(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0009】
図1Aは、実施形態に係るジャイロセンサの構成を模式的に示した平面図である。ジャイロセンサは、MEMS技術を用いて形成されている。
【0010】
図1Aに示したジャイロセンサ10は、可動体(可動部)11として、y方向可動部11y及びx方向可動部11xを備えている。y方向可動部11yは可動体11のy方向マス(mass)を構成し、x方向可動部11xは可動体11のx方向マス(mass)を構成する。x方向可動部11xは、3つの部分11xa、11xb及び11xcで構成された可動電極部11xmを含んでいる。
【0011】
y方向可動部11yとアンカー部(固定部)12との間には、バネ部13が設けられている。y方向可動部11yとx方向可動部11xとの間には、バネ部14が設けられている。
【0012】
x方向可動部11xのパターンの内側には、固定電極部15が設けられている。本実施形態では、固定電極部15は4つの部分15a、15b、15c及び15dで構成されている。
【0013】
y方向可動部11yには突起部16が設けられており、突起部16の延長線上にはストッパー17が設けられている。また、突起部16の近傍には駆動電極18が設けられている。ストッパー17の電位は、スティクションを防ぐために、可動体11の電位と同電位或いはフローティングとなっている。なお、本実施形態ではストッパー17を設けているが、
図1Bに示すように、ストッパー17を設けなくてもよい。
【0014】
可動体11が回転運動をしている最中に可動体11がy方向(第1の方向)に振動すると、コリオリ力によって可動体11がx方向(第2の方向)に振動する。一般的に、角速度はコリオリ力に基づくx方向の振動の振幅に比例する。したがって、x方向の振動の振幅から可動体11の回転運動の角速度を算出することができる。
【0015】
具体的には、コリオリ力によって可動体11のx方向可動部11xがx方向に振動すると、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の距離が振動に応じて変化する。固定電極部15と可動電極部11xmとの間の距離が変化すると、固定電極部15と可動電極部11xmとの間のキャパシタンスが変化する。このキャパシタンスの変化を検出することで、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の距離を求めることができ、可動体11のx方向の振動の振幅を求めることができる。
【0016】
図2は、コリオリ力による可動体11のx方向の振動を示した図である。横軸は時間であり、縦軸はx方向の振幅比(定常状態の振幅に対する振幅比)である。
【0017】
図2に示すように、非定常状態の振動が生じた後、定常状態の振動に移行する。本実施形態では、コリオリ力に基づくx方向の振動が非定常状態であるときに、x方向の振動の振幅を検出する。通常は、後述するように、コリオリ力に基づくx方向の振動の振幅に依存する所定物理量を検出する。例えば、所定物理量は、固定電極部15と可動電極部11xmとの間のキャパシタンスに基づく物理量である。そして、検出された所定物理量に基づいて可動体11の角速度が算出される。
【0018】
従来は、x方向の振動が定常状態であるときに、x方向の振動の振幅を検出するようにしていた。しかしながら、振動が定常状態に達するまでには一定時間が必要である。また、ジャイロセンサの検出動作は短い周期で行う必要がある。したがって、可動体に強制振動を継続的に与えた状態で検出動作を行う必要がある。すなわち、強制振動を停止させることなく検出動作を行う必要がある。このように、従来の方法では、可動体に強制振動を継続的に与えているため、消費電力が大きくなってしまう。
【0019】
本実施形態では、コリオリ力に基づく振動が非定常状態であるときに、振動の振幅を検出する。そのため、短時間の振動で振動の振幅を検出することができ、振動を継続させる必要がない。したがって、本実施形態では、可動体に強制振動を継続的に与えることなく的確な検出動作を行うことが可能である。その結果、消費電力を大幅に低減することが可能である。
【0020】
図3は、本実施形態に係るジャイロセンサ及びジャイロセンサの角速度の取得装置の構成を示した図である。なお、
図3では、バネ部13及びバネ部14を簡略化して描いている。
【0021】
図3において、駆動電圧供給回路31は、駆動電極18に駆動電圧を供給するものである。駆動電極18に駆動電圧を供給することで、可動体11をy方向に強制振動させることができる。また、駆動電圧供給回路31から駆動電極18に所定の定電圧を与えることで、突起部16をストッパー17に固定させることができる。
【0022】
検出部32は、y方向に振動している可動体11に働くコリオリ力に基づくx方向の振動の振幅に依存する所定物理量を検出するものである。本実施形態では、所定物理量は、固定電極部15と可動電極部11xmとの間のキャパシタンスに基づく物理量である。具体的には、検出部32では、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の電位差を検出している。電位差の検出の詳細については後述する。
【0023】
角速度算出部33では、検出部32で検出された所定物理量(キャパシタンスに基づく物理量)に基づいて可動体11の角速度を算出する。
【0024】
図4は、本実施形態に係るジャイロセンサの角速度の取得方法を示したフローチャートである。なお、以下では、可動体11に強制振動を与えない場合について説明する。
【0025】
まず、ジャイロセンサ10を初期状態に設定する(S11)。
図5Aは、ジャイロセンサ10の初期状態を示した図である。
図5Aに示すように、突起部16がストッパー17に接触した状態で可動体11が静止している。具体的には、駆動電極18と可動体11との間に適当な電位差(例えば、20V)を与えることで、突起部16がストッパー17に接触するようにしている。このときの可動体11のy方向の変位量は、例えば20μm程度である。ストッパー17は、所定物理量を検出した後に可動体11のy方向の振動を停止させる振動停止部として機能する。したがって、ストッパー17により、可動体11は前回の振動が停止したときの状態を維持している。
【0026】
次に、ジャイロセンサ10のy方向の振動を開始する(S12)。具体的には、駆動電極18と可動体11との間の電位差をゼロにしてストッパー17から可動体11をリリースすることで、可動体11のy方向の振動が開始される。すなわち、可動体11のy方向の振動は、バネ13の力に逆らって可動体11をy方向に強制的に変位させた状態から開始される。その結果、
図5B及び
図5Cに示すように、可動体11はy方向に振動する。振動のQ値が大きい場合には、可動体11に強制振動を与えなくても、ある程度の長い期間にわたって振動を継続させることができる。可動体11に強制振動を与えない場合には、強制振動のための回路動作が不要となるため、消費電力を大幅に削減することが可能である。
【0027】
可動体11がy方向に振動している最中に可動体11が回転運動をしていると、コリオリ力によって可動体11がx方向に振動する。すでに述べたように、可動体11がx方向に振動すると、
図5Dに示すように、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の距離が変化し、固定電極部15と可動電極部11xmとの間のキャパシタンスが変化する。このキャパシタンスの変化を検出部32で検出し、可動体11のx方向の振動の振幅を求める。すなわち、検出部32では、コリオリ力に基づくx方向の振動の振幅に依存する所定物理量(キャパシタンスに基づく物理量)を検出する(S13)。
【0028】
検出部32で所定物理量を検出した後、可動体11のy方向の振動を停止させる(S14)。具体的には、可動体11のx方向の振動の振幅のピークを検出した後であって、可動体11のx方向の振動が定常状態に達する前に、可動体11のy方向の振動を停止させる。
【0029】
可動体11のy方向の振動は、振動停止部として機能するストッパー17によって可動体11を捕捉することで停止する。具体的には、駆動電極18と可動体11との間に適当な電位差を与え、可動体11のy方向の振動の振幅がピークに達したときに可動体11の突起部16を捕捉することで、振動を停止させる。このように、y方向の振動の振幅がピークに達したときに振動を停止させることで、次の振動の開始時に可動体11を引き上げるためのエネルギーが不要になるため、消費電力を低減させることができる。
【0030】
可動体11の角速度は、角速度算出部33により、検出された所定物理量に基づいて算出される(S15)。具体的には、可動体11の角速度は、可動体11のx方向の振動の振幅がピークであるときに検出された所定物理量に基づいて算出される。
【0031】
すでに述べたように、所定物理量は、固定電極部15と可動電極部11xmとの間のキャパシタンスに基づく物理量であり、検出部32では、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の電圧差(電位差)を検出している。後述するように、固定電極部15と可動電極部11xmとの間の電圧差を検出する際には、差動電圧の検出を行っている。例えば、固定電極部15aと可動電極部11xaとの間の電位差Vaと、固定電極部15bと可動電極部11xbとの間の電位差Vbを検出し、差動電圧としてVaとVbとの電位差を求める。可動体11のx方向の振動の振幅がピークに達したときに、差動電圧もピークに達する。したがって、ピークに達したときの差動電圧から可動体11の角速度を算出することができる。
【0032】
一般的に、角速度はコリオリ力に基づくx方向の振動の振幅から算出することが可能である。また、上述したことからわかるように、差動電圧がわかればx方向の振動の振幅を求めることができる。したがって、検出された差動電圧に基づいて可動体11の角速度を算出することができる。
【0033】
なお、可動体11がy方向の振動を開始した後の特定のタイミングで検出された所定物理量(例えば、上述した差動電圧)に基づいて、角速度を算出してもよい。後述するように、コリオリ力に基づく可動体11のx方向の振動の状態は、予め予想しておくことが可能である。したがって、可動体11のx方向の振動がピークに達する時間を予め予想しておき、予想された特定のタイミングで検出された所定物理量に基づいて、角速度を算出するようにしてもよい。
【0034】
以上のように、本実施形態では、コリオリ力に基づくx方向の振動の振幅に依存する所定物理量を、x方向の振動が非定常状態であるときに検出している。そのため、短時間の振動で検出を行うことができ、振動を継続させる必要がない。したがって、本実施形態では、可動体に強制振動を継続的に与えることなく的確な検出動作を行うことができ、消費電力を低減することが可能である。
【0035】
従来は、定常状態で検出を行っていたため、継続的に強制振動を行う必要があり、消費電力が大きかった。例えば、振動の周波数が10kHzで、出力データレート(ODR)が100Hzであるとする。この場合、振動の周期は100μsecで、出力周期は10msecである。本実施形態において、例えば、振動を開始してから10周期分の振動で検出動作を終了させる、すなわち振動を開始してから1msec後に検出動作を終了させ、その後は振動を停止させるものとする。この場合、出力周期10msecのうち、9msecの期間は振動が停止していることになり、消費電力を従来の1/10にすることができる。
【0036】
また、本実施形態では、振動が定常状態になる前に検出動作を行うため、スタートアップ時間を短縮することもできる。
【0037】
また、本実施形態では、可動体のx方向の振動の振幅がピークであるときに検出された所定物理量に基づいて角速度を算出することにより、角速度の算出精度を高めることができる。
【0038】
また、本実施形態では、可動体のy方向の振動を停止させる振動停止部としてストッパーを設けているため、検出動作が終了した後に可動体の振動を的確に停止させることができる。この場合、y方向の振動の振幅がピークに達したときに可動体を捕捉することで、次の検出動作のときにy方向のピーク位置から振動を開始させることができ、効率的な検出動作を行うことができる。
【0039】
なお、上述した実施形態において、可動体11に強制振動を与えるようにしてもよい。この場合には、可動体11に一定期間のy方向の強制振動を与えた後に、強制振動を停止させるようにしてもよい。強制振動を与える場合には、クローズドループ(closed-loop)制御を行うようにしてもよいし、オープンループ(open-loop)制御を行うようにしてもよい。強制振動させるための駆動力としては、静電力、圧電力、電磁力等を用いることが可能である。
【0040】
図6Aは、本実施形態の変更例に係るジャイロセンサの構成を模式的に示した平面図である。なお、基本的な事項は上述した実施形態と同様であるため、上述した実施形態で説明した事項の説明は省略する。本変更例のジャイロセンサも、MEMS技術を用いて形成されている。
【0041】
図6Aに示したジャイロセンサ50は、y方向可動部及びx方向可動部が一体化された可動体(可動部)51を備えている。可動体51は、細い部分51ma及び太い部分51mbで構成された可動電極部51mを含んでいる。可動体51とアンカー部(固定部)52との間には、バネ部53が設けられている。可動体51のパターンの内側には、固定電極部54が設けられている。本実施形態では、固定電極部54は2つの部分54a及び54bで構成されている。可動体51には櫛歯部55が設けられており、櫛歯部55の近傍には駆動電極56が設けられている。
【0042】
図6B、
図6C及び
図6Dは、ジャイロセンサ50のy方向の振動について示した図である。
図6Bでは、櫛歯部55と駆動電極56との間に電位差を与えておくことで、ジャイロセンサ50は初期状態に設定されている。電位差をゼロにすることで、
図6C及び
図6Dに示すように、振動が開始される。
【0043】
本変更例でも、上述した実施形態と同様に、可動体51がy方向に振動している最中に可動体51が回転運動をしていると、コリオリ力によって可動体51がx方向に振動する。その結果、固定電極部54と可動電極部51mとの間の距離が変化し、固定電極部54と可動電極部51mとの間のキャパシタンスが変化する。このキャパシタンスの変化に基づいて、可動体51のx方向の振動の振幅(x方向の振動の振幅に依存する所定物理量)を求めることができる。
【0044】
具体的には、固定電極部54aと可動電極部51mとの間の電位差Va、及び固定電極部54bと可動電極部51mとの間の電位差Vbを検出し、差動電圧としてVaとVbとの電位差を求める。この差動電圧から可動体51の角速度を算出することができる。なお、可動電極部51mの太い部分51mbが固定電極部54aと固定電極部54bとの間に位置しているときには、電極間の距離が小さくなるため、検出感度を高めることが可能である。
【0045】
図7Aは、検出回路(
図3の検出部32に対応)の構成を示した電気回路図である。なお、本検出回路は、上述した実施形態及び変更例のいずれにも適用可能である。
【0046】
図7Aに示した検出回路は、スイッチ71a及び71bと、キャパシタ72a及び72bと、可変キャパシタ73a及び73bと、ダイオード接続を有するトランジスタ74a及び74bと、差動電圧検出回路75とを備えている。キャパシタ72a及び72bのキャパシタンスをいずれもC0とし、可変キャパシタ73aのキャパシタンスをC1、可変キャパシタ73bのキャパシタンスをC2とする。
【0047】
可変キャパシタ73a及び73bが上述した可変キャパシタに対応する。例えば、
図6Aに示した変更例では、固定電極部54aと可動電極部51mとで構成される可変キャパシタが可変キャパシタ73aに対応し、固定電極部54bと可動電極部51mとで構成される可変キャパシタが可変キャパシタ73bに対応する。
【0048】
まず、スイッチ71a及び71bをオン状態に設定し、電圧Vpをキャパシタに印加する。これにより、キャパシタに
Q=Vp(C0+C1)=Vp(C0+C2)
の電荷Qが充電される。キャパシタへの充電が終了した後、スイッチ71a及び71bをオフ状態に設定する。
【0049】
ジャイロセンサの振動が開始され、ジャイロセンサの回転運動によってコリオリ力が生じると、
図7Bに示すように、可動電極部51mがx方向に振動する。そして、
図6Dに示すように、可動電極部51mの太い部分51mbが固定電極部54aと固定電極部54bとの間に位置しているときには、可変キャパシタ73aのキャパシタンスはC1からC1’に増加し、可変キャパシタ73bのキャパシタンスはC2からC2’に増加する。その結果、キャパシタ72a及び可変キャパシタ73aに印加される電圧はVP1となり、キャパシタ72b及び可変キャパシタ73bに印加される電圧はVP2となる。したがって、
Q=Vp1(C0+C1’)=Vp2(C0+C2’)
という関係が成立する。電圧Vp1と電圧Vp2との差動電圧を差動電圧検出回路75で検出し、その差動電圧に基づいて角速度を求めることができる。
【0050】
なお、上述した実施形態及び変更例において、コリオリ力に基づくx方向の振幅のセンターがシフトしてオフセットが生じる場合がある。そこで、正方向の振幅のピークApと負方向の振幅のピークAnとの差(Ap−An)を検出する回路を設けるようにしてもよい。この場合には、ピーク差(Ap−An)から角速度を求めることができる。
【0051】
検出回路には、LNA及びミキサー等を含む無線レシーバICの包絡線検出回路と同様の構成を採用することができる。また、コリオリ力に基づく振動波形をAD変化して検出を行うようにしてもよい。
【0052】
次に、本実施形態における振動の解析結果について説明する。なお、以下の解析結果は、ジャイロセンサの可動体に強制振動を与えない場合の解析結果である。
【0053】
可動体のy方向の運動方程式は、以下のように表される。
【数1】
【0056】
ただし、ω
y はy方向の共振角周波数、m
y はy方向の可動体のマス、b
y はy方向の振動の減衰係数、k
y はy方向のバネ定数である。
【0059】
を満たす解は、以下のようになる。
【数6】
【0062】
可動体のx方向の運動方程式は、以下のように表される。
【数9】
【0066】
ただし、ω
x はx方向の共振角周波数、m
x はx方向の可動体のマス、b
x はx方向の振動の減衰係数、k
x はx方向のバネ定数である。また、
【数13】
【0070】
を満たし、且つ「γ
y =0」の場合の解は、以下のようになる。
【数16】
【0076】
図8Aは、可動体のx方向の共振角周波数ω
x とy方向の共振角周波数ω
y とが異なる場合の、非定常状態における可動体のx方向の振動波形x(t)及びx方向の減衰係数を示した図である。
図8Bは、
図8Aのパラメータを示した図である。
【0077】
図9Aは、可動体のx方向の共振角周波数ω
x とy方向の共振角周波数ω
y とが等しい場合(或いは、ほぼ等しい場合)の、非定常状態における可動体のx方向の振動波形x(t)及びx方向の減衰係数を示した図である。
図9Bは、
図9Aのパラメータを示した図である。
【0078】
図10は、ダンピングファクター(damping factor)が非常に小さい場合の、可動体のx方向の振動波形x(t)及びx方向の減衰係数を示した図である。
図10(a)は非定常状態について示した図であり、
図10(b)は定常状態について示した図である。非定常状態においても、うなりの振幅のピークは短い時間ではほとんど変化していない。また、非定常状態の振幅のピークは、定常状態の振幅のピークのほぼ2倍になっている。
【0079】
以上のことから、以下のようにして検出動作を行うことが好ましい。
【0080】
図8Aの場合には、可動体のx方向の振動は、非定常状態において過渡的なうなり(beat)を有している。このように、非定常状態においてうなりが生じているので、うなりの振幅のピークを検出する。また、振動開始後の特定のタイミングで検出を行うようにしてもよい。この場合には、振動がピークに達する時間を予め予想しておき、予想された特定のタイミングで検出を行うようにしてもよい。
【0081】
図9Aの場合には、うなりが生じないので、振動開始後の特定のタイミングで検出を行う。この場合には、上述した振幅Aの式からわかるように、振幅自体が大きくなるので、検出感度を向上させることが可能である。
【0082】
「γ
y =0」でない場合のx方向の運動方程式は、以下のように表される。
【数22】
【0084】
β
1 及びβ
2 を以下のように定義する。
【数24】
【0086】
この場合の運動方程式は、以下のように表される。
【数26】
【0096】
上式は、「β
2 →0」の極限において、以下のように表される。
【数35】
【0102】
また、β
1 及びβ
2 が小さい場合には、以下のように表される。
【数41】
【0103】
右辺の第1項がうなりの成分を表す。右辺の第2項は、ω
1 とω
2 とがほぼ等しい場合にゼロになる。
【0104】
図11は、検出動作を1msec以内に終了させるための条件、及び、うなりの振幅が大きいときに検出を行うための条件について示した図である。
【0105】
検出動作を1msec以内に終了させるためには、うなりの周期が2msec以下であればよい。具体的には、「t
1 =2π/(Δω/2)≦2msec」であればよい。ただし、「Δω=2πΔf」であり、Δfは可動体のx方向の共振周波数とy方向の共振周波数との差である。この条件は、「1kHz≦Δf」と書き直すことができる。なお、うなりの複数周期について検出を行い、精度を向上させるようにしてもよい。
【0106】
うなりの振幅が大きいときに検出を行うためには、うなりのピークの近傍に周波数fの振動の1周期(T=1/f)が収まればよい。ただし、「f=(f
x +f
y )/2」であり、f
x はx方向の共振周波数、f
y はy方向の共振周波数である。Tがt
1 の10%以下であるとすると(T≦0.1×t
1 )、「5kHz≦f」という条件が得られる。
【0107】
うなりの振幅が大きいときに検出を行うためには、振動の減衰が十分に遅い必要がある。
図12は、振動の減衰が十分に遅いための条件について示した図である。うなりの1周期t
1 における減衰量が、減衰のない場合の10%以下であるとすると、「0.2/t
1 ≧γ
x 」という条件が得られる。「t
1 =2msec」とすると、「100Hz≧γ
x 」という条件が得られる。「f=5kHz」、「Δf=1kHz」と仮定して、この条件をQ値で表すと、「Q=ω
x /γ
x ≧345」となる。
【0108】
図13は、定常状態の振幅よりもうなりの振幅を大きくするための条件について示した図である。定常状態の振幅よりもうなりの振幅を大きくするためには、
【数42】
【0110】
次に、振動を停止させるタイミングについて説明する。
【0111】
すでに説明したように、本実施形態では、検出動作が終了した後に振動を停止させることで、消費電力を削減するようにしている。振動を停止させるタイミングの目安は、うなりが消えるタイミングである。上述したように、うなりの振幅は「exp(−γ
x t/2)」にしたがって減衰する。
【0112】
ここで、うなりの振幅が1/10に減衰するまでに振動を停止させるものとすると、「exp(−γ
x t/2)≧0.1」であり、振動を停止させるタイミングは「t≦2log10/γ
x =4.6/γ
x」となる。Q値(Q
x =ω
x /γ
x )を用いて書き直すと、振動を停止させるタイミングは、「t≦4.6Q
x /ω
x 」となる。
【0113】
図14Aは、振動を停止させるタイミングについて示した図である。出力データレート(ODR)の逆数(Ts1=1/ODR)の周期で検出動作を行っている。例えば、「ODR=100Hz」の場合には、「Ts1=10msec」である。また、Ts1の期間のうちTs2の期間だけ振動を継続させている。すなわち、可動体のy方向の振動の継続期間Ts2は、ジャイロセンサの出力データレート(ODR)の逆数に対応する周期Ts1よりも短い。本実施形態では、振動の開始位置が「y=y0」(例えば、
図5Aに示した初期状態の位置)であるとすると、振動の停止位置も「y=y0」であることがエネルギー的に見て効率的である。そのためには、「ω
2 ×Ts2=nπ」(nは自然数)を満たせばよい。したがって、「Ts2=nπ/ω
2 」を満たせばよい。実際には、「Ts2=nπ/ω
2 」を厳密に満たさなくても、「y=y0」の近傍に可動体が位置しているときに可動体を停止させればよい。この場合、Ts2は、
【数43】
【0115】
図14Bは、
図14Aの比較例(従来技術)について示した図である。
図14Bに示した比較例では、可動体を停止させることなく可動体に継続的に振動を与えているため、消費電力が大きくなる。
【0116】
図15Aは、本実施形態に係るジャイロセンサを半導体基板上に形成したときの構成例を模式的に示した平面図である。
図15Bは、
図15AのA−A線に沿った断面図である。
【0117】
図15A及び
図15Bに示すように、半導体基板111、絶縁領域112、トランジスタ113及び配線114を含む下地領域110上に、MEMS技術を用いて形成されたジャイロセンサ120が設けられている。ジャイロセンサ120は、キャップ膜(保護膜)130によって覆われている。ジャイロセンサ120は、x方向可動部11x、y方向可動部11y、バネ部14及び固定電極部15等を含んでいる。キャップ膜130は、3層の絶縁層によって形成されており、その内側にキャビティを形成している。振動の減衰係数を小さくするために、キャップ膜130の内側のキャビティは真空状態であることが好ましい。
【0118】
なお、
図15A及び
図15Bの例では、ジャイロセンサ120がトランジスタ113及び配線114を含む集積回路と同一チップに設けられているが、ジャイロセンサ120が集積回路と別のチップに設けられていてもよい。
【0119】
図16は、本実施形態に係るジャイロセンサを半導体基板上に形成したときの他の構成例を模式的に示した断面図である。
【0120】
本構成例でも、
図15A及び
図15Bの構成例と同様に、下地領域110上にMEMS技術を用いて形成されたジャイロセンサが設けられている。可動体(可動部)141の両端にはバネ部142が設けられ、可動体141の上方には上部電極143が、可動体141の下方には下部電極144が設けられている。
【0121】
可動体141がx軸の周りに回転運動しているときに、可動体141に対してy軸方向に振動を与えると、z軸方向にコリオリ力が働く。コリオリ力による振動の振幅は、可動体141と上部電極143との間のキャパシタンスCaと、可動体141と下部電極144との間のキャパシタンスCbとの差動キャパシタンス(Ca−Cb)に基づいて求めることができる。
【0122】
また、可動体141がy軸の周りに回転運動している場合には、x軸方向を駆動方向(振動付与方向)にすれば、z軸方向にコリオリ力が働く。したがって、この場合にも、コリオリ力による振動の振幅は、上述した差動キャパシタンス(Ca−Cb)に基づいて求めることができる。
【0123】
なお、上述した実施形態で述べた方法は、3軸(x軸、y軸、z軸)方向の角速度を検出するジャイロセンサにも適用可能である。
【0124】
以下、上述した実施形態の内容を付記する。
【0125】
[付記1]
第1の方向に振動している可動体に働くコリオリ力に基づく第2の方向の振動の振幅に依存する所定物理量を検出することと、
前記検出された所定物理量に基づいて前記可動体の角速度を算出することと、
を備え、
前記所定物理量は、前記コリオリ力に基づく第2の方向の振動が非定常状態であるときに検出される
ことを特徴とするジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0126】
[付記2]
前記所定物理量は、固定電極部と前記可動体に含まれる可動電極部との間のキャパシタンスに基づく物理量である
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0127】
[付記3]
前記所定物理量を検出した後に前記可動体の第1の方向の振動を停止させることを、さらに備える
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0128】
[付記4]
前記可動体の第1の方向の振動は、前記コリオリ力に基づく第2の方向の振動が定常状態に達する前に停止させられる
ことを特徴とする付記3に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0129】
[付記5]
前記可動体の第1の方向の振動は、前記可動体を捕捉することで停止させられる
ことを特徴とする付記3に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0130】
[付記6]
前記可動体の第1の方向の振動は、前記第1の方向の振動の振幅がピークに達したときに前記可動体を捕捉することで停止させられる
ことを特徴とする付記3に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0131】
[付記7]
前記可動体の第1の方向の振動は、ストッパーによって前記可動体を捕捉することで停止させられる
ことを特徴とする付記3に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0132】
[付記8]
前記可動体が第1の方向の振動を開始した後に、前記可動体には第1の方向の強制振動は与えられない
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0133】
[付記9]
前記可動体に一定期間の第1の方向の強制振動を与えた後に、前記可動体への強制振動を停止させる
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0134】
[付記10]
前記可動体の第1の方向の共振周波数と前記可動体の第2の方向の共振周波数とは異なる
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0135】
[付記11]
前記角速度は、前記可動体の第2の方向の振動の振幅がピークであるときに検出された前記所定物理量に基づいて算出される
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0136】
[付記12]
前記角速度は、前記可動体が第1の方向の振動を開始した後の特定のタイミングで検出された前記所定物理量に基づいて算出される
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0137】
[付記13]
前記可動体の第1の方向の振動は、前記可動体を第1の方向に強制的に変位させた状態から開始される
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0138】
[付記14]
前記可動体の第2の方向の振動は、前記非定常状態において過渡的なうなりを有する
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0139】
[付記15]
前記可動体の第1の方向の振動の継続期間は、前記ジャイロセンサの出力データレートの逆数に対応する周期よりも短い
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0140】
[付記16]
前記可動体の第1の方向の共振周波数と前記可動体の第2の方向の共振周波数との差は、1kHz以上である
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0141】
[付記17]
前記可動体の第1の方向の共振周波数をf
y とし、前記可動体の第2の方向の共振周波数をf
x として、(f
x +f
y )/2は5kHz以上である
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0142】
[付記18]
前記可動体の第2の方向の振動の減衰係数をb
x とし、前記可動体の第2の方向のマスをm
x とし、γ
x =b
x /m
x として、γ
x は100Hz以下である
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0143】
[付記19]
前記可動体の第2の方向の振動のQ値は345以上である
ことを特徴とする付記1に記載のジャイロセンサの角速度の取得方法。
【0144】
[付記20]
第1の方向に振動している可動体に働くコリオリ力に基づく第2の方向の振動の振幅に依存する所定物理量を検出する検出部と、
前記検出部で検出された所定物理量に基づいて前記可動体の角速度を算出する角速度算出部と、
を備え、
前記所定物理量は、前記コリオリ力に基づく第2の方向の振動が非定常状態であるときに検出される
ことを特徴とするジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0145】
[付記21]
前記所定物理量は、固定電極部と前記可動体に含まれる可動電極部との間のキャパシタンスに基づく物理量である
ことを特徴とする付記20に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0146】
[付記22]
前記所定物理量を検出した後に前記可動体の第1の方向の振動を停止させる振動停止部を、さらに備える
ことを特徴とする付記20に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0147】
[付記23]
前記振動停止部は、前記コリオリ力に基づく第2の方向の振動が定常状態に達する前に前記可動体の第1の方向の振動を停止させる
ことを特徴とする付記22に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0148】
[付記24]
前記振動停止部は、前記可動体を捕捉することで前記可動体の第1の方向の振動を停止させる
ことを特徴とする付記22に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0149】
[付記25]
前記可動体の第1の方向の共振周波数と前記可動体の第2の方向の共振周波数とは異なる
ことを特徴とする付記20に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0150】
[付記26]
前記角速度算出部は、前記可動体の第2の方向の振動の振幅がピークであるときに検出された前記所定物理量に基づいて角速度を算出する
ことを特徴とする付記20に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0151】
[付記27]
前記角速度算出部は、前記可動体が第1の方向の振動を開始した後の特定のタイミングで検出された前記所定物理量に基づいて角速度を算出する
ことを特徴とする付記20に記載のジャイロセンサの角速度の取得装置。
【0152】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。