給装置を模式的に示す断面図である。本発明の測定装置10は、DPF1の固体成分の捕集効率を測定するために使用されるものであり、送気装置2と、排気装置3と、模擬固体成分供給装置4とを備える。
【0021】
送気装置2は、DPF1に空気を送り込むためのものである。送気装置2は、DPF1に送り込む空気の流量を制御できるものが好ましく、例えば、ドライエアー供給装置、送風機、コンプレッサ等が好適に使用できる。排気装置3は、送気装置2からDPF1に送り込まれた空気を、DPF1から引き抜き、外部に排出するためのものである。排気装置3は、DPF1から引き抜く空気の流量を制御できるものが好ましい。排気装置3には、例えば、インバータータイプのブロワーが好適に使用できる。これら送気装置2と排気装置3とによって、図1中に矢印で示すような空気の流れ(空気流)が形成される。
【0022】
模擬固体成分供給装置4は、送気装置2からDPF1に送り込まれる空気中に、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分を模擬した粒子状の模擬固体成分5を、一定の周期で断続的に供給するためのものである。模擬固体成分供給装置4は、図2に示すように、収容容器11と、一定方向に回転可能な羽根車12とを有するものであることが好ましい。この場合、模擬固体成分供給装置4は、送気装置2の上方に配置される。収容容器11は、模擬固体成分5を収容するためのものであり、底部に孔15が設けられている。羽根車12は、収容容器11の下方に配置され、モーター等の駆動装置(図示せず)によって、一定方向(例えば、時計回り)に回転することができる。
【0023】
羽根車12には、側面方向から見て、隣接する羽根13同士の間に、略V字状の空間14が形成されている。図2に示す模擬固体成分供給装置4では、この空間14が、送気装置2からDPF1に送り込まれる空気への模擬固体成分5の供給に利用される。具体的には、まず、羽根車12が回転する過程において、空間14が、最も上方の位置Aにあるときに、収容容器11に収容されている模擬固体成分5が、底部の孔15を通じて重力により落下し、この空間14に収まる。そして、羽根車12の回転により、この空間14が、最も下方の位置Cに到達したときに、この空間14に収まっていた模擬固体成分5が、重力により下方に落下する。空間14から下方に落下した模擬固体成分5は、模擬固体成分供給装置4の下方の送気装置2からDPF1に送り込まれる空気中に供給(混入)され、当該空気と共にDPF1に送り込まれる。
【0024】
空間14に収まっていた模擬固体成分5が落下してから、次の空間14に収まっていた模擬固体成分5が落下するまでには、一定の時間を要する。つまり、所定の空間14が最も下方の位置Cに到達した時点から、上記所定の空間14の1つ手前の位置Bにある空間14が上記位置Cに到達し、その後、空間14に収まっていた模擬固体成分5が落下する時点までには、一定の時間を要する。このため、図2に示す模擬固体成分供給装置4では、送気装置2からDPF1に送り込まれる空気中への模擬固体成分5の供給が、一定の周期で断続的に行われることになる。なお、位置Bは、羽根車12の回転方向において、位置Cの1つ手前の位置である。実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分(PMやアッシュ)の量は、一定ではなく、小刻みに増減を繰り返す。よって、このような模擬固体成分供給装置4を用い、模擬固体成分5を断続的に供給することで、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスの状態を模擬することができる。その結果、DPF1の固体成分の捕集効率を、実使用時に近い条件で精度良く測定することが可能となる。なお、模擬固体成分供給装置4は、羽根車12の回転速度を制御可能なものであることが好ましい。羽根車12の回転速度を制御可能とすることにより、送気装置2からDPF1に送り込まれる空気中に模擬固体成分5を供給する周期を調整することができる。その結果、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスの状態をより正確に模擬(再現)することが可能となる。
【0025】
模擬固体成分供給装置4によって供給される模擬固体成分5は、PMを模擬したカーボンブラック及びアッシュを模擬した不燃性粒子からなる群より選択された1種以上の粒子であることが好ましい。また、アッシュを模擬した不燃性粒子は、生石灰粒子であることが好ましい。カーボンブラックの成分は、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるPMの成分に類似している。更に、カーボンブラックは、様々な粒径のものが市販されている。そのため、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるPMと同程度の粒径を有するものが入手しやすい。また、生石灰粒子の成分は、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれるアッシュの成分に類似している。更に、生石灰粒子は不燃性であり、アッシュと同様に燃焼除去することができない。よって、模擬固体成分5として、PMを模擬したカーボンブラック、アッシュを模擬した生石灰粒子等の不燃性粒子、又は、これらの両方を用いることで、DPF1の固体成分の捕集効率を、実使用時に近い条件で精度良く測定することが可能となる。
【0026】
模擬固体成分供給装置4によって供給される模擬固体成分5は、PMを模擬したカーボンブラックのみ、又はアッシュを模擬した不燃性粒子のみであってもよい。この場合、PMの捕集効率、又はアッシュの捕集効率を単独で測定することができる。アッシュの捕集効率は、長期に亘ってDPFを使用した際にDPFに蓄積されるアッシュの量を推定するための有効なデータとなる。
【0027】
また、模擬固体成分供給装置4によって供給される模擬固体成分5は、PMを模擬したカーボンブラックとアッシュを模擬した不燃性粒子とが混合されたものであってもよい。ディーゼルエンジンから排出される排ガスには、燃焼除去可能なスート等のPMと、燃焼除去することができないアッシュとが含まれている。そのため、長期に亘るDPFの使用によりアッシュが蓄積すると、捕集効率や圧力損失に大きな影響を与える。よって、模擬固体成分5として、PMを模擬したカーボンブラックとアッシュを模擬した不燃性粒子とが混合されたものを用いると、DPFを実車のディーゼルエンジンの排気系に装着した場合により近い環境で、捕集効率の測定を行うことができる。
【0028】
模擬固体成分供給装置4によって供給される模擬固体成分5には、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分の粒径と同程度の粒径を有するものを用いることが好ましい。模擬固体成分5の粒径(平均粒径)の範囲は、5〜1000nmであることが好ましい。このような模擬固体成分5を用いることにより、実際にディーゼルエンジンから排出される排ガスの状態をより正確に模擬(再現)することが可能となる。
【0029】
図1に示すように、本発明の測定装置10は、測定対象であるDPF1を収容し、所定の位置に固定するホルダー17を有することが好ましい。このホルダー17は、送気装置2から排気装置3へ向かう空気が、DPF1内を通過するのを妨げないように、DPF1の外周面とのみ接触する構造となっていることが好ましい。
【0030】
本発明の測定装置10においては、図1に示すように、送気装置2と排気装置3とが、測定対象であるDPF1を間に挟んで、一直線上に並ぶような位置関係となるように配置されていることが好ましい。また、送気装置2とDPF1との間、及びDPF1と排気装置3との間には、配管16が設けられていることが好ましい。そして、これらの配管16を通じて、送気装置2によるDPF1への空気の送り込みと、排気装置3によるDPF1からの空気の引き抜きとが行われることが好ましい。
【0031】
本発明の測定装置によれば、DPFの固体成分の捕集効率を、エンジンやバーナー装置を用いることなく測定できるため、可燃燃料の使用に伴う安全性の確保が不要である。また、エンジンやバーナー装置を用いないため、装置の構造を簡易化することができる。そして、それによって、装置のサイズを小さくすることも可能となる。更に、ディーゼルエンジンから実際に発生した固体成分(PMやアッシュ)の代わりに、それを模擬した模擬固体成分を用いるため、固体成分の発生や蓄積に長い時間を要しない。このため、測定に要する時間やコストを削減でき、迅速かつ簡便な測定が可能となる。更に、DPFに送り込まれる空気への模擬固体成分の供給が、一定の周期で断続的に行われるため、空気流中での模擬固体成分の拡散の仕方や流量が、実際の排ガス中における固体成分の拡散の仕方や流量に近い状態となり、精度の良い測定が可能となる。
【0032】
(2)測定方法:
本発明の測定方法は、本発明の測定装置を用いて、DPFの固体成分の捕集効率を測定するものである。具体的には、本発明の測定装置10を用い、一定の時間に亘って、模擬固体成分5を含む空気をDPF1に送り込むと同時に、その空気をDPF1から引き抜くことで、DPF1に模擬固体成分5を捕集させる。その後、模擬固体成分供給装置4によって、送気装置2からDPF1に送り込まれた空気中に供給された模擬固体成分5の質量と、DPF1に捕集された模擬固体成分5の質量とから、DPF1の固体成分の捕集効率を求める。この捕集効率は、具体的には、模擬固体成分供給装置4によって、送気装置2からDPF1に送り込まれた空気中に供給された模擬固体成分5の質量と、DPF1に捕集された模擬固体成分5の質量とから、下記式(1)により算出することができる。下記式(1)において、「模擬固体成分供給量」は、模擬固体成分供給装置4によって、送気装置2からDPF1に送り込まれた空気中に供給された模擬固体成分5の質量である。また、「模擬固体成分捕集量」は、DPF1に捕集された模擬固体成分5の質量である。「模擬固体成分捕集量」は、DPF1に模擬固体成分5を捕集させた後のDPF1の質量(捕集させた模擬固体成分5を含めたDPF1の質量)から、模擬固体成分5を捕集させる前のDPF1の質量を差し引いた値である。
捕集効率(%)=模擬固体成分捕集量/模擬固体成分供給量×100 ・・・(1)
【0033】
なお、エンジンやバーナー装置で発生させたPMを含む排ガスをDPFに供給して、PMの捕集効率を測定する従来の測定方法においては、スモークメータを用いて捕集効率を測定するのが一般的であった。即ち、DPFの前後にスモークメータを設置し、DPFを通過する前後の排ガスに含まれるPMの量を測定し、それらの測定値からPMの捕集効率を求めていた。しかしながら、スモークメータは、その測定原理から、スートのような黒色の固体成分の量は測定できるが、アッシュのような黒色以外の色の固体成分の量は測定することができない。これに対し、上述のようにして捕集効率を求める本発明の測定方法では、黒色以外の色の模擬固体成分(例えば、アッシュを模擬した模擬固体成分として使用する生石灰粒子)を用いて捕集効率を測定することも可能である。
【0034】
本発明の測定方法は、本発明の測定装置を用いるため、可燃燃料の使用に伴う安全性の確保が不要である。また、ディーゼルエンジンから実際に発生した固体成分(PMやアッシュ)の代わりに、それを模擬した模擬固体成分を用いる。そのため、本発明の測定方法は、固体成分の発生や蓄積に長い時間を要しない。このため、測定に要する時間やコストを削減でき、迅速かつ簡便な測定が可能となる。更に、本発明の測定方法は、DPFに送り込まれる空気への模擬固体成分の供給が、一定の周期で断続的に行われる。そのため、空気流中での模擬固体成分の拡散の仕方や流量が、実際の排ガス中における固体成分の拡散の仕方や流量に近い状態となる。その結果、精度の良い測定が可能となる。また、本発明の測定方法では、上述のとおり、スモークメータでは測定できない黒色以外の色の模擬固体成分を用いて捕集効率を測定することも可能である。
【0035】
(3)DPF(測定対象):
図3は、本発明の測定装置及び測定方法の測定対象となるDPFの構造の一例を模式的に示す斜視図であり、図4は、当該DPFの長さ方向に平行な断面の断面図である。
【0036】
これら図3及び図4に示すように、通常、DPF1は、ハニカム構造部20と目封止部21とを備える。ハニカム構造部20は、排ガスGが流入する側の端面である流入端面24から排ガスGが流出する側の端面である流出端面25まで延びる複数のセル23を区画形成する多孔質の隔壁22を有する。目封止部21は、複数のセル23における流入端面24側又は流出端面25側のいずれか一方の端部に配設されている。複数のセル23の内の一部のセルは、ハニカム構造部20の流入端面24側において、端部が目封止部21によって目封止された入口目封止セル23bである。また、複数のセル23の内の残りのセルは、ハニカム構造部20の流出端面25側において、端部が目封止部21によって目封止された出口目封止セル23aである。
【0037】
このような構造のDPF1を、排ガスGに含まれるPM等の固体成分の除去に用いると、排ガスGは、まず、流入端面24から、出口目封止セル23a内に流入する。その後、排ガスGは、多孔質の隔壁22を透過して、入口目封止セル23b内に移動する。そして、排ガスGが、多孔質の隔壁22を透過する際に、この隔壁22が濾過層となり、排ガスG中の固体成分が隔壁22に捕捉され隔壁22上に堆積する。こうして、固体成分が除去された排ガスGは、その後、流出端面25から外部に流出する。
【0038】
なお、図3及び図4に示すDPF1は、本発明の測定装置及び測定方法の測定対象となるDPFの一例である。本発明の測定装置及び測定方法の測定対象は、このような構造を有するDPFに限定されるものではない。即ち、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる固体成分を捕集可能な構造を有し、事実上、DPFとして使用可能なフィルタであれば、本発明の測定装置及び測定方法による測定対象に含まれる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
固体成分の捕集効率を測定するためのDPFとして、以下に示す3種類のDPF(サンプル1〜3)を用意した。
【0041】
(サンプル1)
サンプル1は、ハニカム構造部の材質がコージェライトであり、直径が304.8mm、長さが304.8mmである円柱状のDPFである。セル密度は31セル/cm、隔壁の厚さは317.5μm、セル形状(セルの長さ方向に垂直な断面におけるセルの断面形状)は正方形、隔壁の気孔率は59%、隔壁の平均細孔径は14μmである。各セルの一方の端部には、ハニカム構造部と同材質の目封止部が配設されている。目封止部は、DPFの一方の端面(流入端面)と他方の端面(流出端面)とが相補的な市松模様状を呈するように配設されている。
【0042】
(サンプル2)
サンプル2は、ハニカム構造部の材質がコージェライトであり、直径が304.8mm、長さが304.8mmである円柱状のDPFである。セル密度は31セル/cm、隔壁の厚さは317.5μm、セル形状(セルの長さ方向に垂直な断面におけるセルの断面形状)は正方形、隔壁の気孔率は50%、隔壁の平均細孔径は14μmである。各セルの一方の端部には、ハニカム構造部と同材質の目封止部が配設されている。目封止部は、DPFの一方の端面(流入端面)と他方の端面(流出端面)とが相補的な市松模様状を呈するように配設されている。
【0043】
(サンプル3)
サンプル3は、ハニカム構造部の材質がコージェライトであり、直径が304.8mm、長さが304.8mmである円柱状のDPFである。セル密度は31セル/cm、隔壁の厚さは228.6μm、セル形状(セルの長さ方向に垂直な断面におけるセルの断面形状)は正方形、隔壁の気孔率は48%、隔壁の平均細孔径は14μmである。各セルの一方の端部には、ハニカム構造部と同材質の目封止部が配設されている。目封止部は、DPFの一方の端面(流入端面)と他方の端面(流出端面)とが相補的な市松模様状を呈するように配設されている。
【0044】
上記サンプル1〜3の各DPFについて、以下に示す本発明の測定方法と従来の測定方法とにより、固体成分の捕集効率を測定した。その結果を表1に示す。また、測定結果から、本発明の測定方法により求められたDPFの固体成分の捕集効率と、従来の測定方法により求められたDPFの固体成分の捕集効率との関係を示すグラフを作成した。そのグラフを図5に示す。
【0045】
(本発明の測定方法)
図1に示す本発明の測定装置を用い、2時間に亘って、模擬固体成分を含む空気をDPFに送り込むと同時に、その空気をDPFから引き抜くことで、DPFに模擬固体成分を捕集させた。送気装置には、コンプレッサを使用し、排気装置には、インバータータイプのブロワーを使用した。模擬固体成分供給装置には、図2に示す構造のものを使用した。模擬固体成分には、ディーゼルエンジンから排出されるPMを模擬した平均粒径14nmのカーボンブラックを用いた。模擬固体成分供給装置による、送気装置からDPFに送り込まれる空気中への模擬固体成分の供給は、1秒間当たり7回とした。供給1回当たりの模擬固体成分の供給量は、0.9mgとした。送気装置からDPFに送り込まれる空気の流量と、排気装置によりDPFから引き抜かれる空気の流量は、いずれも15Nm/分とした。こうして、DPFに模擬固体成分を捕集させた後、上記の式(1)により、固体成分の捕集効率を求めた。
【0046】
(従来の測定方法)
軽油を燃料としたバーナーにより、PMを含む200℃の排ガスを発生させた。この排ガスを、15Nm/分の流量で、2時間に亘って、DPFに供給し、DPFにPMを捕集させた。こうして、DPFにPMを捕集させた後、固体成分(PM)の捕集効率を求めた。捕集効率は、DPFの前方(ガス流れ方向上流側)と後方(ガス流れ方向下流側)とにおける排ガス中のPMの質量をそれぞれスモークメータにより測定し、それら測定値から、下記式(2)により算出した。
捕集効率(%)=(DPFの前方における排ガス中のPMの質量−DPFの後方における排ガス中のPMの質量)/DPFの前方における排ガス中のPMの質量×100 ・・・(2)
【0047】
【表1】
【0048】
(結果)
表1及び図5に示すように、本発明の測定方法によって測定されたDPFの固体成分の捕集効率と、従来の測定方法によって測定されたDPFの固体成分の捕集効率とは、ほぼ同等の値を示していた。つまり、両者の測定結果には高い相関があることがわかった。即ち、本発明の測定方法(本発明の測定装置を用いた測定方法)は、従来の測定方法よりも迅速かつ簡便な測定が可能でありながら、従来の測定方法と同等の測定精度で、DPFの固体成分の捕集効率を測定することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、DPFの固体成分の捕集効率を測定するための測定装置及び測定方法として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、2:送気装置、3:排気装置、4:模擬固体成分供給装置、5:模擬固体成分、10:測定装置、11:収容容器、12:羽根車、13:羽根、14:空間、15:孔、16:配管、17:ホルダー、20:ハニカム構造部、21:目封止部、22:隔壁、23:セル、23a:出口目封止セル、23b:入口目封止セル、24:流入端面、25:流出端面、G:排ガス。
図1
図2
図3
図4
図5