(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6448801
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】高温用潤滑剤
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20181220BHJP
C10M 105/06 20060101ALN20181220BHJP
C10M 105/40 20060101ALN20181220BHJP
C10M 105/36 20060101ALN20181220BHJP
C10M 107/08 20060101ALN20181220BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20181220BHJP
C10M 105/34 20060101ALN20181220BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20181220BHJP
C10M 105/58 20060101ALN20181220BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20181220BHJP
C10M 117/00 20060101ALN20181220BHJP
C10M 117/02 20060101ALN20181220BHJP
C10M 113/10 20060101ALN20181220BHJP
C10M 115/10 20060101ALN20181220BHJP
C10M 113/08 20060101ALN20181220BHJP
C10M 113/12 20060101ALN20181220BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20181220BHJP
C10M 119/24 20060101ALN20181220BHJP
C10M 119/22 20060101ALN20181220BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20181220BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20181220BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20181220BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20181220BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20181220BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20181220BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20181220BHJP
C10N 40/32 20060101ALN20181220BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20181220BHJP
【FI】
C10M169/02
!C10M105/06
!C10M105/40
!C10M105/36
!C10M107/08
!C10M101/02
!C10M105/34
!C10M105/18
!C10M105/58
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!C10M117/00
!C10M117/02
!C10M113/10
!C10M115/10
!C10M113/08
!C10M113/12
!C10M115/08
!C10M119/24
!C10M119/22
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:06
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:00 Z
C10N40:02
C10N40:32
C10N50:10
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-533019(P2017-533019)
(86)(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公表番号】特表2017-538838(P2017-538838A)
(43)【公表日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】EP2015002322
(87)【国際公開番号】WO2016096074
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2017年8月16日
(31)【優先権主張番号】102014018718.7
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】カール エーガースデアファー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス キルタウ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン グルンダイ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
【審査官】
菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−515412(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/142157(WO,A1)
【文献】
特開2003−013973(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/159738(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0353862(US,A1)
【文献】
特開2000−192071(JP,A)
【文献】
米国特許第06465400(US,B1)
【文献】
欧州特許出願公開第00157583(EP,A1)
【文献】
特表2000−514853(JP,A)
【文献】
国際公開第98/002510(WO,A1)
【文献】
米国特許第03100808(US,A)
【文献】
特開昭61−179296(JP,A)
【文献】
米国特許第04604491(US,A)
【文献】
特表2014−526578(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0213492(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第103343032(CN,A)
【文献】
特開2013−018861(JP,A)
【文献】
特開2010−185042(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0294705(US,A1)
【文献】
米国特許第06018063(US,A)
【文献】
特表2014−517124(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0322897(US,A1)
【文献】
特表2014−517123(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0322707(US,A1)
【文献】
特開平10−053786(JP,A)
【文献】
米国特許第05916853(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第102006043747(DE,A1)
【文献】
特開昭61−296091(JP,A)
【文献】
米国特許第04601840(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0027731(US,A1)
【文献】
特開2003−201492(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0142920(US,A1)
【文献】
Sandy Reid-Peters,Alkylated Naphthalenes,UTS Seminar St Petersburg,米国,Exxon Mobil Chmical,2011年 9月13日,全頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 101/02
C10M 105/06
C10M 105/18
C10M 105/34
C10M 105/36
C10M 105/40
C10M 105/58
C10M 107/02
C10M 107/08
C10M 113/08
C10M 113/10
C10M 113/12
C10M 115/08
C10M 115/10
C10M 117/00
C10M 117/02
C10M 119/22
C10M 119/24
C10M 169/00
C10N 10/02
C10N 10/04
C10N 10/06
C10N 30/00
C10N 30/08
C10N 40/00
C10N 40/02
C10N 40/32
C10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)脂肪族置換ナフタリンまたはエストライドから成る群より選択される少なくとも1種の油93.9〜45質量%;
b)ポリマー、すなわち、水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレン、または水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物6〜45質量%;
c)防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より単独または組み合わせで選択される添加剤0.1〜10質量%
を含有する高温用油。
【請求項2】
油成分が、さらなる油として、鉱油、脂肪族カルボン酸エステルおよび脂肪族ジカルボン酸エステル、脂肪酸トリグリセリド、ピロメリット酸エステル、ジフェニルエーテル、フロログルシンエステル、および/またはポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマーから成る群より選択される化合物を含有する、請求項1記載の高温用油。
【請求項3】
a)脂肪族置換ナフタリン、エストライド、トリメリット酸エステル、または種々のトリメリット酸エステルからの混合物から成る群より選択される少なくとも1種の油91.9〜25質量%、ここでエステルのアルコール基は、8〜16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基である;
b)水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレン、または水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物から成る群より選択されるポリマー6〜45質量%;
c)防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より単独または組み合わせで選択される添加剤0.1〜10質量%、および
d)増ちょう剤2〜20質量%
を含有する高温用グリース。
【請求項4】
油成分が、さらなる油として、鉱油、脂肪族カルボン酸エステルおよび脂肪族ジカルボン酸エステル、脂肪酸トリグリセリド、ピロメリット酸エステル、ジフェニルエーテル、フロログルシンエステル、および/またはポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマーから成る群より選択される化合物を含有する、請求項3記載の高温用グリース。
【請求項5】
増ちょう剤が、尿素、Al複合石鹸、周期表第一および第二主族の元素の金属の純石鹸、周期表第一および第二主族の元素の金属の複合石鹸、ベントナイト、スルホン酸塩、ケイ酸塩、アエロジル、ポリイミド、PTFE、またはこれら増ちょう剤の混合物から成る群より選択される、請求項3記載の高温用グリース。
【請求項6】
自動車技術、輸送技術、機械工学、オフィス技術において、ならびに産業用の設備および機械で、また家庭用機器、家庭用電化製品の分野で転がり軸受および滑り軸受を潤滑化するための、およびチェーン、チェーンリール、および連続プレス機のベルトを潤滑化するための、請求項1から5までのいずれか1項記載の高温用油または高温用グリースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用潤滑剤、殊に、芳香族エステル、例えばトリメリット酸エステルおよび種々のトリメリット酸エステルの混合物、アルキル芳香族化合物、エストライド、および完全水素化もしくは水素化されたポリイソブチレン、またはこれらの混合物、増ちょう剤に基づく油およびグリースに関する。本発明はさらに、最大250℃の連続使用温度での、この高温用グリースの使用に関する。
【0002】
潤滑作用だけでなく、潤滑剤はさらに、多数のさらなる課題を満たす必要がある:潤滑剤は、冷却し、摩擦、摩耗、および応力伝達を低減し、腐食から防護し、同時に、密封作用を有する必要がある。さらに、これらの高温用グリースは、音響が少ないことが望ましい。
【0003】
従来の潤滑剤は高温適用に適していない。というのも、これらは高温では、例えば酸化反応、および/または熱分解反応、および重合によって破壊され、その潤滑特性が大幅に制限されるからである。分解反応において、潤滑剤は、低分子の揮発性成分に分解される。これが蒸発することによって、不所望な粘度変化、油損失、および過剰な蒸気形成がもたらされる。それにより、潤滑作用が失われることになる。重合によっても、潤滑剤は、不溶性の重合生成物が形成されることによりその潤滑作用を失う。
【0004】
これら汚染物質を除去することによって、メンテナンス作業が増加し、コストをかけて処理する必要のある化学系廃棄物が発生する。洗浄作業およびメンテナンス作業が増えることを理由に、休止時間が増加する。全体として、不適切な潤滑剤を高温適用において使用することによって、コストがより高くなる。というのも、作業設備が汚染され、より多くの潤滑剤が必要とされるからである。そのうえ、製品品質が下がる。
【0005】
高温適用のための基油としては、しばしば合成エステルが使用される。というのも、これらは、非常に良好な酸化安定性、加水分解安定性、および熱安定性を有するからである。
【0006】
高温適用における種々の要求に応えるためには、潤滑剤はとりわけ、高い安定性、低い摩擦係数、および高い摩耗強度を有する必要がある。均一な潤滑化を高温でも保証可能にするためには、全加工プロセスの間、液状の潤滑膜が金属部材間に存在する必要がある。したがって、潤滑剤は、最大加工温度でわずかのみ蒸発し、あまり残渣を形成してはならず、できるだけ少ない分解残渣を形成するものでなければならない。
【0007】
高い加工温度はしばしば、チェーン、転がり軸受、および滑り軸受における、自動車技術、輸送技術、機械工学、オフィス技術における、ならびに産業用の設備および機械における、また家庭用機器および家庭用電化製品の分野での使用において生じる。
【0008】
転がり軸受および滑り軸受では、潤滑剤により、相互に滑るまたは転がる部品間に、これらを隔てる応力伝達潤滑膜が作製される。そのため、金属表面同士は接触せず、したがって摩耗も生じない。よって、潤滑剤は高い要求に応えなくてはならない。その要求には、極端な条件、例えば、非常に高いもしくは非常に低い回転数、高い回転数もしくは外部加熱により条件付けられる高温、非常に低い温度、例えば、冷たい周囲において稼動する軸受の温度、または航空および宇宙飛行での使用で生じる温度がある。同様に、最近の潤滑剤は、すり減りまたは潤滑剤の消費による空間汚染を回避するために、いわゆるクリーンルーム条件下で使用可能であることが望ましい。さらに、最近の潤滑剤を適用する場合、潤滑剤が蒸発し、それによって「ワニス化(verlacken)」すること、つまり、潤滑剤が短時間の適用後に固体になり、もはや潤滑作用を示さないことが回避されるのが望ましい。潤滑剤にはまた、軸受の滑り面が僅かな摩擦で攻撃されないように、軸受面が少ない音響で滑るように、および長い滑り時間が後の潤滑化なしで達成されるように、適用時に特別な要求が課される。また潤滑剤は、応力の作用、例えば、遠心力、重力、および振動に耐えなくてはならない。
【0009】
高温領域における、グリースで潤滑化された転がり軸受の長い機能時間のために重要なパラメータは、上記使用温度の他には、潤滑剤の音響特性である。潤滑グリースは、回転への関与(転動(Ueberrollung)、混和(Walkung))の際に、転がり軸受において振動を誘発することがあり、「潤滑剤音響」としてのこの振動は、軸受音響が50〜300Hzの低周波数帯にあるのに比べて、300〜1,800Hzの中周波数帯および1,800〜10,000Hzの高周波数帯にある。潤滑剤音響は、転動体によって硬質粒子が転動する際に、衝撃パルスの形態で軸受リングにおいて生じる音響ピークと重なる。音響特性の評価は、SKF−BeQuiet
+法に従って行われる。グリース音響の等級は以下のように分類される:
GNX:GN1よりもやや不良(非常に不良な音響特性)
GN1:全ピークの95%超が40μm/s以下(不良な音響特性)
GN2:全ピークの95%超が20μm/s以下;全ピークの98%超が40μm/s以下(平均的な音響特性)
GN3:全ピークの95%超が10μm/s以下;全ピークの98%超が20μm/s以下;全ピークの100%超が40μm/s以下(良好な音響特性)
GN4:全ピークの95%超が5μm/s以下;全ピークの98%超が10μm/s以下;全ピークの100%超が20μm/s以下(非常に良好な音響特性)。
【0010】
潤滑グリースの音響特性が良好であるほど、潤滑剤によりもたらされる軸受の振動が少なくなる。これは、軸受の負荷が少ないことと同義であり、より長い軸受の機能時間につながる。
【0011】
したがって、本発明の課題は、上記の要求に応える高温用油および高温用グリースを提供することである。殊に潤滑油または潤滑グリースは、高温で長い期間にわたり、良好な潤滑作用を示すことが望ましい。さらに、形成される分解残渣は、ワニス化するのではなく、新しいグリースによって再び溶解可能であることが望ましい。さらに、高温用潤滑剤は、良好な加水分解安定性を有し、耐腐食性および耐摩耗性であり、かつ良好な耐酸化性および要求に適合した良好な低温特性を有することが望ましい。これは、潤滑油の場合は流動点によって、潤滑グリースの場合は低温での流れ圧力によって定義される。さらに、高温用グリースは良好な音響特性を示し、長い持続時間を有し、実質的に装置の摩耗現象を引き起こさないことが望ましい。
【0012】
本発明によれば、上記課題は、以下の成分:
a)アルキル芳香族化合物、好適には脂肪族置換ナフタリン、エストライド、トリメリット酸エステル、または種々のトリメリット酸エステルからの混合物から成る群より選択される少なくとも1種の油93.9〜45質量%、ここでエステルのアルコール基は、8〜16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基である;
b)ポリマー、すなわち、水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレン、または水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物6〜45質量%;
c)防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より単独または組み合わせで選択される添加剤0.1〜10質量%
を含有する高温用油によって解決される。
【0013】
本発明によれば、上記課題は、以下の成分:
a)アルキル芳香族化合物、好適には脂肪族置換ナフタリン、エストライド、トリメリット酸エステル、または様々なトリメリット酸エステルからの混合物から成る群より選択される少なくとも1種の油91.9〜25質量%、ここでエステルのアルコール基は、8〜16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基である;
b)ポリマー、すなわち、水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレン、または水素化もしくは完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物6〜45質量%;
c)防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より単独または組み合わせで選択される添加剤0.1〜10質量%、および
d)増ちょう剤2〜20質量%
を含有する高温用グリースによって解決される。
【0014】
本発明による高温用油および本発明による高温用グリースが、優れた性能によって顕著であることは驚くべきことであった。つまり、本発明による高温用油または高温用グリースは、高い熱安定性を、長寿命および良好な潤滑特性と一緒に示す。
【0015】
本発明による高温用油は、エステル化合物として、エストライド、または様々なエストライドからの混合物、または脂肪族置換ナフタリン、または種々の脂肪族置換ナフタリンからの混合物を含有する。
【0016】
40℃で測定された、エストライドの好ましい粘度は、30〜500mm
2/secである。30〜140mm
2/secの粘度が特に好ましい。
【0017】
エストライドとは、酸触媒または酵素触媒により脂肪酸、好ましくはオレイン酸もしくはジカルボン酸、またはこれら2つの混合物から製造されるエステル化合物と理解される。ここで酸官能基は、隣接する脂肪酸分子の二重結合に作用し、その結果、より高分子のエステル化合物が生成する。そして、末端の酸基は通常、アルコール、好ましくは2−エチル−ヘキサノールでエステル化され、引き続き、残りの二重結合は、水素化されるか、またはカルボン酸、例えば酢酸でエステル化される。その他のアルコール、例えばイソアミルアルコールまたはゲルベアルコールも同様に、末端の酸基のエステル化のために考えられ得る。
【0018】
さらにエストライドは、ヒドロキシカルボン酸を縮合することによって、またはヒドロキシカルボン酸と脂肪酸、例えばオレイン酸誘導体もしくはステアリン酸誘導体とを縮合することによっても合成可能である。使用されるヒドロキシカルボン酸または不飽和酸の鎖長は、C
6〜C
54に達し得る。これらの酸は、さらなる官能基、例えば、アミン、エーテル、硫黄含有基を含有することができる。
【0019】
さらに、α−オレフィンまたはβ−ファルネセンによるエステル化も考えられ得る。
【0020】
本発明による高温用油は、アルキル芳香族化合物を含む第二の油を含有することができる。好ましくは芳香族化合物を使用する。本発明によると、芳香族化合物とは、4〜15個の炭素原子を有する、単環式、二環式、または三環式の環系と理解され、ここで、単環式の環系が芳香族であるか、または二環式もしくは三環式の環系における環の少なくとも1つが芳香族である。好ましくは、好適には10個の炭素原子を有する二環式の環系を使用する。
【0021】
好ましくは芳香族化合物が、1個または複数の脂肪族置換基で置換されている。特に好ましくは芳香族化合物が、1〜4個の脂肪族置換基、殊に2個または3個の脂肪族置換基で置換されている。
【0022】
本発明によれば、アルキル基は、1〜30個、好適には3〜20個、さらにより好ましくは4〜17個、殊に6〜15個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素基である。アルキル基は、直鎖状または分枝鎖状であってよく、任意で1個または複数の上記置換基で置換されている。
【0023】
本発明によれば、特に好ましくは、潤滑油は、少なくとも1種の脂肪族置換ナフタリン、殊に少なくとも1種のアルキル置換ナフタリンを含有する。好ましくは、ナフタリンは1個〜4個の脂肪族置換基で置換されており、殊に2個または3個の脂肪族置換基で置換されている。
【0024】
実証実験によって、種々の置換されたナフタリン混合物、すなわち、種々の置換度合いおよび種々の脂肪族置換基を有するナフタリンからの混合物が特に適していると示された。この場合、混合組成を変えることによって、高温用潤滑剤の特性、例えば粘度を特に容易に調整することができる。脂肪族置換ナフタリンはさらに、優れた溶解特性および高い熱酸化安定性において顕著である。
【0025】
40℃で測定された、脂肪族置換ナフタリンの粘度は、好適には30〜600mm
2/s、より好ましくは30〜300mm
2/sである。
【0026】
本発明による高温用油はさらに、ポリイソブチレンを含有する。殊に水素化度および分子量に関して、ポリイソブチレンを適切に選択することによって、本発明による油の特性、例えばその動粘度、とりわけその残渣形成に、望ましい影響を与えることができる。ポリイソブチレンは、水素化または完全水素化された形態で使用可能であり、同様に、水素化および完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物を使用することが可能である。好ましくは、完全水素化されたポリイソブチレンを使用する。ポリイソブチレンは、6〜45質量%の量で組成物中に存在しており、好ましくは10〜45質量%、殊に15〜45質量%使用される。
【0027】
本発明による高温用油はさらに、添加剤を0.1〜10質量%含有しており、これらの添加剤は、単独または組み合わせで使用され、防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より選択される。
【0028】
本発明による高温用グリースは、エステル化合物として、トリメリット酸エステルまたは種々のトリメリット酸エステルからの混合物を含有し、ここでエステルのアルコール基は、8〜16個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基である。芳香族エステルの選択次第で、潤滑剤の特性、例えば、粘度、粘度−温度特性、耐酸化性、および残渣特性を適合させることができる。
【0029】
本発明による高温用グリースは、アルキル芳香族化合物を含む第二の油を含有することができる。好ましくは芳香族化合物を使用する。本発明によると、芳香族化合物とは、4〜15個の炭素原子を有する、単環式、二環式、または三環式の環系と理解され、ここで、単環式の環系が芳香族であるか、または二環式もしくは三環式の環系における環の少なくとも1つが芳香族である。好ましくは、好適には10個の炭素原子を有する二環式の環系を使用する。
【0030】
好ましくは芳香族化合物が、1個または複数の脂肪族置換基で置換されている。特に好ましくは芳香族化合物が、1〜4個の脂肪族置換基、殊に2個または3個の脂肪族置換基で置換されている。
【0031】
本発明によれば、アルキル基は、1〜30個、好適には3〜20個、さらにより好ましくは4〜17個、殊に6〜15個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素基である。アルキル基は、直鎖状または分枝鎖状であってよく、任意で1個または複数の上記置換基で置換されている。
【0032】
本発明によれば、特に好ましくは、潤滑グリースは、少なくとも1種の脂肪族置換ナフタリン、殊に少なくとも1種のアルキル置換ナフタリンを含有する。好ましくは、ナフタリンは1個〜4個の脂肪族置換基で置換されており、殊に2個または3個の脂肪族置換基で置換されている。
【0033】
実証実験によって、種々の置換されたナフタリン混合物、すなわち、種々の置換度合いおよび種々の脂肪族置換基を有するナフタリンからの混合物が特に適していると示された。この場合、混合組成を変えることによって、高温用潤滑剤の特性、例えば粘度を特に容易に調整することができる。脂肪族置換ナフタリンはさらに、優れた溶解特性および高い熱酸化安定性において顕著である。
【0034】
40℃で測定された、脂肪族置換ナフタリンの粘度は、好適には30〜600mm
2/s、より好ましくは30〜300mm
2/sである。
【0035】
さらに、エストライドも使用することができる。40℃で測定された好ましい粘度は、30〜500mm
2/secである。30〜140mm
2/secの粘度が特に好ましい。
【0036】
本発明による高温用グリースはさらに、ポリイソブチレンを含有する。殊に水素化度および分子量に関して、ポリイソブチレンを適切に選択することによって、本発明によるグリースの特性、例えばその動粘度に、望ましい影響を与えることができる。ポリイソブチレンは、水素化または完全水素化された形態で使用可能であり、同様に、水素化および完全水素化されたポリイソブチレンからの混合物を使用することが可能である。好ましくは、完全水素化されたポリイソブチレンを使用する。ポリイソブチレンは、6〜45質量%の量で組成物中に存在しており、好ましくは10〜45質量%、殊に15〜45質量%使用される。
【0037】
さらなる好ましい実施形態によると、ポリイソブチレンは、115〜10,000g/mol、好適には160〜5000g/molの数平均分子量を有する。
【0038】
本発明による高温用グリースはさらに、添加剤を0.1〜10質量%含有しており、これらの添加剤は、単独または組み合わせで使用され、防食添加剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、紫外線安定剤、無機または有機固体潤滑剤から成る群より選択される。
【0039】
本発明による高温用グリースはさらに、増ちょう剤を含有する。潤滑剤組成物の本発明による高温用グリース中の増ちょう剤は、ジイソシアネート、好適には2,4−ジイソシアナトトルエン、2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4‘−ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4‘−ジイソシアナトフェニルメタン、4,4‘−ジイソシアナトジフェニル、4,4‘−ジイソシアナト−3−3‘−ジメチルフェニル、4,4‘−ジイソシアナト−3,3‘−ジメチルフェニルメタン(これらは、単独または組み合わせで使用可能)と、一般式R‘
2−N−Rのアミン、または一般式R‘
2−N−R−NR‘
2のジアミン(前記式中、Rは、2〜22個の炭素原子を有するアリール基、アルキル基、またはアルキレン基であり、R‘は、水素、アルキル基、アルキレン基、またはアリール基と同一または異なっている)、またはアミンおよびジアミンからの混合物との反応生成物を含有するか、
または
Al複合石鹸、周期表第一および第二主族の元素の金属の純石鹸、周期表第一および第二主族の元素の金属の複合石鹸、ベントナイト、スルホン酸塩、ケイ酸塩、アエロジル、ポリイミド、もしくはPTFE、またはこれら増ちょう剤の混合物から選択される。
【0040】
高温用油および高温用グリースのための添加剤としては、以下に挙げられる添加剤が、特に良好な物理的および化学的特性を有する:
酸化防止剤を添加することによって、本発明による油またはグリースの酸化を、殊にそれが使用される場合に、低減することができるか、または防止することさえできる。酸化において、不所望なフリーラジカルが生成することがあり、その結果、ますます高温用潤滑剤の分解反応が生じる。酸化防止剤を添加することによって、高温用グリースが安定化される。
【0041】
本発明によれば、特に適した酸化防止剤は、以下の化合物である:
スチレン化ジフェニルアミン、二芳香族アミン、フェノール樹脂、チオフェノール樹脂、ホスファイト、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、ジ−α−トコフェロール、ジ−tert−ブチル−フェニル、ベンゼンプロパン酸、硫黄含有フェノール化合物、フェノール化合物、およびこれらの成分の混合物。
【0042】
さらに、高温用グリースは、防食添加剤、金属失活剤、またはイオン錯化剤を含有することができる。これには、トリアゾール、イミダゾリン、N−メチルグリシン(サルコシン)、ベンゾトリアゾール誘導体、N,N−ビス(2−エチルヘキシル)−アル−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メタンアミン;n−メチル−N(1−オキソ−9−オクタデセニル)グリシン、リン酸と、(C
11〜14)−アルキルアミンにより反応させたモノイソオクチルエステルおよびジイソオクチルエステルとの混合物、リン酸と、tert−アルキルアミンおよび第一級(C
12〜14)アミンにより反応させたモノイソオクチルエステルおよびジイソオクチルエステルとの混合物、ドデカン酸、トリフェニルホスホロチオネート、およびリン酸アミンが該当する。市販で入手可能な添加剤は、以下のものである:IRGAMET(登録商標)39、IRGACOR(登録商標)DSS G、アミンO;SARKOSYL(登録商標)O(Ciba)、COBRATEC(登録商標)122、CUVAN(登録商標)303、VANLUBE(登録商標)9123、Cl−426、Cl−426EP、Cl−429、およびCl−498。
【0043】
さらなる耐摩耗添加剤は、アミン、リン酸アミン、リン酸塩、チオリン酸塩、ホスホロチオネート、およびこれらの成分の混合物である。市販で入手可能な耐摩耗添加剤には、IRGALUBE(登録商標)TPPT、IRGALUBE(登録商標)232、IRGALUBE(登録商標)349、IRGALUBE(登録商標)211およびADDITIN(登録商標)RC3760 Liq 3960、FIRC−SHUN(登録商標)FG 1505およびFG 1506、NA−LUBE(登録商標)KR−015FG、LUBEBOND(登録商標)、FLUORO(登録商標)FG、SYNALOX(登録商標)40−D、ACHESON(登録商標)FGA 1820、およびACHESON(登録商標)FGA 1810が属する。
【0044】
さらに、このグリースは、固体潤滑剤、例えば、PTFE、BN、ピロリン酸塩、Zn酸化物、Mg酸化物、ピロリン酸塩、チオ硫酸塩、Mg炭酸塩、Ca炭酸塩、Caステアリン酸塩、Zn硫化物、Mo硫化物、W硫化物、Sn硫化物、グラファイト、グラフェン、ナノチューブ、SiO
2変性体、またはこれらの混合物を含有することができる。
【0045】
実証実験によって、本発明による高温用油または高温用グリースが、250℃の温度まで分解現象を示さない、または無視できる程度の分解現象を示すことが分かった。これに関して、10%未満の潤滑剤の分解の程度であると理解される。
【0046】
本発明による高温用油または高温用グリースは、さらなる基油として、好適には鉱油、脂肪族カルボン酸エステルおよび脂肪族ジカルボン酸エステル、脂肪酸トリグリセリド、ピロメリット酸エステル、ジフェニルエーテル、フロログルシンエステル、および/またはポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマーから成る群より選択される油を含有することができる。
【0047】
好適な実施形態では、本発明による高温用油または高温用グリースはエストライドを含有し、ここで好適には、エストライドの主要構成要素は、ひまわり油、なたね油、ひまし油、アマニ油(Leinoel)、コーン油、サフラワー油、大豆油、アマニ種子油(Leinsamenoel)、落花生油、「レスクエラ(Lesqueralle)」油、ヤシ油、オリーブ油、または上記油の混合物の群からの天然油に基づいて出発する化学的または酵素的プロセスによって入手される。
【0048】
実証実験によって、本発明による高温用油または高温用グリースが、その物理的および化学的特性を理由に、チェーン、転がり軸受、および滑り軸受における、自動車技術、輸送技術、機械工学、オフィス技術における、ならびに産業用の設備および機械における、また家庭用機器および家庭用電化製品の分野での使用において優れていると示された。これは、その良好な耐熱性を理由に、最大260℃の高い使用温度、好適には150〜250℃の温度でも使用可能である。
【0049】
本発明はさらに、基油および添加剤が相互に混合されている、上記の高温用油または高温用グリースを製造する方法に関する。
【0050】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】SRV内でDIN51834−2に準拠して測定した、油の摩擦特性を示す図
【実施例】
【0052】
実施例1−2
本発明による高温用油の製造
エストライドまたは脂肪族置換ナフタリンを攪拌釜に予め装入する。100℃で攪拌しながら、ポリイソブチレンおよび場合によってはさらなる油を追加する。引き続き、この混合物を1時間攪拌して、均質な混合物を得る。摩耗防止剤および抗酸化剤を、60℃で攪拌しながら釜に入れる。約1時間後、完成した油を、用意した容器に移すことができる。
【表1】
【表2】
【0053】
油の実施例の基本データは、表3から得ることができる。
【表3】
【0054】
さらに、油の摩擦特性をSRV内でDIN51834−2に準拠して測定し、蒸発損失を動的TGA内で測定した。これらの結果は表4および5に示され、さらに、
図1および2に図示されている。
【表4】
【表5】
【0055】
実施例3−8
本発明による高温用グリースの製造
基油を攪拌釜に予め装入する。100℃で攪拌しながら、ポリイソブチレン、および場合によってはさらなる油、および増ちょう剤を追加する。増ちょう剤は、基油中の使用される反応物質がその場で反応することによって生成する。引き続き、混合物を150℃〜210℃に加熱し、数時間にわたり攪拌し、再び冷却する。約60℃での冷却プロセスにおいて、必要な摩耗防止剤、抗酸化剤、および防食剤を追加する。グリースの均質な混合物は、ローラ、コロイドミル、またはガウリン(Gaulin)による仕上げの均質化工程によって得られる。
【0056】
高温用グリースの組成は、表6に示してある。
【表6】
【0057】
実施例3−8で使用される増ちょう剤は、
実施例3:LiOH、12−ヒドロキシステアリン酸、アゼライン酸、
実施例4:LiOH、12−ヒドロキシステアリン酸、アゼライン酸、
実施例5:LiOH、12−ヒドロキシステアリン酸、アゼライン酸、
実施例6:ジ尿素;メチレン−ジフェニル−ジイソシアネート(MDI)、オクチルアミン、オレイルアミン
実施例7:ジ尿素;MDI、オクチルアミン、オレイルアミン
実施例8:ジ尿素;MDI、オクチルアミン、オレイルアミン
である。
【0058】
グリースサンプル3−8の一般的なパラメータを表7に示す。
【表7】
【0059】
150℃で30時間後の、種々のグリースサンプルの蒸発損失率は2%〜5%であり、このことによって、このグリース設計の熱安定性が非常に良好であることが強調される。
【0060】
グリースの潤滑作用に決定的な影響を与えるのは離油度である。その際、離油度が高すぎず、油が軸受から流れ、それにより摩擦系に利用されないことに注意する一方で、離油度が見られずに、グリースの潤滑作用が失われることに注意する。離油度は、最適な潤滑膜を軸受内に形成できるように、理想的には0.5〜8質量%であることが望ましい。
【0061】
実施例のグリースを、DIN51821に従ったFE9転がり軸受試験にかけ、この試験で、調査されるグリースの寿命を特定し、潤滑グリースの上限使用温度を、平均的な回転数および平均的な軸荷重の転がり軸受において特定する。
【0062】
調査されるグリース、ならびにL10値およびL50値の結果は、表8に示してある。
【表8】
【0063】
表8は、持続時間が、PIBを様々な基油と組み合わせて使用することによって長くなり、そのため、長期稼動での高い適用温度に適していることを示す。
【0064】
さらに、グリースの音響特性を、SKF Be Quiet
+に従って、実施例3−8について測定した。これらの結果は表9に記載してある。
【表9】
【0065】
種々のグリース調製物の音響特性には、完全水素化されたポリイソブチレンを使用することによって、非常に有利な影響が与えられる。実施例6を除いて、良好〜非常に良好な音響特性を獲得することができる。
【0066】
完全水素化されたPIBが使用された実施例3によるグリースの特性を、まだ二重結合が存在していたPIB、つま
り水素化されていないPIBを含有するグリース(比較例3)と比較した。
【0067】
比較例3によるグリースのその他の組成は、実施例3の組成に相応していた。
【表10】
【0068】
表10における、グリースと、完全水素化されたPIBおよ
び水素化されていないPIBとの比較は、実施例3のグリースが、FE9試験において2倍の持続時間を示し、より少ない蒸発損失および著しく良好な音響特性を有することを表す。
【0069】
完全水素化されたPIBを含有する油の有利な特性を証明するために、これを、部分的に水素化されたPIBを含有する油と比較した。表11はそれらの結果を示す。
【表11】
【0070】
表11は、完全水素化されたPIBを使用した場合と、部分的に水素化されたPIBを使用した場合で、明らかな違いが存在することを示す。つまり、完全水素化されたPIBを有する油が、非常に良好な再溶解特性を有する一方で、部分的に水素化されたPIVに基づく残渣の溶解は、もはや可能ではない。