【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば請求項1の特徴を有する補聴システム並びに請求項17の特徴を有する方法により解決される。有利な実施態様、発展形態及び代案は従属請求項の対象である。ここで、補聴システムに関する実施形態は方法に対しても同様に適用され、その逆も然りである。
【0007】
本補聴システムは使用者により装用されるように構成されている。さらにこの補聴システムは両耳用に構成されており、2個の補聴器を備え、これらそれぞれが音声信号を検出するためのマイクロホンを有している。これはより正確に言えば特に、両方のマイクロホンが音、すなわち、特に周囲の音声信号を受け取り、その音の電気信号、すなわち、音声信号を生成することを意味する。両方のマイクロホンがそれぞれ1つの音声信号を生成し、すなわち、特に同一の音に基づく2つの音声信号が生成される。
【0008】
本補聴システムはさらに、音声信号に基づき使用者の生理学的状態を分類するように構成された制御ユニットを有する。このためにこの制御ユニットはここでは、両方の音声信号に基づき、より正確に言えば、両方のマイクロホンで検出された両方の音声信号に基づき、使用者から発せられた自己発生部分を強調し、すなわち、特に検知し他の部分すなわち非自己発生部分と比較して増幅し、生理学的状態を分類するために使用するように構成されている。この形態の基になっている考えは、このようないわゆる両耳用の補正により、周囲音と使用者から発せられた音との区別が可能になるということにある。両耳用の補正を実施するために、この制御ユニットは特に両耳用補正ユニットを含む。
【0009】
本発明の基となっている考えは特に、使用者の生理学的状態を分類するためには必ずしも複数の補助センサーを使用しなければならないということはなく、その状態を識別するための基本としての重要な生理学的パラメータの測定と決定は、補聴器の基本機能を実現するために元々備えられているマイクロホンを用いて可能である、ということにある。すなわち、増幅及び使用者への出力という目的のための、取り込まれた複数の音声信号の処理に加えて、本発明によれば付加的に、使用者の生理学的状態を分類するために、検出された複数の音声信号の特に独立した処理が行われる。さらに本補聴システムは好適に、自動化された診断システムとして構成されている。この場合、診断とは一般的に、その状態が或る病気に対応しているかどうかとは無関係に、解析された複数の信号に基づく或る特定状態の同定という意味である。分類のためには次に、特にマイクロホンで検出された複数の音声信号が生理学的に重要な音に関して調査され、すなわち、ここでは分類器として機能する制御ユニットにより分析され、次にその分析に基づき生理学的状態が分類される。
【0010】
すなわち、本発明の特別な利点は特に、検出された複数の音声信号が使用者の生理学的状態の認識のために付加的に利用されることによって、この補聴システムが周囲音の増幅という基本機能に加えて、使用者の一般的な所見の監視および評価をも行う、ということにある。この場合、補聴器のマイクロホンが特に好適な二重機能を果たすので、使用者の生理学的状態の分類を目的として生理学的パラメータを測定するための特殊なセンサーの使用を差し当たり止めることができる。
【0011】
生理学的状態は一般的に、特に複数の症状の中に現れる使用者の身体的な状態である。換言すれば:使用者のその生理学的状態は複数の症状に対する原因であり、これらの症状の存在がこの補聴システムにより、マイクロホンで検出された複数の音声信号の分析によって識別される。識別された複数の症状を用いて、分析結果がその状態への帰結を生ぜしめるように、分類が行われる。
【0012】
これらの症状自身は1つ又は複数の音声信号から決められる。この点に関して、特に2段階方式の分類が行われる。第1ステップで複数の症状が複数の音声信号に基づいて分類され、次に第2ステップでその状態が、識別されたこれらの症状に基づいて分類される。
【0013】
分類とは、ここで一般的には、与えられた群の、準備された複数のクラスへの区分を意味し、特別には、或る信号の、既知の格納されたサンプルに関する調査、及び、この信号の、そのサンプルで特徴づけられている特定のクラスへの続いて行われる関連付けを意味する。この場合通常は、この信号は、特定のクラスにできるだけ特有であり、且つ、次に相応の関連付けを可能とする複数の特徴すなわち複数のサンプルに関して調査される。これに替えて又はこれに加えて、この信号は特定の現象により引き起こされており、この場合、その現象が、クラス特有の複数の特徴を有する信号を引き起こす。この現象が特定の既知のクラスの現象として同定されることによって、この現象は分類される。補聴器の分野では、例えば、使用者の周囲環境を特定の音状態、これはシーンとも呼ばれる、に関連付けるために、複数の音声信号、特に周囲音の分類がしばしば行われる。クラスとしてのこれらのシーンは、例えば、静かな環境での話し声または騒がしい環境での話し声である。この種の分類は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0014】
本発明では、使用者の生理学的状態を識別するための分類が行われる。これに応じてこの種の複数の状態が存在し、それぞれの状態は予め定められた複数の特徴により、特に、その状態の結果である複数の症状により特徴づけられている。これらの症状はそれ自身がそれぞれ1つのクラスを示し、相応の特徴により互いに区別することができる。複数の音声信号を分析する場合には、これらの症状は、例えば特性周波数スペクトルまたは振幅特性を有する相応の音である。すなわち、例えば、くしゃみ、咳または声の歪み、すなわち特により低い周波数への声のシフトは音声信号から識別可能であり、それぞれが1つの症状、すなわち、その音声信号が関連付けられる1つの症状クラスを形成する。すなわち、この関連付けられた音は1つの症状として分類される。この分類は特に補聴器分野では既知の方法およびアルゴリズム、特にいわゆるベイジアンネットワーク(Bayes’sche Netze)を基に行われる。これらの方法は例えば非特許文献2に記載されている:
【0015】
音声信号に基づいて求められた複数の症状が特定の、前もって定義された1つの状態、すなわち1つの状態クラスに関連付けるために利用されることによって、今や1つの特定の状態が複数の特徴的な症状により定義され、これに応じて分類される。こうして、例えば、感冒は、症状としてのくしゃみにより、状態として特徴づけられる。すなわち、音声信号の分析によりくしゃみが識別されると、これに応じてこの状態が感冒と分類される。基本的にはより多くの状態が同時に存在することもありうる。従って、制御ユニットは合目的的に、同時に存在している多数の状態を分類すべく構成されている。
【0016】
この制御ユニットは補聴器内に、特にそのケース内に収納されているか、または、補聴器の外部で外部装置内に収納されている。すなわち、内部又は外部に配置されている。内部制御ユニットにより補聴システムは特にコンパクトな形状となり、これに対して外部制御ユニットは特に大出力であるという利点を有する。というのは、この場合には独立電源が構成されているからである。いずれの場合にも、制御ユニットは、検出された音声信号が制御ユニットに伝送されるように、マイクロホンと接続されており、その結果、この制御ユニットによって引き続き分析が可能である。
【0017】
この補聴器は特にBTE補聴器(耳掛型補聴器)、すなわち、耳の後ろに装用されるケースを有する補聴器である。このケース内には補聴器の殆どの基本的なコンポーネント、特にコンポーネント(電池、マイクロホン、電子回路、操作エレメントおよびプログラミングインターフェース)の1つ又は組合せが収納されている。音の出力はレシーバーを介して行われ、このレシーバーはBTE補聴器の形状に応じて、同じくケース内に収納されているか、あるいは、イヤホンの一部としてケーブルを介してケースと接続されていて装用のために耳道内に挿入される。しかし、基本的には、いわゆるITE型補聴器(耳穴型補聴器)、すなわち、完全に又は大部分が耳の中に装用される補聴器も考えられる。
【0018】
生理学的状態を決定するためには、基本的に、使用者によって発生された音、すなわち使用者音が優先的に重要であり、これに対して周囲音は通常は使用者の状態への帰結を導かない。したがって、例えば、他者がくしゃみをするか否かは、使用者の状態にとっては直接的には重要でない。しかし、両耳用補正により好適に、相応の区別および或る音の使用者への関連付けが可能となる。両耳用補正を用いた自己発生部分の識別によって、こうして好適な方法で、分類のための重要な音が厳密に強調される。この自己発生部分の識別は、特に両耳用補正の従来の利用とは異なって行われる。というのは、この従来の利用では周囲からの音が選択的に強調されるからである。特に聴き取りにくい状況、例えば、近傍で多くの人が話しているいわゆる「カクテルパーティー状況(Cocktail Party Situation)」では、従来の両耳用補正は、方向と周波数部分とによって個別の話者に焦点を当てるために、すなわち、特定の音源に向けて空間的に焦点を当てるために使用される。最近ではこのために、両耳用に作動する、補聴システムの指向性マイクロホンの調整を可能とするアプリも使用者に提案されている。従来の両耳用補正が状況に応じて任意の1方向からの音を強調するのに対して、ここで使用される両耳用補正は、好適に前方向からの音を定常的に、そしてそれによって使用者音を強調し、これを次に分類目的に利用することができる。
【0019】
特に、使用者自身から発生された音が特に生理学的状態の分類のために適しているという背景から、その音声信号を検出するために合目的的に固体伝搬音マイクロホンが使用される。したがって、適切な1形態では、この補聴システムは以下のグループに属する使用者音を音声信号として検出するために固体伝搬音マイクロホンを有する。上記のグループは、呼吸音、呼吸周波数、歩行音、固体伝搬音、脈拍、特に脈拍周波数、声および歯ぎしりを含む。先に述べた、音声信号からの自己発生部分の決定とは異なり、固体伝搬音マイクロホンを用いての使用者音の検出は直接的に行われる。すなわち、この固体伝搬音マイクロホンは、特に使用者音を取り込んで検出すべく構成されており、このために、補聴器が装用されるときに、使用者の皮膚に例えば直接に接している。周囲音を検出するためにマイクロホンが通常は耳道から外側を向いているITE型補聴器の通常のマイクロホンとは異なり、この固体伝搬音マイクロホンは特にイヤホンの横側から出て耳道壁上に配置される。固体伝搬音マイクロホンが使用者の体に直接に接する、又は、イヤホンのケース部を介して体に接することによって、周囲音はこれに応じて非常に小さい量で検出される。
【0020】
上述した使用者音を検出することにより、特に使用者の生理学的パラメータの決定が可能になる。こうして、呼吸音の分析により、使用者の呼吸周波数をパラメータとして決定することができる。歩行音の測定により、使用者の歩行数をパラメータとして決定することができ、これによって使用者の運動活動度への推論が可能となる。ここで固体伝搬音とは、意識的に又は無意識に使用者の体から発生される音であり、例えば、くしゃみ、咳、咳払い又は消化音である。脈拍測定により、脈拍周波数を使用者のパラメータとして識別することができる。この関連における声とは特に、どれくらい多くを使用者自身が話しているか、特に、どれくらい多く他者とコミュニケーションしているか、が検出されることを意味する。このために特に使用者の話し時間がパラメータとして検出される。これらの使用者音を用いて、次に制御ユニットにより、使用者の生理学的に重要なパラメータの決定及び特に定量化が行われる。全体として、それぞれの使用者音は特に1つの特性周波数スペクトルを有し、これに基づいてそれぞれの使用者音が制御ユニットによりその音声信号から識別される。この場合、相応する周波数スペクトルはそれぞれの音のいわゆる指紋を形成する。複数のこのような指紋の識別および特定のタイプの1つの使用者音への関連付けは、例えば非特許文献3に記載されているような従来のアルゴリズムに基づいて行われる。こうしてこれらの特徴的な使用者音は特に複数の症状を表わし、これらの症状が相応に分類される。
【0021】
特に適切な代案では、マイクロホンと固体伝搬音マイクロホンとが補聴器の別々のコンポーネントとして構成されている。補聴システムの基本機能と追加機能はこのようにしてそれぞれに特化したマイクロホンにより実現される。すなわち、マイクロホンは、増幅およびレシーバー経由の出力のために優先的に周囲音を取り込むために機能し、固体伝搬音マイクロホンは優先的に複数の使用者音の検出と登録のために機能し、これらの使用者音は特に使用者に伝えられるのではなく、生理学的状態を分類するために制御ユニットにより利用される。このために、前記マイクロホンは特に外側へ向けられており、いわゆるオープンマイクロホンとして補聴器に配置されており、これによって、最適な方法で周囲音を取り込むことができ、且つ、使用者音の検出を避けることができる。BTE補聴器では、このマイクロホンは特にケース内に配置されており、使用者の周囲、例えば視線方向を指向している。これとは異なり、固体伝搬音マイクロホンは使用者に向けられており、その体の表面、特にその皮膚と接触している。これによって、固体伝搬音マイクロホンは使用者と接し、使用者音を優先的に取り込むが、それに反して周囲音は殆ど検出されない。複数の異なるマイクロホンを備えたこの特別な形態により、内部音と外部音との特に改善された分離が実現される。このことは非両耳式の補聴システムの場合には特に重要であるが、両耳式システムの場合にも有利である。
【0022】
好適な展開形態では、補聴器が使用者の耳道内に挿入するためのイヤホンを有し、前記の固体伝搬音マイクロホンはこのイヤホンの一部である。換言すれば、この補聴システムを装用するときに、この固体伝搬音マイクロホンは使用者の耳道内に挿入され、それによって特に最適な方法で使用者音が検出され、その際、付加的に妨害となりうる周囲音は検出されない。
【0023】
前記制御ユニットは生理学的状態を分類するために構成され、この生理学的状態は好適には、感冒、転倒、睡眠挙動、社会的活動度、運動活動度、ストレス、呼吸困難などを含む一群の状態に属す。すなわち、この生理学的状態は使用者の特に健康状態であるが、必ずしも病理学的な状態ではない。この生理学的状態はむしろ使用者の一般的な所見を表したものであるが、場合により生じる使用者の病気または苦痛への推論を導くことも可能である。それぞれの生理学的状態は特に使用者の相応する挙動の原因であり、この挙動は特に特定の特徴ある使用者音の中に現れる。
【0024】
生理学的状態は特に、1つ又は複数の生理学的パラメータの特性、及び/又は、数値の評価により決められる。例えば感冒は頻繁なくしゃみの1つの原因であり、このくしゃみは相応の使用者音の中に現れ、マイクロホンで検出される。識別されたくしゃみ音の頻度に基づき、感冒と結論付けることができる。すなわち、使用者のこの生理学的状態は感冒であると分類される。この場合、制御ユニットは好適に、比較的頻繁な、すなわち、特に1日より短い時間間隔で起きるくしゃみと、単に時たま、すなわち、特に1日より長い時間間隔で起きるくしゃみとの相応の区別ができるように構成されており、この場合には感冒と他のくしゃみ刺激との区別が可能である。
【0025】
転倒は例えば相応の衝撃音により識別される。特定の睡眠挙動、例えば安静でない睡眠は、呼吸音及び脈拍の検査により、好適には付加的に検出された周囲音と組み合わせて、分類可能である。使用者の社会的活動度は、使用者の話し時間により、特に他者によって録音された声と組み合わせて、分類可能である。使用者の運動活動度は、特に歩行音、並びに、一般的に使用者の歩行数及び脈拍の検出と分析により、評価される。ストレスと呼吸困難は、特徴的に変化した脈拍と呼吸の特別な原因であり、これらは相応にマイクロホンで測定可能である。すなわち、全体として、多様な症状の識別と評価のために、特定の生理学的状態の結果として生じる使用者の複数の生理学的パラメータの定量化が行われる。
【0026】
使用者の呼吸器官の生理学的パラメータの検出及び評価が行われる際の信頼度は、好適な形態において、固体伝搬音マイクロホンを使用することによりさらに向上する。固体伝搬音マイクロホンの音声信号を、両耳用補正から得られる音声信号と共に適切に評価することにより、自己発生部分が好適な方法でさらに一段強調される。例えば、固体伝搬音マイクロホンは呼吸器官の音だけでなく、歩行音、脈拍、歯ぎしり又は消化音のような体内または体の表面に起因する他の音も取り込む。両耳用補正から得られた音声信号は、前方から到来する使用者音を強調し、これらの使用者音は状況によっては周囲音によって重ね合わされていることもある。しかし、これらの周囲音は固体伝搬音マイクロホンでは検出されない。両方の音声信号、すなわち、マイクロホンからの音声信号および固体伝搬音マイクロホンとして構成された補助センサーからの音声信号の適切な組み合わせは同一部分、すなわち、特に使用者音を強調し、したがって、呼吸器官に起因する音を強調する。一方、残りの部分は弱められる。従って、このようにして二重に識別された生理学的パラメータは好適なことに、より高い精度で識別され、これにひき続く症状の分類はこのパラメータに基づいてなおさら高い信頼度で行われる。
【0027】
使用者音、すなわち、複数の音声信号の中の自己発生部分を強調するために、付加的な固体伝搬音マイクロホンを備えた補聴システムの好適な発展形態では、通常のマイクロホンの音声信号と固体伝搬音マイクロホンの音声信号が互いに組み合わされている。このために、制御ユニットは音声信号組合せユニットを有する。
【0028】
両耳用補聴システムでは、2つの補聴器の両方のマイクロホンの音声信号が、特に両耳用補正ユニットにより、1つの組合せ信号にまとめられている。この組合せ信号は強調された自己発生部分を有し、すなわち、強調された自己発生部分を有する音声信号である。この補聴システムの好適な1形態では、制御ユニットが音声信号組合せユニットを有し、この音声信号組合せユニットは上記の組合せ信号を補聴システムの固体伝搬音マイクロホンの音声信号と組み合せ、これにより自己発生部分がさらに強調される。こうして一般的には、この音声信号組合せユニットを用いて、異なるマイクロホンの2つの音声信号、すなわち、外側に向けられた通常のマイクロホンの音声信号及び固体伝搬音マイクロホンの音声信号、の組合せが行われる。換言すれば、この音声信号組合せユニットは、異なる種類のマイクロホンから出てくる2つの音声信号の組合せ及び特に比較の機能を果たし、この場合、異なる音源からの音は異なる強さで検出される。ここで、特に、両方の通常のマイクロホンの音声信号の組合せ信号であり、且つ、既に強調済の1つの自己発生部分を有している両耳用補正ユニットの音声信号が、その位置決めに基づき主に使用者音を検出する固体伝搬音マイクロホンの音声信号と組み合わせられる。この組合せに基づき、上述した方法で、使用者音を他の音に対してさらに強調し、生理学的状態の信頼性のある分類を保証することが可能となる。
【0029】
適切な1実施形態では、前記の異なるマイクロホンの両方の音声信号を加算することによって、音声信号組合せユニットが組合せを行う。上述した呼吸器官の音の例では、まさにこの音が、特別に相関のない他の音の信号よりも3dBだけ強く強調される。
【0030】
別の適切な可能性は、両方の音声信号の相互相関を調べることであり、これによって、相関関係結果が得られ、これは次に、付加的な適応フィルタ(adaptiv Filter)を調整するのに利用される。この調整は例えば、このフィルタが両方の音声信号の構成成分である周波数を強調し、それとは逆に他の周波数を弱めるように行われる。代案として、両方の音声信号から和信号および差信号が計算され、この場合、差信号は同一でない信号部分を含む。従って、差信号は適応フィルタの調整に利用するのに特に適しており、この適応フィルタはこれに対応した和信号部分をさらに一段と弱める。
【0031】
実施された使用者の相応の生理学的状態の分類に基づき、一般的には、様々な対応が考えられる。第1の代案では、その状態の分類及びその分類を使用者に情報目的で伝えることだけが行われる。第2の代案では、これに対応した知見がメモリーされ、例えば、受診時に診断の基礎資料として供給される。第3の代案では、この補聴システムが特に付加的に緊急通報システムを含み、特定の生理学的状態を認識した時に緊急通話を行う。例えば、使用者の脈拍および呼吸周波数の検出ならびに分析に基づき、生理学的状態が卒中発作と分類され、それに対する反応として制御ユニットにより緊急通話が行われ、これによってこの使用者にできるだけ早く適切な助けを行うことができる。さらなる代案では、この分類がトレーニング、特に耐久力トレーニングの一環として利用され、これにとって重要な生理学的パラメータの適切な監視により最適なトレーニング成果が得られる。
【0032】
特定の生理学的状態の分類における正確性は複数の補助センサーによりさらに改善される。このことは、或る状態の確実な分類のためにできるだけ多くの症状が使用される、という考えに基づいている。そこで、この補聴システムは合目的的な形態において、マイクロホンではない補助センサーを有し、この補助センサーは音声信号に加えて、その状態の識別及び特に分類のためにも働く補助信号を検出する。この場合、特別な利点は、この補助センサーを用いて例えば、或る特定の状態のもう1つの症状が測定され、これにより、全体として、その状態の改善された、すなわち、特により確実な分類が保証される、という点にある。こうして、例えば転倒が、衝撃音および体の姿勢変化という両方の症状に基づいて識別され、この場合、姿勢変化は補助センサーとしての加速度センサーにより識別される。
【0033】
適切な1つの代案では、制御ユニットが、生理学的状態を識別するためにその状態の1つの症状を冗長性をもって識別すべく、すなわち、補助信号ならびに音声信号に基づいて構成されている。換言すれば、マイクロホンおよび補助センサーを用いて1つの状態の2つの異なる症状を識別することに替えて、又は、これに加えて、この代案では、その状態の1つの単独の症状の識別が2つのセンサー、すなわち、マイクロホン及び補助センサー、を用いて冗長性をもって行われる。この方法により、その症状の識別は特に確実であり、これにより単に1つのセンサー、すなわち、1つのマイクロホン又は1つの補助センサーを使用することに起因する誤った解釈は減少される、あるいはそれどころか避けられる。
【0034】
すなわち、全体的には、1つの補助センサーには原理的に2つの異なる利用可能性がある。すなわち、1つには、状態を分類するための1つの付加的な症状の独立した検出であり、2つには、マイクロホンにより既に識別された1つの症状の冗長性を有する識別である。
【0035】
この補助センサーは好適には、一群の測定値から選ばれた1つの測定値を測定すべく形成されている。これらの一群の測定値には、加速度、温度、特に体温、皮膚の電気抵抗、皮膚の光学的特性、すなわち、特に、伝送、吸収または反射、及び、血中酸素濃度が含まれる。すなわち、このセンサーはこれに応じて例えば、加速度センサー、温度センサー、抵抗または導電度測定器、光学検出器、又は、パルスオキシメーター(脈拍及び血中酸素飽和度数計)として形成されている。この測定値は特に使用者の生理学的パラメータである。
【0036】
適切な1実施形態では、この補助センサーが加速度センサーとして形成されており、特に転倒の検出を可能にしている。この場合、加速度センサーの使用は特に補聴器において、例えば、腕輪または携帯式スマートフォンでの使用よりも有意義である。というのは、補聴器は通常は使用者の頭に比較的安定して装用されるが、これに対して他の機器は通常は例えば手首での付随する動きに曝され、その結果、エラー率がより高くなる。
【0037】
適切な別の実施形態では、1つの加速度センサーが1つのマイクロホンと組み合わされているので、より冗長性があり、よりエラーの少ない方法で使用者のくしゃみ音を識別することができる。補助信号の評価結果と音声信号の評価結果を組み合わせることにより、使用者の転倒と使用者のくしゃみの特に確実な区別が可能になる。というのは、前者の場合にはマイクロホンはくしゃみ音を検出しないからである。すなわち、この補助センサーは先ず加速度を検出するが、これを転倒に関係付けるべきか、頭の傾きに関係付けるべきかは多分明確ではない。しかし、音声信号の評価を付加することにより、特に確実で、且つ、明確な関係づけが可能になるので、くしゃみなのか、使用者の頭の姿勢変化なのかが識別され、その結果、感冒であるか、あるいは、転倒であるかへの結論が確実に導かれる。
【0038】
上記に例として挙げた実施形態に替えて、又は、これに加えて、多数の他の生理学的状態をよりよく識別するために、複数の音声信号と複数の補助信号を組み合わせることができる。これについて以下に説明する。
【0039】
第1の代案では、マイクロホンにより取り込まれた複数の音が分析され、加速度センサーのデータの分析と組み合わされ、その結果、使用者の睡眠中の安静な睡眠と安静でない睡眠とを識別することができ、これにより睡眠挙動を評価することができる。
【0040】
別の代案では、例えば歩行音および脈拍が固体伝搬音マイクロホンにより検出され、加速度センサーにより検出された体の運動と組み合わされることによって、使用者の身体的な活動度が評価される。そしてこれによって、使用者が特定の運動課題を終了するのか、あるいは、使用者のスタミナとコンディションが調べられるのか、が全体的に決められる。
【0041】
別の代案では、1つの生理学的状態がストレスとして分類され、この場合、症状として使用者の声域、特に周波数スペクトル全体の変化、脈拍の上昇、及び/又は、酸素飽和度数の低下が調べられる。しかし、特にこの代案では適切に、一般的にも、調べられた生理学的パラメータが、事前に校正測定として測定された正常値と比較され、その結果、或る特定の症状の存在が識別される。こうして、制御ユニットを用いて、例えば校正測定で先ず正常脈拍が決定され、メモリーされ、次の操作で、実際に測定された脈拍が前記の正常脈拍と比較される。特定の変化、例えば2倍の変化、があった場合には、上昇した脈拍は症状として識別される。同様な方法で、これに替えて、又は、これに加えて、実際に測定された声域が正常声域と比較され、これにより相応の変化が調べられる。
【0042】
別の代案では、例えばゴロゴロという特徴的な呼吸音または速くなった呼吸がマイクロホンで検出され、制御ユニットにより識別されることによって、呼吸困難も生理学的状態として識別することができる。これは適切に、追加の加速度センサーにより識別された使用者の非安静状態及び使用者の高められた身体活動度と組み合わされて、使用者の呼吸を評価することができる。状態の1例として呼吸機能不全があり、これが上述の特徴に基づき分類される。
【0043】
感冒は、別の代案では、音声信号の周波数スペクトルにおけるくしゃみ音、及び/又は、咳音の検出と調査により識別される。これに加えて別の展開形態において、特に低周波数側へシフトした声域が測定され、及び/又は、複数の加速度センサーにより、くしゃみ及び咳に特有な頭の動作が識別される。さらに、合目的的に、温度センサーにより使用者の体温が調べられ、上昇した体温は症状として識別され、感冒としての生理学的状態の分類のために利用される。
【0044】
別の代案では、使用者の話し時間の分析により、特にその使用者の声とは別の声の識別との組合せにおいて、この補聴システムは使用者の社会的活動度を示す。例えばこれによって、低下した社会的活動度が状態として識別される。分類するための特徴として、例えば日々の会話時間、すなわち、他者とのコミュニケーションが所定の時間を下回ることが挙げられる。
【0045】
特に1つのセンサー、すなわち、1つのマイクロホンまたは1つの補助センサーの誤作動を特に効果的に識別するために、合目的的な形態において、この補聴システムは同一種類のもう1つのセンサーを有する。すなわち、この相応のセンサーはこの補聴システムにおいて冗長性を有して構成されており、これら複数のセンサーのうちの一方の誤作動は両方のセンサーから供給される信号の比較により識別できる。この場合、冗長性を有する両方のセンサーは、理想的な場合には、特に、あらかじめ与えられた許容誤差範囲内の同一信号を供給するようになっており、それを逸脱すると制御ユニットによって複数のセンサーのうちの1つの誤作動として識別される。相応の誤作動を識別したときには、例えば使用者に制御ユニットを用いて相応のセンサーの誤作動が知らされる。引き続く操作では、これに相応する複数のセンサー信号は合目的的にもはや使用されない。
【0046】
同一種類の両方の補助センサーはそれぞれ一定の測定不確かさを有している。合目的的な形態において、両方の補助センサーの補助信号の偏差が前記それぞれの測定不確かさよりも大きい場合には、これらの補助信号を拒否するように制御ユニットが構成されている。両方の同一種類の、すなわち、冗長性を有する補助センサーは、補助信号、特にそれらの振幅が相互に比較され、それによって信号差が導出され、次に、前記の測定不確かさと比較されることにより、特に定期的に制御ユニットにより誤作動がチェックされる。この信号差が前記測定不確かさを上回ると、補助センサーの誤作動が決定される。
【0047】
好適な1形態において、前記両方のセンサーは補助センサーとして構成されており、それぞれが両耳用補助信号の測定のために両方の補聴器の1つに配置されており、ここではこれらの両方の補助センサーはそれぞれ特に加速度センサーとして構成されている。この形態の基になっている考えは、これらのマイクロホンにとって両耳用補正から生じている利点が、同様にこれらの補助センサーに対しても利用可能である、という点にある。このことは特に加速度センサーの場合に当てはまり、この場合には、補助信号の両耳用補正により、使用者の、特に頭の正確な運動方向が測定される。そして、複数の補助センサーを単に別々に評価するのに比べて、両耳用補正によってより有利な情報価値が生じる。例えば、この制御ユニットは両耳用補正に基づいて、頭の前向き運動か、回転運動かを、すなわち、直進運動と回転運動を区別し、これによって、複数の症状および複数の状態の改善された分類が可能である。例えば前向きの運動が識別されると、くしゃみであると結論付けられる。代案において、回転運動の頻度は一般的な身体運動に対する指標として、又は、安静でない睡眠の徴候として利用される。別の代案では、補助センサーとして、使用者の頭の相異なる側に位置決めされた複数の運動センサーが使用される。この形態においても、両側の補助信号を比較し、大きな偏差がある時にはこれを拒否するのが合目的的である。例えばこれらの運動センサーのなかの1つだけが、例えば自由落下に基づく十分に大きい加速度を記録すると、この運動センサーを備えた補聴器が落下したと結論付けられる。これとは異なり、両方の補聴器の両方の運動センサーが自由落下を記録すると、使用者の転倒が結論づけられる。
【0048】
適切な1形態において、この制御ユニットは原理的には、1つの補聴器または複数の補聴器に組み込まれている。同じく好適な代案では、これとは異なり、補聴器の外部に、例えば、コンピューターまたはスマートフォンの一部として配置されている。この場合、補聴器は合目的的に、補助信号、及び/又は、音声信号を制御ユニットに伝送する前に処理するための前処理ユニットを有する。こうして補聴器内で制御ユニットに伝送される信号の云わば事前選択が、例えば、信号の閾値または時間的な変化に基づいて行われる。この事前選択により、事前選択された信号だけが伝送され、その結果、帯域幅およびデータ接続を作動するためのエネルギーも相応に節約されるので、補聴器と制御ユニット間に形成されるデータ接続が相応に節約されるという利点が生じる。このことは、電池を用いる補聴器のしばしば切り詰められた電源供給を考えると特別な利点である。
【0049】
両耳用補聴システムの場合には基本的には、特に互いに交信する2つの制御ユニットを使用することが考えられる。しかし、好適には統合が行われて1つの共通の制御ユニットが配置され、これに全部のセンサーデータが伝送される。
【0050】
この制御ユニットは適切に、音声信号を出力するためのレシーバー、すなわち、補聴器のスピーカー、と接続されている増幅ユニット、ならびに、音声信号の分析のため及び生理学的状態の分類のための分析ユニットを有する。このためにこの分析ユニットは特に分類器を含む。したがって、この制御ユニットは2つの部分ユニット、すなわち、増幅ユニットおよび分析ユニットを含み、これらは相応にそれぞれの課題を別々に遂行する。それぞれのマイクロホンで検出された音声信号は作動中に先ず制御ユニットに伝送され、次に、別々に処理するために、それぞれが両方の部分ユニットに伝えられる。この形態の特別の利点は、この制御ユニットが、1つは補聴システムの基本機能を実現するための、そして他の1つは追加機能を実現するための、いわゆる専門化された2つの部分ユニットを有していることにある。
【0051】
この分析ユニットはそれ自体が目的に合わせて複数の下部ユニット、すなわち、特に、複数の音声信号を評価し分析するための音声信号処理ユニット、および複数の補助信号を評価し分析するための補助信号処理ユニットに分けられている。補助センサーを備えていない補聴システムでは、音声信号処理ユニットだけが配置されている。
【0052】
この音声信号処理ユニットは特に次のように構成されている。すなわち、入ってくる複数の音声信号が複数の予め定められた特定の特徴に関して調査され、これらの特徴が識別され、そして、識別されたこれらの特徴に基づいて、マイクロホンで検出された音が特定の症状として分類されるように構成されている。この場合、これらの特徴は例えば、その周波数スペクトルにおける振幅特性、予め定められた周波数帯における特定の振幅または特定の周波数帯における振幅の時間変化である。
【0053】
音声信号処理ユニットと同様に、補助信号処理ユニットは特に次のように構成されている。すなわち、入ってくる複数の補助信号が複数の予め定められた特定の特徴に関して調査され、これらの特徴が識別され、そして、識別されたこれらの特徴に基づいて、補助センサーで検出された生理学的パラメータが特定の症状として分類されるように構成されている。この場合、これらの特徴は例えば、特定の、例えば予め定められた閾値を超えた補助信号の振幅またはその振幅の特定の時間的推移である。
【0054】
様々なセンサー信号を制御ユニットに伝送するために、及び/又は、複数のデータを制御ユニットの様々な部分ユニット間で、及び/又は、下部ユニット間で伝送するために、この補聴システムは多数のデータ接続を有し、これらのデータ接続は基本的にそれぞれ有線で、または、無線で構成されている。好適には、少なくとも、2つの補聴器の間または1つの補聴器と1つの外部装置との間のデータ伝送のためのデータ接続は無線で行われる。
【0055】
好適には、前記増幅ユニットは補聴器内に組み込まれており、前記分析ユニットは補聴器の外部に配置されている。両耳用補聴器では、特に、これらの補聴器のそれぞれに1つの増幅ユニットが組み込まれている。換言すれば、制御ユニットは機能的に複数の部分ユニットに分けられており、これらの部分ユニットは、1つまたは2つの補聴器の、一方は内部に、他方は外部に配置されている。制御ユニットのこの分離された構成により、特に効率的なエネルギー管理および補聴器間のデータ接続におけるデータ伝送率の節約が行われる。比較的多くのエネルギーとデータ量とを要する使用者の生理学的状態の分類は有利に外部で、すなわち、外部装置で行われ、これに対し、周囲音の増幅という特に連続的に必要な基本機能は内部で、すなわち、補聴器内で行われる。外部装置に対しては通常は寸法に関する要求は補聴器に対するよりも厳しくないので、外部装置には合目的的に非常に大容量のエネルギー供給および演算容量が備えられている。
【0056】
外部装置がなく、且つ、制御ユニットが1つの補聴器内部に完全に収納されているか又は2つの補聴器に分割されている代案では、基本機能に影響を及ぼすことなしに、合目的的に追加機能を遮断することができる。例えば、補聴器の電池が殆ど切れている場合には、補聴システムから分析ユニットへのデータ接続が自動的に遮断され、これによって、エネルギーを節約し、エネルギー節約モードによって少なくとも基本機能だけはより長時間使用可能とすることができる。
【0057】
特に上述したような2つの補聴器を有する両耳用補聴システムでは、両方の補聴器の内のそれぞれ1つの補聴器のそれぞれのマイクロホンによりそれぞれ1つの音声信号が検出され、これらの音声信号は制御ユニットに送られる。すなわち、特に、それぞれの補聴器が1つのマイクロホンを有し、このマイクロホンにより音声信号が検出される。この制御ユニットを用いて、これらの音声信号に基づき、使用者の生理学的状態が分類される。さらに、この制御ユニットを用いて、これらの音声信号に基づき、使用者から出てくる自己発生部分が強調され、生理学的状態の分類に利用される。
【0058】
本方法の合目的的な形態において、その生理学的状態は、転倒、睡眠挙動、社会的活動度、運動活動度およびストレスを含む一群の特に非病理学的状態の1つとして分類される。この代案の特別の利点は特に、この補聴システムによって使用者の身体的な能力の全体的な監視および評価が行われることにある。この場合、特に病気の識別および診断は断念される。むしろこの補聴システムは基本機能に加えて、能力監視という意味において、使用者による自己監視または自己分析に資する。
【0059】
こうしてこの補聴システムは例えばスポーツ活動における能力測定器としても使用することができ、その場合、使用者はそのために特別に作られた付加的な機器を装着する必要がない。この補聴器の体近くへの取付け、特に頭への配置は、体の他の箇所に対して特に有利である。すなわち、頭部および特に耳道は、特に固体伝搬音および使用者音の測定に適している。
【0060】
以下に本発明の実施例を図に基づいて詳細に説明する。これらの図はそれぞれ模式的に示されている。